楽しい巴里の夜から二日後、出発の朝、玄治は朝早くに起きて三人の朝食を作っていれば三人も起きてくる。
「貴水さん、出発前なのに悪いですよ」
一番に起きてきたメルが料理を止めようとするが、玄治は優しく微笑んで調理をやめる様子はない。
「俺の味を覚えておいてほしいからな。
あまり教われなかったから付け焼き刃も良いところだが、巴里の味に少しは近づけてたらいいが・・・ シーさんからレシピ本を貰えたのはありがたかった」
「美味しいですよ、貴水さんのご飯は。
いつもとても、優しいです」
「そうか・・・ ならよかった」
「おはようございます! ゲンジさん! メルさん!
やることありますか?」
「おはようございます、皆さん。私もお手伝いします」
「じゃ、エリカはスープをよそってくれ。花火は皿を運んでおいてくれ」
「はーい!」 「はい」
二人もそれぞれ動き出し、朝ご飯は皆が座って食事をしている姿をアルセーヌも見守る。
食後のお茶を飲みながら、まったりとしていれば玄治は懐中時計を見て椅子から立ち上がった。
「名残惜しいが・・・ そろそろ出発するか」
「お見送りは玄関まで、ですよね」
「あぁ、別れがたくなるからな。行くぞ、アル」
肩にアルセーヌを乗せ、一応用意した鳥籠とトランク一つにまとめた荷物を抱えて玄関に向かう。
「貴水さん、お体にはお気をつけて」
「いただいた櫛、大切にします。道中の無事をお祈りします」
「ゲンジさん、約束ですからね! 巴里と帝都を行き来出来る物をすぐ作ってくださいね!」
「あぁ、約束だ。
それじゃ行ってくる、またな」
そう言って玄関に立つ三人はまずメルが前に出る。
「
「また近いうちに、か。あぁ、必ず」
メルが一歩下がった後、次は花火が一歩前に出て、何やら手元に持っている。
「玄治さん、しゃがんでいただいてもいいですか?
アルくんは少し危ないかもなので、荷物の方に」
「いいとも」
「リョーカイ!」
言われるがままに地面に膝をつけてしゃがめば、頭の上で三度打ち鳴らされる。打ち鳴らされた後に頭をあげれば、火打石と火打ち金を手にしていた花火と目が合う。
「旅の無事と職務の成功を祈るものだと本で読んだので、験を担ぐ日本式の送り方をしたかったんです。
どうか、くれぐれも道中お気をつけて」
「ありがとう、花火」
そして最後にエリカが、しゃがんだままの玄治の近くに来て両手を合わせる。
「ゲンジさんが神様を好きじゃないのは知ってますけど、私らしい見送り方ってやっぱりお祈りしか浮かばなくて一緒に祈ってもらってもいいですか?」
「そうだな、確かに俺は神様が好きじゃない。でも、お前が祈る神様を否定する気はないんだ。
何を祈るんだ?」
「巴里を守る神様とオークの巨樹に誓いを立てたいんです。私に続いてください」
「我らが神」
「我らが神」
「巴里を守護する神よ、そして自然の象徴たるオークの樹よ」
「巴里を守護する神よ、そして自然の象徴たるオークの樹よ」
「互いを想い、愛し合う私達の誓いを」
「互いを想い、愛し合う私達の誓いを」
「お聞き届けください」
「お聞き届けください」
「私は絶対ゲンジさんと再会します。再会して、皆で結婚しましょう」
エリカから飛び出た結婚の発言に、メルと花火が顔を真っ赤にしてるが玄治も強く頷いた。
「なら俺は、皆を必ず幸せにすると誓おう」
「違いますよ、ゲンジさん。一緒に幸せになるんです。
だから、誓うなら私達との再会でいいんです」
「俺にとって再会は絶対だからなぁ、誓うことじゃない。お前達皆が笑顔になること、幸せになってくれることが俺の望みで誓いだ。
愛しているよ、お前達を」
「私も、いいえ私達も、あなたを心から愛しています」
「それではいってらっしゃいませ」
「絶対ですからね! ゲンジさん」
そう言って見送られたところで、門のところにロベリアが立っていることに気づく。
「よっ、ドクトル」
「なんだ、ロベリア。見送ってくれるのか?」
「ハハッ、そんなのアタシのガラじゃないだろ? アンタから一つ物を盗んでやった報告をしようと思ってね」
そう言ってロベリアが取り出したのは、かつてロベリアを捕まえる時に使った仮面舞踏会のような派手な仮面。
「随分懐かしい物出してくるな、いつ盗った?」
「バーカ、教えるわけないだろ。
これでアンタがアタシを捕まえた奴だって確定したんだ、警察的に言うなら物的証拠って奴になる」
クスクス笑いながら告げるロベリアに、玄治も笑う。
「アタシを追い詰めて捕まえちまった初めての男、まさか懲役も心も盗まれるとは思ってなかったけどね」
「おいおい、大神にも奪われてる心だろ?
あと懲役は盗んだんじゃない、握り潰したのさ」
「あぁそうさ、隊長とアンタはアタシの心の琴線を別々に奏でてくれた。
だから、競争しようじゃないか。ドクトル」
「競争?」
玄治が問いかければ、ロベリアは空を指さした。
「アタシがアンタと隊長を盗みに行くのが先か、アンタが空ごとアタシを盗みに来るのが先か。
楽しそうだろ?」
「つまり、巴里花組を呼び出す時はお前がいの一番に駆け込んでくるのか、怖いな」
「あぁ怖いだろ? 巴里の悪魔がアンタらを搔っ攫いに行くんだ。震えて眠りな」
お互いに笑いながら、玄治は拳を突き出す。
「その勝負、受けてたつ。
あぁそうだ、お前にも渡しておくんだった」
「さっすがドクトル、男だねぇ。
これは・・・ 日本のクシか。そういや、日本では特別な誓いの品だって言ってたな」
「あぁそうさ、苦労も幸せも共にするそんな誓いが込められてる。
お前の名前の花が彫ってある、良かったら使ってくれ」
「ハハッ、贈り物なんて・・・ いつ振りだろうね。大切にさせてもらうよ、ドクトル」
「これからは毎年もらえるぞ、俺からも仲間からもな」
「っ! やめろよ、そんな臭いこと言うの・・・ ガラにもなく、照れちまうじゃないか」
「そりゃいい、お前の照れ顔を見れるなんて最高の思い出になる。
じゃ、またな。ロベリア」
「あぁ、またな。貴水玄治」
そうして仲間と別れ、玄治は帝都へと帰っていく。
こうして怪人達によって始まった一連の事件は幕を閉じた。
大切なものが増えた男は、再び帝都へと帰っていく。
四部作『サクラ大戦 貴水玄治物語』の三部を飾るは、師の遺志を守り、信念のもとに動き、大きな計画を決意し、都市に希望を見出す物語。