サクラ大戦 貴水玄治物語   作:無月

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⑰鬼王の正体

「しかし、偵察(逃避)で本当に敵を見つけるとは・・・ 加山の優秀さにも困ったもんだな」

 

「ハカセに同意する」

 

 愛刀を肩に担ぎながらマリアの天武の肩の上で隊服姿の玄治がそう呆れて呟けばレニが頷き、そんな二人にマリアは苦笑いを零す。

 

「そんなこと言わないの。

 かすみとラチェットが隊長達を連れてくるまでの間、私達が少しでも現状把握に先行できることはいいことだわ」

 

「まぁな。

 だが・・・ 向こうは俺達をお待ちかねだったようだな?」

 

 王子について早々玄治は天武の肩から飛び降りて愛刀を抜き、制服に備え付けられたお手製のベルトに鞘を差し込む。

 

「おうおうおうおう! 待ちくたびれたぜ! 貴水玄治!!」

 

「くっくっく、本当に来たんだねぇ。華撃団」

 

「貴水玄治! まずはお前と俺とで正々堂々と一騎打ちだぜ!!」

 

 霧の向こう側からわざわざ姿を現せて玄治達を嘲笑い、さらにはわざわざ高所から生身で降りてくる金剛に玄治は冷めた目を向ける。

 

「安心しな、誰にも邪魔なんかさせねぇ。

 お前の大事な女を人質にとるような卑怯な真似だってしねぇからよ」

 

 くだらない物言いを放って置き、三人は周囲を軽く見渡す。全域に広がる霧によって視界は悪く、何が出てくるかはわからない。王子だけが霧に包まれていることを考えれば妖力か霊力が原因なのは明白であり、同時に玄治はそこにある何かの気配に神経を尖らせていた。

 

「同じ武人同士、男と男の一騎打ち! 始めようじゃねぇか!!」

 

 そう言って玄治へと駆けてくる金剛にマリアとレニが構えるが玄治が手で制し、愛刀を鞘に納めた手でベルトに収められていたもう一つへと手を伸ばし、迷うことなくぶっ放す。

 

「なっ!? がっ・・・!」

 

 左足に走った痛みと驚きに金剛が崩れ、玄治はもう一度撃鉄をおこし、迷うことなく引き金に指をかけた。一発目同様に迷わずに放たれた銃弾は、今度は金剛の右肩を貫いていく。

 

「チッ、外れたな」

 

「貴水玄治、テメェ・・・!」

 

 二発目に完全に蹲り、玄治を睨むが当の玄治は気にする様子はない。それどころか振り返ってマリアの天武へと視線を向けた。

 

「マリア、これ改造しすぎだろ。重い上に口径デカすぎて反動でかなりずれるぞ」

 

「あなただから片手で撃っても、その程度のずれで済んでるのよ。

 霊力と筋力が足りない者が撃てば、反動だけで肩がおかしくなってるわ」

 

「僕に言ってくれれば反動も計算に入れたのに」

 

「大丈夫だ、だいぶ癖は掴んだからな。次は当てられる」

 

 ニヤリと笑う玄治に対して蹲る金剛、どちらが悪役かわかったものではない。

 

「貴水玄治! テメェ、飛び道具とは卑怯だぞ!

 

 男同士の一騎打ちでんなもん使って、恥ずかしくねぇのか!!」

 

「はぁ? お前、馬鹿だろ」

 

 玄治はそのまま一歩も動かず、出撃前にマリアから押し付けられたエンフィールドを

指で弄ぶ。

 

「一騎打ちやら決闘なんてものは、礼儀作法をきっちり守る武人同士がやることだろ?

 俺はお前が礼儀作法を守る相手だと思ってないし、生憎俺は大神と違って軍人でも、武士の家系でもないんでな。

 それに前言っただろう? 俺はお前に真剣に向き合う気も、真面目に戦ってやる気もないって」

 

「テメェ・・・! まだ俺と向き合わねぇ気か!!」

 

「戦うことしか見ておらず、誰とも向き合わないお前になんで俺が向き合わなきゃいけない?

