新宿において花組は無事鬼王から魔神器を取り戻し、華撃団の皆が花組の元に集まり、勝利を称える中で、さくらは一人その輪の中から外れていった。
米田が大神へ、皆へとその力を語る中で玄治は戻ってきた魔神器へと視線を向ける。
「魔神器、か・・・」
これによって奪われた側である玄治は米田のように忌み嫌うことはなく、ただ悲しみの記憶だけが思い起こされる。だが同時に魔神器を守るために戦い、人々を守り、平和に殉じた彼らの姿が脳裏に浮かび、どうしても『不要』と断ずることは出来なかった。
語られぬ歴史の中でどれほどの血が流れ、何人の真宮寺の者が平和に殉じたのかはもう誰も知ることはなく、その血を受けた魔神器だけが語り継がれ遺された。
(先生、あやめさん、一馬さん・・・)
愛する者のため、平和を守るため、力に身を捧げた一馬。
大きな力を前に悩み苦しみ、迷いの末に誰かを犠牲にしてまで仲間の平穏を得たかった山崎。
ただ一人を想い、残された平和を守り、別の力となることを願って未来へと託したあやめ。
その力の強さと犠牲を知るがゆえに、力に代わるものを作ることを選んだ米田。
そして、その答えは今、大神へと託された。
「玄治くん、大神くんはもう行ったわよ」
かえでの声によって顔をあげれば、米田とかえでの一押しを受けてさくらの元へと魔神器を手に駆けだす大神の後ろ姿が見える。
「ハハッ、あいつは本当にいつだってまっすぐだなぁ」
「えぇ、本当に」
二人は眩しそうに目を細め、さくらと話をする大神を見守る。
勿論、大神とさくらを見守るのは二人だけではない。花組も、風組も、米田も、ラチェットもこの場にいる全員が固唾を飲んで見守っている。
何も心配はしていない。『大神なら大丈夫だ』と誰もが確信しているからこそ、大神の決断を待っているのだ。
そして、大神がさくらを抱きしめた後、魔神器を地面へとたたきつけ破壊する。
その場にいた誰も、何も言わなかった。
大神がさくらの元へ行った時点でそうなることは予想出来ていたし、皆どこかで魔神器の破壊を望んでいた。
だが、破壊を実行することは誰にだって出来ることではなく、その覚悟と決意を持って実行できるのは隊長である大神だけだった。
見守っていた面々の沈黙を破ったのは、米田と玄治、かえでの笑い声。
「やってくれたぜ、あの野郎。
なぁ、玄治」
「えぇ、流石大神ですね。怖いもの知らず過ぎて笑えてくる!」
ひとしきり笑ってから、玄治は大神を指さしてラチェットへと視線をむけた。
「なぁラチェット、見たか?
あれが出来るから、あいつが花組隊長なんだよ」
「えぇ、嫌というほどわかったわ。本当に敵わないわね、彼には」
肩をすくめて手をあげて降参を示すラチェットに、皆もつられて笑い出す。
「確かに効率重視の私達には選べませーん」
「でもここは花組で、僕らの隊長は迷わない」
元星組の二人が口元に笑みをたたえれば、その隣にアイリス、紅蘭、すみれが並ぶ。
「だって、それがお兄ちゃんだもん!
いつだってアイリス達のことを見てて、一番に駆けだしてきてくれるカッコいいお兄ちゃん!」
「やから、ウチらも頑張れる。
大神はんがウチらを導いて、困った時は助けてくれるてわかっとる」
「そんなものは当然ですわ、少尉は私達花組にめろめろですもの。
まぁ、私達もそんな少尉だから協力したくなるのも事実なのですけど」
すみれの発言に肘を入れつつ、カンナとマリアも続く。
「オメーなぁ、もっと言い方ってもんがあるだろ。
けどよ、隊長の言う通り、あんなもんがなくたっていいくらいあたい達が守んなきゃなんねーんだ。気合い入れなおさねーとな」
「えぇ、そうね。
なら私達は全力で隊長を支えて、いつも通り皆でやるべきことをやりましょう」
そういって花組の面々は大神とさくらの元へ駆け出していく。
誰一人として魔神器を壊したというのに不安を微塵も感じさせることなく、共に支え、守っていくことを選べるのは大神がこれまで花組をまとめてきた結果なのだろう。
(だからお前が隊長なんだよ、大神)
平和を守ることに一切の迷いがなく、正義という信念を曲げることなどありはしない。
だというのに、誰一人犠牲にしないなどという傲慢で強欲な願いすらも抱いて、前に進むことを躊躇わない。
(魔神器を破壊した、か。
こりゃ、
『魔神器を破壊した』など、上層部の人間が聞いたらどうなるだろうか?
