サクラ大戦 貴水玄治物語   作:無月

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㉓帝都の休日

太正十五年 弥生

 戦いが終われば、人々は再び賑わいを取り戻していく。

 そうして帝都は復興し、いつもの日常へと帰っていった。

 花組は春公演の『夢のつづき』を無事満員御礼で終わらせ、久々の休暇へと入っていった。

 大神がさくらと玄関の待ち合わせの約束をしている頃、玄治は一人黙々と部屋にこもってある物を仕上げていた。

 

「よしっ、出来た」

 

 数が揃っていることと、それぞれがちゃんと出来ているかを確認して、この日のために用意していた布の入れ物に納めていく。

 

「そろそろ遊戯室に向かうかね」

 

 玄治もまたマリアら四名と遊戯室に集まる約束をしており、時間にはまだ余裕があるが立ち上がれば扉の前に変なものがぶら下がっていた。

 

「平和はいいなぁ~。俺、暇になるけど」

 

「今ここで見たものを即刻忘れろ、不法侵入者」

 

 その変なものを瞬時に襟首掴んで、扉に押し付けて脅すのに五秒とかからなかった。

 

「見事すぎる取り押さえだが、親友に対するにはあまりにも雑すぎないか。玄治ぃ」

 

「そうだな、友人として一切の遠慮なく怒れる。実に素晴らしいな。

 どこから見てやがった。というか、いつから知ってたか素直に言え。この個人情報侵害野郎」

 

「そりゃぁお前が作り始めた頃から。

 いやぁ、お前の溢れんばかりの愛を感じる日々だったなぁ」

 

「うるせぇ黙れ」

 

 そこで特大の拳骨を加山に落とし、手を離す。

 

「あーうち! 痛いぜ、親友」

 

「ここまで隠したいことを探ってくる奴が友人だと気疲れするんだがな・・・ まぁいい、マリア達に渡すまで秘密にできればそれでいい」

 

「そうそう、それから巴里への件なんだが」

 

「なんだ、用事あったのか。冷やかしだけかと思ったぞ、本気で」

 

 先ほど言ったように一切の遠慮も容赦もない態度に、加山は気を悪くする様子がないどころかむしろ嬉しそうに笑っている。

 

「来月には大神に通達が出るそうだ。いやぁ、大神は忙しいなぁ!」

 

「どうせお前も来るんだろ」

 

「流石玄治、お見通しか」

 

「俺も巴里には行くが、今回は完全に大神と別行動だ。俺が大神を援護できない以上、俺以上に自由に動けるお前が行くのは妥当だろ。

 幸い、花組は副隊長のマリアの他にラチェットもいてくれる。新華撃団立ち上げに比べればこっちの心配はしなくていいからな」

 

「その通り!

 勿論こちらにまったく置かないわけじゃないが、隊長である俺は大神の完全援護に入る。当然貴水博士、あなたの警護も兼ねてね」

 

「お前が博士って呼ぶと背中がぞわぞわするからやめろ」

 

「ハッハー、玄治もだいぶ俺に慣れたな」

 

「・・・もうそれでいいわ。約束もあるから俺はもう行くぞ」

 

「俺もそろそろ大神の部屋に行くとするぜ、さらば」

 

 加山がどっか行くのを見届けてから玄治も部屋を後にし、階段を上ると途中で野々村つぼみに会った。

 

「あっ、貴水先生。今、ご挨拶に伺おうと思ってました」

 

「おう、学園に戻るのか」

 

「はい! 皆にいろんな話をすることが出来ますし、実戦経験も非常にためになりました。今回の経験の報告書も来月までに提出しますね」

 

 キラキラとした笑顔でやり遂げたと誇らしそうな彼女に、玄治も嬉しくなって肩に手を置いてやる。

 

「あぁ、こっちもかなり助かった。

 学園生を実戦に出すことは迷ったが、本当によくやってくれた。立派にやり遂げたと胸を張って学園に凱旋するといい」

 

「本当にありがとうございました!」

 

 つぼみの成長を嬉しく思いながら、その背を見送る。少しずつだが確かに育っている後進に、玄治は改めて気を引き締めた。

 一階につきなんとなく支配人室に顔を出すために立ち寄ってノックをすれば、真っ昼間だというのに日本酒を口にする米田の姿があった。

 

「米田さん」

 

「おめーが言いたいこたぁわかってるさ、『一馬さんを連れて帰れなくてすみません』だろ?」

 

「・・・」

 

「沈黙は肯定と受け取るぜ。

 あいつにとっちゃかりそめの命なんざありもしない日々だった。でもな、玄治」

 

 普段の厳しい指令の顔は姿を隠し、歌劇団の支配人として、父としての表情で優しく玄治を見ていた。

 

「立派になったお前とさくらに一目会えた。

 それはとんでもなく誇らしいことだったって、おれぁ思うぜ」

 

「えぇ。だから尚更、託された重みを感じました」

 

「それはほれ、頑張ってもらうしかねぇな」

 

