サクラ大戦 貴水玄治物語   作:無月

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⑪お風呂騒動後 花組

 時を遡ること数時間前、米田が場を預かり大神と玄治を支配人室へと連れて行った直後のサロンでのこと。

 米田の鶴の一声で場は静まったものの、その場の全員の納得出来ないという感情が空気となって漂っていた。場を任されたマリアとかすみがとりあえず飲み物を入れるが、誰も落ち着くことはなかった。

 が、そんな中でラチェットがフッと笑って全員を見た。否、正しくは告白と勘違いしていたであろう大神を想っていた面々を見ていた。

 

「それで? 劇のための意見収集を、告白と誤解と勘違いしたのはどんな気持ちかしら?」

 

「ちょっとラチェット?」

 

「なんだとっ!」

 

「ちょいとラチェットさん?」

 

「ラチェットさん、それってどういう意味ですか!」

 

「ラチェットらしい言い方ですねー。でも、今はちょっと・・・いやかなり、ムカついちゃいまーす」

 

「皆さん、落ち着いてください」

 

 場を鎮めるどころか荒立てようとするラチェットの発言にマリアが咎めるが、当然そんなことを気にするラチェットではない。勿論、怒りを露にする面々をかすみが止めようとしても収まるわけがない。

 

「だって面白いじゃない? これまでそれらしいタイミングが何度もあったにもかかわらず、恋愛を避けてきた大神隊長が告白してくると思えるなんて。そんな度胸あったら今までのような優柔不断な態度はとらない、そうでしょう?」

 

「オイオイあんまり言ってやるなよ、ラチェット。その優柔不断のせいで副隊長を二人にして、巴里で珍事件を起こしたことなんて」

 

「珍事件? 何かあったの? コクリコ」

 

「あぁ、うん・・・ ちょっとね」

 

「ねー花火は知ってる?」

 

 言いにくそうにするコクリコにアイリスが花火へと聞こうとすれば、花火も苦笑して何も言わないでいるとエリカへと抱き着いてさらに聞こうとする。

 

「エリカー、エリカは知ってる?」

 

「はい勿論、知ってますよ。

 大神さんが上着を引っぺがされてゲンジさんのところまで逃げて来た時のことですね!」

 

「エ、エリカさん、そっちじゃないですよ」

 

「あれ? 玄治さんが泣いてたのを慰めた夜のことでしたっけ?」

 

「大神さんの上着が引っぺがされたって・・・ どういうことですか?」

 

 いろいろと爆弾発言をしているエリカにさくらが聞き出そうとするさくらを心底楽しそうに見ているラチェットとロベリアに、マリアが頭を叩いた。

 

「いい加減になさい、二人とも」

 

「でもマリア、あなたもそう思うでしょう?

 大神隊長が優柔不断で覚悟が足りないのは当然だけど、明確な答えを出すのを恐れているのはこの子達も同じじゃない?」

 

「そーそー。アタシ達みたいに全員でもいいって覚悟してる一方で、自分が一番になりたいって思ってるってのに、そんな自分の気持ちを伝えないまま一番が誰かを隊長にだけ委ねてるのはフェアじゃないだろ?

 その覚悟をこいつらは隊長に伝えたのよ?」

 

 ロベリアからのズバリの一言に、何人かが一撃くらったかのように後退りしながら苦しそうに顔をしかめる。

 

「そ、それはっ!」

 

「耳が痛いでーす」

 

「で、ですが、私達の好意を中尉がわかってないなんてありえないでしょう? 中尉が決める以外、私達にどうしろというんですの?」

 

「だ、大体よぉ、あたいや紅蘭みたいにやっと気持ちがわかった奴だっているんだぜ? 告白を誤解するような発言をした隊長だって悪いだろ」

 

「今回、隊長が悪いのは前提だ。でも、問題は隊長にだけあるんじゃない。

 独占欲を抱えながら隊長にはっきり告白していない皆には、『結婚をする覚悟がある』と言えるの?」

 

