サクラ大戦 貴水玄治物語   作:無月

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⑤ミカサ暴走&劇場襲来 光は花の都より

 翌朝、朝食を終えて花組の面々は舞台稽古に入っていく。総合演出ということもあり、舞台の稽古にも出来るだけ顔を出そうとする大神に引っ張られる形で玄治も渋々舞台稽古の場に立っていた。

 練習していたのはテナルディエ夫妻によって虐げられるコゼットのシーンと、そんな中コゼットのために働き体を壊すファンティーヌにジャンが問いを投げかけるシーンだった。

 

「ファンティーヌ、なぜそこまで子どものために働く?」

 

「子どもに幸せになってほしいと思うのは、親として当然の気持ち。

 いくらかかろうとも、お金程度で娘のコゼットの幸せが買えるなら、私はいくらでも払います」

 

「だがあなたは、そのお金を作るために体を壊してしまったではないか。

 自分の体を壊してまで、子どもの幸せとは求める価値があるのか?」

 

「あた、当たり前・・・」

 

 台詞に詰まった様子のすみれに、演劇が中断する。

 

「あの・・・ すみません、中尉。少しよろしいですか?」

 

 中断してからおずおずと大神の元にすみれが歩み寄ってくる。

 

「どうしたんだい、すみれくん。台詞を間違えるなんて君らしくない」

 

「わからなくなってしまって・・・ 本当に、お金で子どもの幸せは買えるのですか?

 愛する両親が体を壊してまで自分のために働くなんて・・・ 私には耐えられません」

 

「そうね、私もそこは引っかかっていたわ

 子どもにとっての幸せとは、貧しくとも親と暮らすことではないのでしょうか?」

 

 自分の経験と重ねて納得できないすみれに、同様に両親とあまり過ごすことの出来なかったマリアが同意した。

 

「そうだな・・・ 玄治はどう思う?」

 

「おい、それを親のいない俺に振るのか?」

 

「そうだけど、この場で一番客観的に見れてるのは玄治だろ?」

 

「そりゃそうかもしれんが・・・ 俺は親の愛は台本通りが正しいと思うがな」

 

「どうしてですの? 貴さん」

 

「だってお前らの視点は子どもの視点じゃねーか。自分達が親にされて嫌だったことだろ」

 

「それは・・・ そうね。

 でも玄治、あなただって叶うなら傍にいてほしかった存在がいたでしょう?」

 

「それも結局、子どもの視点だ。

 自分の身と引き換えに誰かが幸せになってほしいと望む気持ちを、お前達がわからないとは思えないがな」

 

 同意を求めるマリアにもバッサリと言い切る玄治に、すみれとマリアが言葉を詰まらせる。

 

「中尉、このシーン変えてもよろしいでしょうか?

 今のままでは演じられません」

 

「すみれ、お前なぁ・・・ 役を演じる役者が気に入らないからって我儘言うなよ」

 

「貴さんは黙ってなさいな!」

 

 注意する玄治を一喝するすみれに、もう手が付けられないと判断して手をあげて降参して後ろに下がる。

 

「おいおい、ドクトル。とんだ役者もいるもんだな」

 

「だろ、毎回こんななのに最終的に舞台になるんだぜ? マジで不思議でしょうがない」

 

「だが、すみれの言葉にも一理ある。

 子どもの幸せと親の愛は必ずしも合致しない、わかりあえぬのだろうな」

 

「わかりえなくもないだろ、気持ちの根本は互いを想いあう気持ちだから同じだ。向き合うかどうかが一番の問題」

 

「ドットーレ。それ、ラチェットにも言ってやってくださーい」

 

「あら、父親限定で反抗期をしてた子が何か言ってるわね」

 

「うるっさいでーす」

 

 ラチェットを押し出そうとする織姫が言い合いしている中、突然警報が鳴りだす。

 

「チッ、またか」

 

「アタシらも行くぞ、副隊長」

 

「貴様に言われるまでもない!」

 

 帝都花組に遅れることなく駆け出す二人と共に玄治も駆けだしていた。

 そうして全員が指令室に集合したところで、風組によって状況が説明される。

 

「劇場前に金色の蒸気を噴出させている大型魔操機兵が現れました」

 

「・・・いい加減、秘密部隊だってのに特定されすぎなんだよな。俺達」

 

「玄兄、今そないなこと言ってる場合やないやろ」

 

「では、花組出撃します!」

 

