太正十四年 水無月
大神が財界からの援助打ち切りを皆に伝えに楽屋へと走っている頃、玄治を始めとしたラチェットと風組の面々は支配人室へと集まっていた。
司令たる米田が意識不明の重体となり、つい先ほど入った財界からの援助の打ち切り宣告。
この部屋のみならず劇場全体に重々しい空気に支配される中で、沈黙を破ったのはラチェットだった。
「どうするの? 玄治」
「・・・劇場も、華撃団も、米田さんが倒れたからと言って停止するわけにはいかない。
米田さんの復帰を信じ、俺達は現状維持に全力を尽くす」
「そんなどうやって・・・ 司令がいない上に、資金が止まるのよ?」
「貴水さんが司令を代行なさるんですか?」
由里の発言をかぶせるようにかすみが会話に入り、玄治は頷く。
「本来なら大神の方がいいんだろうが戦闘での指揮、花組隊員の心を支えてる大神に司令の仕事までさせるわけにはいかない。財界からの援助が打ち切られた以上、舞台で稼ぐしか道はないからな。
当面の資金は心配することはない、今まで手付かずだった俺の個人資産をこっちに回せばいいだけのことだ。今すぐに困るって事態は防げるだろ」
「そりゃ、しばらくはそれで大丈夫かもしれないけど・・・」
「無茶ですよ! 貴水さん!
貴水さんだって今、たくさん仕事を抱えてるのに・・・!」
身を案じる由里と椿に対し、玄治は深く目を閉じてから開く。
「花組の役目は舞台と戦場で咲き誇り、人々の希望という光であり続けること。
風組の役目は花組を戦場へと運び、舞台で咲く花を人々へ届けること。
ほれ見ろ、仕事が多いのは俺だけじゃないだろ。
赤チビなんて出撃するわ、こっち居たら舞台に出るわ、光武の整備までするわでじっとしてることの方がないだろ」
そうした意味において、
『後方支援』という幅広く、司令や副指令の補助を行いつつ、花組が出来ない調査や危機管理を行う便利屋というのが実情だった。
玄治の言葉に他の面々が顔を見合わせ、呆れたような溜息を零す。
大神以上にこの男は成すべきことを決めたらやり通すまで動かないことぐらい、一番短い付き合いであるラチェットでもよく理解している。決めたことをこうして全員に宣言するだけ、マシな方だ。
「手を貸すわよ、玄治」
「貴水さん、事務仕事は私達に任せてください」
「はぁ~、あの引き籠りだった貴水さんがそれだけ覚悟決めてるんだもんね。やるっきゃないか~」
「わ、私も精一杯頑張ります!」
心強い女性陣の声に笑みがこぼれるのを感じつつ、玄治の肩の力がいい意味で抜けるのを感じた。
「勿論、頼りにしてる。
じゃぁ、風組はいつも通り事務仕事へ戻ってくれ。ラチェットは地下での調べごとを任せていいか?」
玄治が仕事を振っていこうとすれば、かすみが控えめに手をあげる。
「そのことですが貴水さん、劇をやるにもカンナさんとマリアさんの不在で男役を演じられる方がいなくて・・・ どうしましょう?」
「男役、か。
そろそろあいつが帰ってくるとは思うんだが、そう都合よくいかないよな・・・」
先日からキネマトロンで連絡の取れていない修行馬鹿を思い出し、溜息が零れる。
「馬鹿力でキネマトロン壊しかねない奴だし、仕方ないか・・・」
その瞬間、支配人室の扉が勢いをよく開かれた。
「人のいないところで悪口たぁ、大した根性じゃねぇか。
なぁ? 玄さん」
扉の前で仁王立ちする明るい色の高身長の女、桐島カンナは笑いながら玄治を睨みつけていた。
「よっ、今帰ったぜ」
そこらの男よりよっぽど男前に登場する姿は、女だと理解しても惚れかねないほどよく似合っている。
「おう、おかえり。
だが安心しろ、カンナ。俺はお前が目の前に居ても、一切の躊躇いもなくゴリラや馬鹿力っていうからな」
「そりゃ安心だ・・・ じゃねーよ!」
つかつか玄治の前に出て、躊躇いもなく玄治に叩き込むが玄治はそれを掌で受け止める。
「んで、状況は?」
「米田さんが何者かによって重傷を負わされて、現状俺が司令および支配人代行。
財界からの突然の援助打ち切りで、家計は火の車寸前だな。まぁ、その辺りは俺が金を出すからすぐに貧乏生活ってことはねーよ」
「じゃ、そっちの見慣れない別嬪さんは?」
「ブロードウェイの大女優、ラチェット・アルタイルだ。
欧州星組の元隊長で、今は見聞を広めに帝劇に滞在中だ」
「欧州星組? なんだそりゃ」
「そっちはあとにしろ、新人が何人か編入する話は聞いてるだろ?
