サクラ大戦 貴水玄治物語   作:無月

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⑥巴里花組歓迎会 そして開かれる記憶の扉

 翌朝、皆で朝食を終えてから中庭で早速歓迎パーティの準備を帝都花組、巴里花組も手伝っていた。

 当然厨房は玄治の独壇場であり、ケーキ等の準備に勤しんでいた。

 

「玄治さん、お手伝いいたします」

 

「あぁ、花火か。こっちは俺だけでも大丈夫だぞ」

 

「いえ、その・・・ 同じ場所にいたいと思ったので、お手伝いは不要と分かっているんですがお傍にいてもいいでしょうか?」

 

「あぁ、勿論」

 

 厨房の椅子に座って、次々と料理を作っていく玄治の背中を見ながら、花火は幸せそうに微笑んでいた。

 

「花火、そんなに楽しいか?」

 

「楽しいというより、幸せなんです。

 好きな人と同じ場所にいるというだけで特別で、とても幸福なことだと知っていますから」

 

「ハハッ、そうだな。

 俺もお前達が来てくれて、本当に嬉しかった。メルも来れたらよかったんだがな」

 

「それすらも出来るようにしてくださっているじゃないですか」

 

「もうすぐだ、このままいけばお前達を巴里に送ってやることも出来そうだぞ? 勿論、約束通りそのまま俺と一緒に世界一周してもいい」

 

「ふふっ、それは嬉しいですけどご無理はなさらないでくださいね」

 

「無理はしてない、むしろ体調は鍛錬も始めた甲斐あって絶好調だ。見ろ、右腕だってこんなに上がるようになった」

 

 ひょいと右腕をあげれば力こぶが自然と出来上がり、問題なく動くことを証明するように左右にも動かしてみせる。

 

「腕輪もつけていてくださるんですね」

 

「あぁ、お前達がくれたお守りだからな。もしかしたら、昨日の戦いでも守ってくれたのはこいつかもな。

 お前達の霊力は器である大神が受け止めていただろうから、本来俺は守られなかった可能性が高い」

 

「いいえ、私達の霊力は守りたい物を守るために向いています。きっと、玄治さんのことも守っていました」

 

「そうだったら嬉しいな」

 

 料理を作る手を止め、サッと洗ってから冷蔵庫にデザートを放り込んでおく。

 

「花火、少し買い物でも行くか?」

 

「えっ・・・? 何か足りない物でもありましたか?」

 

「厨房にあまり酒を置いてないからな、それにジュースもいくつか買い足したい。近所だけど案内も出来る。

 巴里で市場を歩いていたみたいに一緒に行こう」

 

「わ、私も行きたいです!」

 

 そこで厨房に入ってきたエリカが控えめに手をあげたのを見て、玄治と花火が同時に笑う。

 

「エリカさん、勿論三人で行きましょう」

 

「これでメルもいたら、本当に巴里でのいつも通りだな」

 

「でもそれももうすぐ出来ます! 全部ゲンジさんが作っちゃいますから」

 

「そうだな、プリンも仕込んであるから後で食べれるぞ」

 

「私、ゲンジさんのプリンだーい好きです!」

 

「知ってるよ。だからたっぷり作ったし、クリームとフルーツで飾り付ける豪華版だぞ?」

 

「それ、すっごく素敵です!

 中庭でアルくんとも久しぶりにお話ししてたんですよ、あとフントくんとも仲良くなったんです」

 

「そうかそうか、それはよかった。

 フントはレニが名前をつけたんだ、ドイツ語で『犬』って意味なんだぞ」

 

「えぇ~、うっそだぁ~」

 

 嬉しそうに話すエリカの話を聞きながら、玄治は一通り片づけをしてからコックコートを脱ぐ。

 

「本当だ、今度レニに聞いてみるといい。

 さっ、少しだけど買い物デートと行こうか」

 

「喜んで」 「わーい! とっても嬉しいです!」

 

 厨房に買い物に行くことを書いたメモを残してから、二人と共に街へと繰り出すのであった。

 