ある者は泡を吹いて倒れ、その独断を多くの者が責めることは想像が容易だ。
(けどお前は、仲間一人のために壊せるんだよな)
『守るべきものは自分達の力で守る』
綺麗事で理想論。だが、口にした以上大神は必ず実現させる。
(あぁ本当に・・・ 敵わないなぁ、お前達には)
玄治には絶対に選べない、成せないことを成す大神が眩しく、大神の選択を責めるでもなく共に支えることを迷わぬ花組が誇らしい。
「玄治、あなたは行かなくていいのかしら?」
「あぁ、俺にはすぐにやらなきゃいけないことがあるからな」
「貴水さん、月組から情報が入りました」
玄治がそう言ったタイミングでかすみから報告が入り、腕を振ってこたえる。
「花組は大神とマリアに任せりゃいい、情報収集には加山が走ってくれてる。なら情報解析やらのこまごまとしたことは俺の役目だ」
「それなら私は、そんなあなたの補助に入るわ」
「ハハッ、ラチェットは鳥組の副隊長にでもなる気か?
漢字は違うが俺は鷹、ラチェットは鷲。鳥組にはぴったりだな」
玄治の横に並びながらラチェットはその発言に一瞬驚くが、すぐに嬉しそうに笑う。
「その言葉、本気にするわよ?」
「したっていいさ。どのみち俺一人じゃもう手が回らなくなってることは実証されたし、いい加減俺一人で『隊長』やら『部隊』を名乗るのも痛々しいだろ?」
隊員の留守や米田の不在が重なったこともあるが、玄治一人ではとてもじゃないが対処しきれないことが多々あった。学園からも徐々に人を集めているが、まだまだ最前線をかけるだけの実力には足りていない。
「あなたが望んでくれるなら、私は星でなくあなたの隣を飛ぶ鷲になるわ」
ラチェットの心強い言葉に玄治は笑って、翔鯨丸へと向かった。
加山からの情報から敵は赤坂地下の大規模な洞穴の最深部にいることがわかり、今は赤坂上空にて待機していた。
『裏側から相手の意表を突くか、それとも正面突破か。
どっちにする? 大神』
今現在は赤坂地下から戻り、地上の混乱収拾へと駆け回っている筈の加山からの通信に大神が腕を組んでいれば、玄治が意見を述べるように手をあげた。
「大神、俺とラチェットが正面から突っ込んでもいいか」
その発言を聞いた花組全員が怒鳴る体勢に入ろうとしたが、玄治は両手で制しつつ『最後まで聞け』と示す。
「マリア、紐育で花小路伯が話した相手の中にサニーサイドという名の実業家がいただろ?」
「えぇ、いたわね。彼がどうかしたの?」
「俺があちこち回っていた時も何かと接触を図ろうとして来てな、話を聞けば将来的に紐育にも華撃団を置きたいと希望してきた。こちらはまだ検討の段階だが・・・ その一環として今回、俺に貸しを作るためにラチェットのアイゼンクライトを正規の手続きを踏んだうえで渡してきた」
当然、サニーサイド個人としても玄治に貸しを作る目的もあるのだろうが、アメリカという国自体が高度な技術を所持している日本に対して貸しを作る狙いがある。、
そして、彼の狙いである将来的に紐育にも華撃団を創ることにも異論はない。一個人から来ることは想定していなかったが既に巴里華撃団の着想がある以上、真価を理解している他国から要請が来ることは予想済みだ。
「玄治、私も初耳なのだけど?」
「悪いが伏せていた。
「話はわかったけど、玄治はどうする?
