サクラ大戦 貴水玄治物語   作:無月

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③高砂と思い出の味

 次の日、大神と加山、そして玄治という各部隊の隊長が揃って支配人室に呼び出されていた。

 

「先日の戦闘現場にはシカミの破片は見つからず、能面だけが残されていました。

 また大神が採取していた金粉と今回の金粉は一致し、同様に他の事件事故の蒸気機関からも検出されました」

 

「玄治、お前からは何かあるか?」

 

「金粉から検出された妖力反応から妖力の性質が出ました。結果は『霊力の吸収』、これにより霊力が一番低い紅蘭機が最初に暴走したのだと思われます」

 

 加山と玄治の報告に米田が顔をしかめる。

 

「そいつは厄介だなぁ。

 お前ら、暴走を抑える方法は何か思いつくか?」

 

「そうですね・・・ 蒸気機関に金粉が入らなければいいのでは?」

 

「おいおい、大神。そんな単純なことか?」

 

 想定外の大神の単純な思考に米田が驚くが、そこに加山が止めに入る。

 

「ですが司令、大神の意見は案外的を射ているかもしれません。

 全ての蒸気機関から採取された結果から見れば、金粉さえ入らなければ暴走しない可能性は高いです」

 

「それなら俺は蒸気機関につけるフィルターを作ればいいんだな」

 

「その通りだ。ただ懸念もあります。

 高い霊力を持っている大神達でさえ、霊力が零になるまで二時間もかかりませんでした。もし相手が濃度や量を増やして来た場合を考えると、戦闘が長引くのは暴走の危険が高まります」

 

「・・・蒸気機関を使わないってわけにはいかない、それこそ天武をまた引っ張り出すのもありでは?」

 

「天武でも蒸気機関は使ってるだろ、今の光武と結果は変わらねぇ。むしろ都市エネルギーまで暴走したら被害はよりひどいもんになりやがる。それに今の帝都に蒸気機関を使わない生活なんて不可能だ。

 そうなると大神が言った案が現実的か・・・」

 

 米田の言葉が結論となり、引き続き調査するように告げられる。そして、三人で支配人室を出れば玄治は溜息を零し、加山は二人の肩に飛びつくようにしてじゃれついてくる。

 

「大神、玄治、花組にはまだ話すなよ。

 わからないことが多すぎる、無駄に不安がらせることはない」

 

「わかってるよ、加山。

 玄治、フィルターの件は任せたよ。加山は現地調査を頼む」

 

「あぁ、わかった。

 蒸気機関を使わない方法もこっちで何か出来ないか考えてみる」

 

「玄治ぃ、あんまり慌てるなって。

 古人曰く『急いては事を仕損じる』だ、彼女達にもお前達にも休養は必要だろ?」

 

「いや、俺は・・・」

 

 すぐに地下に戻ろうとする玄治を加山が引き止め、『高砂』と書かれた何かのチケットを出してくる。

 

「たまには気分を変えないとな、今回発見された面のことも実際に触れてみたらわかることもあるかもしれないぜ?」

 

「加山・・・ ありがたく受け取っておくよ。

 玄治、ラチェットから倒れたことも聞いてる。頼むから少しは休んでくれよ」

 

「体調不良とはなんか違う気がするんだよなぁ。

 徹夜もしてないし、休憩だってマメにとってるんだが・・・」

 

 そう言って首を傾げる玄治に、大神はさらに心配そうに言葉を続ける。

 

「気づいてない疲労なら尚更大変だ。最悪、医者にかかった方がいいんじゃないか?」

 

「大神、お前は俺に対して過保護すぎやしないか。

 大体、この帝劇にはそこらの医者よりよっぽど優秀な医療機器があるだろうが」

 

「それだって万能じゃないんだ。心配ぐらいさせてくれよ」

 

「オオガミー! ゲンジ! カヤマー!」

 

 中庭から三人の方へと突撃をかましてきたアルセーヌを、玄治が慣れた手つきで腕に誘導すれば、加山はその混乱に紛れて『アデュー、大神、玄治』と言って去っていく。

 

「おう、アル。ラチェットは見かけたか?」

 

「ブタイ、ミテクル!」

 

「そうか・・・ 俺も行くかぁ、実際に着て動いて支障ないか確認もしたいし」

 

「じゃぁ、一緒に行こう。

 稽古がちょうどいい所だったら、休憩を兼ねて皆で能を見に行こう」

 

「だな。

 悪いな、アル。最近かまってやれてなくて」

 

「フント、アソブ、タノシイ! ワンッ、ワワンッ!」

 

 フントの影響があるのか、犬そっくりに声真似する大神が目を丸くする。

 

「アルセーヌに舞台を見せたら、凄いことになりそうだな」

 

「いや、多分台詞だけ覚えるのは無理だぞ。こいつ、効果音もそっくり再現するからな」

 

 アルセーヌを中庭に戻してから衣装部屋と楽屋を通り過ぎて舞台袖に向かえば、大神の姿に嬉しそうにさくらが話しかけ、すみれの注意が飛ぶ。そんな中で玄治が舞台へと視線を向ければマリアが演じるジャンが織姫の演じる神父によって救済されるシーンを練習していた。