 さぁ、これで終わりだ」

 

 そう言って三発目を撃ち放とうとすれば、崖の上にいた筈の鬼王が金剛の前に降り立った。

 

「無様だな、金剛」

 

「鬼王・・・!」

 

 当然、鬼王が立とうと関係なく撃てば、その弾丸は金剛のように相手の体を貫くことなく刀で両断される。

 

「あんた相手に銃は弾の無駄だな」

 

 さっきとは逆に銃をしまって刀を抜き、玄治はいつものように構えもせずに自然体を維持する。腕を下げ、ただ何も持たずに歩くのと変わらないそれは玄治の構えであり、流派を持たない玄治の攻撃態勢。

 もっとも玄治が刀を握っている時は大抵既に攻撃にも移っているので、早々構えることなどありはしないのだが。

 

「貴水玄治! テメェ、鬼王には刀を抜くっていうのか!!」

 

「いい加減にしな、金剛。

 あんたは今、あいつに負けて無様に地面を這いつくばってんだよ。とっとと退かないと華撃団ごとあんたも踏みつぶしちまうよ」

 

「くそが!」

 

 悪態とほぼ同時に機体に乗り込んでいく金剛にマリアとレニが構えれば、何かの射出音と共にいくつかの影が降り立った。

 

『帝国華撃団、参上!!』

 

 色のついた煙と声の揃った登場に三人が口元だけで笑って、同時に二色足りてないことにやや呆れる。

 

「ドットーレ、マリアさん、レニ、ただいまでーす」

 

「といっても、少尉とさくらさんは遅刻なのですけど」

 

「仕方ねーだろ、なんでか連絡とれねぇっつうんだから」

 

「すみれ、しつこーい」

 

「ちゅうわけで、先にウチらだけで来たんやけど・・・ なんや、ナイスタイミングやったみたいやな」

 

「皆・・・ えぇ、最高のタイミングだわ。

 玄治!」

 

 いつもと変わらない様子の仲間達を見て、マリアは鋭く玄治を呼ぶ。だが、鬼王と対峙している玄治は視線を向けずに叫ぶ。

 

「マリア、大神が来るまで花組の指揮(そっち)は任せた!」

 

「了解」

 

「全員揃ってない上に隊長不在? あんまあたしらを舐めてんじゃないよ!!

 出てきな! 降魔兵器共!!」

 

 背後に聞こえた土蜘蛛の言葉に玄治が振り返りかけるが、任せたと言った以上振り返るわけにもいかない。そして何よりも、目の前にいる相手は金剛のように油断をしていいような相手でもないのだ。

(なるほどな・・・ 陸軍が降魔を回収していたのはあれを作るため、か)

 以前の戦いから京極が動いていたのか、それとも陸軍が端から降魔を戦力として利用するつもりだったのかはわからない。だが、それでも玄治の想いは変わらない。

 

「・・・ふざけたことしやがって」

 

 どこまでも対降魔部隊を踏みにじり、花組を舐め腐った陸軍にも、あるいはそれを許可した国にも怒りは尽きない。

 

「ゆくぞ」

 

(律儀だな、敵同士だってのに)

 正眼に構えられた刀が迫り、愛刀で応えるように受け止める。それが試合の始まりかのように互いの言葉はなくなり、刀の応酬が止まることはなかった。

 容赦も、遠慮も、手加減もない刃の交差。一瞬でも気を緩めればどちらかの体の一部が飛び、血飛沫が舞う。敵同士でありながら、いずれも達人の域に達した者同士の戦いはどこか楽し気にすら映り、互いに纏う服や肌にわずかな切れ目がついても手は一切緩まない。

 

「むっ! ぐぅ・・・」

 

 だが、玄治は刀の応酬から突然腹部の蹴りを鬼王へと叩き込み、距離が出来る。しかし、鬼王も黙って受けることはなく、刀で腹部をかばうことでダメージを減らす。

 互いに肩で息をしながらも視線を逸らすこともなければ、刀の切っ先をおろすこともない。

 

「あんたは、金剛と違って卑怯とか言わないんだな?」

 

「これは試合などという高尚なものではなければ、刀で斬り合うことも勝利のための手段でしかない。貴様は持って生まれた体を存分に有効的に活用しているだけだ」

 

――― 君は君が持って生まれた才能をうまく活用しているだけだろう?

