サクラ大戦 貴水玄治物語   作:無月

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⑩特別コーチ 着任

 さくら達がダンスコンテストの結果を聞いて帰国してから、玄治は車椅子生活から杖生活に変わっていた。車椅子生活ではつきっきりでいたメルも今は職務に戻り、玄治とアルセーヌの二人暮らしも再開していた。

 

「玄治、いるかい?」

 

「オーガミ! オーガミ!」

 

 そんな日常の真っただ中、大神が玄治の家に訪問してきた。

 

「大神、誰から俺の家を聞いたんだ?」

 

「エリカくんが教えてくれたんだ。

 それで帝都から特別コーチが来るって聞いたから玄治の家に来てないかと思ってね」

 

「特別コーチ、か。俺も探しに行くか」

 

「出歩いて大丈夫なのか?」

 

「大丈夫だ、もうすっかり体の調子もよくなってる。まだ右腕も痛むけどそれぐらいだ」

 

「わかった、無理はするなよ」

 

 大神と別れ、玄治も街に繰り出せば巴里の空はよく晴れていた。

 しばらく歩いていると公園のところでロベリアに出くわし、玄治が腕をあげればすぐにベンチから立ち上がって去ろうとする。

 

「そんな警戒するなよ、傷つくだろ」

 

「またいつ捕まえてくるかもわからない奴なんて、警戒するに決まってるだろう?

アタシじゃアンタに敵わないってのは、前の戦いで嫌ってほど思い知ったしね」

 

 顔を歪めて距離を取ろうとするロベリアに、玄治は溜息をついた。

 

「安心しろ。俺はお前が花組である限り、二度と捕まえたりなんかしねーよ」

 

「は? アンタ、いったい何言って・・・」

 

 そこで玄治はロベリアに近づき、二人にしか聞こえない距離まで詰める。

 

「俺はな、お前が泥棒だろうと人殺しだろうとどうだっていいんだよ。

 俺が守りたいのは正義じゃないからな」

 

「・・・なるほどね、アンタはこっち側ってわけだ」

 

「どっちか聞かれたらそうだな、俺は守るためなら手段を選ばないんでね」

 

 互いにニヤリと笑って距離を戻し、ロベリアは玄治を面白そうに見つめる。

 

「アンタを敵に回さない方法は花組の敵にならないこと、か。わかりやすくていいじゃないか。

 どうだい? アタシと一緒にもっと楽に稼がないかい?」

 

「生憎、俺は金に困ってないんでね。それに賭け事なんてカードの外見を覚えてりゃ勝てるだろう? 身内で遊ぶくらいがちょうどいい」

 

「カードを・・・? どんな動体視力してんだよ!?」

 

「勝とうと思えば勝てるゲームなんてつまらない。

 だから、まだ誰も作ったことのない物に浪漫を感じるのさ」

 

「ロマン、ね。

 あんたにとっちゃ金稼ぎのつもりはないロマンのためにやってるだけってか、かっこいいじゃないか」

 

「お褒めにあずかり光栄、しがない東洋の技師をちっとは見直したか?」

 

 玄治がいたずらっぽく笑えば、彼女は笑いだし、頬を赤らめた。

 

「あぁ悪くないよ、アンタのその考え方はね。

 今度暇だったらアタシと遊んどくれよ、夜の巴里を一緒に楽しもうじゃないか」

 

「あぁかまわない。

 もっとも俺と賭博をすることは勧めないがな、きっと面白くない」

 

「ハハッ、それはアタシが決めることさ。じゃぁな、ドクトル」

 

 そう言ってロベリアと別れれば、足はなんとなくテルトル広場に向く。

 ゆっくりテルトル広場に向かっていくと、前方から転がってるたくさんの黄緑の球体とそれを追いかける赤いシスター服。

 

「誰か~! メロンを止めてぇー!」

 

 転がる球体を追いかけて勢いづいた体はうまく止まることが出来ず、もはや走り抜けることしか出来ない状態になっているらしい。

 

「私も止めてぇー!」

 

「エリカ! エリカ! アブナイ!」

 

「ひ、ひえぇぇぇ! と、止めてえぇぇっ!」

 

