サクラ大戦 貴水玄治物語   作:無月

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②可愛い手品師

 翌朝、玄治は私室で帝都と通信を楽しんでいた。

 

「というわけだ、早速大神は巴里華撃団に勝利のポーズを教えてたぞ」

 

「ふふっ、大神さんらしいですね」

 

 かすみとの談笑に笑みをこぼす玄治にマリアが扉から入ってきた。

 

「玄治、おはよう。そちらは昼すぎかしら?

 今日の仕事はもういいの?」

 

「あぁ、おはよう。いや、今は図書館の蔵書を読み漁っている真っ最中さ。

 ここが終わったら次は貴族たちが持っている蔵書に手を付けていく。それからそろそろ大戦の霊子甲冑解体も始めていくつもりだ」

 

「紅蘭の手を借りなくて大丈夫なの?」

 

「本来なら俺よりも光武に詳しいあいつがやるべきなんだろうが、情報共有しつつ何とかやってみるさ。

 光武Fの増強パーツもそっちで開発を進められてるから、その報告も兼ねてこっちの整備班にも顔を出すかな」

 

 先日の報告書もシャノワールにあげなければならないことを考えれば、ちょうどいいだろう。

 

「そうね、その方がいいでしょう。

 ただあなたが欧州とうまくやれないことはラチェットも心配していたわ、あなたから軟化することも大切だわ」

 

「耳が痛いな・・・ わかった、努力しよう」

 

 マリアとラチェットからの忠告を受け、玄治も素直に受け取る。

 

「さて、そろそろ舞台の練習もあるからもう行くわ」

 

「私も事務仕事に戻ります。またお話ししましょう、玄治さん」

 

「頑張れよ、二人とも」

 

 通信を切って、すぐ寂しい気持ちになるのを振り払い、先日の報告書をまとめて鞄に突っ込む。

 

「さて行くかな」

 

 そう言って立ち上がり、一軒家を後にした。

 

 

 

 

 

 一方その頃、シャノワールでグラン・マから華撃団や光武Fについて話を聞いた大神が何気ない疑問をグラン・マへと投げかけていた。

 

「支配人、玄治は・・・ 貴水博士の協力はないんですか?」

 

「あぁ、ムッシュはドクトル貴水とトーキョーの花組で共に戦ったんだったね。

 彼とは技術協力や調査を担当してもらうつもりさ、事実先日の怪人達の配置なんかの事前情報は彼からだよ」

 

「ならば、どうして自分のようにシャノワール所属ではないんですか? その方が何かとやりやすいと思うんですが」

 

 大神の追及にもっともだとグラン・マも頷くが、その疑問に答えるように口を開いた。

 

「日本じゃどうか知らないが、欧州ではドクトル貴水は・・・ いいや、正確に言えば彼の師である山崎真之介はよく思われていないんだ。

 欧州大戦で多くの人を殺し、家族を奪ったスターの量産を可能にさせた彼を憎む者は多いのさ」

 

「そんな・・・ けどそれは山崎さんがしたことじゃ」

 

「あぁ、本当は皆わかってるのさ。自分達が選んだことだってね。

 けどね、霊力を持つ多くの貴族があれによって戦争に送られて帰ってこなかったのは事実であり、行き場のない怒りを向けるのも仕方ないことなのさ。

 ましてや、ドクトル貴水もドクトル山崎も日本人だ。

 ムッシュだって先日思い知っただろう? ここ欧州で日本人の立場がまだまだ弱い。見下していた日本人に技術力を負けたことを認めたくない、自分の家族を奪われたことを理不尽に感じる連中が多いのさ」

 

「だから、玄治が表立って欧州の巴里華撃団に所属するわけにはいかないということですか」

 

「その通りさ。

 軍人であるムッシュの大義名分はどうとでもなる、何よりアンタの功績は表立ったものじゃないからね。トーキョーのモギリが巴里のモギリになっても問題はないのさ」

 

「そ、そうですね」

 

 東京のモギリが巴里のモギリの辺りに大神の心が挫けそうになるが、大神は笑って誤魔化した。

 そこでグラン・マが席を立って去っていく中、メルとシーが残って大神に何か聞きたそうにしていてついにシーが口火を切った。

 

「大神さぁん、一つお聞きしてもいいですか?」

 

「なんだい、シーくん」

 

