サクラ大戦 貴水玄治物語   作:無月

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⑪あやめ死す 殺女覚醒

 訓練を終えて帰ってきた花組の皆が出現した猪を無事倒してから、数日が経っていた。

 

「なぁ、あやめくん」

 

 そんな日、支配人室にて、共に並んだ米田さんが私に声をかける。

 

「これは俺の予想でしかねぇんだが、葵叉丹は山崎かもしれねぇな」

 

「米田さん、それは・・・!」

 

 咄嗟に出掛けた否定の言葉は寸前で止まり、私は何も言えなくなる。

 だが、それが仮に事実だとしたのなら様々なことに納得がいく。

 玄治くんが出ていったことも、ボロボロになって帰ってきた時のことも、この半年余りの呆けたような姿も。

 そして、この帝劇を出ていったという事実とその際の言動も。

 もっというなら、(山崎)が葵叉丹というだけで玄治くんの行動の全てに納得が出来てしまう。

 

「玄治の野郎は、それに気づいちまってたんだろうな・・・

 誰にも言えねぇよな、こんなこと」

 

 頭を掻きながら米田さんは溜息をつき、それでもと続けた。

 

「俺らぐれぇ、頼れってんだ」

 

 情けない声で零しながらも、米田さんもきっと玄治くんが言わなかった理由もわかっている。

 浮き沈みはしても、あの子の性根はずっと変わらない。

 きっと、記憶を失う前すらもあの子はずっとあぁだったのだろう。

 

「玄治くんはきっと、私達を悲しませたくなかったんでしょうね・・・」

 

 葵叉丹が彼だったことを、誰よりも悲しむのは私達だとわかっていた。

 花組の子達にとって、彼は良くも悪くも遠い人で関係の薄い人。それこそ関わることのない歴史の偉人に等しい。

 

「それに自分が消える前にそのことがわかっていたら、軍部に知られる可能性は高くなりますから」

 

「ちっ、あの馬鹿野郎」

 

 そうだとしたら、彼が出ていった理由に一つの可能性が生まれてくる。

 

「あの子は、彼の元へ降ったのでしょうか・・・」

 

 あの子が降魔の側に立つことはありえなくとも、彼の側に立つということは十分にあり得る。

 それほどまでに山崎真之介()という存在は、貴水玄治(あの子)の全てだった。

 

「それはねーよ」

 

 だが、米田さんはすぐさまそれを否定した。

 

「そうだったら、あいつは『貴水玄治である必要がない』なんざいわねぇ。

 『先生の元に帰る』、そう言うさ。

 ったく、素直なんだか、素直じゃねーんだかよくわかんねー奴だよ。あいつは」

 

 言葉の中に、わかりやすく言わないだけで様々な意味を込めてくる。

 いや、もしかしたらあの子にとってそれは無意識のものだったかもしれない。

 

「何を隠して、何を思って行動しやがったんだろうな。あいつは」

 

「それはわかりません。でも、あの子はやはり変わっていたんですね。

 彼に囚われてばかりじゃない、過去ばかりに縛られてたわけでもない。

 きっと、無意識のうちに前を見てたのかもしれません」

 

「本人はそのつもりはなさそーだけどな」

 

 困ったもんだと肩をすくめる米田さんに、私も苦笑する。

 

「ま、玄治の野郎は置いといて・・・ あやめくんは大丈夫なのか?

 山崎は君の・・・」

 

「帝都を脅かし、降魔を使役するというのなら・・・ それはもう私の知っている彼ではありません。

 藤枝家の者として、帝都を守る軍人として、覚悟は出来ています」

 

 言いづらそうに告げてくる米田さんに私が迷うことなく答えれば、米田さんは溜息をつく。

 けれど、これもまた私の偽りのない本音だった。

 師である自分に全てを与えてくれた彼と対峙することを決めた玄治くんがそうであるように、私もまた覚悟しなければならないのだから。

 

「覚悟、ねぇ・・・

 俺はそんなものを自分よりも若い奴にさせてばっかりだな」

 

 悔いるように、自嘲するように米田さんは目を伏せる。

 

「友人に、娘同然の君に、息子みてぇなあいつらによ・・・

 重てぇもんばっか背負わせて俺はただ座ってるだけ、か」

 

「それ、あの人達もあの子達も聞いたら、きっと怒りますよ?」

 

 あえて名を上げずに冗談めかして言っても、それでも米田さんの顔から自嘲の色は消えなかった。

 

「怒られるぐれぇのことを、俺はしてるよ。

 むしろ、恨まれねぇのが不思議なぐらいだ」

 

「長官」

 

「ったく玄治じゃねーけど、歌劇団だけならどんだけよかったか。

 『長官』なんて立場捨てて、『支配人』とだけ呼ばれてーよ」

 

 ようやく笑った米田さんに私も笑う。

 

「そろそろ、大神の野郎に魔神器について教えてやんねーとな」

 

「そうですね」

 

 私達がもちうる知識と、隊長として彼がもつべき知識を彼に与える話へと変わっていった。

 

 

 

 

 

 米田さんと共に大神くんに降魔と破邪の血、そして魔神器についての説明をしている中で私は自分の中で何か引っかかるものを感じた。

 降魔戦争のある時から自分の中に感じる違和感、それが何なのかわからず彼に相談したことがあった。相談したのち、彼にしては珍しく慌てて、何かを調べ出していた。

 なんだったのだろう、あれは。

 そしてなぜ、今になってそのことが引っかかるのだろう?

