三人が指令室に行く中、玄治は嫌な予感がして自宅へと駆け込んでいた。そのままの勢いで地下室に滑り込み、アルセーヌを叩き起こして共に行動する。
モニターから紅蘭の特製レーダーへとアクセスしながら、ノートルダム寺院の状況を作戦指令室のメル・シーらと共有する。
「この植物は・・・?」
レーダーからも微量な妖力が発していることがわかり、玄治は嫌な予感がしてしかたがない。
「なんだ、この胸騒ぎは・・・」
何故か落ち着かない自分に意味がわからず、愛刀と懐中時計を握り締めていると通信が入る。
「貴水さん、シャノワールに来ることは可能ですか?」
「問題ない、どうした?」
「オーナーがこちらにて植物の解析を行って欲しいとのことです。
バラバラで情報共有するよりもシャノワールにて分析した方が早いと」
「一理ある、急ぎそちらに向かおう」
「ネムイ」
「悪いが今はついてきてもらうぞ、アル」
「イヤナヨカン、スル」
霊力を持つアルセーヌまでもそんな発言をしたことに玄治の顔の険しさが増し、急ぎシャノワールに向かえば、花組全員が既に揃っていた。
「メル、シー。ノートルダム寺院の状況を報告しとくれ」
「ウイ、オーナー。
巴里一帯の被害は地下に出現した植物が原因です。植物はノートルダム寺院を中心に半径二キロメートルを活動中、現在小康状態を保っています」
「植物の正体は調査中ですぅ。現段階では、地球上のいかなる生物にも該当しません!
しかも微量ですけど、採取した植物の細胞から妖力が検出されていますぅ」
二人の状況報告を聞きながら、全員が険しい顔となる。
「ノートルダム寺院と言えば、怪人どもの本拠地のあった場所」
「死にぞこないがいた、ってことかい?」
「新たな怪人が出現した可能性も考えられませんか?」
「せっかく平和になったのに、僕許せないよ!」
「そうです! 大神さん、ノートルダムに急行しましょう!」
全員の意思が一つになったことを見届け、グラン・マと大神が強く頷いた。
「ムッシュ、出撃命令だよ!」
「巴里華撃団、出撃せよ!」
『了解』
花組が出撃していくのを見守り、玄治は採取されてきた奇妙な植物の分析を開始する。
(妖力反応あり。だが、なんだこの脈動? 生きているのか? 攻撃してくる恐れもある・・・ だが、なんだ? 降魔ともまた違う、この妖力はそれよりも何か・・・)
分析を進めつつ、厳しい顔になる玄治に花組による戦闘もモニターに映されていく。
『巴里華撃団、参上!』
ノートルダム寺院へと全員が到着したところで、辺りには情報通り木の根っこのような物があちこちから飛び出している。その奇妙な根っこは街灯のような光を放ち、毒々しい胞子のような明かりに全員が警戒を露にする。
「これは一体、どういうことなんだ? やはり怪人の仕業か?」
「きっと、他にもまだ怪人が居たんだよ」
「アタシ達はそれを調べに来たんだろう? 何言ってんだ」
グリシーヌの言葉にコクリコが同意し、小馬鹿にするようなロベリアが続く。
「なんでしょうね、この根っこ。気持ち悪い色してますね」
「こらっ! エリカ! 分析中で正体不明の植物に触るんじゃない!」
「ご、ごめんなさい。タカミさん」
安易に根っこに触るエリカに玄治の注意が飛び、グリシーヌも珍しく同意する。
「ドクトル貴水の言う通りだ、何が起こるかわからん。用心に越したことはあるまい」
「わかりませんけれど、このまま巴里中に被害が拡大したら大変なことに・・・」
そんな中、モニターに映った動きに玄治が顔を険しくし、それに気づいたメルがモニターに注意を凝らす。
「皆さん! 注意してください! 奥に敵機反応があります!」
「どうした!? 敵か?」
メルの言葉に大神が即座に反応し、視界の奥を見れば川から出てくるようにサンフォニーが這い上がってきた。
「ふぉふぉふぉ・・・ 諸君か。
また、余の邪魔をしに来たというのか?」
「カルマール!? 貴様、まだ生きていたのか!」
這い上がってきたのは機体だけでなく、そこに乗っているのもまた確かにオプスキュールと共に滅した筈のカルマールであった。
「さぁな、一度は死んだかもしれん・・・ だが、余はここにいる。
この巴里が余を求めておるのだ、破壊してくれと呼んでおるのだ!」
「うわっ!? またなんか出て来たよ!」
カルマールの言葉に呼応するようにさらに植物が絡み合い、増殖を続けていく。
「この植物も貴様の仕業なのか!?」
「そのようなものは知らん。今の余に見えているのは叩き潰された諸君らの姿だ!
