戦いが終われば人々は賑わいを取り戻し、街は再建されていく。
あれほどの大規模な侵攻があったにもかかわらず巴里は一か月でその姿を取り戻し、遅めの特別休暇を貰った大神らはメルとシーも連れて、同時期に再開した欧州博覧会に足を運んでいた。
大神と玄治、それぞれについていく者に分かれて行動し、玄治はエリカと花火、メルと連れて欧州博覧会の中央まで歩いていく。
「タカミさん、見せたい物ってなんですか?」
「欧州博覧会に向けて何かを作ってらっしゃったのは知ってますが・・・ いったい何を?」
「貴水さん、どこのパビリオンに入るんですか?」
「いや、入りたいところがあるわけじゃない。ちょっとこの巴里に、大きな置き土産をしていこうと思ってな。
上を見ててくれ」
「ウエ! ウエー!」
そこで玄治の合図で祝砲が上がり、その祝砲が巴里の空に薄く広がっていくのを三人は驚いたように玄治に視線を向けた。
「え? え? 今のなんですか?」
「今のは、以前見た霊力結界に似ているような・・・?」
「貴水さん、どういうことですか?」
「今日の日に合わせて、都市エネルギーを循環させ半永久的に活動し続ける霊力結界の展開させた」
それだけでは意味がわからない三人に、玄治はさらに続ける。
「眠りについたオーク巨樹を封じていた太古の城壁跡地に、この一か月で石碑と共に霊力結界の機器を設置した。
お前達の祈りを聞いてくれた、再び守り神としてこの地を見守ることを選んでくれたオーク巨樹に敬意を込めて、な」
「タカミさん、それってとっても素敵です! トレビアンです!」
「パリシィであるオーク巨樹も、この巴里で未来を生きていくのですね」
「そしてあなたの技術が巴里を優しく包んでくれる、こんなにも心強いことはないです」
口々に玄治を称える三人に玄治もまた上空を見上げ、成功した霊力結界の他に確かに混ざり合う金の霊力に玄治は静かに語りだす。
「俺はこれまでの戦いで敵を滅することでしか解決は出来ない、終わりの見えない戦いをするのだと思っていた。無論、解決策を考えることを諦めたわけじゃなかったが・・・ まさか怨念が許すことを選んでくれるとは思ってなかった」
そこで玄治は三人に視線を向け、頭を下げる。
「俺はこの街に来たから・・・ ここで皆に会えたから新しい可能性に出会えた、本当にありがとう」
「そんなっ、頭をあげてください! 貴水さん!」
「そうですよ! 私達だって凄いタカミさんに助けられてきたんですから!」
「むしろ私達の方こそが、あなたと出会えたことを感謝したいぐらいです」
玄治は三人の反応に微笑み、首を振った。
「いやな、そんな大袈裟な、守った・守らないの話だけじゃないんだ。
ただ今この瞬間、心から思ったんだ。
巴里に来てよかった・・・ この街で、お前達に会えてよかった」
そう告げると三人が一斉に顔を真っ赤に染め上げてから顔を逸らし、玄治はそんな三人から視線を逸らすことはなかった。
「俺は婚約者が四人もいるし、知っての通り危険なことを平気でしでかすし、花組のためならなんだってするような男だ。
それでも・・・「タカミさんがいいんです!」
玄治が問いかけるよりも早くエリカが玄治の右腕に絡みつき、脇の下から顔を覗かせてくる。
「私達を守ってくれる、いつも私達を大切にしてくれるタカミさんが私達はだーい好きなんです!
そうですよね? メルさん! 花火さん!」
エリカが二人にも同意を求めれば、二人も顔を見合わせて笑いあい、玄治の胸に飛び込んでいった。
「おっと、危ないだろ?」
「貴水さんが私達に怪我をさせるわけがないって信じていますから」
「貴水さん、私達はあなたをお慕い申し上げております。
あなたがどこへ居ても、どれほどの人に想われていようとも、私達があなたを想う心が変わることはありません。
貴水さん、あなたは私達のことをどう思っていますか?」
花火による思わぬ言葉に玄治は目を丸くし、顔を赤くする。
「俺もお前達を大切に想ってる」
そう言って一度全員から離れ、最初にメルから視線を合わせる。
「メル、俺はこの街で気が付けば君に支えられてきた。
その時が来たら、俺に攫われてくれるか?」
「・・・はいっ! 私を連れて行ってください! あなたを支えさせてください!」
差し出した玄治の手をしっかりと握り、メルが握ったその手を花火へと導き、花火が玄治の大きな手を自分の手で包み込んできた。
「貴水さん、あなたは私の過去ごと光で包んでくれました。
最初はあなたへの感謝と、同じ思いを知る者としての同情が近かったのかもしれません。ですが・・・」
花火はそこで一度区切り、顔をあげて玄治と顔を合わせた。
「私はあなたを愛しています。
貴水さん、あなたを守らせてください」
「あぁ花火、俺にもお前を守らせてくれ」
そうして花火が場所を開けた瞬間、玄治の胸に文字通り飛び込んでいくエリカに三人が不意を突かれた。
だが、そんなことは巴里に来てからも何度もあったことで玄治は飛び込んできたエリカを受け止めてみせた。
「タカミさん! タカミさんはいっつも私を受け止めてくれますよね! 私、そんなタカミさんが大好きです!」