    でも、まだまだ未熟だ。もっと相手の不意を突いて、重く鋭い一撃じゃないとね。

 

 不意にかつてかけられた言葉が重なり、玄治は一度固く目を閉じて深く呼吸をする。

(油断するな、集中しろ。相手があの人なら尚更、俺が気を散らす余裕なんてない。俺が剣技であの人に敵うわけないんだ)

 

「型にはまらぬ剣技と戦いの最中相手を冷静に分析しようとする洞察力、体躯を存分に生かして格闘技を駆使する柔軟さ・・・ 我流で荒削りではあるが貴様は既に達人の境地へと達している。見事だ」

 

――― 我流で荒削りだけど、君はきっと僕よりもずっと強くなる。

    山崎くんの頭脳と我流の剣技に磨きがかかったら、僕じゃ君に敵わなくなっちゃうなぁ。

 

 思い出される過去が今の言葉が重なり、あの軍人らしからぬ柔らかな笑顔が浮かんで、玄治の顔が歪みだす。認めてほしかった人と重なる相手からの称賛に心が喜びと怒りに震え、実体のない傷が痛みを生じさせていく。

 その一瞬の隙を見逃されるわけがなく鬼王の刀は振るわれ、咄嗟に受け止め鍔迫り合いが始まる。

(あぁ、そうだ。わかっていた、薄々感づいていた。先生があの場に現れた時から予想は立っていたんだ)

 力で押し返して対等に向かい合っても仮面越しでは素顔どころか、鬼王の表情すらもわからない。

 けれど、もう確信していた。

 振るわれる剣技が、立ち姿が、声が、全てを彼だと告げていた。

 

 

 だからこそ、玄治は気づけなかった。この時には既に花組に大神とさくらが合流していたことを。

 

 

「破邪剣征」

 

 たった一度教わった技を振るうために構えられた型は最上段、鬼王やさくらよりも背のある玄治が掲げた刀ははるか遠く山脈が如し。

 

「桜花放心!」

 

 言葉と共に渾身の力で振るわれた刀からは淡い銀の光を纏った欠片が砕けて舞い踊り、あまりにも力強いその技を鬼王は受けることなく避けたが鬼の角の一本が落ちる。

 振るわれた一刀に全ての霊力を持っていかれたように、玄治は荒い呼吸ごと吐き出すように問いかける。

 

「あなたなんでしょう? 一馬さん」

 

 

「流石、貴水博士!

 やはりあなたの才は、そんな下らぬ者達の元に置いておくのは惜しい!」

 

 

 京極の登場により鬼王が玄治の元から離れていき、それによって狭まっていた玄治の視界も広がっていく。そこでようやく大神やさくらが到着していたことと土蜘蛛や金剛、降魔兵器達が引いていることに気づく。

 大神が京極を問い詰めながらも疲れ切った玄治の周りに花組が集まり、京極の口から維新が陽動であったこと、帝都をあるべき姿に戻すために封印を解除し、帝都の地下に眠る怨霊を解き放つのだと語られていく。

 

「どうです? 貴水博士。あなたならばわかる筈だ、この力の素晴らしさを!

 あなたはそんな下らない正義に振り回される側ではなく、私と共に支配する側であるべきだ!」

 

「黙れ・・・」

 

 いくら呼吸を整えようとしても先ほど技と共にごっそり放出された霊力が、玄治から気力と体力を奪っていた。

 

「降魔兵器をご覧になられたか? 素晴らしい出来だったでしょう? あなたの師が解き放った降魔を再利用且つあなたが引き継いだ技術を混ぜ合わせたあれは、実に良い手駒になってくれましたよ。

 山崎の研究の残骸も、あなたの完璧な技術も、私の計画の一部をしっかり担った」

 

「黙れよ、お前」

 

 いつもならば誘いだと理解できる筈だというのに的確に玄治の地雷を踏みぬく言葉の数々が玄治の怒りに火をつけ、疲労で麻痺した思考回路が理性を働かせず、怒りのままに動くことを望んでいる。

 

「今ここで対降魔部隊などという愚物達の行いが無駄であることが証明され、お前達華撃団が必死になって戦った降魔すら軍は利用するために残し、同等に戦うほどのものに作り上げることが出来た。

 感謝しよう、華撃団。お前達のおかげで我々は計画を練ることも、実行することも実に容易だった」

 

「黙れっつってんだろうが!」 「黙りなさい!」

 

 怒りに染まった玄治が駆け出すのと、さくらが天武のハッチを開けるのは同時だった。

 玄治はもう既に天武の機動では追いつけぬほどの速さで駆け抜け、そんな玄治に呆気にとられている間にさくらもまた飛び出していく。

 

「よせ、玄治! さくらくんも待つんだ!!」

 

「待ちなさい! 玄治!!」

 

