サクラ大戦 貴水玄治物語   作:無月

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③帝劇到着 加山参上

「ただいま戻りました」

 

 玄治が大きな声で正面玄関から入るといつも通り、売店には椿が立っていた。

 

「え、玄治さん!? その綺麗な人は・・・ ど、どうしよう、本当に由里さんが言ってた通りになっちゃった! 男の一人旅なんてロクなことにならないって、玄治さんだから大丈夫なんてことありえないって・・・ やっぱり玄治さんにはマリアさんかかすみさんが一緒じゃないと駄目だったんだ・・・」

 

「おー・・・ 久々だってのに出会い頭に言いたい放題か、椿」

 

「面白い子ね、玄治」

 

「いや元々はただ真面目なだけだったんだが、これは同僚の影響だな。

 ていうか、いろいろと聞き捨てならねぇ。俺は一人でも生活ぐらい出来るぞ」

 

 パニックになる椿に対してラチェットは笑って受け入れ、玄治はどこかずれた答えを言う。

 挙句、椿はそのまま事務局の方へと駆けていってしまった。

 

「あっ・・・ おい、椿・・・」

 

「あー、おじちゃんが綺麗な女の人と一緒にいるー。

 マリアとかすみに言ーっちゃおっと」

 

「いや、マリアにはさっき会ったし、かすみさんにもきちんと紹介するから」

 

「あー・・・ やっぱりわかってないこのおじちゃん。

 お兄ちゃんと違って女心がわかんないだなー、もー」

 

「なっ!? 大神は女心がわかるのか?!

 紐育にいたあぁいう人達と同じか・・・ 修羅の道だな」

 

「なんかわかんないけど、怒るよ? おじちゃん」

 

 抱えられていたジャンポールがアイリスから離れ、両手を合わせるように玄治の方を向く。それはさながら拳を合わせる不良のようである。

 というか、揃いも揃って出会い頭に玄治に容赦がなさすぎである。

 

「アイリス、もしかして大神さんが・・・ なんだ、貴水さんでしたか」

 

「そんな露骨にがっかりしなくても、大神も明後日とかにはこっちにくんだろ」

 

「本当ですか!?」

 

 テラスへと続く階段から降りてきたさくらもまた容赦がない。

 

「さっきから黙っていれば、身内とはいえ玄治に対して失礼じゃないかしら。

 あの子達が乗ってる光武を始め多くの技術が彼と李紅蘭によって作られているのに・・・」

 

「いやぁ、仕方ないですよ」

 

 玄治の傍らで少々怒ったような口ぶりで注意しようとしたラチェットに対し、椿に連れられてやってきた由里が合流する。

 

「あなたは多分、彼のカッコいい所をたくさん見たと思うんですけど・・・ あの子達はこの人のカッコ悪い所ばっかり見てきたから」

 

「玄治にカッコ悪い所なんてないわ」

 

「いや俺、あの二人に初見で不審者扱いされたし。

 大神に比べりゃ俺なんて良い所なしだろ、好き勝手やってただけだしな」

 

 即答するラチェットに対し、玄治はさくら達に初めて会った日のことを話し、かつての戦いにおける自分を客観的にも主観的にも間違っていないと告げる。

 

「あなたは一番犠牲の少ない方法を選ぼうとしただけよ」

 

「それは綺麗なところだけ切り取りすぎた結果論さ、俺一人じゃ誰も救えず守れなかったよ」

 

 ラチェットには聞こえないように小声で由里は玄治へと話しかける。

 

「貴水さん・・・ 何したの? 今度はどう誑したの?

 面倒見のいいかすみは駄目な男が好みだったし、マリアさんとはなんだかんだで似た者同士だし、今度は何? 空から降ってきたとか?」

 

「お前なぁ・・・ 俺のことはどうでもいいがマリアとかすみさんには迷惑なるようなこと言うなよ?

