サクラ大戦 貴水玄治物語   作:無月

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③麗しの海賊娘

 大神が花組隊員のチームワークを深める方法を考え、実行した日、玄治はライラック伯爵夫人の便宜の元ブルーメール邸へと訪れていた。理由はブルーメール邸にある巴里の歴史書などの文書の閲覧と、かつての大戦に用いられた武具と霊子甲冑の解析である。

 

「ドクトル貴水、お話はお聞きしてるざます。こちらへどうぞ」

 

 メイド長のタレブーに案内されながら、玄治は青を基調とした屋敷の中を通っていく。そして、書庫だと言われた部屋に通され、ある程度屋敷内の説明をされてからタレブーは下がっていく。勿論、用がある時のためにベルも置いていくのも忘れない。

 

「ふむ、さてっと・・・」

 

 気になる歴史書や大戦の頃の書物を中心に読みふけることしばし、一時間経過した後タレブー直々に紅茶を提供されて一息ついているとなにやら外が騒がしい。

 

「ん? 何の騒ぎだ?」

 

 そう思い窓から状況を見れば、何故か裏庭にある帆船のマストで二人の人物が戦斧を振るっている。

 

「は? 大神とブルーメールの令嬢? 何やってんだ、あいつら。

 マストの上は百歩譲っていいとして、なんで得物まで向こうに合わせてるんだ? 馬鹿なのか?」

 

 二度見する間もなく、どう見ても戦うことを躊躇している大神がマストから足を滑らせ宙づりになる。それを見て頭痛が激しくなり、玄治はもう大神に丸投げしようとそれらを見なかったことにした。

 昼を簡単なもので済ませてもらいながら午後になると、今度は何やら廊下が騒がしい。さっきのことを考えると嫌な予感しかせず恐る恐る廊下を見るとそこにはメイド服の大神、エリカ、コクリコがおり、こちらに気づいたエリカが駆けてくる。

 

「あっ、タカミさーん! タカミさんも来てたんですね!」

 

「あっ公園によくいるおじちゃんだ」

 

「げ、玄治、来てたのか」

 

 三人の馴れ馴れしい様子にタレブーの注意が飛ぶ。

 

「お客様になんて失礼な態度を! 謝るざます!

 ドクトル貴水、申し訳ないざます。この三人は今日からメイドになったばかりで・・・」

 

「あぁいい、いい。

 大神とは日本での知り合いでね、他の二人とも何度か街で会ってるんだ」

 

 謝るタレブーにかまわないと告げるが、タレブーは首を振る。

 

「常は知り合いであっても、今はブルーメール家のメイドざます。立場はしっかりわきまえなければならないざます」

 

「だそうだ・・・ 三人とも、事情は知らんが頑張ってくれ」

 

「事情は聞かないのか!?」

 

「いや、午前中のマストの上での決闘は窓から見えてた。大神にはいくつか言いたいことがあるが、俺は今メイドの仕事の邪魔をする気はない。俺も俺で仕事があるしな」

 

 まだ読み途中である本を見せれば、大神は頷いた。

 

「あぁ、夜にでもキネマトロンに連絡を入れるよ」

 

「そうだな、そうしよう」

 

「タカミさん、あとでまた会いましょうね」

 

「おじちゃん、お仕事ちゃんとしないと駄目だからね」

 

「おう、お前らも頑張れ」

 

 そこで三人と別れ、また本を読みふけっていると部屋にノックが響いた。

 

「ドクトル貴水、話がある」

 

 入ってきたグリシーヌの態度に玄治も本を置き、本棚に向けていた体を彼女へとむけた。

 

「何かな? グリシーヌ嬢」

 

「貴殿は我らの隊長、大神とは知己であり、友であると聞いている。

 貴殿から見て隊長の誇りとは、軍人や男としての尊厳はないのか」

 

「・・・それを貴族でも、軍人でもない俺に聞くんだな。グリシーヌ嬢」

 

「何?」

 

 玄治は溜息を一つついて、グリシーヌを見下ろす。

 