「メルが聞きたいことがあるみたいで」

 

「ちょっとシー、そんな誤解を招くような言い方・・・」

 

「だってぇ、メルがそんなに男性のことを気にするなんて珍しいんだもん。

 ねぇ大神さん、貴水博士ってどんな方なんですか?」

 

 シーの誤解を招くような聞き方にメルが咳払いして訂正する。

 

「ドクトル貴水の功績は広く知れ渡っていることですが、想っていたよりずっと若い方だったので驚いてしまって・・・ 今後、私達はやり取りすることが多いことを考えると大神さんからお話を伺っておきたいと思いまして」

 

「あぁ、そういうことか。

 玄治は俺の親友だよ」

 

 二人の意図を理解して、大神は良い笑顔で宣言する。

 

「玄治は俺達華撃団の前身である対降魔部隊の四人の直弟子にして、十歳前後で四人と共に刀を手にして生身で降魔と戦っていた歴戦の猛者なんだ」

 

「対降魔部隊って、トーキョーの米田司令とドクトル山崎が所属していたという秘密部隊ですよね。まさかそんな幼い頃から」

 

「あぁ、玄治は降魔の襲撃で家族も家もそして記憶も、全部失ってしまったんだ。

 だから、米田さん達が育ての親であり、全てを教えた師でもあった」

 

 玄治の悲しい過去に触れながら、大神は固く拳を握って語り続ける。

 だから、メルが真面目に頷くのとシーがやや引いていることに気づかない。

 

「その後も花組が結成されるまでの間、師である山崎さんの遺志と技術を継いで様々な発明をし、紅蘭と一緒になって光武を完成させたんだ。

 俺が花組の隊長になってからも影に日向に花組を助け、刀を握れば一騎当千、技術と知識は才気煥発、その心はまさに精明強幹。

 俺達花組が万全に戦えて来れたのは風組を始め、鳥組隊長である玄治の支えあってのものなんだ」

 

「でも、とてもじゃないですけど先日会った時はそんな風に見えなかったですよ? 大神さん。

 スーツを見事に着こなしていて、フランス語だって流暢で、それにとても大神さんと同じ日本人には見えない身長と瞳をしていますよね?」

 

 シーの素朴な疑問に、大神は首を振ってさらに熱く語っていく。

 

「玄治の出自はさっき言った通り正直わからないままだけど、スーツの着こなしや社交は努力によるものだよ。

 神崎重工の技術者として、山崎さんの弟子として一年間世界を旅していく中でその立場に恥じないように、言葉も礼儀も身に着けたんだろうね」

 

「凄い・・・ 自分自身に驕ることなく努力を続ける素晴らしい方なんですね」

 

「あぁ、それに凄く仲間想いなんだ。

 東京の花組を妹のように、俺もまるで弟のようによくして貰って、俺達のことを命懸けで守ってくれるし、叱ってくれる。迷った時には相談に乗ってくれたり、笑わせてくれるんだ」

 

 満面の笑みの大神にシーが引き、メルが感動したように聞き入っているとシーが言いにくそうに言った。

 

「その~こっちが聞いといてあれなんですけど、流石にそこまで熱く語られると引きますよぉ。大神さん」

 

「えっ!?」

 

「だってぇ、親友とはいうよりまるでファンみたいですよ。それじゃぁ」

 

「そうかな・・・ そうかもしれないなぁ」

 

「えっ、納得しちゃうんですかぁ? 大神さん」

 

「でも、自分にないものを持つ親友に対してはそう思うこともあるんじゃない? シー」

 

「・・・それってつまりぃ、メルも私に対して憧れたりしてるってこと?」

 

「も、もう! 大神さんに貴水さんの話も聞けたんだからもういいでしょう!

 大神さん、ありがとうございました」

 

 シーの問いかけに逃げるように指令室を去っていくメルを、シーが追いかけていく。

 

「あっ待ってよー、メル。大神さん、お話しありがとうございましたー」

 

「あぁ、俺も楽しかったよ」

 

 そこで大神も席を立ち、隊員としての初めての自由活動へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 大神がシャノワールを後にして街に出ていくのと入れ違いで玄治がシャノワールに入れば、昼間は売店のみだからか人は少なかった。

 

「ふむ。まぁ、人がいないのは好都合か」

 

 カツカツと秘書室の方に足を向ければ、エレベーターの方に姿を消すメルの姿を見て玄治は何故か気になり追いかけてしまう。玄治がちょうどエレベーターにつくと大きな荷物を持ったメルを見つけ、玄治は何も言わずにその荷物を取り上げた。

 

「えっ・・・? あっ、ドクトル貴水。か、返してください」

 

「この重さじゃ一人で持つのは辛いだろ、どこまで持っていくか先導してくれないか?