 んー・・・ しいていうならラチェットは家事が駄目だな、十歳で大学卒業して今やブロードウェイの大女優だってのに」

 

「あー、仕事に生きるタイプだったかー」

 

 頭を叩いてあちゃーと大袈裟に反応する由里に、玄治は『さすがの洞察力だな』と感心する。

 

「で、かすみさんは事務局か?」

 

「それでもかすみ優先! そういうところだからね!?」

 

「ん? どこだ? むしろ何がだ?」

 

「もういいわ・・・ 男の取り合いで人傷沙汰は勘弁してよ・・・」

 

「それ、俺より大神だろ。ていうか、むしろさくらか?」

 

「ごめん。うん、確かにそっちだわ。

 よく考えたら劇場を壊してないのって、貴水さんとマリアさんだけだわ・・・」

 

「そういや思い返せば、皆壊してたな」

 

 劇で壊し、霊力で壊し、喧嘩で壊し、自室で壊した。

 敵が攻め込んでくる必要なく、帝国劇場は壊れまくりである。

 

「修理を外部に発注するの私達なのにね・・・」

 

 縁の下の力持ち風組、お疲れ様です。

 ラチェットの自己紹介はあとと言ってアイリスとさくらを散らし、椿も定位置である売店へと戻っていた。

 

「んじゃ、かすみさんにも会いたいし、事務局行くか」

 

「だーかーら、そういうところだよ?

 ていうか、米田さん蔑ろなの!?」

 

「蔑ろにはしてないだろ、事務局の方が手前にあるから先にするだけだ」

 

 それを人は蔑ろという。

 加えて玄治は大神と違って軍属ではないため、着任届は不要である。事務局にもこれといった用はない。

 

「ここが食堂と厨房。

 俺は大体日中はここで皆の食事を作ってる。時間は決まってないが朝食は六時以降から稽古前まで、昼は十一時半から十四時、夜は十八時以降が目安だな」

 

「玄治の食事は美味しいものね、楽しみだわ」

 

「あぁ、やっぱり寝食を共にしたのね・・・」

 

「高級ホテルに泊まるだけの金はあったが、行く場所全部がそうしたところとは限らないから当然だろ。野宿だってしたしな。

 おやつ・夜食が食いたかったら俺を探して声をかけるか、テーブルの上に常備してある作り置き・買い置きの菓子を摘まむように」

 

「お母さーん。由里ね、プリン食べたーい」

 

 由里がふざければ、玄治は容赦なくその額にデコピンをくらわす。

 

「誰がお母さんだ。

 フルーツとクリーム盛ってお子様デザートにするぞ、こら」

 

「美味しそうね。私も食べたいわ、ママ」

 

「ほれ見ろ! ラチェットまで悪乗りしただろうが!!」

 

「ぶー、別にいいじゃない。

 減るもんじゃないし、皆だって貴水さんの作るおやつ大好きなんだから」

 

「あら、凄い人気ね。

 私もぜひ、玄治のおやつをご相伴に預かりたいわ」

 

「はぁ・・・ 仕方ねーなぁ。

 明日用意するから、楽しみにしとけ」

 

 通りがかった場所の説明をしつつ、改装後の来賓玄関や音楽室、二階の遊戯室についても軽く触れていく。

 

「で、ここが事務局。

 劇場の縁の下の力持ちで、劇の事務的な仕事はすべてここで行われてる」

 

 そういって扉を開ければそこには和服姿のかすみが立っており、玄治を見てすぐにその目は和らいだ。

 

「貴水さん、お帰りなさい」

 

「あぁ、ただいま。かすみさん」

 

「そちらの方が手紙で言っていたラチェットさんですね」

 

「って、かすみ知ってたの!?」

 

「別に隠すことじゃないだろ、旅の連れが増えるくらい」

 

(こいつ、全然わかってねぇ・・・!)