 真之介さんは、何を気づいたのだろう?

 玄治くんにも相談しないで、何をしていたのだろう?

 それはそうと大神くん考案の罠を設置し、彼の顔についた油汚れを拭いていたら、それを見ていたあの子達に何やら誤解されてしまったよう。

 無反応なマリアはともかくとして、大神くんに好意を持っている他の子達は非常に面白くなさそうな顔をしているのがなんだかおかしくて、微笑ましい。

 まったく、私が大神くんをそんな対象で見る筈もないというのに。

 玄治くんだってそんな風に見ることもなかったし、私にとってあの子は実妹である楓に近く、もっと言うなら彼との間に出来ることを望んでいた・・・ 息子のような存在なのだ。

 しかし、さくらは嫉妬深すぎじゃないかしら?

 マリアもそうだけど、二人が引かなければいいけれど。

 

「こんなものかしら?」

 

 習慣である日記をつけてから顔をあげれば、もういい時間になっていた。そろそろ大神くんが夜の見回りを始めることだろう。

 

「う! うぅ・・・!」

 

 すると突然、あの痛みが襲ってくる。

 年が明けてからずっと夢に現れる私によく似た誰か。そして、自分の体が自分の物ではないような感覚。頭に響く誰かの声。

 そうして私は誰かに操られるように自室を出て、地下へと向かって行った。

 

 

 

 

「あやめさん!」

 

 誰かに呼ばれる声で意識が戻り、気づけば私は大神くんの首を絞めていた。

 

「大神くん・・・!」

 

 慌てて手を離し、彼を解放する。

 軽く咳き込みながらも私を心配するような視線を向けてくる大神くんに、私は謝るしかなかった。

 だが、同時に確信する。

 私の中には何かがいる。それは私の体を乗っ取ることが出来る。

 私はその何者かに抵抗することが出来ず、乗っ取られる可能性が高いことを。

 

「あやめさん、大丈夫ですか?」

 

 まだ、私のことを気にかける大神くんと目があった。

 こうなれば、彼にお願いするしかない。

 彼しか、今は頼むことが出来ない。

 警報がどこか遠くに感じる中で、私は大神くんに銃を手渡した。

 

「もしも、もしも私に何かあったら、その時は迷わずその銃で私を撃って!」

 

「あやめさん!?」

 

 彼は驚くだけで、疑問を口にしようとはしなかった。

 その辺りは彼も軍人ということだろう、同時に私が私でないところを見てしまった彼だからというのは大きい。

 

「本当なら、玄治くんに頼みたかった。けど、あの子に私は撃てない。

 あの子は軍人ではないから、私情を優先してしまうわ」

 

 それにあの子に・・・ 私の命まで背負わせるなんて酷なことをしたくない。

 

「それは、そうですが・・・」

 

「花組隊長 大神一郎。

 これは命令よ」

 

 そう言って銃を押し付ければ、彼は複雑そうな顔をしながらもしっかりと銃を受け取ってくれた。

 

「早く行きなさい、隊長さん」

 

 警報鳴り響く中で、私は大神くんを促して見送る。

 激しさを増す痛みの中、自分の意識が彼女に乗っ取られまいと最後の悪足掻きをしていく。

 

「私は・・・ 違う・・・」

 

 私が何者であったとしても、藤枝あやめは帝国華撃団の副司令。

 諦めることのない花組(あの子達)の上に立つ者なのだ。

 

 

 

 

 

 私が藤枝あやめとして最後に見えた景色は今にも泣きだしそうな表情でありながらも約束を果たしてくれた大神くんと、届くこともないとわかりながらも必死に傍へと駆け寄ろうとしている傷だらけの玄治くんの姿。

 

「すまない・・・ あやめ」

 

 そして最後に聞こえたのは、抱きしめられた状態でなければ聞き逃してしまいそうなほど小さな声の、愛した彼の謝罪の言葉だった。

 




俺は変わらないままでいたかった 時が止まってると思いたかった
貴水さん 無理ですよ そんなこと
かすみさん・・・
あなたは私達と出会って変わりました あなたが気づかなかっただけです
次回『玄治帰還 帝国華撃団集合』
太正桜に浪漫の嵐!
おかえりなさい 貴水さん
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