サクラ大戦 貴水玄治物語   作:無月

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⑱巴里守りし神の樹

 大神が気がつくと自分の周りには巨大なクレーターと瓦礫の山があり、大神の近くには倒れたグリシーヌとコクリコの二人と共に行動し、寄り添い合うように一晩を過ごす。

 翌朝、書き置きを残して自身の命を捧げてオーク巨樹を鎮めようと二人を叱り飛ばして足止めをしているとキネマトロンに連絡が入り、三人は凱旋門へと急ぐのであった。

 

 

 

 

 時は少し遡る。

 大神達が爆発に巻き込まれる直前、エクレール・フォルトのエンジンに複数のカラミテの特攻したことによって爆発しようとしていた。

 

「ニャオーン!」

 

「マカセルガイイ!」

 

 運転席にて二匹が何やら会話し、爆発の直前にエクレール・フォルトの中にいるすべての乗組員を光で包み込む。

 黒と銀の光に守られながら、面々が顔を見合わせればいち早く状況を理解したグラン・マが全員を見渡した。

 

「メル、シー、状況を報告しとくれ」

 

『ウイ、オーナー』

 

「大神さん、グリシーヌさん、コクリコさんを除いた全乗組員の生存を確認!」

 

「エクレール・フォルト爆発地点から、到着予定だった凱旋門支部前に転移を確認。奇跡ですぅ!」

 

「よくやってくれた、ナポレオン、アルセーヌ。本当に助かったよ」

 

「ニャオーン!」 「マカセルガイイ!」

 

 互いの健闘をグラン・マからの称賛を受け二匹は鳴き、光武F2から降りてきた三人が何故か不思議な表情をしながら辺りを見渡す。

 

「何が起こったんですか? グラン・マ」

 

「何か光に包まれたような・・・ いえ、それ以外にも何かを感じました」

 

「あんたもかい、花火。何かもっと大きなものに包み込まれたような・・・ 変な感じがしたね」

 

「どういう意味だい?」

 

 グラン・マが詳しく聞こうとすれば、意識を失っていた玄治が体を起こした。どうやらさっきの爆発と転移による衝撃で意識を取り戻したらしい。

 

「ここは・・・?」

 

「貴水さん、意識を取り戻したんですね。具合はいかがですか?」

 

「あぁ・・・ 頭っていうか首のあたりがまだ痛い気がするが、ここは・・・?」

 

「貴水さんが気を失われた後、シャノワールにオーク巨樹が迫ってきたので退避しました。

 ですがその途中でオーク巨樹に追いつかれてしまったんですが、どうやらナポレオンとアルさんの霊力で逃れたらしいです」

 

「流石というかなんというか、まさかここで二匹に助けられるとはな・・・」

 

 メルによって状況を理解した玄治が周りを見ていれば、グラン・マの元には迫水大使が来ており、玄治はそちらからは目を逸らし花組が無事かどうかを確認する。

 

「大神とグリシーヌ、コクリコは?」

 

「それが・・・ どうしてか三人だけ別のところに転移されてしまったようで、ですが時間も時間です。捜索は難しいかと」

 

「そうだな・・・ 一度、どこかで休まないとな」

 

「それは任せてくれ。

 皆、よく無事だった。凱旋門支部で鋭意を養ってくれ」

 

 玄治がそう言ったタイミングで迫水大使が全体に聞こえるように告げてくる。花組が『凱旋門支部?』と首を傾げているのを見て、迫水大使が名乗り上げる。

 

「僕は迫水典通。日本大使館に勤める日本大使であり、巴里華撃団 凱旋門支部長だ。

 凱旋門支部なら体を休める場所が提供できる。行方知れずの者もいるが今は夜も遅い、明日になってから通信を飛ばし、捜索を開始しよう」

 

 迫水の言葉に全員が従いながら、玄治も懐に入れてあるキネマトロンを見て歯噛みする。

 

「チッ、やっぱり受信機能だけじゃ役に立たない。この大きさで送受信出来なければ意味がない」

 