 戦慄する由里に誰も気づくことはなく、ラチェットとかすみは友好的に握手を交わす。

 

「初めまして、藤井かすみです」

 

「初めまして、ラチェット・アルタイルよ。

 あなたのことも玄治からよく聞いてるわ、穏やかで優しい大和撫子だって」

 

「そんな褒め過ぎです・・・ ラチェットさんも顔が広くて知識の深い、ずいぶん助けられたって聞いてますよ」

 

「あら、玄治ったら・・・」

 

 互いに好意を抱く者に言われた言葉は悪い気持ちになる筈がなく、頬を赤らめる。

 

「貴水さん、そういうところですよ・・・」

 

「だから、さっきからお前はどこのことを言ってるんだ?」

 

 由里の呟きに玄治は問い返すが、当然由里は答えない。自分で気づかぬ限り、これは不治の病である。

 

「今日の夕飯とかはどうなってるんだ? なんなら手伝うが」

 

「玄治さんは帰ってきたばかりなんですから、今日明日ぐらいまでは私に任せてください。

 私の料理でお二人の口にあうといいんですけど」

 

「そんな疲れてないから平気だって。

 それに明後日には大神が帰ってくるんだろ? 明日には料理仕込んだりした方がいいし、俺だって久しぶりに広い厨房で腕を振るいたいんだよ」

 

「駄目です。

 そういって貴水さんはすぐに無理をするんですから、今日明日は休んでください」

 

 どちらも譲らない姿勢だが、しばらくかすみと見つめ合っていると玄治が折れた。

 

「はぁ、わかったよ・・・」

 

「はい、わかってもらえたようで嬉しいです」

 

「でも明日のおやつは俺が作るし明後日の料理は手伝うし、譲るのは食事だけだからな?」

 

「貴水さんが何もしないで劇場でのんびりなんてしてくれないことぐらいわかってますから、大丈夫です。明日のおやつ、楽しみにしてますね」

 

 玄治の言葉にわかっていると言わんばかりのかすみ、阿吽の呼吸のマリアとも違った関係はどちらかと言えばかすみ優勢で、かすみが玄治の行動を見透かしているようだった。

 

「ぬぬぬぬぬ・・・」

 

「面白くないから唸ってるみたいですけど大体あんな感じですよ、あの二人」

 

 夫婦と言わんばかりの会話にラチェットがうなり、日常である由里が苦い顔をして補足する。

 

「マリアだってあんな会話はしてなかったわよ?」

 

「マリアさんとはまた少し違いますからねー。

 ほら、かすみって前線には立てない分後方支援的には関わることが多いし、劇場においても同じ縁の下の立場ですから話すことが多いんですよ」

 

「なるほど・・・」

 

「ラチェット、そろそろ支配人室に行くぞ。

 どうやら横浜で連絡いれてから、米田さんが待ってたみたいだ」

 

「えぇ、今行くわ。

 またいろいろと教えて頂戴、由里さん・・・ でいいのよね?」

 

「はい、榊原由里です。

 よろしくお願いしますね、ラチェットさん」

 

 玄治の言葉にラチェットも従い、すぐ隣にある支配人室へとノックをする。

 

「米田さん、貴水です。

 入りますよ」

 

 玄治が返事も待たずに入室すれば、机の上に腕を組んで真面目な顔をした米田が待ち構えていた。

 

「玄治、おめぇなぁ・・・

 俺は確かに見聞を広めるために世界を見てこいっつったが、どーしたら欧州星組の隊長を連れて歩くことになるんだ?」

 

「えー・・・ 成り行きと言いますかね?」

 

「マリアとかすみ泣かせたら容赦しねーから、覚悟しとけ?」

 

「はぁ・・・? なるべく善処します」

 

 過去に怪我を負ったり、勝手に飛び出した際などに二人を悲しませている玄治は『泣かせない』とは即答できない。もっと言うなら玄治は秘密部隊である華撃団において特に重要機密を抱えているため、命が狙われる可能性も高い。

 米田もそれがわかっているからか、あまり厳しくは言わない。加えて、玄治が考えているような深刻な内容の方でもない。

 