「あいつの誇りは最初の戦いで聞いた通り、人々の平和を守ることだ。そこに自分が軍人であることも、男であることも関係ない」

 

「関係ないだと? だが、奴がこの任務に就いたのは軍人ゆえだろう」

 

「仮に軍人でなくなっても、あいつはあいつの意思で花組の隊長であり続けるだろうな」

 

 心底理解できないという顔をしたグリシーヌに、玄治もこりゃ駄目だと呆れだす。

 

「・・・お前、貴族じゃなきゃ戦わなかったんだな」

 

「ドクトル貴水、それはどういう意味だ?」

 

「そのまま意味だが? お前、平民だったら力があっても戦わなかっただろ?」

 

「何が言いたい?」

 

「なんだ、これだけわかりやすく言ってもわからないか?

 お前自身の意志はないのか? って聞いてんだよ」

 

 玄治がわざとらしく肩をすくめれば、グリシーヌの顔が険しくなっていく。

 

「貴様に何がわかる? 貴族でも、軍人でもない、ただの技師でしかない貴様に!」

 

「いやぁ何一つわからないな、お前の言う通り俺は貴族でも軍人でもなく最初から今に至るまで師の遺志と自分の意志でここにいるもんでね」

 

「話にならん! 所詮平民である貴様に私の悩みなどわからん! 私は家の誇りと名誉を守らなければならないのだ!」

 

「そんなもん、お前の言い訳だろうが。

 お前自身あっての家で、お前が勝手に守ろうとしてる誇りで、お前が欲しがってる名誉だ」

 

「私あっての家・・・? 勝手に守っている、だと?」

 

 玄治の言っている意味がわからないと困惑するグリシーヌに、玄治は現実を突きつける。

 

「というか俺に答えを求めること自体が間違っている。

 お前が向き合わなきゃいけないのは俺じゃない、あんたの隊長である大神だ」

 

「・・・それはそうだが」

 

「逃げるな、向き合え。

 大神はお前を真正面から向き合ってるぞ」

 

 それだけ言って玄治は扉へと向かい、グリシーヌの横を通り過ぎていく。

 

「『戦う心と己の人生は、己の力で手に入れろ』

 あんたは今、それが出来てるのか?」

 

 グリシーヌがその言葉に目を見開くが玄治はもう廊下へと出ており、タレブー夫人に今日はこれでお暇することを告げ、屋敷を出ようとすると室内から声がかかった。

 

「貴水さん、いらっしゃってたんですね」

 

「あぁ、今からお暇するところだけどな」

 

「少しお時間いただいてもよろしいでしょうか? お話ししたいことが」

 

「あぁ、まぁかまわないが。

 どこか別の部屋でお茶でもするのか?」

 

 一応玄治なりに気を使った言葉だったのだが、花火はその配慮を笑顔で受け止め話を進める。

 

「ご配慮ありがとうございます。

 よろしければ私の部屋でお話しませんか?」

 

「わかった」

 

「では花火様のお部屋に、紅茶とお菓子のご用意をいたしますざます」

 

「どうも」 「ありがとうございます、タレブーさん」

 

 タレブーが礼を言われて下がっていくのと同時に、花火と玄治は部屋に向かい入っていく。

 青を基調とした屋敷の中でありながら、花火の部屋は緑が多く屏風や畳が置かれていることに玄治は目を丸くした。

 

「畳と屏風か、懐かしいな」

 

「ありがとうございます。

 貴水さんの日本のお部屋にもありますか?」

 

「いや、日本の特に帝都は西洋化が進んでいて、俺の部屋にはなかったな」

 

「そうなのですか、やはり私が知っている日本の情報は少し古いのかもしれませんね。

 巴里ではどうしても最新の日本の情報はあまり入ってこないので」

 

「それは巴里に限ったことじゃないだろ、日本だって巴里の最新の情報を知っている者なんて実際に足を運んだ一握りだけさ」

 