 

 

 

 

 夜になり花組は皆歓迎パーティの真っ最中、玄治は中庭の隅で楽し気な皆の様子を見守っていた。

 

「ゲンジさん! ワサビ、食べますか?」

 

「それ、そのまま食べるもんじゃないぞ。エリカ。刺身とか寿司とかにちょっとつけて食べるんだ」

 

「水が綺麗な日本ならではの物の一つですよね、綺麗な清流でしか育たないとか」

 

「よく知ってるな、花火。

 刺身も、ワサビも、水がそのまま飲める日本特有のものだ。夏になれば川魚も焼いて、塩をしただけのシンプルな料理も上手いぞ」

 

「塩焼きですね、料理にはその土地の歴史や環境が深くかかわっているんですね」

 

「あぁ、だから欧州のパンの種類の多さは日本では見られないものだ。日本にも麦はあったのに、パンじゃなくてうどんになったからな」

 

「それぞれの国の料理、トレビアンです!」

 

 料理の話に花を咲かせていれば、玄治が玄関の方に人の気配を感じる。

 

「玄治、誰か来たわね」

 

「あぁ、そうだな。多分、加山だろ。

 だが、玄関から来るなんておかしいな」

 

「私が行きましょうか?」

 

「いやいい。俺が大神の後ろについていく。ラチェットはパーティを見守っててくれ」

 

 ラチェットと短いやりとりをしてから、椿が大神に声をかけているのを聞いて静かに後をつける。

 加山と大神のやり取りを聞いていれば、どうやら銀座文書を無事に手に入れたらしい。が、加山の一挙一動に違和感を覚えた玄治が立ち去ろうとした加山の背中をぶっ叩く。

 

「げ、玄治ぃ、なんだよ」

 

「まぁまぁそう急いで戻ることはないだろ、ちょっとこっち来い」

 

 叩いた拍子に加山がよろめいたことで確信し、加山の首根っこを掴んで地下まで引き摺って行く。

 

「玄治くん? 何をやってるの? あら、加山くん。どうかしたの?」

 

「いえ、その・・・ 玄治が離してくれないんですよ」

 

「うるせぇ、大神達にバラされたくなきゃ大人しくついてこい。

 ・・・お前、怪我をしてるだろ。しかもそこそこ深い」

 

「そ、そんなこと・・・」

 

「もう一回、背中ぶっ叩かれてぇか」

 

 玄治が低い声で脅せば、加山が脂汗を流して沈黙する。

 

「玄治くん、気づいてくれてありがとう。

 加山くんをそのまま医務室に運んで頂戴、処置しましょう」

 

「か、かえでさんまで! 俺にはこの後も調査が・・・」

 

「黙れ、今のお前に人権はない」

 

 玄治が傷口であろう背中に触れれば加山が苦痛に顔を歪め、その傷の深さを理解する。

 加山をどうにか医務室まで引き摺り、無理やり服を引っぺがし背中の傷をかえでに診せていく。

 

「まったく、華撃団の男性は皆無茶ばかりするわね」

 

 傷口の消毒を行えば加山が顔をしかめ、玄治が口笛を吹く。

 

「玄治くん、軟膏は残ってたわよね?」

 

「えぇ、ここに」

 

「自分で・・・ 「うるせぇ黙れ、怪我して帰ってきたら皆こうやって怒られてんだ。あんまし口答えするんだったら、花組の前にこの怪我晒すぞクソが」 す、すまん」

 

「玄治くん、あんまりいじめちゃ可哀そうよ」

 

 軟膏を傷口に塗りガーゼをつけ、包帯を巻いて終わりになったところでラチェットが降りてきた。

 

「玄治、何かあったの? あら加山隊長、その怪我は・・・」

 

「花組には黙っててほしいらしいぞ、怪我して帰ってきたくせに」

 

「・・・なるほどね、本当に私達の隊長は皆似た者同士で困ったものね」

 