「まぁちょうどいい、今回元星組のメンバーの内二名も花組所属になることが決まったしな。

 んじゃ、改めて自己紹介といこう。

 俺は陸軍中将 米田一基。この帝都花組の総司令で、普段は帝国劇場の支配人をやってる老いぼれ爺だ」

 

「初めまして、米田中将。

 私は元欧州星組隊長 ラチェット・アルタイルです」

 

 姿勢を正して米田に礼を取るラチェットに、米田はいつもの支配人の姿で表情を緩めた。

 

「まっ、気楽にいこうぜ。

 戦いがあるまでの間、ここは単なる劇場だ。いつもはブロードウェイの大女優なんだ、異国の日本でぐらいのんびり休養するといいさ。勿論、舞台に上がってくれたっていいしな」

 

「お気遣い感謝します」

 

「さっきも言った通り、元星組隊員のソレッタ・織姫、レニ・ミルヒシュトラーセも花組に編入する。それに加え、去年は海軍で演習に出ていた花組隊長の大神一郎も帰還する。

 歓迎会はその時になっちまうのは申し訳ねぇが、帝劇では自由にしてくれてかまわねぇよ」

 

「突然の訪問にも拘らず、お気遣い感謝します。

 貴水博士の傍で、そしてこの花組の元でいろいろと学ばせていただきます」

 

 やはりラチェットは大神同様にどこか軍人のような面を持っているのか、プライベートとは表情が変わる。

(まぁ、米田さんが司令と支配人の使い分けがうますぎるんだけどな・・・)

 

「玄治、お前の部屋の近くにいくつかの部屋を増築しておいた。

 その一室をアルタイルに使ってもらう」

 

「わかりましたよ。

 他の設備もいろいろ説明しとけばいいんですね?」

 

「そうだ。

 それと・・・ 悪いが夜に酒の肴を作りに来てくれねぇか?」

 

 少し言い難そうに言う米田に玄治は笑顔で応える。

 

「塩分カットのヘルシーな肴ですね、わかりました」

 

「おまっ!? ま、まぁいい。とにかく楽しみにしてるからな」

 

「わかりましたって。

 ・・・ったく、しょーがねー酒飲み爺だ」

 

「おい、玄治! 聞こえてるからな!」

 

「それでは失礼します」

 

 玄治が米田に背を向けるのに合わせてラチェットが一礼し、共に支配人室を出ていく。

 地下への階段を降り、あちこちを説明と確認をし、途中でラチェットと別れ、玄治は自室の扉を開けた。

 久方ぶりに入った部屋は改装したにもかかわらず出発前と変わらない配置で、埃が積もった様子もない。おそらく二人が定期的に清掃を行ってくれたのだろう。

 

「ただいま帰りました」

 

 ベッド近くには三つの写真立て。対降魔部隊のものとまだあやめがいた頃の集合写真。そして、大神と玄治が旅立つ前にとられたもの。

 かつては泣くだけの写真に玄治は帰還を告げるように笑いかけ、紅蘭から送られてきただろう光武や実験の資料に目を通すことから開始した。

 

 

 

 

 

 

 かすみが昼にサンドイッチとお茶を運んで来たり、荷物の片付けが終わったラチェットが玄治の部屋で資料を眺め、互いにアイゼンクライトや戦略について話し合いながら時間は流れる。途中で由里が現れてラチェットを攫うという珍事も起きたが、女性同士の話があるのだろうと判断して玄治は優しく見送った。

 おやつの仕込みと肴を作るついでに夕食の片付けを軽く手伝い、言われた通りに支配人室へと向かえばそこには米田以外にもう一人 ――― 日に焼けた茶の短髪のオールバック、真っ赤なシャツに牛柄のネクタイ、白スーツの男が立っていた。

 

「お、来たな。玄治。

 そんな目すんなって、ちゃんと紹介するからよ」

 

 無意識に厳しい目つきになっていた玄治に米田が白スーツの男を指し示しつつ、言葉を続けた。

 

「こいつは加山雄一。

 大神と海軍学校同期で主席だったあいつに次ぐ霊力と実力の持ち主だ。んで、今回新設された隠密行動部隊・月組の隊長だ」

 

「月組ってなんです?