「そう考えると日本と巴里の認識は、お互いそう変わらないのかもしれませんね」

 

「かもなぁ」

 

 タレブーの入れてくれた紅茶を畳の上で飲みながら、玄治はふぅと一息つく。

 

「お疲れですね、貴水さん」

 

「あぁ・・・ いや大したことはないんだけどな」

 

「タレブー夫人から聞いています。午前中からずっと書庫にこもりっきりで出てこなかったと」

 

「あぁ・・・ すまない、俺がいることで書庫が使えなかったか」

 

「いいえ、そんなことはありません。

 集中しているようでしたのでお邪魔してはいけないと思ったので」

 

 玄治の謝罪に花火は否定し、自身もまた紅茶を口に運ぶ。

 

「書庫から出てきたので休憩なさるというなら一緒にお茶をと思いまして。

 ですが、ご帰宅なさるところをお邪魔したようで申し訳ありません」

 

「謝ることはないさ。

 東京でもよく注意されたよ、無理をするな、根を詰めるな、徹夜をするなってね。

 むしろ感謝しないとな、お茶に誘ってくれてどうもありがとう」

 

「いえ」

 

 ほんのり頬を赤らめる花火に、玄治は笑顔のまま話を続ける。

 

「それで日本の何について聞きたい? この部屋を見る限り、俺が教えられるようなことがあるとは思わないが」

 

「日本での些細なお話でもいいんです。

 貴水さんは日本でどんな暮らしをなさっていたんですか?」

 

「んー・・・ そうだな、俺は普段帝国劇場ってところで小道具を作ったり、コックをしたりして働いているんだがな」

 

「えっ、有名な貴水博士が?」

 

「あぁ、普段の生活から不便さや苦労を感じればそれを変えたいと思うだろう? そう言うことから発明は生まれるのさ」

 

「なるほど」

 

「料理も創意工夫や異国の料理を知るきっかけになる、料理を知るとそこの生活が見えてくる。そうするとその国をより知りたくなったり、その材料から自分ならどう作るかを考えるんだ」

 

 心底楽しそうに語る玄治の話を花火はニコニコと聞きながら、たくさんの話をしていく。

 そうして夕方まで、玄治は花火へと劇場での些細な話や日本での発明の話をかたるのであった。

 

 

 

 

 

 その日の夜、玄治は地下の部屋でキネマトロンの連絡を待っていた。大神からの連絡が入るまでの間に、光武でも振るえるほどの大きな斬馬刀に特殊機構を組み込んでいく。

 

「・・・シルスウス鋼で作ったんだ霊力はこれで通るはず。問題はこっちよりもこの機構を組み込んで体がどうなるか」

 

 ブツブツと言いながらも設計図を書いていく玄治にそこでキネマトロンが鳴り、思考は中断した。

 

「玄治、遅くなってすまない」

 

「いやいいさ、俺はいくらでも時間をつぶせるからな」

 

「それでその・・・ 昼間言ってた俺に言いたいことって」

 

 叱られることがわかっているのか、どことなくしゅんっとした大神に玄治が苦笑いする。

 

「こらこら、何か言う前にそこまでしょぼくれられたら言いにくいだろ」

 

「すまない・・・ だけど、昼間の決闘を見ていたならそのことだろうなって」

 

「あぁ何が始まりかは知らないが現役海軍がマストの上で、相手が仲間だからか女性だからか相手に得物を合わせて、決闘に負けてメイドになった話だろ?」

 

 三連撃を受けた大神が頭を突っ伏すが、玄治はかまわず続ける。

 

「お前なぁ、相手の言い分を聞くのも女だからって気を遣うのは良いことだが、時と場合によっては相手が『馬鹿にしている』ととられることも頭に入れとけよ」

 

「あぁ・・・ それでもその巴里華撃団のチームワークを高めようと思ったんだ。だがその、俺も日本の遊びを馬鹿にされて頭に血が上ってて」

 

