帝国華撃団 後方支援部隊 鳥組の隊長であり、山崎真之介の遺した技術を継ぐ者
今は『山崎の弟子』のお披露目を兼ねて、のんびり世界を見て回っている真っ最中さ
『サクラ大戦 貴水玄治物語』 第二部
第一話 『星との出会い』
太正桜に浪漫の嵐!
なぁ、俺と一緒に来ないか。ラチェット・アルタイル
①星との出会い
アメリカ ニューヨークにある慰霊碑の前で、一人の男が静かに手を合わせていた。
その男の名は貴水玄治。
日本 否 世界屈指の技術者であり、帝国華撃団 後方支援部隊 鳥組の隊長を務めている男である。
欧州大戦の戦没者の名が彫られた慰霊碑の前で、玄治は様々な思いを抱きながら顔をあげた。
霊子甲冑の始まりであるスターの生まれ故郷であり、ここから自分の師を狂わせる一端を担った欧州大戦が始まったと言ってもいい。
きっかけは人同士の戦争、そこから降魔という怪物から人の命を守ることに使われる筈であった霊子甲冑を、再び人の命を奪うことに使われた戦争。
人が人を殺した、悲しみしか生まぬ争いの痕。
(それでもきっと・・・ あなた達も誰かを守りたかったんだって、信じたいんだ)
様々な思惑があった中で、それでも戦った者達の背にいたのは・・・ 師と同じように自分の大切な人であったのだと信じたいのだ。
「・・・今はただ安らかに」
現地人には絶対にわからない日本語で告げた玄治は、その場から静かに立ち上がった。
「こんにちは。
貴水玄治さんよね?」
金髪を腰まで伸ばした青と白のワンピースの少女に突然日本語で話かけられ少々驚くが、玄治は少女の顔を見てにこりと笑った。
「やぁ、ラチェット・アルタイル」
「あら、私を知っているのね」
少女も玄治同様に驚くが、玄治へと友好的な笑みを作る。
「むしろそれは俺の台詞だな、俺よりも君の方がよほど有名人だ」
玄治が表舞台に顔を出すようになってから半年足らず、しかもその多くが軍や貴族の上層部と限られた場のみ。一般市民にとって玄治はまだまだ謎の天才発明家であり、彼の天才・山崎真之介の一番弟子のままである。
だが、彼女は裏の顔はどうあれたった半年で欧州を虜にした踊り子集団の一人であり、現在はブロードウェイの大女優 ラチェット・アルタイルなのだ。
「それもそうね。
・・・ねぇ、少し話が出来ないかしら?」
「・・・」
玄治が困ったように笑えば、ラチェットも笑みの意味を察して手を振った。
「個人的にあなたと話がしたいの、あの戦争に振り回された者の一人として」
「・・・ははっ、どこまで調べてるんだよ」
「ふふっ、女の情報網は恐いものよ? 優秀な発明家にだってわからないくらいにね」
「これ以上敵わない相手なんて増やしたくないんだけどな・・・」
玄治は苦笑いをしながらラチェットから差し出された手を取り、彼女が導かれるままに歩き出した。
「ごめんなさいね、突然連れ出してしまって」
「かまわないよ。俺もついてきたんだし」
てっきり近くのカフェにでも入るのかと思っていた玄治だが、なんだかお高そうなホテルの一室に連れてこられて少々驚いていた。もっとも、その驚きを彼女に晒すようなことはしない。
「まず自己紹介からさせてもらうわ。あなたも知っての通り、私は欧州星組隊長 ラチェット・アルタイルよ。
もっとも、元がつくけれど」
「初めまして。俺は帝国華撃団 鳥組隊長 貴水玄治だ。
俺は『鳥組隊長』よりも、『山崎の弟子』の方が有名だろうがな」
互いに肩をすくめながらそれぞれの飲み物を口に運び、一息つく。
「ねぇ、貴水博士。
あなたは藤枝かえでを知っているかしら?」
「あぁ・・・ 今は亡きウチの副司令の妹さんだな」
「私は彼女を通じてあなたのことを知ったの」