 俺、あんまりここの店内を歩いてないから客室と秘書室、売店ぐらいしか場所を知らないんだ」

 

「こ、困ります! お客様に力仕事をさせるなんて・・・」

 

「困ってる人を放っておいたら親友に会わせる顔がないんでね、それは俺が困るんだよ。いいから手伝わせてくれ」

 

「・・・すみません、ありがとうございます。

 本当に大神さんと親友なんですね」

 

「ん? あぁ、大神から何か聞いたのか」

 

 メルから奪った荷物をしっかり持ちつつ玄治が笑えば、メルは頷く。

 

「はい、大神さんからお聞きしました。対降魔部隊からずっと戦っておられると。

 花組を影に日向に支えてくれて、頼りになる兄のような存在だと言っていました」

 

「ハハハ、それは過剰評価だな。俺は好き勝手にやらかしただけさ。

 俺よりも大神の方がずっと凄い。あいつはいつも仲間のことを気に掛けていて、人のためにいつだって必死に行動できる優しさと勇気がある。

 正義を掲げてまっすぐに、平和のために走っていけるんだ」

 

「ふふっ、良い友人同士なんですね」

 

 そこで秘書室につき、玄治は荷物を降ろしメルに報告書を手渡した。

 

「俺よりずっと大神の方がしっかりしてるけどな。

 これが先日の報告書だ、ライラック伯爵夫人に渡してくれると嬉しい」

 

「わかりました。お預かりします」

 

「それとこれから地下に入る。整備班にも渡したい書類があるんだ」

 

「わかりました。どうぞお入りください」

 

「ありがとう。それじゃ」

 

 必要なやりとりをして玄治はエレベーターから地下に向かえば、ジャンと整備班の者達が動き回っていた。

 

「どうも、ジャンさん」

 

「あぁ、あんたがドクトル貴水か。今日はどうしたんだい?」

 

「お互い、そろそろ顔合わせておいた方がいいと思ってな」

 

「そうだな。っていっても資料で散々やり取りしてて初めて会った気がしないな。

 アンタと紅蘭さんの技術の凄さは俺達がよくわかってる。本当に助かってるぜ」

 

 ジャンの感謝の言葉に対し、玄治は特に反応を示さず光武F達を見渡していた。

 

「素体の方の調整はどうなっているか聞いても?」

 

「あぁ、特殊攻撃にも対応した個体の他にトーキョーの花組を基にした近距離や遠距離の個体を作る準備は出来てるぜ。あとは隊員本人から聞いて調整していく感じだな」

 

「なるほどな。

 紅蘭からの増強パーツ模索案については聞いてるか?」

 

「情報としては聞いてるが、まだ必要ないんじゃないか?」

 

「戦力が十分とは言えないなら、機体の強さをあげられるなら上げるに越したことはないだろ。

 いつ何があるかわからない、技術屋の俺達が備えないわけにはいかない」

 

 ジャンにいくつかの書類を渡しつつ、玄治の言い分は厳しくなる。

 

「厳しいな、あんたは」

 

「同じ技術屋だからな、厳しい意見が来ることは覚悟の上だろ。

 第一、今後は俺と紅蘭の意見がなくてもいいようにするのがここの役目でもあるんだ。俺はあんたらを鍛える立場にある以上、厳しい目で見ていくさ」

 

「もっともだ、これからもよろしく頼む」

 

 頭を下げるジャンに玄治の方が面を喰らい、どうしたものかと一瞬迷ってしまう。

 

「・・・この巴里で俺が出来るのは協力ぐらいで、直接的に支えてやることが出来ない。

 だからどうか花組を、大神のことを支えてやってほしい」

 

 そこでジャンに向かって頭を下げ、玄治が頭をあげるとジャンが良い笑顔で笑っていた。

 

「任せてくれよ、ドクトル」

 