 本人も覚悟を決めて目を閉じるがその線上にはちょうど杖をついた玄治があり、玄治も受け止めきれる自信がないにもかかわらず両手を広げて足を踏ん張る。

 

「大丈夫だ、エリカ。来いっ!」

 

「た、タカミさん! だ、駄目えぇぇぇ!」

 

 エリカも療養中の人間に突っ込むのは気が引けたのか足を止めようとしてつんのめり、エリカが顔面激突しようとしたところに玄治が地面と頭の間に滑り込んだ。

 

「えっ・・・ 痛く、ない?」

 

「大丈夫か? エリカ」

 

 恐る恐る目を開けた彼女が見たのは自分の頭を守るように抱えた玄治、エリカがヘッドバッドを喰らわしたのは床ではなく彼の腹だったのである。

 

「ご、ごめんなさい・・・

 あ、あの・・・ どうもありがとうございました」

 

「うん? どうした? どこも打ってないよな?」

 

「そ、その・・・ タカミさんの顔、こんな近くで見たの初めてだったもので・・・」

 

「玄治! エリカくん! 大丈夫か!?」

 

 駆け寄ってきた大神と共に突然玄治の隣に尺八を吹いた虚無僧が立つ。

 

「・・・」

 

「こ、虚無僧? なんで巴里に虚無僧が?」

 

 無言のまま玄治達を見下ろす虚無僧に大神が驚く。

 

「隊長、お元気そうで安心しました」

 

 が、続いた声に大神と玄治の顔に喜びがあふれた。

 

「え、その声は・・・?」 「マリア?」

 

「マリア! カンナ! コーラン!」

 

 そう顔をあげれば虚無僧の隣には紅蘭とマリアが立っており、その虚無僧も籠頭を取り払って素顔をさらしていた。

 

「ひっさしぶりやな、大神はん、玄兄。なんやおもろそうなことしてるやないか?」

 

「大丈夫かよ、玄さん。まだ杖ついて歩いてるってのに、流石の運動神経だな」

 

「面白そうって、お前なぁ」

 

 カンナが拾ってきてくれた杖を受け取り、何とか立ち上がる玄治の体をマリアが支えた。

 

「マリア・橘、桐島カンナ、李紅蘭。ただいま着任いたしました。お久し振りです、隊長。

 玄治、久しぶりね」

 

「あぁ、ただいま。マリア」

 

 玄治の言葉にマリアがフッと笑って、肩の力を抜くのがわかった。

 

「えぇ、おかえりなさい」

 

 肩を寄せ合ってにこにこする二人にカンナと紅蘭は生暖かい視線を送り、大神が喜色満面な顔で続ける。

 

「会いたかったよ、皆。俺達の特訓のために、帝都から来てくれたのか?」

 

「何、水臭いこと言ってんだよ。あたいらは帝国華撃団だぜ」

 

「そや。大神はんが困ったときは、いつでも助けに行くのが花組の隊員っちゅうもんやで」

 

「隊長、隊長のおられる場所が私達花組の居るべき場所でもあるのですよ」

 

「皆、ありがとう!」

 

 そう言った三人に感極まってエリカが抱き着いてきゃーきゃー言ってるのを見守っていると、マリアが玄治の体を見つめていることがわかり、玄治は試しに右腕をあげて見せる。

 

「隊長、私達は明日より任務に就きます。今日のところはこれで失礼します」

 

「あぁ、明日からよろしく頼むよ」

 

 目立つ虚無僧とチャイナ服、白黒ストライプスーツに支えられて歩く杖の長身男。悪目立ちする一行を大神はエリカと見送り、玄治はしばらく歩いたところで聞く。

 

「で? 俺のところに泊まるのか?」

 

「そやで、玄兄」

 

 前回のさくら同様に当たり前とばかりに頷く紅蘭に、玄治の頭は痛くなりまくりである。

 

「・・・さくら達にはいろんな意味で聞いてる暇がなかったから聞くが、なんで俺の家? ホテル代浮かしたいからってケチな理由だったら、帰ったら米田さんに文句言うぞ?」

 

「なわけねーだろ、玄さん。

 さくら達が隊長の部屋に誰が泊まるかって出発前に喧嘩始めちまったからよぉ、誰か一人が隊長の部屋に泊まるくらいなら全員で玄さんとこに泊まろうって話になったんだよ」

 