実際に会ったことはないが、かつてあやめから話だけは聞いたことがあった。玄治と歳は一つしか違わないということもあり、あやめはよくかえでの話を玄治にしていた。ラチェットの話を聞く限り、かえでにもまた玄治の話をしていたのだろう。
「勿論、かえではあなたの活躍を全て知っていたわけではないわ。
けれど、四つ上だったあなたは私の年齢には既に身一つで実戦に参加し、山崎真之介の弟子として成熟し、あの降魔とも渡り合っていた。
その頃から既に、私はあなたに会ってみたかったの」
「・・・だが、肝心の俺は以降五年間、表舞台に出ることはなかった。
そして君が所属する欧州星組も半年で解散した」
玄治にとって欧州星組は話には聞いていた程度の存在であり、一馬と山崎との別れた直後ということもあって自分がその頃に何をしていかすら曖昧だった。
「えぇ。
あなたの所在は日本にいること以外何もつかめず、あなたが生み出した技術だけが神崎重工から発表されていく。当然、あなたとの接触は不可能だった」
それらが全て、米田とあやめによる配慮だったのは言うまでもない。
「けれど、あなたは昨年から表舞台に現れるようになった。
降魔戦争と欧州大戦終結から六年もの時が経った今になって」
ラチェットの視線は憧れや尊敬を混ぜながら、玄治に何かを投げかけていた。
それは疑問のようにも期待のようにも見えるが、玄治には読み切れない。
「昨年、帝都での起こった事件は調べたわ。
あなたの所属である帝国華撃団のことも、隊員のことは勿論隊長である大神一郎のことも。けれど、私にはどうしてもわからなかった。
候補者であり、戦闘技術も申し分ない。それどころか光武の技術にも精通するあなたがどうして花組の隊長に納まらなかったのか。何故、候補者止まりであったのか。
もっといえば何故あなたが前線部隊である花組ではなく、後方支援部隊である鳥組の隊長であるのか。そして、あなた自身も司令である米田一基の判断に異論を唱えることなく、鳥組隊長であることを選んだ。
何故? どうしてあなたが花組隊長となることを選ばなかったの?」
途切れることなく投げかけられる問いかけを、玄治は黙って聞いていた。
「実戦を知り、光武を知り、軍というものを知り、世の無情さを知っていたあなたが何故後方で戦い、隊員のほとんどが一般市民と言っても過言ではない花組に全てを任せることが出来たの?
隊長である大神一郎もそう、彼もまた駆け出しのルーキーでしかない。事実、戦いの中には辛勝もあったじゃない」
ラチェットの発言に思うところはあっても否定するところは何もない。
いくら隊員の多くに武芸の心得があっても、それはやはり手習い程度という認識は間違っていなかったし、花組は軍でありながら軍でなく、その統率はマリアから大神という個人に受け継がれているようなものだ。
戦いに関しては言うまでもない。降魔との初戦はまさに彼女が言うように辛うじて勝った、負けなかっただけであったのだから。
「どうして私達ではなく、あの子達だったの・・・!?」
初めて会う玄治を前にして、彼女は自らの仮面を取り払っていた。
これまで誰にも言えなかった本心を告げ、叫び、泣いていた。
その叫びを、玄治はただ受け止める。
「現隊長である大神の着任前、前隊長であるマリア・橘は君と同じように俺を隊長に推薦していた。勿論、彼の着任直後もなかなかその主張を変えようとはしなかったよ」
その言葉に驚く彼女に玄治は椅子から立ち上がっていたラチェットを座るように促しながら、静かに言葉を続けた。
「俺自身、花組の隊長になる意思がなかったこともあるし、彼の霊力の質や他からの推薦があったこと、何より総司令である米田がそう決めた」
「あなたはそれでよかったの?」
「俺の経歴を調べたのなら、ある程度はわかるだろ?