 

「しかし、正しい道を説くのに物で吊るというのはどうなのでしょう?」

 

「そりゃそうだけどよ、変に言葉だけってよりよっぽど効果があると思うぜ。あたいなら燭台を見るたびに司教のことを思い出すだろうな」

 

「中尉や貴さんならどうします?」

 

「俺、金に困ったことないからなぁ・・・」

 

「貴さんに聞いた私が愚かでしたわね」

 

 すみれに溜息をつかれつつ、さくらが改めて大神に問うた。

 

「大神さんはどうしますか?」

 

「俺ならそうだな・・・ 熱い魂で改心させるな」

 

「ホンマ、大神はんやなぁ。まぁ大切なんは相手を改心させることなんやから、その人に合うやり方で改心させたらえぇんやない?」

 

 大神の意見を紅蘭がまとめれば、レニが口を開いた。

 

「物には人の気持ちが宿る。燭台は司教のジャンへの許しの形。だからジャンは物ではなく、司教の気持ちを受け取ったんだ。

 僕にはわかる、僕もアイリスから花冠やハカセから櫛をもらったから」

 

「うん、アイリスね、レニを大切に想って作ったんだよ」

 

「・・・あぁ、そうだな。俺も先生やマリア達から大切な物を貰ったからな」

 

 言葉と共にレニの頭を撫でれば、レニが頬を赤くして、懐から櫛を出してくる。

 

「大切にしてるよ、とても」

 

「俺も大切にしてるぞ、お前達からもらったからな」

 

 ポケットの中から懐中時計を出せば、二人でニコニコしてしまう。そんな中でアイリスが大神の手にあるチケットに気づき、聞いてくる。

 

「お兄ちゃん、何持ってるの?」

 

「あぁ、加山から貰ったんだ。皆でこの後見に行こうと思ってね」

 

「あら、お能? 優雅ですわね」

 

 大神がアイリス達に伝えてる間に、玄治が一段落したマリア達に腕をあげれば現場監督のように演技を見ていたラチェットが応えるように手を挙げた。

 

「この後全員で能を見に行くぞ! こっちの片付けやっとくから着替えて来い!」

 

「わかったわ!」

 

 マリアの返事を聞いてから、まだ大神とじゃれ合っている面々を急かす。

 

「ほれ、さくら達もさっさと着替えてこい。ここの片づけは俺と大神がやっとくから」

 

『はーい』

 

 珍しく素直に頷く花組の準備を待ってから、全員で玄関に集合してから能の会場へ向かっている中、ずらりと並ぶ花組の舞台役者達を見て玄治はおもわず声を漏らす。

 

「うわっ・・・」

 

「うわってなんですか、玄治兄さん」

 

「いや、改めてお前らと並ぶと目立つなって・・・」

 

「それを日本人離れした身長をもつ貴さんがいいますの?」

 

 色とりどりという言葉がふさわしいほどまとまりのない普段着は洋服から着物、ドレスにスーツ、チャイナドレスと勢揃いしており、そこに軍人であることを隠さない大神の姿勢の良さと日本人離れした体格を持つ玄治という悪目立ち集団である。

 

「人目なんて気にしていたら行動出来ないわ、気にせず行きましょう」

 

「ラチェット、ファンが見ているかもしれないのだから腕を組むのはやめなさい」

 

「あら残念。けれど、あなたもファンから高価な贈り物されたじゃない? あれはどうしたの?」

 

 マリアがやんわりと注意すれば、ラチェットは嬉々としてとっておきのネタを披露してきた。

 

「おいマリア、それは俺初耳だぞ」

 

「話をそらさないで頂戴。玄治、丁寧に手紙を添えてお返ししたから、心配は不要よ。

 それに私達が高価な贈り物をされるのは珍しいことじゃないでしょう。すみれも依然、ダイアの指輪を贈られてきたのだから」

 

「あれはもはや一周回ってギャグだろ」

 

「ちょいと貴さん、人の贈り物をギャグ扱いとはどういうことですの?」

 

 聞き捨てならないとすみれが突っかかってくるが玄治はそのまま打ち返す。

 

「舞台に合わせた贈り物なんざギャグ以外のなんだっつの。

 しかもあれ、ダイアを見せつけてきた男のせいで恋人同士だった奴と喧嘩別れする話じゃねぇか。お前らの歌と舞台上での喧嘩も相まって、悲恋物ってより喜劇になっちまっただろ」

 

「あれはそこのゴリラが私の顔を蹴ったからですわ!」

 

「それはそこの蛇女が台詞にない戯言言い出したからだろ!」

 

 二人が言い合いになろうとしたところで大神と玄治が引きはがしつつ、ようやく能の会場に辿り着き、チケットを渡してから会場の中に入っていく。さくらとすみれが再びじゃれ合うのを見ながら玄治は何故か、その空間に妙な懐かしさを覚えていた。

 