 状況はそれだけかと思い立ち上がろうとする大神に、かすみの制止が入る。

 

「待ってください。状況は大型魔操機兵の出現だけではありません。

 ミカサにも異常があるんです」

 

「ミカサに? どういうことだい?」

 

「ミカサ機関室の出力が急上昇しています。出力二百八十%、駆動限界を超えています!」

 

「これにより、ミカサの蒸気機関を仲介して帝都全域に金色の蒸気が噴出しています」

 

「ミカサの蒸気機関を繋げたことが裏目に出るたぁな・・・ このままじゃ、帝都が壊滅しちまう」

 

 まさかの事態に頭を抱える米田に、さくらもあせる。

 

「なんとかならないんですか! 大神さん!」

 

「落ち着け、さくら。俺がミカサに・・・ 「いや、俺が行く。俺がミカサを止める」 米田さん! 危険すぎます!」

 

「玄治の言う通りです。司令」

 

「ミカサのことは俺が誰よりも知っている。

 それにミカサを作ったのは俺だ、俺が始末をつけなくちゃならねぇ」

 

「それなら俺でもいい筈です! 俺だってミカサのことはわかる!」

 

 米田を死地に向かわせまいとする玄治の反対意見に、米田はゆっくりと首を振った。

 

「玄治、これだけは俺も譲れねぇ。お前はここから花組と俺を援護してくれや」

 

「ですがっ! 「わかりました、頼みます」 大神!」

 

「すまねぇな、大神。

 あいつは俺にとって、息子のようなものだからよ」

 

 大神の判断に玄治が不満気に声をあげるが、大神はあくまで冷静だった。

 

「玄治はここから花組と司令を援護してくれ。お前なら全体を見て、万が一の場合でも風組にも、月組にも指示を出すことが出来る。

 司令の決心は固く、この中の誰よりもミカサのことを把握してるのは事実だ」

 

「そうだが! 機関中枢の出力が高いということは中の気温もあがっている! それに伏兵がいたらどうする気だ!?」

 

「それについては、私から提案があるわ。

 隊長、部隊を二つに分けるのはいかがでしょう?」

 

「マリア、続けてくれ」

 

「玄治の言う通り、地下のミカサに司令だけが行くのは自殺行為です。

 機器にも知識があり尚且つ能力から考慮して、紅蘭、アイリス、織姫、レニを護衛につけます。他のメンバーは隊長と共に魔操機兵を迎撃します」

 

「それだと隊長のグループの戦力が低い。鳥組を指令室に残すなら尚更だ」

 

「でも、護衛はこのメンバーでないと困難だわ」

 

「そうだな・・・」

 

「お困りのようだね、ムッシュ」

 

 マリアの提案にレニの正論に大神も困りかけた時、巴里からの通信が響いた。

 

「遅いんだよ、やっと到着したんだな?」

 

「そうお言いでないよ、ロベリア。

 その子達と共に光武F2と対策蒸気フィルターを送ったよ、有効的に使っておくれ」

 

「仕事が早いな、ジャン班長」

 

「ありがとうございます! グラン・マ」

 

「我々も隊長と共に戦場に立とう!」

 

「トーキョーでもひと暴れといこうか」

 

「これで勝算が立った」

 

 ジャンの仕事を称える玄治とグラン・マに感謝を告げる大神、そして参戦できることを誇らしげにする二人にレニが頷く。

 

「よし、これで準備は出来たな。大神、出撃命令を出せ」

 

「はっ! 帝国華撃団、出撃せよ!」

 

『了解!』

 

 

 

 

 

 展開した帝劇防御壁が大型魔操機兵『ハクシキ』の一撃によって消滅し、玄治が舌打ちする。

 

「一撃かよ、くそっ!」

 

「第二波、来ます!」

 

「全員、衝撃に備えろ!」

 

 が、第二波へと力を溜めているハクシキを出撃した大神機が蹴り飛ばす。

 

「無事か、皆」

 

「聞こえた通り、帝劇防御壁は破壊された!」

 

「了解! 花組本隊は今から大型魔操機兵の撃破と帝国劇場の防衛に入る!」

 

 大神に続いて本隊の面々が並び立ち、劇場前の十字路に鐘のような形をした機器が置かれ、そしてその傍には鼓によく似た装置が置かれていた。そして、それらを守るように青と緑の蒸鬼が今にも襲い掛かろうとし、十字路の中央にハクシキが堂々と立っていた。

 

