ある日の早朝、けたたましくなるキネマトロンの音に玄治が眠い頭で起動させる。
「玄治、一緒に朝食を取らないか?」
「おう大神、お前から朝食の誘いなんて珍しいな。
俺今起きたばっかりで準備に時間がかかるから、一時間後にお前の家の近くのカフェでいいか?」
「あぁ、待っているよ」
大欠伸をしていれば当たり前のように左肩にアルセーヌが乗り、挨拶してくる。
「オハヨウ、ゲンジ!」
「あぁおはよう、大神から朝からカフェに誘われたぞ。準備しような」
「オーガミ! カフェ!」
「アルは先にいくらか食べてような」
そう言って止まり木の近くに置いてある皿の上にナッツや果物を置き、玄治はざっと自分の身なりを整え、ポケットの中に懐中時計を忘れずに入れておく。愛刀も腰につければいつもの玄治の出来上がりである。
「マリア達に貰った一張羅は・・・ 今度はいつ着るかな」
「ゲンジ?」
「あぁアルも見るか? 俺の婚約者達がくれた一張羅だ。
髪結い紐とネクタイピンはいつもつけてるけどな、やっぱり何かのパーティの時に着たいよな」
「ゲンジ、ワラッテル。シアワセ?」
「あぁ幸せだ、マリア達のことを考えてる時がきっと一番幸せだ。
向こうに帰った時の土産もどこかで見繕わないとな、何がいいだろうな?」
「クダモノ?」
「それはお前が食べたい物だろ、アル」
クスクス笑いながら左肩に皮のガードをつけ、『来い』と促す。
「行くか、アル」
「イクゾ! ゲンジ!」
いつものようにサーカスと公園を通り過ぎ、橋を通り過ぎてシャノワールが見えたら左に曲がれば大神のアパートが見えてくる。
が、大神のアパートの前に花組隊員が勢揃いしており、玄治はおもわず立ち止まる。
「・・・アル、帰るか」
「マダツイテナイ」
「だって絶対ろくなことにならないだろ、あれ。
東京でもそうだが大神に女が集まってる時は問題しか起こらないんだ」
「オーガミ、オンナ、モンダイ?」
「そうだ、大神女問題だ」
玄治がアルセーヌの言葉を繰り返すが、なんだか違う問題になる単語を新しく作っているとエリカと花火と視線があった。
「あっ、貴水さん、おはようございます」
「タカミさんも大神さんと一緒に朝ご飯ですか?
何がいいと思います? やっぱりプリンですか?」
「あぁ、まぁ・・・ でもそっちと約束してるなら俺とアルは遠慮しておこう。
じゃぁな、大神」
「玄治! 待ってくれ!」
渋々ながら立ち止まり、再び大神の方へ振り向けばやっぱりそこには花組隊員五名とその真ん中に埋もれるように大神がいる。
最悪な陣形、近距離戦の玄治には一点突破しかないという厳しい戦況、勝率が低すぎる。
そこで玄治の胸ポケットから小型キネマトロンの音が鳴り、玄治は目を落としてから大神に向かって右手で謝罪の形を作る。
「悪い大神、仕事が入った。俺帰るわ。頑張ってくれ」
「げ、玄治ぃー!」
背後に大神の絶叫を聞きながら、玄治は急ぎ家に帰るのであった。
市場で食事を見繕って、大急ぎで自宅に戻って地下に入ればそこには待っていたとばかりに加山が立っていた。
「地下は良いなぁ~、巴里楽しめないけど」
白いスーツに赤いシャツ、牛柄のネクタイの手にはギター、日に焼けた髪のオールバック男。加山雄一が不法侵入かましていたので、誰よりも早くアルセーヌが飛び掛かる。
「えっ!? ちょっ、玄治、助けてくれないか! というか、こいつは誰なんだ!?」
「ワガハイハアルセーヌデアル! ナヲナノレ! シンニュウシャ!」
「アル、来い。一応そいつは俺の知り合いだ」
「ナヲナノレ!」
厳しく叫び続けるアルセーヌに加山は得意げにギターを鳴らし、自分を大袈裟に指さす。
「俺の名前は加山雄一。海軍所属の謎めいた貿易商であり、大神と玄治の親友さ」
「フシンシャ!」
覚えさせてない言葉を流暢に話したアルセーヌに玄治が噴き出し、笑いが収まってから加山にもアルセーヌを紹介する。
「加山、こいつはアルセーヌ。縁あって俺と来ることを決めた、相棒だな」
「何ぃ!? お前の相棒はこのお「それはない」食い気味ぃ! 否定が速すぎるぜ、玄治!」
「アイボウ! ワガハイ、ゲンジ、アイボウ!」
加山の前で胸を張って勝ち誇るアルセーヌに加山がハンカチを噛みだし、玄治は乾いた笑いしか出てこない。
「で、今日は何の用なんだ?
