サクラ大戦 貴水玄治物語   作:無月

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⑲武蔵突入 直前

 全員がミカサへと搭乗し、すぐさま行われた作戦会議にてミカサ主砲にて武蔵を攻撃したのち、内部侵入することが決定した。

 ここで毎度同じ且つ危険極まりない内部侵入をせざる得ない状況に舌打ちした玄治が、地上からなんらかの攻撃が出来るような砲台を作ると言い出し、紅蘭が悪乗りしかけたがその話は『今は保留』という形で中断された。

 

「上空から降魔接近!」

 

「通気口へと迫ってきています! 応戦開始します!」

 

「花組、甲板に出て応戦します!」

 

 言葉と同時に駆け出す大神に花組が続き、ミカサもまた援護射撃へと移っていく。

 

「かすみ、由里、椿、砲撃の方は私に任せてくれてかまわないわ。

 あなた達は花組のサポートに集中して頂戴」

 

「わかりました。

 由里、椿は砲撃以外の甲板の援護を。私は武蔵の分析を」

 

「わかったわ」 「「了解」」

 

 風組とラチェットが忙しなく動き、花組も二班に分かれて甲板の守備と機関部に現れた土蜘蛛との応戦を開始していた。一度は土蜘蛛を撃退するが、上空からの降魔は減ることがなくそれどころか通気口から機関部へと侵入しようとしてくる。

(武蔵から降魔が出現しているのはどういう原理だ? 京極は帝都の地下に眠り続けていたとか言ってたが、武蔵自体にも封印と直轄する何かがあるってことか? いやそもそも降魔が現れている場所の先には何がある?)

 花組と降魔の戦いを見守りながら、思考は巡り続ける。いつまでも続く鼬ごっこ、人の感情が降魔を生み出すと言われている現状を変化させる手段。

(それと・・・ 過ぎた力を持つゆえに道を誤ってしまった者がいることを今後どう判断されるか、だな)

 今まさに花組へと向かって呪いを吐き、復讐のためなら命を懸けられると口にする土蜘蛛がそうであるように、木喰、火車、水狐もそうだった。

 過剰な力を持って生まれたがゆえに恐れられ、孤独から生じた怒りや悲しみ、憎しみが精神を歪ませた。その道の末に自分達を肯定し、忌み嫌った力と怒りを向けられる場所を与えてくれたのが京極だったのだ。

 

「玄治、考えすぎんじゃねぇぞ」

 

「わかってますよ・・・」

 

(それでもあいつらは、降魔以上に直接的に人間が生み出した負の産物だ・・・)

 たった一人でも木喰を肯定し、破壊を快楽とする前に火車を止めることが出来ていれば。

 水狐を愛し、土蜘蛛と手を取り合うことが出来ていれば。

 結果は違っていた筈なのだ。

(指し示した道が間違っていたとしても、手駒としてしか見ていなかったとしても、それでも京極はあいつらにとっての救いだったんだ)

 

『玄兄! そっちの霊力計、どないなっとる?!』

 

 土蜘蛛との交戦を終えた花組が天武から降りていく中で、天武の中から通信が入ったことにより玄治は沈みかけた思考を掬い上げられた。

 

「どうした!」

 

『天武の動きが鈍く、霊力計が異常な数値を叩き出しているわ。一体、何が起こっているの?』

 

「ミカサの甲板、艦内ともに霊力やばいことになってんな。これ、俺でも天武乗れんじゃね?って数値叩き出てる」

 

『あっちゃー、そりゃ駄目だ。天武に鍵でもかけとかねーと』

 

「流石に冗談だからな?」

 

『普段の行いが悪すぎて、まったく冗談に聞こえませんわ』

 

「俺ばっか槍玉に挙げるが、お前らもかなりの頻度で突発的な行動起こしてるからな? 褒められるほど普段の行い良いやつなんていないぞ、マジで」

 

『玄治兄さんは少しは行動を改めてください!』

 

「お前が言うな! 陸軍元帥襲撃未遂犯!」

 

 軽口を叩き合いながら花組が指令室に集まり、その視線は原因がわかっているだろう玄治と紅蘭に集まった。

 

「玄治、紅蘭、天武の不調は一体どういう 「玄兄! あんの要塞はウチの可愛い天武に何しとるんや!」

 

 大神は問うよりも早く紅蘭が玄治に詰め寄るが、玄治はめんどくさそうに『どーどー』と落ち着かせる。

 

「落ち着け、赤チビ・・・ 大体お前は天武の機構を理解してるんだから八割がた想像ついてるだろ・・・」

 