「大神、鐘のような形をした機械が大型魔操機兵の力を増幅させる結界になっている。

 まずはその鐘を壊すんだ!」

 

「了解!」

 

「頼んだぞ、大神。

 赤チビ! そっちはどうだ!」

 

 花組本隊に指示を出しながら、別モニターに向かって叫ぶ。

 

「こっちはミカサ機関室に到着したで!」

 

「俺のことは心配せず、お前らはお前らの仕事をやり遂げろ」

 

「わかりました・・・」

 

「司令、ご武運を」

 

 既に決断した米田にこれ以上反対意見を口にすることをやめた玄治に対し、大神は米田に武運を祈る。

 

「んじゃ、一仕事してくるぜ」

 

 軽い調子で言う米田に、大神がフッと笑う。

 

「なんだよ、大神。人のこと笑いやがって」

 

「いえ、今の言葉があまりにも玄治と似てたので」

 

「危ないところに突っ込もうとしてるところとか、とってもそっくりです」

 

 さくらの言葉に全員が笑いながらも同意を始め、当の玄治は照れくさくて何も言えずにいた。

 

「そりゃそうだろ、俺らの自慢の息子だからな。

 玄治は俺にも、山崎にも、一馬にも、あやめくんにも似てるんだよ」

 

「やめてくださいよ、米田さん」

 

「照れるこたぁねぇだろ、玄治」

 

「うるっさいですよ、さっさとやることやって戻ってきてください」

 

「わーったよ、そっちは任せたぜ」

 

 そう言ってミカサの機関部に入っていく米田を見送り、玄治は全体の把握に努め風組と共に情報を探る。

 

「蒸鬼は鐘のところから出現してやがるな・・・ しかし、目的はなんだ? ミカサが封印の上に立っていることはわかった。だが、帝都全域を襲うこの悪意はどこから始まってる?」

 

「玄治、結界の一つが破壊されたわ」

 

「あぁ、「玄兄、大神はん、大変や!」 どうした!?」

 

「米田はんが閉じ込められてもうた!」

 

「・・・っ! 隔壁が作動したのか!?」

 

「玄治、どういうことだ!?」

 

 紅蘭の一言で状況を理解した玄治に対し、大神は疑問の声をあげる。

 

「蒸気が漏れだしたことにより、隔壁が作動したんだ。

 それによりただでさえ上昇しているミカサの機関部内温度が密封され、危険域を突破してる」

 

「ウチらは光武に乗っとるから平気やけど、米田はんは・・・」

 

「司令! 応答してください!」

 

「うるせぇな! 騒ぐんじゃねぇよ!」

 

 大神の言葉に米田が威勢よく返せば、玄治は厳しい視線でそれらを聞いていた。

 

「そのままでは危険です! 脱出してください!」

 

「それは出来ねぇ。俺がここを離れたら、ミカサの暴走を誰が止めるんだ!」

 

「司令、そんなこと言ってる場合じゃありません!」

 

「脱出してください! すぐに自分達が駆け付けます!」

 

「馬鹿野郎! 自分達の任務を忘れたのか!」

 

「玄治兄さんも、司令になんとか言ってください!」

 

「全員、黙れ」

 

 だが、玄治から出てきた言葉はその場にいる全員の想定外のものだった。

 

「大神、お前は米田さんにミカサを止めるよう指示を出した。花組もそれで納得したはずだ。

 そして何より、ミカサを止めるといった米田さんの覚悟を踏みにじることは俺が許さん」

 

「玄治、おめーは本当に俺らの息子だなぁ。俺らの気持ちが痛いほどわかっちまうんだろ?」

 

「えぇ、俺だってそうしますから」

 

 危機的状況だというのに玄治に笑いかける米田に、玄治は厳しい表情のままだった。

 

「このままミカサが暴走を続ければお前達だけじゃなく、この帝都も消滅しちまう。

 俺はどうなってもいい! お前達が、帝都が無事ならそれでいいんだよ!

 お前達が生き残ることが、俺にとって一番大切なことなんだ!」

 

 その言葉を聞きながら固く言葉を握り締めて堪える玄治に大神が叫ぶ。

 

「俺達も司令が大切なんです! 皆、一緒にいたいんです!」

 

「知ってるよ。だから、俺がやるしかねぇんだ。お前達はな、俺にとっちゃ子どもみてぇなもんなんだよ。

 親が子どもを守るのに! 理由なんてねぇんだよ!」

 

「司令、忘れたんですの?