覚悟しろ、小僧ども! 今度は前のようにはいかんぞ!」
大神の問いかけに対して否定するカルマールに玄治の疑問は解消されず、現場に広がる爆弾に気づいて動き出そうとする。
「ドクトル、何をする気だい?」
「爆弾の解除は俺の得意分野です。現場に向かいます」
「駄目だよ、あんたは自分が怪我人であることを自覚しな」
「一つで巴里を半壊するようなものを黙ってみていることなんて出来る筈がない! 大体、戦闘中に無力化してもこの戦いだけで終わるとは限らないんだ! 俺は爆弾の解体に向かう!」
「・・・だそうだよ、ムッシュ。どうする?」
「玄治の言うことにも一理あります。
なので、部隊を二つに分けようと思います」
「一部隊は俺の元でカルマールと交戦、一部隊はドクトルの援護だな?」
「その通りだ、グリシーヌ。部隊編成は・・・」
「はいはーい! 私がタカミさんを援護します!
回復で爆発を伸ばせるんですよね? それなら私の得意分野じゃないですか!」
任せてくれとばかりに胸を張るエリカに大神が頷く。
「それじゃ一人はエリカくんと・・・」
「大神さん、私に任せていただけませんか?
私なら部隊を分けてもそちらに援護射撃を行うことが出来ます」
「あぁ、わかった。
玄治を任せたよ、エリカくん、花火くん」
『了解』
二人の返事を聞いて必要な工具のみをもってスーツ姿で飛び出す玄治に、メルがおもわず声をかける。
「貴水さん!」
「『行かないで』は聞けないぞ」
「いいえ、言いません。
どうかご無事で。行ってらっしゃいませ」
「おう」
メルに見送られて玄治がエクレールによって到着し、待っていたエリカと花火に迎えられる。
「タカミさん、待ってました!」
「近い所から解体していく。
二人は一番遠い所から回復して行くか、遠距離から大神達を援護してくれ」
「謹んでお受けします、貴水さん」
「了解です! タカミ隊長!」
二人にわかりやすく指示すれば、向こう側から見ていた大神も強く頷いた。
「玄治、そっちの指揮と爆弾処理は任せたぞ!」
「任せろ、爆弾解体はお手の物さ」
工具を手に解体に移る玄治にコクリコが素朴な疑問を口にする。
「・・・ねぇ、イチロー。さっきからおじちゃんは爆弾解体が得意っていうけど、どうして慣れてるの?」
「あぁ、コクリコ達は知らないか。
紅蘭が手遊びで作った発明がよく爆発するから、玄治は爆発する直前でそれを分解するのが得意だったんだよ」
「そいつぁ良いことを聞いたね、ドクトルも紅蘭もそんな得意技を隠してやがったのか」
「ロベリア、貴様、二人の技術を悪用するようなことは許さんぞ」
「悪用なんて滅相もない、少しばかり気に入らない奴を爆発させるのさ。あとはなかなか開かない鍵なんかをドクトルに開けてもらえれば万々歳さ」
「それが悪用だというのだ!」
ロベリアが悪い顔で笑っていれば、グリシーヌが反応して口論になりかける。
「お前ら、戦闘に集中しろよ・・・」
解体しながら呆れたように玄治が呟けば、
「「生身で戦場に来る
と同時にツッコミが入り、『仲良しじゃねーか』とぼやいてしまう。
「相変わらず、ふざけた奴らよ・・・」
大神らの攻撃を受けながらも、どこか羨ましそうにこちらを見ているカルマールに玄治は一瞬気にかかった。
「貴水玄治よ、貴様は何故、巴里を守る?