「まぁ国だの、貴族だの、身分だのでグリシーヌ嬢が縛られてそうなのはお前がどうにかしろ。

 俺が言っても伝わらんぞ、あれは」

 

「グリシーヌと話したのか?」

 

「話したっていうか、向こうから来たんだよ。お前の知り合いだからってな。

 でも結局向こうが俺にはわからないって切り上げちまったけどな」

 

「そうか・・・ どうしたらグリシーヌに家も、何もかも全て彼女の一部でしかないってわかってもらえるんだろうな」

 

「俺に聞かれてもな、俺にはそういうもんが全くないから本当にわからん。

 むしろ名前を背負ってる分、こういうのはお前やさくら、すみれとかの方がわかるんじゃないか?」

 

「玄治だって山崎さんの名を背負ってるじゃないか」

 

「俺にとって当たり前に背負うべき先生の名を、重荷と思ったことは一度もない。

 先生の名がこの欧州で罪であったとしても、俺は先生の弟子であることを誇ることはあれど恥じることはないさ」

 

「玄治は覚悟が決まりすぎなんだよ・・・」

 

「お前だって平和や正義に関してはそうだろうよ。

 とにかくお前はお前らしくグリシーヌ嬢に向き合えばいい、俺は明日はブルーメール邸には行けないからな」

 

「他の仕事があるのか?」

 

「ブルーメール邸に客人が来るそうだ、それに俺もライラック伯爵夫人からある事件について調べてくるように頼まれている。

 俺の調査が終わったらお前にも話が行くだろうから、それまではメイドの仕事頑張れよ」

 

「わかった。

 だが、くれぐれも無茶はするなよ。玄治」

 

「わかってるさ、あくまで俺がするのは情報収集。

 怪人を倒すのはお前達(巴里華撃団)がしないと意味がないからな」

 

「悪いな、玄治」

 

「悪いことじゃないだろ。

 俺が出来ることは俺がする、お前が出来ることはお前がやる。それだけだ。

 花組の隊長はお前にしか出来ないことだろ?」

 

「そうか、そうだよな。ありがとう、また」

 

「あぁ、おやすみ」

 

 キネマトロンの通信をそこで切れば、入れ違いで帝都からの通信が入ってくる。

 

「玄治兄さん! 大神さんは今どうしてるんですか!?」

 

 音割れが発生するほどの大声に耳がキーンッとなり、玄治は瞬時に耳を押さえる。

 

「さくらおっまえ・・・ 声の加減しろ、大馬鹿! 役者の本気の大声なんて音割れするに決まってんだろ、ふざけんな!」

 

「あっごめんなさい・・・ 大神さんからあまりにも連絡が来ないから心配になって」

 

「あのなぁ、俺のモニターと違って持ち運びの大神のは電波が安定しない。連絡が取れない覚悟で見送っただろうが」

 

「だって玄治兄さんはしょっちゅう連絡してくるんですもん、私達は大神さんと話せないなんてずるい」

 

「そんなこと、俺に言われても困るんだが・・・」

 

 拗ねて唇を尖らせるさくらに玄治も心底困り果てる。

 

「大体俺だって赤チビに頼まれて大神に連絡取るように言ったっつの。けど、大神が今忙しいことがわからないお前らじゃないだろ」

 

「それはわかってますけど、寂しいんですもん」

 

「まだ隊員数だって十分じゃないし、地盤が出来上がってない新しい花組を創り上げなきゃいけないんだ。まだまだ未熟な隊員たちに手がかかるのは仕方ないだろうが。

 お前ら先輩だろ、我慢しろ」

 

 さくらを諭しながら話しても、玄治の言葉をさくらが大人しく聞き入れるわけがない。

 

「だったら、私達が先輩としてそっちに行って手本を見せればいいってことですね?」

 

「どこをどう斜めに読んだらそうなったんだ? お前」

 

「私達は大神さんに会えるし、巴里花組さん達には花組の基礎を教えることが出来る。どちらにも損はない、素敵な案でしょう? 玄治兄さん」

 

「そっちに俺の声、ちゃんと聞こえてるか?