 そこで手を伸ばされ、玄治はその手をしっかりと握り返した。

 

「お互い良い仕事をしましょう」

 

 そう言ってジャンと笑顔で別れ、玄治はシャノワールから出た。

(改めて、間近で大神を助けられないってのは慣れないなぁ・・・)

 常に行動を共にしていたわけではないが、これまでは生活を共にしていた花組と行動を共にしていたのは違和感を覚えてしまっている。

 

「あっ、タカミさーん! 教会で懺悔していきませんか?」

 

「おっとずいぶん積極的なシスターだな?」

 

「はいっ! 私、困ってる人がいたら積極的に向かっていくお節介なシスターなんです!」

 

「じ、自分で言うのか・・・」

 

 満面の笑みで告げるエリカに押されながら、物理的に背中を押されだす。勿論玄治が全力で抵抗すればエリカが押すことは不可能なのだが、戸惑いやら驚きやらで玄治はうろたえている。

 

「タカミさんってば昼間からこんなところうろうろしていて、まだ働くお店を決めてないとか、生活に困ってるとか、後悔することたくさんありそうじゃないですか。

 さぁどうぞ、告解室へ」

 

「おお・・・ 斬新な勧め方だな」

 

「すみません、ムッシュ。ウチのシスターが何か?」

 

 黒い神父服を纏った老人が声をかけてきて、玄治は苦笑いを浮かべるしか出来なかった。

 

「あっ、神父様。この方が懺悔をなさりたいというのでお連れしました」

 

「そう、なのですか?」

 

 戸惑う神父にエリカは姿を消し、玄治の苦笑いに気づいたのか、声を押さえて訪ねてくる。

 

「申し遅れました、私はこの教会の神父のレノと申します」

 

「あぁご丁寧にどうも、俺は貴水だ。巴里には料理の修行に来ている」

 

「その・・・ 言いにくいのですが、エリカさんに強引に連れてこられたのではないでしょうか?」

 

「いやまぁその通りだが・・・ 懺悔もしたことないし、いい機会だと思うことにします」

 

「あぁ、心の広い・・・ ありがとうございます」

 

 何故か感謝を告げられ、玄治は告解室に案内される。

 狭い部屋の中、格子の向こう側には担当者なのだろうかシスターがいることがわかる。

 

「よく来られましたね。今日は私があなたの罪をお聞きします。

 迷える仔羊よ、さぁ罪を告白しなさい」

 

 何かないかと思いつつ、グラン・マやジャンに対して警戒心を抱いていたとはいえ言葉も態度もきつかったと反省すべきだと判断する。

 

「人見知りが激しいこと、ですかね・・・

 つい最近この国に来たんですが、どうにも緊張してしまって」

 

「そうなんですか?

 私も最近この国に来た人とお友達になりましたけど、とっても親切で良い人ばかりなんですよ」

 

 明るい声で返され、玄治はその声の主にすぐ思い当たりつつも知らぬふりをする。

 

「だから大丈夫ですよ、あなたが思ってるよりずっと人は優しいんです。

 明るく笑顔を向ければ、同じように返してくれますよ」

 

 シスターの言葉に今朝マリアに言われたばかりの『あなたから軟化することも大切だわ』と被り、素直に頷く。

 

「・・・そうか、そうだよなぁ。まずは俺からしないとだよな」

 

「そうそう、その調子ですよ。あなたの罪は、神様が許してくれました。

 明日から心を入れ替えて、頑張ってくださいね」

 

「ありがとうございます。シスター」

 

「いえいえ。では、あなたの懺悔は終わりです。また今度、来てくださいね」

 

 懺悔室から出ると心はさっきよりも軽くなり、なんでも体験してみるものだと実感しているとさっきのレノ神父が話しかけてきた。

 

「心は楽になりましたか?」

 

「えぇ、おかげさまで」

 

「それならよかったです。

 懺悔に来られた人の話を聞いて、心に安らぎを与えるのが懺悔なのです。お心は晴れたのですね」

 

「えぇ、ありがとうございました。

 また来るかもしれません」

 

「勿論どうぞ、教会は困っている人、迷い人の助けとなる場所なのですから」

 

 笑顔のレノ神父に見送られて教会を後にしてのんびり街を歩いていると、何やらテルトル広場が騒がしくなっている。

 

「何かあったんですか?」

 

「あぁ、なんでも巴里市議会のお偉いさんがいる中で爆発事件が起こったらしい」

 

「へぇ、危ないなぁ。あんたは怪我はないか?」

 

「俺もあんたと同じ野次馬だから怪我なんかねーよ。ありがとな、でっかい兄さん」

 

 一般市民に紛れて話を聞けば物騒な事件を聞かされるが、玄治は現場に違和感を覚える。

(火薬の匂いがしない? 霊力か妖力に関連しているのか?