貴様は闇の力を有しておる・・・ その上、頭も切れ、技術まで得ている、何故縁も所縁もないこの土地を守る?」
「なーんで、どいつもこいつも俺に理由を求める上に勧誘してきやがんだ・・・」
「答えよ! 花組はこの問いに答えたぞ!」
二つ目の解体が終わって、玄治は渋々カルマールに視線を向ける。
「花組が守りたいっていうからだよ、なんか文句あるか?」
「なっ・・・ その程度のことで貴様は、二度も命を投げ出せるのか・・・?
いずれの時も貴様は死んでもおかしくなかった・・・ いいや、今ですらなぜ生きていると思わずにはいられない」
「うるせぇ! 俺の死に方も生き方も俺が決める! 後悔するとかどうとかはお前らが言うことじゃねーんだよ、くそが!!
偉そうに人のこと見下してんじゃねぇよ、このイカ野郎!」
昨年からたびたび敵側に勧誘されていた玄治がついにキレた。
「げ、玄治」
「ハッハッハ、流石ドクトル。
まったくその通りだよ。気持ちいい男だね、アンタは」
「ドクトル貴水にしては真っ当なことを言うではないか、褒めて遣わす」
「アハッ、なんかおじちゃんらしいや」
「タカミさん、カッコイイです!」
「自分の生き方も死に方も自分で決める、ですか・・・ 本当にあなたらしい、憧れてしまいます」
花組の面々は玄治の宣言に笑いに包まれ、戦闘中だというのにその言葉を心に刻む。
そうしていればカルマールとの戦いも、爆弾処理も無事終わり、爆発の光に包まれながらカルマールは叫ぶ。
「覚えておくがよい。たとえ、この余が滅びようと巴里の滅びは止められはせぬ!
巴里が、巴里である限り、滅びの曲は鳴りやまぬのだぁぁ!」
「どういうことだ? 前の戦いほど手ごたえがなかったようだが・・・?」
「皆、あれ見て! 変な根っこが光り始めたよ!」
「カルマールは倒した! どういうことだ? 植物と怪人は関係がないのか!」
花組が次々と違和感を覚える中で、玄治は光り輝く根をじっと見つめ、その光の中から現れた道化師に警戒を露にする。
「全員、警戒しろ!」
「あるよ・・・」
そう言った次の瞬間、玄治はエリカの光武F2を蹴り飛ばして斬りかかる。
「おっと・・・ 物騒な挨拶だね、貴水玄治」
妖力によって結界を張られ、玄治の刃は届くことなく弾かれる。
「タカミさん、危ない!」
あわやノートルダムに叩きつけられるところで、エリカの霊力が玄治を受け止める。
「無事か!? 玄治!」
「あぁ。助かった、エリカ。
大神の夢に出てきたっていうのはお前か?」
「あぁ、そうだよ。
初めまして、と挨拶すべきかな? 大神一郎」
「ふざけるなっ! 貴様は何者だ! 怪人どもの仲間なのか!?」
問いかける大神に対し、サリュは相変わらず不気味な笑みを浮かべながら続ける。
「心配いらない、彼らの仲間ではないから。
まして、君達の味方でもないよ」
「何!? ならば、何者だ! 怪人の首領ではないのか!」
「大いなる古の意思を伝える者・・・ 人間は、サリュと呼んでいた」
「古の意思を伝える者、サリュ?
