サクラ大戦 貴水玄治物語   作:無月

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俺の名は貴水玄治。
帝国華撃団 後方支援部隊 鳥組の隊長であり、山崎真之介の遺志を継ぐ者
大神は巴里で花組創設、俺は技術協力のためにフランス遠征に来た
『サクラ大戦 貴水玄治物語』 第三部 第一話 『欧州は花の都』
愛の御旗のもとに
さてさて、何が待ってることやら?



第三部
①欧州は花の都


 太正十五年四月末日、欧州フランスの巴里に二人の男が訪れていた。

 一人は白い軍服姿に身を包んだ海軍中尉、大神一郎。

 一人は紺のスーツを着こなした日本屈指の技術者、貴水玄治。

 二人を迎える巴里の空は見事な快晴、一か月にも及ぶ船旅に疲労を感じさせることなく慣れない巴里の街を眺めていた。

 

「ようやくついたな、大神」

 

「あぁ、俺はこれから巴里の日本大使館に着任届を出しに行くけど玄治はこれからどうするんだ?」

 

「俺はこれから巴里に確保している一軒家に向かう。

 それ以降はあちこちに向かわなきゃいけない」

 

「あぁ、船で言ってたよな。いろいろ研究するから一軒家を確保していたって。

 研究は主に何を?」

 

「欧州大戦で使われた霊子甲冑の解体、回収、調査をしなきゃいけない。それから日本以外の首都を調べる絶好の機会だ、逃すわけにはいかない。

 あと、キネマトロンの通信やら地続きの首都防衛についてとか・・・ こっちにいるからこそ試せることがいくらでもある」

 

 やることを指折り数える玄治に大神は『大変だな』と苦笑いする。

 

「それじゃぁ、ここで一旦別れなきゃなか」

 

「あぁ、まぁ巴里にはいるからたまに会うかもな。

 それじゃ頑張れよ、大神」

 

「ありがとう、玄治」

 

 そう言って大神と別れた玄治は、迫水典通と会わずに大使館の前から足を遠ざけていく。

 

「さて、まずは市場でも見てくるかな」

 

 そう言って画家の多いテルトル広場を通り過ぎようとした瞬間

 

「ぐはっ」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 玄治の右側からタックルのようにぶつかってきた赤いシスター服を纏った女性が、すぐさま謝罪を口にする。

 

「いや俺は大丈夫だが、そっちは大丈夫か? 結構な勢いでぶつかってきたが」

 

「はい! 全然大丈夫です! 慣れてますから!

 あっ・・・ でも、卵が・・・」

 

 慣れてるのもどうかと思ったが、玄治は頭一つ違う女性を見下ろして怪我がないかを確認する。だが、彼女が言った通り籠の中に入っていた卵はいくつかが無残にも割れている。

 

「悪いな、弁償しよう」

 

「いえ、私がぶつかったんですから・・・!」

 

「いや良いんだ、どうせこれから市場に行こうと思ってたんだ。気にしなくていい」

 

「あなたってとても親切なんですね!

 市場ってことはどこかお店を出されてる方ですか?」

 

「いや、違うが・・・ 用があって巴里に来たばかりなんでね、市場で食材を見たくてね」

 

「あぁ、わかりました!」

 

 合点がいったとばかりに女性が手を叩き、玄治を指さした。

 

「イタリアから来たコックさんですね!」

 

「悪いな。よく間違われるが俺、日本人なんだ。コックなのは当たりだけどな」

 

「えぇ~!? とても日本人には見えません。あっ、ジョークですね? イタリアンジョーク。

 あっ、ごめんなさい。私、この街の教会でシスターをやってます。エリカ・フォンティーヌです」

 

 日本人であることをジョークと流され、名乗られた名前に玄治が驚くがそれをおくびにも出さずに自分も名乗る。

 

「俺は玄治、貴水玄治だ。この街でうまいパンを習いに来た。

 よかったら市場を案内してもらってもいいか?」

 

「タカミさんですね! 覚えました! 市場はこっちですよ!」

 

 エリカに手を引かれるが、そこで教会の鐘が鳴る。

 

「あっ、ごめんなさい・・・ タカミさん。

 私、この後用事があったんでした」

 

「気にするな、あとこれ大体で悪いが卵代の足しにしてくれ」

 

「えっ・・・ お、多いです! タカミさん」

 

