サクラ大戦 貴水玄治物語   作:無月

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②花やしき暴走!?

「いたた・・・ 流石に昨日は飲みすぎたな」

 

 翌日、ひどい頭痛に頭を抱えて体を起こせば、ギターを搔き鳴らして現れる白スーツの男、その名は加山雄一。

 

「結婚はいいなぁ~、俺には婚約者すらいないけど」

 

「うるせぇ、頭に響く、ギターを掻き鳴らすなアホ」

 

 加山の頭を鷲掴みにして睨みを聞かせる玄治に、加山が気にせず笑っている。

 

「珍しいな、玄治ぃ。お前が飲みすぎるなんて」

 

「うるせぇ、たまの飲酒で加減をミスっただけだ」

 

「まぁこれだけ事態が膠着していれば、ヤケ酒をしたくなる気持ちもわかるけどな」

 

 突然真剣な顔になる加山に、玄治も頷く。

 

「それについてなんだが、大神が昨日これを見つけてきた」

 

 そう言って懐から金粉を出せば、加山も不思議そうにその金粉を見る。

 

「これは、金粉? どうしたんだ」

 

「大神の光武二式の足元についていたらしい。昨日少しだが実験してみたんだが、わずかだが妖力反応もある。

 それにこれは明確じゃないんだが・・・ 霊力を吸われるような感覚がある」

 

「どうした? 珍しく曖昧だな」

 

「俺の霊力回路は現在正常じゃない上に、元々の数値が低い。こればかりは曖昧な答えしか出せない」

 

「なるほどな、俺の方から情報を集めればいいんだな?」

 

「あぁ、俺はこっちの現場から動けない。資料を集めるのに限界がある」

 

「シャレにならないぐらい忙しいからなぁ、お前と紅蘭さん」

 

 笑いながらいう加山に玄治は重たい頭を持ち上げて、気合を入れなおすように髪を縛りなおす。

 

「だが、ここで手を抜くことも出来ない。それに叶えたいこともあるからな」

 

「お前、自分で自分の首を絞めてるよな」

 

「仕事と約束は別物だからな、どちらもこなさないと届かないなら両方やるだろ」

 

「ハッハッハ、それでこそ玄治だな。

 なら俺も、俺の仕事をしっかりこなすさ」

 

「そっちは任せたぞ、加山」

 

「おう、任せとけ」

 

 拳をぶつけ合って別れ、玄治は朝食の準備へと向かえば厨房には既にかすみとマリア、ラチェットとレニが立っており、玄治は目を丸くする。

 

「なんだ、今日は四人がやってくれるのか?」

 

「えぇ、昨日の様子だとあなたは朝起きれないんじゃないかと思ったから」

 

「話は聞きましたよ、玄治さん。

 かえでさんと晩酌をして、ずいぶん酔ってしまったとか」

 

「連日の作業で飲酒量の加減を見誤ってる。ハカセはもう少し自分の体調をしっかり管理した方がいい」

 

「情報共有早すぎないか、お前ら」

 

 二日酔いで痛む頭をさすりながら厨房で何か出来ないかと行動しようとすれば、そこにラチェットにからお椀に入れられた蜆の味噌汁を渡される。

 

「玄治、味見も兼ねてそれを飲んでのんびりしてて頂戴」

 

「へいへい・・・ 本当に俺には出来すぎた婚約者達だよ」

 

「ふふっ、あなたが昨日飲みすぎていたのはわかっていたもの。

 それに増やしたのは蜆の下準備くらいで、あとはあなたのメニュー通りにやっただけよ」

 

 味噌汁を味わいながら、四人がそれぞれ動いて準備をしていく姿と音を聞きながら、玄治は微笑んでしまう。

 

「あっ、おじちゃんがサボってるー」

 

「おはようございます、皆さん。

 玄治兄さんは朝から何ニヤニヤしてるんですか」

 

「いやぁ、俺の嫁さん達本当に最高だなぁって改めて思ってた。

 俺の体調も、酒の量も、全部わかってくれて、こうして助けてくれるんだぞ? 最高すぎるだろ、こいつら」

 