「そうやったとしても、あんの悪趣味な要塞がウチの天武をいじめとるんは確かやろうが!」

 

「封印が解かれた上、京極は繭どうこう言ってたことを考えれば、その繭を孵すためにエネルギーを吸い上げてんだろ。そうなれば無限に湧き出てる降魔も納得できるしな。

 つーわけでだ、これ以上天武に乗ることは不可能。

 過剰なエネルギーによる負荷は天武は勿論搭乗している隊員に害を及ぼす以上、俺も赤チビも許可できない」

 

「でも、それじゃぁ・・・」

 

 不安を口にしようとするアイリスに玄治と紅蘭は同時にニヤリと笑う。

 

「だが、搭乗機の心配はいらない。

 何故ならこの光武オタクは毎日整備を欠かさない上に、二機も光武・改を作り上げているからな」

 

「一言余計やっちゅうねん!

 ちゅーか、これに紛れてラチェットはん用の制服も発注した玄兄に言われたないわ!!」

 

「その言い方だと俺が独断で実行したみたいに聞こえるだろうが!」

 

「ほぼ間違っとらんやろ!」

 

「織姫くんとレニが遅いのはそういうことか・・・」

 

 大神が兄妹喧嘩を無視して納得していると後ろから皆と同じ隊服をまとった二人が嬉しそうに笑っていて、織姫は少し大袈裟に肩をすくめた。

 

「サプライズは嬉しいですがー、ドットーレも紅蘭も説明が足りていない点は反省すべきだと思いまーす」

 

「右に同じ。でも・・・ 凄く嬉しい。

 ありがとう、ハカセ、紅蘭」

 

「グラッツェ!」

 

 紅蘭と顔を突き合わせていた玄治が腕を上げて応えれば、織姫とレニに続いてラチェットもまた入室してくる。

 花組と同じ作りの藤色の隊服を纏い、その胸元には鳥組であることを示すように翼を広げた鷲の紋がつけられていた。

 

「なんだか少し面映ゆいけれど、こうして改めて二人と同じ隊服を着れるのは嬉しいものね」

 

「ちょっとラチェット! 改めて言わないでくださーい! 私達まで照れてしまいまーす!」

 

「うん・・・」

 

 照れ始めた三人を花組全員で温かく見守っていれば、そこに米田の咳払いが入った。

 

「お前らが仲いいのは歓迎だけどな、それは全部終わった後にしてくれや。

 この後はさっき言った通り、武蔵内部への侵入だ。中がどうなってるかも想像がつかねぇ、京極の野郎が何を用意しているかも不確定だ。でも、どんなに成功の確率が低いことだろうが、お前らなら俺はやってくれると信じてる。

 皆で無事に帰ってこい、いいな?」

 

『了解!』

 

「よし、いい返事だ。

 作戦実行までもうちょいあるからな、それまで各自休息をとってくれや」

 

 

 

 

 

 隊員がそれぞれ思い思いの場所へ散っていく中、椿と由里、米田とかえでの配慮を受けて玄治ら三名と共にかすみとラチェットも休憩に入った。

 

「さて、どうするかな」

 

「私達が休まないことを危惧して、ミスター米田がブリッジと作戦指令室、格納庫の出入りを禁止してしまったものね」

 

「主にあなた達二人のせいだと自覚して頂戴」

 

「ハカセもラチェットも人には休息を取るように言う割には自分達が休まない・・・ 鳥組の今後が心配だ」

 

「それが鳥組、ともいえるな」

 

「えぇ、花を守るためにいくらでも私達は飛びましょう」

 

「二人とも、少しは反省しなさい」 「それはただの開き直りだ」

 

「まぁまぁ。とりあえずお部屋に着いたら五人でお茶にしましょうか」

 

「だな」

 

 そうして話している間に玄治の部屋に到着し、かすみとマリアがお茶を準備すれば他三人はテーブルの上を整え、簡単な茶菓子も用意していく。温かいお茶が出されて各々がソファに座れば、そこはもういつもの空間だった。

 

「今頃、大神隊長は他の子達のことを見て回っているのかしらね?」

 

「えぇきっと。大神さんは優しいですから」

 

 ラチェットが今ここにはいない花組のことを話せば、かすみが頷く。

 

「その優しさがクリスマスの騒動なら、優柔不断とも言えると思う」

 

「隊長に問題があることは否定しないけれど、隊長に好意を持っているさくらやすみれ、織姫達の独占欲が強すぎることも揉めている原因でしょうね。

 もっとも私達の考え方が異端なのも承知の上だけど、玄治はどう思っているの?」

 