どういうことだ、お前は何かの神に仕える者なのか?」
「あぁそうだとも。かつて、この地は自然の恵み豊かなものだった。
そして、そこには僕達が信仰する神がいた」
そう口にしながら足元に古い光景が広がり、花組の面々は驚く中、玄治は興味深いとばかりにまじまじとそれを眺める。
「こ、これは!?」
「な、なんだ!? サリュとやら、くだらぬまやかしはやめろ!」
「でも、なんだか懐かしい感じがするよ・・・ 昔、どこかで見た気がする」
「これは彼女達が祖先より受け継いだ太古の記憶。
セーヌ川に浮かぶシテ島、かつてこの地には自然と共に生きる一族がいた。その名をパリシィという」
「パリシィ? 貴様が夢の中で言っていたことか?」
「そう、自然と共に生き、大地に愛された一族。パリシィの時代は終わり、ローマ人によって滅ぼされる。
大地にパリシィの怨念を刻み、道を誤った人間に踏みにじられたのが巴里」
「なるほどな、道理でいくら調べてもそれらしい文献が出てこないわけだ。巴里が出来る以前の歴史なんて残ってるわけがない」
玄治が納得していれば、サリュは頷く。
「そう。人間は都合の悪いことは全て覆い隠し、パリシィを恐れ、巴里に魔術を用いた城壁を築き、怨念を封じ込めようとした」
「パリシィの怨念だと? どういうことだ?」
「巴里に生まれた怪人、それこそがパリシィの怨念。自分達で築いた城壁を自分達の手で破壊した、愚かな人間を罰する者。君達巴里華撃団も怪人達と同じ、パリシィの血族なのだ。
見せてあげよう、パリシィの血を。その証を!」
サリュがそういうと同時に手袋をつけている隊員たちの手の甲にくっきりと浮かび上がる謎の紋章。
「これは!? 私の手の甲に紋章が!」
「ふざけるなっ! アタシ達と怪人が同じ血を引いてるだと!」
「ですが、ロベリアさん。胸の奥から湧き上がる、奇妙な懐かしさを感じませんか?」
「みんな、そうなのか?」
「ほーん、なるほどねぇ」
玄治は興味深そうに手の紋様を見つめ、大神が皆に問えばグリシーヌが不本意そうに頷いた。
「隊長、理由は説明できないが、奴の言うことは確かだ」
「僕・・・ 生まれるずっと前にパリシィとして生きてたと思う。
何故だか、そう思うんだ」
「私に凄い力があったのも、皆に霊力があったのも、パリシィの血のせいなんですね」
「いやそれはわからんぞ、エリカ。
生まれなんかあてにならんことは、どこの馬の骨ともわからん俺を見てればわかるだろ?」
「貴様、今がどういう事態なのか本気でわかっておるのだろうな?」
深刻な状況だというのにふざけた物言いをする玄治にグリシーヌが変な顔をするが、彼はまるで気にしない。
「さっき言っただろ、生まれがどうだろうと生き方も死に方も俺が決めるってな」
「アンタにゃわかんないだろうけど、そういうことじゃないんだよ。ドクトル」
「あぁわからんな、覚えてもない自分の前の人生なんか興味もない」
「なら少しは黙っててよ、おじちゃん」
コクリコにキッと睨みつけられても、玄治はふざけたように舌を出す。
「その紋章こそがパリシィの血族たる証。
パリシィは死せる魂に大いなる力が宿る、怪人は死して我が力となった・・・」
「なんだと! あの怪人達の目的は倒されることだったというのか!」
大神の言葉にサリュはゆっくりと頷き、その手元には怪人の数だけ浮かんだ仄暗い光の玉が浮かび上がる。
「君達が怪人の肉体を滅ぼし、魂をも滅ぼしてくれた。そして、怪人の死した魂はこの寺院の地下に眠る、古の力を呼び戻す。
これは君達に倒された司祭にして生贄たる者、怪人達の魂・・・ 目覚めよ、オーク巨樹! パリシィの魂をもって、古の盟約を果たすのだ!」
「皆、力を貸してくれ! 奴を止めるんだ!」
何かが襲ってくることを察した大神が戦闘の意思を見せ、全員に力を貸すように求めるが皆の顔は晴れない。
「出来ません・・・」
「どうしたんだ、エリカくん! それにみんなも、何を躊躇っているんだ!」
「ハハハハハ、パリシィの血を引く者が逆らえる筈がないだろう!」
「そうなのか、皆!」
「パリシィの願いは、成就された!
永久に消えるがいい! 巴里と名付けられし、偽りの都市よ!」
大神が皆に問う中で玄治は黙ってその様子を見守り、静かに刀を抜いた。
「た、タカミさん、駄目です! 生身の体で、それにあなたの体は・・・!」
「お前らが戦えないなら俺が戦う、それだけだろ。
大丈夫だ、お前達は何もしなくてもいい。俺が全て片付けてやる」
「貴水さん、そんなこと・・・ そんなことさせられません!」
今にも飛び出そうとする玄治をエリカと花火が押さえ、視線だけでサリュを殺さんばかりに睨みつける。
「それではご機嫌よう、パリシィの子ども達よ。また会う日まで」
「玄治! 今は駄目だ!