「まーたドットーレのノロケが始まりましたー。朝食の前からお腹いっぱいになりたくないので、黙っててくださーい」

 

「貴さん、その締まりのない顔をなんとかしなさいな。

 ご自慢の婚約者達に嫌われたくないでしょう」

 

「こいつらはそんなことで嫌いにならないから心配無用だ」

 

 呆れたり、しらけた顔で厨房を覗いていく面々に気にもせずにのんびりしていれば、いつもならここで乗っかってくるカンナと紅蘭がぼんやりとしていた。

 

「どうした、カンナ、赤チビ」

 

「お、おう・・・ いや、ちょっと変な夢見ちまってさ。ちょっとぼーっとしちまってた」

 

「ウチもちょっと疲れが出たのかもしれんわ。いやー、蜆の味噌汁、美味しそうやなー」

 

 玄治が声をかければ、どうってことないとばかりに返事をしてきた。大神が最後に起きてきて、皆に声をかけながら厨房で座ってる玄治を見てギョッと目を向いた。

 

「どうかしたのか? 玄治。朝から椅子に座ってるなんて珍しい」

 

「昨日ちょっと飲みすぎたら、最愛の婚約者達が俺を全力で甘やかしてくれて最高に幸せだ」

 

 それだけで状況を理解したのか、大神は苦笑いしながら食事を受けとって席に着く。全員に食事がいきわたり、厨房に立っていた面々も席に座って誰ともなく両手を合わせて揃って『いただきます』と言って食事が始まる。

 いつもなら遅れて食事をとる玄治やそれに倣って遅れて食事を取っていたマリアらも並ぶのは新鮮だったが、全員が自然と笑みをこぼす。

 

「あぁ・・・ たまには全員でとるのもいいな」

 

「玄治兄さんがいつも時間をずらしてるからじゃないですか。私達は前からそうしようって言ってたのに」

 

「おかわりとか片づけを考えたら、俺が一緒に食事するって非合理だろ」

 

「それも私達が手伝うって言ってるのに、『舞台稽古に行け』とか言って追い出したくせに」

 

「そこらへんにしときや、玄兄、さくらはん」

 

 言い合いからまた喧嘩になりかけた二人に紅蘭が笑いながら間に入っていく。

 

「そうそう、一緒に飯なんて今度からあたいが玄さん引っ張ってくりゃいいだけの話だろ」

 

「なんでいつも俺側が強制連行なんだよ!?」

 

 叫んだ自分の声が頭に響いたのか、玄治が頭を抱えてその姿にマリアが何も言わずに二日酔いの薬と水をテーブルの上に置いた。

 

「玄治、昨日は飲みすぎよ。加減を覚えなさい」

 

「今後はお酒は私達と一緒に飲むか、飲んでも一杯だけにするかしてくださいね」

 

「かすみ、お前までそんなこと言うのか・・・」

 

「加減をしなかったハカセが悪い」

 

 そこで玄治が諦めて味噌汁をすすり溜息をついていれば、ラチェットが楽しそうに笑っていた。

 

 

 

 

 食事も終え、五人で協力して片づけをしていれば、かすみが何かを思い出すように話す。

 

「そういえば今日、大神さんに帳簿のつけ方を教えることになってるんですよ」

 

「あぁ、大神が総合演出になるからその一環でか。初めての帳簿つけは苦戦するだろうな、あいつ」

 

 喉で笑う玄治に、ラチェットは食器を布巾で拭きながら参戦してくる。

 

「大神隊長もモギリから出世したんだものね。昨日結婚について聞かれた時は少し驚かされたわ、まさか昇進して結婚についてまで考えているなんてね」

 

「僕も聞かれた。でも、僕らは明確な答えがあるから問題ない」

 

「えぇ、本当に。

 でも、隊長は何のために聞いたのかしら?」

 

「私も事務局で聞かれましたね。由里は結婚から縁遠い子ですし、椿も現実味がないみたい」

 

 女性陣の言葉に玄治が首を傾げ、玄治のその様子にマリアがおもわず問う。

 

「どうかした? 玄治」

 

「いやだって、結婚のこと聞いて回ったのって舞台の演出のためだろ?」

 