「タカミさん・・・ その、さっきはごめんなさい」

 

 そこにしょぼくれた犬のように落ち込んだエリカがやってきて謝罪する。

 

「いや、俺は頑丈だから問題ない。

 それに・・・ お前も俺も守りたいからやったことだろ? 迷いは消えたか?」

 

「・・・はいっ! 私が守りたいのは、今の人々が生きるこの巴里なんです!」

 

「あぁ、そうだ。

 お前達は俺とは違う、この国を愛せるんだからな」

 

「タカミさんは違うんですか?」

 

「俺はお前達よりひねくれてるから、今もまだ許せないままだ」

 

「・・・でもあなたは、巴里を守ろうとしてくれます。

 私達がいる、ただそれだけで」

 

「それ以外に理由がないだけさ」

 

 玄治がそう言ってるうちに凱旋門支部に到着し、各々が休憩に入る中で玄治は完成したリボルバーカノンの元に訪れていた。

 凱旋門内部に作られた欧州防衛構想によって生み出された長距離輸送装置・リボルバーカノン。

 これは巴里華撃団が構想になった時点で迫水らによって案があがり、それらを米田、玄治、紅蘭の三名がさらに技術協力したことによって完成に導かれた欧州と帝都による共同作品である。

 巴里だけでは遅れていた射出カプセルの試験、特製レーザーによる自動照準及び移動距離の計測の補助を可能とし、今後活用することを考えればまだ課題があるが少なくともフランス国内で照準がずれることはまずないだろう。

 

「・・・休めませんか? ドクトル貴水」

 

「大使、か。

 あぁ。大神の件もだが、これがこんなにも早く使うことになるとは思ってなかったからな」

 

「あなた方が協力してくださったおかげで完成させることが出来ました。

 これが完成すれば、あなたのあの計画も実行に移しやすいでしょう」

 

 そこには以前のような警戒の顔はなく、むしろにこやかですらあった。

 

「あぁ、それは嬉しいが、あんたらは未だに華撃団を兵士と勘違いしてるところが心配だな」

 

「・・・命を懸けるということは、そういうことでしょう」

 

「違う。命を捨てる覚悟で戦ってちゃ未来は作れない。あいつらがいない未来に、先はない。

 この戦いだけじゃない、この先すらも守るという意志がなければ駄目だと、何故欧州はわからない?」

 

「それは・・・」

 

「俺はそれを、米田さんと大神に教わった。

 大使、あんたもまた大神に突きつけられるだろうな」

 

 そう言ってモニターから離れようとしない玄治に迫水は溜息を零した。

 

「それはあなたが、組織に属していないからだ」

 

「その組織に属した結果が対降魔部隊で、かつての欧州星組だが?」

 

 玄治はきつく迫水を睨みつければ、彼は息が止まるような錯覚に陥る。

 

「軍であって軍でない、それが華撃団だ。

 軍では動けない、守れない、解決出来ないことを片付けるということがどれだけ曖昧で不安定か、わからないわけじゃないだろう?」

 

「ですが、犠牲を出さない戦いなど綺麗事でしょう」

 

 『綺麗事』という言葉が玄治の逆鱗に触れ、声を荒げた。

 

「綺麗事を現実にしなければ、いつまで経っても『尊い犠牲』などという言葉が横行する!

 欧州の悲劇を憎むお前達が、同じ口で欧州の犠牲を尊いなどと口にしている自覚を持て!」

 

「それは・・・」

 

「俺達は二度と諦めない! そう決めたんだ!

 『地上に花を 空に星を』!