 レニからの問いかけにさくらと紅蘭が視線を彷徨わせ、アイリスもコクリコと顔を見合わせている。

 

「想いを言葉にして伝えることは大切です。

 私達と玄治さんはよく話し合って、その末に今の形になりました」

 

「私達みーんなゲンジさんがだーい好きで、ゲンジさんを好きなマリアさん達のことも大好きなんです! だから、私達は婚約者全員でいる時間も大好きなんですよ!」

 

 花火とエリカの屈託のない笑顔に眩しさを感じて、やはり何人かが目を逸らす。

 

「そういえばマリアさん達って玄治兄さんにどんな告白されたんですか?」

 

「そらそうや、玄兄はあれやから言わんけど・・・ ラチェットはんも語らんよな?」

 

「やめといた方がいいでーす。ただでさえ昼間のノロケでお腹いっぱいなところに幸せいっぱいの告白とか、聞きたくありませーん」

 

「あら? そんなこと言っていいの? あなた達は気持ちを伝えることもしていないのよ?」

 

 織姫のうんざりした様子に挑発をやめないラチェットに、ロベリアも続く。

 

「一番伝えてる奴も一足飛びして婿入りとか言ってやがるしな」

 

「ロベリア! 貴様、先程から私に喧嘩を売っているのか!」

 

「でも、家に絡めてでしか考えを伝えてないのは事実でしょう? グリシーヌ」

 

「は、花火・・・ お前までそんなことを言うのか」

 

「それはすみれもだ」

 

「れ、レニさん?」

 

「で、どんな告白だったんだよ? かすみ。

 クリスマスの日だったんだよな?」

 

「はい、玄治さんはまず最初にマリアさんに告白したんですよ」

 

『えっ?』

 

 実際の日を知っている面々と、玄治のことを理解しているエリカらを除いた面々が驚けば、マリアが引き継いだ。

 

「でも、私は言ったのよ。『あなたの心にいるのは私だけじゃないでしょう?』って。

 そうしたら玄治は困っていたわ、私以外には告白するつもりなんてなかったんでしょうね」

 

「でも、ハカセは僕ら全員に告白してくれた。

 優しい目で僕達一人一人をしっかり見つめてくれたんだ」

 

「私達は巴里の博覧会の時に告白されましたよね!」

 

「懐かしいですね・・・ 私達の時も玄治さんはしっかりと私達を見つめてくれていました」

 

「ハッハッハ、アタシなんか本当なら残ってたお務めからも解放されちまったしな。あいつはいつも守りたいものに対して全力で、まっすぐなんだぜ? 羨ましいだろ?」

 

 幸せだとばかりに告白の日を話す面々に、大神に恋する乙女達が複雑な顔をする。

 

「・・・玄治兄さんは自分で伝えてくれるからいいじゃないですか」

 

「隊長はなんというか・・・ 行動は足りているのだ、行動は」

 

「でもはっきりと言葉にはしてくれない方ですわ」

 

「そう、いつも逃げるんだ。僕らが伝えても」

 

「アイリス達だって同じだよ、皆が好きだもん。

 でも、それをお兄ちゃんの口から聞きたいって思うことは悪いこと?」

 

 アイリスの問いにレニは首を振って否定し、『そんなことない』と伝える。

 

「あたい達だってわかってるよ、隊長にだけ覚悟を持ってもらうのなんて悪いことだって。でも、隊長に伝えて断られたらどうすりゃいいんだよ」

 

「そこなんよな。断られたらいつもの自分で居られる自信がないんや」

 

 カンナと紅蘭の弱音にさくら達も同意するように落ち込み、マリアはおもむろに手を叩いた。

 その場にいる全員が驚くのを気にせず、マリアははっきりと告げる。

 

「俯いていても地面に隊長の気持ちは転がっていないわよ、皆。

 前を向いて、隊長に向かって気持ちを伝えることでしか隊長の気持ちなんてわからない。違う?」

 

「マリアさん・・・ でも、もし大神さんが私達じゃない誰かを想っていたら? 言葉にしてないだけで婚約者がいたら?」

 

「それが今の皆さんの気持ちを諦める理由になるんですか?