「俺はちゃんとお前らに怒られてるし、大神も今回怒られただろ。こいつは怒らたくないから隠そうとしやがった」

 

「げ、玄治ぃ、言葉が辛辣過ぎやしないか」

 

「怪我を隠そうとしたお前が悪い。

 『全員、無事に帰ってくる』という華撃団の理念に反したのはお前だ」

 

「それ、月組もなのか!?」

 

「あぁん? なんで月組だけ例外だと思った、このボケが」

 

 座った目で加山を見下ろせば、かえでから注意が飛ぶ。

 

「玄治くん、もっと素直に『心配した』って言えない?」

 

「心配よりも怒りが勝ってるのが正直なところですね、大神はこいつの意向を汲みましたけど俺はそんなこと知ったこっちゃない。俺に無理をするなというこいつらが無茶をすることが気に入らないし、怪我して帰ってきても許さん。それは鳥組の役目だ」

 

「げ、玄治ぃ・・・ お前、俺達月組まで守ろうとしてんのかよ」

 

「アホか、当ったり前だろうが」

 

 そこでラチェットは堪えきれなくなって大きく笑いだしてしまう。

 

「フフフフ、アハハハ・・・ だそうよ、加山隊長。大切にされてるじゃない、妬けてしまうわ」

 

「ラチェット、こんな奴に妬くな」

 

「冗談よ、玄治。でも、フフ・・・ そうなりたいとは思わないけれど、加山隊長もあなたにとって特別な存在ね」

 

「気持ち悪いこと言うなよ。

 さっ、そろそろ俺達は上に戻らないと誰かが気づくだろ。片付けして、寝る準備をしよう」

 

 本気で嫌そうな顔をして加山に背中を向ける玄治に、ラチェットは医務室の扉の前で微笑みながら告げる。

 

「もう何人か怪しんでるわ。だから『玄治がいつもの癖で地下に引き籠ってるだろうから、私が連れてくる』と言って席を立ったのよ」

 

「お前らにとって俺はモグラかミミズなのか?」

 

「それならアルセーヌぐらい陽を浴びて頂戴」

 

「最近ずっと中庭にいるあいつより陽を浴びるとか無理だろ!?」

 

「玄治!」

 

 医務室から出ようとする玄治の背に、加山が声をかける。

 

「なんだよ、文句なら・・・」

 

「すまない、ありがとう。

 俺は親友の理念に反して心配をかけるところだった」

 

「わかりゃいいんだよ、今日ぐらいは医務室で大人しくしとけ。

 ・・・敵はまだ残ってるんだからな」

 

「あぁ、ありがとう。玄治」

 

 そのまま中庭に戻れば、すっかり片づけを終わらせた花組が解散するところだった。

 

「玄治、何かあったの?」

 

「ちょっとな・・・ まぁ後で話す」

 

「わかったわ。この後、あなたの部屋でいい?」

 

「あぁ、気にしてる奴らは俺の部屋に呼んでくれ」

 

「隊長達は気にしてないわ、明日は皆で観光しようって話になっていたところよ」

 

 『観光』の二字に玄治が笑い、ふと思いついたことを口走る。

 

「観光か・・・ 大神がどのチームと行くかで喧嘩にならなきゃいいがな」

 

「その可能性は大いにあり得る。

 いっそ、隊長と行動したいメンバーと僕らのメンバーで分けた方がいいかもしれない」

 

「それが無難だよな」

 

 ざっと片づけをこなし、残りは後日ということにして花組は解散していく。全員が戻ったのを見てから玄治は厨房に立ち、洗い物と残った料理を冷蔵庫にしまっていく。

 そうして作業していれば、酒を手にして玄治が仕事を終わらせるのを待ち構えているロベリアをマリアが猫掴みし、それを見て楽しそうにしているラチェットを見て笑顔になってるエリカ、かすみと楽しそうに話している花火とそれらを見守ってるレニという食堂が混沌としていた。

 

「ハハッ、なんだよ皆して」

 