 お前ら花組まで動かしたら帝都の平和は誰が守るんだ? 大体、お前ら大人気の劇場だってことわかってるか? そんな奴らが全員いっぺんに休暇を取るとか出来るわけないだろうが!」

 

「なら何人かチームに分けて、劇場も回せるような演目にすればそっちに行っていいってことですね?」

 

「んなことできるわけ「出来たら行っていいんですね?」

 

 言質を取るように念押ししてくるさくらに玄治が怯むが、ここで玄治が『良い』なんて口にするわけにはいかない。

 

「それをした上で、米田さんから許可が下りるんなら俺からは何も言わん」

 

「わかりました。吉報を待っててくださいね、玄治兄さん」

 

 そこで切れた通信に、玄治が静かに頭を抱える。

 

「いや吉報・・・ 吉報なのか? 俺、今から嫌な予感しかしないんだが」

 

 だが、さくらが言っていた『手本を見せる』というのは案として悪くない。それに花組としての戦い方やチームワークは本人たちが感じることが出来ない以上、そのものを見ることがいい勉強になるはずだ。

 

「他の奴らも賛成しそうだし、反対する奴が浮かばないんだよなぁ・・・ 結果的に俺が条件だしちまったし」

 

 そう言いながら懐中時計を開けば時刻は帝都と同じ時間を刻んでおり、四人と写った写真と目が合う。

 

「会えるのか・・・ この街で」

 

 そう考えるだけで力が自然と抜け、目を細めてしまう。

 

「かすみは来れないよなぁ、花組以上に風組は劇場を休めないだろうし」

 

 椅子の背もたれに体重を駆けながら上を向いていれば、風組が動かす翔鯨丸が思い浮かべて、玄治ははっと目を開く。

 

「どこにでも行ける天空要塞、創るか」

 

 そう言って大きな紙を引っ張り出して設計図を書き出していく。それは子どもが描く夢の家であり、本人の顔も夢見る子どもと同じように楽し気に描いていく。

 

「天空要塞、貴水邸・・・ ふふっ、マリア達は驚いてくれるかな」

 

 その顔は、恋人だったあやめを喜ばせようとする山崎と同じ表情をしていた。

 

 

 

 

 

 大神達がブルーメール邸で覗きをしたり、リッシュ伯爵に殴られたり、花火と初顔合わせをしたり、イヤリングを届けてグリシーヌの心情を聞いたりしている頃、玄治は貴族失踪事件について調べ、妖力の残滓を計測していた。

 

「反応あり、と。今のところ全部あたりか」

 

 失踪事件に巻き込まれた貴族たちの書類に印をつけながら、さらに後を追おうとして書類を見て立ち止まる。

 

「リッシュ伯爵? 今日ブルーメール邸に行くって話だったんだが・・・ まぁいいか、それを含めて伯爵夫人に報告すれば」

 

 一日という時間は長く、十分すぎる証拠と妖力が向かっていく方向もわかったあたりで教会の鐘で十七時を知り、報告のためにシャノワールへと足を向ける。

 

「あっ、タカミさん、お疲れ様です」

 

「おうエリカ、メイドの仕事お疲れさん」

 

「えへへ、ありがとうございます。でもタカミさんっていったい何のお仕事してるんですか? 

 怪人と追いかけっこしたり、グリシーヌさんのお家いたり、大神さんとお知り合いだったり、お医者様みたいなことも出来るし」

 

 エリカの問いかけに玄治は誤魔化すように頭を撫でてやり、ポケットから飴玉を出して差し出す。

 

「フランスに留学に来た暇人で、東京では劇場でコックと小道具づくりをしてる何でも屋だ」

 

「キャンディ美味しいです! そうなんですね、なんでも出来るって凄いです!」

 

「お前も何でもできるだろ、シスターでダンサーでメイドになったんだからな」

 

「えへへ、タカミさんっていっぱい褒めてくれるから好きです」

 