大神の前に出てこなかったってことは、俺にだけ伝えたいことがあるんだろ?」
「流石玄治、察しが良いな。
率直に言おう、この巴里の街に帝国華撃団花組隊員達が来る」
そこで魔法瓶に入れていたお茶を口に含んでいた玄治が盛大に吹いて、激しく咳き込む。
「だ、大丈夫かぁ? 玄治?」
「おまえ、これが大丈夫だと、思うのか・・・」
息を整えつつ、脳裏によぎったずいぶん前のさくらとのやり取り。
「で、さくらか? さくらだな? あいつマジでやったのか?」
「なんで名指しなんだ? いや、確かに発案はさくらさんだが花組全員の賛同と協力あってのことだし、巴里華撃団からしても先輩である彼女達が来ることは悪いことじゃないだろう」
「それ全部、大神と会うための建前だって言ったらどうする?」
玄治の発言に沈黙が降り、加山の額に流れた冷や汗が答えだった。
「ま、まぁ、悪いことじゃないだろう?
それに玄治だってマリアさん達に会えるんだ、巴里でデートとしゃれこめるじゃないか」
「・・・それよりも先に説教されそうで怖いな」
「ハッハー、その目の下の隈とこの地下の散らかりよう。そして、ほとんど料理してないことがばれそうなキッチンの綺麗さ。説教は確定コースだ、諦めろ」
「お前・・・ もしかしてもう報告してるんじゃないだろうな?」
「ノーコメントだぜ!」
親指を立てて元気よく答える加山に、玄治が拳をあげるよりも早くアルセーヌが飛び掛かっていく。
「お前本当にどこまで俺の個人情報を抱えてやがんだ?」
「俺とお前の間に秘密はなしだぜ」
「ならお前の秘密もここに詳らかにせよ」
「それは不可能だぜ、俺という男はミステリアスと共にあるからな」
「本当にしばくぞ、お前」
ぎりぎりと襟首掴みつつ、両手をあげて余裕の笑みの加山に心底腹が立つが仕方ないと突然落としてやる。
「それで? 何人かのチームに分かれてくるんだろ? 最初は誰なんだ?」
「さくらさん、すみれさん、アイリスさんだな」
再び嫌な沈黙と玄治の嫌そうな視線が加山に突き刺さる。
「わざとか? わざとだろ? さくらは俺と大神の胃をどうにかしたいんだろ?」
「そ、そんなことはないぞ。きっと。
それにチームワークという意味ではこの三人ほど適任はいないだろう」
「いやいるだろ。マリア中心にすれば誰でもチームワークよくなるし、元星組だけでもチームワークはとれてるだろ」
「ま、まぁそれはともかく、玄治から見て巴里華撃団はどうだ?」
「個々が強すぎてチームワークの欠如・・・ というか必要性がわかってない、が正確か。
あと、エリカの霊力がまだ全力じゃない気がするんだよな。なんというか、本人が力を恐怖しているから全力を出し切ることを無意識に拒んでるような感じがする」
「ほう! それはそれは大変そうだな」
「まぁ大神が大変だな、俺は適当にやってるから特に被害はないが」
「いやいや、先日の北大路さんの一件ではずいぶん暴れたらしいじゃないか。
それとあの石は報告にあがってないが、一体何なんだ?」
何から何まで筒抜けになっていることに心底嫌な顔をしながら、アルセーヌに髪を突かれ渋々答える。
「俺は人の過去をほじくり返す奴が大っ嫌いだし、偽物でも良いと思った花火にもむかついたんだよ」
「それだけか? 本当に?」
「お前、俺に大神みたいなことを期待するのやめろ」
「お前はそうじゃなくとも、相手がどう思っているかはわからないがな」
「・・・」
「そう睨むなって。もう一つ、あの石はなんだ?」
「御霊石、と俺は呼んでる。
