サクラ大戦 貴水玄治物語   作:無月

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⑤黒衣の花嫁

 大神がグラン・マに霊力計測機を渡され、巴里の街へと隊員を探しに行こうという頃、玄治はアルセーヌを連れて墓地に訪れていた。

 巴里に来てからもはや習慣になりつつある慰霊碑に花を手向け手を合わせると、アルセーヌもそれに倣うように頭を下げる。

 

「あっ、貴水さん、またお会いしましたね」

 

「あぁ北大路さん、どうも」

 

「そちらの肩にいるのは・・・?」

 

 肩にいるアルセーヌが花火を確認して、胸をそって名乗り上げる。

 

「ワガハイハアルセーヌデアル! ナヲナノレ!」

 

「北大路花火と申します」

 

「ウム!」

 

 満足したように玄治の肩でステップを踏み出すアルセーヌに花火が笑顔を向け、玄治も花火を見下ろした。

 

「貴水さんはよくこちらにいらっしゃいますね、先の大戦でお知り合いでも亡くなられたんですか?」

 

「いや直接的には大戦で亡くしてはいないんだが・・・ 日本にいない今、ここなら想いが届くんじゃないかと思ってな」

 

「・・・貴水さんも誰か大切な人を失われたのですね」

 

「『も』ってことは北大路さんもか」

 

「えぇ、婚約者を事故で・・・」

 

 互いにしんみりとするが、玄治は墓地を見る。そんな中、ふと花火が問うてきた。

 

「貴水さんは乗り越えていらっしゃるんですか?」

 

「乗り越えてはいないし、想わない時はない」

 

 すぐさま答えた玄治に花火は驚くが、玄治の目は細められ遠くを見つめていた。

 

「今でも生きていてくれたらと思うし、後悔は尽きない。

 俺よりもここにいるべきだと思う時すらあって、ふとした時にあの人達の声が聞こえるような気がする」

 

「わかります・・・ とても」

 

「でも・・・」

 

 そこでくしゃりと玄治は笑う。

 苦さと悲しみと後悔と・・・ それでもどうにも出来ないことだと受け止めているそんな笑みで。

 

「それでもここにいるのは生きてる俺達なんだよなぁ。

 あの人達を覚えていられるのも、生きろって言ってくれたのも、残してくれたものを守れるのも全部、今を生きてる俺達だけなんだよ」

 

「っ! 貴水さんは・・・ お強いんですね」

 

「強くないさ、人によっちゃ今でも俺は過去に縛られてるように見えるだろう。

 それでももし俺が強く見えるのなら・・・ それは傍にいて支えてくれた仲間のおかげさ」

 

「仲間・・・」

 

「あぁ、俺には血縁者がいないからな。親代わりの人や、家族のように傍にいてくれた仲間が俺を支えてくれたんだ。

 その仲間たちといろんな経験をして、君にとってのグリシーヌ嬢のような親友も出来た」

 

「親友・・・」

 

 そこで自分の掌を見る花火に、玄治は目を細める。

 

「ハナビ! ハナビ! ゲンキ、ダセ!」

 

「・・・ありがとうございます、アルさん」

 

「俺でよければ今度その婚約者さんの話を聞かせてくれよ、素敵な人だったんだろ?」

 

「はい、とても優しい素敵な人でした。

 お時間とらせて申し訳ありません、またいずれ」

 

「あぁ、またな。北大路さん」

 

「マタ! マタ!」

 

 花火と別れて玄治がシャノワールを通り過ぎようとすると、大神と顔を合わせた。

 

「玄治、なんだか久しぶりだな。

 その肩の鳥は?」

 

「ワガハイハアルセーヌデアル! ナヲナノレ!」

 

「うわっ、話せるのか?」

 

「あぁ、名乗ってる通り俺が巴里で出会ったアルセーヌだ」

 

「そ、そうか。俺は大神一郎、玄治の親友で同僚だよ」

 

「ウム!」

 

 大神の名乗りに満足したようにステップを踏めば、大神は何を思ったのか霊力計測機をアルセーヌに向ける。

 

「・・・玄治、動物が連続して光武を動かせるだけの霊力があるってあり得るのか?」

 

「あぁやっぱりそうなるか、こいつ霊力と妖力見えてるっぽいからそうだろうなとは思ったんだよな」

 

 驚愕して問うてくる大神に玄治がしれっと答えれば、アルセーヌは得意げに胸を逸らして羽を広げる。

 

「猫と鳥が扱える光武か・・・ ちょっと本気で作ること考えてみるか」

 

「玄治が言うと冗談に聞こえないんだよな・・・」

 

「何かを作ることで俺が冗談言うと思うか? ナポレオンとアル用にまずは隊服から作るとするか。なぁ? アル」

 

「マカセルガイイ!」

 

 踊るようにステップを踏むアルセーヌに玄治が鞄から果物を出してやれば、遠慮なくかじりつく。

 

「うまいか?」

 

「ウマイ!」

 

「それじゃぁ俺は隊員探しに行ってくるよ」

 

