サクラ大戦 貴水玄治物語   作:無月

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⑯未来へ

 その日の晩、屋根の上で大神が米田から総司令と支配人、そして神刀滅却を受け継いでいる頃、玄治は一人中庭で聞いていた。

 

「俺は幸せものだ、可愛い娘も跡取りも出来た。もう俺がいなくても大丈夫。

 帝都の平和も、帝劇の舞台も、お前達皆でやっていけ」

 

「どういうことですか?」

 

「もうわからないなんてこたぁねぇだろ、大神。

 今の帝都を見ろ。古いものはなくなり、新しいものに変わってゆく。人も同じだ。

 俺は満足だ。帝都のために戦ってたくさんの仲間も失ったが、お前達がいる。

 さくらが、エリカが、玄治が、そして大神、お前がいる!

 受け取れ、神刀滅却はお前が持っていろ!

 あいつらはお前に任せる、お前が総司令だ!」

 

「米田司令・・・ わかりました。謹んでお受けします」

 

「あぁ、頼んだぜ」

 

「長い間ご苦労様でした、司令」

 

「大神、『支配人』って呼んでくれよ」

 

「長い間ご苦労様でした、支配人」

 

「あぁ、ありがとうよ」

 

 二人が話し終わるのを聞いて、玄治は声を張り上げる。

 

「なーに、二人でしんみり終わらそうとしてんだ!

 娘や息子を差し置いて、婿と二人っきりで支配人交代なんてさせるわけねーだろうがよ!」

 

 玄治の言葉を皮切りにして、あちこちに隠れていた花組の面々がクラッカーを打ち鳴らし、音楽を奏で、中庭へ敷物を敷いて料理を運んでくる。

 

「み、皆、聞いてたのか?」

 

「何を驚いてますの? 中尉。

 父の定年退職を祝わない娘がどこにいますの?」

 

「そやそや、ウチらの父ちゃんにこっそり何もかも託されるなんてずるすぎるやろ」

 

「大体、私達に何も言わないところがウォーターくさいでーす!」

 

「まったくだぜ。あたい達に何も言わないなんてさ、あたい達は支配人の娘なんだろ? 家族なら、そういう大事なことは教えてくれなきゃ困っちまうぜ」

 

「突然だったからあり合わせだし、僕ら巴里華撃団とは長い付き合いじゃないけど、帝国華撃団のお父さんなら僕らのお父さんでもあるんだ」

 

「ましてやミスター米田にとって隊長が息子同然なら、私達の義父でもある。これまで華撃団を守ってくれた偉大な父に感謝せぬ娘がどこにいようか?」

 

「ほら、お兄ちゃんもおじちゃんも降りてきなよー」

 

 口々に二人を呼ぶ花組に対し、明かりや食事を運ぶマリア達が続いた。

 

「支配人、長い間本当にお疲れ様でした。

 ですが、私達にとって父であることは変わりません。これからも忙しくなりますよ」

 

「そーそー、なんなら巴里に来てもらうことになるかもしれないからな」

 

「まだまだ呑気な隠居生活は送れそうにないわね? ミスター米田」

 

「そーですよ! 私達とゲンジさんの子どもの名づけだってしてもらわなきゃいけないですから!」

 

 エリカの発言に大神の婚約者一同の視線が集まるが、酒を手にしたロベリアが笑いながら玄治に絡みつく。

 

「で、誰に最初に仕込む気なんだ? うん?」

 

「お前な・・・ 子どもに関しては授かりものだろ、誰に仕込むとかそういう下世話な話はするんじゃない」

 

「玄治さんとならその・・・ 不慣れな身ではありますが、ご奉仕させていただきます」

 

「ふふっ花火さん、誰しも初めは不慣れなものですよ。

 ねぇ、玄治さん?」

 

「花火とかすみまで・・・ 勘弁してくれ。

 俺はお前達が好きなんだ。一方的に奉仕させるつもりもないし、慣れているとかいないとかは関係ないだろ」

 