あとは舞台か楽屋にいる大神達に聞いてくれ」
ざっと説明された現状に対し、カンナはガシガシと頭をかいて溜息をつく。
「まーた面倒なことが起こってるみてぇだな・・・」
「まっ、いろいろ足りてねぇがやることは変わらねーよ。
帝都を守り、舞台をもって笑顔を作る。お前達はいつもの花組でいてくれればいい」
「んで、玄さんはいつも通りあたいらを支えると」
「大神が前でお前ら引っ張ってくんだ、後ろぐらいはついていくさ」
「のわりにゃ、突然前に躍り出て来やがっけどな」
「なんのことやら?」
「オメーのことだよ、このクソ兄貴」
体の大きな血の繋がらぬ兄妹のやり取りに風組はいつの間にか支配人室から事務局へと戻り、ラチェットだけがその場で残って生暖かい視線を送っていた。
「んじゃ、あたいはこのまま一度舞台の方に行ってくるぜ。隊長たちの顔も見てーしな」
「おう、行ってこい」
「じゃ、また後でな。ラチェットさんもな」
「えぇ、また後で。
カンナ、でいいかしら?」
「じゃ、あたいもラチェットって呼ばせてもらうぜ。
これからよろしくな、ラチェット」
「こちらこそ」
すれ違いざまにラチェットにウィンクしつつ挨拶し、ラチェットもそれに快く応じていく。支配人室から出ていくカンナの背中を見送ってから、ラチェットはクスリと笑った。
「あなたは本当にここでは『兄』なのね、玄治」
「やったことがやったことだから、ロクな印象持たれてない兄貴だけどな。
さくらやアイリスがいい例で、今はいないがすみれも似たり寄ったりで困ったもんさ」
「ふふっ、下の子達はそうかもしれないけど、上の子達はそう思ってないみたいよ? 特に弟さんはあなたをとても頼ってるわ」
「弟の方がしっかりしてるから、大したことは出来ないけどな」
肩をすくめつつ、支配人用の大きな机から米田秘蔵の酒とある人へと手紙を出すためにいくつかの便箋も失敬していく。
こんな表からも入られやすい部屋に重要書類を置いておくようなへまはせず、必要書類の用紙ばかりが机には収められていた。
「財界へあなたから働きかけるの?」
「出来なくはないが、俺が動いてもバレるさ。
力はあっても俺は華族じゃないからな」
「打診はあるのでしょう?」
「まぁ、な」
山崎から受け継いだ知識と技術は世界に革命をもたらし、今なお弟子たる玄治・紅蘭によって革新が止まることはない。
国に与えた利益はもはや経済のみならず、他国との交流という意味でも大きく、その功績により貴族になることを玄治は既に打診されていた。
「もっとも、あなたを欲しがっているのは日本だけではないでしょうけど」
否、それどころか日本のみならず世界各国が玄治という人材を欲し、立場を与えたがっている。
「去年の顔見せは失敗だったのか、成功だったのか、自分でもいまいちわからんな。
幸い、国内からの打診は何故か一時的に凍結となってくれたがな」
「あら、それは不思議ね」
「不思議だよなぁ」
「もし日本に愛想が尽きたら、紐育はいつでもあなたを歓迎するわ」
「ハッハッハ、それも悪くない。けど、それはないな。
俺が日本に愛想をつかすことはあっても、帝都を捨てることは出来ないんだ」
「それは残念ね」
互いに笑い合い、いくつかの資料をとってからラチェットは支配人室の扉へと向かう。
「あなたが支配人業務をしている間、私は調査と考察。
けれど、あなたの機器類を本当に私が扱っていいのかしら?」
「使えるものは使えばいいし、俺がいいって言ってんだからいいさ。
そっちは任せた」
玄治の言葉に、ラチェットはにこりと笑って頷いた。
「えぇ、任せて頂戴」
翌朝、朝食を終えて、それぞれが舞台や支配人室、事務局で仕事を行っていると驚きの一報が帝国劇場へと届いた。
「貴水さん、大変です!