「おう、俺もただ通りかかっただけでシャノワールに用があったわけじゃないんだ」

 

「そうなのか? それじゃぁまた」

 

「またな」

 

 そう言って大神と別れると何故かこちらに向かってくる軽快な足音に玄治が身構える直前、腰に赤い何かが飛び込んできた。

 

「うおっ、危なっ!?」

 

「タカミさーん、アルくん、こんにちは!」

 

 一人だけ上空に逃げていたアルセーヌが再び肩に戻り、腰に飛び込んできたエリカが呑気に挨拶してくる。

 

「タカミさん、よければ教会に来てください!」

 

「お、おぉ、なんだなんだ?」

 

 『来てください』といいながら玄治の腕を引っ張っていくエリカに抵抗もせずに連れていかれると、老夫婦が仲睦まじく結婚式を挙げていた。

 

「若い頃にお金がなくて、今日結婚式を挙げられているんです。

 タカミさんもよければ祝ってあげてください」

 

「そうか・・・ おめでとうございます」

 

 拍手と共に老夫婦にお祝いを告げれば老夫婦が微笑んで感謝を返され、隣に並んだエリカを見ておじいさんがぽんっと玄治の背中を叩いた。

 

「あんた達二人は若い内に結婚式をあげなよ」

 

「そう、ですね・・・」

 

「そうします!」

 

 エリカがにっこり笑顔で頷いている間、玄治の頭の中は婚約者達のウェディングドレス姿が脳裏に描き出され、その美しさに口元が緩んでしまい慌てて隠す。

 

「ゲンジ?」

 

「なんでもない、なんでもないぞ。アル」

 

「タカミさん、お二人に祝福の鐘を鳴らしてあげてください」

 

「いや、そういうのはシスターであるお前の方がいいだろ。俺は「いいからいいから、タカミさんも手を貸してくださいね」 わかったよ」

 

 玄治の手に自分の手を重ねて攫っていくエリカに抵抗は無駄と気づき、エリカと一緒に祝福の鐘を鳴らす。

 

「改めて聞くと綺麗な音だな」

 

「カラーンカラーン!」

 

「アルくん、凄い! そっくりですよ」

 

「マカセルガイイ!」

 

 得意げにするアルセーヌにエリカが褒めたたえ、玄治は『なんでも覚えるな』と感心してしまう。

 

「ゲンジ! カエロウ!」

 

「・・・そうだな、帰るか。アル」

 

「あ! 帰るところだったんですね、なんだかごめんなさい」

 

「いいさ、別に急いでたわけじゃないんだ。むしろ結婚式を見れて楽しかったよ」

 

「やっぱりタカミさん、優しいから大好きです!」

 

 エリカに大きく手を振られながら見送られ、玄治は家についてからすぐさま地下へと潜っていく。

 新しい光武の形を図面に描き出しながら、そんな玄治をアルセーヌは止まり木から見守るのであった。

 

 

 

 

 

「んあー、こんなもんかぁ」

 

 完全徹夜で作業して設計図は完成、小型の試験ロボも完成し、貴水邸の模型も複数できたがそちらはどうにも納得できるものが出来上がっていない。

 

「もう朝か、完全徹夜はいつぶりなのやら・・・ 昔はよくしてたのにな」

 

「・・・ン? ゲンジ! オハヨウ!」

 

「おはよう、アル。何か食うか?」

 

「イチバ! イク!」

 

「そうだな、そうするか。俺も何か果物とか適当に買おう」

 

「クダモノ、ワガハイノモノ!」

 

「そうだな」

 

 地下から一階に上がれば、ちょうど玄関からチャイムの音が聞こえてきて玄治は少しだけ警戒する。

 

「アル、リビングへ行っててくれ」

 

「ン」

 

 素直に飛んでいくアルセーヌを見送り、玄治は玄関を向かえば鍵を開けても大人しく待っている当たりエリカではないらしい。

 扉を開ければそこにはメルとシーがおり、その手にはパンや果物を覗かせた紙袋と、手作りの何かが入ってるとおぼしきバスケットを持っていた。

 

「珍しいお客さんだな、どうかしたのか? 急ぎの仕事とか」

 

「もう! ドクトル貴水はすぐに仕事のことばっかりなんですねぇ。違いますよぉ、大神さんが昨日一緒にお茶をするっていう約束を守ってくれなくてお菓子とかが余っちゃったのでよければ食べてください」

 

「大神さんからドクトル貴水が徹夜しそうとも言っていたので、食事に困っているんじゃないかと思いまして」

 

「だからなんで俺の徹夜はこんなにすぐばれるのか本気で謎なんだが?