 顔を隠して俯く玄治の様子に米田と大神が笑って屋根から降りてくれば、花組の面々は米田を囲うようにあれやこれやと語り合う。

 多くの娘に囲まれた幸せそうな米田の姿に玄治は目を細めながら見守り、そんな玄治の隣に大神が腰かけた。

 

「よぉ新支配人、お疲れ」

 

「そういじめないでくれよ、玄治」

 

「じゃぁ総司令か?」

 

 玄治の言葉に苦笑する大神に酒をすすめ、お互いにしばらくの間無言で酒を傾ける。

 

「二人とも、お酒ばかりは駄目よ」

 

「ありがとうございます、かえでさん」

 

 そんな二人の元にかえでが訪れ、食事を勧めてきた。

 

「ふふっ、二人が揃うところを見たのは久しぶりな気がするわね」

 

「あー・・・ そうですね、戦いが終わってから全員なんだかんだ忙しくて食事の時以外揃いませんでしたから」

 

「そうね、大神くんは最近ずっと婚約者さん達の関係でもバタバタしていたし、玄治くんも貴水邸の最終調整で忙しくしていたもの」

 

「かえでさんまで、そんなにいじめないでくださいよ」

 

 情けない声を出す大神にかえでは優しく微笑み、米田を囲う花組の面々へと視線を移した。

 

「大神くん、一つ聞いてもいいかしら?」

 

「はい? なんでしょうか?」

 

「大神くんはどうして皆の気持ちを受け止めるのに時間がかかっていたの? あの子達の気持ちに気づかないほど、あなたは鈍くはないでしょう?」

 

 軽く玄治へと視線を向けつつそんなことを口にするかえでに、大神は少し考えるようにしてから答えた。

 

「俺よりもずっと強くて、凄くて、かっこいい玄治がいるのにどうして皆が俺を好きになってくれるのかがわからなかったから、ですかね」

 

「は?」 『はあぁぁぁ!?』

 

 玄治が阿保みたいな声を出して驚けば、それに続くように聞き耳を立てていた大神婚約者達からの怒声に等しい大合唱が夜の帝都に響く。

 

「大神、お前本気で何言ってんだ?」

 

「そうですよ、大神さん! 玄治兄さんと大神さんなんて比べるまでもなく大神さんの方がカッコ良くて素敵な男性ですよ!」

 

「さくらの言う通りだ、ドクトルと貴公を比べることすら烏滸がましい」

 

「ちょっと待ちなさい、聞き捨てならないわよ」

 

 さくらとグリシーヌの反論にラチェットが我慢ならないとばかりに立ちはだかり、マリアがラチェットの肩を掴んで座らせようとする。

 

「グリシーヌさんの言う通りでーす。ドットーレが良いところがあるのは認めますが、中尉さんと比べたら月とスッポンでーす」

 

「織姫、それは宣戦布告と見なすよ」

 

「レニさんも落ち着いてください」

 

 織姫とレニの戦いが勃発しかけるのをかすみが割って入ろうとするが、当の本人である玄治が本気で不思議そうに大神を見ていた。

 

「俺はただ自分勝手に行動してただけだろ、大体そんなこと言ったらマリア達がお前に惚れない理由が俺にはわからん」

 

「は?」 『はい?』

 

 今度は大神が驚き、玄治の婚約者一同は耳を疑った。

 

「玄治、お前こそ何を言っているんだ?」

 

「冗談はよして頂戴、玄治。私達があなた以外に惚れる? あり得ないわ。

 それも優柔不断で、不注意で、お人好しな上にプライベートなことにまでずけずけと入り込んでくるような大神隊長と? ハッ、ありえないわね」

 

「ラチェット、言い過ぎー!」

 

「そーだよ、僕らはそんなイチローに助けられてきたんだから!」

 

「玄治さん、あなたのその『自分勝手』に私は救われたんです。あなたに恋したこの気持ちはあなたに向けたものです。他の誰かに惹かれるなんて、本気でなかったとしてもおっしゃらないでください」

 

「お前達の想いを疑ってるわけじゃない。だけどな、大神の行動はいつだって仲間のためを思ってのことばかりだ。俺みたいに短絡的且つ直情的に行動した結果じゃないだろ」

 

「そんなこと言ったら、玄治だって花組のことばかり考えて行動してたじゃないか。戦うなって言った時だって、巴里で俺達を撤退させた時だってそうだ」

 

「やめろ! あんなのはどっちも俺の身勝手だ! そんな憧れるようなキラキラした目で俺を見るな!」

 

 本気で嫌がってる玄治が大神から顔を隠すように両手で覆えば、大神はそんな玄治の両手をとって固く握りしめる。

 

「いいや、言わせてくれ!

