ユメ先輩にお叱りを受けた翌日、自由登校日ではあるが特に予定もないので砂漠の方に行ってオトモン達を遊ばせていた。早朝から遊ばせているのだが疲れ知らずのオトモン達は未だに暴れまわっている。おいこらそこ真っ向勝負するんじゃない。
「なあ相棒、あれ…」
「どうした?…砂嵐か」
恐らく砂嵐の中に入ろうが俺達は大丈夫だろうが、かといって自分から全身砂まみれになるのは本意ではない。こちらに向かってきているようだし、一度帰るとしよう。
オトモンをレウス以外送還し、レウスに乗って市街地手前まで飛んでいく。いくら砂嵐といえど、レウスの飛行速度には追いつけない。市街地まで来るようだったら絆技でもぶつけてみよう。
幸いにもここまで砂嵐が来る様子はなく、不自然な程砂嵐は別の方向に向かっていった。砂嵐の中にダラ・アマデュラみたいな巨大な蛇の影が見えた気がしたが…気のせいか?
レウスも送還し、腹も減ったのでここら辺で数少ない飲食店の柴関ラーメンに向かって歩いていると、ふとよく聞く先輩の声が耳に届いた。
「住民の皆さん!署名をお願いします!」
「何やってるんですか、梔子先輩」
「あ、レクト君!」
声のする方向に向かって進むと、片手に大量のプリントを抱え通り掛かる住人に一枚一枚手渡してる梔子先輩がいた。
「アビドスの環境改善のための署名を集めてるんだ!多くの人の声があれば、連邦生徒会だって手を貸してくれるかもしれないでしょ?」
「…まぁ、確かに」
本当に多くの人の署名があれば、それは行政に声を届かせる一手になるかもしれない。それは間違ってない。だが、現状のアビドスを考えるとそもそもの母数が少ない上、多くの人がアビドスの現状を諦めている。望みは薄いだろう。それでも…
「手伝いますよ、梔子先輩」
「アビドスの未来のために、アビドスに住んでる人の賛同が必要なんだな!俺も手伝うぜ!」
「レクト君、ナビルーちゃん…ありがとう!」
「でも、その前に昼食にしましょう。梔子先輩、お腹は空いてませんか?」
「あ、確かに…」
女の子の先輩との昼食にラーメン屋に行くのは少しどうかと思わないでもないが…そもそも飲食店少ないしなここら辺。味はめちゃくちゃいいし、汁が跳ねないようにだけ気を付けてもらおう。
そうして気前のいい柴大将にどう見ても値段と合ってない山盛りのラーメンをお出しされ完食すると、梔子先輩が目を真ん丸にして驚いていた。ナビルーはサイズがサイズなので子供量のラーメンにしてもらったが満足そうだった。
「柴大将、ご馳走様でした」
「おう、お粗末様。レクトの坊主はいつも良い食べっぷりだからつい手元が狂っちまうぜ」
「この体、燃費悪いんですよ。カードで」
「わわ、レクト君!自分の分は自分で払うよ?」
「嬢ちゃん、ここはレクトに良いカッコさせてやりな」
良いカッコって言ったってこの店クオリティと量に対してどう見ても値段が安すぎる。こんなの数十億の資産を持ってなくても奢るのに躊躇いはない。あの量とクオリティの看板ラーメンが580円…?何かの冗談だろ。
やや使い古されたカードリーダーにカードを差し込み支払いを完了させる。
「さあ、梔子先輩。署名を集めに行きましょう」
「お、なんだ嬢ちゃん。そのプリント見せて見な」
「あ、はい…」
柴大将は少しの間プリントを見つめると、ボールペンで自分の名前を書き込み梔子先輩に渡した。
「こ、これって…!」
「何、俺もアビドスの住人だからな。その生徒会が頑張ってアビドスのために動いてくれてるのに何もしないのは男が廃るってもんさ」
「…ありがとうございます!」
「ありがとうございます、柴大将」
柴大将、やっぱ人が良くできてるな。この黒字を度外視して飲食店を経営出来てるのは柴大将の人柄の良さも間違いなくあるんだろう。
「頑張りな!アビドス生徒会」
柴大将のエールを受け俺達は店を後にし、署名運動を続けた。多くの人は無視や舌打ちをして去ったりしていったが、それでもやはりアビドスを諦めていない人はいるようで、数十名ほどの署名を集めるのに成功した。
夕方まで続けて数十人とは泣けてくるが、思ったより多く集まったのも事実。根気よく続けて行けば、いつかは大きな声になるはずだ。
「レクト君、今日はありがとうね!おかげでいつもよりずっと多くの署名が集まったよ!」
「梔子先輩が頑張ったからですよ」
「そうだぜ!俺もレクトも、一人じゃ思いつきもしなかったからな!」
「小鳥遊も手伝ってくれてたみたいですし、きっと梔子先輩の行動に感化されたんですよ」
「え、そうなの!?」
「詳しい話は後日、本人に聞くといいでしょう。多分、素直には答えないと思いますが」
小鳥遊は今日俺が来るよりも前から梔子先輩の近くで見張りをしていた。通行人が多く感じたのも多分小鳥遊が誘導したんだろう。見えはしなかったが神秘と気配が駄々洩れだな。気配を感じる方向に顔を向けると若干の殺気が飛んできたがスルーする。
「あ!そのホシノちゃんにあんま夜遅くまで出歩くなって言われたんだった!早く家に帰らなきゃ!」
「送っていきますよ」
「…じゃあ、お願いしよっかな。レクト君、ナビルーちゃん、よろしくね」
そうしてユメ先輩を送り届けて帰路に着き、すっかり暗くなった住宅街を歩き曲がり角を曲がれば、小鳥遊が鋭い目で待ち構えていた。なんだかデジャヴだな。
「いつ出てくるのかと思ってた」
「隠れてついてきたって、俺のヒゲのビリビリはごまかせないぜ!」
「あなた、何が狙いなんですか。ユメ先輩に媚びを売って何をしようって言うんですか」
なるほど。既に梔子先輩大好きウーマンになってしまったホシノ。そして疑念や警戒心が元から強いホシノがが合わさって俺を敵視してるわけか。
「俺は梔子先輩に心を動かされただけだ。最初は特にやることもなかったから生徒会に入ったけど、数日しかたってないながらも今では梔子先輩の力になりたいって思ってる。というか助けないとすぐ騙されてそうだしな、あの人。お前もそう思ったから今日ずっと梔子先輩についてたんじゃないのか?小鳥遊」
「…」
「警戒心や疑念を抱くのは間違いじゃない。そんな奴も梔子先輩の周りには必要だしな。でも、それだけで生きていくのは悲しい事だ。それは小鳥遊だってわかってるから、梔子先輩を気に入ってるんだろ?」
「別に、ユメ先輩が危なっかしいから注意してるだけです」
「まあ、なんでもいいけどな。梔子先輩が心配だって言うなら、俺と梔子先輩を見とけばいい。俺も小鳥遊からの信頼を勝ち取れるよう努力するよ。…ナビルー、行こう」
ナビルーを肩に乗せて小鳥遊の横を通り過ぎる。その時に見た横顔はいつも通り美少女だったが…複雑な表情だったな。
でも俺達はきっと仲良くなれる。