 まぁ大神の予想通り、さっきまで仕事をしててな。市場に何か買いに行こうと思っていたところなんだ。何もないがお茶ぐらいは出せる、よければ一緒に朝食にしないか?」

 

「いえ、そんな悪いで「ご相伴にあずかりますぅ!」

 

「あぁ、入ってくれ」

 

 二人を案内しながら、無駄に広い一軒家のリビングに通せばアルセーヌが既に止まり木のところでナッツをかじっていた。

 

「あっ、君がアルくんですねぇ」

 

「ワガハイハアルセーヌデアル! ナヲナノレ!」

 

「シー・カプリスですぅ、よろしくね」

 

「ウム!」

 

「ドクトル貴水、紅茶は私が・・・」

 

「いいからいいから、お客さんは座っててくれ」

 

「で、では、せめて持ってきたものは並べさせてください。食器お借りします」

 

「わかった、そこの戸棚に入ってるから好きなものを使ってくれ」

 

 じっとしていることに慣れてないのか、それともお客さんになることが慣れてないのか、動き出すメルに食器の場所を教えれば慣れた手つきで食器を出して、持ち込んだパンや果物、チーズ。そして、手作りと思われるマドレーヌとフィナンシェなどの焼き菓子が並ぶ。

 

「贅沢な朝ご飯だな」

 

「もう普段どんなお食事なさってるんですか? 普通の朝ご飯じゃないですかぁ」

 

「いやすまない、向こうでは料理を振舞う立場だったからきちんと作ってたんだが、一人で食べるとなるとなんだか味気なくて適当になってたんだ」

 

「ドクトル貴水はトーキョーの華撃団で普段は料理や小道具を作っていらっしゃったんですよね、隊員に振舞っていたんですか?」

 

「あぁ。劇団員の朝昼晩の食事を作って、去年から犬も飼いだしたから急ぎの用がなければ散歩にも連れ出して、小道具が必要なら直したり作ったりを団員達と協力しながら作業してたな」

 

「それを鳥組の仕事と一緒になさっていたんですか?」

 

 驚くメルに玄治は頷き、シーも驚く。

 

「よく倒れませんでしたねぇ、そんな生活大変じゃありませんでしたか?」

 

「いや完全徹夜はここ数年してなかったんだよ、俺にさせないように注意してくれる仲間がいてくれてな。それに頼りになる妹弟子がいるから光武の方はそんなに負担もなかったし、小道具は俺だけが作るわけじゃないから何度も助けられたんだ」

 

 思い出せば出すほど笑顔が深くなり、メルとシーもそんな玄治が珍しいからか興味深そうに聞き入っていた。

 

「そういえば二人は大神に約束をすっぽかされたんだろう? 忙しかったのか?」

 

「そーなんですよぉ! 昨日の午後から約束してたのに大神さんったら他の仕事を頼まれたり、グリシーヌ様の方を優先してたら私達とお茶する時間がなくなっちゃって~」

 

「二人も司会や傍仕えで忙しいからな、シャノワールは閉店時間も遅いからその後にお茶会も無理だったか」

 

「そーなんですよぉ!」

 

 わかってくれるかとばかりにシーが玄治に愚痴り、そんなシーの姿にメルが苦笑する。

 

「私達も大神さんが忙しいことはわかっていたんですけど、モヤモヤする気持ちは抑えきれなかったんですよね」

 

「っていうかぁ、忙しい大神さんを労わってあげようと思ってのお茶会だったのでいろいろと悲しくなっちゃったんですよぉ」

 

「それは悲しいよなぁ、まぁ俺はそのおかげでうまい朝食にありつけてるんだが。

 このマドレーヌとフィナンシェのレシピは教えてもらっても?」

 

「? 勿論いいですけど、ドクトル貴水はお菓子も作ってたんですかぁ?」

 

「女性ばかりの職場だってのもあるけど、完全に趣味の延長だな。

 歓迎会や誕生会、花見やクリスマス、新年会に公演成功の祝いとか、何かと理由をつけて皆でお祭り騒ぎをしてると料理だけじゃなく甘いものもあると喜んでくれるんだよ」

 

「へぇー、やっぱりドクトル貴水はいろんなことが出来るんですねぇ」

 

「ものづくりの範疇しか出来ないさ、あとは必死に取り繕ってる毎日だ。

 現に今日も徹夜して、まともに食事すらとってなかった」

 

 そう言えば二人も笑って、楽しい朝食を過ごしてご機嫌になったメルとシーを見送るのだった。

 

 

 

 

 

 メル達と別れてから十一時まで仮眠を取ってから玄治は再び動き出す。軽い準備運動をしつつ、アルセーヌと共に巴里へ散歩繰り出していく。

 

「ゲンジ、イイテンキ!」

 

「あぁ、いい天気だな。アル。お前もたくさんお日様浴びとけ」

 

 玄治がそういえばアルセーヌは翼を広げて、太陽を浴びる。なんとなく花を見ようと花屋に向かうとそこで大神と会った。

 

「玄治、花屋にいるなんて珍しいな」

 

「あぁ気分転換にな、家に花があると大切な気持ちを忘れないような気がするんだ」

 

「俺はシャノワールで使う花を注文に来たんだ」

 

「そうか、メルさんとシーさんの機嫌は治ったか?」

 

 玄治が笑いながら聞けば大神は一瞬固まり、苦笑いした。

 

「どうして知ってるんだよ、玄治」

 

「お前が食べる筈だったお菓子を持って、二人が今朝俺のところに愚痴りに来てな。

 忙しいのはわかるが、無理な約束はするもんじゃないぞ」

 