 玄治はいつだって俺達のために行動して、命を懸けて守ってくれた! 山崎少佐直伝の知識と技術で俺達を支え、時には武器を手にして前線に立ち、米田司令が入院している間だって司令業をしっかりこなしてくれた! それどころか資金援助が止まった時だって個人資産を使ってまで華撃団を支えてくれたじゃないか!」

 

「やめろやめろやめろ、本気でやめろ!

 俺はお前みたいに何の迷いもなく市民を守ることも出来なければ、花組全員に目を配って心に寄り添って守ることも出来ないし、この国のためにこれまで世界を守ってきた魔神器をぶっ壊すようなことも出来ねぇし、異国の地でも変わらず正義を貫くなんてしていない!」

 

 大神からの称賛の言葉から本気で逃げるために手を振り払い、中庭のどこに逃げようかと視線を彷徨わせる。

 

「俺は少しばかり付き合いが長かったり、たまたま俺が居合わせたから行動しただけだ。マリアもかすみもラチェットも、レニもメルも花火もエリカも、ロベリアだって大神に惹かれてた可能性は十分ある。

 皆だってそう思うだろ?」

 

 婚約者一同に同意を求めるように問うが、マリアはすぐさま首を振って否定する。

 

「私と共にいてくれたのはあなたよ、玄治。隊長ではないわ。

 それを『付き合いが長かっただけ』 『たまたま居合わせただけ』 本気でそう思っているならあとで話し合いが必要ね。

 ねぇ? かすみ」

 

「えぇ、本当に。

 私達があなたをどれだけ愛しているのか、しっかりと教えてさしあげないといけませんね」

 

 微笑んでいるにもかかわらずかすみの背後に般若が見える。

 

「つーか隊長と玄さん、お互いのこと好きすぎだろ」

 

「「こいつ(玄治)を嫌いな奴なんていねーだろ(人なんていないだろ?)」」

 

 大神と玄治の同時の発言に、誰も声にしなかったが思ったはずだ。

 

『いや、割といる』

 

 大神のまっすぐすぎる性分とお節介でお人好しなところは時に人を苛立たせ、目障りにすら映ることもあるだろう。

 玄治の身内絶対主義とも言える面は身内から見れば頼もしいが、それ以外の人間からすれば恐怖と不快感を抱くことは間違いなしだ。

 そして両名共に剣術・技術・知識・軍略ともに天才と言っても過言ではなく、その才能に嫉妬する者も少なくはない。

 

「・・・いや、いるでしょ。

 貴水さんは言うまでもないし、大神さんだって絶対やっかみあるでしょ」

 

「由里さん!?」

 

 呆れ切った由里の言葉に椿が慌てるが、ロベリアと紅蘭も深く頷く。

 

「お前らドクトルに本気で追いかけられたことないだろ? 生きた心地がしなかったぜ。隊長は隊長で敵と仲良くしようとしただけで刀向けてくるしな」

 

「せやな、玄兄なんて特に身内以外は興味ないか、ぶん殴るかっちゅうもんやし。大神はんはなんちゅうか・・・ 眩しすぎて目ぇ逸らしたくなるわ」

 

 紅蘭が言いにくそうに言葉を選ぶのを聞いて、玄治が鼻で嗤う。

 

「ハッ、大神をやっかむ奴は大神が嫌なんじゃねぇよ。大神と比べて自分の器の小ささが恥ずかしくなるんだよ」

 

「玄さん、玄さんが嫌われるのはそーいうとこだっつの」

 

「俺はそもそも好かれようと思って行動してないからいいんだよ」

 