もともと霊山などの力を浴びてきた石に、反魂の術の魂呼びの部分を抜き取って改良してる。反魂の術と違うのは体を再生させるに至らない、霊石の力で浄化されて選別された現世をとどまっている善良な魂のみを引き寄せるものだ」
「ほほう、それはまた夢のようなものだな」
「これは量産化出来ないし、現世に魂がとどまっていないと不可能だ」
「つまり、魂がのぼった後は会えないってことか」
「あぁ」
なるほどなぁっと加山が言いながら、いろいろな設計図を勝手に目を通していく。
「光武Fの増強パーツは第二陣である紅蘭さんと共に来る。その時に来る他のメンバーはマリアさんとカンナさんだ」
「子ども組と大人組を分けるなよ! んで、最後のメンバーが元星組かよ! もっとバランスとれたメンバー分けあっただろ!」
思わず叫ぶ玄治に『ヨシヨシ』とアルセーヌが玄治の頭を翼で触れて慰め、加山を想うところはあるようで冷や汗をかく。
「でもだな、玄治。
さくらさんのことを悪く言うが、お前だって巴里でいろいろな試作品を作ってるじゃぁないか」
「それとこれは関係ないし、俺は仕事の範疇をはみ出してないぞ」
「蒸気機関と霊力機関がついてれば仕事で通す便利な仕事だよなぁ?」
そこで玄治が視線を逸らすが、別の書類を加山に投げ渡す。
「これは?」
「巴里が出来て以降の歴史と封印に関するものだ。
だが、やはり成果は芳しくない。どこの首都でもそうだが首都を創る時は土地の神を奉ったり、かつての神事態を倒し自分達の神に挿げ替えて奉りなおすものだ。
これは巴里が始まってからの歴史となると、それ以前の情報がない」
「挿げ替える前の神は何か、わからないってことか」
加山が玄治の意図をくみ取れば、玄治も頷く。
「あぁ、怪人からは妖力反応があるのは確かだがな。
それとこれまでの戦いと決定的に違うのは貴族や権力、人間から見て価値のあるものを奪ったり、壊したりしようとすることだな」
「人間を直接的に脅かしてきてる訳か」
「あぁ、それがどうも気にかかる・・・ なんで怪人が人間の価値観で襲ってくるんだ?」
「玄治が考えてもわからないんだ、門外漢の俺にはさっぱりさ。
さぁって、俺はこの辺でお暇するかな。午後は楽しい楽しい大神とのデートだからな」
ウィンクしながら天上に張り付く加山に、玄治もからかって口笛を鳴らす。
「それはそれはお楽しみで、せいぜい楽しんでくると良い。
俺も楽しく実験、実験だ」
「巴里の街中に置いたあれはなんなんだ?」
「何、ちょっとした実験だ。
小規模の実験は成功しているが街規模の実験は早々できない奴を、な」
「ジッケン、ジッケン! カンセイ! セイコウ! サイキョウ!」
玄治の楽し気な顔にアルセーヌも楽しくなったのか、肩でステップを踏んで踊りだす。その姿を背に、加山は大神の元へ向かうのであった。
大神が加山と楽しいデートと言う名の巴里案内ツアーを実行している頃、玄治はモニターにて巴里に配置したある物のシミュレーションをし、以前に作った斬馬刀に霊力を通して実験を行っていく。
「どちらも良好だな、あとは実戦投入を待つのみか」
「ゲンジ、ブッソウ!」
「あぁ物騒だな。けど、その物騒なものも全ては使いようだ。
使う奴が間違わなければ何よりも強い刀にもなるし、盾にもなる」
アルセーヌの言葉に大真面目に答えながら、斬馬刀を鞘に納めて壁に立て掛ける。
「俺はそのどちらにでもなれるように動かなきゃいけない。
アルセーヌ、お前はそんな俺の相棒なんだ」
「マカセルガイイ!」