情報も、状況もあんな巨大な相手に勝てる算段がない! 撤退するぞ!」
「チッ・・・ そうだな」
「巴里華撃団、撤退するぞ!」
『りょ、了解』
未だに戸惑いながらも鈍く大神の指示に従い、オーク巨樹はとんでもない速さで人々の居る街へと襲い掛かっていく。
そんな様子を玄治は静かに睨みつけながら、指令室に到着して報告を聞いた。
「ノートルダム寺院より発生したオーク巨樹は成長を続け、市街に広がっていますぅ!」
「霊力結界の展開をもってしてもオーク巨樹の直接攻撃を防げませんでした! 主要道路は壊滅、建物も倒壊! 都市機能は完全に沈黙しました!
明日の夕刻には、オーク巨樹が巴里全域を覆いつくします!」
「巴里が消える・・・ まさに最悪だね」
グラン・マが溜息と共に呟くと、大神が悔し気に言う。
「最悪か。くそっ、俺達が怪人を倒したばっかりに・・・」
「ムッシュ、それは違う。
オーク巨樹だけなら、勝てる見込みがある。問題なのはこの子達だよ、祖先がパリシィだと知って、戦う意思を失っている」
「失ってはいない! 失ってはいないのだが・・・」
「パリシィの歴史を知って、今の巴里を守ることが納得がいかないのです」
「甘えるんじゃないよ! これは戦争なんだ! そしてあんた達は兵士なんだ!」
「違う! あたし達は人間だ、機械じゃない! アンタの言いなりにはなれない!」
「人間だけど、パリシィなんだ・・・ 僕は戦えない・・・」
そこまで聞いて、玄治は静かに口を開いた。
「あぁ、お前達は戦わなくていい」
「げ、玄治・・・ お前、まさか・・・」
「お前達が戦えないなら、俺が戦う」
「ドクトル! アンタも何を言ってるのかわかってるのかい!?」
当然、そんな玄治に向かってグラン・マが怒鳴るが、玄治の声はあくまで静かなもので、その目も怒りに燃えることもなく、まるで嵐の前の海のように凪いでいた。
「黙れ、ライラック伯爵夫人。
こいつらは全員が巴里を守ると使命に燃える貴族というわけでもなければ、兵士ですらない。巴里を守るという意思や契約をもって、ここに集ってくれた有志達に過ぎないことを忘れるな」
「それは・・・!」
言葉に詰まったグラン・マから玄治は静かに花組へと視線を向ける。その目はどこまでも優しく、いつものように笑う。
「お前達が戦えないなら俺が戦う、何も心配しなくていい」
「どーするってんだよ、こんな状態で。
いくらなんでもあんただって敵わないなんて、わかってるだろ?」
「ましてや今、私達すらも敵である怪人と同じ血が流れているのだぞ?
それでも私達を、この巴里を守るというのか?」
「あぁ、守る」
一瞬の迷いもなく言い切る玄治に花組が目を見開いた。
「ど、どうして・・・ どうして、そこまでして戦えるの? おじちゃん」
「貴水さん、お願いですからやめてください。
霊力回路だって無事じゃない、あなたの乗っている神威だってボロボロなのに・・・」
「タカミさん・・・ 無茶ですよ」
唇を噛みしめて、嘆いて、俯く花組に、玄治はそれでも続ける。
「俺はお前達の生まれも育ちもどうだっていい、俺が知ってるのは今ここにいるお前達だけだ」
それは生まれた家を知らず、まともとは程遠い育ちをした玄治だから口に出来る言葉だった。
「ここにいるお前達は嘘じゃない、俺が知ってるお前達はここにいる。
だから、守る」
わかりやすく端的に告げている筈だというのに、誰も何も言えなかった。
「俺はお前達を苦しめるなら全知全能の神だろうと、地獄の閻魔だろうと、悪魔の首領だろうと許さない」
それはかつての戦いで己が通った道の真ん中にいる彼女達を守ろうとする、自分こそが大きな盾になろうとする男の目だった。
「お前達を守るためなら、俺は神だって斬ってやる」
そう言って愛刀を握って飛び出そうとする玄治を、花火が入り口に立ち塞がった。
「駄目です! いくらあなたであっても、こんな状況で勝ち目なんかありません!」
「どけ、花火」