「じゃ、多い分は教会への寄付ってことにしてくれ。それじゃな」

 

「はい、また!」

 

 当然のようにまた会えるかのように告げるエリカにまた驚かされ、駆けていくエリカの後ろ姿についつい帝都の妹分たちを思い出し声をかけてしまう。

 

「こけないように気を付けるんだぞー」

 

「はーい!」

 

 元気に駆けていくエリカに一抹の不安を感じつつ、玄治はそのまま市場へ足を向ける。市場は人と活気にあふれ、新鮮な果物や野菜、チーズやパンが並んでおり、玄治はその眺めを見て目を細めつつ家で料理をするためにいくつかの食材やらすぐに食べられるものを買い込んでいく。

 

「こんなもんかな・・・ そろそろ家に向かうか」

 

 巴里の仮の巣である町はずれの一軒家に向かえば、無駄に広い敷地内に一人で入っていく。使用人等を雇うことはしなかったが、事前にライラック伯爵夫人が手を入れてくれたのか綺麗に掃除がされている。勿論、事前にいくらかを支払って生活に必要なものもある程度揃えられており、玄治は買い込んだ食材等を片付けキッチンの椅子に腰かけて一息ついた。

 

「地下の確認もしなきゃな・・・」

 

 事前に運ばれたのは生活にかかわる物だけではない、玄治の仕事道具である基本的な工具や材料、設計図。ほとんど帝都の部屋と変わらない機能を所持したものを地下室にも用意されている。

 懐から小型のキネマトロンに連絡がないことを確認し、さらにポケットの中から懐中時計を開いて婚約者達との写真を眺める。写真の中の四人につい笑みが零れ、玄治は疲れが癒えたとばかりに立ち上がる。

 大きな振り子時計に隠された地下室の扉を開いて地下へ向かえば、モニターと共に駅のような格納庫の中にボロボロの霊子甲冑が安置されていた。

 

「よぉ、初めましてだな・・・」

 

 物言わぬ彼らに妹弟子流に挨拶をしても、返事は当然帰ってこない。

 その格納庫の隣には前もって作っておいた物や、リボルバーカノンの設計図やこちらの光武である光武Fの増強パーツについての模索案が書かれている。

 

「さて、そろそろ報告しないとな」

 

 帝都へ連絡するためにモニターを繋げれば、帝都の作戦指令室はまだ朝の三時だというのに画面にラチェットが映った。

 

「ラチェット、そっちは夜の十九時だろ? 休まなくていいのか?」

 

「あら、休むのには早すぎるし、こんな時間だとわかって連絡をしたあなたが言うの?

 玄治、あなたのことなんて私達にはお見通しだわ。あなたがいつこちらに連絡を取ってもいいように、仕事以外の時は交代でここに来ていたのよ」

 

「おいおい、今度からはそっちが夕食を終えた頃に連絡を取るようにする。だから、そんなことしなくていい」

 

「したいようにするわ。私達はいつだってあなたの声が聞きたいし、顔が見たいのよ」

 

「・・・敵わないなぁ」

 

 ついつい嬉しくなって口癖がついて出るが、ラチェットは微笑んで言葉を続けた。

 

「それでこの後は例のお店でライラック夫人との対談かしら?」

 

「あぁ、鉄壁の迫水とはまた今度な。

 大神は今頃欧州博覧会でも見てるんじゃないか?」

 

「あまり夫人を脅しちゃ駄目よ?」

 

「向こうの考え次第さ、俺の主張は変わらない」

 

 互いに笑顔のままだというのにどこか恐ろしさを感じるのはなんなのか、答えてくれるものはそこには居ない。

 

「赤チビには随時データをそっちに送るって伝えといてくれ。

 リボルバーカノンの設計についてもだが、都市エネルギーを利用した防衛についても実験する予定だからな」

 

「あんまり危ないことしては駄目よ?」

 

「守るための実験なら安全さ。

 これが攻撃に転じた時は緊急事態だから不可抗力だ」

 

「はぁ・・・ 本当に無理してでも私かマリアがついていけばよかったわね」

 

「それが無理だってわかってるだろ?