「今回の舞台は『高砂』なのですね」

 

「結婚式の時に舞う、あの高砂ですか?」

 

「夫婦がいつまでも仲良くいられることを願う舞ですねー」

 

 意外と博識な織姫が説明するも玄治も何故か自然とわかり、誰かの舞う姿が脳裏をかすめていく。

 

「大神さん、どうして能の演目に『高砂』を選んだんですか?」

 

 頬を赤らめながら聞くさくらに大神は照れもせずに。

 

「あぁ、実は結婚に興味があるんだ」

 

 その発言に口々に花組が同意を示している中、玄治の違和感に気づいたマリアが裾を引く。

 

「玄治、どうかした?」

 

「いや、妙な懐かしさを覚えてな。能なんて初めて見るっていうのに変だよな、こんなの」

 

「そう・・・」

 

 笑って気のせいだと誤魔化そうとしても、マリアの心配そうな表情が変わらなかった。

 そんな中室内が暗くなり、能が始まろうとしている。怯えるアイリスをマリアが安心させながら、織姫がさらに説明する。

 

「いわゆる『幽玄』ですねー。能の舞台はあの世とこの世を繋ぐ橋と言われてまーす。

 もしかしたら、お化けぐらいは出るかもしれませんねぇ」

 

 そう言って脅かしてみせればアイリスは見事に怯え、大神達が『大丈夫だよ』と安心させて手を繋ぐと何故か反対側をさくらに繋がれて三人揃って仲良しこよしの状態になっていた。

 そうこうしていると能が始まり、玄治は能の舞台を吸い込まれるように見つめていると何故か視界に靄がかかっていく。

 

 

 

 

 人のため、街のために生きる一人の男がいた。

 持って生まれた才を生かして財を得て、自らの力で得た財を貯めこまずに人々の繁栄のために使い、街を豊かにしていった。

 だが、人々は男を裏切った。

 力を持ちすぎた男を人々は恐れ、裏切り、無念のままに男は亡くなっていく。だが、男は死の間際、己の伴侶と子を持てる全ての力を持って逃がし涙ながらに願っていた。

 

『生きよ、我が愛しき者よ・・・』

 

 

 

 

 気づけば玄治の目からは涙があふれ、マリアが静かにハンカチを渡してきた。ハンカチを受け取りながら、止まらない涙に違和感を覚える。

 

「素晴らしかったですわね」

 

「この世の物とは思えませんでしたねー。やっぱり良いものはいいでーす」

 

 二人が褒めたたえてる中で、マリアが舞台の方を指さした。

 

「隊長、能面を見せてもらってきてもいいですか?」

 

「俺も行くかな、なんか妙に惹かれるんだよな」

 

「アイリス、早く帰りたい・・・」

 

 興味を持っている面々に対し、アイリスだけは見る前と変わらず何故か怯え切っていた。

 

「ウチも興味あるなぁ、あの面は職人芸やわぁ」

 

「俺も興味あるし、少しだけいいかな? アイリス」

 

「うん・・・ でも、早く帰ろうね」

 

 解放されている能楽師達の楽屋に向かえば、実際に能面に触れることが出来た。

 

「これが能面、か・・・ 案外種類があるんだな」

 

 ズラリと並んだ面を興味津々に眺めていると、レニとマリアが説明を始める。

 

「能楽師が被ることで能面の命が能楽師に伝わり、幽玄の世界が広がると言われている」

 

「さくら、知ってる?

 『能』は神様の踊りだった。神を演じることで鎮めたり、称えたりしていたのよ」

 

「神楽舞、ですよね。

 お正月に近所の神社で能楽師さん達が舞っていました」

 

「そう、能楽師はこの世とあの世を繋ぐ特別な人と考えられていた。

 かつて銀座にも金春流という一派があったそうよ」

 

「その金春さんが銀座の神様を鎮めていたんですね」

 

「えぇ、そうかもしれないわね」

 

「金春流・・・」

 

 マリアとさくらを聞きながら、玄治は無意識に流派の名を呟いていた。

 

「なぁマリア、その金春流がいつまで存在したかわかるか?」

 

「さぁ、そこまではわからないけれど・・・ 私も踊りのことを調べていく中で知ったから詳しく調べればわかると思うわ」

 

「いや・・・ なんか妙に気になるんだよ」

 

「そういえば、あの魔操機兵も面をつけていたわね」

 

「そうだな、何か関係あるかもしれないな」

 

 一連の事件との繋がりを察するマリアと大神に対し、玄治は心ここにあらずで能面や能楽師の物を見つめていると、カンナに背中を叩かれた。

 

「おい、玄さん。そろそろ帰ろうぜ! 夕飯の準備、しっかり頼むぜ!」

 

「あ、あぁ・・・ そうだな。そろそろ帰らないとな」

 

 我に返った玄治は大神達と共に帝劇へと帰るのであった。

 

 

 

 

 

 劇場の玄関でマリアが『稽古は夕食後から』と言って解散させれば、アイリスがレニに夕飯のメニューを聞いている。

 

「レニ、今日の夕飯なんだっけ?」

 

「肉じゃが」

 

「アイリス、おじちゃんの肉じゃが大好きー!