「でもな、お前には一つ頼みたいことがある」
「ン?」
アルセーヌが首を傾げると玄治はポケットからあの懐中時計を出し、アルセーヌにしっかりと見せる。
「本当に危ない時は、花火の時のように俺と一緒に戦わなくていい。
こいつを持って安全な所で待っていてくれ」
「トケイ」
「そうだ、この懐中時計があるところに俺は必ず帰る。
お前も家族になった今、お前も俺の帰る場所で、家族の写真が入ってるこの時計を守ってほしい」
「マモル! ワガハイガ、マモロウ! マカセルガイイ!」
懐中時計を試しに持たせてみれば、大きな体のおかげか落とす心配はなさそうでしっかりと握ってくれる。
「頼んだぞ、アルセーヌ。
今度皆で撮る時は、お前も入れなきゃな」
「カゾク!」
「あぁ、家族だからな」
そう話しているとモニターのキネマトロンの通信が入り、応答すればそこには朝別れたばかりの加山が映る。
「なんだ、加山。大神との楽しいデートはもう終わったのか?」
「あぁ、俺もやることがあるからなぁ。大神との楽しいデートは一時間ポッキリだ」
「全然楽しめなさそうなデートだな、午後いっぱいイチャイチャしてればよかっただろ」
「俺も是非ともそうしたかったが、大神も随分疲れていたからな。
明日の予定も随分と迷っているようだ」
互いに軽口を交えて話し合いながら、大神の疲労とまた女関連で迷ってるのかと渋い顔になる。
「シャノワールの臨時休業でデートか。誰にするんだかな」
「今後のことを考えれば副隊長、さらにいえば次期隊長として人選してほしいところだが多分そこまで頭は回ってないだろうな」
「そもそもチームワークがない上に自覚がないところがなぁ~。
帝都の花組とは状況が違いすぎる巴里華撃団は、良くも悪くも大神にとっていい経験になるだろうな」
「そうだな、今後の計画もあるしな」
「・・・あの計画、俺も目を通したが本当にやる気なのか?」
「やるし、成功させる。
だから大神には、ここで失敗されると俺は困っちまう」
笑いながら言う玄治は、端から大神が失敗するとは思ってないことを告げていた。
「世界を美しいもので包み込む。
この計画のためになら、俺は命だって懸けれる」
「お前の命がなくなったら、計画がご破算になって前提が崩れるだろ?」
「そして加山、お前達月組の協力も不可欠だ」
「わーかってるって。俺とお前と大神、誰か一人でも欠けたらこの計画は失敗しちまう。
成功させようぜ、玄治ぃ」
「ワガハイモイル!」
「あぁ、頼りにしてるぞ。アル」
悪い顔で笑いあう二人の男の間に通信が割って入ってくる音がし、加山が挨拶もなしに通信を切る。
「すみません、ドクトル貴水。通信中でしたか?」
「いいや、今ちょうど話し終わったところだから問題はない。
どうかしたのか? メルさん。俺に何か依頼でも?」
「いえ、そうではなく・・・ その、ドクトル貴水は明日、何かご予定はありますか?」
「いや特にないが、何か頼み事か?」
「えっと、もしよろしければシャンゼリゼ通りをご案内しようかと「もしもーし、タカミさん。起きてますかー?」 エリカさん?」
「あ、すいません。メルさんと通信中だったんですね。
もしよければ明日、花火さんと私と一緒にシャンゼリゼ通りでお礼をさせてほしくて」
「礼? 何かお礼をされるようなことしたっけか?」
「なーに言ってるんですか、タカミさん。先日の戦いの時、花火さんを守ってくれたじゃないですか。それに私達花組に代わって巴里を守ってくれました。そのお礼をするのは花組隊員として当然ですよ!」