「あぁ、反省してるよ」

 

「ワガハイヲムシスルトハイイドキョウダナ、オーガミ!」

 

 大神のツンツン頭を引っ張り出すアルセーヌに大神は軽く謝罪する。

 

「あ、ごめんごめん。おはよう、アルセーヌ」

 

「ウム!」

 

 満足したのか玄治の肩にすぐさま戻ってくるアルセーヌに、玄治がふと墓地の方を見やればそこには墓地へと向かう花火の姿があった。

 玄治はそこそこの花束を持っていたが、その姿を大神と共につい追いかける。

 

「花火くん」

 

「あっ、大神さん、貴水さん」

 

 そこで花を手向けている花火に玄治も花束の中から墓地にあっても違和感のない花を手向け、大神も花を手向けた。

 

「ありがとうございます。

 フィリップも喜んでると思います」

 

「事故で亡くなったんだったか」

 

「はい・・・ 船上で結婚式の真っ最中に不慮の事故でした。

 最後まで私のことを気に掛けてくれて、私の笑顔が好きだと言って波に攫われていきました」

 

「そうか・・・ それは辛かったね」

 

 大神がそう言えば花火は俯き、玄治の肩にいるアルセーヌが突然羽をばたつかせた。

 

「ゲンジ、メシ!」

 

「お? もうそんな時間か、北大路さん、大神よければ三人で食事に行かないか? 勿論言い出した俺がご馳走しよう」

 

「いいのか? 玄治。花火君はどうする?」

 

「お二人がよければご一緒します」

 

「あぁ、三人で行くか」

 

「ワガハイモイル!」

 

「悪い悪い。四人で、だな」

 

 バサバサと羽で叩かれる玄治に大神と花火が笑い、揃ってレストランに行くと満席で断られてしまい出直すことになった。

 

「さて、昼まで時間をつぶすことになるがどこに行く?」

 

「そうだな・・・ 近くを歩いて時間をつぶそう。それでいいかい? 花火くん」

 

「お二人に従います」

 

 四人で共に歩きながら、なんとなく足は教会の方を向き、花火を真ん中にしながら進む。

 

「わぁ、タカミさん、アルくん、花火さん、大神さん、ようこそ」

 

「エリカ!」

 

 仲のいい三人が来たからか、満面の笑みで迎えてくれる。

 

「あっ、皆さんが来てくれたから私、パイプオルガンを弾きますね」

 

「それ、お祈りしてる人もいるのに大丈夫なのか? レノ神父に聞いてからの方がよくないか?」

 

「大丈夫ですよ! タカミさん。神様だって友人のために弾くなら見逃してくれます!」

 

「いや神様とかじゃなく、レノ神父に聞けと・・・「さて、弾きますよぉ!」 人の話聞こうな? どうして俺の周りには人の話を聞かない奴ばっかりなんだ」

 

 玄治が止めるよりも早くパイプオルガンは賑やかな音を奏で、ノリノリのエリカが弾いてるとは思えないほどきちんと音楽になっていた。

 

「凄いですね、エリカさん」

 

「あぁ本当に楽しそうだ」

 

「音を楽しむ、か。そういう意味ではエリカに一番向いてるのは音楽なのかもな」

 

 満面の笑みで人との出会いを奏でるエリカこそ音楽を一番楽しんでいるのだろう。が、騒ぎを聞きつけたレノ神父が駆け付け、エリカに何やら話をして音楽は止まる。

 

「えへっ、神父様に怒られちゃいました。

 お友達が来てるなら一緒に出掛けてもいいって言われたんですけど、シスターとしての仕事があるから私はここに残りますね」

 

 怒られても笑ってるエリカの頭を玄治がかきなで、大神と花火が音楽の礼を言えばエリカは嬉しそうに戻っていった。

 

「次はどこに行こうか?」

 

「あっ、図書館行ってもいいか? 少し借りたい本があるんだ」

 

「はい、わかりました」

 

 玄治の言葉により大神らは図書館に向かい、室内には入れないアルセーヌには外を飛んでてもらって、図書館へと入っていく。

 

「玄治、どんな本を借りるんだ?」

 

「あぁ、シーさんに貰ったマドレーヌとかがうまかったから製菓の本をな。あとはパンの本とかを借りる予定だ」

 

「貴水さんは勤勉なんですね、大神さんはどんな本を読まれるんですか?」

 

「俺は剣術の指南書かな、こちらの剣術も興味深いよ」

 

 二人の話を聞きながら玄治はいくつかの本を選び、パラパラとめくっていく。

 

「本当はどこかの店で修業が出来ればいいんだけどな、流石にそれは厳しいからなぁ。シーさんにでも直接教わる機会が欲しいくらいだよ」

 

「ふふっ、貴水さんがそこまでおっしゃるシーさんの焼き菓子、私も食べてみたいです」

 

「売店においてくれたらおもわず手を伸ばすくらいは美味しかった。しかし、メイドや司会もやってるからこれ以上となると厳しいだろうなぁ」

 