 マリアからも聞いてませんよ、そんな新設部隊」

 

「そりゃそうだ、花組にだって秘匿にしてる秘密部隊だからな」

 

 ニヤリと笑って玄治の持ってきたなめろうをつつく米田を、玄治は見下ろす。

 

「・・・暗部ですか?」

 

「物騒なこというな、ただの情報部隊だ。

 最近、軍部の若手が物騒でな。そのための用心も兼ねてる」

 

「暗部と大差ないじゃないですか。

 というか、俺が留守の間にまた軍がどうかしたんですか?」

 

 軍への不信感を露にする玄治に、米田は苦笑に留める。

 

「成り上がった奴を中心にはしゃいでてな。

 それにお前も知っての通り、俺達は軍の中じゃ肩身が狭い。金食い虫だからな」

 

「その金食い虫と進化前に二度救われて、金食い虫の成果でどれだけ国が潤って、挙句の果て一切役に立たなかった軍の多数の方々が何を思ってるか、是非ともお話を伺いたいのですが・・・ 陸軍上層部の方々と対談の機会を作っていただいても?」

 

 眉間の皺を深くし、玄治は怒りを隠しもしない。

 

「玄治、怒るな」

 

 米田も玄治が国と軍に強い不信感を抱いているのはわかっているため、強くは言えない。

 だが、その一言で止まるぐらいには玄治にかつてよりは理性がある。

 

「わかってますよ。

 それで、花組にも秘匿である部隊を俺にだけ伝えておくのは何故です?」

 

「支援部隊同士に加え、お前は何かと重要な機密を扱うことが多いからな。任務柄、大神よりもお前と組む可能性も高いことも理由の一つだ。

 あいつらに守るべき人間に備えてるなんて言えねぇ、それに・・・ 軍にはなるべくな」

 

「地下に部屋が増えてたのはそのための準備ですか」

 

 言い淀んだ米田の想いを汲み、玄治はあえて追及はしなかった。

 

「人間相手に光武は使えねぇからな、あいつらを守る(すべ)は多い方がいい」

 

「・・・術、いります?

 風組以外、光武無しでも軍人相手ぐらいならそこそこ戦えそうですけど」

 

 海軍学校首席に革命の戦士、各武道の免許皆伝者達に凶器に事欠かない技術者。そして、危険とまで言われた霊力の保持者。仮に軍が攻めてきても応戦できそうな布陣である。

 

「まぁ、念には念を入れてな。

 ほれ、挨拶しろ。加山」

 

 米田が手で指し示せば、白スーツの男は改めて玄治に頭を下げた。

 

「初めまして、貴水博士。俺は加山雄一、大神の親友で隠密行動部隊・月組隊長を任されました。

 以後、よろしくお願いします」

 

「あぁ。

 知ってるとは思うが、後方支援部隊・鳥組隊長 貴水玄治だ」

 

 キリッと敬礼して見せる加山に返礼はせず、少し構える。

(大神と同じ真面目なタイプ・・・ いや、ならこんなド派手な格好はしないな)

 

「俺は幸せだなぁ~、あの高名な貴水博士と同じ職場で働けるなんて。

 気のいい友人としてもどうかよろしく」

 

 瞬時に緩めて、どこから取り出したギターを響かせる加山に玄治は若干・・・ いやかなり引く。

 元々人と接することが少ない上に、同世代の同性でまともに接したのが大神のみ。馴れ馴れしい同性に耐性がない。

 

「というわけで玄治、好きな女性のタイプは?」

 

 親し気に肩を組んで聞かれた加山の問いかけに玄治は一瞬だけ呆気にとられ、冷たい視線を米田へと向けた。

 

「米田さん、いいですか?

