サクラ大戦 貴水玄治物語   作:無月

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➉託されていた願いと希望

 大神がちゃんと服を着てサロンに到着したところで、全員がざわつくよりも早く玄治が高い身長を生かして大神のガッチリと肩を掴んだ。

 

「大神、とりあえず一発殴らせろ」

 

「えっと・・・ 本当にすまない! 玄治の婚約者達の裸を見てしまっ「やっぱり見やがったか、この野郎!」

 

 大神の発言で疑惑が確信に変わり、玄治も本気で暴れてないのか花組の面々によって押さえつけられていく。

 

「玄治、あなたが本気で殴ったら隊長が無事では済まないからやめなさい」

 

「私達は気にしてませんから」

 

「俺が気にするんだよ! っていうか婚約者の裸みられてどうとも思わない男が居たら、そいつ普通に頭おかしいだろ!」

 

「その通りですけど、玄治兄さんが殴ったら大神さんが怪我しちゃいますから」

 

「それを怪我人だった俺に決闘を吹っ掛けたお前が言うのか、さくら」

 

「玄兄、とりあえず黙りや。玄兄が怒るのも無理ないことやけど、まずはウチらと大神はんの話し合いをせなあかんやろ」

 

「むっ・・・ それはそうだな」

 

 紅蘭の一言に『もっともだ』と頷き、玄治が両腕を組んで黙り込む。

 

「で、どういうことですの! 中尉!」

 

 気を取り直してすみれが問いかければ大神は再び縮こまれば、グリシーヌが畳みかける。

 

「心して応えよ、返答次第によっては私にも考えがある」

 

「そ、それは・・・ その・・・」

 

「グリシーヌ、そんな言い方をしたら答えにくくなるでしょう。冷静になって」

 

「花火さんの言う通りです。

 いくら大神さんが皆に結婚の話をした上に覗きをした容疑がかかってるからって、まずは話を聞かないと駄目ですよ!」

 

「あ・・・ ありがとう、エリカくん」

 

 フォローになってないどころか改めて現実を突きつけられ、大神が肩を落としかければそこに米田が現れ、全員の視線が集中した。

 

「おっ? 皆揃ってどうした?」

 

「支配人、それがその・・・」

 

 さくらが代表して状況を米田に説明すれば、米田はしっかりと頷いて話を聞いてから場を仕切った。

 

「この話は一旦、俺が預かる」

 

 米田の鶴の一声で皆が顔を見合わせるが、米田はさらに続ける。

 

「悪いが大神と玄治に話があるからちょっと連れて行かせてもらうぜ。

 マリア、かすみ、この場は任せた」

 

「了解しました」

 

「はい、お任せください」

 

 二人の気持ちのいい返事を聞く中で、ラチェットが挙手しながら告げてくる。

 

「ミスター米田、私も同席してもかまわないかしら?」

 

「今はここにいてくれ、詳細は玄治から話を共有すりゃいい」

 

「了解」

 

 あっさりと頷き玄治に視線を向けるラチェットの意図を理解して、玄治も頷いた。

 

「そうそう、マリアとかすみばっかりにこいつらの面倒を見させるなんて大変だからな」

 

「ですわねぇ、私のように落ち着きを持って接する大人の女は少ないですから」

 

「そう言いながら、さっき最初に大神さんを問い詰めようとしたのはすみれさんですけど」

 

「何か言いまして? さくらさん」

 

 後ろで別の小競り合いが始まるのを聞きながら、米田に付き従う形で玄治と大神も続く。

 

「げ、玄治、その・・・ 本当にすまない」

 

「今度から大浴場使うのは気をつけろ・・・ ここが女所帯だってことはわかってるだろ」

 

「あぁ、気をつけるよ」

 

「今度同じことあったら、裸のお前を薔薇組の前に差し出すからな」

 

「怖いこと言わないでくれよ、玄治」

 

「冗談だと思うか? 俺は本気だ」

 

 そんな軽口を叩きながら支配人室につけば、そこには銀座文書を手にしたかえでが立っていた。

 

「玄治は既に知っているが、昨晩加山が正体不明の者に襲われ重傷を負った」

 