 そこで家について荷物を運びこみつつ、会話の途中ということもあって全員リビングへと入っていき、眠そうなアルセーヌは別室で止まり木に止めておく。

 

「そうか・・・ マリア、被害は?」

 

「中庭に複数穴が開いたわ」

 

「その程度で済んだか」

 

「そうそう大した被害やない・・・ って十分被害出とるやないけ!」

 

 マリアの端的な被害報告に玄治が肩を撫でおろせば、紅蘭が続いて頷きかけるがしっかりツッコミを入れる。

 

「今までの被害考えれば大したことないだろ? 劇場も壊れてないし、誰も怪我をしてないんだろ?」

 

「そらまぁ、そうやけど。喧嘩の内容はえぇんか?」

 

「・・・正直、大神のところに泊まりたいと言わないことに違和感はあった。

 それにあいつら派手にこっちの花組とも喧嘩しやがったから、そんなこと考えてる暇なんかなかったしな」

 

「あぁ聞いてるぜ、まったくこっちに来たってのに派手にやらかしたみたいだな」

 

「お前はなんで虚無僧の格好してきやがった?

 ただでさえ多国籍な俺達は目立つのに、わざわざ悪目立ちした理由はなんだ?」

 

「そ、それはよぉ~・・・ 見つけやすい方がいいと思ってよぉ」

 

「こんだけ目立つ面子がさらに見つけやすくなったら悪目立ちだっつってんだろ!」

 

 おそらくノリだけで衣装を着たであろう妹分を叱り飛ばしつつ、マリアに視線を戻すとその目はやはり右肩を見ていた。

 

「マリア、その・・・」

 

「自分で切り離したらしいわね、腕を」

 

 静かな声はマリアの怒りを表しているのだとわかり、玄治は気まずくなる。視線だけでも逃げれば、そこには『諦めろ』と首を振る大小の妹分が二人。そして小っちゃい方の妹は右腕の裾を捲るという余計なことまでしやがった。

 サンフォニーのゲソに巻きつかれた右腕は蔓状のギザギザとした跡を残し、肘と肩の真ん中あたりで深々と刀傷を残していた。

 

「こりゃぁ・・・」 「酷いわ・・・」

 

 声を漏らす二人に対し、マリアは顔に皺をよせ、その右腕をそっと撫でた。

 

「・・・ラチェットが一番落ち込んでいたわ。

『自分が居たら、絶対に右腕を切り離させなかったのに』って、あなたの右側はあの子の物だから」

 

「うっ・・・」

 

「状況的にも仕方ないのはわかっているわ。

 花組に敗北はあってはならない。

 特に新設されたばかりの巴里花組は私達帝都花組とはまた違った意味で複雑な立場にあるし、あなたが今回使用した機器によって改めて光武の必要性をよくわかる形であらわすことも出来た」

 

「そっちの意図までばれてたか」

 

「そらそうや、ウチの分析があったんやからな。

 こっちであの子ら(光武)はまだまだ危険物扱い、怪人がおってもそれ以上の恐怖を抱くもんも少なくないんは知っとる。

 でも玄兄、いくらなんでももっと他にあったやろ!

 大体あの方法なら、刀にこだわる必要はなかった筈や。刀でなく、盾でも使い道はあった筈やで!」

 

 誰よりもあの斬馬刀の危険性を理解している紅蘭が叫べば、玄治はおもわず笑顔になって彼女の気づきを称える。

 

「その通り、映像だけでそこまでわかるのは流石だな。

 あれはたまたま斬馬刀に霊力を集中させるよう起動しただけで、発動次第では結界になるようにも機構を組んである」

 

 その言葉に、三人が驚きの目を向ける。

 

「つ、つまりよ、玄さんはあの戦いで技術(光武)の必要性と都市エネルギーが諸刃の剣だってことを示したっつうのか?」

 

「加えるなら、花組の必要性もだな。

 俺が死んだらどうなるか、花組に手を出すということが誰を敵に回すか。そして、この技術が消えたら、巴里は・・・ いいや、欧州がどうなるかってな」

 

 つまり、玄治はあの戦いで怪人のみならず欧州貴族にも刀を突きつけていたのだ。

 

「玄治、あなたって人は・・・」

 