 けど今の機械じゃ現場に残った霊力とかは追えないな、もう少し改良するか。レーザーで周辺丸ごとを測ることは出来てるんだ、残滓を映すものを作るのもそう難しくない筈だ)

 現場検証をしている警部を見ながら、霊力計測機の改良を考えメモしていく。

(善は急げだな、今から改良しに行くか)

 玄治が慌ただしく市場を通り過ぎているその頃、大神が市場で馬をなだめようとして失敗し十一歳の少女に助けられるという非常に情けないことが起こっていたが、玄治が知ることはなかった。

 

 

 

 

 

 大神がコクリコとロランスに会い、荷物落ちを手伝い、サーカスでひと悶着起っている中、玄治は食事も忘れて作業に没頭し、深夜十二時の鐘に鳴り響いた帝都からの連絡で顔をあげた。

 

「おー玄兄、なんやめっちゃ油まみれやん。珍しい」

 

「あぁ、今日の昼間突然作りたい物が出来てな」

 

「そらしゃーない、何作ってたん?」

 

「霊力・妖力の残滓・・・ 現場に残ったものを目視できる装置だな」

 

 モニター横に雑に置かれたパンをかじりつつ応えれば、紅蘭が興味深そうに眼鏡を光らせる。

 

「そら興味深いわ、設計図書いとる?」

 

「いや書いてない、思い付きのまま作ってるから霊力計測機を元にお前が作ってる特製レーザーの機構を真似してる感じ。要は使用者じゃなく、現場に残ってる霊力を測るってとこだな」

 

「完成したら設計図書いて送ってや」

 

「わかった、送る。

 そっちは今午前八時前後だろ? 飯とか平気か?」

 

「マリアはんらがおらんからって適当なことしてそうな玄兄より、全然えぇ生活しとるで。

 ラチェットはんも真面目やからさくらはんとかマリアはん、かすみはんに料理ならってるし、帰ってきたら楽しみにしときや」

 

 『えぇ嫁はんもらったやん』とからかわれつつ、『それとな』と言われて首を傾げる。

 

「大神はんのキネマトロンじゃ電波が安定せんのはわかるけど、少しは連絡欲しいって伝えてや。さくらはんとかアイリスとか寂しがっとる」

 

「俺もあんまり会わないんだが・・・ わかった、伝えておこう」

 

「玄兄は毎日ってほど連絡寄こすんやもんな、ウチの兄ちゃんは寂しがり屋や」

 

「・・・あぁ、そうだな。

 大神は今、巴里華撃団の花組を創ろうと忙しいし、人にまみれているが、俺はそうじゃない。教会で懺悔なんてらしくないことをしちまうぐらいだよ」

 

「玄兄が懺悔!? よっぽどやなぁ」

 

「ハハッ、酒におぼれる奴の気持ちが少しわかるよ」

 

「なっさけないこと言うてないで、しゃんとしぃや!」

 

「あぁ・・・ とりあえず今の趣味のが終わったら、次は隊員集めのリストあげだな。

 ライラック伯爵夫人から資料は送られてきてるし」

 

「・・・そういえば大神はんの時もリスト眺めとったよな、玄兄。

 霊力以外は何を基準にしとるん?」

 

 画面越しに細かい文字で書かれたリストを覗こうとする紅蘭に別に隠す気もないと、キーボードの上に置いてやる。

 

「大戦のせいで世界的に霊力の高い者は減っている、そしてお前も知っての通り光武を忌避する者は多くなってしまった。貴族にかぎらず平民だってもう家族を率先して戦場に出してくれる奴はいない」

 

「そらそうやろな、誰も家族を失いたないわ」

 

「あやめさんが隊員集めに苦労したのはお前も知っての通りだし、言っちゃぁなんだが俺達は皆立場が特殊な連中の集まりだ。対降魔部隊の関係者、貴族の社交界においても特殊な立場にいる者、帰る場所のない者とかな。もっとわかりやすく言うと、いつ死んでもいい者の集団とも言える。