 てことは、今日の夕飯は和食?」

 

「肉じゃがには関西と関東で味が違うのもそうだけど、家庭によって具材が違う」

 

「どう違うの?」

 

「基本的には同じだけど、明確な違いは肉の種類。関西では牛肉、関東では豚肉を使ってる」

 

「おじちゃんのは豚肉とシラタキとジャガイモとタマネギ、キヌサヤだよね。

 ねー、おじちゃんは肉じゃが誰に教わったの?」

 

 アイリスの素朴な疑問が玄治に向けられ、少し考える素振りをしてから正直に答える。

 

「料理を教わったわけじゃないが、具材はあやめさんが昔作ってくれた肉じゃがを元にしてるな。味付けも似せてるつもりなんだが・・・ どうしてだろうな、未だに再現できた気がしない」

 

「じゃぁ玄治にとってのお袋の味はあやめさんの料理なんだな、正直少し羨ましいよ」

 

「本当のお袋さんがいる贅沢もんが何言ってんだ」

 

 アホを言ってる大神を軽く小突けば、当の大神は明るく笑ってた。

 

「ハハッ、もうすっかり玄治の味に慣れきってるからなぁ。でも、かえでさんに味見してもらってみるのもいいんじゃないか?」

 

「そうだな・・・ そうしてみるか」

 

 そんなことを言いながら夕飯の支度に入ろうと玄治と部屋に戻ろうとした大神が売店を横切ろうとした時、椿に声をかけられた。

 

「貴水さん、大神さん、お客さんが来てますよ」

 

「お客って・・・ 玄治、誰かとの対談とかあったのか?」

 

「あったら能なんて見に行かねーよ。大体、俺と対談の約束するような相手ならわざわざ劇場に来るような殊勝な奴なんかいない」

 

「それもそうか。椿ちゃん、お客さんって誰だい?」

 

「それは行ってからのお楽しみということで」

 

 嬉しそうに笑って教えてくれない椿に玄治は警戒しながら、大神はドキドキしながら食堂に向かえば、突然の空を切る音と共に鎖が鳴る音に二人は同時に対応する。

 

「よっ、元気だったか」

 

「よぉ、ロベリア」

 

 後ろから抱き着いてきたロベリアを好きにさせながら、ロベリアは嬉しそうに笑いながら腕輪がついたままの右腕に絡みついてくる。

 

「相変わらずいい男ぶりだな、アンタは」

 

「そりゃどうも。

 でもお前、俺を盗みに来るの速すぎじゃないか? そんなに会いたかったのかよ?」

 

「そりゃそうだろうよ、アンタや隊長みたいな男そうそう居やしない。

 それにアンタのおかげでお務めなしの自由の身だからね、どうせなら海の向こうの景色も見てみたかったのさ」

 

「そうか。

 で、本当のところは?」

 

 ロベリアから目を逸らして、ナイフとフォークでグリシーヌの戦斧を受け止めている大神に視線をやれば背後でロベリアが笑う。

 

「あいつ一人じゃ不安なんだとさ。

 けど他の奴らは譲り合って話にならなくてね、最終的にはアタシとあいつになったわけさ」

 

「よくもまぁ仲の悪いお前らに渡航許可が下りたと思ったら、そういうことか」

 

 遠慮し合う三人の姿が容易に想像でき、玄治は溜息を零していると大神が情けない声を出す。

 

「げ、玄治、納得してないで助けてくれよ」

 

「そのナイフとフォークはお前の給与から差っ引いとくな」

 

「戦斧を受け止めても壊れないんだから、弁償する必要ないだろ!?」

 

「それに俺、この後夕飯の準備あるから忙しいのわかってるだろ」

 

「それはそうだけども!」

 

「久しいな、ドクトル貴水。

 相変わらず覇気のない顔をしているな」

 

「久しぶりだな、グリシーヌ。

 相変わらず偉そうで凶暴だな」

 

 挨拶だというのにお互いニコニコしながら言いあう二人に、ロベリアは笑うが通りかかった花組の面々は突然来訪した二人を見て目を丸くする。

 

「ロベリア、グリシーヌ、どうしてここに?」

 

 マリアが代表して問えば、グリシーヌとロベリアが応える。

 

「そりゃ、愛しの男がいる街に来るのに理由なんざいらないだろ? 盗みに来たのさ、この最高の宝をね」

 

「あなたが玄治を好きだと思うのは自由だけれど、独占出来るような人じゃないこともわかっているでしょう? この人を一人で抱え込める人間なんていないわよ」

 

「わかってるさ、アタシらのものだろ?」

 

「わかってるならいい。

 ハカセは夕食の準備がある。解放を」

 

 ラチェットとレニの言葉にロベリアが両腕をあげて玄治を解放し、グリシーヌが前に出る。

 

「私も隊長を・・・ と言いたいところだが、それだけのために来たわけではない。グラン・マと迫水大使からミスター米田に手紙を預かっている。支配人室はどこか」

 