「んー・・・ まずは情勢的な意見から言うとどこの国でもだが、国の上層部としては霊力が高い者達同士の結婚には賛成している。

 かつての戦争で霊力のある人間はだいぶ減ってしまったし、仮にいたとしても大事な一族の者を再び戦場に出すことを拒んでいる者も多いからな。実際はどれだけ霊力のある人間がいるかは正確な人数はわかっていない。だが、俺達(華撃団)がいたことで世界は確かに守られた。このことで各国はわずかにだが、確かに態度を変えている。

 霊力の高い存在を生み出してくれという下心をもって、複数婚だって許可をしてきたみたいにな」

 

 その言葉に皆がわずかに顔をしかめるが、事実として受け止めていく。実際、そのおかげで四人と婚約するという無理が通っているともいえるのだ。

 

「ついでに言うと大神に確実に恋愛感情を持っているだろうさくらとすみれ、アイリスと織姫は全員名家過ぎるからな。そういう意味では誰か一人と婚約しても、全員と婚約しても俺達とはまた意味が違ってくる」

 

 古くから日本を守ってきた真宮寺、太正の時代を作ったと言ってもいい神崎、フランスとイタリアの名家であるシャトーブリアンとソレッタ。しかも、その誰もが一人娘である。

 対する玄治らは名門のラチェットと一般の家の出であるかすみを除けば家族はなく、玄治が築いた功績から考えれば『貴水』の名で統一しても何ら問題はない。

 

「まぁそういう問題がなくても、あいつらの独占欲が強いのはどーしようもないだろ。

 さくらの馬鹿とか嫉妬すげーし、織姫もあれ以降べったりだし、すみれだって譲る気さらさらねーしな」

 

「アイリスもそうだ」

 

 笑って言う玄治に続くようにレニも頷いて、マリアがやれやれと呆れ果てる。

 

「カンナと紅蘭は正直どう思っているかわからないけれど振り回されている隊長も含めて面白がっているものね、困ったものだわ」

 

「あれはあれで、あの子達なりに自分の感情を確かめようとしているのかもしれないわよ?」

 

「ふふっ、そうだとしたら好きな子をいじめちゃう小さな男の子みたいで可愛らしいですね」

 

「やってることの規模が可愛らしくないのよ、あの子達は・・・」

 

「そりゃそうだ」

 

 ちょっとしたことでいろんなものをぶち折る女ゴリラと、何かを作ったかと思ったら爆発させるマッドサイエンティスト。しかもこの二人は確実に大神に好意を持っているすみれとさくらを相方にもっているため、バチバチに対抗心を持ったり、ノリノリで手を貸してくるという質の悪さを持っている。

 

「それに隊長が未だにあやめのことを引き摺っているじゃない」

 

「それは・・・ 憧れのお姉さんに初恋をしちゃった男の子みたいなものじゃないですか?」

 

 かすみの発言に玄治とラチェットが吹き出し、レニが首をかしげる。

 

「かすみ、それは直球過ぎるんじゃないかしら」

 

「ラチェット、笑いながら言ってもその通りだって認めてるようなもんだぞ」

 

「二人とも、笑いすぎだ。

 単に皆から決められないから彼女を逃げ道にしているだけ、とも取れる」

 

 レニの容赦のない発言に笑っていた二人も笑いを収めて、マリアとかすみも『確かに』と頷いた。

 

「あやめを逃げ道にしているなら隊長の問題点は追加ね。

 それに玄治が言っていた通り、隊長も玄治も巴里に向かうならさらに賑やかになる恐れもあるわ」

 

「その可能性は大いにあるわね。

 勿論、それは彼だけじゃないでしょうけど」

 

 そう言って視線だけが玄治に向けられるが、玄治はないないとばかりに手を振る。

 

「こんなに最高な婚約者達がいるのに他に手を出すとかありえないっつの」

 

「その心配はしてない」

 

 レニの返答の意味が分からず首を傾げる玄治に、女性陣のみで視線を交わして同時に溜息をつく。

 そう、大神も玄治も自分から手を出すことは絶対にない。それに加えて彼らは人によく見られたいと思ってのことではなく、本心からの行動で老若男女問わずに心を奪っていくのだ。

 あぁ人誑しでありながら、好意に鈍感な者達のなんと罪深いことか。

 

「同時に溜息つくなって・・・ それにかすみ、さっきからずっとニコニコしてどうした?」

 

「幸せだなぁと思ったんです」

 

 そこにいる全員を見ながら、かすみは微笑んだまま続けていく。

 

「恐ろしい戦いを前にしているのに、私達がいつものようにこうして集まっていられることが」

 