まさか生身で出撃するなんて言わないよな?」
「俺とラチェットで正面から突っ込む・・・ とは言ったが、俺達はあくまでお前達の補助として、陽動として動くつもりだ。派手に動き敵のほとんどを正面に回すだけなら俺が神威を動かせる二時間だけでもどうとでもなるし、道が入り組んだ裏からは不可能な翔鯨丸からの援護も受けられる」
「裏から攻めるという意表だけでなく、同時に攻めるという意表もつけるってことか」
「玄治、それなら花組を二手に割った方がいいわ」
「それは駄目だ。
確実にあちらを潰すなら主戦力である花組が二手に分かれ、内部の構造も明らかになっていない敵の本陣での合流は避けたい。
それに言っただろ、これはあくまで補助だ。
敵の正面部隊を殲滅できるとは思っていないし、お前達が深部に到達した時点で目的達成として俺達は撤退する」
玄治の意見におかしなところはなく、花組の視線は大神へと集まった。
「・・・わかった。
ただし陽動だけだ、絶対に無茶はしないと約束してくれ」
「おいおい大神、翔鯨丸には米田さんもかえでさんもいるし風組もいる。その上ラチェットまでいるんだぞ・・・ こんだけ見張りの目がありゃ無茶したくても出来ねーよ」
玄治が大袈裟に肩をすくめてみせれば、それまで黙っていた米田がニヤリと笑う。
「ったりめーだ、この野郎。
大神、この馬鹿は俺達がしっかり見張っててやるから何の心配もいらねーよ。しっかりやってこい」
「はいっ!」
米田に勢いよく返事をした大神は花組全員へと体を向け、その場にいる全員の顔を見渡した。
「皆、あえて特別に言うことは何もない」
皆の覚悟などとうに決まっている。
前へと進む花組を後ろから支えてくれる月も風も鳥もいて、その三つの中央には米田もかえでもいる。後ろには何の不安もない。
「俺は皆の力を信じてる、皆も自分の力を信じて戦ってくれ!」
『おー!』
「それで玄治、私とあなたはお互い霊子甲冑で背中合わせになるのは初めてだっていうことはわかっていて?」
言葉の割には責める様子は見られず、むしろ楽しそうにすら聞こえてくるラチェットの声に玄治は笑う。
「俺だって神威に乗るのは前回の戦い以来だから二年ぶりぐらいだ。
あんときは八割がた花組に何とかしてもらえたからすぐ終わったしな」
サタンと戦った最終決戦において神威に搭乗して花組と共に戦って以降使われず、しかし自らの師が最期に手掛けた作品を子弟が手入れを怠るわけがなかった。
「あら、意外ね。
あなたのことだから、花組といつでも出陣できるように改良するかと思ったのだけど」
「そんな暇を与えられなかった・・・」
大神が海軍遠征に行ったのと同時に日本を始め世界にお披露目された貴水玄治の日々は多忙を極め、天武の機構についてはキネマトロンを通して紅蘭と議論しあったが、『ウチが知り尽くしてる光武はともかくお師匠はんの作った神威を手入れ以上は玄兄無しで一人でいじくるとかマジ無理』と断られた。
「オイオイオイ! テメェら、俺様を前にして随分余裕かましてくれんじゃねぇか!」
そんな暢気な会話を敵である五行衆が一人 金剛の前でしているのだから、相手の神経を逆なですることを慣れている。
「あぁ悪い、忘れてた」
「玄治、違うでしょう? 忘れていたんじゃなくて眼中になかったのよ」
「んだとコラァ!