 あわや一触即発の大騒動になりかけたところが寸前で回避され、大神がグリシーヌとロベリアを支配人室へと連れて行けば、玄治は肩を回す。

 

「さぁて、肉じゃが作るとするかぁ」

 

「ちょっ・・・ 玄治兄さん、グリシーヌさんと仲が悪すぎることはいいんですか?」

 

「あー? 俺とあいつの関係はずっとこんなもんだったぞ。つうか前に比べりゃまだマシになった方だぞ?」

 

 コックコートを纏いつつ、下準備していた材料を引っ張り出しつつ野菜と肉を炒めていく。

 

「それにしても言葉が辛辣過ぎてびっくりしましたー。ドットーレ、なにかしたんですか?」

 

「俺はしてない。ヒントは欧州大戦、貴族の出兵」

 

「それほぼ答えやんけ!」

 

 その単語だけで意味を理解するのは紅蘭と元星組、加えて事情を知っているマリアぐらいなもので、他の面々は意味がわからないとばかりに首を傾げた。

 

「まぁ、とにかく馬が合わないやつもいるってことさ。別に嫌いあってるわけじゃないからあんま気にすんな」

 

「でも、そんな昔のことおじちゃんたち同士は関係ないじゃん」

 

「本当ならな。でも、お互いに譲り受けたものがある以上、割り切れるもんでもないんだよ。

 あとあいつ、大神大好きだからな。ロベリアが大神と俺を比べてんのも気に入らねーんだろ」

 

 その言葉に意味を理解してなかった面々も合点がいったようで頷いた。

 

「確かに中尉と貴さんを比べられては、あんな悪態もつきたくなりますわね」

 

「でもよぉ、それって狼と鷹どっちが強いかって比べるくらい意味ないことじゃねーか?」

 

「そうそう、そもそも同じ土俵に立ってないですよね」

 

 すみれ、カンナ、さくらの何気に失礼な発言を聞き流しつつ、料理を進めていれば食堂が静かになったので顔をあげてみれば騒がしい連中は揃って立ち聞きに言ったらしく、食堂にはマリア達が玄治の料理風景を眺めているのみだった。

 

「なんだ、あいつらまた立ち聞きにでも行ったのか」

 

「えぇ、気になるんでしょうね。巴里から大神隊長を想う存在が来たことが」

 

「予想出来てたくせにあいつらも諦め悪いよなぁ。

 大神のことを好きにならなかったら、それはそれで正気を疑うだろうに」

 

「でも、僕らもロベリアが来るのは想定外だった」

 

「そうか? まぁあいつ、グリシーヌともコクリコともあんまり仲が良くないからなぁ。他の奴のがよっぽど可能性は高かったよな」

 

 どこかずれた玄治の答えに三人がため息を零すが、玄治は後は味が染みるのを待つだけの肉じゃがを火を止めてから鍋に蓋をして他の副菜があることを確認してからコックコートを脱いだ。

 

「それよりも気になるのはグラン・マと迫水大使の手紙だな。あの人達のことだ、もしかしたらもう銀座の状況を知っているのかもしれない」

 

「そうだとしたら、あの二人が来たのは私達への助力のため?」

 

「それが妥当なところだろ。

 まぁ詳しくは今から通信してみるか」

 

「シャノワールに?」

 

「いや、俺の自宅にな。向こうはもう夜だろうから、誰かしらはいるだろ」

 

 玄治の言葉に三人も頷いてついて来ようとするが『やることあるならそっち行っていいぞ』と言っても、三人は首を振って同行を希望した。

 

「そういえば、ロベリアとグリシーヌの部屋はどうするつもりなんだろうな?」

 

 ふと思い浮かんだ疑問にマリアがさらっと答える。

 

「流石に宿泊施設を準備しているでしょう」

 

「俺が巴里でそう思ってたお前らがホテル予約してたか?」

 

「・・・ロベリアは私の部屋で引き取るわ」

 

「じゃ、グリシーヌは織姫かすみれの部屋にでも押し込んどけ」

 

「部屋の割り振りはかえでさんにも相談しておく」

 

 マリアがすぐにロベリアを自室で寝かすことを決め、玄治がとんでもない割り振りをしようとしたところをレニがすぐに相談することを伝える。

 

「まぁ最悪、俺の部屋で寝かしてもいいけどな。ソファもあるし、俺は床でも椅子でも寝れる。あとは医務室のベッド使うとかな」

 

「あなたの部屋を許したら、ロベリアがあなたを襲いかねないから却下するわ」

 

「それをあなたが言うのね、ラチェット」

 

「マリアも考えたから自分の部屋で引き取るなんて言い出したんでしょう? お互い様じゃない」

 

 どこか挑発的なやりとりをする二人の間にレニが立ち、玄治も笑って間に立つ。

 

「二人とも、落ち着いて」

 

「襲われて好きにされるような俺じゃないってことはわかってるだろ、それにそういうのは・・・ ちゃんと責任取ってからだ」

 