 例え別行動していても花組の誰かが傍にいたら大神は頼っちまうし、帝都花組と比べるだろう」

 

「あなたが今回、表立って動けない理由と同じね」

 

 溜息と共に伝えられた事実に、玄治は頷く。

 

「ライラック伯爵夫人や迫水にとって、俺がどんだけ邪魔かはわかってるつもりさ」

 

「邪魔というより厄介で扱いずらいのよ、あなたは」

 

 ラチェットの発言の真っ最中、玄治の懐のキネマトロンが鳴り響く。

 

『1915にシャノワールにて待つ』

 

「早速、対談の時間が送られてきたな」

 

「それならその時間まではしっかり仮眠を取って頂戴。

 どうせ、夜は動くんでしょう?」

 

「あぁ、そうだな。仮眠でも取るか。

 それじゃおやすみ、ラチェット」

 

「おやすみ、玄治」

 

 あくまでいつも通り通信を切り、玄治は少しでも休みを取るため寝室で横になった。

 

 

 

 

 

 玄治は十九時の十分前にシャノワールを訪れる。まだ時間より早いためブラブラと店内を見て回れば、ちょうどレビューの時間らしく客席に人が集中している。一階の混み具合を見て二階に足を向ければ、見下ろす形になって一階客席に迫水と大神の姿を見て存在感を消しながらレビューへと目を向けた。

 二人の猫耳をつけた司会者の紹介を聞きつつ『黒猫のワルツ』を踊る女性の中に、昼間に出会ったエリカを見つけて口にしていたお冷を噴き出しそうになる。思わず咳き込んでしまい、他の客の迷惑にならないように必死に音を殺す。

(嘘だろ・・・ ダンサーなのかよ)

 昼間のドジっぷりが脳裏に浮かび、帝都にいる喧嘩に真剣を持ち出す物騒な妹を思い出す。

 が、案の定エリカはステージ上でドジをやらかし、見事にこける。慌てて閉められるカーテンに何かが引っ掛かったのに気づいて小道具担当としてついつい目が行ってしまう。

(あー・・・ 破れたなあれは。

 繕えば使える気もするが、ステージの目立つところだから無理か。買い替えだな)

 仕事病だと自覚しつつ、他の客達の喜びようを見る限りいつものことなのだろう。一階の客席を見れば迫水が大神にライラック伯爵夫人を・・・ 否、この場では支配人であるグラン・マが先程の司会者である二人のメイドを連れて紹介されている。

 対談のため酒を飲めない理不尽を感じながら、二階にいる客にブルーメール家のご令嬢が混ざっているのが目に入った。

 が、プライベートだと判断して声をかけることもなく立ち去り、売店の方へ足を向ける。帝都の売店と同じでブロマイドやオルゴールなどが売られ、売店にはさっき見た司会者の髪の長い方が立って客を捌いていた。

 

「すまない、一つ訪ねたいんだが」

 

「はーい、いらっしゃいませぇ。どうかなさいましたか?」

 

「支配人室はどこだろうか? 十九時十五分に約束した者なんだが・・・」

 

「お話しいただいている貴水様ですね、こちらです。ご案内します~」

 

「すまないな、接客中に」

 

「いいえぇ~。

 では私、シー・カプリスがご案内しま~す」

 

 慣れた手つきで売店を後にし、シーに従っていけば店内のエレベーターが見える辺りまで来て扉を開いた。

 

「こちらですぅ~」

 

「シー? 今は売店の時間じゃ・・・ そちらの方は?」

 

「十九時十五分にお約束の貴水様、ご案内しましたぁ~」

 

 シーがそう言えばメルと呼ばれたさっきの司会者の片割れが頭を下げ、少々お待ちくださいと奥の支配人室へ入っていく。

 

「確認が取れました。どうぞお入りください」

 

「あぁ、ありがとう」

 

 支配人室に入るとグラン・マが椅子に座っており、玄治は頭を下げることはなく、向き合う。

 大恩ある帝都の米田ならいざ知らず、技術協力をしている玄治とそれを受けているグラン・マは対等である。

 

「巴里へようこそ、ドクトル貴水。

 二階にいたのは気づいていたよ。どうだい? ウチの店のレビューは」

 

「お招きいただきどうも、ライラック伯爵夫人。

 あぁ流石に素晴らしいな、欧州の花の都は」

 

 先程のドジっぷりが脳裏によぎり、どうにか誉め言葉らしいものを絞り出すがグラン・マはそれを見透かすように視線を鋭くさせた。

 

「お気に召さなかったかい?」

 