「死ぬ気なんてなかったさ、俺が死んだらそれこそ花組の立場が危うくなる。でも、同じだけ命をかける理由があった。

 世界を二度守っても、まだ世界は、人間は、花組に優しくない。

 それなら俺は何度だってあいつらに刀を突きつけてやるさ、どれだけお前らの日常が薄氷の上を歩いてるようなものなのかを思い出させてやる」

 

 花組を守るため、全てを敵に回すことを厭わない。

 しかし、そう言い切った玄治の頬を殴ったのは紅蘭だった。

 

「やからって自分の霊力回路がどないなっとるか、本気でわかっとるんか!」

 

 椅子に座った状態で玄治は避けることもなくその拳を受け止めて、涙を零す紅蘭を優しく見ている。それは、自分の霊力回路がどうなっているかを正しく理解している顔だった。

 

「玄兄がやったことは大河の水量を用水路で・・・ いいや、霊力少ない玄兄ならもっと小さい、水道で受け止めてるようなもんなんやぞ! 天武に乗ったウチらですら気持悪うなった武蔵の時以上やったことはわかってたことやんか!

 なんでなんや! なんでせめてウチに一言くれんかった! なんであないな危険なもんをもしもの時のために作ってもうたんや!」

 

「紅蘭、落ち着きなさい」

 

「マリアはんかてわかっとるやろ!?

 体が治っても霊力回路は治らへん、神威に乗れるんかもわからん! でも、そないな中で神威持ってこい言うたんやぞ! まだこの馬鹿兄貴は戦おうとしとる!」

 

 初耳だったらしいカンナの視線が刺さるが、マリアも驚いていることを知って玄治へと再度視線が集中する。

 

「なんでや! なんでそこまで「なんでなのかは紅蘭、あなたもわかっているでしょう!」

 

 まだ怒鳴ろうとする紅蘭をマリアが怒鳴って強制的に止める。

 

「私達花組は皆、ここしか居場所がない者ばかりだからよ! その居場所を守るために玄治は命をかけてまで戦った! そして、無事生還を果たしたのよ!」

 

 そう言っているマリア自身瞳に涙をため、紅蘭の目からもとめどなく零れていた。

 

「・・・玄さん、巴里花組もそうなのかよ」

 

「あぁ、そうだ。

 エリカは元は捨て子、グリシーヌは名家だが血を辿れば北欧の貴族で未だフランスでの立場は弱い。コクリコはベトナムの孤児で、ロベリアは懲役千年の泥棒、花火は祖母の代で日本の血を入れた物好き貴族扱い。

 居場所がないとは言わないが・・・ 花組が心の拠り所にしてるのは事実だろうな」

 

 そこで一度静まり返り、それでも紅蘭は呟く。

 

「なんでこないな土地のために、玄兄が傷つくんや・・・」

 

「紅蘭」

 

 マリアの制止の声にも紅蘭の仏頂面は変わらない。そして、そんな彼女の頭を玄治は優しく撫でる。

 

「お前の気持ちは痛いほどわかるさ。でも、俺達は華撃団で、お前は花組だ。

 この意味、わかるな?」

 

「・・・わかっとるよ、わかっとる」

 

 そこで涙で濡れた顔をぐいっと拭いて、紅蘭は笑顔になってみせる。

 

「しゃーないわ、巴里にもウチらの実力を見せつけたるわ!

 巴里花組に、ウチら花組がなんたるかをがーっつり仕込んだる!」

 

「そうそう、その意気だ。

 ジャンさんなんかお前に絶対敵わないことを見せつけてやれ」

 

「ごめんやで、玄兄、マリアはん、カンナはん。

 こっち来てから割り切ろう思うてもどーしてもあかんくて、爆発してもうた」

 

 笑いながら涙をふく彼女に、カンナが背中を勢い良く叩いた。

 

「気にすんなって、紅蘭!