 世界を美しいもので包む、この計画名が意味するところを履き違えるな!」

 

「まさか、この計画名は・・・ 華撃団を世界各国に作るだけではないのか?」

 

「お前が綺麗事と片付けた言葉で世界を包み込む、これは俺の人生をかけた・・・ これまでの戦いの末に出した答えだ!」

 

「貴水博士・・・ あなたは・・・」

 

 驚く迫水の視線に玄治は再度モニターに視線を戻し、大神を探すように操作を始める。

 

「もう行け、あんたも休んだ方がいい」

 

「僕はあなたを勘違いしていたのかもしれません、貴水博士」

 

「あっているさ、俺が世界にとって危険な存在であることはわかっている。

 精々俺の逆鱗に触れないことだな」

 

「それでもあなたは・・・ 大神くんと同じ正義を持っている。今の僕らにとってそれはとても心強いことだと思うよ」

 

「さぁな」

 

 迫水の言葉に可もなく不可もないことを返して彼が苦笑するのを聞きながら、玄治は『なんで隊服につけてる発信機が反応しないんだよ』と舌打ちしていた。

 

 

 

 

 

 翌朝、大神達と合流を果たし、凱旋門支部の指令室にて巴里の状況を再確認。巨樹は既に巴里の七二%を覆い、日没までにはすべてを覆いつくすと予想される。

 

「また心臓部に突っ込むのか・・・」

 

「玄治、今回はついてくるのは無理だからな」

 

 大神が釘をさすように告げれば、玄治も渋々とばかりに頷く。

 

「わかってるよ。神威もボロボロで治せてない上に、体もガタガタだ。黙って後方支援に入る」

 

「タカミさん、市街に出るのも駄目ですからね!」

 

「・・・チッ、何故バレた」

 

「何故バレた、ではないわ! この阿呆!」

 

「もうおじちゃんは椅子に縛り付けておいた方がいいかもね」

 

 決戦前とは思えないほど和やかな雰囲気にグラン・マと迫水大使が面喰らうが、花組の様子は変わらない。

 

「まっ、このリボルバーカノンやら光武Fやら、アンタは十分すぎるほど働いたんだ。今度はアタシたちの番だろ?」

 

「ロベリアさんの言う通りです。

 私達に任せて、大船に乗ったつもりで帰りを待っていてください」

 

 そして、帰ってくるのを当然と思っているところに再びグラン・マらは驚き、笑った。

 

「フフッ、あんたら本当に変わったねぇ。

 もうあたしから言うことは何もない。思いっきり戦って、勝ってきな!」

 

「・・・あぁ、僕らは君達を信じて待っているよ」

 

 二人の言葉に玄治も嬉しくなって大神の肩を叩く。

 

「俺に出陣させないんだ。怪我なんかしたら、ぶん殴るからな」

 

「玄治の拳かぁ・・・ 受けたら俺の頭が凹んだりしないかい?」

 

「大丈夫だ、カンナは受け止められる」

 

「それ、ゴリラじゃないと駄目ってことじゃ・・・」

 

「よしっ今の言葉、お前らが出撃したら帝都に報告しとくな」

 

「勘弁してくれ!」

 

 二人のやり取りに花組がまた笑い、大神と玄治が真剣な顔をして、拳を合わせる。

 

「頼んだぞ、大神。

 過去の神様なんてぶっ飛ばしてこい」

 

「あぁ、俺達で未来を作ろう」

 

「よしっ、ムッシュ。号令をかけな。

 パリ解放作戦を開始する、オペレーションネームは『巴里は燃えているか』だ」

 

「了解! 『巴里は燃えているか』、発動!

 いいか、皆。巴里の未来を取り戻すぞ!」

 

『了解!』

 

 全員の声と心が揃ったところで、出撃までそれぞれが散らばっていく。玄治もまたそれに従うように自然とモニターの方へ行けば、そこには巴里の状況を確認し続けているメルとシーがいた。

 

「二人とも、替わるぞ」

 

「いえ、貴水さんも少しは休んでください。

 知っていますよ、昨夜も大神さん達の捜索やリボルバーカノンの最終調整でほとんど休まれていないでしょう?」

 

「えぇ? それ本当なら貴水さんこそ休んでくださいよぉ!」

 

「じっとしていられないんだよ」

 

「あー! タカミさんってばこんなところで働こうとしてますよ、花火さん」

 

「本当ですね。

 メルさん、シーさん、貴水さんをお借りしていきますね」

 