「だな、俺がもっと売店を手伝えば出来ないかな?」

 

「まぁどのみちオーナーにも話を通さないとな」

 

 いくつかの本を手に取ったあたりで玄治の瞳を二人がまじまじと見ていることに気づき、玄治が少し後ろに下がる。

 

「いや、花火くんの目が少し緑ががってるから綺麗だと思ったら、玄治の目の色が気になってね」

 

「私は祖母がフランス人だからですが、貴水さんの目は深い青色をなさっているんですね。もしかしたら私と同じようにご家族に異国の血が流れているのかもしれませんね」

 

「あー・・・ そうかもな。

 日本人にしては身長も高いし、この目の色も似た色は一度しか見たことない。けど、それも日本でだったから、本当はどこの血かわかんないままだな。

 祖父母、か。そこまで辿ることは考えたことはなかったな」

 

 言われた目に少し触れつつ、本を借りる手続きをして鞄の中に入れる。

 

「もしお力になれるようでしたら、北大路家もお手伝いします」

 

「その時は頼むかもな」

 

 玄治はどこか遠い目をして、その姿に大神が玄治を叩く前にアルセーヌが肩に戻ってきた。

 

「ゲンジ、オソイ!」

 

「あ・・・ あぁ悪かった、アル」

 

 玄治の肩に戻ってご機嫌なのか、ステップを踏むアルセーヌを見て花火が微笑む。

 

「アルセーヌさんは素敵なステップを踏みますね、ダンスみたいで可愛らしい」

 

「マカセルガイイ!」

 

 そう言って片翼をバッと開いて、さらにステップを踏むアルセーヌ。

 

「お前、踊りすぎだろ。俺の肩は舞台じゃないんだぞ」

 

「それならアルセーヌ用にシルクハットとステッキでも用意するかい? とても似合うと思うぞ」

 

「ワガハイハシンシユエ!」

 

 得意げにステップを踏みまくるアルセーヌに二人が笑うのを、玄治は苦笑いで見守った。そこでちょうど時間となり全員でレストランに向かうが、突然アルセーヌが暴れだす。

 

「ゲンジ! ナンカヘン!」

 

「どうした、落ち着け。アルセーヌ」

 

「ヘンナノ、クル!」

 

 そう言った途端空が陰り、黒いペストマスクと黒い帽子をつけた怪人が降り立ってくる。

 

「貴様らぁ! 死に彩られた我が君を生きる希望などというもので汚しおって! 我が君に触れるな!」

 

 玄治と大神を睨みつけるように立つ怪人は身なりを正すと名乗る。

 

「我はマスク・ド・コルボー、

 お初にお目にかかります、我が君黒衣のマドモアゼル」

 

「大神、ここは俺が引き受ける。北大路さんを連れて逃げろ」

 

「玄治・・・ しかし」

 

「愚かな男、特に貴様だ! 貴水とやら!

 貴様がマドモアゼルと話すたびに、彼女から死の彩りが消えていくのだ!」

 

 玄治へと牽制するように烏達が襲い掛かり、玄治は手で防ぎながらもあちこちに擦り傷を作っていく。

 

「玄治!」

 

「掠り傷だ、問題ない! それよりも早く北大路さんを!」

 

 そこでマスク・ド・コルボーの姿は変わり、明るい茶髪の好青年へと様変わりする。

 

「我が君よ、迎えに来ました。さぁ我と共に参りましょう。死に彩られた夢幻の世界に」

 

「フィ・・・ フィリップなの・・・?

 会いたかった・・・ ずっと会いたかった!」

 

 花火が感極まったように口にする言葉に、玄治と大神がこの姿が婚約者なのかと確信する。

 

「駄目だ! 花火くん!!

 行くな! そいつはフィリップじゃない!」

 

「何を言っているんです?

 この人はフィリップ、私に会いに来てくれたんですわ」

 

 止める大神に烏に襲われていた玄治がゆらりと刀を引き抜いて、一閃の元に烏を散らす。見ればアルセーヌも烏を追い払い、攻撃していた。

 

「おい、北大路花火、ふざけるなよ?」

 

「げ、玄治?」

 

 そこには怒りを露にする玄治があり、その視線はうっとりとした様子でフィリップに化けたマスク・ド・コルボーを見る花火に向けられていた。

 

「お前が死者を想っていることは知っている。

 どこかで死を望んでいることも、傍に行きたいと思っていることも、後悔をしていることも痛いほど伝わってきた」

 

 思い出すのはいつも墓地で出会う彼女のこと。

 黒い服を纏い、婚約者の墓の前に何するでなく佇み続ける彼女の姿。

 

「でもな・・・」

 

 そこで襲い掛かってきた烏を真っ二つに両断しながら、玄治とアルセーヌは銀色の光を帯びながら刀を向けた。

 

「お前のその気持ちは、姿を映した偽物でもいいって言うのか?」

 

「何を言ってるんです? 貴水さん。この人は・・・」

 

「よく見てみろ! 北大路花火!!