 わかってるとは思いますけど、ここには年頃の女性が多い。そんな中に秘匿且つ任務上関わることが少ないという条件付きとはいえこんな軽い男を、花組にすら秘匿とはいえ一部隊の長を任せるのは本当にどうかと思います」

 

「そう言ってやるな、それがそいつなりの接し方だ」

 

 玄治が呆気にとられたのが面白かったのか、米田は笑っていた。

(こいつは案外、玄治にいい影響を与えてくれるかもな)

 想定外ではあるが、米田としては加山が玄治にとって良き友人になることは歓迎である。

 

「つーか、お前と大神みてぇに色恋の話を一切しねぇのも問題なんだよ」

 

「独身の米田さんに言われても・・・」

 

「俺のことはいいんだよ!」

 

 人生の多くを国に捧げ、数多の戦争を経験してきた米田に色恋をしている暇はなく、後継を期待していた者は皆先立った。

 華撃団の皆を娘や息子と言って可愛がるのも、本来なら得られた当たり前の幸せの代わりという一面もあるだろう。

 

「で、どうなんだ? 玄治。

 お前も男だ、好みの一つや二つあるだろ? ん?」

 

「馴れ馴れしく肩を組むな、鬱陶しい」

 

 しつこく肩を抱いて女の好みを聞いてくる加山の手を玄治が雑に振り払う。だが、加山はそんなこと欠片も気にした様子もなく、軽口を叩いて笑う。

 

「そんな冷たいこと言うなよー、俺とお前の仲だろ?」

 

「生憎俺とお前は今日が初対面だ、馴れ馴れしく肩を抱き合うほどの親しい仲になった覚えが欠片もない」

 

「じゃぁ、これから育もうじゃないか! なぁ、玄治」

 

「あぁもう何だこいつ!? うぜぇ!」

 

 年相応・・・ 否、他者に対して怒鳴りつける玄治のその姿は幼くすら映って、米田は腹を抱えて笑いだす。

 

「米田さん、何笑ってんですか!」

 

 加山を怒鳴りながら米田の方をギロリと睨み付けた玄治に、米田は答えずに笑い続ける。

(あの引き籠りが一年ぶりに帰ってきたら女連れで、その夜には同世代とじゃれ合ってんだぞ? 笑うなっつうのが無理だろーよ)

 対降魔部隊の隊員が願っていながら、年上で親や兄姉代わりとなった自分達ではけして与えられなかったもの。

 見ることが叶わなかった光景の一つが今、ここにある。

 

「初対面だってのに、随分仲良くなってるじゃねぇかと思ってな?」

 

「はぁ!? これのどこが仲良く見えるって言うんです?!

 用が済んだなら俺はもう戻りますよ!」

 

「逃げるのかぁ? 玄治」

 

「そうだぞ、玄治。

 俺との仲をもっと温めようじゃないか」

 

 扉へと素早く移動する玄治に二人が挑発するが、玄治は挑発になど乗らない。

 

「まだ、いろいろと確認が終わってないんですよ。

 大神が明後日戻ってくるまでに紅チビと情報共有も済ませたいし、光武の調整も終わらせないと・・・ 加山、隊長として俺に用がある時は地下に来い。扉が増えてたのはお前用なんだろ?」

 

「流石、高名な貴水博士」

 

 加山が称賛の口笛を吹けば、玄治はフンッと鼻を鳴らした。

 

「次勝手に扉を増やしたら、それ相応の歓迎の品を用意するから覚悟しておけ」

 

「え? ちょっ、玄治何をする気だ・・・ その良い笑顔はなんだ!? 米田司令、なんですかその生ぬるい視線は!? 玄治頼む、待ってくれぇ!」

 

 背後の加山の悲鳴に留飲を下げながら、玄治は自室へと戻っていった。

 




お兄ちゃんが 大神さんが 
帰ってくる!!
お前ら、はしゃぎすぎだ。つうか、歓迎会の準備も少しは手伝え
次回 『大神着任』
太正桜に浪漫の嵐!
織姫、久しぶりね
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