 そこにいる自分の大切な婚約者達に笑みが零れ、そんな玄治を見て皆も笑う。

 

「アンタを待ってるんだよ、アンタの部屋で酒盛りと行こうぜ」

 

「ロベリア、明日もあるからほどほどになさい」

 

「フフッ、お酒を飲めない子もいるから酒盛りはまた今度にしましょう」

 

 ワインを持っているロベリアを注意しながらもウォッカの瓶を持っているマリア、ラチェットもウィスキーらしき酒を持っていた。

 

「皆さんとお酒を飲めるの、とっても楽しみです」

 

「ハカセはこの間二日酔いになったばかりだ、飲酒を反対する」

 

「そうなんですか? 玄治さん、お酒強かったと記憶しているのですが」

 

 口々に話をする皆に笑って、玄治はコックコートを脱いで定位置へとかける。

 

「ちょっとな、あの時はあんまりにも事件が進まなかったから悪酔いした。

 まぁ、まだ油断は出来ないがな」

 

「どういうことですか?」

 

「ついさっき、加山が今回の事件の鍵になる『銀座文書』っていう書物を持ってきた。今頃、大神が内容を確認してる頃だろうな」

 

「なるほどね・・・ 玄治が内容確認はいつにするつもり?」

 

「大神が持ってきてくれたら部屋で読むつもりだったが、今日渡されないなら明日にでも借りて読み込むかな」

 

「えっ、ゲンジさん、一緒に観光行ってくれないんですか!?」

 

「えっ、俺も行くことになってたのか?」

 

「どうしてハカセが留守番することになるんだろう?」

 

 レニがため息を零せば、他の面々もあきれ顔になる。

 

「いや、また風組だけ留守番とか申し訳ないだろ」

 

「なら、かすみ達も連れだせばいいってことね。

 かすみ、明日の予定は?」

 

「事務局の仕事がありますが・・・ 舞台を行ってる日ではないので私一人抜けても問題ないと思います」

 

「もしもお仕事が残っていても、戻ってきてから私達もお手伝いします」

 

 ラチェットが結論を出し、かすみの答えに花火が手伝いを申し出る。

 

「花火さん、それは悪いですよ」

 

「なんでですか? 風組の皆さんだって私達の大切な仲間でしょう? 仲間のためならなんだってお手伝いしちゃいます!」

 

「エリカ、本当にお前はどこにいても変わらないな」

 

 エリカらしい言葉に玄治が頭を掻き撫でれば、エリカが嬉しくなって玄治の腰に抱き着いた。

 

「エヘヘ、ゲンジさんに頭撫でられるの。私、大好きです」

 

「そうかよ」

 

「オイオイ、エリカ。ドクトルを独り占めすんじゃねぇよ。

 こいつはアタシらのもんだろう?」

 

 そう言って左側から巻きつくように体を密着させるロベリアをしたいようにさせつつ、右側からはラチェットが身を寄せてきた。

 

「あら? 玄治の右側は私の物よ?」

 

「おい、競うな」

 

「フフッ、動けますか? 玄治さん」

 

「慣れてるから大丈夫だ、かすみ。このまま地下の俺の部屋に行くか」

 

「玄治、少しは抵抗しないとロベリアとラチェットは調子に乗るわよ」

 

「マリアに同意する」

 

 全員を連れ立って歩けば、ちょうど支配人室から出てきた米田がその姿を見て笑った。

 

「なんだ、玄治。随分連れ立って歩いてるじゃねぇか」

 

「可愛いでしょ? 俺の自慢の婚約者達です。メルがいないのは寂しいですが、それももうすぐ解決する」

 

「おいおい、親に面と向かって惚気んのかよ」

 

「あやめさん達にも報告はしてますから、今度は皆を連れて墓参りする機会も作るつもりです」

 

「玄治、それは初耳だけど?」

 

「今決めたからな」

 

「・・・正装していかなければ失礼かしら?」

 

「気負うな、いつものお前らがいい」

 