「あれは俺が勝手に怒っただけだから気しなくていいんだがな。
だがすまない。今、メルさんからちょうど明日シャンゼリゼ通りを案内してくれると話を貰ったからな。今度にしてもらえないか?」
「それならドクトル貴水とエリカさん達がよろしければ、四人でシャンゼリゼ通りに出掛けませんか?」
「それ、名案です! 今、花火さんとも通信繋げますね!」
モニターに同時に三名の顔が映り、玄治もここまで複数の通信は初めてだったため少し驚く。
「えっ、メルさんとエリカさんと貴水さん、えっと・・・」
「花火さん、明日私達四人でシャンゼリゼ通りにお出掛けしましょう!」
「・・・なるほど、わかりました。三人で貴水さんにお礼をするんですね」
ニコニコと状況を理解する花火とほぼ確定事項としたエリカの笑顔に、玄治も『まぁいいか』と笑う。
「じゃぁ頼むとするかな。
朝九時にシャノワールに集合でいいか?」
「はい、大丈夫です」 「はーい!」 「貴水さんのお心のままに」
三人がそれぞれ通信を切ったのを確認しながら、玄治も通信を切る。
「シャンゼリゼ通り、か・・・ 何か土産が見つかるといいな」
「オデカケ?」
「あぁお前も行こうな」
明日に向けて実験をそこそこにし、少し早めに休むことにするのだった。
翌朝、集合の時間より早めにシャノワールに向かえばメルが既に来ており、玄治は手をあげる。
「おはよう、メルさん」
「オハヨウ」
「おはようございます、ドクトル貴水、アルさん」
「メルさん、今日は一般人の多いところを歩くからドクトルと呼ぶのは控えてもらってもいいか?」
流石にフランスではあまり知られていないとは思うが、普段着の女性達に博士と呼ばれていたらおかしく思うだろう。
「では、貴水さんと」
「あぁ、それでいい。玄治でもいいぞ」
「い、いえ! それは恐れ多いといいますか・・・」
「そうか? まぁ呼びやすいように呼んでくれ。メルさん」
「はい」
頬を赤らめるメルに玄治は笑い、そうしているところにエリカが突然背後からやってきて玄治の背中に必死に腕を伸ばそうとしているのを、花火が不思議そうな顔をしていた。
「エリカさん? 何をしようとしてるんですか?」
「タカミさん、身長が高いから顔に手が届かなくて・・・ 『だーれだ?』が出来ないんです」
「エリカ! エリカ!」
「なんだ、おんぶか? エリカ」
精一杯手を伸ばすエリカに、玄治が後ろを振り向きながら聞けばエリカは目を輝かせた。
「オンブ! 日本の背中に背負う奴ですね!」
「うん、それだけ言うとたくさんあるからな?」
「? たくさんあるんですか?」
「あぁ、日本には柔道っていう特別な体術があるんだ」
「あっ、知ってます! シノビが使うやつですね!」
「・・・まぁ近いな、知っている人しか使えないって意味では同じだ」
玄治が説明を放棄し、メルと花火が微笑ましそうにそれらを見つめ、全員が揃ったところでシャンゼリゼ通りへと出発した。
人混みの中を身長の大きな玄治を目印にしながら、花火がふと玄治のスーツに目を止めた。
「貴水さん、以前のスーツとは違うものですね?」
「あぁ、わかったか。
帝都から出発する時に贈られた特別なものでな、こういう特別な日に使おうと思ってたんだ」
「素敵なスーツですね、いつもお付けになっているネクタイピンと髪結い紐ともよくあっていて素敵です」
「あぁ、ありがとう。婚約者達が贈ってくれた物なんだ」
そこでエリカが何かを思いついたらしく、両手を合わせてポンッと音を立てた。
「良いこと思いつきました!