「どーぞ、どーぞ!」

 

「出撃までしっかり休まれてくださいね」

 

 エリカと花火に両腕を押さえられ引き摺られていく玄治を二人が生暖かい視線で見送り、指令室の椅子に座らされる。

 

「なんだ、二人とも。まだ俺は何もしてないぞ」

 

「まだ、ですか。

 何をする気だったんでしょうね? エリカさん」

 

「なんでしょうね~、またカタナを持って飛び出すとかやりそうですよね~」

 

「霊力を使わないで剣術だけでも斬れるからな、もしもの時はそうするさ」

 

 玄治のとんでもない発言に二人がジトッとした目で睨みつけ、溜息を零す。

 

「マリアさん達はこの思いを帝都からなさっているんですね・・・」

 

「心臓いくつあっても足りない気分ですよね、これ」

 

 胸を押さえるエリカに、花火も頬に手を当てて困ってしまう。

 

「タカミさん、私達に考えがあるんです。

 聞いてもらってもいいですか?」

 

「もしかしたら、オーク巨樹を戦わずして止められるかもしれないんです」

 

「なんだって?」

 

 そう言って二人は、昨日爆発の際に感じた違和感について語りだした。

 

「その・・・ 先日、ナポレオンとアルくんの転移で助かったという話なんですが」

 

「私達花組はそれよりももっと大きな何かに包まれた感じがしたんです。

 その・・・ 言いにくいんですけど、手に紋章が浮かび上がってきたような温かさが・・・」

 

「どういうことだ?」

 

「憶測でしかないのですが・・・ オーク巨樹が私達を守ってくれたんじゃないかと思っているんです」

 

「もしかしたらオーク巨樹は自分の意志ではなく、サリュや怪人に願われたから行動しているんじゃないかなって。エクレール・フォルトの爆発の時も私達は皆さんの無事と自分達の無事を願ったので、守ってくれたんじゃないかって」

 

「パリシィの子孫であるカルマール達が望んだ巴里の破壊と、お前達の願った無事を叶えてるってことか」

 

「はい、可能性があるのではないかと」

 

「なるほどな・・・

 それでどうする気だ? 俺にだけ話すってことは大神には言いにくいんだろう?」

 

 玄治が先を促せば、二人は確信を持った顔で告げた。

 

「もし、先ほどの仮説が正しいのなら・・・」

 

「私達の願いを、オーク巨樹は叶えてくれるんじゃないかって思うんです」

 

「まさか・・・ 心臓部で祈るつもりか!?」

 

 驚く玄治に対し、二人は静かに頷いた。

 

「勿論、戦闘をすることに迷いがあるということではありません」

 

「でも、倒して終わりなんてなんか違うと思うんです!」

 

「それはその通りだが、お前達の無事が優先だということをわかっているか?」

 

「当ったり前ですよ! タカミさんに厳しく言うんですから、私達が忘れるわけないじゃないですか!」

 

「大神さん達にも、グリシーヌ達にも話をします。

 その上で、オーク巨樹に希望を見出したいのです」

 

「そうか、そうだな・・・

 怨念が、土地を奪われた神が、俺達を許してくれる可能性を見出す、か」

 

 それは降魔という怨敵を持っていた玄治や帝都には、持ちえない発想だった。

 

「わかった、やってみるといい。

 俺はお前達を、お前達の感じた可能性を信じよう」

 

「「ありがとうございます! タカミ(貴水)さん」」

 

「礼は全てが成功してからにしろ。

 お前達が無事に帰ってくるまで、戦いは終わらないんだからな」

 

 そう言って二人の頭をワシャワシャと撫でてから、少し迷ったように二人の肩に腕を降ろして強く抱きしめた。

 

「成功を祈る、無事に帰ってきてくれ」

 

「はい、お約束します。貴水さん」

 

「帰ってきたら、タカミさんのご飯が食べたいです」

 

「あぁ、嫌って程食わせてやる。特製プリンだって作ってやるぞ」

 

 広い胸の中に二人をすっぽりと収めながら、お互いに約束する。

 

「やったー! まっすぐ帰ってきますね!」

 

「ふふっ、エリカさんったら」

 

「タカミさんの胸は私の特等席ですから、こことっても落ち着きます!」

 

「では、私は三歩下がったところからお守りします」

 

「おいおい、俺の周りを全員でぐるりと囲む気か?」

 

「そうですよ! タカミさんが私達を守ってくれるように、私達も守りたいんです!