「いや、俺は正直仕事ばかりでね。演劇も、ダンスも見る目がないんだ。気を悪くしたら申し訳ない。

 それに、俺との対談を望んだのはそんな話をするためじゃないだろ?」

 

 肩をすくめて返せば、グラン・マもいまいち納得していない顔で頷く。

 

「ドクトル、あんたには首都の防衛の技術協力、それから霊脈等の調査を行って欲しい。

 その代わり、こちらはあんたに可能な限りの便宜を図るよ」

 

「勿論、こちらに否はないさ。技術協力はこちらにも利があるし、他の国を調べる許可はそうそう得られるもんじゃない。

 だが、一つ言っておきたいことがある」

 

 玄治の目は冷たく光り、グラン・マを推し量るように見つめる。

 

「光武が壊れたら直せばいい、技術が負けたら改善すればいい。

 必要な力も、技術も、知識すらも俺は協力を惜しまない」

 

 玄治はそこで言葉を区切り、日本人離れした蒼い瞳がグラン・マを射抜く。

 

「だがそれは全て、前線に立つ花組のためだ」

 

 それは玄治によるグラン・マへの宣言だった。

 

「俺はあんたや鉄壁の迫水のように国に仕えてるわけでもなければ、大神のように正義はない。

 俺が守りたいのは国でもなければ、都市でもない。

 花組であり、山崎の遺志だ。

 かつての大戦のように隊員を使い潰すような使い方をしてみろ、その時は俺が黙っちゃいない」

 

 最後にバンッとテーブルを叩けば、グラン・マも玄治から目を逸らさない。彼女もまた何かを覚悟している者だと、それだけで伝わってきた。

 

「肝に銘じておくよ、ドクトル。けどね、あんな悲劇を招きたくないのは私だって同じさ。

 死んだ者の遺志を継いでいるのだってね」

 

「欧州の貴族が山崎の弟子である俺を信用しきれないように、俺が何もなしであんたを信じることは出来ない。

 だから、俺達の間では契約が必要なんだろ?」

 

 霊子甲冑がなければ、家族を失うことがなかったと恨み嘆く欧州の貴族。

 欧州大戦がなければ、師が狂うことはなかったと許すことは出来ない玄治。

 二つは本来平行線、それが交わったのは首都防衛という使命と花組のためという互いの利害が一致したために過ぎない。

 

「あぁ、そうだね。これであたし達は契約完了だ」

 

 そう言って握手を求めるグラン・マの手を玄治は問う。

 

「手はお互いに信頼が出来る者が触れる場所だ、ライラック伯爵夫人。

 俺とあんたはそんな仲じゃない」

 

「手厳しいねドクトル、けれどその通りだ。

 でも、お互い歩み寄る努力はすべきだろう?」

 

「・・・悪いが、俺は技術者だ。大切な手を預ける相手は選ぶ。

 あんたが俺を見定めているように、俺もあんたを見定める時間がいる」

 

「固いねぇ、ムッシュ大神よりもずっとあんたのが堅物だ」

 

「そうかもしれないな。俺には誰でも信頼して、懐に入れる器の大きさはない。

 けど、だからこそあんた方は大神を巴里に呼んだ。巴里には大神の力が必要だ。

 そして断言しよう、大神は必ずこの国を守り、巴里華撃団を立派に創り上げるとな」

 

「世界の貴水にそこまで言わせるんだ、期待しているよ」

 

「それじゃ、俺はこれで失礼する。

 夜の巴里も歩いてみたいんでね」

 

 そこで玄治は身を翻し、扉の方へ向かう。

 

「あぁ、何かあったらキネマトロンに連絡をいれるさ」

 

「了解した。

 必要な調査があれば喜んで協力しよう、いつでも連絡をくれればいい」

 

 そう言って支配人室から出ていけば、そこには他の仕事をこなしていたメルが頭を下げる。

 

「これからも顔を会わせるだろうから名乗らせてくれ、俺は貴水玄治。地下の関係者だ」

 

「オーナーのメイドの一人、メル・レゾンです。

 貴水博士のことはオーナーからも伺っておりますので、地下に降りる際も問題はありません。ですが、こちらに一度顔を出していただけると幸いです」

 

「あぁわかった、ありがとう。それじゃ失礼する」

 

 軽く会釈をして秘書室を後にすれば、ちょうどシャノワールを見て歩いていた大神と顔を会わせて互いに目を丸くした。

 