 そんな玄治らの発言を遮るように突然鳴り響くギターの音色、その音の根源を辿ればいつもの白スーツに赤ネクタイの加山が立っており、集まった視線にニヤリと笑った。

 

「いやぁ、昇進はいいなぁ。俺、ずっと隊長のままだけど」

 

 言いながら加山はずんずんと足を進め、大神にへばりつくようにして肩を組む。

 

「オイオイ大神ぃ、玄治ぃ、親友を語り合ってるっていうのに俺の名前があがらないなんて悲しいじゃないか」

 

 空いている右手で逃走をはかっている玄治をビシッと指さし、大神と玄治が揃って変な顔になる。

 が、同時にロベリアがわざとらしく親指で加山を指さす。

 

「誰だっけ、こいつ」

 

「えっ? ロベリアさん、加山さんとお会いしたことありませんでしたっけ?」

 

「巴里で隊長と町をうろついてたのと、なんでかラチェット達を助けに来た奴ってことぐらいしか知らないねぇ」

 

「ロベリアを擁護するわけではないが、私もほぼ同じ認識だな。隊長と知り合いという時点で只者ではないのだろうが、何者だ?」

 

 ロベリアの言葉を補足するようにグリシーヌが続いて頷けば、椿が説明するように加山を示した。

 

「えっと、花組の裏方の・・・」

 

「それ、ドクトルだろ」

 

「いやそうなんですけど、えーっと花組の下調べ担当で・・・」

 

「椿、この場にいるのは華撃団だけなんだから言葉選ばなくても平気よ。この人は帝国華撃団 隠密部隊 月組隊長 加山さんですよ。

 巴里でも裏方としていろいろしてたけど、貴水さんが動きすぎて加山の仕事がほとんど隠れちゃったからわからなかったと思いますけど」

 

 椿の言葉がしどろもどろになっている中で由里がズバリと言えば、巴里華撃団の面々も納得したように加山を見る。

 

「あ、私、知ってます! シャノワールのガラスを割った方ですよね」

 

『は?』 『え?』

 

 エリカのおもわぬ発言に巴里で加山がガラスを割ったことを知らない大神を含む帝劇の面々と、犯人を知らなかった巴里の面々からの視線が加山に集まる。

 

「加山、やっぱりあれはお前がやってたのか・・・」

 

「しっかり弁償したから問題ない。

 それはそうと大神ぃ、俺への誉め言葉はないのか? ん? ん?」

 

「えっと、そうだな。いつも月組として俺達を陰から支えてくれるところ、かな」

 

「せやな、表にも気づかれんほどの裏方やけど、今回の戦いでもあれこれしてくれたみたいやし」

 

「そうそう、アイリス達が巴里に行く時も助けてくれたよね」

 

 大神に続くように加山を褒める声が上がる中、織姫が意地悪そうに笑いだす。

 

「そーですねー、謎の貿易商をやってたりしますねー」

 

「貴さん以上に突然現れる神出鬼没な方ですわね」

 

「ん? だんだんと雲行きが・・・?」

 

 途中まで嬉しそうに笑っていた加山が首を傾げ始めたが、そこに真実を貫くレニと玄治を侮辱されたばかりで苛々しているラチェットが続いた。

 

「和ませようと言ってる登場時の台詞が滑ってる」

 

「作られた三枚目の仮面が鼻について鬱陶しいわ」

 

「ぐはぁ!」

 

 必殺技をくらったかのように胸を押さえてうずくまる加山に、由里が首を傾げながら続ける。

 

「うーん、貴水さんと大神さんに囲まれてるのに腐らない稀有な人、かなぁ?」

 

「楽しい方ですよね!」

 

「げ、玄治! お前からも俺に何かないのか! ほら、俺達裏方としてよく協力し合っているだろ?」

 

 話題が逸れたことによりマリアとかすみ、花火の横でのんびりと飲み物を口にしていた玄治は少し考えるようにしてから、意地悪くニヤリと笑った。

 

「そうだな、出会いがしらに好みのタイプを聞いてくるような男だな」

 

「えっ? 加山さん?」

 

