サクラ大戦 貴水玄治物語   作:無月

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㉑二剣二刀の儀

 武蔵の最深部に到着し、皆が轟雷号を降りてさらに最深部へと向かっていく。

 

「っ! お父様の気配がします!」

 

「いや、お前どんな探知機ついてんだよ」

 

「玄兄、気持ちはわかるけどさくらはん茶化すんやめーや」

 

 玄治と紅蘭のやり取りに何人かが吹き出し、一部は呆れ、大神が二人のやり取りがなかったように続ける。

 

「近いのかい? さくらくん」

 

「姿を現しなさい! 鬼王! いいえお父様!」

 

 さくらに至っては玄治の言葉をなかったように無視し、よく響く声を張っていく。

 

「京極様の邪魔をする者は斬る」

 

「真宮寺大佐、目を覚ましてください!」

 

 姿を現せた鬼王に大神もさくらに続いて呼びかけるが、返答はない。

 

「呼びかけても無駄なことはわかってるだろ、大神、さくら」

 

「でも、玄治兄さん・・・」

 

「呪縛よりも強い力があることを、お前の成長した姿を一馬さんに見せてやれ」

 

 そう言って鬼王へとぶつかっていくさくらと、それを支えるように駆けていく大神を見守りながらいつでも助けられるように後方で待機する。そんな玄治にマリアからの個人通信が入る。

 

「玄治、あなたはいいの? 真宮寺大佐もあなたにとって特別な人でしょう」

 

「そりゃな。でも、今は俺以上にさくらがぶつからなきゃいけないときだから、それを見守るのが一馬さんが俺に頼んだ『兄』ってもんなんじゃないかって思う」

 

(あぁ、だからあなたは華撃団の『兄』であろうとしていたのね)

 無意識なのか、意識的なのか、玄治がずっと華撃団の兄であろうとした根本を理解し、マリアは優しく微笑んでいた。

 

「まっ、会話もほどほどにしないとそろそろ大神に怒られるぞ。マリア」

 

「えぇ、そうね!」

 

 五行衆の力を使いこなす鬼王に花組がぶつかり合いながら、戦闘中にもかかわらず何度も何度も鬼王に呼びかけるさくらについに鬼王がさくらの名を呼んだ。

 そこにさくらと大神の霊力が重なった技が叩きこまれ、鬼王の面が割れ、一馬の顔が現れる。

 

「お父様!」

 

「一馬さん・・・!」

 

 こらえきれず光武のハッチから飛び出す二人に花組が続き、玄治が一馬に肩を貸し、さくらが涙ながらに父の手を取った。その背を追うように大神が続き、さくらの横に立った。

 

「さくらと・・・ あぁまさか玄治くん、玄治くんなのか。

 二人とも、本当に大きくなったなぁ」

 

「一馬さん、不調かもしれませんが、どこまで覚えてますか?」

 

「あぁ、君達花組と幾度となく戦ったことをうっすらと覚えている。花組隊長・・・ 大神くん、だったかな? 本当によく帝都を守り、さくらを守り、支えてくれた。父として、一人の軍人として、君に感謝している。ありがとう」

 

 そう言って深く頭を下げる一馬に大神は慌てて、頭をあげるように頼む。

 

「いえ、そんな頭をあげてください。真宮寺大佐。

 自分は出来ることをやってきただけで、一人じゃとてもやりきれないことばかりでした」

 

 息をするように謙遜する大神に、一馬はそんなことはないと首を振る。

 

「京極の反魂の術で蘇らされた私達をよく止めてくれた。

 あぁさくら、もっと近くで顔を見せてくれ。本当に、本当に大きくなった・・・ それから悪かったなぁ」

 

「そんなお父様が謝ることなんて何も・・・」

 

「いいや、お前と若菜には本当に寂しい思いばかりさせて、こんなことになって・・・ 玄治くんも立派な男になったんだな」

 

「俺よりも今はさくらのことを見て、褒めてやってください。

 頑張ったんですよ、ずっとあなたのことを、あなたの剣を追いかけてきたんです」

 

「そうか・・・ そうか、さくら。本当に頑張ったんだな」

 

 そう言って一馬がさくらの頭へと手を伸ばそうとした瞬間、大きな音と共に京極が現れ、その場にいた全員がすぐさま警戒態勢に入った。

 

「所詮は山崎も、一馬もかりそめの命を与えた人形か。

 武蔵が復活した今! 人形には用はない!!」

 

「京極! 貴様、許さん!!」

 

「身の程を知れ! 大神一郎!!