 花組に関連して重要人物になってしまった俺やお前、すみれを除いてな」

 

「・・・そうやな。つまり、巴里花組もそういうのを基準にしとるんか?」

 

「現段階の隊員二名はそうだと言える。

 エリカ・フォンティーヌは今でこそシスターだがその生まれは捨て子であり、霊力の暴走から養親を傷つけ、自ら修道院に入った。

 グリシーヌ・ブルーメールは名家だが家の始まりは北欧、フランス貴族の中では認められていないのが実情だ。地位と名誉を得るために戦っていると言っていい」

 

 玄治が言い切った事実に紅蘭は頭を押さえ、顔をしかめている。

 

「このことから俺は、貴族達が素直にリストを提出していると思ってない。

 こりゃ最終的に大神に足で探してもらうことになりそうなんだよな、もしくは・・・」

 

「もしくは?」

 

「懲役千年越えの大悪党をスカウトする」

 

 真顔で言う玄治に紅蘭が爆笑する。

 

「それはおもろいな! 霊力あるんは確実なん?」

 

「あるのは確実だな、何もないところから発火させるなんて霊力以外じゃなけりゃ手品しか浮かばない。

 まぁ犯罪者なんて今更だけどな、お前とさくらが陸軍元帥襲撃未遂してるわけだし」

 

「いや、うちらよりマリアはんやら玄兄のがいろいろしとるやん」

 

「知ってるか? ばれなきゃ合法」

 

「それ、犯罪者の台詞なんよなぁ!

 ちゅうかそれ、バレてるから懲役千年越え言うてるようなもんやから!」

 

「その通りだが?」

 

「ちょい待ち、かすみはんかマリアはん呼んでくるからそこに正座しときや」

 

「やめろ、ここから説教コースはキツイ」

 

 なんやかんや言いつつ妹分との楽しい会話を終わらせ、玄治は昼まで眠りこけることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 昼に起きた後、街のあちこちをホームレスのようにブラブラしていると小型キネマトロンに『2300シャノワールにて待つ』と連絡が来ており、玄治は公園で大欠伸をしながらそれを受け取る。

 

「くそねみっ・・・ けど、そろそろ動くかぁ」

 

 頭の上に乗せていた新聞を取り払いつつ、一覧にあった競馬に目を通す。

 

「競馬かぁ、大神にでも適当に丸つけさせたら当たんねぇかな」

 

 そんな戯言を言いつつ、望遠鏡そっくりの霊力残滓発見器の試験を開始する。とりあえず自分の体に流れている霊力がついている筈の新聞を眺め、銀のうっすらとした霊力が確かに残っていることを確認する。

 

「・・・ん?」

 

 そうやって子どもがあちこち望遠鏡を覗き込むのと同じように、くるくると辺りを見渡していると発見器の鏡面に『妖力反応あり』の表示が現れ、その先へと発見器を伸ばしていけば『シルク・ド・ユーロ』の大きなサーカスに吸い込まれていく。

(えぇー・・・? まさか見世物小屋だからって怪人でも見せてるとかないよな?

 いや待て、客に化けて怪人がサーカスを見に・・・ ってんなわけあるかい!)

 乗りツッコミが心の中で繰り広げられるが、そのためにサーカスの団員になるわけにもいかない。そこで新聞に目を落とすと『宝石盗難事件』の文字。

(・・・いや、これが見えてるのは残滓だ。

 宝石盗難事件の現場を洗ってからでも遅くない。ただ要注意するに越したことはない)

 そう思い玄治は公園を離れ、シャノワールの待ち合わせの時間まで宝石盗難事件の現場へと野次馬や新聞記者に扮して妖力完治に走るのであった。

 

 

 

 

 

「夜の巴里は慣れないなぁ・・・ 地下の薄暗さが恋しい」

 

 らしくもなく詩人になっているのは月組隊長の影響あってのものだろう、そんな軽口を叩く男もまだ巴里には来ていない。

 閉店前のシャノワールに入ればそこには既にモギリをしている筈の大神の姿はなく、店内のバーで一杯飲むことにする。

 

「おぉ来てたのか、ドクトル」

 