 弾むように会話する玄治らを見て、米田は楽しそうに笑った。

 

「ククッ、お前がその様子なら心配はいらねぇな。

 あの件、しっかり頼むぞ」

 

「・・・大神にも前もって言った方がいいと思いますけどね」

 

「先に言ったらあいつは構えちまうだろう、それに今は総合演出に全力を尽くしてもらいてぇからな」

 

 二人以外よくわからない話題をあげられているが、他のメンバーは静かにそれを聞いていた。

 

「まぁ俺も大神に言ってないことがあるから人のこと言えませんけど・・・ その秘密主義、やめた方がいいですよ」

 

「そいつは迫水に対しての皮肉か?」

 

「あの人、俺のこと大っ嫌いらしいですからね」

 

 肩をすくめて大袈裟に表現する玄治に対して、米田が笑った。

 

「ハッハッハ、なんだお前、そんなことも言われたのか」

 

「それどころか、あやめさんの件で隠し事もしてるらしいじゃないですか。一体、どういうことですか?」

 

「お前、何が隠されてるのかは想像ついてんだろ?」

 

「想像は出来ても答えが出されてません。

 その答え、米田さんがこの場で答えてくれるんですか?」

 

 玄治は米田が知っていること前提に話せば、米田は肯定も否定もしなかった。

 

「そうおっかねぇ顔すんなよ、玄治。

 ほれ、お前の大事な婚約者達が見てんぞ」

 

「・・・はぁ、まだ戦いは終わってません。味方同士が隠し事するほど馬鹿馬鹿しいことはないっていうのに、いまだに賢人機関は隠し事ばかりだ」

 

「わかってるよ、その辺りも含めて今後どうにかしていくしかねぇ」

 

 これでこの話は終わりだとばかりに米田が玄治達の横を通り過ぎていき、玄治もそれ以上問い詰めることを諦めたのか深い溜息を零した。

 

「ゲンジさん、溜息をついたら幸せが逃げちゃいますよ?」

 

「じゃロベリア、捕まえといてくれ」

 

「おう、任せな。盗むのは得意だ」

 

 玄治の左肩に乗っているも同然のロベリアが玄治の頭の上あたりを掴めば、レニからツッコミが入る。

 

「ロベリアは捕まえられる方だと思う」

 

「そうそう、ロベリアを捕まえたのはあなただったんでしょう? 玄治」

 

「さぁな? 巴里警察が頑張って捕まえたんじゃないか?」

 

「玄治、あなたねぇ・・・ それは認めているも同然よ」

 

 マリアが呆れたように言えば、玄治はこればかりは反論した。

 

「おい、この件は俺、怒られる理由ないぞ。依頼主はグラン・マだし」

 

「お認めになられるんですね、玄治さん」

 

「グラン・マさんのご依頼ですか・・・ 本当に巴里では無理ばかりなさったんですね」

 

 歩きながらも皆に呆れられ、玄治は階段に気をつけながら降りていく。

 

「いや、こいつ捕まえるのは降魔に比べりゃ別に 「おい、簡単とか言ったら燃やすぞ」 だってお前、俺の実力わかったら逃げ一択だったじゃねぇかよ」

 

「そりゃそうだよ、音もなく静かに追い詰められる身にもなってみろ。生きた心地がしなかったぜ?」

 

「生き物を追い詰めるのなんざ、降魔に比べりゃ楽だよ」

 

「・・・大きな怪我をなさったのは右腕の一件だけですけど、怪人と直接戦ったのは何度かおありでしたよね? 私の時と 「コクリコの時とか一晩追いかけっこしたとか言ってましたよね!」

 

 巴里組の三人が口々に言えば、帝都組の視線が玄治に刺さる。

 

「お前ら、チクるなよ・・・」

 

「玄治、それは聞いてないわよ」

 

「そりゃわざわざ言わないだろ、怒られること」

 

「怒られることをわかっていることをどうしてしたのか。ハカセ、説明を」

 