 そこで女性陣が目を合わせて無言のアイコンタクトが行われた後、最終的にレニが玄治に聞いてくる。

 

「ハカセはなんて答えたの?」

 

「舞台の演出についての答えなら、『辿り着いた場所』だ。

 大真面目に答えたのはその・・・ いろいろなところに報告を終えたら、来年ぐらいに式を挙げたいと思ってるんだが・・・ どうだろうか?」

 

 おずおずと口にする玄治に四人が驚くが、そんなのも目に入らないとばかりに玄治は続ける。

 

「いや、勿論巴里のメル達の都合もあるし、皆の都合もある。舞台女優たちをこんないっぺんに引退させるわけにもいかないことはわかってるし、華撃団としての仕事であちこちに飛び回る予定もある。

 だけどその、なんだ。婚約から一年は経つし、これ以上先延ばしにするのもどうかとは思ったから、また改めて伝えさせてほしいんだが・・・ 俺と結婚してくれ。お前達が俺の、辿り着いた場所なんだ」

 

 玄治の突然の告白にその場にいる全員が顔を真っ赤に染め上げ、頭に手を当てたり、腕を組んだり、目を見開いたりと忙しない。

 

「あなたって人は。こうと決めたらすぐに行動に移す癖が酷すぎるわ」

 

「マリアに同意ね、こんな朝からプロボーズしてくるなんて・・・ 今日一日どう過ごしたらいいのかしら?」

 

「ハカセ・・・ 突然だけど、ハカセの気持ちは嬉しく思う」

 

「返事は言うまでもありませんけど、時間と場所を考えてくださいね? 玄治さん」

 

 そこでいち早くラチェットが咳払いした。

 

「と、とにかく、玄治。

 プロボーズはまた今度、しっかりやり直して頂戴」

 

「す、すまん。なんかつい、勢い余って口から出てた」

 

「本当に、あなたという人は・・・」

 

 呆れたように言いながらも嬉しそうにするかすみに続くように、マリアとレニもどうにか自分の顔の熱を逃がそうとしていた。

 

「玄治、私達は舞台の稽古があるけど、あなたのこの後の予定は?」

 

「あぁ、舞台衣装の点検をして、小道具とかの準備。それと並行して事件事故の調査続行、資料を探すにも手掛かりがほとんどないのが痛いな」

 

「それなら私が事故現場を見てくるわ、現場に何か残ってる可能性は零ではないでしょう?」

 

 ラチェットの発言に、レニから制止が入る。

 

「僕は反対だ。ラチェットはハカセと同じで独断専行の傾向が強い。

 今はキネマトロンで連絡もまともに取れない以上、一人で行って何かあった時の対応が出来ない」

 

「私もレニさんに同意します。

 今の銀座はどこが安全かもわからない以上、個人行動は避けるべきです」

 

「ラチェット、あなたは玄治のフォローをして頂戴。

 ただでさえ隊長の慣れない総合演出でバタついている今、誰かが欠けることはあってはならないわ」

 

 三人の制止に、ラチェットは考えるように腕を組んでから告げる。

 

「でも状況的にも銀座を中心に何か起こってることは間違いない。

 それなら、今ある資料から銀座に関して調査をするのを任せてもらっていいかしら?」

 

「わかった。ラチェットは資料を漁ってくれ」

 

「これで皆、やることは決まったわね。お昼まで解散しましょう」

 

 やることが決まってそれぞれが動き出し、玄治はラチェットと共に地下へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 玄治がちまちまと衣装を繕いつつ蒸気演算機で事故の現場が次々と映し、その映像を見ながら顔を険しくさせる。それはラチェットも同様で、眉間に皺をよせながら文書をめくっていく。

 

「玄治、少し劇場内を歩いてくるわ・・・」

 

「あぁ、俺も鍛錬室で汗流してくる」

 

 互いに気分転換に立ち上がるのは同時で、部屋を後にする。

 が、玄治が鍛錬室に入る前からサンドバックを叩く音が響いていた。

 

「ん? 花組は舞台稽古だよな?」

 

 連打、連打、連打、ほぼ音が鳴りやまないような拳の合間に鋭い蹴りが入ることで、サンドバッグを吊るしていた鎖が激しく音をたてる。

 