 それはすぐ隣で並んで戦うことが出来ないかすみだからこそ、より強く思ってしまうことだった。

 

「玄治さんが・・・ 皆さんが当たり前のように全員で一緒に居る未来を語ってくれることが、嬉しくてたまらないんです」

 

 そう言って微笑むかすみに玄治は一つ溜息をついて、照れたようにそっぽを向く。

 

「夢をただの夢想とせず、理想を現実にして、どんな運命にだって立ち向かっていく大神がいて、妹分どもにはボロクソ言われて喝入れられて、そんな俺が好きなんて言ってくれる大事な奴らがこんなにいるんだぞ。

 そんな中で『明日どうなるかもわからない』だの、『未来を守れる自信がない』なんていつまでも言ってられるかよ」

 

 その発言と玄治らしからぬ子どものような言い方に皆が笑うが、玄治はそこから真剣な面持ちで言葉を続けた。

 

「魔神器を壊した華撃団の責任は重い。

 大神は仲間を失いたくない身勝手と平和と正義への理想から、その責任を背負う覚悟を選んだ。

 大神が成す正義を、誰もが望む平和を、華撃団の信念と理想を築くために俺は全力を尽くす」

 

 そう言って玄治はそこにいる全員どころか全てを包み込むように腕を広げ、笑う。

 

「計画名は『地上に花を 空に星を』!(Flowars on the ground,stars in the sky)

 誰にも出来なかった、先生にだって出来なかった、米田さんが、あやめさんが叶えたかった未来に俺達が導こう。

 これは俺達華撃団にしか出来ないことだ」

 

 計画名を叫び、未来を語る姿はまるで戦いの前に皆を鼓舞する大神に似ているが、やはりその姿はどこか幾度となく華撃団と相対した山崎真之介の面影を宿していた。

 

「さぁこの世界を、美しいもので包んでやろうじゃないか」

 

 

 

 

 

 遡ること少し前、玄治達の一足先にブリッジから退出した大神は皆を探すようにミカサ内を回っていた。

 休憩室では織姫とすみれを元気づけ、展望台ではアイリスとデートの約束を交わし、格納庫では光武を整備する紅蘭を頼りにし、個人のキャビンにいたカンナを会話して落ち着かせ、まだ見かけていないさくらを求めて艦内を歩いていると玄治のキャビンから複数の声がして立ち止まる。

 

「今頃、大神隊長は他の子達のことを見て回っているのかしらね?」

 

「えぇきっと。大神さんは優しいですから」

 

「その優しさがクリスマスの騒動なら、優柔不断とも言えると思う」

 

「隊長に問題があることは否定しないけれど、隊長に好意を持っているさくらやすみれ、織姫達の独占欲が強すぎることも揉めている原因でしょうね。

 もっとも私達の考え方が異端なのも承知の上だけど、玄治はどう思っているの?」

 

 聞こえてきた言葉に何やら耳が痛くなるのを感じて離れようとするが、玄治に意見を求めたマリアの言葉に動き出そうとした足を止めた。

 玄治はどうにも大神に好意を持っている面子に対して遠慮や苦手意識があるからか、恋愛がらみの件に意見を言おうとしてこない。もっともそれは彼自身が恋愛初心者であることも絡んでくるのだろうが、いずれにせよ貴重であることに違いない。

 

「んー・・・ まずは情勢的な意見から言うとどこの国でもだが、国の上層部としては霊力が高い者達同士の結婚には賛成している。

 かつての戦争で霊力のある人間はだいぶ減ってしまったし、仮にいたとしても大事な一族の者を再び戦場に出すことを拒んでいる者も多いからな。実際はどれだけ霊力のある人間がいるかは正確な人数はわかっていない。だが、俺達(華撃団)がいたことで世界は確かに守られた。このことで各国はわずかにだが、確かに態度を変えている。

 霊力の高い存在を生み出してくれという下心をもって複数婚だって許可をしてきたみたいにな」

 

 期待していたものとは違うが大神が知らなかった国の上層部の意見が玄治の口から飛び出し感心すると同時に、思わず扉の外で二度見する。

(って、複数婚!? 玄治はどこまで・・・ なんて今更か)

 頭がいいし、行動力もずば抜けているにもかかわらず、思考回路は一か零しかない。四人と付き合った時点でいろいろと準備をするだろうとは思ったが、もっとも面倒だと判断したところから黙らせることにしたのだろう。

 

「ついでに言うと大神に確実に恋愛感情を持っているだろうさくらとすみれ、アイリスと織姫は全員名家過ぎるからな。そういう意味では誰か一人と婚約しても、全員と婚約しても俺達とはまた意味が違ってくる」

 

(ぐっ!)