 大好きですよ、タカミさん」

 

「・・・私も貴水さんがとても、大切です」

 

 人好きをする猫達のように玄治に寄り添ってくれる二人に応えながら、出撃の時まで待機するのであった。

 

 

 

 

 

 オーク巨樹の強襲により出撃が早まり、隊員達が光武F2ごと弾丸型の射出カプセルに入っていく。

 完成したリボルバーカノンが正確に心臓部目掛けて飛んでいく。花組を見送った余韻を感じる暇もなく、混乱に乗じて扉へ向かっていた玄治をグラン・マが見咎める。

 

「ドクトル! アンタこっそりどこ行こうとしてんだい!」

 

「斬るだけなら出来るので外でオーク巨樹から支部の防衛を・・・」

 

「野菜の下処理じゃないんだよ、そんな簡単に斬れてたまるかい! 本気で椅子に縛り付けられたいのかい!? 大人しくしときな!」

 

「何もしてないってことが落ち着かないんですよ! ライラック伯爵夫人!」

 

「あんた、本当に頑固だね!

 いい加減あたしのことをその肩っ苦しい名称じゃなく、他の子達と同じ『グラン・マ』と呼びな!」

 

「なら、俺に市街への出撃許可出してくださいよ! グラン・マ!」

 

 呼んだらいいんだろとばかり呼び方を変えつつも、意見を変える気のない特攻馬鹿である。

 

「駄目に決まってるだろう!

 あんたもなんか言ってやっとくれ、迫水支部長」

 

「貴水くん、君は巴里華撃団の鳥組になるんだったら、自分も無事に帰ってくることを頭においてくれたまえ」

 

「くっそ、大神に教わったばかりの貴族のボンボンが偉そうに!」

 

「君、それが本音かい!?」

 

 さっきから口を滑らせている玄治に迫水が驚くが、メルとシーはこんな状況だというのに笑うのを堪えきれなかった。

 

「フフッ、おかしいわね。シー」

 

「ねー、巴里壊滅寸前だっていうのにねぇ?

 こんなに笑顔になれるんだもん、明るい未来しか想像できないよ」

 

「えぇ、その通りだわ。

 信じましょう、皆さんを」

 

「だね!」

 

 大神達が射出の重力を耐えてるというのに、笑いあう二人と怒鳴り合う後方支援者三人は非常に対照的に映っていた。

 

 

 

 

 

 大神達が心臓部に消えてからどれぐらいの時間が経過したか、玄治は整備班と共に高射砲をぶっ放し、凱旋門支部から霊力爆弾を放り投げ、凱旋門支部に張り付こうとするカラミテを両断する。

 もはや『じっとしていろ』の言葉を聞く能力がないのではないかというレベルで前線に出ようとする玄治に、整備班達が味方でありながら恐れをなしていた。

 

「まだかっ! 大神!」

 

 上がりきらない利き手ではなく、左手で愛刀を振り回しながら、飛んできたカラミテを次々と足場にして両断していく。

 

「もうあいつ、人間じゃないでしょ。オーナー」

 

「ジャン、今更かい?」

 

「グラン・マ、ジャン班長、気持ちはわかりますが言わない方がいいでしょう。聞こえますよ」

 

 もはや止めることを諦めた三人が凱旋門支部の足元で暴れる玄治を見守りながら、その間もメルは徹底して玄治の戦闘をフォローしていた。

 

「貴水さん、東から二機飛んできます! ご注意を!」

 

「整備班! 西からの一機に対応してくださぁい!」

 

「そんなっ! タカミさんじゃないんだから無理ですよ!」

 

「出来ないなら時間を稼いでください! 貴水さんがすぐ飛んできますから!」

 

 そうこうしている間に、オーク巨樹内部でも戦闘は進んでおり、全員が無事心臓部に到着していたおかげで余分な戦いで体力を削られることはなかった。

 

「こちら花組、心臓部に到着した。これより戦闘に入る!」

 

「了解! 貴水さん、花組が心臓部にて戦闘に移りました!