 楽し気に笑う米田に、玄治はある計画書を手渡す。

 

「玄治、こいつは?」

 

「託されたものを守るための計画・・・ そのためのまず一手」

 

 そう言われて米田は表紙となっている一枚目に軽く目を通し、一つため息をついた。

 

「お前、一手なんて嘘つくんじゃねぇぞ。もうあちこちに手を回してやがるだろ」

 

「いいえ、今はまだ試験の始まりにしかすぎません。

 まずはこの一手が成功しなきゃいけない」

 

「・・・大神はこの計画を知ってるのか?」

 

 米田の問いに玄治は首を振って否定し、その事実がこの計画を知っている者の少なさを語っていた。

 

「大神はまだこの計画を知りません。大神の性格を考えて、計画を共有するのは次の段階に移るまで避けます。

 マリアとラチェットは俺の行動の意図を理解しているかもしれませんが、全貌を理解しているのは現状俺だけです」

 

 二枚目をめくり、米田は顎に手を当てる。

 

「成功すると思うのか?」

 

「成功させます、絶対に」

 

 一瞬の緊張感が漂い、米田はフッと表情を崩した。

 

「山崎に似てきやがったな、お前」

 

「そりゃそうですよ、師弟ですから」

 

 米田の言葉にどこか得意げに玄治が笑えば、米田も頷いて後押しする。

 

「やってみろ、俺も出来る限りの援助はするぜ」

 

「ありがとうございます。

 では、俺もマリア達と約束があるので」

 

「なんだ? お前らも出掛けるのか?」

 

「いえ、俺達は出掛けませんよ。

 久しぶりの皆揃っての休みなんで、遊戯室でのんびり過ごす予定です」

 

「すっかりお前らは遊戯室がお気に入りだな、音楽室ともども増築して正解だったな」

 

「えぇ、本当に。

 では、失礼します」

 

「おう」

 

 そう言って支配人室を出て、二階へと向かえば玄治を待っていたかのように廊下にはかえでが立っていた。

 

「玄治くん、ちょっといいかしら?」

 

「えぇ、かえでさん」

 

「ありがとう、マリア達と約束があるのにごめんなさいね」

 

「いえ、時間に余裕はあるので大丈夫ですよ」

 

 まだ大丈夫だと告げれば、かえでは玄治を部屋に招き入れる。

 

「まずは約束を守ってくれてありがとう、玄治くん。

 大神くんと違って多少の怪我はあったけど、それも大神くんから話は聞いたわ。本当に大変だったわね」

 

「結局一馬さんに守られて、連れて帰ることは出来ませんでしたが」

 

「それは仕方ないわ、何より一馬さん自身がそれを望んでいなかったのだから。

 あなたは何度も悲しい別れを経験してしまっているわね、本当にごめんなさい」

 

「かえでさんが謝ることじゃないですよ。さくらが前向いている以上、俺も下を向いてる暇はありません。

 それに俺には、それぞれの立ち位置から支えてくれる婚約者達がいますから」

 

 悲しい話はそこで終わりとばかりに、玄治はかえでに微笑んだ。

 

「フフッ、そうね。

 その婚約者さん達に贈り物をしようとしてるんでしょう?」

 

「かえでさんにはお見通しですか。

 いろいろと送る物は迷ったんですけど、普段から使えるものをと思いまして」

 

「きっとマリア達も喜ぶわよ」

 

「そうだと嬉しいです。

 あやめさんの墓参りは明日の午後でよかったですか?」

 

「えぇ、十三時に玄関に集合しましょう。米田さんも一緒に行きたいと言っていたわ」

 

「わかりました。

 では、また」

 

「えぇ、皆待っているでしょうから早く行ってあげないとね」

 

「からかわないでくださいよ、かえでさん」

 

 互いに微笑みながら別れ、玄治は今度こそまっすぐ遊戯室に向かう。

 遊戯室にいつも通り入室すれば、そこでは既にマリアとラチェット、レニがポーカーをしており、かすみはそんな三人を微笑みながら見守っている。

 

「やってるな」

 

「玄治。えぇ、皆が少し早く集まってしまったものだからね」

 

 いち早く気づいたマリアが振り返り、一度終わりにしようとラチェットもレニもカードを集める。

 

「ハカセ、今日は何を?