 実際、あたいらも玄さんに言いたかったしよ。むしろはっきり言ってくれてスッキリしたぜ? なんなんら今日はあたいが添い寝してやろうか? ん?」

 

「いやーやめとくわ、カンナはんの隣に寝たら次の日潰れてそうや」

 

「んだとこらっ」

 

 じゃれ合いながら今日は休むと言って部屋を出ていく二人に、玄治はマリアと共に取り残される。

 

「玄治、あなた紅蘭に言うように仕向けたでしょう?」

 

「やっぱわかるか、マリア」

 

「わかるわよ、あなたのことなら。

 あの言葉をあの子から引き出せるのは、同じ立場であるあなたしかいないもの」

 

 ニヤリと笑う玄治にマリアは呆れたように溜息をついて、彼の一人崖のソファに背中合わせになるように体を預ける。

 

「まったくあなたは・・・ 本当に私達花組が大好きなのね」

 

「あぁ、勿論。

 マリア達のことは愛しているけどな」

 

「知っているわよ、私達はいつもあなたの愛に守られてる。

 玄治、私達はあなたを守れている?」

 

「あぁ、だから帰ってこれた」

 

 音を立てながら懐中時計を触る玄治をマリアは背中越しに聞きながら、心地よい空間に目を閉じる。

 ここが互いの止まり木だとばかりに羽を休める黒き鷹と火喰い鳥(クワッサリー)を、巴里の夜は静かに流れていた。

 

 

 

 

 

 翌日からマリア達によって巴里花組の特訓が始まり、マリアは花組の基礎的な戦い方を教える戦術の座学を、カンナはペイント弾を使った戦闘訓練を、紅蘭は光武Fの操縦技術の教授と光武Fの改良の話し合いを行った。

 玄治はその間帝都から届いた神威に改良を加え、右腕のリハビリを行っていた。

 そしてマリア達が明日帰国前日、最後に舞台に立つという三人を見るために玄治も特訓終わりのシャノワールへと足を運んだ。

 

「貴水さん、いらっしゃいませ。マリアさん達のレビューを見にいらしたんですか?」

 

「あぁ、せっかくだからな。マリアがどこにいるか、知らないか?」

 

「ロベリアさん達とステージの方に行くのを見ましたよ」

 

「ありがとう」

 

 秘書室にいるメルにマリアの場所に聞いて足を運べば、頭の上にリンゴを乗せた大神を的にウィリアム・テルごっこをしているマリアとロベリア、その審判とばかりに中央に立つグリシーヌ。

 

「・・・見間違いか」

 

「ドクトル貴水、ちょうどいい。見届け人の権利をやろう」

 

「見間違いじゃない上に巻き込まれた・・・」

 

 げんなりとしながら渋々向かえば、マリアに視線を向ける。

 

「やぁドクトル。あたしとマリアどっちの腕がいいか、競うんだ」

 

「大方、お前がもっと危ないこと言ったのを大神が仲裁したんだろ?」

 

「その通りなんだよ、玄治」

 

 頭の上にリンゴを乗せながら同意すぐ大神に、ロベリアが心外だとばかりに笑う。

 

「なーに、こっち側に生きる匂いがしたんでね。お互いの腕を知りたいと思うことは不自然なことじゃないだろう?」

 

「お前と違ってマリアは完全に足を洗ってる、俺やお前と一緒にするな」

 

「玄治」

 

「酷いねぇ、ドクトル。

 それともあれかい? アンタの大事なマリアはあたし以下ってのかい?」

 

「いや、勝負にならないからやめとけって言ってんだよなぁ」

 

 玄治が素直な気持ちを言うとマリアはたしなめるように名前を呼び、ロベリアが睨みを利かせてくる。

 

「あぁ?」

 

「まぁ、気が済むんならやればいいんじゃないか?

 マリアがついているなら大神は危険にもならないからな」

 

 信頼してるとばかりに壁に背を預けて見物に徹する玄治に、二人は何やら不満気だが勝負が始まればその言葉通りだった。

 リンゴを貫いたのはロベリアのナイフだが、マリアの弾丸はロベリアのナイフの軌道をずらしていたのだ。

 

「マリア、お疲れ」

 

「えぇ、あなたと隊長の前で私が負けるわけないもの」

 

「知ってるよ。

 悪いがレビューまでマリアを借りるぞ、最後の夜ぐらい二人っきりでデートをしたいんでね」

 

「だからアルを連れてこなかったのか、玄治。

 勿論いいとも。二人とも楽しんできてくれよ」

 

「ありがとうございます、隊長」

 