「ハハッ、俺もお前の底抜けの明るさが好きだよ。
俺の傍でいつもそうやって笑っててくれ」
「はいっ! エリカ、全力で行きます!」
「ぜ、全力か・・・ 俺、筋トレ増やすだけで受け止めきれるか?」
「フフッ、それなら私達もご協力しますよ。貴水さん」
「えぇ、全力のエリカさんごと玄治さんを援護いたします」
「あっ花火さん、タカミさんを名前で呼んでる! 私も呼びたいです!」
「おー、呼んでみな。玄治だ、げ・ん・じ」
「ゲンジさん!」
「ゲンジ! ゲンジー!」
そうやって四人で騒いでいると後ろから突然玄治の首を絞めるように腕が伸びてきて、その服装から腕の主が誰かわかって誰も警戒はしなかった。
「なんだよ、ドクトル。アタシを混ぜないで面白いことしてるじゃないか。
アタシには言ってくれないのかい? ん?」
「俺と大神、どっちも狙ってるお前が告白とかガラじゃないだろ」
「失礼な奴だねぇ、アンタらがそんだけ魅力的ってことさ。
それはそうとドクトル、アンタ巴里警察脅しただろ?」
「なんのことやら?」
ロベリアの驚きの発言に間髪入れずに否定することが却って全員の不信感を募り、『何やらかしたんですか?』と三人の視線が突き刺さる。玄治が答えるよりも早くロベリアがしゃべりだす。
「しらばっくれても無駄だよ、ドクトル。あんな戦いを終えても、アタシにはまだあと三年はお務めが残ってたはずさ。
それに巴里警察の面子を考えれば、たとえあれだけの偉業を成し遂げてもお務めからは逃れられやしない。だってのに、アタシへの言及もお咎めもない上に犯罪者であることを悪く言ってた奴らも揃って口を噤んでやがる。
不自然すぎるだろう? なぁ?」
「お前に恐れをなしただけだろ」
「ほんっとアンタは隊長と違って嘘つきだよねぇ?
まぁ、そんなアンタだからこそアタシは惹かれてんだろうさ」
そこまで言ってロベリアは彼から離れ、指でピストルを作って打ち抜くように腕をあげる。
「アンタのことを待ちきれなくなったら、トーキョーまで盗みに行ってやるよ」
「あぁ、その時は盗まれてやるよ。
まぁマリア達がどうするかは知らんがな」
「ハハッ、手強い奴を何とかして盗み出すのが楽しいんだろう?」
マリアと一度は決闘をしているロベリアだからこそやりかねないと思わせ、なおかつどちらも譲る気はないのだろう。
「悪いな、俺にそっちの浪漫はわからん。
誰も作ったことのない城を築く浪漫ならわかるぞ」
「あぁ、アンタの部屋にあったあの設計図かい。
アンタはアタシですら盗めない空を盗もうとしてるんだ、アタシより大泥棒じゃないか」
「そうか、『空を盗む』か・・・ いいな、それ。
俺と一緒に空を盗むか、ロベリア」
「ハッ、バカげてて最高に夢があるじゃないか!
アンタと共犯になったら、世界すら盗めそうな気がするよ」
ロベリアの視線はあの計画すら知っていると語っており、玄治は心底楽しいとばかりに笑って見せた。
「世界を盗んだら、懲役がいくらあっても足りなくなりそうだな。よっ、大悪党」
「アンタにだけは言われたくないよ、この悪党め。
じゃぁなドクトル、またな」
互いに褒めているような罵り合いをしてから去っていくロベリアに、メルと花火が厳しい目で玄治を見る。
「貴水さん、警察に圧力をかけたというのはその・・・」
「知らんなぁ。
俺が全力を持って貴族にも、警察にも圧力をかけた現実なんて覚えてないなぁ」
もはや隠す気すらなくしれっと答える玄治に、二人が向ける視線は変わらず厳しい。
「お気持ちはわかりますけど、それはやりすぎでは?」
「知ってると思うが、俺は俺の大事なものを悪く言う奴らが大っ嫌いなんだ」
「『職権乱用』という言葉の意味をお教えして差し上げましょうか?」
「いいか、花火。
地位と名声と技術は、最大限に使ってこそ意味があるんだぞ?」
どこまでも悪びれない男に何を言っても無駄と悟ったのか、二人が諦めていたところでエリカが笑って言った。
「ロベリアさんって、ゲンジさんと大神さんが大好きなんですね!」
「ぷっ、くくくく、そうだな。一言で言うとそうだな。
俺のことが大好きだからなんでも見透かしてきやがるし、わかっちまうんだよ」
わしゃわしゃとエリカを撫でてやればもっと撫でてほしいとばかりに頭を手に押し付けてきて、もっと撫でていく。
「貴水さん、その・・・ 私も撫でてもらってもいいでしょうか」
「勿論いいぞ、メル。
エリカの髪もだが、メルと花火の髪色も素敵だよな。どっちも空の色だ」
「わかります! お二人の髪、とっても綺麗ですよね!」
褒められた二人が照れ、玄治とエリカが二人の髪に触れていると大神達がそこに通りかかり、『何をやっているんだ?』と言われて全員でそれぞれの髪を褒めるという面白い事態になるのであった。
ねぇグリシーヌ イチロー達が帰る前にさ やりたいことがあるんだ
奇遇だな コクリコ 私も為したいことがある
それならさ 皆も・・・ ううん 巴里中を巻き込んでやろうよ!
次回予告 『壮行会』
愛の御旗のもとに
貴公らの働きを誰も知らぬなど あってはならない