雨の庭で、君を待つ   作:槙 秀人

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第9話:再び、温室へ

 学校に行くと、噂はまだ完全には消えていなかった。

 廊下を歩けば、誰かの視線がふとこちらに向く。

 教室に入れば、数人が小声で話しているのが耳に入る。

 そのたびに胸がざわつき、心臓が落ち着かなくなる。

 けれど、ひよりは堂々と私の隣を歩いた。

 周囲の視線なんて気にしていないように、背筋を伸ばし、いつも通りの笑顔で。

 

「気にしないでいいよ。私が真白の隣にいたいだけだから」

 その言葉は、ひよりらしくて、まっすぐで、強かった。

 

 ひよりの声が私の胸にすっと染み込んでいく。

 その瞬間、私の心が強くなる。

 ひよりが隣にいてくれるだけで、こんなにも心が軽くなるなんて。

 少し前まであんなに怯えていたのに、今は不思議と前を向ける気がした。

 

 放課後、私たちは久しぶりに温室へ向かった。

 校庭の隅にある古い温室は、夕方の光を受けてガラスが淡く輝いていた。

 

 近づくにつれて、懐かしい匂いが風に乗って漂ってくる。

 扉を開けると、湿った土と緑の匂いが迎えてくれる。

 

 温室の中は外より少し暖かく、植物たちが静かに息づいている気配がした。

 葉に残った水滴が光を反射し、きらきらと揺れている。

 その光景を見ただけで、胸の奥がじんわりとほどけていく。

 

「やっぱり、ここ落ち着くね」

 ひよりがベンチに座り、ぽんぽんと隣を叩いて私を招いた。

 その仕草が自然で、優しくて、胸がまた温かくなる。

 今度は、私は迷わずその隣に座る。

 距離を空ける必要なんて、もうなかった。

 ひよりの体温がすぐ隣にあることが、むしろ心地よかった。

 

「真白」

 ひよりが私の手をそっと握る。

 その手は温かくて、柔らかくて、触れた瞬間に胸がきゅっとなる。

 ひよりの指先が少し震えているのが伝わってきて、ひよりも緊張しているのだとわかった。

 

「これからも、ずっと一緒にいたい」

 その言葉は、ひよりの心の奥からまっすぐに届いた。

 ひよりの瞳は真剣で、揺らぎがなくて、私の胸の奥を優しく掴んでくる。

 

「……うん。私も」

 言葉にした瞬間、ひよりの表情がぱっと明るくなった。

 その笑顔は、雨上がりの空に差し込む光のように眩しくて、温かかった。

 ひよりの手を握り返しながら、私はもう逃げないと静かに思った。

 

 ひよりは嬉しそうに笑い、私の肩に頭を預けた。

 その重みが心地よくて、私はそっとひよりの手を握り返した。

 

 静かな温室に、二人の呼吸だけが穏やかに溶けていく。

 温室のガラス越しに差し込む光が、二人を包む。

 夕陽の柔らかな光が植物の葉に反射し、温室全体が淡い金色に染まっていく。

 

 その光は、雨上がりの空のように優しくて、あたたかかった。

 まるで、世界がそっと祝福してくれているようだった。

 

 

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