 理想の前に犠牲はつきもの、軍も、帝都も、華撃団も、偽りの正義の元に帝都を支配した虫けらにすぎない。そんな者達は全て、私という理想の前に灰塵となる運命なのだ!」

 

 京極の言葉に怒りを露にする大神に京極は鼻で嗤い、玄治へと視線を向けた。

 

「あなたならわかるだろう! 貴水博士!!

 本来地上にあるべき力を地下に封じ、権力を握るべき力ある者が潜んで生きる! そんなことあってはならない!!

 私の力とあなたの頭脳があれば、それはいとも簡単に叶う! この武蔵を使って、世界を手にすることすら赤子の手をひねるよりも容易なのだ!!」

 

 叫びながら演じるように手を伸ばす京極に、玄治は怒りを露にして愛刀を抜いた。

 

「俺とお前は先生と一馬さんを反魂の術で生き返らせた時点で決裂して、俺の大事なものにちょっかいを出し続けた時点でお前は俺の敵だ」

 

「本当に残念ですよ、貴水博士」

 

 京極がまるで心から傷ついたとばかりに深く目を閉じ、カッと目を見開く。

 

「ならばその大事なものと共に、死ね!」

 

 瞬間、花組に向かって光が奔り、その光を弾くように銀の円が花組を包んでいた。

 

「ぐっ・・・!」

 

 が、霊力の差は誰の目から歴然で玄治の表情は厳しいもので、なんとしても背にある花組と一馬に被害を出させまいと一部の霊力が玄治の体のあちこちに裂傷を奔らせる。

 

「玄治くん・・・ 私が・・・」

 

「あんたは動くな! 一馬さん!!」

 

 さくら達の手を離れ、玄治に替わろうとする一馬に玄治は泣くように叫ぶ。

 

「あんたは今度こそ帰らなきゃいけないんだ!

 生きて帰って! 米田さんと笑って! 若菜さんに怒られて! さくらと一緒に剣を振るって! 花組や大神にいろんな話して!」

 

 叫びながらもじりじりと後退していく体に、それ以上さがるまいと足を踏ん張り、愛刀を通して霊力をさらに注ぎ込む。

 

「頼むから生きてくれよ! 一馬さん!

 どんな形だっていいんだ、あんたが生きててくれたら・・・!」

 

「大きくなったなぁ、玄治くん」

 

 そう言って玄治の肩を掴み、一馬は優しく微笑んだ。

 

「君と出会えたこと、君と華撃団が僕らの意志を受け継いでくれたこと、本当に誇りに思うよ」

 

「一馬さん・・・ 頼む、やめてくれ、またあんたを失うなんて」

 

「いいや、違う。僕はあの日、間違いなく死んだんだ。

 今ここにいる僕は抜け殻であり、ありもしない時間なんだよ」

 

 そう言って軽く玄治を押しのけようとするが、玄治は子どものように嫌だ嫌だと首を振って抵抗する。

 

「頼む! やめてくれ! 嫌なんだもう!

 何度あんた達を失えばいい?! 何度見送ればいい?! 俺は何度! 何回! どれだけあの日の後悔を繰り返せばいいんだよ!!」

 

「ごめんよ、それでも僕はあの日の選択を間違っていると思っていない。

 降魔迎撃部隊に任じられたことも、四人で背を預けあったことも、君と出会ったことも、君達という次代を残せたことも誇りに思っている。

 ・・・僕との約束を守ってくれてありがとう、玄治くん」

 

 玄治の体を後ろに引っ張ると同時に、自らの体を壁として京極の霊力を防ぐ。

 

「ぐあぁぁぁ!」

 

「お父様!」 「真宮寺大佐!」

 

 さくらと大神が叫ぶ中、霊力を酷使した玄治は俯いて歯を食いしばって涙を零す。

 

「この先にある御柱の間にある水晶を二剣二刀の儀で壊し魔を封じ、御柱を斬るのだ!