 カラミテのこちらへの飛来もありません! 支部内に退避してください!」

 

「了解!」

 

 ついでとばかりに凱旋門支部近辺のオーク巨樹の根を切り払って支部内に入れば、玄治は深い溜息を零した。

 

「・・・やっぱり吹けば飛ぶような霊力でも、ありなしじゃこうも違うか」

 

 不可視の盾が一切ないという心細さ、攻撃しかない一辺倒の戦い方。大きな傷がないとはいえ、いつもより消耗している体に溜息が出る。

 

「いや、そんなの米田さん達だって同じだったんだ。

 これを機に一から鍛えなおすか」

 

 生身で戦っていた育ての親たちを考えて思い直し、玄治は改めて愛刀を握りなおす。

 

「筋力もだが、マリアから銃を教わることもだな。

 この際、船舶免許も取るか・・・」

 

 やれることを指折り数えながら、前を見ればそこにはグラン・マと迫水が立っていた。

 

「怪我一つなさそうだね、よかったよ。

 本当に無茶をするね、あんたは」

 

「服も破けてないようだから問題はないと思うが、どこかにぶつけたりはしてないかい?」

 

「問題ありません。

 あとはもう、花組の成功を祈るのみですね」

 

「ハハッ、疑ってもいないのにかい?」

 

「疑ってはいませんが心配はしてますよ、何せ相手は神様ですからね。こちらの常識が通用するとは思わない方がいいでしょう」

 

「同じ人間相手ですら常識が通じないのだから君が言うと重みがあるね、貴水くん」

 

「そうなると俺の過去は改めて調べるのはやめた方がよさそうだ、人間じゃない可能性が出てきた」

 

 玄治が大袈裟に肩をすくめれば二人も笑い、揃って真面目な顔になる。

 

「さぁ指令室に戻りましょう、貴水博士」

 

「あたしらに出来ることは、あの子達を信じて待つことさ」

 

「えぇそうですね、迫水支部長、グラン・マ」

 

 そうしてしばらく待っていると、何故か突然通信が繋がり、緑だらけの異空間の映像がモニターに映った。

 そこには光武F2から降りた隊員達とサリュがおり、映像からもはっきりとわかるほどサリュは理解に苦しむとばかりに顔をしかめていた。

 

「パリシィの血を引く者達よ。どうして君達は、そんなにも安らいだ心でいる?」

 

「私達はパリシィです。あなたの話を聞いた時、巴里の人達を憎みもしました。

 ですが、今は違います。私は、私の愛する人たちを守りたい! 私達は未来に生きます! それが大神さんとタカミさんが示してくれた道だからです!」

 

 サリュの問いかけにエリカが答え、サリュは大神へと視線を移した。

 

「都市を守護する者、大神一郎よ。

 どうして、巴里を守ろうとする? 都市とは憎むべき存在なのに」

 

「それは、都市が自然を害するからなのか?」

 

「その通りだ。

 都市とは自然の営みを破壊する悪しき存在に過ぎない、都市は存在そのものが罪。ゆえに、自然の神・オーク巨樹は巴里を滅ぼそうとした」

 

「貴様はパリシィの恨みを晴らすために自然を利用したにすぎない!

