ひよりの「私もだよ」という言葉が、温室の静けさに溶けていった。
その声は、湿った空気に吸い込まれるように柔らかく響き、私の胸の奥にそっと落ちていく。
その瞬間、胸の奥に張りつめていた糸がふっと緩むのを感じた。
ずっと怖くて、触れられなかった気持ちが、ようやく形を持ち始めたような気がした。
けれど、安心と同時に、別の不安が顔を出す。
――これから、どうなるんだろう。
ひよりと私の関係は、もう“ただの友達”ではいられない。
その変化が嬉しい反面、どこかで怖くて胸がざわつく。
ひよりは私の手を包んだまま、少し照れたように笑った。
その笑顔は、いつものひよりの笑顔なのに、今はどこか違って見える。
距離が近い。
触れている手の温度が、心臓の鼓動を早める。
「真白、そんな顔しないでよ。泣きそうじゃん」
「泣いてない……」
「泣きそう、って言ったの」
ひよりの指先が、私の手の甲をそっと撫でる。
その優しさに、胸がまた熱くなる。
触れられるたびに、心の奥がじんわりと溶けていくようで、息が少しだけ苦しくなる。
「ひよりは…いつから、そう思ってたの?」
聞きたいようで、聞きたくない質問だった。
もし答えが期待と違ったら、どうしよう。
そんな不安が胸を締めつける。
「うーん…気づいたのは最近。でも、ずっと真白のことは特別だったよ」
「特別…」
その言葉を噛みしめるように繰り返すと、ひよりは少しだけ頬を赤くした。
その仕草が可愛くて、胸がまたきゅっとなる。
「真白はさ、私が誰と話してても気にするでしょ?」
「そ、そんなこと……」
「あるよ。すぐわかるもん」
図星を突かれて、言葉が詰まる。
自分でも気づかないふりをしていた気持ちを、ひよりはあっさりと言い当ててしまう。
ひよりはくすっと笑い、私の肩に頭を預けてきた。
その重みが心地よくて、でも同時に心臓が跳ね上がる。
「私もね、真白が他の子と仲良くしてると、ちょっとだけ嫌なんだよ」
「…ひよりが?」
「うん。だから、気持ちに気づいたとき、ああ、これが“好き”なんだって思った」
ひよりの声は、温室の湿った空気の中で柔らかく響いた。
その声は、まるで私の心の奥に直接触れてくるようで、胸がじんわりと熱くなる。
私はその言葉を胸の奥にそっとしまい込む。
大切に、大切に、壊れないように。
けれど、幸せな時間は長く続かなかった。
温室の外で風が吹き、ガラスがかすかに揺れる。
その音が、まるでこれから訪れる波乱を予告しているように聞こえて。
私の胸の奥に小さな不安が芽生えた。