 説明を求められながら自室の扉を開き、皆に好きなところに座らせ、自分はベッドの上に座って首をひねって思い出す。

 

「コクリコの時は、大神達を悲しませやがって苛々したからやった」

 

「言い訳がガキかよ」

 

「うるせぇ。花火の時は死んだ者を語った怪人にも、偽った誰かでもよかったと思ってた花火にも怒ってたんだよ。そしたらもう、走り出しちまってた」

 

「玄治、あなた本当にさくらのこと言えないわよ・・・」

 

 再びマリアが呆れたような溜息を零すが、玄治もまた言い返す。

 

「俺は陸軍元帥を襲撃してない」

 

「おっ? なんだよ、その話。随分面白そうじゃないか、聞かせろよ」

 

「また今度教えてやるよ。さくらと赤チビがやりやがった珍事件だ」

 

 懐かしむように目を細める玄治にそれぞれが好みの飲み物を手にし、玄治の手にも酒の入ったグラスが渡される。

 

「へぇ? あの二人がそんなことをねぇ? 流石アンタの妹分、大した肝っ玉だ」

 

「華撃団の中じゃ、俺が一番肝っ玉小さいと思うがな」

 

「一番覚悟を決めてる方に言われても、こちらが困ってしまいますね」

 

「家がある。居場所がある。家族がいて、俺の隣を歩くと言ってくれる婚約者がいてくれる。

 覚悟くらい決めないと、お前らに愛想つかされちまうだろ」

 

 そこでグラスに入った酒を一息で空にすれば、マリアが玄治に注意する。

 

「玄治、一息で飲み切るのはよくないわ。酒は意識してゆっくり飲まないと、また悪酔いするわよ」

 

「あぁ、すまんすまん。ついな。

 本当に、メルがここにいれば完璧なのにな」

 

「婚約者を全員揃えたいの? 随分欲深くなったわね、玄治」

 

 ラチェットがからかうように告げれば、玄治は認めるように大きく頷く。

 

「俺をそうしたのはお前らだよ。お前らがいるともっと、もっと欲しくなる。過去も、未来も、そしてその先すらも。

 俯いてた俺を変えた責任取りやがれ」

 

「ふふっ、責任重大ですね。貴水博士を変えた、なんて」

 

「そうですね、しっかり支えてさしあげないと」

 

「ゲンジさん、寂しん坊ですもんね」

 

 楽しそうに笑う皆を見ていれば、控えめなノックの音が響いた。

 

「玄治、起きているか?」

 

「あぁ大神か、入ってきていいぞ」

 

「玄治・・・ うわっ、皆もいたのか」

 

 大神が勢ぞろいした皆に驚くが、玄治は少しも気にせず大神が持っていた本に気づく。

 

「それが銀座文書、か」

 

「あぁ、俺とかえでさんは目を通したから玄治も目を通しておいてほしい」

 

「わかった。ここにいる皆と共有しても?」

 

「かまわないよ、このメンバーなら口も堅いだろうしね。

 それじゃ、俺はこれで」

 

 文書を玄治に渡したところで大神は座ることもなく、すぐに去ろうとするので玄治が呼び止める。

 

「なんだ、もう行くのか? ゆっくりしてけよ」

 

「いや、このメンバーと酒を飲んだら明日にさわりそうだから遠慮するよ」

 

「だとさロベリア、警戒されてるのお前のせいじゃね? お前がグリシーヌに余計なことを吹き込んだせいだろ」

 

「いやいや、アタシじゃないだろ。きっとラチェットだろ、いつも舞台で厳しく目を光らせてんだろ?」

 

「あら、私はそんなことしてないわ。警戒されるならマリアでしょう? 舞台でも、戦闘でもいつも大神隊長を見ているもの」

 

「そんなことないでしょう。私よりも事務局で厳しくしているかすみじゃない?」

 

「責任をたらい回しにして、最後に私に放り投げないでくださいね」

 

「僕は全員だと思う」

 

「レ、レニさん・・・」

 

「で、どうなんですか? 大神さん」

 