 以前同じことを聞いたことのあるマリアとかすみは反応しなかったが、花火は信じられないという感情を表情と数歩引いた体があらわしていた。

 

「げ、玄治!? もっと良いことあるだろ!」

 

「冗談はさておき・・・ 由里の言うことがもっともなんだよな、紐育のサニーサイドはどうにも俺のことが気に入らないらしくよく睨んでるし」

 

「彼はコンプレックスの塊よ。

 あれほどの財を成し、アメリカで自ら地位を築いても、世界を何度も守ってきた大神隊長にも、自らの腕一つで世界に技術を見せつけたあなたの前では霞むもの」

 

 ラチェットの容赦のない言い様にサニーサイドを知っているマリアと加山が苦笑し、玄治は肩を竦めた。

 

「霞むってのがそもそもわからん。自分が歩いてきた道はそもそも他の比べるもんじゃない、ただの結果がそこに広がってるだけだろ?」

 

「それは貴さんの世界が狭かった、というだけの話でしょう?」

 

「すみれと同意見だな、貴公は他者と比べるだけの環境になかっただけだ。

 サニーサイドなる人物のことは知らぬが、多くの者は貴公と隊長の前では己の醜い感情と向き合わざるえないだろう」

 

「すみれ、グリシーヌ、おめーらは言い方がきつすぎだっつの。単に玄さんが他を気にしないぐらいつえーってだけだろ」

 

「まぁドットーレの気持ちもわかりまーす。知らない他人、しかも自分にレットー感を向けてくるような人なんて道に転がる石ころと変わりませーん」

 

 玄治に釘をさす二人に対し、フォローするカンナと笑い飛ばす織姫の言葉を聞きながら、エリカがニコニコしているので米田が尋ねる。

 

「エリカ、なぁにそんなにニコニコしてるんだ?」

 

「えへへ。ゲンジさん、加山さんにあんなこと言ってるけど、大神さんと話してる時もまた違って楽しそうにしてるのがなんかいいなって」

 

「ハッハッハ、俺もそう思うぜ。

 婚約者であるオメェらと一緒にいる時もあいつは本当にいい顔をしてるんだぜ?」

 

「知ってます! ゲンジさん、メルさんに通信してる時もとっても優しい顔してて、私達が傍にいるだけで優しく撫でてくれるんです!」

 

「そ、それなら大神さんだって私達といる時はとっても優しいですし、いつも私達に気を配ってくれてます!」

 

 エリカに張り合うようにさくらが大神の惚気を口にすれば、エリカは素晴らしいとばかりに両手を合わせて目を輝かせた。

 

「わぁ、そうなんですね! 恋人と仲良し! それってとてもトレビアンです!」

 

「ったく、オメェら父親の前で惚気んなよ」

 

「米田司令! 司令もなんか言ってくださいよ! 俺にだって良いところありますよね!?」

 

「あぁそうだな。なんて言ったって大神が見つからなかったら加山、お前が花組の隊長になるって話もあったぐらいだからな」

 

『はあぁぁぁ!?』

 

 米田の爆弾発言にその場にいる大半の者が驚愕の声をあげるが、マリアやラチェット、レニは予想がついていたのか驚いた様子はなかった。

 

「玄治、あなた、知ってたでしょ?」

 

「いや、花組の隊長候補はそこそこ居たし、自分がその候補であること以外は軽く目を通しただけだから覚えてなかった。つーか結果的に大神が隊長やってんだから、今更そんなこと言われても『霊力的にそうだよなー』としか思わん」

 

「加山隊長が花組の隊長を務めていたら、あなたはまた違っていたでしょうね」

 

「どうだろうな? 大神並みとは言わないが、加山の正義感は偽りじゃない。

 加山率いる月組が組織として成り立っているのを見る限り、隊を率いる素質だってあることは確実なんだからな」

 

 素直に褒める言葉こそないが、加山を認めていることを隠さない玄治に花火が玄治を見上げながらつぶやく。

 

「玄治さんは加山さんのことを普通に認めてらっしゃるのに、どうしてそれを最初に伝えてあげないんでしょう?」

 