 ニコニコとするエリカの頭をさらに撫でてやりながら、その笑顔に玄治も笑顔になる。

 

「あっ、タカミさんの笑顔初めて見ました」

 

「おっ? そうだったか?」

 

「はいっ! とってもいい笑顔でした! そうだタカミさん、また懺悔していきませんか?」

 

「おうまた唐突だな、別に構わんが」

 

 エリカに手を引かれながら教会に入ればエリカは先に行ってしまい、レノ神父が挨拶をしてくれる。

 

「タカミさん、お久しぶりです。また懺悔にきたのですか?」

 

「あぁ、ここのシスターさんに連れられてな」

 

「そうなのですか、なんだか押し売りをしているようで申し訳ないです。はい・・・」

 

「いえ、俺もついてきたのでお気になさらずに」

 

「ありがとうございます。

 では、告解室へどうぞ」

 

 レノ神父に促されて薄暗い告解室に入れば、前回も聞いたような声が聞こえてくる。

 

「よく来られましたね。今日は私があなたの罪をお聞きします。

 迷える仔羊よ、さぁ罪を告白しなさい」

 

「そう、ですね。

 どうしても言葉がきつくなりがちというか、相手に喧嘩を売られると買ってしまうところが悪いところですね」

 

「えぇ? そんなことはないでしょう。今のあなたはとても丁寧に言葉を選ぼうとしてくれていますよ。

 相手に喧嘩を売られた時は落ち着いて、左の頬を差し出すくらいの気持ちで優しい心を持ちましょうね」

 

「出来るかはわかりませんが、お話はもっともですね」

 

「ふふっ、あなたはとても正直な方ですね。あなたの罪は、神様が許してくれました。

 明日から心を入れ替えて、頑張ってくださいね」

 

 シスターに送り出される形で告解室を出れば、前回同様どこかスッキリした気持ちになり、深呼吸する。

 

「タカミさん、心は晴れましたか?」

 

「えぇ、ありがとうございます。レノ神父」

 

「それはそうとエリカさんがブルーメール邸のお手伝いをしたと聞いたのですが、何かご存じないですか?」

 

「いえ・・・ 私は巴里に留学に来ているだけなのであまり貴族の方と交流はないんですよ」

 

「そう、ですよね。

 あぁただの噂で何事もなければいいのですが・・・」

 

「仮にそうだったとしても働かせる選択をしたのはその貴族の方なので問題はないのでは?」

 

「そうかもしれませんが、エリカさんがここのシスターである以上何も思わずにはいられないのです。はい」

 

「そうですよね・・・」

 

 レノ神父の言葉に玄治は苦笑いをしてその場を去り、シャノワールへと向かう。いつもより賑わう人混みを通り過ぎて行けば、どうやらマジカルエンジェル・コクリコの初レビューらしく男性も女性も楽しみだと騒いでいた。

 まっすぐ報告のために秘書室に向かえば珍しくメルの姿がなく、しばらく待っていれば司会姿で困った顔のメルが駆け込んできた。

 

「あっドクトル貴水、いらっしゃってたんですね」

 

「あぁ、どうかしたのか? なんだか困ってるようだが」

 

「いえその・・・ お客様の一人がしつこく誘ってきて弱ってしまって・・・」

 

「ふむ、それなら俺と一芝居うってくれないか? そいつが貴族なら俺の顔を知っているだろうし」

 

「えっ? ど、ドクトル貴水」

 

 人の足音が近づいてくるタイミングを見計らって、玄治はメルに壁の方へ立ってもらい顔の横に手を当てて見下ろし、小声で言う。

 

「怖かったらすまんな、それと俺の名を十分有効的に使ってくれ」

 

「えっ、えぇ・・・? ドクトル、意図は理解しましたがこれではあなたにご迷惑が・・・」

 

「気にするな、婚約者達には正直に全てを話せばわかってくれる」

 

 小声でやり取りしていれば、次の瞬間乱暴に扉を開ける音に玄治はわざと苛立ったように顔をあげる。

 

「ここに司会のメルさんは・・・ なっ?!」

 

「あぁ? なんだ、お前は」

 

「・・・き、貴様は最近パリに来ているとかいう日本人のドクトル貴水」

 

「あぁ、思い出した。中流貴族のベルモンド家の・・・ ダニエルだったか?

