Fate/Determination faith 作:桜花 如月
小鳥のさえずりが心地よく響く、重いまぶたをゆっくりと開けるとそこには見覚えのある天井。
「ん……」
やけに重い体を起こそうと横を向くと見たことの無い少女が座ってこちらを見ている。
「気づきましたか、マスター」
「おはよう……でいいの、かな」
「えぇ、それでいいかと……それで、身体の方は大丈夫ですか?」
自然と会話をしてしまったけど、少女は私のことをマスター、と呼んだ。
それに身体というのは……
というところで昨日──気を失う直前のことを思い出す。
学校の帰り道、謎の大蜘蛛に襲われた私は全く歯が立たずに死ぬ直前だった。
そこで死にたくない、と強く願ったら光の中から誰か……目の前にいる彼女が立っていて、そしてこう問いを投げかけてきた。
『あなたが私のマスターですか?』
あの後、私は最後の力で頷いてたった一言。
『あれを、倒して』
そうこぼして気を失った。
Yesとも答えてないけど、彼女からすればあの言葉が肯定だったのだろう。
つまり、私はマスターとやらになった、ということ。
「……でもなんで私の家がわかったの?」
「それはですね……すs──勘です」
「……ほんとに?」
「えぇ、本当です」
ふと思ったことを聞いた。
あの場で彼女が助けてくれた後、気絶した私をなぜ私の自宅であるここに連れてこれたのか。
それも、ちゃんと布団にまで寝かせてくれていた。
それを聞いてみると言いかけたなにかを誤魔化された気がするけど、そんなことは今はいいだろう。
「それで、あなたは一体?」
「そこからですか……いえ、一から教えるべきですね」
何もわからないから聞いたのに返ってきたのは呆れを含んだため息。
あまりにも冷たい反応に少し傷付きそうになってる私のことなど気にもせずに彼女は説明を始める。
「まず、あなたが参加したのは『聖杯戦争』と呼ばれる戦いです」
「聖杯……戦争……」
セイバーの言葉を口に出して繰り返す。
何かしらに巻き込まれたような気はしていたけど、戦争なんて名のつくものに否応なく参加したというのはなんというか、嫌だ。
「その聖杯戦争とやらは何を目的にしてるの?」
「一気に説明します、と言っても私もこの時代に喚ばれた時に得た知識なので詳細は話せませんが」
「それでもいいよ」
セイバーの方を向き直し話を聞く姿勢をとる。
彼女も私の方に向き直して説明を始めた。
七人の魔術師(魔術を扱える人)が七つのクラスに分けられた過去の英霊──サーヴァントと呼ばれる物を召喚してなんでも願いを叶えるという願望機、聖杯を求めて争う、それが聖杯戦争というもので。
サーヴァントのクラスも決まりがあって
・剣術を得意とする『セイバー』
・弓術を得意とする『アーチャー』
・槍を扱うことを得意とする『ランサー』
・魔術に長けている『キャスター』
・騎乗(動物を含む乗り物を扱う)スキルに長けている『ライダー』
・暗殺を得意とする『アサシン』
・理性が基本吹っ飛んでいる狂戦士『バーサーカー』
の七種類が聖杯戦争には喚ばれるとのこと。
そしてセイバーは名の通り剣術を得意としている、と自慢げに話すけど、そんなことより──
「聖杯……ってやつは本当にどんな願いも叶えてくれるの?」
「残念ながら先程も言った通り、私はこの世界に召喚された際に知識を得ただけなので真偽はわかりません、ですが……少なくとも私にも願いはあるので叶えてもらわないと困ります」
どうやって知識を得たのか気になるけどこの感じだと教えてくれなさそうだからこれ以上聞くのはやめよう。
とりあえず、聖杯戦争に関して色々とわかった──気がするけど、まだ聴けてないことがある。
「私、参加するとか誰かに答えた覚えが無いんだけど」
「たしかに私の知識では召喚の儀式というものを挟むことで聖杯戦争への参加の意を持つはずですね」
「なんか左手にアザ? みたいなのあるし……」
起きた時全身を確認すると左手の甲に左右非対称の赤い印のようなものが浮かんでいた。
痛みは無いし、別に気にしなくてもいいけど、こんなの昨日までは無かった。
「それは──「令呪よ、それ」──!?」
セイバーが何かを説明しようとしたところで部屋の扉が開かれてそこからマリンが不機嫌な顔を浮かべながら入ってきた。
「なんですかあなた……まさか敵?」
「こんなとこでそんな長刀出さない方がいいわよ、それにマスターの意思は聞かなくていいのかしら?」
部屋に入ったマリンの首元に刀を向けたセイバーは私でもわかるレベルの殺意を込めていた。
マリンの言う通り、セイバーの持つ刀は私の部屋で抜刀するにはかなりギリギリで扱いにくそう。
「マスターに近づく怪しげな人は切り伏せる、それが私の役目なので」