「集中だ集中、隊長があたいにそんなつもりあるわけない。あるわけない、よなぁ!?」

 

 ブツブツと聞き取れない声量で何かを言いながら、どう見ても集中とは程遠いカンナがサンドバッグをぶん殴っていた。

 

「よっ、どうした? カンナ」

 

「玄さん、どうしたんだよ? やることたくさんあんだろ?」

 

「あぁ、俺もラチェットも上手く結果が出てなくて気分転換にな。

 そう言うお前こそどうした? 荒れてるみたいだが」

 

「んー、いや荒れてるっつうか・・・ どうすりゃいいのか、わかんなくてよ」

 

 そこでカンナは連打をやめて椅子に座り、困惑したような顔をしていた。

 

「あのさ、玄さん。

 例えば、思ってもみなかった相手から嬉しいことを言われたら・・・ どうすりゃいいと思う?」

 

「嬉しいことなら喜ぶ一択じゃないのか?」

 

「ほら、棚から牡丹餅落ちて来たって実際はうまく受け取れるかなんてわからないじゃんか。そういう戸惑いがあるっつうかさ」

 

 珍しく歯切れの悪い言い方に玄治も少し考える。

 

「そうだなぁ、俺にとってお前らがそんな存在だからわからんでもないが・・・ ありのままに受け止めるしかないんじゃないか?」

 

「そうだよな、やっぱそれっきゃないよな。

 ・・・なぁ、玄さん。試しにあたいに好きって言ってみてくれよ」

 

「なんでだよ」

 

「いいからいいから、普通に言ってみてくれよ」

 

 突然変なことを言い出すカンナに、玄治は呆れつつもその通りにしてやる。

 

「お前らのことを好きで大切なんて当たり前だろうが。今更言わすなよ」

 

「だよな、やっぱりそうだよな。サンキュ、玄さん。なんか少し答え出た気がする。

 んしっ、気分変えていくぜ」

 

 そう言ってタオルで汗を拭きながら戻っていくカンナを見送って、玄治は首を傾げる。

 

「なんなんだ、一体。

 まぁいいか、鍛錬じゃなく格納庫で光武でも見てくるか」

 

 鍛錬室から階段を降りて格納庫に行けば、光武を前にして頭を抱えている紅蘭を見つけて玄治はまた首を傾げる。

 

「どうした、赤チビ。お前が光武の前で頭を抱えてるなんて珍しい」

 

「玄兄・・・ こんなところで油売ってて平気なん?」

 

「平気ではないが俺もラチェットも上手く結論が出ないと息が詰まる、ラチェットも今頃劇場内をうろうろしてると思うぞ」

 

 徘徊してるように言う玄治の発言に紅蘭が少し笑い、頭を抱えていた腕をそのまま頭の上に伸ばして大きく伸びをする。

 

「玄兄・・・ 相談してもえぇか?」

 

「なんだよ? 改めて」

 

「どんなもんでも対応する万能なネジがあるとするやん? でも、ウチはその万能なネジと直接的にはくっついとらん部品だったんよ」

 

「ほう?」

 

「でも、万能なネジが突然ウチのところにくっついてきたら、玄兄はどうする?」

 

「どうするもくそも、万能なネジが使えるなら使うだろ普通に」

 

 あっさりと答える玄治に紅蘭は変な顔をして溜息をつき、がっくりと肩を落とす。

 

「そうよなぁ・・・ 玄兄はそうよなぁ・・・ 玄兄は周りを固めないと回らん歯車やもんなぁ」

 

「意味がわからんが、お前が俺に喧嘩売ってることはなんとなくわかるぞ。

 相談したいのか、喧嘩売りたいのか、どっちだ」

 

「玄兄に相談したのが間違えとったってことがわかった、っていう話やね」

 

「相談しといて結論がそれって、やっぱり喧嘩売ってるよな?」

 

「そもそも万能なネジがどうしてあんなこと言ったかもわからんから、その辺りを含めてもう少し自分で考えてみるわ」

 

「お前、さっきから俺の話聞いてるか?」

 

「聞いとる聞いとる。喧嘩売ってるつもりはないけど、少し楽になったわ。おおきに、玄兄」

 

 そう言って突然駆けだす紅蘭に玄治が止める間もなく置いて行かれ、玄治は頭を抱える。

 

「・・・あいつらを悩ませる事態なんて、そう数は多くない。まさか大神か?」

 

 そして、不意に浮かんだのは先日聞かれたばかりの結婚の話。

 

「いやいやいや・・・ 流石に言葉足らずの大神でも、演出だって伝えるよな?