 悪いがお前が追っかけてた彼女は俺のお気に入りでね」

 

 そこでわざと見せつけるように、自分の陰に隠れているメルの体だけを覗かせる。

 

「さて、君に俺を敵に回すだけの度胸はあるのかね? ダニエル・ベルモンド」

 

「・・・チッ、覚えておけよ。黄色いサルが」

 

「あぁお前も覚えとけよ、俺を侮辱したことをな」

 

 そこで玄治はきつくダニエルを睨みつければ、ダニエルは恐れをなしたように悲鳴をあ

げながら逃げて行った。

 

「さて悪かったな、怖かったろ。

 これでしばらくは来ないとは思うが、もしもの時はまた呼んでくれ」

 

「い、いえその・・・ ありがとうございます」

 

 頬を赤らめるメルに怖い思いをさせたと反省させつつ、すぐに身を離す。

 

「あまりにもしつこい客が多いようならこちらの通路にはお客の通行を制限した方がいい、行儀の悪い客もだが悪意のない客も紛れ込んだら可哀想だ」

 

「はい、検討しようと思います。

 本当にすみません、ありがとうございます。ドクトル貴水」

 

「気にするな、君も花組を支えてくれる大切な仲間だ。こちらこそ、いつもありがとう」

 

「い、いえ・・・」

 

「それじゃ俺は伯爵夫人に報告したいことがあるから、支配人室に入っても?」

 

 まだ頬の赤いメルにそう伝えると、ライラック伯爵夫人は現在貴賓室にて迫水とお話し中とのこと。それならと報告書を渡し、いくつかの口頭で報告しようと思っていたことをメモに残して渡しておくように託す。快く応じてくれたメルに見送られ、シャノワール内をうろつく。

 コクリコのレビューを見つつ、他の客の噂話を聞きながら軽く酒を飲み、ほろ酔いで店を出る。

 

「・・・相手は貴族を選んで襲撃しているが立場も貴族というだけでバラバラだし、狙いがあるとするなら貴族そのものを目の敵にしてるか、それ以外か」

 

 怪人相手に予想を立てても意味がないとわかっていても、それをするのが仕事である以上思考を巡らせるしかない。

(貴族を狙った兎、宝を狙った蛇・・・ 何かと権力にちょっかいを出してくる相手は珍しいな)

 鞄の中から昼間に買った酒を取り出しつつ飲みながら歩けば向かい側から銀髪の女がぶつかってきたが、玄治は気にするでなく通り過ぎていく。

 

「怖い怖い、こんな時間からスリなんてな」

 

 先程の女に握らせた中身の入ってない財布のあった場所を撫でつつ、玄治はのんびりと家に帰っていった。

 

 

 

 

 

 翌朝の早朝、小型キネマトロンに連絡が入り、『怪人の隠れ家を見つけろ』という指示の元で霊力残滓発見器を向けて辿っていくとバスティーユ牢獄へと行きつく。小型キネマトロンに簡単な場所だけを打ち込むと、『それ以上は踏み込むな』という返答がきたため可能な限りの情報を集めつつ、牢獄内部も軽く散策して情報を提供していく。

 そうしていれば大神達が出動してきたため、花組にばれないようにその場を去り、大神達は無事貴族達を救出、グリシーヌとの和解も成功し、共に日本の遊びをしたと嬉々として語る大神とキネマトロン越しに笑いあうのだった。

 




懲役千年の泥棒を捕まえろ、か 
え? タカミさん 何か言いました?
いや 何も 俺は巴里の日常を怠惰に過ごす日本人だからな
次回『泥棒は薔薇の香り』
愛の御旗のもとに
なんだ・・・ なんなんだよ あいつは!?
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