サクラ大戦 貴水玄治物語   作:無月

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③李 紅蘭 着任

太正十二年 皐月

 

「貴水さん、食事中ごめんなさい。

 紅蘭さんが今日の午前中にこちらにいらっしゃるそうです」

 

 帝劇の朝の片付けを終え、遅めの食事をとっていた玄治はかすみからの情報に頷いた。

 

「わかった。

 昼と夜の食事は一人前追加だな」

 

(赤チビ対策に、本気で小型の通信機器開発を進めないとな・・・)

 そして、何気なく表を見ると何やら不穏な音が近づいてくる。

(やな予感がする・・・)

 

「ちょっと表出てくる!」

 

「大変ですね、貴水さん」

 

 大慌てで入口の方へ向かい、売店付近に大神とアイリスを見かける。

 

「もぎりさんはアイリスをかばっていてくれ!」

 

「っ! 敵襲ですか!!」

 

「あっ、おじちゃんだー」

 

 状況がわからずともすぐさま言われた通りにアイリスを傍に抱き寄せる大神に、玄治は時間を惜しんで扉を蹴り開ける。

 

「敵じゃないが、なんか爆発する!」

 

「なんか?!」

 

「あ、紅蘭来るんだ」

 

「爆発で!?」

 

 二人のやり取りを背中に訊いて、玄治は懐からいくつかの工具を取り出す。

 

「コックコートの中に!?」

 

「おじちゃんの前だと、お兄ちゃんって驚いてばっかりだね」

 

 玄治は玄治でもはや後ろを気にしている様子はなく、迫りくる二輪の何かを待ち受けた。

(あの馬鹿、自転車にエンジン積みやがったな・・・!)

 後の二輪バイクをよくよく観察しながら、エンジン部位に意識を集中する。

 

「兄やーん、どうや! ウチの新しく開発した蒸気バイク!!

 車よりもスピーディやで~!」

 

 乗ってる本人はいたって上機嫌である。

 

「けど、エンジンがちょっとアレんなってるんで止めてやぁ~」

 

「あれって?!」

 

 大神の驚きなんてもうどうでもいい。

(構造を見る限り、車のエンジンの小型版・・・ いや、飛行機の方が近いか? ていうかそれよりも!)

 

「二輪なんて安定性のないものを作るなぁーーー!」

 

「そこですか!? 貴水さん!」

 

 すると彼は突っ込んでくる蒸気バイクに自ら歩を進め、紅蘭ごと二輪バイクを蹴り上げ、エンジン部位に工具を走らせる。

 そして次の瞬間、蒸気バイクはばらばらの鉄くずへと変わった。

 落ちてくるエンジン部位は右掌で受け止め、次に落ちてくる紅蘭へと左腕で容赦なくラリアットをかます。

 

「そこや、ないやろ・・・」

 

 紅蘭は息も絶え絶えの状態で親指を立てる。

 

「けど、ナイスツッコミ。

 流石ウチの兄ちゃん」

 

「紅蘭ってば、役者なのに芸人気質だね」

 

 子どもらしい満面の笑みで容赦ないアイリス。

 

「ってあっちぃ!」

 

 玄治は玄治で、右手で受け止めたエンジンの熱さに驚き、宙へ何度か放り続ける。

 

「さて、このがらくた片づけるか」

 

「手伝います」

 

「ねー、おじちゃん」

 

「んー?」

 

「紅蘭も片づけるの?」

 

「そうだなー、こいつもこれと一緒にそこらにまとめとくか」

 

「ば、売店の椿ちゃんに任せましょうよ」

 

「ちっ、しょうがねーなー

 ついでに椿から風呂敷でも借りてくるか」

 

 紅蘭があやうくガラクタ扱いされかかったところを大神が止め、玄治も渋々椿の元へ置いてくる。

 

「凄い・・・ あんな一瞬で解体したのに、パーツがほとんど傷ついてない」

 

「おじちゃんいてよかったねー。

 じゃなかったら、帝劇の前で爆発してたもん」

 