 レニが最後の呟きとエリカの問いかけに、全員の視線が答えを求めるように大神へと突き刺さる。当の大神は苦笑いしか出来ず、両手をあげる。

 

「いや、単純に今日はもう疲れたから休みたいだけだよ。

 皆も歓迎会もあったんだし、そんなに遅くまで飲まないようにな」

 

「あぁ、ほどほどにするさ。おやすみ、大神」

 

「おやすみ、皆」

 

 大神を見送り、扉が閉まると同時に玄治は銀座文書に目を通していく。

 

「なるほどな、帝都を・・・ いや徳川幕府を栄えさせるだけじゃなく、この土地の魔を封じる役をこなしていたのか」

 

「けれど、幕府には天海がいたわよね?」

 

「あぁ。天海同様に幕府の有力者の一人だったんだろうな。

 銀の魔を退ける能力を活かし能によって魔を封じていた一族、それが金春の一族の役目とされた。銀と対なすのが金というのなら、金は魔を呼ぶ能力もあった可能性が高い。だが、銀座と並んで存在した筈の金座はもうない。そして、その一族も・・・」

 

「もういないのね・・・ それはどうしてかしら?」

 

 その瞬間、玄治の脳裏にある映像が流れだす。

 

 

 

 

 思い出す。思い出す。

 あの日(・・・)を、思い出す。

 両親があのバケモノに殺されていく瞬間を、自分に危機が迫ったあの時を。

 

「父さん!」

 

 母を守って、父が死んでいく。

 

「生きろ! お前達は逃げ延びてくれ!」

 

 父の叫びは痛みではなく、母と自分を想うもの。

 

「母さん!」

 

 母が自分を守って死んでいく。

 

「あの子には指一本触れさせません!

 生きなさい! 私達の分まで強く・・・ 生きて!」

 

 その叫びもまた自身のためではなく、子を想う親心。

 

「ああああぁぁぁぁあぁ!」

 

 けれどあの日、一番絶望したのは

 

 

 

 

「玄治さん、玄治さん、いかがなさいましたか?」

 

 花火の言葉に我に返り、左手で握りつぶされたグラスと痛みに気づく。

 

「あ、あぁ・・・ すまん。なんでも 「『なんでもない』顔色ではないですよ、玄治さん」 悪い、ちょっと自分でも戸惑ってるんだ」

 

 左手を開けば酒だけでなく血に汚れており、銀座文書が濡れないようにベッドへ置く。

 

「ゲンジさん、手を怪我していますよ」

 

「・・・何を見たの? 玄治」

 

 エリカが左手を取って霊力で包み込んで傷を癒し、マリアが問い詰めれば玄治は青くなった顔を隠すように右手で顔を覆う。

 

「俺の、両親が死ぬところだ・・・」

 

「記憶を、思い出したのですか?」

 

「わからん、断片的に突然脳裏に浮かんできた。

 降魔が両親を殺してたよ、俺は両親に守られた。それは確かだ、真実だってわかる」

 

 あの映像は確かに己の過去だとわかる。

 だが、まだ全てじゃないということも何故かわかってしまう。

 

「でも、まだ何か開きかけてる。今のが全部じゃない」

 

「ハッ、まさかアンタが今回の黒幕の一族とかか?」

 

「・・・既に存在しない一族、根絶した金春流、敵魔操機兵がつけていた能面、全てが偶然なんてありえない。

 こりゃ降魔に全部を滅ぼされたって可能性も怪しくなってきたな」

 

「まさか政府が意図して、あなたの一族を滅ぼしたとでもいうの?」

 

「金が魔を呼び、銀が魔を滅する。どちらも自在に操るのなら反魂の術もそう難しいことじゃない。そして、力も富もある一族なんて邪魔な存在の筆頭だ」

 

 ラチェットの考えを遠回しに肯定しつつ、玄治は左手で脂汗を拭う。そこにレニが水を差しだしてくる。

 

「ハカセ、無理しないで。辛いなら辛いでいいんだ」

 