 お前が己の行動を後悔するほど愛して、生き返ってほしいとすら望んで、もう一度会いたいと願った大切な婚約者は今、本当に目の前にいるのか!?

 それともお前は! 声と姿を模していれば偽物でも良いって言うのか!!」

 

「っ!」

 

「玄治・・・」

 

 玄治の気持ちが痛いほど伝わってくる大神は何も言えずに二人を見守り、花火がもう一度マスク・ド・コルボーへと視線を向ける。

 

「フィリップ・・・ あなたはフィリップよね?」

 

「そうだよ、花火。騙されちゃいけない。

 彼らは僕と君を嫉妬して、あの二人は君を騙そうとしているんだ」

 

「アル!」

 

 鋭く呼ばれたアルセーヌがマスク・ド・コルボーを攻撃すれば帽子が落ち、花火が何かを気づいたようにマスク・ド・コルボーの腕の中で暴れだす。

 

「あなたは誰? フィリップじゃ、ない・・・ 離して!」

 

「おのれ! こうなれば無理にでも連れて行くまでよ!

 叶えてあげよう、死を願う君よ。心の闇は闇の者にしか理解し合えないのだ!」

 

「私は・・・ 私はそんなこと、望んでない! 私が望んでいたのは・・・」

 

 そう言いながら連れ去られていく花火と上空に消えていくマスク・ド・コルボーを、玄治は迷いもなく追いかける。

 

「玄治! 一人じゃ危険だ!」

 

 そんな大神の言葉を背に受けながらも怒り狂った玄治はもう止まらない。

 

「大神、お前は後から来い! 俺はあいつをぶった切る!」

 

「っ・・・ 無理はするなよ! 玄治!」

 

「おう」

 

 もはやどちらの姿も見えなくなった後、大神は急いでシャノワールに向かうのだった。

 

 

 

 

 

「隊長! 貴公がついていながら花火を連れ去られるとはどういうことだ!」

 

 すぐに召集のかかった花組面々に大神はグリシーヌに開口一番に責められる。

 

「す、すまない、グリシーヌ」

 

「うるさいんだよ、今はそんなことで隊長を責めてる場合じゃないだろ。

 それで状況はどうなってるんだい?」

 

 だるそうにいうロベリアをグリシーヌがキッと睨みつけるが、大神は全員に伝える。

 

「花火くんはマスク・ド・コルボーという怪人に連れ去られて、今は玄治が追っている状態だ」

 

「えっ、タカミさんが?」

 

「おじちゃんが追いかけてどうするっていうの? 何も出来ないんじゃないの?」

 

「いや、それは問題ない」

 

「問題ないって、どういう意味だい? 隊長。

 そいつは一体何者なのか、いい加減はっきりしてくれないと気持ち悪いよ」

 

 そこで一度大神とグラン・マの視線が交わり、グラン・マが無言で頷いた。

 

「玄治は・・・ 東京の花組である帝国華撃団の後方支援部隊・鳥組隊長なんだ。

 対降魔部隊から戦い続けている歴戦の猛者で、生身で怪人とやり合うこともこれまで何度だってあった。だから、玄治の心配はいらない」

 

「なるほどね、ただもんじゃないってわけだ」

 

 大神の言葉に納得がいったロベリアに対し、他三名は未だに納得がいってないとばかりに顔をしかめている。

 

「でも、だからって急がないとおじちゃんと花火が心配だよ」

 

「タカミさんは何も持ってないんでしょう? それに怪人がロボットに乗ったら・・・」

 

 玄治達の心配をするコクリコとエリカだが、そんな中グリシーヌだけが腕を組んで険しい顔をしていた。

 

「隊長、ドクトル貴水はよく墓地に行っていたそうだがその目的はなんだ? 何故、花火と接触するようなことがあった?」

 

 グリシーヌの言葉に大神は言いにくそうにするが、何も言わなければグリシーヌが納得しないと思って口にした。

 

「玄治は多分慰霊碑に手を合わせに行っていたんだ」

 

「慰霊碑にだと!? 多くの死者が出た大戦のその一因を担ったのは他ならぬ奴の師、ドクトル山崎だろう! そんな者がどうして慰霊碑に手を合わせなど・・・!」

 

「落ち着いてくれ、グリシーヌ。

 君達にとって確かに山崎さんは大戦の一因を担ったかもしれない。だけど玄治からしてみれば、守るために作られた技術を戦争に使って・・・ そして、山崎さんを狂わせた原因なんだ」

 

「狂わせた、だと?」

 

「あぁ、いろいろな戦いがあったよ。その中で玄治は一度だって辛い別れを何度も見送ってきた。

 大切な師である山崎さんを、父のように慕った真宮寺大佐を、母のように思っていたあやめさんを」

 

 大神の目に思わず涙があふれ、大神は慌てて涙を拭いた。

 

「だから、タカミさんは許せなかったんですね。

 大切な人の姿を扮したマスク・ド・コルボーを」

 

「いいや違うね、そいつは怒っていたんだろう?