 その水晶こそが降魔兵器を操る妖力の源であり、武蔵の中枢でもある。そうして京極の野望を砕け!」

 

 そう叫びながら、一馬は優しい目でさくらを見る。

 

「さくら、もう一度顔を見せてくれ」

 

 零れる涙を止めることも出来ずに、さくらは一馬へ視線を向け、その優しい表情を目に焼き付けていく。

 

「迷いのない、いい剣を使うようになった。

 強く生きろ。それから、母さんによろしくな」

 

 そこで京極からの霊力が途切れると同時にもうそこに京極の姿も一馬の姿もなく、光刀無形だけが残された。

 

「さくらくん・・・」

 

「大神さん、私、お父様の分も強く生きてみせます。

 だって、そうお父様と約束したんですから」

 

 涙を拭って強く言うさくらを大神が見届け、傍に転がる玄治にはマリアとレニがついていた。

 

「玄治・・・」

 

「ハカセ、状況は?」

 

「体は大丈夫だ、これぐらいなら問題ない」

 

「辛かったら、いつでも話は聞くわ」

 

「心の傷は見えないから厄介だ。でも、ハカセは一人じゃない。だから・・・」

 

 寄り添ってくれる二人に玄治は体を起こし、無理やりに笑った。

 

「わかってるよ。でも、さくらがあぁやって前向いてんだ。兄貴の俺が今、俯くわけにはいかないだろ。

 強く、生きなきゃな」

 

 玄治が涙を強く拭えば、そんなさくらと玄治に対して空気が読めないブーイングが入る。

 

「ったくよ、玄さんもさくらもなんか世界に浸ってやがるが、あたいらだっているんだぜ?」

 

「そーだ! そーだー! 皆いるのにイチャイチャ禁止ー!」

 

「というか、真宮寺大佐は私達全員に後を託していますのよ?」

 

「一人より二人、二人より皆で二人ぐらいは軽々支えちゃいまーす!」

 

 そんな仲間を見てさくらと玄治は顔を見合わせて笑い、揃いも揃って大袈裟な溜息をついて見せる。

 

「はーまったく、俺達は静かにへこんでる暇もないらしい」

 

「本当ですね、玄治兄さん。私達ってばこんな騒がしい仲間に囲まれてるんですもん、大神さんと二人でいい雰囲気になるのも出来ません」

 

「いやぁ、お前の見せつけはどうかと思うぞ。あいつらの怒りに点火させたら大火事どころか大爆発だ、赤チビの発明みたいに」

 

「その爆発も玄治兄さん仕込みでしょう?」

 

「馬鹿お前、あれは俺が何か教える前からだ」

 

「おーなんやなんや、二人揃ってウチに喧嘩売っとんのかー?」

 

 二人の兄弟漫才に紅蘭が乗れば、二人がぎこちなく笑ってお手上げをする。

 

「嘘嘘、まだやること残ってんだ。赤チビとドンパチなんてあとのお楽しみだ」

 

「いつだかのカラオケくんの中身、玄治兄さんはどこにやったんです?」

 

「安全にばらして片づけてある、当然だろ」

 

 そんなじゃれあいをしていると、大神が後ろから玄治とさくらの肩を叩いた。

 

「二人とも」

 

「大神さん」 「大神」

 

「まだやるべきことが残ってるだろ、御柱の間へ急ごう」

 

「はいっ!」 「そうだな」

 

 促されてそれぞれが光武、神威に乗り、九本の柱がある部屋に辿り着く。

 一本一本がまがまがしい紫で、蔦同士が絡み合うような不気味な形をしているが、そんなのは武蔵の内部に入ってから当たり前だった。

 御柱だけでなく一馬が言っていた大きな水晶があり、これが降魔兵器を操作していた妖力の源であろう。その前で大神が神刀滅却と神剣白羽鳥、さくらが霊剣荒鷹と光刀無形を持ち、二剣二刀の儀を行おうとしていた。

 

「狼虎滅却」

 

「破邪剣征」

 

「おおおおぉぉぉぉ!」 「はあぁぁぁぁ!」

 

 二人が構えるだけで四本の刀からも霊力が可視できる状態になっていき、二人が気合の声をあげながら刀を振るって水晶を両断する。

 無事に粉々に砕けた水晶を見ながら玄治は深く目を閉じ、心の中で告げていた。

(見てますよね、先生、あやめさん、一馬さん。

 皆さんが遂げることの出来なかった儀式を二人が無事にやり遂げました)

 あの日、どういう理由であれ行えなかった儀式を二人が無事にやり遂げたことをおそらく誰よりも喜びながら、感情を押さえてどうにか声を絞り出す。

 

「二人とも、よくやった。

 ここにいない人達に代わって言わせてくれ・・・ ありがとう」

 

 顔を右手で隠すように涙をこらえる玄治の声の震えに、二人は言葉の意味を察してさくらは玄治の肩を軽くたたく。

 

「まだ終わってないですよ、玄治兄さん」

 

「さくらくんの言う通り。

 まだ武蔵も止めていない、それに無事に皆の元に帰るまでが任務だろ? 玄治」

 