大体テメェら俺の攻撃を避けてばっかりでちっとも真面目に戦おうとしてねぇじゃねぇか。お前ら、やる気あんのか!?」
「ねーよ、バーカ」
「あぁ!? 今テメェなんつった!」
怒りを露わにして吠える金剛に玄治は冷めた目を向けつつ、渋々刀を抜く。
「だから、俺はお前に真剣に向き合う気も、真面目に戦ってやる気もないって言ったんだよ」
ラチェットが中距離から黄童子を数体片づけつつ、玄治は金剛と向かい合っていた。
「なんだと?」
不可解そうに玄治の言葉に動きを止めた金剛に、玄治は適当に刀を振るいつつ接近する。当然さしたる威力もない一撃を金剛はたやすく止めるが、いまだ玄治の言葉に困惑しているのか強力な一撃を入れようとする動きはない。
「俺が見ている限り、他の五行衆には人間への憎しみや狂気、京極への忠誠が見られるのに対して、お前はそれがあまりにもなさすぎる」
木喰や土蜘蛛のように異質な見た目も見られず、火車のように狂っているようにも思えない。かといって水狐のように人間に対する憎悪や京極に対する恋慕、鬼王のような忠誠も強いようには感じられない。
「かといって、お前の言動からは何か他の目的があるようにも思えなかった」
木喰のような探求心もなければ、火車のような燃やしたいという性癖・衝動も見られず、土蜘蛛のように無差別に人間を襲うこともなければ、水狐のように京極に必要とされたいと望んでいるようには思えない。
もし仮に彼の目的をこじつけるとしたら大神との戦いを楽しむところから、『強者との戦いを望む』程度のものなのだ。
「なぁ金剛、お前はどうして戦ってるんだ?」
「さっきからゴチャゴチャゴチャゴチャうるせぇな! テメェは!」
玄治の刀を振り切って拳を突き出してくるが、その一撃は鞘で防いで後ろへ下がる。
「戦いに理由なんざいらねぇんだよ! ここに俺がいて、向かい合ったお前がいる!
なら、どっちかが死ぬまで戦うだけだろうが!」
「ハッ、そうかよ」
金剛の答えに、玄治は一切の感情をこめずに鼻で嗤った。
(人間らしいと思っていたお前が、一番ただの傀儡だったんだな)
木喰や水狐と共に協力して戦ったり、通信において水狐に恋慕するような人間らしい一面すら金剛には見られた。
だが彼は嘆きこそしても水狐を連れて逃げようとも、彼女の危機に現れることもなく、こうして
『愛も! 絶対も! この世にそんなものある筈がない!
あの方すら私を捨てた! 私を愛してくれる者なんてどこにもいない!』
不意に水狐の言葉が脳裏をかすめ、理解する。
(あぁサキ、お前はきっとわかってたんだな)
己のことを好いているような言動に中身はなく、ただ戦いだけを求めている金剛の本性に。だからこそ京極だけは本心から己を必要としていると、愛していると信じていたかった。
「金剛、お前は俺がここで仕留める。
ラチェット、後ろは任せた」
「えぇ、喜んで」
時間稼ぎから金剛の撃破へと目的を変えた玄治をラチェットが咎めることはなく、いつものように彼の隣でナイフを構える。
「おうおうおうおう! やっとやる気になったじゃねぇか、そうこなくっちゃなぁ! 貴水玄治よぉ!!」
「やる気になったとは違う」
そういった瞬間、金剛の機体・大日剣の腕の一本を斬り落とす。
傀儡である金剛に向けてやる感情はなく、与えられた戦場を嬉々として駆け回る獣を哀れと思うことすら馬鹿らしい。そして、そんな獣が野放しになって害をなすのも迷惑極まりない。
「俺はただ花組の、華撃団の敵であるお前を、一切の感情なく片づけることを決めただけだ」
時間稼ぎには十分すぎるほどの時間が経過し、玄治はいまだ冷めた目のまま金剛と向き合っていた。
「貴水、テメェ・・・ どうして大神のように熱くなりやがらねぇ?!