 何も言わずに、心に全てを秘めたままで・・・ 本当に諦めきれるんですか?」

 

 かすみの問いかけに何人かが無言で、しかし確かに首を振って否定した。

 

「大神隊長が誰を想っているか怖い? 結婚なんて考えてないと思うと腹が立つ?

 その気持ち全て本人に伝えるべきでしょう」

 

「アンタらの口はなんのためにあるんだ?

 はっきりと思ってることを言わないと、あいつらはいつでもどこへでも駆け出して行っちまうぞ」

 

 ロベリアの言葉に海外研修や巴里へと旅立ったこと、そして突然生身で魔操機兵に飛び込んでいった姿を思い出して顔をあげる。

 

「大切な人が隣にいることは、当たり前ではありません。

 好きな人の隣に立ちたいと思うことのどこかおかしいことはありますか? 恥ずかしいことがありますか?」

 

「大神さんに向かってどーんと行っちゃいましょう!

 だって皆さん、こんなに悩んじゃうくらい大神さんのことが大好きなんですから。その気持ちを持って大神さんに直撃しちゃいましょ」

 

 エリカの笑顔に誘われるように笑みが零れ、前を向く。

 

「・・・そう、ですわね。中尉にはいい加減覚悟を決めてもらいましょう」

 

 すみれが口火を切り、織姫とグリシーヌがそれに続くように強く頷いた。

 

「ですねー。私達のことをこーんなに夢中にさせているんですから、私達からの熱烈なアプローチをしっかりしないとですね」

 

「そうだな、そして私達自身も覚悟を決めねばならん。そうだろう?」

 

 グリシーヌが同じく副隊長であるコクリコに視線を向ければ、彼女も強く頷いた。

 

「でも、イチローだからまた逃げちゃうかもね。その時はどうしよう?」

 

「ううん、逃がさないよ。

 アイリス達皆で本気で追いかけたら、お兄ちゃんぐらい簡単に捕まえられるもん」

 

「そらええわ、大神はんとウチらの本気の追いかけっこ。その前に皆それぞれで想いを伝えなな」

 

「想いを伝えるか・・・ 簡単に言うけどよ、やっぱ恥ずかしいよな」

 

「でも、想いを伝えられるのが今この時だけなら・・・ 伝えないでいられます?」

 

『ありえない』

 

 さくらの問いかけに全員がそれぞれの言葉で、きっぱりと告げてくることにその場にいる全員が笑いだす。

 

「それなら今日はもう解散でいいわね。

 もういい時間だし、今日はしっかり休んで明日から行動に移すといいわ」

 

 マリアの宣言に一人また一人と減っていき、結果的にサロンには玄治の婚約者一同が残り、残ったお茶を口にする。

 

「さて、明日から楽しみね」

 

「ラチェット、あなた本当にいい加減にしなさい」

 

 マリアの呆れ切った声を気にせずに、同様に気にしていないロベリアが笑う。

 

「あいつらの本気のアプローチが見れるなんざ、最高に面白・・・ おっと、素敵だろ?」

 

「ロベリアさん、本音が漏れてますよ」

 

「でも、わかっていたとはいえ大神さんには困ったものですね・・・ あの様子だと最悪、本当に最後まで決められない、なんてこともないとは言えません」

 

「そうしたら今度こそゲンジさんからどーんとカミナリが落ちますね!」

 

「そうね、隊長には本当に困ったものだわ。

 さて私はこの顛末を隊長達に報告に行くわ、皆は先に休んでて頂戴」

 

 マリアがそう言ってサロンを後にすれば、他の面々も自室などへ散っていくのであった。

 

 




俺は誰か一人を選ぶことも出来ないような優柔不断な男で
玄治みたいに全員を守るって断言するような力も 覚悟もない
だけど
次回 『告白』
太正桜に浪漫の嵐! 愛の御旗のもとに
君達を大切だと 愛しているという思いに一片の曇りもないんだ
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