 クリスマス前にも突き付けられた現実に息が詰まるような感覚に陥るが、まだ肝心の玄治自身の意見を聞けていないためその場を動くわけにはいかなかった。

 

「まぁそういう問題がなくても、あいつらの独占欲が強いのはどーしようもないだろ。

 さくらの馬鹿とか嫉妬すげーし、織姫もあれ以降べったりだし、すみれだって譲る気さらさらねーしな」

 

 『独占欲』の言葉にさらに凹み、大神が頭を抱えるが結局玄治がどう思ってるかは明言されなかった。

 

「立ち聞きですか? 大神さん」

 

「さくらくん」

 

 シーッと指を口に当てながら、さくらはここから離れるようと開いている手で自分のキャビンの方を指差す。大神も断る理由がなく応じて、さくらはニコニコとしながら大神と共に自分のキャビンの前で止まった。

 

「大神さんったらいーけないんだ、いけないんだ。

 玄治兄さん達のお話を立ち聞きなんて、バレたらまたレニに呆れられちゃいますよ?」

 

「そういじめないでくれよ、さくらくん」

 

「ふふっ、ごめんなさい。

 でも、マリアさんやラチェットさんは大神さんどころか私のことも気づいちゃってそうですけどね」

 

「ありそうで怖いなぁ。

 それでさくらくんはあんなところでどうかしたのかい? 玄治に相談でもあったのかな?」

 

 

「玄治兄さんに相談するようなことなんてありません。

 もしあったとしても、私が一番に頼る人は大神さんって決めてますから」

 

 何気なく聞けば反抗期の妹のような返事が返ってきて、大神は思わず笑ってしまう。

 

「それは光栄だけど、それじゃあどうしてあんなところに?」

 

「大神さんが見つからなかったから、玄治兄さんの所にでも行ってるのかなーなんて思ったら大当たりでした。

・・・ねぇ大神さん、大神さんは玄治兄さんでも敵わない父に私が勝てると思いますか?

 父と戦うのは今でも怖いし、不安です。でも、父と戦うのは玄治兄さんじゃなく私じゃないと駄目なんです。玄治兄さんが以前の戦いで山崎さんと向き合ったように、私が父と向き合って超えなきゃいけないって思うから」

 

 笑っていた顔はどこへやらほんの少しだけ不安そうな顔を覗かせて、大神はさくらの問いに大きく頷いた。

 

「勝てるよ、さくらくん。

 いいや、俺達は皆で勝つんだ」

 

「大神さんならそう言ってくれると思いました」

 

 そう言いながらさくらは窓の外の青い空と、はるか遠くなった帝都を見下ろした。

 

「ふふっ、おかしいですよね。

 明日もどうなるかわからない戦いを前にしてるっていうのに、なんだかいつもよりずっと心が穏やかで軽いんです」

 

「玄治と本音でぶつかり合うことが出来たからじゃない?」

 

「そこは『俺と話したからじゃない?』でいいと思うんですけど」

 

 不機嫌そうに頬を膨らませてそっぽを向くが、言っているさくらも笑っていることに大神はすぐに気づいた。

 

「それじゃぁ私、そろそろ部屋に戻りますね」

 

「あぁ、集合の時間までゆっくり休んでくれ」

 

「はーい。あっ、そうそう大神さん」

 

「うん?」

 

 いい返事をしながら、軽い足取りでキャビンに入ろうしたさくらは何か言い忘れたらしく、扉から少しだけ顔を覗かせる。

 

「私、複数婚はありだと思いますよ」

 

「えっ!?」

 

 さくらのおもわぬ発言に驚き、大神は面を喰らって何も言えなくなる。

 自分と同じように玄治の話を聞いていたのかとか、話を聞いていた自分の一喜一憂も見ていたのか?とか、いろいろと聞きたいことが溢れてくるがさくらは笑顔で言葉を続けた。

 

「でも、私が一番ですけどね」

 

「さ、さくらくん」

 

 もう一度にこりと笑ってからキャビンの中に入っていくさくらに情けない声を出してしまい、自分が今度も抱えなければならない問題を前にして大神は苦笑いを浮かべるのだった。

 




いよいよ武蔵に突入か 何が待ってるかわからないんだ しっかり警戒しないとな
そういうことは生身で突っ込むのが趣味なあなたが言うのは間違ってますわね 貴さん
そーだ! そーだー! おじちゃんが言うなー!
次回 『武蔵突入 金剛撃破』
太正桜に浪漫の嵐!
いよいよ武蔵突入だ 皆 無事に帰還するぞ!
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