 本当の都市は自然と共にある。人も、都市も、自然の一部なんだ!」

 

 大神の答えにも意味がわからないのか、サリュはさらに問いかける。

 

「何故だ、何故、そう考える?」

 

「それは・・・」

 

「それは、愛があるからです。

 人を愛し、子どもを産み、育てていく。愛がある限り、人も都市も、自然の一部なんです」

 

 さらなるエリカの答えにサリュは崩れ落ちそうになりながら、首を振って奮い立つ。

 

「それが数千年の時を経た、我が子供たちの答えなのか・・・

 だが、パリシィは、巴里を許すわけにはいかない!」

 

「皆さん、祈りましょう!

 オーク巨樹がパリシィの神なら、私達の想いも通じる筈です!」

 

「そうか。祖先が崇める神ならば、我らの祈りも通じるかもしれぬ」

 

「やりましょう、皆さん。

 私達の選んだ道を、オーク巨樹に伝えましょう」

 

 エリカの提案にグリシーヌが賛同し、花火が促せば、それぞれが異なるポーズで神へと祈りを捧げる。

 

「我らが神」

 

「自然の象徴たるオークの樹よ」

 

「人々と都市を愛する」

 

「アタシ達の気持ちを」

 

「受け止めてください」

 

「思い出してください」

 

『愛を』

 

 花組隊員達の霊力が光となって異空間を包み込み、モニターからは一切何もわからなくなる。

 

 

 

「おい! 待てこら! しっかり映せ、光武F2!!」

 

「今いいとこなんだから静かにしときな! ドクトル!」

 

「光の中じゃ無事かどうかもわからないでしょう! グラン・マ!」

 

「この状況で危機になるとは考えにくいだろう?

 まったくあまり過保護だと嫌われるよ、貴水くん」

 

「うるせぇ、支部長! 俺は神様なんて万能なくせに行き当たりばったりな奴が大嫌いなんだよ!」

 

「それ、ほとんど自己紹介ですよぉ。貴水さぁん」

 

「俺の場合はわかった上で行動してるんだ!」

 

「なお、タチが悪いですよぉ! 少しはメルの気持ちにもなってください!」

 

「・・・だから、放っておけないんですけどね」

 

「ちょいとメル、こんなときに惚気ないでおくれ」

 

 

 

「こ、これは!? バ、バカな!? 我が神よ、あなたも新しい道を選ばれるのか!?」

 

 声しか聞こえないが、察するにオーク巨樹は無事花組隊員達の祈りが通じ、エリカ達の仮説は正しかったことが証明された。

 

「この光は・・・ なぜこんなにも暖かい? そうか、これがお前達が言う、愛する心か・・・」

 

 そして、サリュは光の中に消え、オーク巨樹の心臓部にいた筈の面々はノートルダム前に立っていた。

 

「おい、大神! 応答しろ!」

 

「あ、あぁ、玄治「タカミさーん、お腹すきましたー!」

 

 応答した大神に割り込む形で、エリカが通信を繋げて両手を広げた。全員にそれが通知されたらしく、グリシーヌとロベリアが噴き出し、コクリコが呆れた顔をし、花火は微笑んでいた。

 

「エ、エリカぁ~」

 

「ハッハッハ、エリカらしい」

 

「ったくよぉ、さっきまでカッコ良かったのはどこ行ったんだか」

 

「でも、エリカさんじゃありませんけど、なんだかお腹がすきましたね」

 

「ハハッ、そうだね。

 じゃぁ凱旋門支部に戻って、『いつものあれ』をやったら祝勝会をしようか」

 

「わかった、今から準備しよう。

 プリンは・・・ クリームブリュレなら出来るぞ」

 

 そのやり取りを聞いていたグラン・マと迫水が大きく笑い、見ればメルとシーも笑っていた。

 

「ホント、あんた達っていつも通りだよねぇ。

 ついさっきまでオーク巨樹の根をぶった切ってたっていうのにさ」

 

「あっ、ちょっ「玄治!」 「ターカーミーさーんー?」 「貴水さん、お話があります」

 

 グラン・マによる暴露によってエリカと花火が怖い目をして、モニター越しに玄治を睨む。

 

「おじちゃん、学習しないよねぇ」

 

「あれはあれで一つの信念だ、ドクトルに『譲れ』という方が無駄というものだろう」

 

「だよねぇ、凱旋門支部にオーク巨樹が迫ってきてた時点で飛び出すことはわかってたようなもんさ」

 

 そこでグリシーヌが声を張り、大きな声をする。

 

「隊長! エリカ! 花火! 説教は帰ってからにするがいい!」

 

「そうだよ、早く帰って『いつものあれ』やろう!