「あぁ、だからか」

 

 アイリスとのやり取りで大神が納得しつつ、当の玄治が戻ってくる。

 

「発想悪くねーけど、安定性と安全性がない。しかも普段着で乗るとか馬鹿だろ。こけたりしたらどうすんだ。

 道路を走るとなると法律も変えなきゃならんし、帝鉄との安全性も絡んでくるぞ・・・」

 

「まだ道路も整備されたばかりで、車についての法律もようやくできましたしね」

 

 ぶつぶつと玄治が問題点を言っていると大神が強く頷く。

 

「赤チビめ・・・ こんな問題ばっかあるもん作りやがって・・・!」

 

「赤チビ?」

 

「紅蘭、ちっちゃいもんね」

 

 一通りパーツをまとめ、玄治が袋に詰めて立ち上がれば、タイミングを計ったように紅蘭が飛び出してくる。

 

玄兄(げんにい)ー、出てきたんやな!

 モグラやミミズやって、もう少しおひさま浴びるでホンマ!!」

 

「大丈夫だ、蝉には負ける」

 

「玄兄、出て来たら死ぬん!?」

 

 紅蘭とじゃれ合いながら、三十センチも離れた頭を掻き撫でる。

 

「相変わらず、チビだな」

 

「玄兄がでかいんや! ホンマ、日本人か!」

 

「多分・・・?」

 

「なんで疑問やねん!」

 

「まっ、あんま漫才やってても仕方ねーから。

 ほれ、こっちの奴が新しいもぎりさんな」

 

 後ろ手で指さし、大神がしょんぼりと肩を落とす。

 

「はい、もぎりの大神です・・・」

 

「ほっほう、こん人が玄兄を差し置いてアレになったっちゅう面白体質の・・・」

 

 紅蘭のメガネのふちは妖しく光り、その奥の瞳はおもちゃを見つけた子どものように純粋に輝きだす。

 

「ほれっ、早く中入るぞ。

 米田さんも待ってる」

 

 通り過ぎざまに紅蘭の首を掴んで猫掴みする玄治に紅蘭は何も言わず、大神は驚きを隠せない。

 

「紅蘭、猫みたーい」

 

「お米様担ぎやないだけ、多少マシや」

 

「そっちでもいいぞ」

 

「荷物扱いは勘弁!」

 

 紅蘭はそのままの状態で支配人室に連れていこうとして、玄治が思い出したように大神に振り返る。

 

「そういえばもぎりさん、お前は午後から伝票整理だぞ」

 

「えっ!?」

 

「かすみさんと由里が半日上がりだから、お前しか出来る奴がいないんだと」

 

「貴水さんは出来ないんですか?」

 

「夕飯の仕込みがあってな」

 

「えっ、玄兄が作るんやったら、本格マーボ食べたい!!」

 

 手元の紅蘭から上がったリクエストに、玄治は冷蔵庫の中身を思い浮かべる。

 

「山椒あったかな・・・ まっ、なければ日本風だな。

 辛くないのも用意するか、苦手な奴もいるかもだし」

 

「えっ、リクエストいいの!?

 じゃぁアイリス、カレーがいい!」

 

「カレーならもぎりさんが得意なんじゃねーの? 元海軍なんだし」

 

「そうなの? お兄ちゃん、カレー作れるの? すっごーい!」

 

 アイリスのキラキラとした目を向けられて、大神は少し照れる。

 

「海軍は週に一度必ずカレーだからね。

 あと貴水さん、自分は今でも現役の海軍です」

 

「あ? そうだったっけか?