 生きて帰って来いといつもおっしゃっていたではないですか!」

 

「すまねぇな、わかっちゃいるんだが出来そうもねぇ。

 俺はな、自分のことよりお前達のことの方が心配なんだよ」

 

「それが・・・ 親の愛なのですか?」

 

「かもしれねぇな。お前達のことを想うと自分のことを考えられねぇんだ」

 

「まだ諦めるな!」

 

 すみれの問いかけに米田は曖昧に答えている最中、玄治は握っていた拳を振り下ろした。

 

「なんでもう死ぬこと確定したみたいなやりとりしてんだ! ふざけんじゃねぇぞ!

 俺達はまだ生きてる! まだ戦ってんだろうが!」

 

 そこで画面越しに米田を指さす。

 

「アンタもだ、米田さん!

 ミカサと一緒に心中なんかしてみろ! そん時はあの世までアンタの魂引っ張ってきて文句言ってやるからな!」

 

 玄治の怒号に全員が驚かされ、米田が笑った。

 

「そうだったな。すまねぇ、らしくもなく弱気になっちまってた」

 

「玄治・・・ あぁ、そうだな!

 司令、ミカサを頼みます。俺達は必ず帝劇を守ってみせます」

 

「あぁ、頼んだぜ」

 

「必ず、必ず生きて帰ってきてください」

 

「大帝国劇場には私達が傷一つつけさせません。お約束いたします」

 

「司令はさ、あたい達のことを実の娘のように考えてくれてるんだろ?」

 

「なら、必ず生きて帰ってきてください。一緒に帝劇で暮らしましょう。

 子どもは親と一緒に暮らすのが一番の幸せなのですから」

 

 花組の面々が口々に言うのを嬉しそうに聞きながら、米田は気を引き締める。

 

「あぁ、勿論だ。

 俺はおめーら家族のところに、必ず帰る」

 

「言質は取ったわよ、ミスター米田」

 

「おっかねぇこというなよ、ラチェット。でも、約束するぜ」

 

「皆、聞いたな。ミカサを暴走させている金色の蒸気は奴が出している。

 速攻で奴を叩くぞ! 少しでも早く司令を救出するんだ!」

 

『了解!』

 

 戦闘を続行しながら、玄治も見守りながら金色の蒸気の濃度と時間に焦りを感じていた。

 

「ラチェット、蒸気濃度はどうだ?」

 

「まだ変化はないわ。けれど、濃度をどれくらいまで相手があげられるかわかっていない以上油断は出来ない。フィルターにも限度があるもの」

 

「かすみ、帝都の状況は?」

 

「現在は室内への避難勧告と、蒸気の使用を止めています」

 

「くそっ、いつも後手に回ってるのが痛いな」

 

 舌打ちをしていれば、通信が繋がったままのグラン・マが慰める。

 

「ドクトル、最悪の場合はウチにも手がある。焦るんじゃないよ」

 

「わかっていますよ、グラン・マ。ですが、それだって蒸気の解決になってない」

 

「この場にいる誰だってそうだよ、アンタだけじゃない」

 

「いっそのこと蒸気機関に左右されてない俺が特攻した方がいいんじゃないか」

 

「玄治、それはもっともだけど多対一の状況で光武なしは勝算が立たないとわかっているでしょう」

 

「それに霊力回路が壊れているあなたを戦場に立たせることは出来ません」

 

 ラチェットとかすみに止められ、玄治は深い溜息を零す。

 

「それでも俺は・・・ お前達が危機に陥って自分が何もしないことが耐え切れないし、耐えるつもりもない」

 

「わかっているわ、それがあなたの譲れない覚悟だということは」

 

「それでも私達もあなたに傷ついてほしくないんです」

 

「玄治くん、あなたがさっき米田さんに怒ったようにね」

 

 穏やかに諭されながら、玄治は変わらない覚悟を抱いたままモニターを見つめていた。

 そこに映ったのは体勢を崩したハクシキに、大神達が近づいてる姿であった。

 

「やったか?」

 

 が、大神のその言葉と同時にハクシキが立ち上がり、金色の蒸気を吐き出し始める。それにより光武の異常アラートが発生し、玄治のみならずモニター越しに見ていたグラン・マも動揺する。

 

「何!? もう光武が停止したのか!」

 

「計算上フィルターを装着後はあと一時間は戦える筈!」

 

 動揺しているのは現場の大神達も同様だった。

 

「ラチェット!」

 

「金色の蒸気の濃度が上がっているわ!」

 

「桁が違いすぎる・・・!」

 

「いや、まだいけます! 米田司令を救うためにもここで退くわけには・・・」

 

 大神達の光武が次々と倒れていく中、蒸鬼の数が増えていく。

 

「かえでさん! 俺が出ます! ここは頼みます!」

 

「駄目よ! 今ここであなたまで失うわけにはいかない!