「加山が!? まさか銀座文書に関係が!?」

 

「多分な。おそらく知られたくないことがこの文書には書かれているんだろう」

 

「大神くんも玄治くんもわかっていると思うでしょうけど、この文書には銀座の成り立ちについて書かれているわ。

 そこには『所務奉行 大久保長安、佐渡・石見の鉱山開発に尽力し、金座・銀座を築く。

 大久保長安、能楽師にして呪術士なり。異形の業もって、金銀掘る。江戸を作るに貢献するが、民に裏切られし後に天海僧正に殺められる。

 ゆえに大久保長安、己が作りし江戸を呪う怨霊となれり』とあったわ」

 

「つうことは、敵の正体は・・・」

 

「大久保長安、ですね」

 

「そうだろうな」

 

 かえでが呼び上げた文書の内容に米田と大神が黒幕に確信を持ち、玄治は黙って聞いていた。

 

「アイリスと大神くんが能の舞台で見た謎の影も長安の霊では?」

 

「天才と言われた能楽師だったならあり得るだろうな。能とはこの世とあの世を繋ぐ舞、長安の舞はそれだった。まさしく反魂の術だったんだろうよ。

 山崎や京極も長安の術を学んだのかもしれない」

 

「長安は鉱山の開発にも死人を使っていたようです。反魂の術を知った幕府は長安の霊力を恐れ、天海に暗殺させた。そして、異形の業を使うことから江戸の人々からも恐れられ、見捨てられた。

 言ってみれば、自分の愛した子ども達に殺されたも同然ね・・・」

 

「だからと言って、今の帝都を破壊することを許すわけにはいきません!」

 

「勿論だ。帝都には大切な奴らがいるんだからな。

 で、玄治? さっきから黙ってどうした?」

 

 さっきから沈黙していた玄治に米田が視線を向ければ、玄治は苦笑いする。

 

「この状況で言いにくいんですけど・・・ どうやら俺、その大久保長安の末裔らしいんですよね」

 

『!?』

 

 三人の驚愕の視線を浴びながら、玄治は苦笑いするしかなかった。

 

「オメェ・・・ 思い出したのか?」

 

「えぇ、今回の事件が起きてから頭痛が酷かったんですけど、昨夜銀座文書を読んでから今日の花見で全ての記憶が思い出しました」

 

「でも、大久保長安は暗殺されたんじゃ・・・」

 

「あぁ、大久保長安は確かに殺された。

 でも、大久保長安は最期の力を持って妻と子を逃がした。能の日、俺はそんな幻覚を見たんだ」

 

「でも、あなたの一族は再び帝都に戻ってきていたのよね? 幕府はそれを知っていたの?」

 

「えぇ、名を窪塚に改めて一族は能楽師として再びこの帝都に戻ってきていました。そして、能楽師としての役を務め、なんら変わらず生活していた。

 降魔と政府に全てを壊される、あの日まで」

 

 玄治の言葉にその場の全員が息を飲み、目を疑った。

 だが、玄治は怒りを露にすることもなく、苦笑いしか浮かべていない。

 

「降魔にとっては異界の門を封じる一族を滅ぼすこと、幕府にとっては江戸を恨んだ者の力ある一族を恐れて・・・ 偶然にも二つの勢力の利害は一致して、降魔と政府の人間が窪塚の一族を滅ぼしました」

 

「なんてことを・・・!」

 

 かえでが口元で手を覆い告げれば、玄治は続けた。

 

「そして俺はその生き残り・・・ 窪塚の宗家の跡取り、名は兼敏と呼ばれていました」

 

「兼、か。金春流の金に因んでるってわけか・・・

 で、オメェはそれを思い出して、これからどうする気だ?」

 

 米田の真剣な問いかけに、玄治はまっすぐと見返した。

 

「米田さん。殺される可能性があるにもかかわらず窪塚の一族がどうして帝都に戻ってきたか、わかりますか?」

 

「・・・すまねぇ、軍人としては幕府が危険視するようなことをしたんじゃないかと思っちまう。

 だがお前のその言い方、違うんだな?」

 

