紅蘭特製レーダーにより怪人達のアジトがシテ島と判明し、政府高官達による特殊部隊を使った突入が失敗し、グラン・マによって巴里華撃団が突入することが決定。それらが巴里華撃団共有され、巴里市民に避難勧告が出された。
「タカミさん、アルくん、おはようございます」
「あぁおはよう、朝飯出来てるぞ」
「わーい! いっただっきまーす!」
「メシ! メシ!」
だが、そんな避難勧告には関係ない三人は今日も元気に朝ご飯である。
二人がもっしゃもっしゃ食べるのを見ながら、エリカが言いにくそうに口を開く。
「タカミさんは自分の力が怖いって思ったことはありますか?」
「あー・・・ 怯えられるかもしれないと、不安に思ったことが一度だけあるな」
「タカミさんでもあるんですね」
「ただそれも含めて受け入れてくれる場所に俺もお前もいる、だから気にしなくていい。
大丈夫だぞ、エリカ」
髪をワシャワシャと撫でればエリカはくすぐったそうに笑い、玄治もその笑顔を見て笑う。
「エリカ、エガオ!」
「えへへ、くすぐったいですよ。タカミさん」
「そうか、そうか」
「あっ今日はお昼から避難状況の見回りがあるんでした。タカミさんも来ますか?」
「そうだな、一人で街をブラブラするよ」
「えぇー、一緒に行きましょうよ~」
「どうせ全員ばらけて行動するんだ、俺も別行動でいいだろ」
ブーブー言うエリカを宥めながら弁当用にサンドイッチを持たせて解散し、玄治もふらりと街へと歩き出す。斬馬刀使用の際に用いた街のいたるところに置いた都市エネルギー発射装置の状況を確認し、出力の調整をいじりりつつ、全機問題なしの結果が出て口笛を吹きながら各場所をめぐる。
ふらりと墓地に向かえばそこにはやはり花火がおり、フィリップの墓に手を合わせていた。
「ハナビ!」
「フィリップに報告か? 花火」
「はい、あの人と生きたこの街を必ず守りますと約束していました。
タカミさんとアルさんも慰霊碑にご報告ですか?」
「あぁ、まぁな」
そう言ってから玄治も慰霊碑に手を合わせ、花火はその様子を見守っている。
「タカミさん、私と一つ約束してください」
「内容によるな、俺は出来ない約束はしない主義なんだ」
「はい、わかっています。
だから、『一人にしないで』とも『無茶をしないで』とも言いません」
玄治はわずかに見透かされたように感じながら、花火は子どものように小指を差し出してきた。
「どうか必ず生きて戻ってきてください。
私も必ず、生きて戻りますから」
「・・・強くなったな、花火」
「そう、でしょうか? そうだとしたらそれはあなたの・・・ 皆さんのおかげです」
そう微笑む花火に玄治も小指を絡め、二人で歌う。
『ゆーびきーりげーんまん、うそつーいたらはーりせんぼんのーます。ゆびきった』
「ゲンマン! ゲンマン!」
「悪いな、無茶しがちな仲間で」
「いいえ、貴水さんが無茶するのは私達と同じだということをわかっていますから。でも、出来れば二度と・・・ 意識不明になるあなたを、傷だらけになるあなたを見ているだけは嫌です。
そうなる時は私も、連れて行ってください」
「悪いな、それは約束できない。
俺は危険な場所にお前らを連れて行くなんてことは出来ない」
「なら、無理にでも追いかけていきます。
祖母が一人、見も知らぬ日本の地で生きたように」
玄治が目を丸くしていれば、花火自身も自分の発言に気づいたのか頬を赤らめる。
「す、すみません。
でも、忘れないでください。私のこの思いを」
「・・・わかった、忘れない。
それじゃぁ、その・・・ また後でな」
どんな顔をしていればいいかわからなくなった者同士その場で別れ、玄治は人が残っていそうな修道院へと足を向ける。
「エリカ! エリカ!」
「アル、静かに」
「ウン」
修道院に入ればエリカが神に祈りを捧げており、何かを呟いている。
「・・・タカミさん? 来てたんですか」
「あぁ、修道院は人が残ってそうだったからな」
「いいえ、私が最後みたいです」
エリカはその場でぐるりと見渡し、誰もいないことを確認してからもじもじとして玄治に告白する。
「ねぇタカミさん、私ってばどうしようもなく臆病なんです。
本当は戦うのも怖いし、今回だって勝てるかどうか自信もなくて・・・ とっても不安で、今日だってこうやって神様に告白することで頼っているんです。駄目ですよね、こんなのって」
「頼っていいんだよ。
怖いなら怖いって、自信がないなら自信がないって言えばいい。誰もお前のことを怒りも責めもしない、仲間の前でぐらい素直でお前らしくいればいい」
また頭をワシャワシャ撫でてやればアルセーヌがエリカの肩に移り、得意のダンスを披露する。
「アルくん、新しいダンスですか?」
「マカセルガイイ!」
「今度一緒に舞台に立ちましょうね、アルくん」
「レビュー! レビュー!」
「タカミさん、一緒にお祈りしてくれませんか?