 大神くん、光武を捨てて逃げなさい! このままだと光武が暴走するわ!」

 

「ならせめて、大神達が逃避する時間は稼ぎます!」

 

「玄治一人では行かせないわ! 私も出撃する!」

 

 あちこちから悲鳴のような怒鳴り声が聞こえる中で、グリシーヌとロベリアが帝都花組の光武に肩を貸しながら口にする。

 

「なんだよお前ら、騒いでバカみたいだぜ?」

 

「そうだ、隊長。諦めるのはまだ早い。お前には私達、巴里華撃団がいる!」

 

「巴里華撃団・・・ でも、皆は今、巴里にいるんだぞ」

 

「あれを使うのか・・・! グラン・マ、準備は?」

 

「もう出来てるよ。全員搭乗済み、あとは発射するだけだよ」

 

 二人の突拍子もない言葉に大神は戸惑うが、玄治は合点がいったのか目を開く。

 

「玄治? グラン・マ? 一体、なんの話を?」

 

「隊長が命令すれば、皆はどこにでも出撃する。

 仲間のためならどこでも出撃する、それが巴里華撃団であろう!」

 

「しかし・・・!」

 

「しかしも、案山子もないだろ。隊長。

 アンタはいつものように出撃命令を出せばいい。そうすりゃ全員飛んでくるんだ」

 

「・・・わかった。

 巴里華撃団出撃せよ! 目標は帝都・・・ 帝国華撃団のサポートだ!」

 

『了解』

 

 

 

 

「大神隊長の出撃命令を確認」

 

「リボルバーカノン、セットアップ!」

 

 シーの声帯認証によりリボルバーカノンが準備され、グラン・マは淡々と準備をしていく。

 

「発射準備」

 

「発射準備完了」

 

「弾道弾装填」

 

 弾道弾もとい光武F2の入った三人が装填され、グラン・マが銃の形をした装置に触れる。

 

「照準セット、目標大帝国劇場」

 

『ウィ! オーナー!』

 

「照準補正、角度調整クリア!」

 

「照準セット完了!」

 

「リボルバーカノン、発射!」

 

 発射後、手を合わせて祈るシーと大丈夫だと無言でうなずくメル。

 

「やってくれるさ。巴里華撃団の力、見せておやり」

 

 

 

 

「弾道弾の大気圏突破確認! 着地地点、問題ありません!」

 

「かすみはそのまま巴里華撃団の確認をしててくれ。

 由里! 到着予想時刻は!?」

 

「あとまもなく着陸します! 外部装備は想定通り、海に落ちます!」

 

「よし!」

 

 玄治の言葉のすぐ後に、大帝国劇場前に三体の光武F2が降り立った。

 

『巴里華撃団、参上!』

 

「お待たせしました。ここは私達に任せてください!」

 

「大神さん、ご無事ですか?」

 

「皆、本当に来てくれたのか?」

 

「ほら、しっかりして。イチロー、どこも怪我してない?」

 

「あぁ、俺は大丈夫だ。あとはこの蒸気さえなんとかなれば!」

 

「大神さん達に酷いことをしましたね! あなた達のことは決して許しません!

 この地に遣わされし加護の天使よ、御姿をここに。光あれ!」

 

 大神達を守るようにエリカが全員に回復させ、その背後にはミカエルの姿を幻視する。

 

「あやめさん・・・」 「姉さん・・・」

 

 今も見守ってくれていることを知り、二人が静かに涙を零す中、光武の動きを確認していた。

 

「おぉ、光武が動く。サンキュー、エリカ」

 

「当然ですよ、私が本気を出せばざっとこんなもんです」

 

「もう、エリカはすぐおだてに乗るんだから」

 

「ははっ・・・ 皆、ありがとう」

 

「当たり前じゃないですか。仲間のためならどこへでも飛んでいきますよ。

 トーキョーにいても、大神さんも、ゲンジさんも巴里華撃団の一員なんですから」

 

「魔操機兵が動き出したわ!」

 

「何、囲まれたのか!?」

 