「あぁ、辛い。辛いさ、わかっていたとはいえ・・・ でも、嬉しくもあるんだよ」

 

「嬉しい、ですか?」

 

「ゲンジさんのご両親は最期までゲンジさんを守ってくださったんですね」

 

「あぁ・・・ 俺の両親は」

 

 そこで玄治の両目から涙が流れ、咄嗟に顔を左手で隠しながら口元から漏れ出そうになるすすり泣く声を必死に殺す。

 

「最後まで俺を守るために死んだ。俺に生きろと、叫んでいた」

 

 その言葉に花火が目を見開き、想いに寄り添うように玄治の涙を拭うためにハンカチを頬にあてる。

 

「思い出せて、よかった・・・!

 俺を想ってくれた気持ちは確かに受け取れた」

 

「あなたは実の両親にも似てたのね。ところで、あなたの本名は思い出せた?」

 

「いや、名前は呼ばれてなかったな。でも、本名を思い出しても俺はこの名前を捨てる気はないぞ」

 

 ラチェットの問いかけに首を振れば、ロベリアが笑う。

 

「どちらか選ぶ必要なんざない、どっちもアンタのもんなら二つとも名乗りゃいい。思い出したら、アタシらに一番に教えな」

 

「そーですよ! どっちもゲンジさんなんですから」

 

「そうだな・・・ 本当にそうだ、俺はこんなにたくさんの家族に囲まれて幸せ者だよ」

 

 そして、玄治はモニターにいじりメルに通信をすれば数コールでメルが出てくれた。まだ夕方で忙しいだろうに、メルは嬉しそうに笑う。

 

「どうかなさいましたか? 玄治さん」

 

「いや、顔を見たくなったんだ。このメンバーの中で、メルだけいないのは寂しくてな」

 

「フフッ、玄治さんは寂しがり屋ですもんね」

 

「おい、エリカと同じこと言うなよ。

 でも、そうだな・・・ 本当に俺は寂しがり屋だよ。お前達がいないなんてもう考えられないし、俺はたくさんの人に助けられて生きてきたんだってわかった」

 

「何かあったんですか?」

 

 玄治の様子に違和感を覚えたのか、メルが画面に映る他の面々に聞けば、温かい視線の中でレニが頷く。

 

「ハカセがハカセになる前の記憶を・・・ 実の両親の記憶を少しだけ思い出したんだ」

 

「それは・・・! 本当に良かったです!

 迫水大使から聞いています。玄治さんはドクトル山崎さん達の会う前の記憶がないと」

 

「花火、あのクソボケ大使の口、今度縫っといてくれないか?」

 

「げ、玄治さん、私が無理に聞き出したんですからそんなことおっしゃらないでください」

 

「今度から俺に聞いてくれ、あのクソボケ大使から聞くよりも俺本人から聞いた方が確実だろ? それに会話も出来て一石二鳥だ」

 

 『クソボケ大使』を愛称にしようと企てる玄治に、呆れたようにラチェットとマリアが顔を見合わせる。

 

「高名な迫水大使のことをここまで悪く言えるのは玄治くらいなものよね」

 

「悪く言えるというよりも、『敵意むき出しに出来るのは』がより正確じゃない? ラチェット」

 

「どっちでも同じですよ、お二人とも」

 

 かすみが呆れて溜息を零せば、玄治は笑う。

 

「あぁ、良い夜だ。俺の大切なもの、全部がここにあるっていうのは最高に気分がいいな」

 

 そうして夜は更けていく。大切なものに囲まれて幸せな気持ちになりながら、皆と共に眠りに落ちるのであった。

 

 




せっかく二つの花組が揃っているんだから 皆で何か楽しいことが出来るといいよなぁ
この大所帯が全員で行動って かなり絞られるぞ?
うーん 何か良い案があるといいけど
次回 『花見の宴 出発前』
太正桜に浪漫の嵐! 愛の御旗のもとに
そうだ 皆で桜を見に行こう!
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