あいつのようにどうして俺と真剣に戦わねぇ!」
「ラチェット、神威の稼働時間がそろそろ迫ってきてる。
俺が合図したら一度後方に下がってくれ」
「わかったわ」
金剛を無視しつつ、ラチェットに指示を送った瞬間、突然の揺れに動きが止まる。
『貴水さん、ラチェットさん、赤坂最深部から崩落が始まりました。
花組も地下からこちらに撤退しているとのことです』
「状況は把握した、けどこっちももうじき終わる。
崩落に注意しつつ、終わり次第翔鯨丸に帰還する」
かすみからの通信により状況を理解しつつも、玄治はさして気にする様子もなく戦闘を続行しようとする。
「玄治、あなたの機体の稼働時間と地面の崩落を考えればこれ以上の戦闘続行は危険すぎるわ。かすみの言う通り、撤退すべきよ」
「だが・・・」
「テメェ、最後まで俺と向き合わねぇ上に逃げる気か! 貴水!」
怒り続ける金剛が前に進もうとすると地面が崩れ去り、金剛は崩落に巻き込まれていく。
「なっ!? 貴水玄治、俺はお前に負けてねぇ! 俺はまだお前に勝ってねぇ! 俺は認めねぇ! こんな戦いは認めねぇからな! クソがあぁぁぁ!」
地下へと姿を消してゆく金剛の声を聞きながら、玄治は眉一つ動かさずかすみとの通信を再開する。
「敵機は崩落に巻き込まれ不明。
鳥組はこれより翔鯨丸に帰還し、花組・風組と合流する」
『了解しました。
お疲れ様です、貴水さん、ラチェットさん』
神威とアイゼンクライトの回収へと動き出したかすみとの通信を切り、二人が翔鯨丸へと向かう中でラチェットは玄治へと通信を繋げる。
「今回の戦いは随分と乗り気じゃなかったわね、玄治」
「おいおい、俺を戦闘狂みたいに言ってくれるな」
「はぐらかさないで頂戴、玄治。私がそう言う意味で言っているんじゃないと、理解しているでしょう?」
笑いながら適当なことを言って誤魔化そうとした玄治をラチェットが通信越しに見つめれば、玄治は『敵わないな』と言わんばかりに苦笑する。
「向き合うことを望むあいつには、向き合わず相手にしないことが一番の意趣返しになると思ったんだよ」
「そんな子どもっぽい言い訳を、私が信じると思って?」
『これも嘘じゃないだけどな』と玄治は言いつつも、頭を掻く。
「ラチェット、人には意思があるもんだろ?」
「? えぇ」
「他の五行衆には目的やなんらかの執念、あの降魔にすら本能や衝動があったってのに、金剛にはそれが見られなかった。口先では戦いや強い奴と向かい合うことを望んでいるが、そんなものは遊戯版の上の駒と同じで『向かい合ったから戦った』だけだ。
だから俺も、ただの駒としてあいつを扱ったのさ」
「その割には彼との戦いでは最後まで不機嫌そうに見えたけれど?」
『駒として扱った』という割には今まさに不機嫌な顔を隠しもしない玄治に、ラチェットはおもわず問うてしまう。
「今回の件は、軍による政府へのクーデターでしかない。
京極が手段として利用としたものの中に魔神器が加わったことによって大掛かりにはなって花組も駆り出されたし、軍における俺達の後見人が米田さんだったから巻き込まれたが、本来であれば軍内部で対処しなければならないことだった」
端的に事実を語る玄治の眉間に皺が寄り、ピキピキと震えだす。
「だというのに、今回俺達が被った被害は多岐に渡り、秘密部隊がゆえに国からは勿論軍からも正式な謝罪がくることはない」
軍からの内部監査に見せかけた水狐によるスパイ活動、米田襲撃による責任者の不在、財界からの突然の援助打ち切り等々・・・ その被害は片手で足りず、精神的被害を換算するともう目も当てられない。
「だからあなた、劇場から出なかったのね」
「多忙が極まり出れなかったし、学園以外への許可が下りなかったってのが正確だがな」
対降魔部隊の件から既に良い印象のない軍部によって引き起こされたこの戦いは、玄治からすれば迷惑以外の何物でもない。