 いつもここに集まってはいるけど、ハカセが言い出すのは珍しい」

 

「レニの言うとおりね、何かあったの?」

 

「いや、その・・・ なんだ。

 俺達、婚約者になったっていうのに形やら立場のことはあれこれ動いてはいたが、他のことをしてこなかったと思ってな」

 

 玄治の言葉に四人は首を傾げ、玄治の言わんとしたことがよくわからずに四人を代表してかすみが問いかける。

 

「つまり、どういうことですか? 玄治さん」

 

「その・・・ 皆にこれを渡したい」

 

 掌大の小箱の中には丁寧に作られた柘植の櫛。

 その櫛の端にはそれぞれの名前に関する橘の花、かすみ草、天の川、鷲が彫られており、特注品であることは誰から見ても明らかだった。

 

「苦労も幸せも、俺と共に白髪になるまで過ごしてほしい。

 婚約の記念の品として、どうか受け取ってくれ」

 

 全員が驚きと喜びで言葉が出ず、それぞれが大切そうに櫛を持つ。

 そして、四人が視線を合わせて頷き、ポーカーで囲われていたテーブルの上にあった箱を玄治へと手渡した。

 

「これは・・・?」

 

「考えることは同じようね」

 

「開けてみてほしい、ハカセ」

 

 櫛と同じくらいの大きさの小箱の中には蓋つきの銀色の懐中時計。

 蓋を開けてみればそこには五人が共に映った写真が収められており、時計の裏面には鷹が、蓋の表は帝国華撃団の紋である巴紋が彫り込まれていた。

 

「私達もあなたと同じ時を刻みたいと思っているわ」

 

「・・・参ったな、本当に四人には敵わない」

 

「そんなことはありませんよ、玄治さん。

 私達も素敵な贈り物を頂けてとても驚いていますし、嬉しく思っていますから」

 

 かすみは大切そうに両手で櫛を胸元に寄せ、マリアも嬉しそうに目を細めている。ラチェットは櫛に彫られた鷲の模様を眺め、レニは壊れ物でも扱うように櫛をそっとテーブルに置いて見つめている。

 

「早速使わせて貰う。

 必ず、いつも身に着けて行動する」

 

 内側に貼られた写真を眺め、パチリッと蓋をしてベルト通しに引っ掛け懐中時計の本体をポケットの中へ入れる。

 

「私達もいつも傍におくわ」

 

「これなら楽屋でも使えるものね、皆に見せびらかすことになるかしら?」

 

「おい、やめろ。ラチェット。

 織姫に影響されて変ないたずら心を持ってくれるな」

 

 いたずら気に言ったラチェットの言葉に玄治は本気で冷や汗をかき制止をかけるが、ラチェットは舌を出して笑うのみだった。

 

「僕達も大切に使わせてもらう、ハカセ」

 

「あぁ、普段使いしてくれると嬉しい。

 らしくもなくいろいろ悩んだんだ、指輪とか、ブローチとか、ネックレスとか・・・ でも結局、普段から使えるものが良いと思ってな」

 

 舞台女優であるマリア達と普段から手袋をして仕事をしているかすみに指輪は避け、同様に装飾品の類を持ち歩くのは厳しいと判断した。

 それならばと普段使えるものから選んだ結果が櫛だった。

 

「私達も迷ったわ。

 あなたがどうやったら普段から持ち歩いてくれるか、をね」

 

「ハカセは意外と物をもたない。だから、とても困った」

 

「あー・・・ そうだな」

 

 レニから告げられた事実に玄治は認め、頷く。

 愛刀と写真以外は消耗品同然に使い潰すまで使って買い替えるのが玄治のモットーであり、やり方だ。

 そのため、長く持ってるものは案外少ないし、必要がなければ何かを買い足すということもなかった。

 

「最初は大神隊長の持ち物からヒントを得たわ。

 けれど、あなたは時計というだけじゃ持ち歩いてくれない可能性があった」

 

「そこでマリアさんがかつて使っていたロケットを思い出しました。

 私達は仕事柄どうしてもお互い常に傍にいるということは出来ません。でも、心は常に共にありたいと思っています」

 

「俺も同じ気持ちだ」

 

「えぇ、勿論わかっているわ」

 

 そう言ってマリアは櫛を持ったまま右手を自分の胸の前に置く。

 

「私達の心にはいつもあなたがいて、あなたの心にも私達がいる。

 どこにいても苦労と幸せを分かち合い、同じ時間を刻んでいる。

 愛しているわ、玄治。世界中の誰よりもあなたを」

 

「心からお慕いしています、玄治さん」

 

「I love you,Genji.」

 

「Ich liebe Sie,Doktor.」

 

 四人の愛の告白に玄治は胸がいっぱいになり、幸せなんだと実感する。

 

「あぁ・・・ 俺も愛しているよ」

 

 そう言って大切な婚約者達とのひと時を過ごし、それはそれはとても幸せな時間を過ごした。

 

 

 

 

 

 同じ頃、大神と玄関で待ち合わせしたはずのさくらが到着すると何故か他の面々も集合しており、平和になったというのに玄関が破壊されるという事態になったのはまた別の話。

 




中尉昇格と渡仏なんて・・・ 俺は 俺はどうすればいいんだ
行く以外の選択肢はないんだ お前は一体何を悩むんだ? 大神
げ 玄治 マリア達に告白してからお前は覚悟決まりすぎじゃないか?
『サクラ大戦 貴水玄治物語』第二部 最終話 『渡仏 そして たった一つの約束』
太正桜に浪漫の嵐!
俺は世界中のどこにいても必ずマリア達のいるところに戻ってくる
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