 エリカの言葉に二人が喜びを感じているのも束の間、警戒していたマリアから注意がとぶ。

 

「露払いは私達が引き受けます。よろしいですか? 大神さん」

 

「よし! 巴里華撃団、出撃せよ! 目的は蒸鬼の撃破だ!」

 

「了解しました。大神さんと一緒に戦えて、私、ワクワクしてます。

 大神さん達はそこの金色の派手な奴をよろしくお願いします!」

 

「俺達は大型魔操機兵を叩くぞ!」

 

『了解!』

 

 現場がまとまっていく中、玄治はじっとモニターを見ながら考えていた。

(回復で蒸気が消える・・・ これは霊力によって妖力が浄化されているからか?

 だが、この能力はまるで霊力のことをよく理解している人物から意図的に用意されているようだ)

 

「玄治くん、どうしたの?」

 

「いえ、金色の蒸気について考えていました。

 妖力の性質を考えると、これは対霊力保持者に特化しているようにしか思えない」

 

「そうね・・・ その辺りも含めて銀座文書に詳しく書いてあると思うわ」

 

「それに何故かずっと、懐かしさを感じていて・・・」

 

「懐かしさ? どういうこと?」

 

「この事件について調べていく中、特に能面が明らかになってからずっと不思議懐かしさを感じているんですよ。

 もしかしたら俺は、この事件の黒幕と血縁者なのかもしれませんね」

 

「・・・もしそうだったら、あなたの家族が降魔に狙われた理由もわかるかもしれないわね。

 玄治くん、あなたは記憶を取り戻したいの?」

 

「正直これまでは関心がなかったんですが・・・ ロベリアに言われたんですよ、自分のもんなら奪い返せばいいって」

 

「ロベリアらしいわね」

 

「えぇ、あいつらしい発想で、過去を乗り越えたあいつらだから言える言葉です」

 

 ため息交じりのかえでの言葉に玄治は笑って同意し、モニターを眺める。今まさに現場で戦っている帝都花組と巴里花組、二つの花組が共に戦い、帝国劇場を守り合っている姿だった。

 

「あの日までの俺は一体誰だったのか。誰に生かされていたのか、何を守りたかったのか・・・ 今更ながら知りたいと思ったんですよ」

 

「玄治くん、あなたは過去を知るのがもう怖くないの?」

 

「怖いですよ。

 『記憶を失うほど降魔を憎んだ』以外の忘れたかった理由があるかもしれないことも、この事件の黒幕と俺が関わりがあるかもしれないことも、家族の喪失を感じるかもしれないことも・・・ もしかしたら、皆にすら受け入れてもらえないかもしれないことも全部」

 

「玄治? 最後の心配は私達に失礼よ」

 

「ラチェット、そうは言うがな・・・」

 

「おい、ドクトル! 聞こえてんぞ!」

 

「ゲンジさん、私達の時になんて言ったか忘れたんですか?」

 

 どこで聞き耳を立てていたのか、通信にロベリア、エリカ、花火が次々と映る。

 

「私達の生まれも育ちもどうだっていいとおっしゃられていたじゃありませんか。

 私達が知っているのも、愛しているのも今ここにいるあなたですから、ご心配は無用です」

 

「お、お前らなぁ・・・」

 

「ハカセは時々おかしな心配をする」

 

「かすみ、玄治をそこでしっかり見張っておいて頂戴。また先走って何かおかしな行動をするかもしれないわ」

 

「了解しました。マリアさん。

 というわけで玄治さん、いつまでも立っていないでどうぞこちらへお座りください」

 

 愛刀を手にして出動しようとしていた玄治をかすみが適当な席を指させば、玄治も渋々ながら座る。

 

「本当に山崎さんに似てなんでもかんでも抱え込んで、姉さんに似て人のことばかりで、一馬さんと同じでこうと決めたら一直線で、司令のように頑固ね。玄治くんは」

 

「育ての親が皆、自己犠牲ぎみだったものでして」

 

 玄治の皮肉を誰も否定も出来ず、かえでのみが苦笑する。

 

「たとえ過去に何があったとしても、あなたはあなたよ」

 

「わかってます。

 わかっているから今、知ろうとしてるんですよ」

 

「わかったわ・・・ あなたがそこまで言うなら、月組を使っての調査を許可しましょう」

 

「ありがとうございます、かえでさん」

 