「花火、それはカンナがすみれを素直に褒めたりしないのと同じ」

 

「プッ! レニ、それすっごいわかりやすい!」

 

 別のところで笑いが生まれる中、玄治がふと気配を感じて中庭の社へと視線を向けるといくつかの人影が見えた気がした。

 

「玄治、どうかしたかい?」

 

「いや、見守られてるってだけだよ。

 さぁ今日は飲もうぜ、大神」

 

 玄治の言葉に意味を理解した大神もそれ以上深く聞かず、二人は静かにコップをぶつけ合った。

 

 

 

 

 穏やかな時間が流れたのも束の間、誰もが酒や食事が進んで盛り上がっていく宴の中で加山が楽しそうに大神の肩へとまとわりついてきた。

 

「それで大神、誰を正妻にするか。決まってるのか?」

 

 加山の思わぬ発言に大神が口にしていた酒を噴き出し咳き込み始め、賑やかであった宴会会場がシンッと静まり返る。

 

「なんだ、まだ決めてなかったのか。

 そこいらへんは玄治を見習った方がいいな、おめぇは」

 

「し、支配人まで!?」

 

「おい、さっき代替わりしたばっかだってぇのに呼び方戻ってんぞ。大神」

 

「今はそこは重要ではなくてですね・・・! 正妻なんて・・・ その、まだ婚約者になって日も浅いですし、決められないと言いますか・・・」

 

 苦しい言い訳を口にする大神に対し、耳をダンボにする大神婚約者一同。もはや我関せずになっている玄治婚約者一同は成り行きを見守る姿勢に入っていた。

 

「なぁ玄治よぉ、オメェはどうやって正妻を決めたんだっけなぁ?」

 

「俺の場合は俺が決めたっていうか、皆が自然と決めてくれてたんで参考にならないですよ。

 俺の妻達に文句言う奴らなんて、俺の立場で全てを黙らせられますし」

 

「貴水さん、それ、立場の悪用だから」

 

 由里からの正しいツッコミが入るが、玄治は笑顔を向けるだけであった。

 

「んじゃ、質問相手を変えるとするかぁ。

 マリアよぉ、正妻をかすみにしたのはなんでだ?」

 

「そうですね・・・ 表立っての理由で答えるなら、私達の中でかすみが一般的な家庭環境であったこと。貴族にも、革命にも、戦争にもかかっていないかすみが表舞台における妻という立場を持っているにふさわしいから、ですね」

 

「そうですね。私達巴里の方もメルさんが正妻のような立場になっていますし、私達もそれで納得していますから」

 

 マリアの言葉に花火が続いて同意するように頷く中で、グリシーヌが不意に疑問の声をあげる。

 

「そこは花火ではないのか? 北大路家の方が大きいというだけで、メルも貴族の令嬢であろう」

 

「大きいからこそ、ね。

 やはり北大路家としては貴水博士の名前は利用価値があるものだから、意識してなくともそう言った目で誰もが見てしまうものだもの。

 メルさんは次女だし、とても小さな家の貴族のご令嬢だからその心配が少ないもの」

 

「俺は別にお前達の実家なら、ある程度は許すけどな」

 

「そんなこと言うからアタシみたいな巴里の悪魔様までついてっちまうんだぜ、ドクトル」

 

「そうそう、貴族のご令嬢の花火達の身内にロベリアがいるなんて知られたら大変だもん」

 

 コクリコがさらっと失礼なことを言ってのけるが、誰も気にした様子はない。それどころか、その場にいるほぼ全員が大きく頷くのであった。

 

「私も人のことを言えないのはわかってますけどー。こうやって改めてラチェット達の経歴を考えてみると、とんでもないファミリーが出来たものですねー」

 

「織姫くん、それは失礼だよ」

 

「あら、私達は陸軍元帥を襲撃なんてしてないわよ?」

 

「ら、ラチェットさん!? どうしてそこで私に飛び火させるんですか!?

 そこは織姫さんがやらかしたことを言うところでしょう! 大神さんに水を浴びせたり、暴言を吐いたり、非協力的だったり、いろいろあったじゃないですか!」

 

「ですが、私達は貴さんと違って大きな事件になるような経歴を持ってはいないのも事実ですわよ?

