翌朝、ひよりは私の部屋で目を覚ました。
布団の中で丸くなって眠る姿は、いつもより幼く見える。
昨日の雨で濡れた髪はすっかり乾いていて、寝癖がついて少しだけ跳ねているのが可愛らしかった。
ひよりがこんなに無防備な姿を見せてくれるのは、きっと私の前だけなんだろう。そう思うと、胸の奥がじんわりと熱くなる。
私はベットに腰掛け机に肘をついて、ぼんやりとひよりの寝顔を眺めていた。
ひよりの呼吸は穏やかで、胸が上下するたびに布団がふわりと動く。
その小さな動きが、なぜかとても愛おしく感じられた。
――やっぱり、私はひよりの事が大切なんだ。
昨日の夜、ひよりが泣きながら抱きしめてくれたこと。
私の名前を震える声で呼んだこと。
『どこにも行かないで』と言ったときの、あの必死な表情。
その全てが胸の奥に残っていて、思い出すたびに心が温かくなる。
ひよりの存在が、こんなにも私の心を満たしていたなんて。
気づくのが遅すぎたくらいだ。
「……真白?」
ひよりが目をこすりながら起き上がった。
寝起きの声は少し掠れていて、いつもより柔らかい。
その声を聞くだけで、胸がきゅっとなる。
「おはよう」
「おはよう。昨日は……ごめんね。急に押しかけちゃって」
ひよりは申し訳なさそうに眉を下げた。
でも、その表情の奥には、どこか安心したような気配もあった。
「いいよ。来てくれて、嬉しかったし…」
そう言うと、ひよりは照れたように笑った。
その笑顔は、昨日の涙の跡をそっと隠すように優しくて、胸がまた温かくなる。
ひよりは布団から出て、私の隣に座った。
距離が近い。
肩が触れそうで、触れない。
その微妙な距離が、くすぐったくて、でも嫌じゃなかった。
「真白、今日からはさ……ちゃんと隣にいてもいい?」
ひよりは少しだけ視線を落とし、指先をいじりながら言った。
その仕草が、まるで告白の続きをしているみたいで、胸がどきりとする。
「……うん。いてほしい」
言葉にした瞬間、ひよりの顔がぱっと明るくなった。
まるで朝日が差し込んだみたいに、部屋の空気が一気に温かくなる。
ひよりは嬉しそうに肩を寄せてきた。
その距離が、もう怖くなかった。
むしろ、ひよりの体温が近くにあることが、こんなにも安心するなんて知らなかった。
ひよりの肩が触れた瞬間、胸の奥で何かが静かにほどけていく。
昨日までの不安や迷いが、少しずつ溶けていくようだった。
――これからは、ちゃんと隣にいよう。
ひよりの隣に。
そう思えた朝だった。