「玄治もここに来てたのか?」

 

「あぁ、ここのオーナーと少し知り合いでな。挨拶に来たんだ」

 

 当たり障りのない内容だけを口にすれば、大神も頷いた。

 

「そうか、玄治は欧州の貴族とも顔を会わせているんだものな。こういう店にも来ててもおかしくないか」

 

「おい大神、誤解を招くようなことを口にしてくれるな。加山じゃないんだぞ」

 

「それはそれで偏見が過ぎないか、玄治」

 

「いやもし巴里に来たら嬉々としてここに来るだろ、あいつ派手好きだし」

 

「ハハッ、そうかもしれないな」

 

「それじゃ俺はこれから夜の巴里で一杯飲んできたいんでね、またな大神」

 

 苦笑いな大神の肩を叩いて、そのままシャノワールを後にする。

 まだ温かい春の夜を感じながら、玄治はふと呟く。

 

「そういえば・・・ 桜のない春なんて久しぶりだな」

 

 

 

 

 

 大神が早朝からカフェを騒がせている頃、玄治はゆっくりと目が覚ましていた。昨日市場で買ったパンにチーズとハムを挟み、紅茶で流し込みながら望遠鏡を完成させる。

 

「これでよし、それから・・・」

 

 カチャカチャと機材をいじりながら、数年前から考え船上にて完成させた霊力計測機を横に置いておく。

 

「どっか適当に修業出来るパン屋とかねーかな・・・ いや無理か、来れる時しか出勤しないとか俺が店主だったら怒り狂うな」

 

 簡単クロワッサンサンドを流し込み、散歩を兼ねて外に出ていく。

 愛刀と望遠鏡そっくりな霊力計測機とある装置を鞄に入れ、巴里の街を歩き出す。

 目的地はないが、巴里のあちこちに霊力計測機を向けて眺めつつ霊脈の流れを手帳に記していく。

 

「ここは墓地、か・・・」

 

 街を見下ろせる場所をと探していたら墓地へと行きつき、玄治は広場のひと際大きい慰霊碑に手を合わせた。

 

「すみません、日本の方ですか?」

 

「ん? あぁそうだが・・・」

 

 声のする方向に顔を向けると、まるで喪服のような真っ黒な服を着た黒髪の女性が立っていた。

 

「すみません、墓への手の合わせ方が日本の物だったので。

 背格好だけではこちらの方かもしれないとは思ったんですけど」

 

「いや、よくわかったなと思ってな。先日、イタリア人に間違われたばかりでね」

 

「そうなんですね。

 申し遅れました、私は北大路花火と申します」

 

「俺は貴水玄治、北大路ということは北大路男爵の縁者か」

 

「はい、おっしゃる通りです。

 貴水・・・ 日本の有名な技術者の方がこちらにいらしてると聞きましたが、まさか貴水博士ですか?」

 

「まぁそうなんだがあまり気にしないでくれ、巴里で偶然出会った同じ日本ゆかりの者とでも思ってくれた方が助かる。

 あまり有名になると行動しづらくなるからな、ここに来たのだって個人的な縁あってのことなんだ」

 

「慰霊碑に、ですか・・・」

 

「技術者として、かの大戦は無視できない出来事だからなぁ」

 

 そう言って慰霊碑へと視線を向ければ、花火も手を合わせる。

 

「死者を悼む、惜しむことに国境はない。

 それほど誰かを想えることはとても幸せなことだ、と俺は思う」

 

「私も・・・ そう思います」

 

 同意してくれた花火に視線を向ければちょうど視線が合い、互いに目元を緩める。

 

「それじゃ俺はこれで」

 

「はい、もし機会があれば日本の話を聞けたら幸いです。貴水さん」

 

「あぁ、俺が知ってることでいいなら。失礼するよ、北大路さん」

 

 墓地を後にして次は図書館に行くかと足を向ければずらりと並んだ本に圧倒され、同時に沸き立つような気持ちになりながら、フランスの歴史が書かれている棚へと向かい読みふける。

 フランスの歴史、フランス料理の本、大戦について書かれた手記などを読んでいる教会の鐘が鳴り、顔をあげた。

 

「時間が足りなさそうだな、家で読むか・・・」

 

 司書に借りられる最大数を尋ね、目的に沿った本を棚から抜いていく。教会の鐘が十三時を告げ、突然の雨が窓に当たっていく。

 