 それなら許せないのは怪人じゃぁない、その偽物でも良いって思って騙された花火って女の方さ」

 

 エリカが語った言葉を否定するように、あたかも玄治の心がわかるかのようにロベリアは笑った。

 

「どちらもあっていると思うよ。

 だからこそ、玄治は・・・」

 

「場所、特定出来ました! 場所はオペラ座! で、ですが、なんだかおかしいんです」

 

「おかしい、どういうことだい? メルくん、シーくん」

 

「いえその・・・ 敵が張った結界も、幻術があった筈なんですが、全てが消え去っているんです・・・」

 

「どういうことだ!?」

 

「玄治だ・・・」

 

「と、とにかく急いで向かいます。

 えっ? 花火さんがこちらに? ドクトル貴水は!?」

 

 バタバタと慌てて動き出すメル、シーを見ながら、先ほどマスク・ド・コルボーに攫われていった花火が玄治の上着を羽織って姿を現した。

 

「えっ・・・ ここは? グリシーヌ?」

 

「花火! よかった、無事だったのだな!」

 

 感極まって抱き着くグリシーヌを戸惑いながらも受け止める花火に、花火が詳細を求めるよう大神を見る。

 

「花火くん、ここは巴里を怪人から守る組織、巴里華撃団花組。俺達はその隊員なんだ。

 そして、君にも戦う力がある。玄治を助けに行きたいんだ、力を貸してもらえるかい?」

 

「隊長! 花火には・・・」

 

「いいの、グリシーヌ。

 私はもう守られてばかりではいられない。私もあの人のように強くなりたい!」

 

「花火・・・ わかった、もう止めるまい。

 隊長、急いでドクトル貴水の元へ向かおう!」

 

「あぁ、巴里華撃団出撃せよ! 目的は玄治の救援だ!」

 

『了解っ!』

 

 

 

 

 

 時を少し遡る。

 玄治は大神と別れ、まっすぐマスク・ド・コルボーを追っていた。マスク・ド・コルボーはオペラ座に侵入し、強大な妖力の結界を張る。

 

「ゲンジ! ケッカイ!」

 

「問題ない、ぶった切る。

 さぁ巴里にお披露目だ、我霊天晴」

 

 一刀のもとに結界をぶった切り、結界が崩れたことによってマスク・ド・コルボーが驚く。

 

「なっ!? 貴様ぁ、本当に人間か?!」

 

 マスク・ド・コルボーが諦めずに船の幻術を出せば、玄治は大したことはないとばかりにポーン達を事も無げに斬り、分解し、雨に打たれても関係ない。それどころかアルセーヌまでもが銀の光を放ちながらポーンに攻撃するほどである。

 

「北大路花火! お前はそんなところで縮こまっていていいのか!」

 

 玄治は嵐の中で怒鳴り、叫ぶ。

 

「お前の想ったフィリップが望んだのはお前の死なんかじゃない!

 お前に生きて、笑って欲しかったんじゃないのか!

 お前があの日、本当に望んでいた未来はなんだった!?」

 

 それはまるでかつての自分に突きつけているようで、玄治の心は軋みをあげる。

 それでも言わずにはいられなかった、叫ばずにはいられなかった。

 

「私があの日・・・ 望んでいたことは・・・」

 

「花火! 答えては駄目だ!」

 

 姿を偽ったマスク・ド・コルボーが再び現れるが、花火は強く首を振る。

 

「あなたはフィリップじゃない、フィリップは私の死なんて望んでいなかった!

 あの人が最後まで望んでくれていたのは・・・ 自分の命を懸けてでも私が生きることを望んでくれた!」

 

「そうだ! それでどう思った? お前の望んでいた未来はなんだった?!」

 

「私はあの人と、フィリップと生きる未来を望んでいた!

 それはもう叶わないけれど・・・ それなら私は、あの人が守ってくれた人生を生きたい!」

 

 そう言った途端花火の周りから霊力が解き放たれ、船の幻が消えていく。

 

「大丈夫か? 北大路さん」

 

「花火でいいです、貴水さん。

 ありがとうございます、あの人の願いを私に教えてくださって・・・」

 

「俺が教えたんじゃない、お前は本当はわかっていたんだ。

 けど、それでも夢見た二人での未来を諦めきれなかっただけだ」

 

 そこで玄治は濡れた上着を脱ぎ、涙を零す花火にかぶせる。

 

「そこのダストボックスからある場所に避難できる。そこには大神達がいる筈だ、行け」

 

「で、でも! 貴水さんは・・・」

 

 玄治の身を案じる花火に、大丈夫だとばかりに右腕をあげる。

 

「俺なら平気だ。

 さっきも見てただろう? 俺は結構強いんだ」

 

「貴水さん・・・ ご武運を」

 

「おう」

 

 状況を受け入れてダストボックスへと花火が走り、玄治はアルセーヌを控えさせて愛刀を構える。

 

「貴様ぁ! どこまでも我の邪魔をするというのか!?」

 

「あぁ勿論、俺はお前みたいに人の過去をほじくり返す奴が大っ嫌いなんでね。

 さぁ覚悟しろ、マスク・ド・コルボー。お前ご自慢のその翼、叩っ斬ってやるからな」

 

「黙れ黙れ黙れぇ! よくもよくもよくも我が君を! 黒衣のマドモアゼルを惑わせたな!」

 

 怒りに触れながらもそのポーズはオペラの舞台に立つ役者のように大袈裟で、悲壮にくれるように胸を押さえる。

 だが、そうかと思えば腰に差したサーベルを玄治に向けて叫ぶ。

 

「私にはわかるぞ! 綺麗事を並べていながら貴様の心に常に宿る闇を! 闇を抱えた貴様が我らに刃を向けるほどおかしなことはあるまい!?