「窪塚の一族は、この地を愛していました。

 『責務ではなく、一族が愛し、育み、出会ったこの場所を守りたい』と、父も、母も、ガキだった俺にそう笑顔で言ったんです」

 

 玄治は拳を握り締め、堂々と胸を張って告げる。

 

「俺は窪塚兼敏としても、貴水玄治としても、この地を守らなきゃいけなくなった。そして、祖である大久保長安に一族の想いを伝えなきゃいけない」

 

「玄治、お前・・・」

 

「こんな俺を受け止めると言ってくれる大切な存在がここにはいるんですよ、米田さん」

 

「そうか、そうだよな。おめーはもうあの時のボロボロだったガキじゃねーんだな。

 本当に大きくなりやがって」

 

 玄治のその姿に米田は肩の荷が下りたように笑い、大神の方にそのまま視線を向けた。

 

「で、大神よ。花組の奴らに結婚を申し込んだってのは本当か?」

 

「いい!?

 それはその、舞台の演出のことで聞いただけで・・・」

 

「それであいつらが勘違いしたってわけか。ったく、しょうがねぇ奴らだな」

 

 突然話題を変えられた大神が狼狽え、理由を聞いた米田が八割がた話の察しがついたらしい。

 

「まっ、わからんでもないがな。勘違いするってことはそんだけお前に期待しているってことだ。

 花の命は短いぜ? この戦いが終わったら考えてみてもいいんじゃねぇか? そこに覚悟を決めた良い手本がいるだろ?」

 

「し、支配人・・・ 玄治ほど覚悟を決められる奴なんて世界中探してもそうはいないかと」

 

「おい大神、どういう意味だ」

 

「ハッハッハ、そりゃそうだ」

 

「大神くんの言う通りね。でも、その覚悟も花組やあなたの支えがあってのことよ。

 しっかりしなさい、隊長さん」

 

「まぁ、話はわかった。

 結婚疑惑については明日にでも俺が話しといてやるよ」

 

「支配人、ありがとうございます。よろしくお願いします」

 

 そこで話を切り上げ、大神と玄治が支配人室を出れば待っていたらしいマリアが立っていた。

 

「マリア・・・ 皆は?」

 

「今は全員自室に戻って休んでいます」

 

「そうか、ありがとう。

 マリアも今日は休んでくれ」

 

「はい。おやすみなさい、隊長。

 玄治、話は明日聞くわね」

 

「あぁ、おやすみ」

 

「おやすみ、マリア」

 

 マリアが二階へと昇っていく中、玄治も大きく伸びをする。

 

「流石に今日は疲れたな」

 

「その・・・ 本当に悪かったよ、玄治」

 

「いいってもう。マリア達が怒ってないなら俺がいつまでも怒っても仕方ないだろ」

 

「でも・・・」

 

「今日はもうお互い疲れただろ、さっさと布団に入って寝ちまえ」

 

 まだ謝ろうとする大神の背中を押して、二階に行くのを確認してから玄治もいつもの日課をこなしてから大人しく自室へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 しかしその夜、事態は動いた。

 帝都中のありとあらゆる場所から金色の蒸気が噴き出し、地下にあるミカサが帝都上空へと浮かび上がる。

 そして、ミカサの姿が変わっていき、甲板には禍々しい顔のような物が張り付いていた。

 

 

 

 

 

「クソがっ! 前回の戦闘で主導権は奪われてたって言うのか!」

 

 大神が指令室で全員の無事を確認している中、自室から指令室にいる風組と共に状況把握に努めている玄治は声を荒げていた。

 

「金の蒸気を吸い込んでいた時点で気づくべきだったわね・・・ しかも、上空という相手からはこっちをどうとでも出来る戦況も最悪ね」

 

「いつ砲撃が始まってもおかしく・・・ 「ミカサからの砲撃が始まりました! 王子・日比谷・赤坂に着弾!」 チッ! 始まりやがったか!」

 

「各地で蒸気機械暴走。魔操機兵の残骸も再起動をし、破壊活動を開始しました!」

 

「金色の蒸気が関東全域を覆っていってます!」

 