「退きません! 私はあなたまで失いたくありません!」
「お前達が死ぬよりも百倍マシだ」
「そんなこと私だって同じです! それなら私も連れて行ってください!」
そう叫ぶ花火が足止めしている間に、エリカが玄治の背後に立って思い切りマシンガンを振り上げて玄治の頭から首に向かって殴打する。
予想していなかった事態かつ霊力保持者の渾身の一撃に玄治は音もなく崩れ、その場に倒れこんだ。
「エリカくん!?」 「エリカ! お前、何を?!」 「エリカ!?」
「エリカ、よくやったよ。こいつはこうでもしないと止まらない」
驚く三人に対し、エリカの意図を察したロベリアが気を失った玄治に肩を貸し、エリカの肩に手を置いた。
「大神さん、私決めました。タカミさんが傷つくぐらいなら、私が戦います。
私が守りたいのは過去じゃありません、今の人々が生きるこの巴里の街なんです!」
「エリカくん・・・!」
「大神さん、私も戦います。
この人が守ろうとする巴里を、私達が生きてきた街を守りたいんです!」
そんな二人の宣言を聞いた三人も、顔を見合わせる。
「それは私達も同じだ。友と共に過ごし、仲間と笑いあったこの街を大切に思わない筈がない」
「うん、そうだよ。それに僕らが何もしないで他の誰かが・・・ 仲間が傷つくなんて黙って見てることなんて出来ないよ!」
「ったく、ほんっとバカばっかりだ。けど、そんなバカの中にいるあたしもバカになっちまったみたいだ」
「皆・・・!」
花組の心が再び一つになろうとしたところで、シャノワール全体を揺らすような衝撃と音が響く。
「シャノワール劇場部分にオーク巨樹が到達! 外壁に攻撃を受けています!」
「全防御シャッター閉鎖完了! 地下施設までの突破予想時間・・・ じゅっ、十分!?」
「十分だと! 支配人、早く避難命令を!」
メル・シーによる状況報告に大神も驚くがすぐさまグラン・マに指示を仰ぐ。
「とりあえず脱出するんだ! メル、全施設内に避難命令を出すんだよ! シー、ジャンにエクレールの発信準備を急がしておくれ!
わかったね!」
『ウイ、オーナー!』
「あんた達、全員格納庫に向かうんだ!
今から戦闘態勢に入ることは出来ない以上、今は退避するよ!」
『了解!』
花組が玄治を担ぎながら格納庫へと向かい、他の面々もそれに続く・
「こ、これは!? 新型のエクレールですか?」
「こいつはエクレール・フォルト。敵地への急行突入を目的にした新型のエクレールさ」
大神の驚きの声に自慢するように告げるジャンに、グラン・マによる呆れ交じりの怒鳴り声が響く。
「ジャン、自慢は後にしておくれ! 時間がないんだよ!」
「わかってますよ、オーナー。光武は既にフォルトの中だ、早く乗り込め!」
「了解しました」
「シャノワールスタッフはエクレール・フォルトへの搭乗を急いでください。
・・・全スタッフ搭乗完了! シャノワール内の生存反応、ゼロ!」
「発信準備を急げ! もたもたするんじゃねぇ!」
「オーク巨樹、格納庫内に侵入! エクレール・フォルトに迫ってきましたぁ!」
メルによる放送、ジャンの怒声、シーによる状況報告を光武の中で聞きながら、エクレール・フォルトに揺られていると列車が激しく揺れる。
オーク巨樹による小型ユニットであるヒトデのような形をした二種のカラミテの襲撃を受け、大神が出撃すれば花組全員が共に出撃していく。だが、いくら倒しても飛んでくる相手をしながら、完全に開くことの出来なかったシャッターに主砲をぶっ放す。
そうしてついにオーク巨樹がエクレール・フォルトに追いつき、激しい爆発が続き、華撃団の面々から悲鳴のような声を聴きながら、ひと際激しい光に包まれてしまったのだった。
俺は神様なんて信じられないし 大っ嫌いだ
それでももし もしも違う道があるというのなら
諦めるな 玄治 それを見出すのが俺達の使命だろ!
次回 『巴里守りし神の樹』
愛の御旗のもとに
倒して終わりなんて それだけじゃない未来だってあるんです