「あぁジャンさん、飲んでたんですね」

 

「おうよ! 今日はなんて言ったってブルーアイの初レビューだからな、祝い酒だ。

ドクトルも飲め飲め、俺の奢りだ」

 

「それじゃ遠慮なく、乾杯」

 

「乾杯!」

 

 注がれたウィスキーのロックを一息で呷りながら、玄治は話を聞いてみることにした。

 

「新しい子のレビューとは知らなかった、もう終わったんですか?」

 

「あぁついさっきな、実に見事なデビューだったぜ」

 

「へぇ、それは見れなくて残念。次は見逃さないようにしないと」

 

 ジャンがブロマイドも買ったのだと言って見せてくる姿は親戚のおじさんそのもので、玄治はおもわず笑ってしまう。

 

「そういえば最近、巴里を宝石盗難の事件が騒がせているようですね」

 

「あぁ物騒だよな、ウチのオーナーも宝石を所持しているからってんで常連のエビヤン警部が今日も足を運んでくれてるよ。

 それから宝石商のロランスさんが今日来てるとも聞いたな」

 

「宝石商ですか、それはまた狙われそうな・・・」

 

「だよなぁ、ただまぁオーナーのお客だからな。

 俺らがなんか言う権利はねぇし、まさかこんな人の賑わう場所で事件が起こるなんてこともねぇだろ」

 

「でも案外、そういう場所にこそ紛れ込む隙が出来る・・・ なんて怖いことを言ってみたり」

 

「ハハッ、おっかねぇな」

 

 酒を飲んでいるにもかかわらず酔っているのは上辺だけで、互いの情報共有を行っている。

 

「・・・つい最近、サーカスで動物が暴れてあわや大脱走になりかけそうですよ。その時にふらりと現れた女性が動物たちを鎮め、その場でサーカスにスカウトされたとか」

 

「巴里も最近物騒になっちまったな、それがどうかしたのか?」

 

「いや何、シルク・ド・ユーロともなるとここのオーナーと同じくらい立派な宝石を持っててもおかしくないよなぁと思いましてね。

 まぁ巴里で気ままにしてる俺には無縁な話ですが」

 

「オイオイ、いつまで仕事見つけないつもりだぁ? でっかい図体してんだ、市場とかでいくらでも仕事見つかんだろうが」

 

「いやぁ、巴里は一日ブラブラしても飽きないから困ったもんです。じゃ、また」

 

 ジャンに無職にさせられつつ、シャノワールのバーから離れて客席に向かう。すると一階客席に花火の姿が見え、衣装姿のブルーメール家令嬢の話しているのが見えお互いに会釈にとどめた。何やらその会釈でこちらに鋭い視線が突き刺さったが、玄治は放っておくことにする。玄治はともかく相手がうまいこと繕ってくれるとは思えないし、必要以上の関与は避けた方が吉だろう。

 売店の賑わいを横目に通り過ぎようとした瞬間、何かが横腹に突っ込んできた。

 

「タカミさん、見つけました!」

 

 否、抱き着いてきた。

 

「おう? エリカ? シスターってこんなところにまで「今の私はシスターじゃありません、シャノワールのダンサーなんです!」お、おぉそうか」

 

「それでですね、タカミさんに手伝ってほしいことがあるんです。ウチの売店が今、大賑わいでして、商品の追加を手伝ってほしいんです」

 

「いや俺一応客だけど手伝っていいのか?」

 

「大丈夫です! 人が多いからそんなの気にする人いません!」

 

「わ、わかった」

 

 あまりにも綺麗にも言い切られ、言われるがまま売店に行けば驚いた顔のシーに苦笑いするしかない玄治。

 

「シーさん! 力持ちな助っ人を呼んできました!」

 

「まぁそういうことになった、どうせだから使ってくれ」

 

「え、えっと、じゃぁこれをお願いしますぅ」

 

 シーに渡された商品と陳列棚を見てサクサク進めてると、嫌な予感がしてエリカを見ればスカートの端を踏んづけて後ろへ倒れようとしている姿が。しかもその手は助けを求めるように陳列棚を引っ張ろうとしている。

 

「あぶなっ」

 

 陳列棚を引っ張ろうとした手を玄治が引っ張り、体勢を立て直す。

 

「あ、ありがとうございます。タカミさん」

 