「あなたのその真面目さにつけこみかねないのがロベリアよ、油断はならないわ」

 

 ラチェットが鼻息を荒くしていうので玄治は『どーどー』と落ち着かせつつ、部屋に到着してモニターをつける。

 しばらくの通信音を響かせていれば、『はいはーい』と軽い返事が聞こえてから画像が映る。

 

「あっ、ゲンジさん! なんだかこうして通信するの、久しぶりですね!」

 

「あぁ、ここのところずっと忙しかったからな。そっちにも毎日通信とはいかなくなってた。悪かったな、エリカ」

 

「いいんです。今こうやって通信してくれますもん。それにトーキョーが大変なことは巴里でもグラン・マと迫水大使から聞いてますから」

 

「やっぱり、そっちにも伝わってるか。

 悪いな、巴里も暇じゃないのに二人もこっちに向かわせてて」

 

「もうゲンジさん、悪いことは何もしてないんですから謝るのはやめてください」

 

「あぁそうだな・・・ ありがとう」

 

 玄治が感謝を告げればエリカの顔を満面の笑みに変わり、通信に気づいたらしい花火も部屋に入ってくる。

 

「玄治さん・・・! それにマリアさん、ラチェットさん、レニさんまで東京で何か起こったんですか!?」

 

「よっ、花火。久しぶり。

 いや、こっちにロベリアとグリシーヌが到着したことを伝えるついでに、そっちとの情報共有したくてな」

 

「それならシャノワールと迫水大使とも通信をお繋ぎしますね」

 

 状況を理解した花火が慣れた手つきでモニターを作動させれば、そこにはメルと迫水大使が映った。

 

「よっ、メル。久しぶり」

 

「貴水さん・・・ お久し振りです。どうかなさいましたか?」

 

「いや、ロベリア達が到着したことと情報共有をな。

 さて迫水大使、キリキリ吐け」

 

「君は本当に大神くんと比べると態度が悪いね」

 

 溜息をつきながらそんなことを言う迫水にも、玄治は一切気を遣う気はない。

 

「生憎、俺とアンタは大神と違って上司と部下の関係じゃないんでね。

 で、単刀直入に聞こう。アンタは何を知ってる?」

 

「君に詰問されるのが嫌だから手紙を託したんだけどなぁ。

 貴水くん、『銀座文書』という書物のことは知っているかね?」

 

「聞いたことないな、その文書はざっくり言うとなんだ?」

 

「銀座の成り立ち、江戸の繁栄について書かれた書物だよ。

 銀座には巨大な封印が施されている、それもある一人の男の怨霊を封じるためだけにね。それについて詳しく書かれているんだ」

 

「ほーぅ。その文書を知っているにもかかわらず、上層部が俺にも明らかにしてこなかった理由はなんだ?」

 

「そう怖い顔をしないでほしい、貴水くん。

 銀座文書の重要性と機密保持のためもあるが、かつて銀座を鎮めていた一族が途絶えたことも関係しているんだよ」

 

「いい加減上層部の膿を出しきれ、そう出来ないなら俺がそろそろ直接手を下すぞ」

 

「怖いことを言わないでくれ、貴水くん。

 君の大切なものには手を出さないようにしているだろう?」

 

「お前らの判断が信用ならないと言っている。

 これ以上、情報を小出しにするようならこちらにもやり方はいくらでもある」

 

 どこか緊張感の漂う空気に、迫水も言葉に詰まったらしく何かを考えるように腕を組んだ。

 

「これがあやめくんの判断だと聞いてもかい?」

 

「それは俺の言葉をはぐらかすために口にしていた場合、どうなるかわかってのことか?」

 

 そこで玄治が目を見開き、画面越しにも伝わるほどの殺気を放つ。

 

「玄治、落ち着きなさい」

 

 だが、そう言っているマリアも視線は厳しくなっており、どこか怒りを孕んでいた。

 それほどまでにあやめの名は、軽々しく語っていいものではないのだ。

 

「ゲンジさん」

 

「エリカ、なん「私達を信じてください、ゲンジさん。迫水大使も、私達の仲間ですよ」 それはそう、だが・・・」

 

 エリカの言葉に玄治の表情が崩れ、花火も画面越しに頷く。

 

「迫水大使は故人の名を軽々しく語るような方ではありません。

 もしそうだった場合、ここにいる全員が証人になりますので玄治さんのお好きなように」

 

「・・・お前達がそこまで言うなら今は引き下がろう。

 あやめさんの判断というのがどういうことかは、説明できるのか?」

 

「彼女は未来を見通していた、といえば君には全てが通じるだろう?」

 

 迫水の言葉に玄治の目が再び見開かれ、行き場のない感情から拳を固く握りしめる。

 

「事実なら遺言書も同然もそれを何故お前らが持っている? 賢人機関」

 

「それほどまでの機密情報だからだよ、貴水くん」

 

「お前らがその情報を抱えて検閲に制限かけていること自体が、気に入らねぇっつってんだよ!」

 

 怒鳴る玄治にも迫水大使は覚悟していたのだろう、黙って言葉をうけとめていた。

 