 

「その後は酒だ、酒! ドクトルにメシ作らせて豪勢に行こうぜ!」

 

 三人のその言葉に、画面越しに説教をしようと大神達が止まり、急いで光武Fに乗って凱旋門支部に急ぐ。

 

「報告によるとオーク巨樹は完全に消滅、代わりに緑地帯が出現しました」

 

「新たに発生した緑地帯は人間に対して、無害な存在だそうですぅ」

 

「その緑地帯の発生場所は巴里をかこっていた城壁の跡と同じ場所、なんだろう?

 パリシィの怨念を封じるために築かれた、太古の城壁の跡とさ」

 

 メルとシーによる状況報告を聞きながら、毒々しい妖力を放っていたオーク巨樹の根が金色の光となって巴里を包んでいく。その姿に玄治は目を細め、その光を包むように手を伸ばす。

 

「都市を許す神もいる、か・・・ ありがとう、俺もあんた達のことを忘れない。

 (パリシィ)を愛し、今を生きる人間を許し、愛した神がいたことを」

 

 再び眠りについた神に届けと願いながらつぶやく玄治の背後に、迫水が立つ。

 

「貴水博士、この異例の事態をどう思われますか?」

 

「怨念は祓えるし、時には人間を許すことがある・・・ これは俺達の戦いの中で良い前例になったと思おう」

 

「だがそうなると、降魔という存在は・・・」

 

「それはまた今度にしよう、今はただこの勝利と訪れた平和を祝おう」

 

「えぇ、そうですね」

 

 玄治と迫水がやり取りしていれば、エッフェル塔の方向から全員が帰ってくる。

 が、玄治を見つけた大神とエリカ、花火が怖い顔をして走ってきた。

 

「玄治! 巴里に来てからお前の行動は目に余るぞ!」

 

「ほんっとうに椅子に縛り付けてから出撃すればよかったです!」

 

「貴水さん、どこもお怪我はありませんか? ・・・大丈夫のようですね、よかった」

 

「それはこっちの台詞だ! お前ら、戦闘が終わったと思ったからって敵地で光武から降りるんじゃない! 大体、エリカとか祈りに自然で不自然な持っていき方しやがったが、ついさっきまで敵対してた神へ祈りを捧げるとか成功したからいいものの失敗してたらどうするつもりだ! サリュの目論見だった危険性だってあったんだぞ!」

 

「「自分が危険なことをしたからって()達の話に変えて逃れようとしない!」」

 

お ま え ら (花組)が い う な!」

 

 大神とエリカに加えて花火という多対一にもかかわらず負けず劣らず怒鳴り返す玄治を止めるべく、グリシーヌとコクリコが割って入り、ロベリアが溜息をつく。

 

「そこまでだ、お前達」

 

「戦いが終わったっていうのに喧嘩なんてやめようよ」

 

「それよりもいつものあれ、やるんだろ? 隊長、掛け声任せた」

 

「あっ、そうだな」

 

 そこで大神が気を取り直して凱旋門の前に全員で並ぶ。

 

「勝利のポーズ!」

 

『決めっ!』

 

 巴里華撃団の笑顔と共に、光あふれる巴里の街に巴里華撃団の勝利の言葉が響くのであった。

 




たった一か月で再建できるんだから 人間って奴は強いよなぁ
げ 玄治 その言い方だとお前が人間じゃないみたいだろ
俺 人間じゃないかもしれないって言われることの方が多いんだよな
次回 『欧州博覧会デート』
愛の御旗のもとに
まっ どうせだから巴里にでっかい置き土産でもしていくか
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