 風組からの指示と被害で赤く染まっていく帝都の地図に焦る中、玄治は一つの案を思い浮かぶ。が、脳裏をよぎった案を口にするよりも早く米田から指示が来る。

 

「玄治、ラチェット、お前らも指令室に来てくれ」

 

『了解』

 

 米田からの指示に二つ返事で答え、玄治は愛刀を手にして指令室に行けば場は静まり返っていた。

 

「玄治、ミカサを撃破する。

 お前からは何か案はあるか?」

 

「大神達がミカサを沈めるのなら、俺が地上の金色の蒸気を鎮めます」

 

 玄治の発言の意味がわからず花組からざわつきが生まれ、代表するようにさくらが問うてくる。

 

「玄治兄さん、それってまさか・・・」

 

「想像通りだ。

 俺は江戸を追われ、民に疎まれ、幕府によって暗殺された怨霊・大久保長安が命懸けで守った家族の子孫だったってわけだ」

 

 しれっとした顔で黒幕との血縁を告げても、花組の面々は驚く顔はしても反対意見を口にするようなことはない。

 そんな中で、エリカが確認するように再度問いを口にした。

 

「それは・・・ でも、そんなこと出来るんですか?」

 

「お前らがミカサを撃破する以上、俺も不可能を可能にするしかないだろ」

 

 重い沈黙の中で、最後にかえでが問う。

 

「・・・本気なのね、玄治くん」

 

「えぇ、本気ですよ。この地を鎮め守ることも、祖である大久保長安の怨霊を鎮めることも窪塚の悲願。

 それに・・・ ここには大切な思い出がありますから」

 

 そう言って玄治が笑えば、皆が笑いだす。

 

「なんだよ、玄さん。結局、あたいらが大切だって話かよ?」

 

「玄兄、ウチらのこと好きすぎやろ。

 あ、ちゃうか? ウチらじゃなくて、たーいせつな婚約者達のことか? ん?」

 

 カンナの言葉に紅蘭が乗っかれば、玄治は溜息をつきながら答える。

 

「全部だよ」

 

「あら? 貴さん、聞こえませんわよ?」

 

「そう煽ってやるな、すみれ。

 しかしドクトル、男ならもっと通る声を出したらどうだ?」

 

「グリシーヌさんも煽ってまーす」

 

 耳に手を当ててわざとらしく聞くすみれにグリシーヌと織姫が続き、アイリスとコクリコも笑って続いていく。

 

「おじちゃん、大きな声でもういっかーい!」

 

「舞台の上だったらそんな声の大きさじゃ届かないよ?」

 

「ここ、舞台じゃないだろ・・・」

 

 しかし、さくらは顔を曇らせて心配そうな視線を玄治に向ける。

 

「で、でも玄治兄さん、いくらなんでも一人じゃ無茶ですよ」

 

「一人じゃないわ」

 

 さくらの言葉をすぐにマリアが遮り、玄治の隣にマリアとラチェット、レニ。エリカと花火、ロベリアが立った。

 

「ハカセは僕達が援護する」

 

「ゲンジさんのことはどーんと私達に任せちゃってください!」

 

「私達が玄治さんをしっかりお守りいたします」

 

 レニが力強く、エリカがいつも通り笑顔で、花火が堂々と言っている中、ラチェットが笑みを零す。

 

「玄治の初舞台を一緒に立てるなんて・・・ 最高の思い出になるわ」

 

「混乱する街のど真ん中が初舞台ってか。

 流石世界のタカミ、ぶっ飛びすぎてて最高じゃないか」

 

「勿論、私も援護します」

 

 ロベリアも腹を抱えて笑い、仕事ゆえに手を離せないかすみもマイクで告げてくる。

 

「ちょっと待った!」

 

 そんな中突然降ってきた声に全員が画面へと視線を向ければ、画面にはグラン・マが映っており、メルとシーも立っていた。

 

「アタシ達も力になるよ」

 

「情報をこちらに送ってください! 分析は私達が担当します!」

 

「帝都風組の方々は出撃後、花組の皆さんの援護に回ってくださぁい!」

 

 そして、大神や玄治へと三人が視線を向ける。

 