「そうなの、それが契約かしら、玲香?」
「セイバー落ち着いて、マリンは敵じゃない……はずだから」
「そうは言いますがもしマスターを背後から刺されでもしたら……」
「マリンも挑発しないで、というか……
さすがにここで親友を殺されるのを見たくないのと即座に敵と見るのは気が引けるためセイバーには刀を収めてもらう。
そしてまだ整理しきってない頭で話を落着けさせようとしてマリンの話に耳を傾けようと思いふと違和感に気づいた。
「やっと気づいたのね……そうよ、知ってる──正確には元参加者、よ」
「元参加者?」
「不思議なことにサーヴァントの召喚前に令呪……あなたの左手にもあるものが消えてしまったの」
そう言うとマリンは左手の甲を見せてくる。
たしかに私と同じように赤いアザ……令呪とやらがあった痕跡はあるけど私のようにハッキリと見える状態ではなく、掠れたような感じになってる。
もちろん、私の知らないだけで令呪の偽造なんかもできるかもしれないけど、わざわざそんなことをしてまで接近するとは思えない。
でも、まだ疑問はある。
「マリンはなんで私がマスターになったって気づいたの?」
「私はね、少し特殊なの──それ以前に私の家はこの街、冷夏市の土地の管理者であり、聖杯戦争の監督役兼参加者として聖杯戦争を見守る必要があるの。でもこのまま、令呪が消えたままだとそのどちらの役割もろくに果たせない、だから聖杯戦争の参加者と協力したい」
それに色々後始末も大変だから、と苦笑いで説明するマリンからは本気で言ってるという雰囲気を感じる。
マリンがどんな立場なのかしっかりと理解できてるわけじゃない。
それでもマリンは他の参加者ではなく私のもとにきた。
もちろん完全に信頼しきってるわけじゃない、だけど少しは耳を傾けてもいいと思う。
「わかりました、ですがマスターの背後には立たないでください」
「しつこいわね……わかった、約束するわよ」
何故か険悪な雰囲気になってるセイバーとマリンだったけど、一旦落ち着いた……? みたいで安心した。
深いため息をつきながらマリンは部屋の外へ出ようとする。
「玲香、時間よ」
「時間……あっ」
目を覚ましてからセイバーから説明を受けたりマリンの話を聞いてたため時間を見てなかったけど学校に登校する時間を過ぎていた。
「……まぁ今日は休みましょ、それより見てもらうものがあるの」
「なにを……?」
マリンは学校に連絡をつけて私含めて欠席することに。
そしてマリンは私とセイバーを連れて街中へ降りていき──
「なに、これ……」
目の前に拡がっていたのは文字通り絶望。
人気が少ないのは変わらないけど街中に不気味な雰囲気が漂ってるだけでなく、建物もそこら中が崩壊しているしなにより……
「これは……私はよく知ってます」
「セイバー……ということは……」
マリンの指示で霊体化? というものをしたセイバーが今までにないぐらい深刻そうな声を出した。
彼女から言うなと念を押されたけど、私はセイバーの真名(クラスでは無い本当の名前)を知っている。
経歴も知ってるけど、そんな彼女が知っているということはこの街中至る所からする匂いは──
──血と、腐敗の匂い。
「これ以上はダメね、とりあえず何も無い所へ行くわよ」
「……うん」
セイバーがマリンになにかを伝えると仕方ない、と呟きながら私の手を引いて再びどこかへ連れていかれた。
といっても私の家の近く……なんの代わり映えもない山林に移動しただけ。
「……あれはどういうこと?」
言いたいことを全て飲み込んでそれでも消えない気持ちを抑えつつマリンに質問する。
「やっぱりね、昨日まであなたには普通に見えてたんでしょう」
昨日まで、その一言で全てを理解した。
「聖杯戦争が関係してる、ってこと?」
「ご明察、それも聖杯戦争に参加してない人には至って普通の景色に見えるように誤魔化されたもの──あなたの傍でいうなら多発するガス爆発や奏が言ってた七不思議、あれも聖杯戦争に関連したものよ」
神秘がどうとかマリンは説明してるけど、私にはもう聞こえない。
自分の中で考えをまとめるのに精一杯で周りの音も何も聞こえてこなくて。
「……じゃあ、聖杯戦争は一般人も巻き込んでると?」
「あの惨劇が答えよ」
その一言で全てが吹っ切れた。
「……セイバー、実体化して」
「マスター……なんでしょう」
願いを叶えるという願望機、それを求めてマスターと過去の英霊が行う殺し合い。
そんなもの、参加する必要なんてないと思ってた。
でも、これは違う。
「告げる」
私は。
「山崎玲香、セイバーのマスターとしてあなたと戦う」
この馬鹿げた戦争を終わらせるために。
少女は決意を抱き、戦いへと向かっていく──。