アビドスに入学して1か月以上経ったある日の自由登校日、ちょくちょくいたって普通の依頼を回してくれる黒服からまた依頼があった。俺自身金には困ってないとはいえ、収入がないのは不安になるので依頼がある時はなるべく早くこなすようにしている。とは言っても、俺の全財産からすれば微々たるものだが依頼を一回こなすだけで数百万振り込んでくれるのだ。羽振りが良くて結構な事だ。どうやら俺のデータを一緒に収集してるからというのもあるそうだが、契約内容にゲマトリア―――黒服の所属する組織は生徒に対しデータを利用した害を及ぼすことは禁止という旨の契約を飲んでくれたので多少は信用している。信頼はできないし若造の俺が考えた契約の穴は突いてくるだろうから完全に信用はできないが。
それでも今回は知りたい情報があったので報酬は
「相棒、今回はどんな依頼なんだ?」
「ブラックマーケットを牛耳ってる奴らの一角が邪魔だから潰して来いってさ。…真っ当な依頼かどうかは首をかしげるところだが、犯罪者の組織を潰せという内容は分かりやすくていい」
「けどその依頼をしてきた黒服自身が犯罪者っぽいんだよなあ」
「黒服自身から聞いた話だと、犯罪自体はしてないらしいぞ。全て契約の上でやってるらしい。絶対グレーゾーンとか倫理的にアウトとか、後は契約せざるを得ない状況にさせるとかはやってるだろうけどな」
「下手な犯罪者より極悪だな…」
そんな話をしながらレウスで飛び目的地上空に到着する。今回の依頼は拠点の完全破壊。中の人員はどうでもいいそうだが、問題は目標のビルが思ったより大きい事。上から弓チクで全てを破壊しようかと思ったがこれでは骨が折れそうだ。レウスでスカイハイフォールするにしてもメインでライドするレウスをあんまりこういうところで晒したくないし…
「よし、ネギを呼ぶか」
「確かにネギならこんなビル絆技使うまでもなく一瞬で破壊できるな。適材適所はオトモンにも当てはまるってわけだ。流石だぜ、相棒」
「褒めすぎだ」
絆石に意識を集中し、黒き破棘を呼び覚ます。古龍を食らう古龍、自浄作用により生み出された悉くを滅び尽くす世界の顔。再生能力と純水なパワーでどんな相手にも食って掛かる。それが例え世界を滅ぼす大いなる者であろうと。
「やってくれ、ネギ」
そう言った瞬間、俺の真横を黒い生物が急降下し下のビルから轟音が聞こえてくる。瞬く間に巨大なビルは真上からかち割られ、倒壊していく。
ネルギガンテ。炎を操ったり冷気をまき散らしたりしない、純粋なパワーで古龍に至ってるその力は伊達じゃない。それが俺が手塩にかけて育てたオトモンなら尚更だ。ちなみに今のは破棘滅尽旋・天だ。本当ならあの遺伝子は抜くものなんだろうけど、ネルギガンテと言えばこの技だからね、どうしても残しておきたかったんだ。今回はパンプアップはかけてないけど、これかけたらどうなっちゃうんだろう。
ネギはこちらの意図を理解しているのかビルを完全に破壊した後咆哮を響き渡らせ誰にも見られない内に帰っていった。良い子過ぎて泣けてくるぜ。
俺達も発見されない内に退散しよう。かなりの上空を飛んでるとはいえ、見つかったら面倒だからな。
自宅にて、俺は依頼の報告と報酬を貰いに黒服とビデオ通話をしていた。
「それで黒服、俺の依頼は達成でいいのか?」
『ええ、勿論です。あそこまで破壊されたら再建にも時間がかかるでしょうし、我々の邪魔もできないでしょう』
俺の回される依頼は基本的に破壊だ。だが、いつまでもその場にとどまり続けるわけにはいかないので一撃で破壊した後は撤退し、依頼の成否は黒服に判断してもらっている。
『あなたの呼び出したあの黒い龍も気になるところではありますが、先にレクトさんの報酬についてお話ししましょう』
昔々、神を分析、研究しその存在を証明できれば新たな神を生み出せるであろう。そんな滑稽な仮説に興味を示した者達がいた。それが現在黒服たちが所属している【ゲマトリア】という組織の名前の大本である。
そのゲマトリアはその研究に莫大な資金と時間を投資し、神の存在を証明する超人工知能が作られた。しかし時は過ぎ、都市は破壊され、研究所も水の底に沈んだ。それでもそのAIは稼働し続けた。そして廃墟に声高らかに響いた。「Q.E.D.」と。
そのAIは各地に居る機械を【感化】させ己の預言者にし、いずれその10体の預言者が己の存在を証明するセフィラとした。
彼の砂漠に居る大型の機械はそのセフィラの最上位、天上の三角形の一角、【違いを痛感する静観の理解者】の異名を持つ―――ビナー。
『レクトさん、あなたが仮にビナーに挑むというのであれば、それは神に挑むのと等しい行為になります。ですがあなたのその身に宿す力は、神をも殺せるモノです。ええ、ですからこれは非常に興味深い研究なのです。神をも屠る力と、神のぶつかり合い。もしレクトさんがビナーとの戦闘のデータを取らせてくれるのであれば、アビドスの借金を半分負担しましょう』
「今はまだその時じゃない。いずれ倒すつもりではいるから、その時のドローンの用意でもして待っててくれ」
『クックック…では砂嵐にも邪魔されないドローンを用意しておくとしましょう。それではレクトさん、またよろしくお願いしますね』
「ちゃんと真っ当な依頼持って来いよー」
黒服との会話を終わらせ、既に眠りこけてるナビルーを専用のベッドに寝かせて俺も寝床に入る。
ビナーの能力に砂嵐を起こす機能もあると黒服は言っていた。いずれ倒さなきゃいけない相手ではある。だがそれでも、万が一失敗する可能性が頭をよぎり、今の愛おしい日常から抜け出せない。
いつもニコニコのユメ先輩がいて、刺々しい態度だけど実はとっても優しいホシノが居て…ナビルーがずっとそばにいてくれて。恵まれた異世界転生だなとは思ったけど、それを守るためにはどうやら戦う必要があるらしい。前世一般ゲーマーにはつらい話だが…やるしかない。一か月、満喫したら奴を倒す。何かアビドスに危機が迫るのならきっと、それが俺が転生した理由だ。