 かえでの確認に玄治がなんでもないように笑って答えるのを見て、かえでも諦めがついたのか月組を使っての調査に許可をだした。

 そんなやり取りをしている真っただ中、モニター越しに聞こえた巨体の崩れる音に指令室にいた全員が振り向いた。だが、ハクシキもただ倒されるだけではなく、持っていた扇子を大神機に向かって投擲し、左足の切断を成功させる。そして、ハクシキは体の向きを大神らから帝国劇場へと向け、勢いよく金色の蒸気を吐き出し始めた。

 

「あいつ、帝劇に特攻しかけるつもりだ」 「まさか、特攻してくる気か!?」

 

 玄治とカンナの声が被りぎみとなり、玄治はもはや誰の許可も躊躇もなく、玄治が愛刀を持って駆け出す。

 

「玄治! 待ちなさい!」

 

 ラチェットの焦った声を聴きながら、現場でも大神が動き出していた。

 

「くそっ、この足さえ動けば・・・ 時間がない、でも諦めるものか!」

 

 大神が何かないかと周囲を見渡せば左足切断時に外れてしまったらしいブースターを見つけ、閃く。

 

「司令のためにも、皆のためにも、俺が止めて見せる!」

 

『お願いします!』

 

 が、そんな中、帝国劇場にはハクシキの腕が伸びていた。

 

「俺達の家に、触んじゃねぇよ!」

 

 その腕を両断するのは、指令室から駆け出してきた玄治であった。

 だが、そんな玄治に大神は気づくことなくブースターでハクシキに特攻する。既に玄治を相手取っているハクシキは大神を応撃出来ず、大神は背後からハクシキを羽交い絞めにして取り押さえる。そこでようやく玄治がハクシキと斬り合っていることを知った大神が驚き、怒鳴る。

 

「玄治! どうしてここに!?」

 

「どうしてだぁ? 俺がここを守る理由なんざお前もわかってるだろうが!」

 

 そこで大神が光武から出てハクシキの面へと刀を突き立てれば、玄治はハクシキの両腕を叩っ斬る。当然ハクシキは大爆発を起こし、二人が爆発に巻き込まれ、花組のみならず指令室からも悲鳴じみた声が上がった。

 

「大神さん!」 「中尉!」 「お兄ちゃん!」 「中尉さん!」 「隊長!」

「イチロー!」 「大神はん!」 「隊長!」

 

「玄治!」 「ハカセ!」 「ゲンジさん!」 「ドクトル!」 「玄治さん!」

「玄治!」 「玄治さん!」

 

 がそんな呼び声に応えるように、二人が揃って炎の中から無傷で歩いてきた。

 

「終わった。帝都は俺達が守ったぞ」

 

「・・・大神が花組の霊力を託されてて助かった。

 花組の霊力が俺達を包み込んだおかげで無傷で済んだみたいだな」

 

「お疲れ様です、隊長。玄治。

 これでおそらくミカサの暴走も止まったでしょう」

 

 マリアが二人を労うのとほぼ同時に紅蘭から通信が入る。

 

「こっちの隔壁も開いたでー。米田はんも無事や」

 

「よっ、二人とも。約束は守ったぜ。

 結局玄治は我慢できずに出撃しちまってたな」

 

「うるせぇ、ジジイ。アンタの教育の賜物だよ、バーカ」

 

「俺達も約束を守りましたよ」

 

「おう、ありがとうよ」

 

 男三人のやり取りを聞き終わってから、場を整えるようにすみれがパンッと手を打つ。

 

「さぁそれではいつもの奴、やりますわよ」

 

「ちょっと、待ってくださーい。私達もやりたいです」

 

「ふふっ、それなら皆が来るまで待ちましょうか。

 それから隊長、部隊の演出についてのことなのですが・・・」

 

「台本通りに演じたく思いますわ。

 司令の気持ちを聞いて、親の愛というものがわかった気がしますの」

 

「子どもが親に抱く愛情、親が子どもに抱く愛情はきっと同じ。

 ただ表現が違うだけで、どちらが間違っているということはないのだとわかりました」

 

「自分のことよりも子どもの幸せを純粋に願う親の愛、元の演出は親の愛を素直に表現していると思いますわ」

 

「ったく、自分達が気づいたら掌くるっくるかよ。仕方ねぇ奴ら」

 

「玄さん、あんま余計なこと言うと蛇女にまた噛みつかれっぞ」

 

「そこの馬鹿二人! 聞こえてますわよ!」

 

「ハハッ、すみれくん達に任せるよ」

 