「いや、よかった。作業も大体終わったし、もう大丈夫だな」

 

「あ、ありがとうございました」

 

 終始戸惑ってるシーにエリカが首を傾げているが玄治は二人と手を振って別れ、秘書室へと足を向ける。

 

「ドクトル貴水、いらっしゃいませ」

 

「今日も約束があってきた」

 

「はい、聞いています。どうぞ」

 

 メルにほぼ素通りさせてもらい、グラン・マへと向き合い、サクサクと隊員リストと宝石盗難事件の現場の妖力反応、サーカスの方向に何故か妖力の痕跡があることを報告しているとそこに大神とエリカが小さな少女を抱えて駆け込んできた。

 

「玄治、来てたのか! コクリコを! この子を見てやってくれないか!?」

 

「タカミさん!? お医者様だったんですか!?」

 

「二人とも、落ち着け。

 ライラック伯爵夫人、医務室はどちらに?」

 

「地下にあるよ、ドクトル。

 一体どうしたんだい? ムッシュ」

 

「先日サーカスの団員になったカルチェラさんが怪人でした!

 コクリコはカルチェラさんに人質にとられ、その時に霊力の暴走を起こし倒れてしまいました」

 

 大神の簡潔な状況説明を受けながら玄治が脈や呼吸を見て、生命活動に問題ないことを確認する。

 

「なら状況を考えて、緊急事態に眠っていた霊力が突然目覚めたんだろ。

 しばらく寝てれば目を覚ます、見ている限り霊力も安定している・・・ 何があったか知らんが、少なくとも人質にとられたんならもっと霊力が乱れていい筈だってのにずいぶん大人びた子だったんじゃないか?」

 

「あぁ・・・ そうなんだ。

 カルチェラさんのことを母親のように慕っていたのに、裏切られてもその悲しみを受け止めて・・・ 笑ってたんだ・・・」

 

「そうか・・・ ならこれ以上必要なのは俺じゃないな。大神、あとは任せた。

 ライラック伯爵夫人、俺はここで失礼しますよ。先に怪人の後を辿って少しでも情報を集めてきます」

 

「あぁそっちは頼んだよ、ドクトル」

 

 そこで玄治はシャノワールを飛び出し、夜の巴里へと駆け出していく。

 

「さぁて、楽しい追いかけっこの始まりだ」

 

 大神の辛そうな表情とエリカの焦った顔が玄治の怒りを稼働させる。

 

「花組の敵は俺の敵だ」

 

 怒りを抱く心と反対に口元は楽し気に弧を描く。それは執念深い蛇を思わせるがそんな可愛いものではない、今の彼は逆鱗に触れられた龍なのだ。

 その結果、玄治が執拗にまで追い詰めたピトンがコンコルド広場に逃げながらも宝石を狙う形となり、コクリコという新しい仲間を迎えた巴里華撃団が参戦する。

 

「来たな、大神。じゃ、あとは任せていいな」

 

「げ、玄治?! まさかお前、昨日の夜から追いかけてたんじゃ・・・」

 

「ん? 当然だろ? お前を悲しませて、子どもを騙してたんだぞ?

 なーにたった一晩俺と追いかけっこしただけだ、怪人なんだから平気だろ」

 

「怪人と・・・」「一晩?」「追いかけっこ?」

 

 グリシーヌ、エリカ、コクリコの順で意味がわからないと困惑しているが、玄治は気にしない。

 

「んじゃ、あとは任せたぞ。大神」

 

「あ、あぁ! 任せてくれ!」

 

「それから伝言な。

 電波悪くてもいいから、少しはキネマトロン使って向こうに連絡してやれ」

 

「っ! わかった、必ずするよ」

 

 玄治が早々に戦線離脱していく中、この後大神が玄治について質問攻めにあっていたり、怪人に玄治が人間なのを疑われたりしたが、無事ピトンが乗る蒸気獣ベルスーズを撃退し、『赤い少女の涙』とロランス卿を守ることが出来たのであった。

 

 




私が求めるのは完全無欠の花婿!
ぶっほ、マジか 貴族ってどいつもこいつも同じこと言うよな
なんだと!? 貴様 私を侮辱するのか!
次回『麗しの海賊娘』
愛の御旗のもとに
俺にとっちゃ貴族のプライドなんざ 世界一くだらないんだよ
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