「ムッシュ、ドクトル、アンタらが戦うならアタシ達だって力になる。少しは頼りな」

 

「私達だって華撃団の一員なんですから」

 

「玄治さん、あなたを守らせてください」

 

「グラン・マ、メルくん、シーくん、ありがとうございます!」

 

「ご助力感謝します。グラン・マ。

 ありがとう、二人とも」

 

 三人に感謝を告げていれば、米田がその姿を見て嬉しそうに笑いだす。

 

「ハッハッハ! お前、本当に変わったな!」

 

 玄治の肩に手を置き、互いに視線を交わし合う米田と玄治の間に言葉はいらなかった。

 

「・・・本当に、大きくなりやがって」

 

「それも全て米田さん達が、俺を拾って育ててくれたからですよ」

 

「そーかよ」

 

 感慨深いような、誇らしそうな顔をしてから、米田は花組へと視線を向けて手を鳴らした。

 

「よし、そうと決まれば作戦の決行は一時間後だ。

 皆、それまではゆっくりと過ごしてくれ」

 

 米田の解散の言葉に皆がそれぞれ散っていく中、かえでが大神と玄治に向けて言う。

 

「二人とも、花組のことをよろしくね」

 

「はい、わかりました」

 

「逆に俺達の方が慰められるかもしれませんよ?」

 

「ふふっ。そうなったらなったで、どちらにとっても良いことだわ。

 しっかり休むようにね」

 

「はいっ!」

 

「えぇ」

 

 かえでの言葉を受けて大神は皆を探すように歩き出し、玄治の足は自然と自室へと向かっていた。

 

 

 

 

 

 玄治が自室の扉を開けばそこには待っていたとばかりに紅茶やコーヒー、お茶の香りが漂い、視線を向ければエリカが皆に飲み物を配っている。三人掛けのソファに花火とかすみが中央の場所を開けて座り、ロベリアが玄治のベッドに寝そべっている。レニがベッドの端に座り、マリアとラチェットがかすみと花火が座っているソファの対面のソファに座っていた。

 

「なんだ皆、ここで待っててくれたのか?」

 

「えぇ。あなたがどうやって金色の蒸気を鎮めるつもりなのか、全員とても気になっているのよ」

 

「・・・俺を言及する会の集まりだったか」

 

「言及する会なんてとんでもない、あなたのことが大好きでたまらない婚約者の集まりよ?」

 

 玄治の言葉をすぐさまラチェットが否定し、エリカがうんうんと頷く。

 

「玄治さんが考えなしに金色の蒸気を鎮めるなんて言ったんじゃないかって、皆不安なんですよ」

 

「それ、オーク巨樹に祈るとか突飛なこと言い出したお前にだけは言われたくない。

 まぁ聞けって」

 

 一人掛けの大きなソファに座れば玄治の分の紅茶がすぐに用意され、紅茶を口にする。

 

「あぁ、うまいな。

 紅茶入れるの凄くうまくなったな、エリカ」

 

「エヘヘ、いっぱい練習したんですよ」

 

「おいドクトル、紅茶が美味いとか言って誤魔化されねーぞ。

 アンタが黒幕の生き残りだってのはわかったが、それ以外はもう一つの名前ぐらいしか言ってないんだからな」

 

「そういえばそうだったな、あとは家族で見た桜が綺麗だったことぐらいか?」

 

「はい、おっしゃる通りです。

 ・・・思い出すのが辛いのなら、無理には聞けませんが」

 

 花火が気遣うような言葉に玄治はすぐに首を振る。

 

「辛いには辛いが、全ては想定内だったよ。

 俺の一族は一度ならず二度までも降魔と幕府によって謀殺されて、俺はその生き残りってわけだ」

 

「戻ってきた理由はなんだったの?」

 

「一族の悲願として掲げられたのは、『祖である大久保長安を鎮めること』。

 だが、本来の理由はこの地を愛していたからだったよ」

 

「愛していた? 一度は追われ、二度目は一族もろとも殺されたのに何故?」

 

 優しい声で語る玄治にラチェットが厳しい視線を向けてくるのは、玄治に代わって怒ってくれているのだとわかる。

 