俺は二度目の喪失で、地下に身を潜めた。花組隊長である大神の着任に合わせて地上にこそ出てきたが、その頃だって俺はまともではなかったよ」
穏やかに過去の自分を語る玄治をラチェットはただ驚いていて、同時に何故そこまで穏やかにあれるのかがわからなかった。
「何故大神一郎なのか、何故花組だったのか、その問いに俺は答えられない。
同時に、何故君達星組じゃ駄目だったかの答えも、技術者としてしか答えてやれない」
「貴水博士・・・」
玄治の言葉にラチェットは迷子の子どものようにうろたえて、言葉に詰まる。
答えを知っていると思った者から、答えられないと告げられればそうなるのも当然。
だが、玄治はそんなラチェットをまっすぐ見ていた。
「なぁ、アルタイル。
君にとって、欧州星組はとても離れがたい場所だったんだな」
「っ!」
見透かされるような言葉に、ラチェットは何も言えなかった。
そんなこと、今まで誰にだって指摘されなかったし、自分からは当然口に出来なかった。
メンバーであった他の三人にも、司令であったかえでにも、血だけで繋がった形だけの家族にも。
それこそが合理と実力、命令だけで保たれた星組に相反する私情そのものだった。
内面を見透かされ戸惑うラチェットに、玄治はどこまでも穏やかだった。
「戦乱の中で生まれた部隊に居場所を求めることを俺は咎められないさ。
咎めてしまったら、俺は今の俺を否定することになるからな」
自分がそうであったように、形は違っても星組はラチェットにとっての対降魔部隊だった。
だから玄治にはラチェットの寂しさも、悲しさも、辛さもよく理解できる。
「寂しかったよな」
隊員がバラバラになることも。
「辛かったよな」
その居場所がなくなるという現実も。
「悲しかったよな」
目の前が真っ暗になって、再び孤独になってしまったことも。
「貴水、博士・・・」
「どうすればいいかもわからなくて、ただ目の前の仕事にだけ救われる。
その役目を失ったら、自分の生きる意味すらわからなくなってしまう」
「っ・・・!」
「俺と君は、悲しいほどよく似てるよ」
大神と出会う前の・・・ いや、マリアやかすみに出会う前の玄治自身が今のラチェットだった。
「貴水博士、誰があなたを救ったというの?」
ラチェットの問いかけに、玄治の脳裏には如何なる時も傍に居てくれたマリアとかすみが浮かび、それに次いで米田を筆頭に帝国華撃団の面々が浮かぶ。そして、最後に浮かんだのは恩師と初恋の人だった。
「皆だよ。
花も、風も、それに過去すらも全部が俺を救って、守ってくれたんだ」
玄治は帝劇で皆に見せる穏やかな笑みをラチェットに向けた。
「なぁアルタイル、もしよかったら俺と来ないか?」
「え?」
突然の提案にラチェットは当然戸惑うが、玄治はやはり笑っていて、しかしその目は真剣だった。
「俺は今、『
「貴水博士・・・?」
正気を疑うような視線を貰いながら、大きく手振りをする。
「数年引き籠ってた所為か、空も海も広くて気持ちよくてな。
いろんな場所から俺が目を閉じていた間を見て、答えを探してる」
「答え?」
「俺もまだ道半ばだ。
先生が・・・ 山崎真之介の出した答えとは違うものを俺は見つけなきゃいけない」
「・・・過去はもう、あなたにとって枷ではないのね」
その発言に一瞬キョトンとした顔をし、玄治はすぐに噴き出した。
「俺にとっても君にとっても、過去は最初から枷なんかじゃない。
過去は宝さ、輝きすぎて未来すら見えなっただけでな」
そこで玄治は帝劇のトップスターからありがたくもしつこく教えを受けた社交界での作法通りに、女性をダンスに誘うときのように手を伸ばす。
「ブロードウェイの大女優 ラチェット・アルタイル。
少しの間、日本のしがない発明家と息抜きしてみないか?」
そこでフッとラチェットは笑った。
「百聞は一見に如かず、ね。
あなたがこんなに雄弁だなんて思っていなかった」
力が抜けた肩の荷を落としたような笑い方で、彼女は少し楽になったように玄治を見る。
「世界屈指の発明家 貴水玄治。
あなたとの世界旅行、喜んでご一緒するわ」
これにて玄治の寂しい一人旅に、ラチェット・アルタイルが参加することとなる。
経歴・学歴・女優としての素晴らしい技術を持ち、戦闘技術も高い彼女に案外常識がなかったり、家事等が一切できないことを玄治はこの後に知ることとなるが、それは後のことである。
久しぶりね、玄治
あぁ久しぶりだな、マリア
しかし、俺が戻ってきてもマリアは紐育、カンナは修業、すみれは実家・・・
まだまだ全員バラバラなまんまだな
けれど、大神隊長は来月には戻ってくるんでしょう? 今から楽しみね
次回 『玄治 帰国』
太正桜に浪漫の嵐!
はぁ・・・ 不安だわ