 それにそんなこと言われたら、カンナや赤チビよりもとんでもないことになりそうな奴がいっぱいいるだろ」

 

 混乱している二人に対してむしろ堂々としている大神大好きな面々が脳裏に浮かび、嫌な想像が浮かんで首を振って打ち消す。

 

「まさかな、いやそのまさかな。もしそうだったら、帝劇が爆発してもおかしくない事態だし、ないよな?」

 

 もし大神の告白を真に受けた面々が家族に連絡を取ったり、『考えたい』と答えを保留していたら、事態が急激に動くことはない。そしてその上で『自分が大神に選ばれた』と考えていたら、堂々していた理由も説明がつく。

 急激に血の気が引くのを感じて、考えを散らすように首を振って否定する。

 

「信じたくねぇ・・・ でもあり得ないと言えないのがこえぇ・・・」

 

「玄治? そろそろお互い作業に戻りましょう。頭を抱えているけど、どうかした?」

 

「大神が結婚観をあいつら全員に聞いたら、どうなると思う?」

 

 玄治を探していたのだろうラチェットに玄治が問えば、ラチェットは清々しさすら感じるほどの笑顔を作る。

 

「大神隊長が昇進したこともあって、盛大に勘違いするわね」

 

「だよなぁ!? でも俺達がどうにかすることって出来ないよな?」

 

「無理ね。被害が最小限に抑えられるようにマリアが動いたとしても、私達はあなたと既に婚約している身だもの。あの子達が納得するとは思えない。

 一番最悪なバレ方は、大神隊長が全員に聞いているということが言及されることね」

 

「やめろ、こういう時に一番最悪な事態を想定すると実現する」

 

「想定しなかった時よりも対応がしやすくなるなら、想定した方がいいでしょう」

 

 他人事のように・・・ いや、事実他人事なのだがあっさりと言い切るラチェットに玄治の苦悩は消えない。

 

「私とあなたが今考えても事態は好転しないもの。

 それに大神隊長が自ら招いた事態でもあるのだから、しっかり責任を取ってもらいましょう」

 

「・・・ラチェット、実は大神の優柔不断な態度に怒ってたりするのか?」

 

「ふふ、別に怒ってはいないけれど、諦めが悪いとは感じているわね。

 あなたとはまた違うとはいえ、自分から惚れさせるようなことをしておいて責任を取らないのはどうかと思うものでしょう?」

 

「それはそうだが、面子が悪すぎるだろ」

 

「あら? それを言うならすみれなんて二度も見合いを壊されてるわよ? やはり自業自得じゃない?」

 

「それは、そうだよなぁ・・・」

 

 納得するしかなく、ラチェットはそんなこと気にしていないとばかりに玄治の右腕を取って歩き出す。

 

「私達のように決めることを決めてしっかり歩き出せば何も問題ないのだから、大神隊長もそろそろ覚悟を決めるべきだわ」

 

「これ以上言っても俺は言葉に詰まるばかりだから、言い返すのやめとくな」

 

「えぇ、あなたがそうなることもわかって言葉を選んでいるのだから当然ね。

 さて気分も変わったことだし、仕事に戻りましょう」

 

「気分は確かに変わったが、良い方向ではないよな!?」

 

 聞こえないふりをして仕事に戻っていくラチェットとそれに引きずられていく玄治。

そんな二人が想定した最悪の事態は、そう遠くないうちに的中してしまうことは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 大神は帳簿つけを、皆は舞台稽古を行い、昼を食べた後に警報が鳴り響く。

 華撃団全員が指令室に揃い、モニターに浅草・花やしきが出され、紅蘭が何かを察するように目を見開く。

 