 玄治とカンナがすみれに一喝されているのを大神が笑いながら聞き流せば、ちょうど織姫たちも到着する。

 

「私達も一緒にやっていいですか? いいですよね!」

 

「勿論よ」

 

「勝利のポーズ、『決めっ!』」

 

 

 

 

 

 戦いを無事に終え、全員が着替えを終わったところで玄治の周りには人だかりができていた。

 

「ゲンジさん、どこも怪我してませんか?」

 

「玄治さん、お久し振りです。ですが、あなたが一人で出撃したのがわかった時は肝が冷えました」

 

「玄治! 私を連れて行く約束だったでしょう!」

 

「そもそも鳥組に出撃許可は下りてませんよ、ラチェットさん」

 

「劇場を守りたい気持ちはわかるけれど、指令室での指揮を任されたのにどうしてあなた自ら出撃したの」

 

「ハカセ、緊急事態に飛び出す癖をどうにかしてほしい」

 

 六人に詰め寄られていても、玄治はいつも通りだった。そんな様子を見てロベリアがからかっていく。

 

「いやいや、人気者だな。ドクトル」

 

「ロベリア、お前助ける気ないだろ・・・」

 

「あるわけないだろ、アンタの自業自得だ」

 

「それ言うなら、あの状況で光武から顔出して能面に刀ぶっ刺した大神もだろ」

 

「ちょっ!? 玄治、俺にまで矛先を向けないでくれよ!?」

 

 通りがかりの大神を指させば、さくらも大神の肩を押さえた。

 

「大神さん、玄治兄さんの言う通りです。

 あの状況で光武から顔を出す必要なんてありませんでしたよね?」

 

「ドットーレが危ないことするのはいつも通りですけどー、中尉さんまであんな危ないことするなんて思ってませんでしたー」

 

「いくら私達の霊力があったとはいえ、結界になったのはたまたまでしょう?

 自分の身を危険に晒したことに変わりはありませんわね」

 

「お兄ちゃんの馬鹿、おじちゃんの影響受けすぎー」

 

「イチロー、おじちゃんの変な癖まで真似しないでよ。僕らが心配になっちゃう」

 

「まったくだ。大型魔操機兵が爆発した時は肝が冷えた」

 

「ほんまやで、まったくウチらの隊長は二人揃って危なっかしいわぁ」

 

「だよなぁ・・・ 心配するこっちの身にもなってほしいぜ」

 

 口々に不満を言われる大神が小さくなっていく中、玄治はいつも通りに全員を連れて厨房に向かう。

 

「それより飯にしよう。今日の昼と夕飯を考えなきゃだし、明日は歓迎会やるんだろ? メニューに要望があるなら紙に書き出しとけ」

 

「ゲンジさんのご飯、久しぶりです!」

 

「玄治、あなた私達の話は聞いていて?」

 

 嬉しそうにするエリカに対し、マリアが注意する。

 

「聞いてるが、やったもんは仕方ないだろ。お前達の霊力か腕輪の加護かはわからんけど無傷だし、いろいろやるんだったら食事の準備は必要だ。

 それに午後は舞台稽古だろ? 食わないと出来ないだろ」

 

「開き直らないで頂戴、玄治」

 

「悪いとは思ってるが、大神だってやっただろ」

 

「それはそうですが・・・ せめて一度、診断だけでもしましょう?」

 

「・・・わかった、診断は受ける。でも、とりあえず昼飯にしよう」

 

「先に診断です。大神さんもこちらに」

 

 厨房でコックコートを着ようとする玄治からかすみがコックコートを取り上げ、背中を押して地下の医務室に向かわせようとする。

 

「わかった。わかったから押すなよ、かすみ」

 

「あ、あぁ・・・ 俺も行くよ。

 皆はここで 『ついていく』 わ、わかったよ」

 

「ちょっと待て、米田さんも途中で連れてくぞ」

 

「ハカセの言う通りだ、司令も体の隅々まで検査しよう」

 

 そうして男三人揃って、医務室で怪我がないかを頭からつま先まで調べられたのであった。

 




わーい! 歓迎会ですね! 勿論私達も手伝いますよ!
もーエリカ はしゃぎすぎだよー
でも皆さんとまたお会い出来て とても嬉しいです
次回 『巴里花組歓迎会 そして開かれる記憶の扉』
太正桜に浪漫の嵐! 愛の御旗のもとに
おい加山 ちょっと待てやテメェ
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