夏が過ぎ、秋が訪れた。
校庭の木々はゆっくりと色づき始め、赤や橙、黄色の葉が風に揺れてひらひらと舞い落ちていく。
朝夕の空気は少し冷たく、吐く息がほんのり白くなる日も増えてきた。
季節は確かに移り変わり、私たちの周りの景色も少しずつ変わっていく。
ひよりは陸上部を引退し、私は美術コンクールに向けて制作を続けていた。
ひよりは部活のない放課後に新しい時間を見つけ、私は絵に向き合う時間が増えた。
お互いの道は少しずつ変わり、日々の過ごし方も変わっていく。
でも、その変化が不安ではなく、むしろ自然な流れのように感じられた。
――変わらないものがひとつだけあった。
放課後、温室で会うこと。
それは、季節が変わっても、心が揺れても、ずっと続いていた。
ある日、私はひよりより少し早く温室に着いた。
ガラス越しに差し込む夕陽が、植物たちを金色に染めている。
葉の影が床に揺れ、温室全体が柔らかな光に包まれていた。
秋の夕陽はどこか切なくて、でも温かくて、胸の奥をそっと撫でていく。
私はベンチに座り、スケッチブックを開いた。
描いているのは、ひよりの横顔。
雨の日に見た、あの強くて、優しい表情。
泣きながらも前を向こうとしたひよりの姿が、今でも胸に焼きついている。
鉛筆を走らせるたびに、ひよりの息づかいまで思い出せそうで、胸がじんわりと温かくなる。
「真白、お待たせ!」
扉が開き、ひよりが駆け込んできた。
息を弾ませながら、笑顔で手を振る。
頬が少し赤く、髪が風に乱れていて、その姿がなんだか愛おしかった。
「今日、部活の後輩に会ってさ。“先輩、最近すごく楽しそうですね”って言われた」
ひよりは嬉しそうに笑いながら、私の隣に腰を下ろした。
「楽しそうに見える?」
「きっと、真白がいるからだね」
その言葉は、夕陽よりも温かく胸に染み込んだ。
ひよりは照れくさそうに笑いながら、私の肩に頭を預けた。
その重みが心地よくて、胸の奥がじんわりと温かくなる。
「真白。これから先、どんなことがあっても……私は真白の隣にいたい」
ひよりの声は静かで、でも揺らぎがなかった。
その言葉は、未来をそっと照らす灯りのように感じられた。
「……私も。ひよりの隣がいい」
ひよりは私の手を握り、指を絡めた。
その手は少し冷たかったけれど、握り返す力はしっかりしていた。
ひよりの手の温度が、私の胸の奥に静かに広がっていく。
「真白、好きだよ」
「……私も、ひよりが好き」
夕陽が沈み、温室の中がゆっくりと夜に染まっていく。
ガラス越しの空は紫色に変わり、植物たちの影が長く伸びていく。
その中で、ひよりの手の温もりだけが確かだった。
雨の日も、晴れの日も。
迷う日も、笑える日も。
――私は、ひよりの隣にいる。
そしてひよりも、私の隣にいる。
それだけで、世界はこんなにも優しくなる。
私はそっと目を閉じ、ひよりの肩に頭を預けた。
ひよりの呼吸が静かに胸に触れ、心が穏やかに満たされていく。
「ひより……これからも、ずっと一緒にいようね」
「うん。ずっと」
温室の外で、風が優しく木々を揺らした。
その音は、まるで未来へ続く道をそっと照らすようだった。
季節が変わっても、世界が変わっても――
私たちはきっと、この温室で、同じ未来を見つめていく。