 何故だ!? 何故、貴様が我らに刀を向ける!? 貴様も同じ闇に生きる者だろう!」

 

「そうかもな・・・ それどころが生まれだって確証がない俺なんてお前らと変わらない。

 けどな、そんな俺を人間にしてくれた人がいるんだ」

 

 蒸気獣セレナードを見ながら、玄治は一度目を閉じる。

 そこにいるのは、自分と出会ってくれた師と三人の恩人。

 

「俺を人間でいさせ続ける奴らがいるんだよ」

 

 大切な仲間と婚約者達の姿が心にあるのだ、そうして玄治は走り出す。

 そうして翼の片方を斬った瞬間、光武が煙幕とともに現れた。

 

「玄治、無事か!」

 

「おぉ遅かったな、大神。

 それとそっちの機体は・・・ 花火か、そうか、戦うことを選んだんだな」

 

「はい、貴水さん共に戦わせてください」

 

「聞いたのか、でも心配するな。もうすぐ終わる」

 

 翼を失って落ちたセレナードに向かって、玄治は最上段に構えて振り下ろす。そして、蒸気獣セレナードが爆発し、玄治は涼しい顔で客席に降り立ち、その肩にアルセーヌを呼び戻す。

 

「こんなもんだな。

 さっ帰るか、アルセーヌ」

 

「ウム!」

 

 そう言って帰ろうとする玄治達を呼び止めることも出来ずに、その背中に花火が叫ぶ。

 

「貴水さん、また後でいつもの場所でお会いしましょう。

 本当にありがとうございます」

 

 その声に腕だけで答えつつ、釈然としない大神が『とりあえず終わったんだし』といつものをすることにした。

 

「しょ、勝利のポーズ!」

 

「決めていいのか!?」

 

 その時の写真は何故か全員困惑するという、今までにない勝利のポーズだったという。

 

 

 

 

 

 その日の夕方、玄治は彼の墓の前で花火を待っていた。

 

「貴水さん、お待たせしました」

 

「いやいいさ」

 

 お互い視線を合わさず、ただ同じ位置に並ぶ。

 

「私はこれまでもう戻らない過去を、あの人を見て、優しい夢に逃げていました。

 でも、それはあの人は望んでいなかったんですよね」

 

「・・・なぁ花火、君がもし魂を信じているなら一度だけ美しい夢を見せてやれる」

 

「夢?」

 

「俺が過去を望んで創り上げた、技術の結晶だ。

 もしかしたら失敗するかもしれない」

 

「かまいません、見せてください」

 

 そう言って掌大の石のようなものを取り出し、花火にそっと握らせる。

 

「これは霊力の強い場所から持ってきた石にさらに特殊な技術を組み込んだもの、この世に未練を残す魂の心残りを伝えるものだ」

 

「まさか・・・」

 

「未来を見ようとするお前に、せめて一度でもいいから会わせてやりたい。

 願ってくれ、彼の魂を。一瞬でもいいから会いたいと、強く」

 

 玄治がそう促せば、花火はその石を両手で強く包み込んで願う。

 すると石は不思議な光を放ち、そこにはマスク・ド・コルボーが化けていた彼の姿が現れた。

 

『花火・・・ よかった』

 

「フィリップ・・・ あぁ、本当にあなたなのね」

 

 そう言って触れられない体に二人は身を寄せ合い、確かに抱き合っていた。

 

『ごめんよ、花火。僕の言葉が君を縛ってしまった』

 

「いいえ! いいえ! あなたは何も悪くない! ただ私が弱かったの、あなたの優しさにずっと甘えていたかったのよ」

 

『花火、どうか生きて。

 僕の大好きな笑顔を忘れずに、どうか幸せに生きておくれ』

 

「フィリップ、ありがとう。

 あなたのことを愛しています。今もずっと」

 

 そこでフィリップは笑顔を浮かべて消えていく。その姿を花火は確かに見送り、光を失った。

 

「貴水さん、ありがとうございます。本当にありがとうございます」

 

 そして泣きながら玄治に抱き着いて、感謝を告げるのであった。

 

 




わーい! オーナーが休みをくれるんだって!
なら、シャンゼリゼにお買い物を行きましょうか?
なーに言ってるの、メルはドクトル貴水を誘ってデートでもすればいいじゃない
し、シー・・・ 何を言ってるのよ、もう
次回 『巴里の休日』
愛の御旗のもとに
休日、か・・・ 大神はどうするんだろうな?
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