 貴さんは言うまでもなく降魔殺しですし、マリアさんなんて言うに及ばず、加えて軍関係であれこれあったラチェットさん、何より巴里の悪魔と名高いロベリアさんまで揃っているんですもの。とてもじゃないですけどかないませんわ」

 

 扇子で口を隠して意味深に笑ってみせるすみれに、言われた当人らも否定もせずに受け止める。

 

「演劇の最中に演者同士でガチ喧嘩して、舞台ぶっ壊すのが十八番なトップスター様がなんか言ってるぜ、ロベリア」

 

「すげぇなぁ、シャノワールじゃ舞台ぶっ壊すなんてエリカぐらいだぜ? なぁ、エリカ」

 

「はい! おもいっきりぶっ壊しました!」

 

「なっ!」

 

 言い返されると思っていなかったのかすみれが口を開けて黙ってしまい、それを見て笑ったのはなんと大神婚約者側であった。

 

「な、何を笑っているんですの? さくらさん、カンナさん、紅蘭」

 

「だ、だって・・・ おかしくなっちゃって」

 

「いやぁ、こいつは笑うだろ」

 

「事実やしなぁ」

 

「私と変わらないぐらい舞台を壊してる三馬鹿が、笑っているんじゃないですわよ!」

 

 すみれが三人激怒していると、アイリスも手を叩いて笑いだす。

 

「そうだよー。もう皆、舞台を壊しすぎなんだもん」

 

「あれ? 僕らが来る前にアイリスもどこかの建物を壊したとか言ってなかったっけ?」

 

「懐かしいなぁ、アイリスがまだ霊力不安定な時の奴な。なんだったっけか? 活動写真館だっけか?」

 

「だ、だって怖かったんだもん」

 

 レニからの思わぬ発言に今度はアイリスが顔を赤く染めて恥じらい、笑いの輪が広がっていく。そんな中で話題が逸れたことに安堵している大神の肩を、再び加山が叩いた。

 

「で、正妻はだーれ?」

 

 加山によって再び点火された話題に、またも場が静まり返る。

 

「かぁやぁまぁ! お前って奴は婚約者もいないからって余計なことを!」

 

 非常に珍しい大神の怒鳴り声が響く中で、沈黙を保っていたかすみが静かに口を開いた。

 

「ですが、避けられない問題ではありますよ? 大神さん。

 いくら大神さんが玄治さんほど立場があるわけでもなく、公式の場において妻が必要となる場面がないとはいえ、劇場の支配人になる以上は家族を紹介することがないとは言えなくなりました」

 

「んっ! それは・・・」

 

「結婚するなら大神さんの家族にも皆さんを紹介しなきゃいけないんですから、考えなきゃダメですよ!

 そう言う意味では私には特にいないんですけど」

 

「いや、エリカの養い親にも挨拶行くからな? レノ神父にも挨拶するつもりだし、なんなら俺、教会の関係者全員に頭下げなきゃいけないんじゃないか?」

 

「えっ! ゲンジさん、私のためにそこまでしてくれるんですか! やっぱり大好きです!」

 

「するだろ、普通」

 

 当然とばかりに挨拶をする玄治の対応すら大神の心に突き刺さり、責任感という重圧が心に伸し掛かる。

 

「とか言いつつ、玄治の方だって実質的な正妻はマリアさんだろ?

 その件でもめたりはしなかったのかよぉ~?」

 

 どう見ても面白がって突いてきている加山の指を払いつつ、玄治は心底嫌そうな顔をする。

 

「揉めるもくそも、俺がマリアだけって思って告白した次の瞬間には囲い込まれてたんだぞ・・・ つうか、正妻とか普段考えることなんざないし、俺は全員頼ってて助けられてんだよ」

 

 なぁ?とばかりに玄治がマリア達を振り向けば、マリア達も顔を見合わせていた。

 

「そうね、別に誰が一番なんて意識はしてないわね。

 それぞれがそれぞれの立場で玄治を助けるし、私達は皆、玄治のことを愛していることがお互いよくわかっているもの」

 