私達皆無事に帰ってきて、アルくんと一緒に舞台に立てますようにって」
「あぁ、いいぞ」
玄治は聖母像の前で右手を胸において頭を下げ、エリカは胸の前で両手を組む。
「なぁエリカ、知ってるか?
帝都の亡くなった副指令はな、実は守護天使・ミカエルだったんだ」
「えぇ~、嘘だぁ~」
「いいや、本当さ。俺は神様があまり好きじゃないが、その人になら祈ってもいいんだ。
俺にとって母のような人である、あやめさんになら」
『あなたなら大丈夫』
そう言って目を閉じれば、不意に何かが聞こえた気がするが頭をあげてもそこにはやはり誰もいない。
「タカミさん、何か聞こえませんでしたか?」
「・・・いや、わからなかったな」
「いいえ、聞こえましたよ。優しい綺麗な声で『あなたなら大丈夫』って。
きっと、天使様のお言葉ですね」
「あぁ、きっとな」
飾られた聖母像にあやめの姿を見て、『大神じゃあるまいし』と笑う。
「テンシ! テンシ!」
「なんだ、アル。お前まで聞こえたのか?」
「アヤメー!」
アルセーヌの発言に玄治が目をむくが、エリカがその姿に不思議な顔をする。
「アヤメ・・・ って誰ですか?」
「帝都の亡くなったかつての副指令の名前だよ」
「タカミさんのお母さんみたいな人ですか。じゃぁ私にとってもお母さんみたいなものですね」
「かもしれないな、あの人は華撃団の母みたいなもんだから」
今も見守ってくれている優しい人を想いながら、玄治はエリカと別れて他に行く。
テルトル広場に行けば、そこには子どもを抱えたシーとメルを見かけ、思わず声をかける。
「どうした、二人とも」
「あっ、貴水さん、逃げ遅れた子がいたので保護していました」
「あっメル、私がこの子を連れて行くから貴水さんと広場を見てから来てねー」
「ちょっとシー! また変な気を「じゃぁよろしくねぇー」
言うが早いかシーはさっさとその場を後にし、玄治とメルを二人っきりにする。
「その、なんだ・・・ 久しぶりだな、二人っきりになるのは」
「はい、貴水さんが車椅子生活を終わってからは私もシャノワールに付きっきりだったので。
貴水さん、私、かすみさんにいろいろな話をされたんです」
「どんな話か、聞くのが怖いな・・・」
苦笑いする玄治にメルがクスリと笑い、話し出した。
「お察しの通り、貴水さんがなさったことは一通り聞きました。
そして、最後に言われたんです。『あの人を一緒に守ってくれませんか?』と」
その言葉に本日何度目かわからない驚きを与えられ、玄治は目を開く。
「背中を守るといっても、支えるといっても、隣に並んでも、傍にいるといっても・・・ あの人は無茶をしないとも、無事に帰るとも約束してくれない。四人いてもあの人を守ることが出来ない、自分達は無力だと」
「そんなこと・・・」
「えぇ、かすみさんはあなたがそう言ってくれることもわかっていらっしゃいました。
でも、私にはかすみさんの気持ちが痛いほどわかるんです。
ねぇ貴水さん、私はあなたの帰る場所の一つになれますか?」
メルは微笑みながら告げ、答えようとする玄治の口元を指先で押さえる。
「貴水さん、私は何も出来ません。
それでもあなたを支え、守る一人になりたいんです」
「何も出来ないなんてことないだろ」
「あなたがそう思ってくださってるだけで十分すぎます。
この戦いでも、あなたが飛び出すかもしれないことを私は恐れています」
「状況次第だ。それに戦闘しないように済むための準備もしてるさ」
「貴水さんって結構嘘つきですよね、戦う準備だってしているくせに」
再び玄治は驚き、視線だけで問うてもメルは微笑むばかりだった。
「・・・敵わないな、君には」
「ふふっ、あなたの口癖をようやく聞けましたね」
「っ! それも聞いたのか」
「えぇ。
あなたが作業に没頭するとすぐ食事を忘れることも、生身で何度も走り出していくことも、あなたが自分の名前にこだわる理由も全部」
大切な宝物を語るように言うメルに玄治は困ったように笑い、彼女を見る。
「俺はな、メルさん。この間グリシーヌに言ったように正義も、平和も本当はどうだっていんだよ。
でも俺は生まれた家も、血の繋がった家族もいないから、俺を家族にしてくれた華撃団を壊されることがとても怖いし、許せないんだ」
そこで玄治はメルから目を逸らし、メル達と出会った巴里の街を見る。
「なぁ守らせてくれよ、俺に。
俺を大切だ、好きだと言ってくれる存在と、その人達が愛する街を」
正義も、平和もどうでもいいという男の願いはそれだけだった。
花組が、華撃団が『守りたい』と、『愛している』というのなら、彼は大嫌いな世界だって守るのだ。
「貴水さんは・・・ やっぱりお優しいですよ」
「優しくないだろ、俺はとっても身勝手さ。
やりたいようにやって、いつもマリア達に心配かけてるだけの奴さ」
「そう言えるからお優しいんですよ。
ふふっ、そんなあなたを愛しています」
突然の告白に玄治の胸が締まるように痛み、頬が赤くなるのを感じた。
「すまん。今顔を見ないでくれ、みっともないことになってる」
「だったら尚更見せてください。いつもかっこいいあなたの赤くなるところが見たいです」
「勘弁してくれ!」
手で顔を覆って隠すが、その様子をメルが楽しそうに眺めているのを感じてさらに熱くなっていく。
「さぁそろそろ仕事に戻りますね、貴水さんもほどほどで戻ってきてくださいね。シャノワールにてお待ちしています」
「あぁ、わかった」
そこでメルと別れ、顔の熱が引くのをしばし広場で待っているとロベリアがようやく見つけたとばかりに玄治に抱き着いてきた。
「よっ! やっと見つけたぜ、ドクトル」
「なんだよ、お前が俺を探してるなんて珍しい。明日は雨か?」
「残念、アタシはエリカと違って晴れ女さ。
にしてもこんな絶世の美女に探されたっていうのに、第一声がそれとは色気がないねぇ」
「生憎イタリア男じゃないもんで、女を口説く趣味はない」
「そうだよねぇ、アンタの場合は勝手に女が落ちてるもんだものねぇ」
「お前、さっきの話聞いてたのか!?