タカミさんに巴里のスーツを贈って、お礼にするんです!」
「えっ・・・ いやそれはわる「名案ですね、エリカさん」 「では、仕立て屋へ行きましょうか」 え、えー・・・ 二人も乗り気なのか?」
意外なことにエリカの案に二人も乗っかり、三人が玄治の腕を引いていく。
「今身に着けてらっしゃるスーツがネイビーですから、明るいベージュやブラウンのスーツを持っていると便利かと」
「小物も選ばせてください」
「赤いネクタイとか良いと思います」
「ふ、普通は逆じゃないか? こういう着せ替えをして楽しいのは女性・・・」
玄治が何か言おうとすると三人はにこやかに笑って、揃って口にする。
『これはお礼の気持ちですから』
その後、仕立て屋に到着して採寸を取られ、三人があぁでもないこうでもないと小物を選んでるのを玄治はまったり眺めながら紅茶を口にする。
「ゲンジ、シアワセ?」
「うん? あぁ、休みの日に俺のために悩んでくれる人がいるなんて幸せなことだよ」
どうやらスーツの色合いはベージュに決まったらしく、今はカフスボタンやネクタイピン、ネクタイなどの小物を三人が決めているところだった。
「俺も何か贈り物・・・ なかなか難しいよな」
この三人の共通点はシャノワールと性別ぐらいであり、それ以外の共通点というのは見つけにくい。身に着けているものも、性格も、身分も違う。身長は確かに同じくらいだが身に纏っている服を見ている限り趣味が合うとは考えにくい。
「どうしたものか・・・」
ふと外に見やれば露天商が様々な模様の猫の置物を並べており、木製と思われる手作りの猫達が並んでいた。
その中でオレンジに色にも見える茶虎猫にエリカを。
黒の中に茶をちりばめたようなサビ猫に花火を。
グレー一色の猫にメルを。
それぞれのイメージに合い、外に出て手に取ってしまう。
「なんだい、兄ちゃん。買うかい?」
「あぁ、これを三つくれ」
「まいどあり」
露天商にそれぞれに袋に入れてもらっていれば、仕立て屋に話を終えたらしい三人が玄治の元に向かってきていた。
「もう貴水さん、お店を出るなら一言言ってくれないと困ります」
「そうですよー、タカミさん。
この後はプリンでも食べに行きます?」
「ふふっ、そろそろお昼にしましょうか」
「あぁ、そうだな。
それからこれを三人に」
掌大ほどの木彫りの猫をそれぞれに渡せば、三人はそれぞれの猫をまじまじと見ていた。
「スーツのお返しにしては安いかもしれないが、今日の記念にな」
少し照れ気味の玄治の顔を見た三人が微笑んだ。
「ありがとうございます、貴水さん」
「大切にします」
「あっ! そうだ! 今日の記念ならタカミさんのは私達が選びませんか?」
「ちょっエリカ、それじゃ俺のお礼にならな「名案ですね、エリカさん」 「そうですね、四人で一緒に出掛けた記念に」
エリカの提案に二人もまた乗っかり、露天で三人で選んだ結果サバ虎の猫を玄治に手渡され上着の胸ポケットに大切に入れておく。
「ワガハイノブンハ!?」
と今まで大人しくしていたアルセーヌから不満が出たため、四人で果物を渡せば機嫌が直った。
四人でゆっくりとレストランで食事をし、その後もシャンゼリゼ通りを歩くというのんびりとした時間を過ごした。
が、そんな休日はけたたましい警告音とキネマトロンの音によって終わりを告げた。
なぁ隊長 あいつ一体何者なんだい?
言っただろう? 鳥組隊長だって
バーカ そうじゃないよ そんな肩書を知りたいんじゃない
次回 『怪人 急襲』
愛の御旗のもとに
帝国華撃団 後方支援部隊 鳥組隊長 貴水玄治!
今より花組撤退援護の任務に就く!