雨の庭で、君を待つ   作:槙 秀人

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第8話:ふたりの距離

 翌朝、ひよりは私の部屋で目を覚ました。

 

 布団の中で丸くなって眠る姿は、いつもより幼く見える。

 昨日の雨で濡れた髪はすっかり乾いていて、寝癖がついて少しだけ跳ねているのが可愛らしかった。

 

 ひよりがこんなに無防備な姿を見せてくれるのは、きっと私の前だけなんだろう。そう思うと、胸の奥がじんわりと熱くなる。

 私はベットに腰掛け机に肘をついて、ぼんやりとひよりの寝顔を眺めていた。

 ひよりの呼吸は穏やかで、胸が上下するたびに布団がふわりと動く。

 その小さな動きが、なぜかとても愛おしく感じられた。

 

 ――やっぱり、私はひよりの事が大切なんだ。

 

 昨日の夜、ひよりが泣きながら抱きしめてくれたこと。

 私の名前を震える声で呼んだこと。

 『どこにも行かないで』と言ったときの、あの必死な表情。

 その全てが胸の奥に残っていて、思い出すたびに心が温かくなる。

 ひよりの存在が、こんなにも私の心を満たしていたなんて。

 気づくのが遅すぎたくらいだ。

 

「……真白?」

 ひよりが目をこすりながら起き上がった。

 寝起きの声は少し掠れていて、いつもより柔らかい。

 その声を聞くだけで、胸がきゅっとなる。

 

「おはよう」

「おはよう。昨日は……ごめんね。急に押しかけちゃって」

 ひよりは申し訳なさそうに眉を下げた。

 でも、その表情の奥には、どこか安心したような気配もあった。

 

「いいよ。来てくれて、嬉しかったし…」

 そう言うと、ひよりは照れたように笑った。

 その笑顔は、昨日の涙の跡をそっと隠すように優しくて、胸がまた温かくなる。

 ひよりは布団から出て、私の隣に座った。

 距離が近い。

 肩が触れそうで、触れない。

 その微妙な距離が、くすぐったくて、でも嫌じゃなかった。

 

「真白、今日からはさ……ちゃんと隣にいてもいい?」

 ひよりは少しだけ視線を落とし、指先をいじりながら言った。

 その仕草が、まるで告白の続きをしているみたいで、胸がどきりとする。

 

「……うん。いてほしい」

 言葉にした瞬間、ひよりの顔がぱっと明るくなった。

 まるで朝日が差し込んだみたいに、部屋の空気が一気に温かくなる。

 ひよりは嬉しそうに肩を寄せてきた。

 その距離が、もう怖くなかった。

 むしろ、ひよりの体温が近くにあることが、こんなにも安心するなんて知らなかった。

 ひよりの肩が触れた瞬間、胸の奥で何かが静かにほどけていく。

 昨日までの不安や迷いが、少しずつ溶けていくようだった。

 

 ――これからは、ちゃんと隣にいよう。

 

 ひよりの隣に。

 そう思えた朝だった。

 

 

 

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