「あぁ勿論、わかってるさ」

 

 それが合図になったように次々と光武へ搭乗し、九本の柱へと向きなおる。

 

「兄貴として、俺も頑張りますかね」

 

 そう言って柱の一本を両断し、次へと狙いを定める。

 

「それなら」

 

 玄治の肩越しにマリアの銃弾が奔り、銃弾を追いかける形でカンナの拳が二本目の柱を叩き折る。

 

「玄さんに続いて最古参のあたいらだって、負けてらんないぜ」

 

「あーら? お忘れかしら? 最初の光武を動かしたのを誰なのかを」

 

 カンナに負けまいと鋭い薙刀が舞い踊り、三本目の柱の周りを舞い踊る孔雀の傍を紅蓮の薔薇が咲き誇りだす。

 

「それを言ったらー、光武よりも先に生まれたアイゼンクライトを動かしたのを誰なのかを忘れてまーす!」

 

「あら、珍しい。織姫さん。私と競ってくださるのかしら? 世界的トップスタァと誇っていたあなたがこの帝劇のトップスタァの私と」

 

「まぁ、悔しいですけど認めてまーす。

 私達は同じ舞台で役を奪い、競い合う仲間ですからねー」

 

 四本目へと薔薇が狙いを定めれば青い氷が飛び込み、黄色の光が周りに花を咲かせていった。

 

「そう、僕たちは一人じゃない。だから、戦いだっていうのにこんなに心が満ち足りてる」

 

「一人じゃないから、皆助けたり、助けられたりしてるんだもん」

 

「そうやなぁ、時には暴走してやらかしたりするときもあるけど」

 

 五本目の柱に紅蘭のちびロボが突撃していけば、さくらが桜花放神を叩きこんで柱を砕いていく。

 

「帝都の平和を奪う者を、私達は許さない」

 

 そんなさくらの隣で大神が六本目の柱を斬り倒し、玄治が援護するように邪魔をしてくる降魔を斬り倒していく。

 

「多くの人の意志を、命を守るために俺達は戦う!」

 

 七本目に差し掛かれば、珍しくさくらが玄治を呼ぶ。

 

「玄治兄さん!」 「おうよ!」 「ウチも手伝うでー」

 

 さくらの斬撃に玄治の攻撃が追加され、さらに紅蘭の爆破が追撃し、あっけなく砕けていく。

 

「・・・真面目なら良いチーム」

 

 ボソッとレニが呟いたのを他全員の耳に入り、一斉に噴出した。

 

「レニの言う通りですよ、玄治兄さん。いつももっと真面目にしててください」

 

「いや、完全にお前と赤チビな」

 

「いやぁ、さくらはんやろ」

 

 という押し付け合いを始めるが、全員が『そーいうところだ』と思うが誰も突っ込まないと思っていたが口の軽い織姫が笑って言う。

 

「三人のそーいうところが似た者同士ですねー」

 

 三人が何か反論しようとするが八本目の柱の破壊音が反論を黙らせ、その方向を見るとマリアが銃弾を叩きこんでおり、最後の一本となったところで大神に視線を向けた。

 

「隊長!」

 

「柱よ、砕けろ!」

 

 最後の一本を斬り、一瞬だけ静寂が訪れるが、全員が違和感をもつ。

 

「まだ、何か変です!」

 

「大神、どうする?」

 

「・・・さらに奥に行ってみるしかない。

 皆、慎重に前進しよう」

 

『了解』

 

 

 

 

 

 一方その頃、武蔵と一定の距離を取っていたミカサもその異常を感知していた。

 少し前に地上から降魔兵器の機能停止を聞き安堵していたところに、武蔵が突然動き出したのだ。

 

「武蔵、動き出しました!」

 

「降魔兵器が停止したということは、もう中枢に着いて何かが起こったことは間違いない筈・・・ どうしたのかしら?」

 

「落ち着きなさい、ラチェット。

 もしかしたら、中枢を破壊された武蔵は制御を失っているのかもしれないわ」

 

 今にも舌打ちしそうなラチェットにかえでがなだめる。

 

「そうかもしれねぇなぁ。

 それなら俺達はこのまま武蔵を追いかけるぞ、いつでもあいつらを助けられるようにな」

 

『了解!』

 

 




かすみ 心配?
かえでさん えぇ あの人はいつも怪我をして帰ってくるので
でも 玄治は約束してくれたわ 必ず私達の元へ帰ってくると
次回 『最終決戦 新皇との戦い』
太正桜に浪漫の嵐!
皆 おかえりなさい
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