「雨、か・・・」

 

 薄暗い雲を見ていると、良い思い出がないことを思い出す。

 かつて葵叉丹と向き合った時も、サキと戦った時も雨だった。

 

「通り雨だといいんだがな・・・」

 

 幸い雨脚は弱まりすぐに止みそうだが、図書館の入り口に立って空を見る。

 

「大丈夫そうだな、そろそろ行くか」

 

 ようやく止むという直前に歩き出せば、似たような人が街にあふれていた。雨上がりの土と空気の乾く匂いを感じながら、住処としている町はずれに足を向ければ市場を横切ろうとした瞬間、先日同様横腹に衝撃が走る。

 

「おっと・・・」

 

「すみません! ってあれ? タカミさん?」

 

「あぁなんだ、エリカか」

 

 見下ろせば少し雨に濡れた姿のシスター服のエリカが立っており、今度は幸い何も持ってないことに胸をなでおろす。

 

「えへへ、さっきも良いことがあって、昨日会った親切な人にまた会えるなんて今日はとっても良い日です!」

 

「そうかそうか、そりゃよかったな」

 

 嬉しそうに笑うエリカの頭をおもわず撫でてしまい、エリカはまた嬉しそうに笑う者だから玄治も笑う。

 

「あっ、私これから用があるんでした!

 タカミさん、またお会いしましょうね!」

 

「まぁ縁があったらな、こけるなよ」

 

「はーい!」

 

 そこで玄治はエリカと別れ、今度こそ家で読書を勤しむのだった。

 

 

 

 

 玄治が読書を勤しんでる最中キネマトロンに連絡があり、ライラック伯爵夫人のパーティ会場に怪人が現れたことを伝えられ、遠目からシゾーとポーンの配置を報告しつつ巴里華撃団花組の初舞台を見守る。

 

「初舞台が凱旋門のお膝元とは偶然とは怖いなぁ、大神」

 

 大神の慣れた指揮の元、ポーンたちを無事に倒していく。

 が、花組があっさり倒していく姿を見たからか巴里の市民たちが怪人をおちょくりだ

す。

 

「・・・馬鹿なのか? あの貴族」

 

 望遠鏡で貴族の男の特徴を見て、顔をしかめてしまう。

 

「あぁ、日本人を毛嫌いしてたあのアホな男か。なんだっけ? ダニエル・ベルモンドだったか?」

 

 案の定おちょくる巴里市民を怪人が許すわけがなく、巴里市民に銃口が向き発射される。それを躊躇なく壁になる大神に玄治の足が動き出そうとするが、大神の声が玄治の元まで聞こえてくる。

 

「貴公には日本人としての、男としての誇りというものがないのか!」

 

「日本だろうが、巴里だろうがそんなものは関係ない!」

 

「何・・・!?」

 

「全ての人々の幸せを、平和を守るために戦う・・・ それが俺の誇りだ!」

 

 その言葉に、玄治は一人で笑ってしまう。

 

「あーぁ大神だなぁ、それでこそお前だよ。

 狭量な俺には出来ない、お前そのものだよなぁ」

 

 望遠鏡で蒸気獣・プレリュードを始めとしたポーン達の特徴、戦い方をメモしていきながら、無事戦いを終えた姿を見届ける。そして、花組特有の締めくくりを二人に教えている姿を見てまた笑う。

 

「ハハハハ! あいつ、こっちでもあれを定番にするのか! 最高だよ、本当に」

 

 他の二人が戸惑ってポーズを取らない中で大神一人がポーズを決める姿に玄治は笑いが止まらず、涙すら零してしまう。

 

「ふぅ・・・ さて、俺はさっさとこの報告書を仕上げてシャノワールと帝都に送るとしますかね。

 大神、俺はいつでもお前達花組を見守ってるから、安心して戦ってくれ」

 

 いつものように傍で支えられないが、少し遠くからでも大神を支える気持ちは変わらない。

 見えてなくても信頼は、愛情は消え失せないことを帝国華撃団は知っている。だから、いつもより遠い空から花を見守る鳥がそこには居た。

 




新隊員探しか 大変だな 大神
他人事みたいに言わないでくれよ 玄治
えっ イチローとおじちゃんって知り合いなの?
次回 『可愛い手品師』
愛の御旗のもとに
さぁ 楽しい追いかけっこの始まりだ
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