 んじゃ、次の休日にでも夕飯任すかー」

 

 そんなことを言い合いながら支配人室へと向かい、紅蘭を部屋へと案内したのち、午後の時間へと進んでいった。

 

 

 

 

 

 玄治は昼食・おやつ・夕食の表の仕事を無事に終わらせ、自分の住処である地下格納庫へと戻っていた。

 

「はぁ~、落ち着く・・・」

 

 魔法瓶に入れたほうじ茶で一息つきつつ、ようやく許可の下りた脇侍の解析を進めようと準備を始める。

 紅蘭が夜に光武の方に来るのは予想済みだが、玄治は紅蘭ほど愛情云々を持ちえず、作り手としての愛着はあるが甲冑はあくまで甲冑という認識である。

 

「やっとこっちの解析ができるな・・・」

 

 幸いなことに一度軍部に運ばれた脇侍はなにもされた様子はなく、生物らしい痕跡も見られない。解体し、分析し、詳細な結果を得ることは可能だろう。

 

「玄兄、おるー?」

 

「おー、いねーわ」

 

「何や留守か・・・ って、おるやないかい!」

 

 扉を一度開けて閉めてもう一度開けてツッコミを入れる紅蘭を相手にせず、玄治は取り掛かれる場所から慎重に解体していく。

 

「なんやぁ、許可おりたんか」

 

「おりたおりた、遅かったぐらいだ」

 

 当然のように玄治の隣に並びながら作業の様子を見て、紅蘭は仕事の内容を察する。

 

「だから俺、明日一日厨房の仕事は休みになってるしな。

 米田さんからも許可下りたし、一日ぐらいは作業に没頭しろとさ」

 

「まっ、そうなるやろうなぁ。

 玄兄しか出来へんやろうし、ウチもやりたいけど上の仕事があるし」

 

 腕を組んでその様子を見つめつつ、玄治は玄治で気にもしない。

 

「とちんないように気をつけろよー。

 一馬さんの娘はドジらしいが」

 

「とちらんわい、ウチかて帝劇古参の役者やで?

 てか『一馬さんの娘』て・・・ さくらはんの名前呼んだりや。

 玄兄にとって特別な人わこてるけど、さくらはんはさくらはんなんやから」

 

「あー・・・ すまん、当分無理だ。

 出会い頭に斬りかかられたし」

 

「ほー、そら強烈な出会いやな・・・って、なんでやねん! 玄兄、一体何したんや?!」

 

 それには答えず、ゴーグルを一度押し上げる。

 

「あぁそうだ。聞いたぞ、お前。

 昨日の時点で着任するのが今日だってわかってたらしいな。あと、なんで轟雷号で来なかった? あんなもんで地上から来る必要性なかっただろ」

 

「あちゃ、バレてもうたかー。

 いやー、玄兄が表に出てるとは聞いとったから試運転も兼ねたサプライズしようとおもてなぁ」

 

「表に出たら妹分の爆発のサプライズとか、超いらねぇ」

 

 紅蘭の頭を片手で握りしめつつ、グラグラと揺らす。

 

「せっかく出来たんやから、玄兄に一番に見せたかったんよー」

 

「ならせめて安全性の高いものにしろ。

 チャイナドレスであんなもん運転してくんな」

 

「玄兄は安全性重視しすぎやねん・・・」

 

「るせぇ、安全であるに越したことねーだろうが。

 ったく・・・ あれ、実用化したいなら設計図とかあげとけ。道路の法律にだってかかわってくんだからな」

 

「へーい」

 

 兄妹のようなじゃれ合いをしつつ、光武を見てくるという紅蘭を見送った。

 

「さて・・・ やるか」

 

 

 

 

 

 脇侍の解析をし続けるという一日を終えた翌々日、玄治は厨房にて遅めの朝食をとっていた。

 

「はー・・・ コーヒーうまい・・・」

 

「お疲れ様です、貴水さん」

 

「あー・・・ あっ、かすみさん。

 俺の私服、用意してもらっちゃって悪かったな」

 

 たまたま遅れてやってきたかすみと朝食を一緒にとりつつ、一昨日の件でお礼を伝える。

 

「いえいえ、好きでやっていることですから。

 サイズは大丈夫でしたか?」

 

「大丈夫。

 本当に悪いな、俺のサイズになると特注しかないっていうのに」

 