「まさか、花やしきの子らが暴走したんか?!」

 

「安心しろ紅蘭、現状怪我人の報告は入ってきてねぇよ」

 

 紅蘭を安心させるように米田が告げても紅蘭の辛そうな表情は変わらず、マリアが大神に提案する。

 

「隊長、部隊を二つに分けましょう。

 私率いる別動隊が市民の避難誘導を、隊長率いる本隊が蒸気機械の暴走を止めに向かいます」

 

「続けてくれ」

 

「はい、本隊は隊長、さくら、アイリス、レニ、織姫。他メンバーが・・・「ちょっ、ちょっと待ってぇな、マリアはん。ウチも本隊であの子らを止めさせてぇな!」あなたの大切な子達を破壊することにもなるかもしれない本隊に、今のあなたを連れて行くのは危険すぎるわ」

 

 冷静なマリアの意見に、紅蘭は助けを求めるように大神と玄治に視線を向けた。

 

「そ、それは・・・ 玄兄も大神はんもなんとか言ってぇな!」

 

「俺もマリアに同意見だ。お前は俺と違ってあいつらを好きすぎる。

 あいつらが誰かを傷つけるところを見ることもきついのに、自分の手で破壊することに耐えられるのか?」

 

「だからや! あの子らが間違ったことをする言うんなら、ウチこそがあの子らを止めなあかん!」

 

「アホか! お前が傷つくことわかってる中で行かせられるか! だったら俺が現場に行ってあいつらを解体してやる!」

 

「玄兄はまた自分を悪者にすればえぇと思っとる! 大体、霊力皆無な玄兄を戦場に出せるわけないやろ!」

 

「霊力なんてなくても問題ない! あいつらを解体するだけなら両腕さえありゃ問題ないんだよ!」

 

「その大事な腕を斬り落としたことあるアホがなんか言っとるわ!」

 

「二人ともよすんだ!」

 

 大神の一喝をもってしても睨み合いを続ける玄治と紅蘭の状況は変わらない。

 

「紅蘭、一緒に行こう」

 

「大神はん!」

 

「大神、正気か!? 今のこいつに冷静な判断が出来るとは思えないぞ!」

 

「隊長、本気ですか?」

 

「大丈夫だ、何かあっても俺達が紅蘭を援護する。

 だから玄治、生身で戦場に出るなんてことはしないでくれ」

 

「状況に進展がない今、俺が直接現場に向かうことを検討することは自然だろうが」

 

「玄治、いい加減にしろ。今は言いあってる場合じゃねぇだろ。

 大神、出撃命令を出せ」

 

「はっ! 帝国華撃団、出撃せよ!

 目的地は浅草・花やしき遊園地だ!」

 

『了解!』

 

 

 

 

 

 大神の号令と出撃を見送り、玄治はモニターを睨みつけている。

 

「玄治、あんまり苛々していると体に悪いわよ」

 

「花やしきの規模で暴走させることが向こうには出来てる。だってのに、こっちは銀座を中心として事件が起こっていることと、例の金粉しか物的証拠がない。

 事態が膠着している以上、今回の戦闘でなんらかの証拠か進展がほしい」

 

「あなたの気持ちはよくわかるわ。

 けれど、あなたに次ぐ技術者である紅蘭の見解が現場で得られることは大きい筈よ」

 

「それはそうだが・・・」

 

「大丈夫、私達には仲間がいるもの。

 紅蘭が止まらなくても大神隊長やさくら達が止めてくれるわ」

 

 アイリスによって防御壁を潜り抜けて扉を開閉する姿を見ながら、玄治は渋い顔は変わらない。

 

「なんだ? あの風船・・・」

 

 大神達が防御壁を二つ潜り抜けた頃、モニターの端に映った風船に玄治が違和感を覚える。

 

「風船? 花やしきにあっても不自然なことではないでしょう?」

 

「普段ならそうだが・・・ このタイミングで風船を飛ばせる人員なんていない筈だ」

 

 玄治の言葉に風船が飛ばされた場所を予想し、その付近をさらに遠隔で確認すると妖力反応を示す警告音が鳴り響く。

 

「ビンゴよ、玄治。風船が飛んだと思われる方角・・・ 花やしき観覧車付近に妖力反応が出たわ」

 

「ラチェットは引き続き妖力反応の調査を!