すみれさんが援助再開のために、結婚をすると・・・!」
駆けてきたかすみと大神達へと伝えるべく舞台へと走っていく由里を見て、玄治はおもわず持っていたペンを握りつぶした。
「あんのクソ爺・・・ 仮病といい、孫を手元に置いて安全確保しようとするところといい孫馬鹿が過ぎるだろ・・・!」
国に貢献し、一代で今の地位を築き上げた男・神崎忠義にここまで暴言を吐ける命知らずはそういない。現にその暴言を目の当たりにしたかすみは苦笑いかつ額に冷や汗を浮かべている。
「どうしますか? 貴水さん」
「いや、これは俺がどうこう言う前に・・・」
「玄さん、話は聞いただろ!
あたい達は今からすみれんとこ行ってくるから、あと頼むわ!」
「おじちゃん、アイリス達も行ってきまーす」
「ハカセ、行ってくる」
「貴水さん、ごめんなさい。でも、すみれさんの危機なんです!」
「面白そうだからついていきまーす!」
「すみれくんをつれて、必ず戻ってくる!」
「ほらな?」
大神とカンナを先頭にして、全員が帝劇を飛び出していくのを玄治はどこか諦めた目で見送ることしか出来ない。
騒ぎを聞きつけて地上へときたラチェットも花組の突撃を目の当たりにし、舞台から戻ってきた由里から事情を聞けば、廊下から扉が開いたままの支配人室を覗き込む。
「玄治、あなたは行かなくていいのかしら?」
「勘弁してくれ・・・
俺が神崎邸に突っ込みなんかしたら、神崎老は嬉々として俺も交渉の材料にするぞ」
頭痛を堪えるように額に手を当て、深い溜息を零す。
「具体的に言うと?」
「俺をすみれの婚約者にするか、俺を神崎の養子にする」
ラチェット同様に続いて支配人室を覗き込んだ由里の問いに、問われた当人はげんなりと答えた。
「すみれさんが別の見合いの席を設けられているということは、貴水さんは断られたんですよね?」
「神崎老が技師としての俺をかってくれているのは嬉しいさ。
でも、俺はすすんで『貴水玄治』であることを捨てるつもりなんてないし、すみれと結婚なんてそれこそ冗談だろ」
これでその話は終わりだと言わんばかりに玄治は立ち上がり、支配人室から出ようとする。
「貴水さん、どちらへ?」
「あー・・・ 来ればわかるんだが・・・
悪い、由里。花組が飛び出して混乱してるだろう椿に事情説明するのと、事務局での待機を頼む」
「はいはい、私にもあとでちゃんと説明頂戴よね」
「わかってるっての。二人は俺と一緒に地下に行くぞ」
玄治はそのまま二人を連れて地下に向かえば、まっすぐ指令室へと向かう。
「それで誰に報告しようというの?」
『ここにいない二人の隊員?』にともラチェットは一瞬考えたが、異国に飛ぶマリアにも、技師としての力などはあっても貴族まで動かすほどの権力はない紅蘭に伝えたところで混乱を増やすだけである以上、それはない。
「ラチェットももしかしたら初耳かもしれないが、本来なら今日・・・ いや、米田さんが倒れていなければもう少し早く帝国華撃団に副司令が着任する予定だった」
「副司令が? 一体、どなたが?」
「その質問は連絡を取ればわかる。少し待ってくれ」
かすみの問いかけを聞きつつ、玄治は慣れた手つきで機器を操作し、処理の追いつかない画面を後回しに相手に連絡を取る。
「もしもし」
『あら玄治くん、もう少しでそちらに着くのだけど、緊急かしら?』
相手の声にかすみは目を丸くし、ラチェットは合点が言ったように頷いた。
「えぇ。神崎老がすみれの見合いの席を用意し、花組が神崎老とすみれの行動に激怒。神崎邸へと特攻しました」
『あらあら。大神くんも花組も、姉さんに聞いていた通り仲間思いなのね。
それで玄治くんはもしもの事態に備えて劇場で待機ね?』
「はい、俺とラチェット、風組三名はこちらで待機です。俺が行ったら別の交渉材料にされかねませんからね」
『いい判断だわ。
そろそろ画面の方も映りそうね、そこに居るのは玄治くん一人?』
「いいえ、ラチェットと風組隊長である藤井かすみもいます」
『じゃぁ、先に挨拶をしましょう』
聞こえてくる声と同時に画面が映り、そこには髪型こそ違えどその顔立ちは亡き副司令 藤枝あやめによく似ていた。
『本日付で帝国華撃団副司令に着任しました。陸軍中尉 藤枝かえでよ』
「ラチェットはよく知ってるとは思うが、彼女はあやめさんの妹で、欧州星組ともかかわりの深い方だ」
画面がよく見えるように退きつつ、軽く紹介もすればかすみは呆然と画面を見ていたがすぐに頭を下げた。
「あやめさんの・・・ 本当によく似てらっしゃいますね。
輸送空挺部隊 風組 藤井かすみです。よろしくお願いします」
『えぇ、あなたのことも姉さんからよく聞いているわ。
事務処理において、あなた以上に頼りにしている人はいなかったって』
「そんな・・・ 光栄です」
「かえで、積もる話はあるでしょうけど、今はそんなことしてる場合じゃないわ」
ラチェットの制止にかえでも頷き、玄治の方へと視線を向け直す。
『それで玄治くん、私に緊急の連絡を寄越したということは私に別の動きがしてほしいんでしょう?』
「今から花組より先に神崎邸に先回り・・・ は無理でしょうから、向こうと合流して大神達がしようとしていることの後押しをお願いします」
「玄治!? あなたそれが一体どういうことか、わかっているの!?」
ラチェットの驚愕の声に、玄治はニヤリと笑う。
それはつまり、何を突き付けられたとしても大神の決定が帝国華撃団の一存であると認めることだ。
「ラチェット、さっきの花組を見ただろ?