「玄治、落ち着きなさい」

 

「マリアもだ。感情的になるなんてらしくない」

 

「私と玄治にとって、人生を変えてくれた恩人があやめだわ。

 その恩人の言葉を、残した文書を何故隠されなければならないのか。頭では冷静に納得できていても、感情が収まらないのよ」

 

「今はこれ以上、僕から説明できることはない。失礼するよ、貴水くん」

 

 そう言って通信から迫水が消え、エリカが明るく笑いかける。

 

「ゲンジさん、私達は今、あなたの傍には居ませんけど・・・ ほら、右手見てください」

 

 エリカに言われるがままに右腕を見ればそこにはメル達から送られた腕輪があり、左手でそれに触れる。

 

「玄治さん、私達は巴里にいますが、この心は常にあなたと共にあります。だから、あなたは私達の前では我慢なんてしないでください」

 

 花火の言葉に、玄治は椅子に体を預けて上を見る。そして、息を吐き出しながらつぶやく。

 

「あー・・・ 上層部を悉く斬り殺してぇ・・・」

 

『それはいけません(駄目よ)

 

「我慢しなくていいって言ったのに一斉に反対するのやめてくれ、傷つく」

 

「そうだぜぇ、玄治。いくらお前であっても、国家反逆罪に問われたら俺達じゃ庇いきれないぞぉ?」

 

 ギターの音と共に突然現れた加山に玄治だけが驚きもせずに目を合わせれば、完全にやる気を失っている自分が映って体を戻して再びため息を零す。

 

「あやめさんの件は今は置いておこう・・・ まずは銀座文書だ。で、お前が取りに行ってきてくれるんだろうな? 加山」

 

「おうとも! 花組と鳥組のかゆいところまで手が届く、そのための月組だからな」

 

 得意げな顔をする加山を放っておき、玄治は掛けてある作業着の上着に手を伸ばす。

 

「俺はその間に趣味を片付けてくる」

 

「趣味というにはあまりにも物騒すぎるあれ、本気で打ち上げる気か?」

 

「当然だ、そのためにかすみやメルに異動の話まで持っていったんだ。

 それにあれが出来上がれば、計画にもいろいろと都合がつく」

 

「早ければあと一週間、でしたよね。ふふっ、楽しみです」

 

 嬉しそうに笑うメルにエリカが力強く頷く。

 

「早く完成させてくださいね、ゲンジさん。

 私、早く空を飛んでみたいです」

 

「おいおい、何度か飛んでるだろ?」

 

「光武じゃ飛べない高さから世界を見てみたいんですよ。

 それにゲンジさん達とならきっとどこでも楽しいですから」

 

「フフッ、そうね。皆となら世界中どこでも楽しいでしょうね」

 

 マリアもようやく笑顔になり、その様子にラチェットとレニが肩をなでおろしながら同意する。

 

「そうね、それならアメリカはどう? アメリカなら私が案内出来るわ」

 

「織姫の故郷、イタリアもいいかもしれない。本場のピッツァやチーズが自慢だって織姫が言っていた」

 

「北欧やカナダに行ってオーロラを見るのも素敵ですよね。陽が沈まない日や、陽が昇らない日を経験するのはいかがでしょう?」

 

「陽が沈まない日なんてあるんですか?! エリカ、とっても気になります! 詳しく聞かせてください、メルさん!」

 

 メルの言葉にエリカが食いつき、その様子を幸せそうに眺める玄治を加山が小突いてくる。

 

「幸せ者だなぁ、玄治。こんなに魅力的な嫁さんがいて」

 

「羨ましいだろ、お前も早く見つけてこい」

 

「くっそ羨ましい! でも俺に嫁さんっていろいろと難易度が高い!」

 

「お前の任務に理解がある女性か・・・ 大神の姉にでも頼んだらいいんじゃないか?」

 

「冗談でもそんな恐ろしいことを言ってくれるな!」

 

 加山の顔が恐怖に染まり切ったことに玄治が目を丸くし、少し考える。

 

「大神の姉だから常識人だと思ったんだが、情報を得ている限り非常識なところは見られないがなぁ」

 

「それはお前が双葉さんを知らないからだ!」

 

 加山の魂の叫びを聞き流していれば帝国劇場の時計が夕飯の時間を知らせ、メル達と挨拶をして別れ、加山も姿を消していく。

 マリア達と上に戻ろうと話になって、玄治はフッと笑って呟いていた。

 

「本当にお前達には、敵わないなぁ」

 

 迫水との会話でささくれた心はすっかりなりを潜め、玄治をいつもの状態に戻していた。

 

「玄治さん、どうかなさいましたか?」

 

 途中までも迎えに来たかすみに問われれば、玄治はいつもの笑顔で答える。

 

「いや、なんでもない。夕食にしよう」

 

 食堂に向かえば、そこには玄治ら以外の面々も集まりだしており、玄治の配膳を待っていた。

 

「玄兄ー、はよしてや。

 この後、舞台稽古もあるんやから」

 