「長安はな、元々帝都の人間じゃなかった。佐渡や石見の銀山を持つ有力者の一族であり、そんな時江戸幕府から声がかかって江戸の繁栄に尽力をした。

 そしてそんな日々で長安は妻となる女性と出会って、子を成した」

 

「・・・まさか、それが理由なんですか?」

 

 かすみの問いかけに、玄治は笑って答える。

 

「そうだよ。俺の一族はな、もう一度帰ってきたかったんだ。

 愛した人と巡り合い、祖が力を尽くしたこの地を守りたくて・・・ そして、祖が安らかに眠れるように」

 

「怨霊として封印されてしまった長安が安らかに眠れるように、あの世とこの世の橋渡しをしようとしていたってこと?」

 

 レニの確認するような発言に玄治は頷く。

 

「当然大久保の名を名乗ってはいけない、封印に触れることも出来ない、墓どころか名すらも厳重に管理されるほどの人物だ。手どころか指先すら届かない状況に、一族は悩んだ末に自らの名を墓標とし、長い時間をかけて祓うことを選んだ。そうすることで未来があることを信じて、な」

 

「だってのに、二度目の裏切りにあったってのかよ。胸糞わりぃ」

 

「その通りだ。俺の政府嫌い・軍人嫌いは筋金入りってわけだが・・・ そんな俺はこの地で先生達とお前達に巡り会った」

 

 そして、玄治は愛刀を腰から抜いて鞘で床を叩く。

 

「正義のためじゃない、人々なんざどうなろうと構やしない。

 俺は、お前達に会えたこの地を守る。そして、金春流の末裔として祖の魂を鎮める」

 

「そこに他の人の笑顔もあれば完璧ですね!」

 

 真剣な顔をしていた玄治にエリカのツッコミが入ったことで空気が緩み、部屋のあちこちから笑いが漏れる。

 

「俺にとっちゃ世界の平和なんてお前らの幸せのおまけだからな、他のことは大神に任せた」

 

「隊長に押し付けるのはやめなさい、玄治」

 

「他のことは全面的に援護するんだ、これぐらいはいいだろ?」

 

 玄治の言葉に全員が笑ったり、苦笑いしたりしている中で、かすみが我に返ったように聞いてくる。

 

「話は戻りますけど、金色の蒸気を鎮める方法は能の舞を行うことでいいんですか?」

 

「あぁ、金春流の舞を舞う」

 

「それは神楽舞とは何か違うんですか?」

 

「一族相伝の舞があるんだよ。

 物心ついた子どもにだって『人前では舞ってはいけない』『親類縁者以外には教えてはいけない』って言い聞かせるにもかかわらず、一族の冠婚葬祭では必ず舞われていた舞がな」

 

 そこで玄治が意味ありげに笑えば、全員が察しついたような顔をする。

 

「けど、一族が長いことかけてた怨霊をドクトル一人で祓えるのかよ?」

 

「お前らが居てくれるんだろ?」

 

「玄治くん、ちょっといいかしら?」

 

 突然ノックの音とかえでの声が廊下から響き、全員の視線が入口へと集中する。

 

「かえでさん、どうかしましたか?」

 

 玄治が扉を開けば、そこには手に何かを持ったかえでが待っていた。

 

「かえでさん、それは・・・?」

 

「少しいい?」

 

「えぇ、どうぞ」

 

 かえでを招き入れれば、彼女は腕に抱えていた物を広げる。

 それは、身長のある玄治に合わせて作られたと思われる銀の装束だった。そして、玄治はその装束の形に見覚えがあった。

 

「これは金春流の・・・ でも、どうやって・・・」

 

 それは思い出した記憶の中にあった、亡き実父が纏っていた装束と同じ物だった。

 

「玄治くん、あなたは姉さんの霊力の性質を知っている?」

 

「えっ・・・ いや、知りません。一馬さんが破邪の力であったことぐらいしか」

 

「姉さんの能力は予知だった。そして姉さんは、あなたに会った時にある予知を見たわ。

 それは花組という未来と、大人になったあなたが銀の装束を身に纏って舞う姿だった」

 

 かえでの言葉に玄治は言葉を失い、視線は装束とかえでを行き来する。

 

「ま、待ってください。

 じゃぁあやめさんは、俺が金春流の人間だって知ってたって言うんですか?」

 

「いいえ、違うわ。

 姉さんの予知はそんなに何もかもわかるような万能とは程遠い、かかわった人間にいつか起こるかもしれない未来を見てしまう程度のものだった」

 

「そんな不確定なものを予知って言っていいんですか?