俺達は仲間を見捨てない、例えそれがどんな立場であろうとも全員揃って襲撃に行くぐらいのしでかしちまうんだ」
玄治はそこで笑顔をしまい込み、真剣な表情で続ける。
「現状から見て、国内においてそれなりの・・・ それも陸軍に関与している何者かが財界に働きかけているのは確実。
だが、神崎重工は俺と赤チビを・・・ 技術協力者であり、実験の場であり、商売相手でもある帝国華撃団を完全に切り捨てることは出来ない。だとしたら、神崎老が大神に突きつけられることは限られてる」
『本当に頭がきれるわね、玄治くんは』
傍にいたのなら頭を撫でてしまいそうな声で言われ、玄治は頬を掻いて誤魔化しつつ言葉を続ける。
「それじゃお願いできますか? かえでさん」
『えぇ、任せて頂戴。それじゃ、また後で』
「えぇ、お待ちしています」
通信を終了させてから、玄治はあることを思い出して溜息をついた。
「大神の奴、かえでさんをあやめさんと見間違えそうだな・・・」
かつてあやめのことを女性として惹かれていたと断言した大神が、声も顔立ちもよく似たかえでが突然・・・ しかも花組の危機に訪れなどしたらどうなるかなど、火を見るよりも明らかだろう。勝利の女神か、危機に現れた救いの天使と見間違っても不思議はない。
「そうですね、大神さんはあやめさんが大好きでしたから」
かすみも同意するように苦笑し、ラチェットはそんな二人に不思議そうに首を傾げた。
「玄治はかえでを姉である彼女と間違えたりなんてしなかったわよ?」
「そりゃそうさ、俺にとってあやめさんは・・・ 母であり姉であり、尊敬する先生の恋人だったんだ。誰かと見間違えたりするわけがない」
最も近しい女性であり、あらゆる意味で特別な人。
それが玄治にとっての藤枝あやめだが、大神にとって藤枝あやめとはどこか遠く、憧れや崇拝、それこそ女神に抱くような思いを抱いてしまった女性だった。
通信機器を終了させたにもかかわらず、玄治はそのまま神崎邸付近の情報を集める。
「貴水さん? 翔鯨丸を発進させるんですか?」
「いや・・・ 華撃団と強固な繋がりがある神崎の一族がいる上に生身の花組達が集まったことを考えると、な」
様々なことが次々と起こっている現状、ラチェットもかすみも『考えすぎ』と玄治を止めることは出来ない。否、むしろ大いにあり得ると思っていい。
「それなら手薄になっている
「その場合は俺が撃って出る。
風組とラチェットはすぐさま轟雷号で花やしき支部へ向かい、赤チビに報告してくれ」
「わかったわ」
最善を優先し、一人の命を危険にさらす策だが、司令代行を請け負っている今、玄治に何を言っても譲らないことをラチェットとかすみは理解していた。
「俺とラチェットは劇場で待機し、風組は翔鯨丸で神崎邸上空にて待機。
光武・アイゼンクライトがいつでも出動できるようにしておいてくれ」
『了解』
二人のよく響く返事に玄治は頷き、かすみが駆けていく姿を見送ってから、指令室で多くの情報を持ち込んでくれる画面の前で腕を組む。
「杞憂で終わるといいんだがな・・・」
大神達が神崎邸の扉をぶち破り、警備員だが執事なのかいまいちわからない人々を蹴散らし、人に包帯を巻くのが下手という不器用っぷりをカンナが発揮された。
見合い会場に乱入を果たした二人は無事お見合いをぶっ壊し、かえでの後押しもあってすみれを奪還。そして、玄治の杞憂が杞憂で終わらず、土蜘蛛との戦いへと突入していった。
『玄治、今いいか?』
「どうしたんだ? 大神」
『神崎忠義さんに『貴水博士じゃないのかね!?』って言われたんだけど・・・』
「知らね。てか、スポンサーの問題に口だせねぇし俺」
『貴さん、その件については私からも一言いいたいのですけど?