「紅蘭の言う通りですわ。早く給仕をしてくださいな」

 

「へいへい」

 

「肉じゃがは温めなおしてありますから、玄治さんはお味噌汁の配膳をお願いします」

 

「じゃぁ今日は私が副菜係ね」

 

 主菜の肉じゃがをかすみが、副菜の配膳をラチェットが、味噌汁を玄治が盛り、ご飯のみ個々で盛るという形で流れが出来ており、その様子を見てロベリアとグリシーヌも興味深そうに眺めてから列に並ぶ。

 

「アンタ、本当になんでも出来るんだな。ドクトル」

 

「私達はドクトルの料理は初めて食べるな・・・ これは和食か」

 

「はい、肉じゃがって言うんですよ。

 玄治兄さんのご飯はとっても美味しいですから、遠慮せずおかわりもなさってくださいね」

 

 さくらの思わぬ発言に玄治が手を止めてしまい、その様子をさくら自身が気づいて変な顔をする。

 

「な、なんですか。玄治兄さん。そんなに驚いて・・・」

 

「いや、だってお前が俺の料理褒めるのなんて初めてだろ」

 

「そ、そんなことっ! あるかも・・・」

 

 慌てて否定しようとするさくらだが、自分でも何かに気づいたのか言葉尻が小さくなっていく。

 

「そーいや、玄さんの料理を面と向かってなんて褒めたりしねぇよな。いつも夜食におにぎり用意してくれたり、おやつだって作って用意してくれてんのにさ。

 つーわけで、いつもうまいぜ、玄さん」

 

「取ってつけたように褒めんでいい」

 

「いやぁ、そんなこたぁないぜ? 事実、去年玄さんがいなかった時は嫌ってほど気づかされたしよぉ」

 

 『なぁ?』とカンナが他の面々に視線を向ければ、皆が揃って大きく頷いた。

 

「ですねー。三食おやつと夜食付きって、とっても贅沢なんだって思い知りましたー。特にドルチェ(デザート)は本職にだって引けを取りませーん」

 

「アイリス、おじちゃんのご飯ならお野菜食べれるよ」

 

「俺も巴里じゃあんまり玄治のご飯を食べられなかったから、こうして毎日食事を作ってもらえるって贅沢なんだって思い知ったよ」

 

 口々に褒められて、玄治が照れくさくなっているとそこに米田とかえでも通りかかった。

 

「おっ、今日は肉じゃがか・・・ 帰る前に食っていくかな、俺とかえでくんも貰ってもいいか? 玄治」

 

「勿論。多めに作ってありますから、米田さん達も座って食べて行ってください」

 

「玄治くんはまだ座らないの?」

 

「俺はこいつらが稽古に行って、静かになってから食べるんですよ」

 

 玄治の言葉にむくれたり、苦笑いしたり、苛立っている面々を見て、笑うかえでが肉じゃがを口にすると手が止まった。

 

「この味・・・ 玄治くん、姉さんに教わったの?」

 

「いえ、教わってませんよ。ただ昔食べさせてもらった味を元にしています。でも、再現なんか出来てな・・・「これは藤枝家の味よ、姉さんの肉じゃがと同じだわ」 えっ?」

 

 かえでの言葉に玄治が驚き、米田も肉じゃがを口にする。

 

「あぁ、懐かしい味だな。おい」

 

「美味しいわ、とても」

 

 涙ぐみながら食べるかえでに、玄治は何も言わず肉じゃがを口にする。

 

「でも、俺が食べたのは・・・ もっと、美味かった」

 

「なんだ、覚えてねぇのか。玄治。

 お前があやめくんの料理で粥以外で初めて食ったのがこれだよ」

 

「は? そう、でしたっけ?」

 

「そうだよ。だから、お前にとっての思い出の味になっちまってんだろ」

 

 そう言って肉じゃがをつまみながら酒を飲む米田に、玄治は目を丸くするしかなかった。

 

「おいおい、ドクトル。そんな顔してボーっと突っ立てたら、バカみたいだぜ?」

 

「お前なぁ・・・」

 

「貴公らもさっさと席につくがいい。

 トーキョーでは、皆が揃って食べるのだろう?」

 

 グリシーヌにまで急かされるように席に座らされると、玄治はおずおずと肉じゃがを口にする。

 

「どうだい、玄治」

 

「いや、やっぱり昔食べた方が美味かったよ。

 何が足りないかなんてわからないが、あやめさんが作った方が美味かった」

 

「フフッ、玄治くんにとってはなんにも変えられない思い出の味が藤枝の味なんて光栄ね」

 

 そんな懐かしい思い出に包まれながら、皆での食事を終えるのだった。

 

 




加減したとはいえ私の一撃をカトラリーで受け止めるとは 流石隊長だな
グリシーヌさんって実は常識人じゃないですよね
隊長とドクトル両方に決闘吹っ掛けたこいつが常識人なわけないだろ
次回 『夜のひと時』
太正桜に浪漫の嵐!
ロベリア お前 グリシーヌで遊ぶのやめろよ・・・
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