 鳥組より花組、風組に通達! 花やしき観覧車付近に大型の妖力反応あり! 加えて、不自然な浮遊する風船あり! 警戒せよ!」

 

「こちら花組、了解した。詳しい調査は頼んだぞ、玄治」

 

「風組も了解しました。こちらでは浮遊物体の調査を開始します」

 

 二組の隊長からの返事を聞きつつ、風船を拡大させながら状況を見つめる。

 

「風船が突然割れ始めました。中から何か出ています! 中には・・・ 粉塵? 粉塵状の何かが出てきています!」

 

「まさか、あの金粉か? くそっ! まだ調査しきれてないってのに!」

 

「っ! 紅蘭! 何か飛んでくるわ! 避けなさい!」

 

 風組からの通達と玄治の舌打ち、ラチェットの注意がとんだのはほぼ同時であり、紅蘭の光武が何かにぶつかって尻餅をつく形で倒れた。

 

「赤チビ、応答しろ! 何がぶつかってきたかわかるか!?」

 

「光武へのダメージもない、特に破片が飛んでるようにも見えへん。しいていうなら空気砲がぶつかってきたみたいや」

 

「空気砲・・・? まさか金粉をバラまくためか? なら、あの金粉は・・・ まずい! 赤チビ! 急いで光武を降りろ!」

 

「玄兄、どういうことや? ・・・え? な?!」

 

 脳裏によぎった答えの一つに嫌な予感がして叫ぶが、状況を掴めない紅蘭からの応答が困惑に変わっていく。

 モニターにも紅蘭の乗る光武二式が暴走を始まり、花組本隊の混乱ぶりが通信から聞こえてくる。

 

「堪忍やで、もうこうするしかあらへんのや」

 

「紅蘭、まさかあなた自爆する気!?」

 

 花やしきで暴れる紅蘭機からのその言葉に、大神の制止と玄治の怒号はほぼ同時だった。

 

「自爆なんかやめろ!」

 

「ふざっけんなよ、クソチビ! お前、それでも技師か!」

 

「もうえぇんや、大神はん、玄兄。ウチが自爆したらそれで解決するんや!」

 

 二人の言葉を聞いても自暴自棄になっている紅蘭には響かず、玄治がブチギレながら通信マイクを握るが、それよりも早く花組が紅蘭に声をかかる。

 

「それは違う! 俺達は全員そろって花組だ! 誰が欠けても花組じゃない!」

 

「そうよ、紅蘭。あたし達仲間でしょう! いつだって一緒だったでしょ!」

 

「自爆なんかしたらダメー!」

 

「おい、赤チビ! よく聞け!

 こっちからもお前の光武の解析を始めるが限度がある、お前側から光武の異常が起こってるのがどこかを調べろ! 霊力の数値はどうなってる? 蒸気機関の確認をしろ!」

 

「皆・・・ 玄兄・・・」

 

「お前が一番知ってる光武を諦めんな! 誰かがそいつを変にしたってんなら、原因を探せ!」

 

「そうだよ、紅蘭。俺達が出来ることからやっていこう」

 

「せやな・・・ ウチは一人やないんやったな。

 わかった! ウチは中から暴走の原因を調べる! 大神はん達は被害を押さえてや! 玄兄は今のウチの機体の数値を記録してや!」

 

「任せろっ!」

 

「よしっ! 花組は紅蘭達が原因を見つけるまで花やしきを守るぞ」

 

『了解!』

 

 花組が花やしきを守り、玄治は数値の記録をつけながらも一つずつ確認していく。

 

「霊子水晶は?」

 

「問題ない! でも、霊力の数値が著しく低くなっとる!」

 

「霊力数値を狂わせてるのか? 粉塵が原因なら吸気口は? 蒸気機関に入って誤作動を起こしている可能性は?」

 

「玄兄、あたりや! 蒸気機関が悪さされとる!