 大神の声が遠く、マリアの焦った声が響く中で玄治とさくら以外に動いた者がもう一人いた。

 

「諸力諸来」

 

 妖力の集中に気づいて玄治が首だけを動かせば、その狙いは玄治でありながらも後ろにも向けられていた。京極にしか向けられていなかった意識が後方に向けられたことで、玄治はさくらの存在に気づいた。

 

「くそっ・・・! さくら!!」

 

 玄治の足が止まり、京極を殴ろうと握りしめていた拳がほどける。もはや玄治は無防備であり、怒りに染まったさくらも言うまでもない。そんな隙を見逃してくれる敵など、世界のどこにもいはしない。

 

「放魔星辰」

 

 無情にも放たれた妖力の一閃が玄治とさくらを襲う。

 玄治はさくらを技の範囲外へと突き飛ばし、鬼王の技のど真ん中へと体勢が崩れた状態で転がった。

 

「貴水さん!?」

 

「あの人に・・・ お前を傷つけさせるわけにはいかないんだよ」

 

 もはや残されていない霊力はいつものように守護する力も発揮せず、体勢ゆえにまとも踏ん張ることも出来ずに苦し紛れに刀で防ぐ。が、当然そんな玄治が鬼王の技は刀で受け止めきれる筈がなく、鮮血と共に吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。

 

「ちっ・・・」

 

「貴水さん、どうして・・・」

 

「さくら、まだ・・・ 油断するな」

 

 さくらが玄治の傍によって起こしながらも、話すのすら辛そうな玄治の警戒を露にする視線の先に気づいてさくらも警戒態勢をとる。

 

「京極慶吾・・・!」

 

 その様を見下ろしながら距離を詰める京極は睨むさくらを見ておらず、視線はまっすぐ玄治だけを見ていた。

 

「貴水博士、あなたの行動や思考は本当に理解に苦しむ。それほどの能力を持ちながら、何故華撃団如きに命をかける? 何故その能力をもって支配する側に回ろうとしない? どうしてその才能を浪費し続けることを選ぶ?

 今もまた反魂の術で蘇らせた人形からそんな小娘を守るために傷つき、みっともなく地面に転がっている姿はなんと痛ましいことか」

 

 京極の傍にはいつでも殺せるとばかりに鬼王が控え、ゆっくりと構える。両手に持った刀を体の前で刀身をわずかに鞘から覗かせるような独特な構え、それは真宮寺一馬を知る者であるなら鬼王が彼であることを示すには十分過ぎた。

 

「その構えはお父様の・・・!?」

 

「貴水博士、そこの小娘ごとあなたの命を奪うのは赤子の手をひねるよりも容易だ。

 ですが、あなたに最後に機会を与えましょう」

 

 京極はそれまで丁寧にしていた言葉や表情を取り払い、カッと目を開く。それは下士官に指示をする時の元帥のものであり、己が絶対の支配者であることを疑わぬ目だった。

 

「貴水玄治、私の傘下に降れ。自らの意志をもって、私に跪くのだ。

 そうすれば、あなたの大切なその者達の命は保証してやろう」

 

「レニ!」 「了解!」

 

 玄治がそれに答えるよりも早くマリアの銃弾が飛び、レニの槍が前へと進む。大神達もまた援護へと動いていた。

 

「チッ・・・ まぁいい。十分に時は稼げた」

 

 苦々しく距離を置く京極が空を仰げば、帝都に強い揺れが襲い、地割れと共に霊力の光が放たれる。その光と共に空へと要塞のようなものが現れ、その姿はまるで繭に包まれた幼虫のようにも見える。

 

「あれこそが空中要塞・武蔵!

 呪われし帝都を真の姿に戻す繭であり、永き時に渡って帝都の地下深くに眠り続けていた大いなる意志なのだ!

 さらばだ、華撃団! 貴水博士!

 次見える時が貴様らの最期であり、今度こそ貴水博士の叡智は私がいただこう!!」

 




玄兄とさくらはんのこと? あの二人はなんやかんやで似た者同士やろ
でもよー 玄さんはさくらのことは前から避けてるよなぁ 距離があるっつうかよ
うんうん おじちゃんってなんかさくらのこと苦手?だよね
次回 『兄妹喧嘩』
太正桜に浪漫の嵐!
俺はお前に会いたくなかった 知らないところで幸せでいてほしかった
私はもっと話したかった あなたのことを兄と呼びたかった
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