話の内容から聞こえてても、聞かなかったフリするもんだろうが!」
「知らないねぇ、大体こんな静まり返った広場で話してたら嫌でも聞こえちまうもんだろう?」
両手を広げて指し示しながら、ロベリアは楽しそうに笑っていた。
「なぁドクトル、アンタと隊長は全然違っているってのにどっちもアタシを惹きつけてやまないんだよ」
ロベリアからの思わぬ告白に、玄治はまた驚かされる。
「困っちまうよねぇ。
白く輝く王道の隊長か、鈍く輝く陰りあるドクトルか・・・ 泥棒としちゃどっちも盗みたいのが本音なんだけど、どう思う?」
「俺に聞いてる時点でどっちも諦める気ないだろ、お前」
「せーかぁーい。さっすが世界のドクトル、隊長よりも話がスムーズでいいよ」
自分よりも背の高い玄治に絡みつくように抱き着いて、ふとかつての戦いで切り離された右腕にロベリアが触れた。
「アタシを捕まえた男も、守った男もアンタが初めてだよ。
なぁ、今度はアタシがアンタを捕まえてもいいかい?」
「懲役千年の泥棒から逃げるのは骨だろうなぁ・・・」
「ハッハッハ、逃がさないよ。
アタシは欲しいものは全部手に入れるって決めてるんだ」
目を細めて笑いながら、自分の腕と玄治の腕を比べるように手を重ねる。
「いいねぇ。隊長よりもでかい図体も、アタシよりも広い肩も悪かない。
でも右側は売却済みなんだってねぇ。じゃぁ左側でも貰っちまおうか」
「駄目っつってもお前は来るんだろ」
「その通りさ。
精々首洗って待っときな、アタシがアンタを盗んじまうその時をね」
そう言いながらどこかへ去っていくロベリアに取り残されて、玄治はその場に頭を抱えてしゃがみ込む。
「これ以上、敵わない相手を増やしたくないっつうのに・・・ 今日は何回してやられてんだ、俺」
そのぼやきを聞く者は誰もなく、彼の敵わない相手を増やさないという希望はおそらく通ることはないだろうことは誰の目から見ても明らかであった。
その直後、キネマトロンにメッセージが届き、空は薄暗い影が現れ奇妙な物体が空に浮かんでいるのが見えた。
「っ・・・! 間に合え!」
その物体に光が集まった瞬間、玄治は嫌な予感がして巴里の街に設置した機器を起動させる。
物体が巴里の街へと光を落とした瞬間に展開した結界が攻撃を弾き、吸収して消えていく。
「なっ!?」
「おのれっ! またあの男か!」
遥か上空で歯噛みするカルマール公とレオンの姿を、明日の日の出の時間にそれ以上に強力な一撃を巴里へと落とすという計画を話しているのを別のところから三人が見ていた。
「ドットーレ、やばすぎでーす! 絶対、敵に回したくありませーん!」
「紅蘭が言ってた別の使い道はこういうことだったのね・・・
・・・レニ、彼らの会話は読めた?」
「勿論、会話内容は記憶した」
「ふっふーん、思いあがるのも今の内でーす」
「えぇ、しっかり叩き潰すわよ」
「ラチェット、少しは落ち着いてくださいねー?」
「了解。塵も残さない」
「レニまでですかー!? 勘弁してくださーい!」
欧州星組の欧州への凱旋でーす!
別に何にも勝ってない
でも この三人でまた欧州に来ることになるなんて思ってなかったわ
次回予告 『柵に囲まれし島 突入中』
愛の御旗のもとに
は? 生身で偵察任務? 却下だ却下