 大神はん! 蒸気機関をウチの光武からはずすんや!」

 

「わかった! レニ!」

 

「了解」

 

 二つ返事で紅蘭機から蒸気機関が切り離され、無事紅蘭機が思った通りに動くのを確認して玄治も肩をなでおろす。

 

「皆、大型妖力反応が近づいているわ!」

 

「あ、あの中に何かいます!」

 

 が、そんな暇は与えられないとばかりにラチェットの注意と、さくらが花やしき上空を指さす。

 

「あいつがウチの光武や花やしきを暴走させた張本人やな、許さへんでぇ」

 

 怒りを露にする紅蘭の前に、菱形に腕をつけたような上半身と四足の馬のような蹄を持った魔操機兵が後ろ足で立ち上がる。そして頭部とおぼしき菱形中央には赤い特徴的な面がついており、玄治はその面に奇妙な懐かしさを覚えていた。

 

「・・・なんだ? あれは」

 

「花組本隊は大型魔操機兵との戦闘に移る!」

 

 蒸鬼三体を引き連れた大型魔操機兵と花組が戦闘に移る中、分隊であるマリア達が避難誘導を終了した報告が作戦指令室に告げられ、そのまま本隊に合流することが告げられる。

 

「あの面は・・・ 能の面か?」

 

「日本の文化、能面ね。

 でも、それがいったい何の関係が・・・」

 

 ラチェットと思考に移っていく中、玄治の頭がズキリッと痛んで額に手を当てる。

 

「玄治、どうしたの?」

 

「いや、頭が・・・」

 

 そう言いながら脳裏に映ったのは面を被って舞い踊る誰かの姿、ゆったりとした着物を纏って、扇子を持った誰かが玄治へと手を伸ばしてくる。

 

『見つけた・・・ 我が末裔(すえ)よ・・・』

 

 その映像と重なるように黒い着物を着た仮面の男が現れ、玄治は鈍い痛みに我に返る。

 

「・・・治! しっかりしなさい! 玄治!」

 

「あ、あぁ・・・ すまん、大丈夫だ」

 

 そこでようやく玄治は自分が倒れたことに気づき、ラチェットの呼ぶ声に我に返った。

 

「どこも大丈夫じゃないわ。

 ひどい汗よ、やっぱり連日の仕事で体調を崩しているでしょう」

 

「いや・・・ 今、変な映像? 光景が、頭をよぎって・・・」

 

 そこでやはり頭がズキリッと痛み、再び頭を押さえる。

 

「無理に立ち上がろうとしない方がいいわ、今は私に任せて楽になるまでしゃがんでいて」

 

「あぁ、すまん」

 

 そんなやり取りをしている時、大神達が大型魔操機兵『シカミ』を倒したところであった。

 が、安心したのも束の間突然シカミが体を起こし、金色の蒸気を吐き出していく。

 

「まずい! もし、さっきの予想が正しければこのままじゃ全員の光武が・・・!」

 

 玄治の言葉通りに大神機らが棒立ちの状態となり、暴走が始まる可能性に鳥組が出撃しようとした瞬間、シカミを一発の弾丸が撃ち抜いた。

 

「マリアからの援護が入ったわよ、玄治。刀を置きなさい」

 

「そういうラチェットもナイフ片せよ」

 

 モニターまでどうにか体を起こした玄治が見たのは音もなく、沈むように逃走するシカミと大神達の元に駆け寄る別動隊だった。

 

「こりゃ隊長達集めての緊急会議になるかもな」

 

「でも、事態は進展したわ。

 大型魔操機兵の登場も、謎の金粉もようやく掴めた手掛かりよ」

 

「そうだな・・・ あとは加山の仕事に期待するしかないな」

 

「あとは帰還した光武の調査をしないとね」

 

「だな、それに能面の方もな」

 

 花組が勝利のポーズを決めている中、月組と鳥組はさらなる任務に就くのであった。

 

 




玄兄の料理って 誰かに教わったんかな?
玄さん 何でも出来っからなぁ でも何かしらは手本にしてんじゃね?
高砂を見に行こうなんて 大神さんってば本気で結婚のことを考えてるんですね
次回 『高砂と思い出の味』
太正桜に浪漫の嵐!
能 か・・・ なんでこんな懐かしい気持ちになるんだろうな
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