 満面の笑みで許可を出す大神にマリアが照れ、そんな姿を複雑な表情で見送る二人に気づきながらも、玄治は大神が片付ける問題だと放っておくことにした。

 

「それで玄治、私を連れだして何を聞きたいのかしら?」

 

「お前のその発言、婚約者相手に割と失礼だと思わないか?」

 

 互いにニコニコとしながらそんなことを言い合えば、同時に吹き出して大きく笑いあう。

 

「そうだよな、それぐらいらしくないよな。俺がデートだなんて」

 

「えぇ、本当に。

 お互い想いあってるとわかってからも、私達は引き籠ってばかりだもの」

 

「なんだ? 帰国したら全員で横浜でデートでもするか?」

 

「五人で? デートだなんて思われない上に、悪目立ちをしてどこにも行けないでしょう?」

 

「まったくその通りだな」

 

 笑いあって巴里の街を歩きながら、玄治は少し考えてから提案する。

 

「レビュー前だから酒は駄目だろうが、レストランで食事でもしないか?」

 

「えぇ、喜んで」

 

 二人で腕を組んでデートのようにレストランに入れば、適当に料理を選んで食べつつ、何気ない話をする。二人が留守にしている間の帝都や劇場のこと、巴里でのなんてことのない日常、アルセーヌとの笑えるやりとりやそれぞれの花組のこと。話しても話足りないとばかりにいろいろな話をして、玄治がふとマリアの顔を眺めてしまう。

 

「どうかしたの? 玄治」

 

「いや、好きだなって思って」

 

「ふふっ、クリスマスにも同じことを言ってたわね」

 

「そりゃ好きだからな。

 声も、顔も、性格も、お前の人生丸ごと好きなんだよ」

 

「かすみ達のこともね」

 

「そうだな、その通りだが・・・ それでも俺が最初に告白したのはお前だよ」

 

「ずるいわね、あなたは」

 

「俺からすればお前もずるい」

 

 ニコニコして笑いあいながら、玄治はふっと真剣な顔に戻る。

 

「なぁエリカのこと、どう思った?」

 

「あぁ、あの子があなたに懐いていること?」

 

「そ、そうじゃなくてだな・・・」

 

 マリアの言葉に思わず肩をがくっと下げてしまい、どうにか立て直すと咳払いする。

 

「あの子の霊力がまだ不完全かもしれないことね」

 

「流石マリア、気づいてたか」

 

「えぇ、奥深い何かを感じたわ・・・ そうね、あやめの雰囲気によく似ている気がしたわ」

 

「・・・もしかしたらあいつの過去と関係があるのかもしれない」

 

「過去?」

 

「あぁ、エリカが捨て子だって話はしただろう?

 あいつは最初から修道院に入ったわけじゃなく、一度は養い親に拾われて大切に育てられていたんだ」

 

 真剣な表情でマリアが先を促せば、玄治は紅茶を飲んでから続ける。

 

「だが、ある時に霊力の暴走を起こし、自ら修道院に入った。

 このことから無意識に霊力を・・・ 力そのものに恐れている可能性が高い」

 

「自ら抑え込んでいるというの?」

 

「ある意味で自分の中に封印をした、と言ってもいいのかもしれない。

 その力がどう目覚めるか、力を恐れさせないことが大事なんだが・・・ こればかりは俺やマリアが言うよりも大神の得意分野だな」

 

「そうかしら? 私はあなたも、その辺りのことはうまいと思っているわよ」

 

「買い被りか、惚れ込みすぎてちゃんと判断出来てないだけかもしれないぞ?」

 

 互いにまた笑いあい、玄治は懐中時計を開く。

 

「そろそろ時間だな。行くか、マリア」

 

「えぇ、行きましょう。私の巴里の初舞台、しっかり見ていて頂戴」

 

「勿論、しっかり見させてもらうさ」

 

 そう言って三人の巴里での舞台を見届け、三人は無事帝都の帰路へ着いたのであった。

 

 




そういえば玄治 懺悔してるらしいな 何を話してるんだ?
ん 内容は言えないが エリカはシスター向いてると思うな
え ありがとうございます タカミさん
次回 『飛べない天使』
愛の御旗のもとに
さぁて ロベリアと一緒に楽しく貴族を潰すか
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