 大体それだけじゃ俺が、大久保長安と手を取って帝都を破滅させる可能性だってあったじゃないですか」

 

「玄治、落ち着きなさい。

 かえでさん、あやめの予知が真実だと示す証拠はあるんですか?」

 

 落ち着かない玄治とかえでの間にマリアが立ち、質問すればかえでは全員を見渡した。

 

「今ここにあなた達が居ることが証明だと言えば、わかるかしら?」

 

「・・・あやめが世界を回っていたのも、花組の基礎を作ったのも予知あってのことだと?」

 

「違うわ、姉さんの予知はそんな万能じゃない。

 けれどこの未来に辿り着くために、あなた達に会うために行動したのは事実だわ」

 

「あやめさんは・・・ どこまで知っていらしたんですか?」

 

「私も詳しくは聞いていないけれど、迫水大使や花小路伯爵はこのことをご存知だわ」

 

 かえでのその言葉にロベリアが納得したのか、クスクスと笑いだす。

 

「・・・なるほどねぇ、あいつがドクトルを毛嫌いしてたわけもこれで納得だな」

 

「大使は万が一のことを考えてらっしゃったんですね・・・」

 

「でも、アヤメさんはゲンジさんをずっと信じてたんですね!」

 

「俺を・・・ 信じてた?」

 

 エリカの言葉に玄治は装束に視線を落とし、くしゃりと顔を歪めた。

 

「でも俺は、俺は・・・ あんなにもいつ間違ってもおかしくなかったのに」

 

「でも、あなたは姉さんが見た未来に辿り着いてくれた」

 

 自分よりもはるかに大きい玄治の頭を撫でよう伸ばされた腕に、かえでは肩までしか届かない事実に微笑んだ。

 

「あなたは姉さんにとって希望だったのよ」

 

「俺じゃないでしょ・・・ 俺だけじゃ、希望にならなかった」

 

「結果的にはそうかもしれないわ。

 でも、あんな救いのない戦いの中で生き残ってくれていたあなたは姉さんや山崎さんにとって貴い命であり、光及ばないと思っていた世界を塗り替えてくれた存在だった。

 あなたこそがこの地の澱みを治めてくれる存在だと、二人は信じていたのよ」

 

 『貴水玄治』の名になぞらえるように伝えられる言葉に、玄治は笑って胸を張った。

 

「そりゃそうですよ、俺は先生達に育てられたんですから」

 

「えぇ、それに玄治には私達がいるもの」

 

 ラチェットが玄治の右腕に絡みついてくれば、エリカが背中から腰に飛びついてきて、ロベリアが左腕に寄り添い、レニが服の裾を掴み、マリアとかすみと花火が後ろに続く。

 

「ふふっ、姉さんは賭けに勝ったわね。

 政府は勿論軍も、賢人機関すら信じなかった未来を姉さんは勝ち取った。

 そんなあなた達が負けるなんて世界がひっくり返ってもあり得ない、そうでしょう?」

 

 かえでの問いかけにその場にいる全員が頷きながら、玄治は改めて装束を胸に抱き、きっぱりと答える。

 

「えぇ、任せてください。

 金春流の窪塚兼敏であり、帝国華撃団・鳥組隊長 貴水玄治が大久保長安の魂を鎮めて見せますよ」

 

 




大神さんと玄治兄さんが連れて行かれちゃいましたね・・・
ハカセはともかく原因である隊長がいないと話し合いも何も出来ない
いえ むしろ好都合だわ 大神隊長にもだけどあなた達にも言っておきたいことがあったもの
次回 『お風呂騒動後 花組』
太正桜に浪漫の嵐! 愛の御旗のもとに
ったく どいつもこいつもバカなのか?
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