お爺様が『彼を引き込む計画が・・・』とか言っていたのですけど、何かご存じありませんかしら?』
「知らね。技師としてしかそっちには関わってねーもん」
(どっちになっても損をしないとか本当根っからの商売人だよな、あの人)
二人の疑問にしらばっくれつつ、神崎老の商魂たくましさに呆れ果てる。
だが、結果として大神という逸材を見つけた辺り、神崎老に敗北の二字はない。
『いや、『君かぁ・・・』って溜息つかれたんだけど!?』
「いやー、そりゃカンナのことだろ。
いの一番に駆けてきたのが、同性の友人となったら溜息だってつきたくなるだろ」
『思いっ切り、俺に向かって言ってたんですけど!?』
「あのな大神、神崎老に認められてたら、その場で結婚だってあり得たんだぞ?
むしろがっかりされた方がお前のた『け、結婚・・・!? 少尉さんとなら・・・』
玄治のフォローになり切れない言葉にすみれの照れまじりの発言が割って入り、他からの悲鳴じみた交信が入り混じる。
『結婚!? どういうことですか!? 貴水さん!』
「いや、そういう可能性もあるってだけでだな」
『お兄ちゃん、すみれと結婚なんてしないよね? だってアイリスがいるもんね』
(そうなってたら・・・ 神崎邸、吹き飛んでたな)
あらゆる意味で乱れる交信を聞きながら、玄治を遠い目をして戦闘の中で光り続ける恐ろしい霊力達を見守る。
「霊力を吸収する結界装置でも作るか? いや駄目だな、悪用される。
それに安定しない霊力を吸収するなんて無茶過ぎる」
「玄治、そういう場合じゃないと思うけど・・・」
「あれはいつものことだし、今回の金は神崎重工から出させるし」
「名目はどうする気?」
「迷惑料」
きっぱりと言い切るところが実に清々しい。
そうして花組のカーテンコールを聞き、カンナがすみれを『最後の婚期』といじれば、すみれも負けじと『婚期のないカンナ』と罵倒を返す。
「婚期ねぇ・・・ 米田さんを筆頭に逃しきっているのばっかだろ、俺ら」
『聞こえてますからね!?』
気にしている女性陣からの声も玄治はあまり気にしない。
「ていうか、さくらとか大神とか名家だろ。許嫁とかいないのか?」
『うちの場合は姉が早く結婚したので、俺はまだそういうのは・・・』
『私も降魔の件でそういうのはあまり・・・ それに私には・・・』
ちらちらと大神を見るさくらが見えるが、当然大神は気づかない。
『こらこら、玄治くん。そういうことを女の子に言わないの』
「はぁ・・・ そういうもんですかね」
通信ごしのかえでからの叱責に、玄治はわずかに頭を掻く。
『そうだ、玄治。
かえでさんのことを知っていたなら、どうして教えてくれなかったんだ!?』
「話が来たのが、お前達が飛び出す直前だったからなぁ。
それにあやめさんの妹がいるなんてわかっていたとして、お前どうする気だよ?」
『それは・・・』
あやめをなくしたことに誰もがショックを受けたあの日、大神がもし知っていたなら彼女に謝罪することもあり得た。だが、謝罪などかえでは望んでいない。
「来るのだって花組に来るよりも神崎邸に行ってもらう方が速かったし、お前達を現場で支援する人物が必要だった。
副司令としての初仕事としても上々で、お前達との顔合わせにも最適だっただろ」
『そうだな・・・
花組はこれより帰還する』
「あぁ、帰ってこい。
とっておきの吉報がお前らを待ってるからな」
玄治の言葉通り、帰還した花組を待っていたのは、米田の意識が戻ったという吉報だった。
お父様への侮辱、許せません・・・!
さくらはんの言う通り! ウチも絶対に許せんわ!
ふ、二人とも落ち着いてくれ!
次回『陸軍元帥襲撃未遂!? マリア帰還』
太正桜に浪漫の嵐!
お前ら 人に散々言っといて飛び出しすぎだろ!?
それで私はどこに入ればいいかしら? 貴水司令