「まぁ、いいさ。
さくらも死なず、大神達も無事に帰ってきたし、帝都も騒ぎこそあれどこれまでに比べれば被害は軽い」
眉間の皺を取り払うように息を吐き、無理にでも気分を変えたのがよくわかる。
故にラチェットは少しの意地悪と優しさを添えて、彼に現実を突きつける。
「えぇ、本来の任務だった陽動作戦を勝手に『金剛を撃破』に切り替えて稼働時間ギリギリまで戦闘を行ったあなたを花組が待っているわね」
「それを言ってくれるな・・・」
神威から降りてげんなりとした気持ちのまま扉をくぐれば、そこにあるのは勝利に喜び、笑い、はしゃぐ仲間達の姿だった。
「ドットーレとラチェットのご帰還でーす」
「玄治、ラチェット、無事でよかった!」
「おう。お前達もな、大神」
互いの無事を喜び、笑い合う隊長二人に米田がニヤリと笑って玄治に声をかけた。
「おい、玄治。さっきからオメーのことを、首を長ーくして待ってる奴らがいるぞ?」
「あー・・・」
錆びついたブリキの玩具のようにぎこちなく振り向けば、腕を組んで玄治を待ち受けていたマリアとかすみ、レニの三名であった。
「貴水さん、お待ちしてました」
「玄治、言い訳があるなら聞くわよ?」
「ハカセもだけど、傍にいながら止めなかったラチェットも同罪だ」
今から説教をしますと言わんばかりに構えてるマリアには勿論、笑顔のまま微動だにしないかすみが恐怖をあおり、こちらに言い訳する暇を与えず正論を突き付けてくるだろうレニに玄治はじりじりと後退する。
だが、後退する玄治を逃がさないように両肩に手が置かれた。
「玄さん、諦めろ。ありゃ玄さんがわりぃ」
「せやで、玄兄。
作戦切り替えたとこまでは許しても、稼働時間ギリギリまで神威動かしたんはアウトや。体、むち打ち状態やろ? それに稼働前に霊力使ってたやろ? 体、しんどいちゃうん?」
「ぐっ・・・ けど、俺は体を鍛えてるからお前が経験したほどじゃないぞ。
霊力はその通りだがそれも少しだるいくらいで・・・」
稼働時間が超えたらどうなるかは実験の一環として身をもって知っている紅蘭が言えば、玄治は言い訳をしつつも否定しないことで暗に事実だと告げる。
「玄治、そこに座りなさい」
「ラチェットさんもこちらにどうぞ」
玄治達を説教席へと促す二人の姿にかえでが手を打ち、注目を集める。
「こらこら、そこ。玄治くんのお説教はあとにして、今は皆の無事と勝利を喜びましょう。
ね? 隊長さん達」
かえでの言葉によって二人は解放され、そこには本来なら地上にて駆け回っている筈の加山も合流していた。
「加山! お前も無事だったのか!」
「あったり前だろ、大神ぃ!
何せ俺はお前達二人の親友で、隠密も、仕事も出来る凄い奴だからな」
「調子に乗るな、白スーツの変質者」
加山との再会を喜ぶ大神に、八つ当たり気味に加山を殴る玄治は誰が見ても仲の良い友人同士である。否、悪友かもしれない。
「ねぇ大神さん、皆さんが集まっていることですし、いつものあれやりましょう」
「あら、さくらさんにしてはいいこと言いますわね」
「すみれってば一言多いー。あれやらないと終わった気がしないもんね」
「そんじゃ大神はん、いっちょばっちり決めたってや!」
皆の後押しに大神がよしっと力を込めて叫ぶ。
「勝利のポーズ!」
『決めっ!』
花組は勿論のこと風組、薔薇組、月組、鳥組、帝国華撃団全員が揃った初めての写真は、とても素晴らしい笑顔と喜びに満ち溢れていた。
皆 本当にそれでいいのね?
はい かえでさん これは花組全員の希望です
大神さんならきっとふさわしい人を選んでくれると信じてますから
本来ならこの帝劇のトップスタァであるわ・た・く・しがふさわしいのですけど 少尉の選択に間違いはありませんもの
次回 『クリスマス公演 準備』
太正桜に浪漫の嵐!
玄治 作ってほしいものがあるんだ
作るのはかまわんが大神 お前 正気か?