 今時の流行は勿論、衣服のお洒落がわからない玄治にかわり、かすみが好意で衣服を用意してくれたのだ。

 

「なら今度、その服で一緒に出掛けませんか」

 

「それでお礼になるんなら」

 

「では、詳しい日付はあとで決めましょうか」

 

 和やかな朝食を過ごしていると、再び警告音が鳴り響く。それと同時に二人は走り出した。

 

 

 

 

「場所は芝公園。

 帝都タワーが壊されたら、俺一週間は徹夜だな・・・」

 

 作戦の詳細を自室で聞きつつ、壊された時を考えげんなりとする。

(でも、妙だな・・・)

 電波発信の中継地点である帝都タワー。

 それは確かに壊されてしまえば帝都の生活は狂い、かなりの損害をくらうことになる。

 だが、それも復興が不可能というわけでもなければ、通信の手段が完全に途絶えるというわけではない。

(なら、なんでそこなんだ?)

 疑問を浮かべても答えは出ず、玄治は出撃していく花組を見送る。

 そして、戦場となる芝公園の映像が映し出される。

(飛び道具を使うようになってきたか。

 脇侍だけじゃなく、他の装備まで用意もされてるな・・・)

 マリアの言葉を拾う限り、火箭は全て壊すつもりのようで回収は出来そうにないが、一体ぐらい飛び道具を使う脇侍を回収してもらいたいのが玄治の本音である。

 

『おい、玄治。

 今、暇か?』

 

「米田さん、任務中にそれはないと思います」

 

『いうのを忘れてたが、今回花やしき支部からくるのは紅蘭だけじゃねぇんだ』

 

「は?」

 

 戸惑う玄治をよそに映像にある女性が入ってくる。

 

『玄治くん、久しぶりね』

 

『今回、あやめくんも副司令として帝劇に戻ってくることになった。

 今後はあやめくんも劇場で仕事をすることになるから頼んだぞ』

 

「米田さん! そういう大事なことはもっと早くいってください!!

 紅蘭と同時って・・・ まさか二日前からいたんじゃないでしょうね?!」

 

『そのまさかだな』

 

 にやっと笑う米田に、玄治は軽く殺意を覚える。

 

「米田さん!」

 

 怒りにわなわなと腕を揺らし、行く当てのない怒りを耐える。

 

『玄治くん、変わってないみたいで安心したわ。

 またよろしくね』

 

「・・・はい、よろしくお願いします」

 

 憧れの人であり、どこか顔を合わせるのが辛い人を前にして、玄治はぎこちなく笑った。

 

 

 

 

 花組の戦闘はあやめの援護が入ったことにより無事勝利し、花組のメンバーが翔鯨丸に集う。

 そして、玄治はあやめにデレデレする大神を見て、遠い目をしていた。

(誰もが通る道、か・・・)

 かつての自分を見るようで目を逸らしたくなるような気持ちと、憧れの人にたかる虫を見るような目。そして同時に仕方ないと思う複雑な気持ちを抱え、結果として生ぬるい視線を大神へと向けてやる。

 

「あれだけさくら達に好意を向けられながら、あやめさんを見たらこうですか。

 男性とは仕方のない生き物ですね」

 

「あやめはんやからなぁ」

 

 マリアの発言をちゃらっと紅蘭が答えれば、マリアの厳しくなった目は玄治へと向けられる。

 

「え? 殺気?

 俺、なんかした?」

 

「いえ、何も」

 

 底冷えするような声で言われても、なんの安心感も得られない。

 

「これでカンナが揃ったら、全員集合だな」

 

 そんなことを暢気に言いながら、一同は帝劇へと帰っていった。

 




過去 それは今の私を縛る鎖
過去 それは俺が止まってしまえばいいと願った日々
けれど今 私の心を支えはあの人じゃない
でもそれは痛みが消えたと同義じゃない そうなんだろ? マリア
次回 『マリアの過去 桐島カンナ帰還』
太正桜に浪漫の嵐!
私は あの日の私を許せない
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