「『正妻なんて形式上のもの』と言えばそれまでですが、私達の中で順位は特にありませんからね」

 

「じゃ、じゃぁ正妻なんて決めなくてもいいじゃないか!」

 

 希望を見つけたとばかりに大神がそんなことを言い出せば、冷たい視線が突き刺さる。

 

「いや、そうはならんやろ。大神はん」

 

「というか、かすみが今話したのはー『それでも形式上であっても正妻は必要でーす』ってことですね」

 

「僕らが皆を好きで、大切で、認め合ってるのは前提だもん」

 

「そうだぜ、隊長。いつまでも現実逃避が出来るわけじゃねぇんだから、いい加減玄さんみたいに腹括れよ」

 

「比較対象が玄治って卑怯じゃないか!? 加山と比較したら、俺のはまだ腹が決まってる方だよな!?」

 

「オイオイ、大神ぃ。そこで相手零の加山を出すのはおかしくねぇか?」

 

「米田さん、酷くないっすか!?」

 

「酷かねぇよ。大神のことをいじるんだ、オメェもこんぐらいいじられて然るべきだろ」

 

 米田が大神を含めて加山をいじっていれば、突然すみれがバッと前に躍り出る。

 

「正妻というならば、当然この私ですわ。

 太正という時代を作ったに等しい神崎一族の一人娘であり、帝国華撃団を帝都一の劇場に導いたに等しいトップスターであるこの神崎すみれ以外にふさわしい存在などありまして?」

 

「それ言っちゃったら、大神さんが壊したお見合いと同じですよね」

 

 ボソッとさくらが呟いたが、すみれは気にもせずに大神の元へと迫りくる。

 が、そんなすみれと大神の間にグリシーヌが割って入る。

 

「それならば巴里でも名立たる名家にあるブルーメール家の私こそ、正妻にふさわしいであろう。

 巴里では新参の身ではあったが華撃団における功績によりもはやそれも関係なく、成り金と違って歴史も深い。何よりも副隊長として隊長を支えたという実績もある」

 

「歴史を持ちだしたら真宮寺家の方が深いですけどね」

 

 再びさくらが何やら呟くが、聞こえないふりをして今度は織姫が割って入る。

 

「それならぁ? 欧州で輝かしい功績を残した星組である私こそがふさわしいでーす!

 イタリアでは赤い貴族と呼ばれる名家ですし? トップスターなんて呼ばれなくても欧州から私を追いかけてくるファンもいまーす。何よりも私の方は中尉さんのことを家族公認でーす」

 

「それは私もですし」

 

 さくらのつぶやきが弱々しくなるが、割って入る人間の残数はまだまだいる。

 

「それならアイリスだってそうだもん! パパもママも、お爺様だってお兄ちゃんのことを認めてるし、巴里でだってウチは顔が利くもん!

 それにそれに、お兄ちゃんはアイリスのだもん!」

 

「大神さんは皆のものです」

 

「こらぁ、ウチは名乗り上げられないわぁ。ウチはただのしがない技術者やし? 家族なんてとっくにおらんからなぁ」

 

「こ、紅蘭! そんなこと気にしなくていいから!」

 

 紅蘭の思わぬ発言に慌ててフォローに回ったさくらに、言った本人がニヤリと笑う。

 

「ほな、言質もーらい」

 

「紅蘭!?」

 

「さくらさん!? 何をしてやられてますの!?」

 

「いやー、そこだけはウチは強く言えんとこやったしー? なんなら守ってもらわなあかんところやから、な?」

 

「ありがとうな、さくら。あたいも気にしないことにするぜ」

 

「ありがとう! さくら!」

 

「は、はめられた・・・! しかもカンナさんやコクリコまで!」

 

 大神婚約者がワチャワチャしてる蚊帳の外で、真剣な表情で花火は呟いた。

 

「でも、冗談のように言っていますけど、本当に気にしていたんでしょうね」

 

「それはそうよ。私達が気にしないというだけで、本来はエリート軍人である隊長と親も生まれも定かではない人間が結婚なんてまだまだ世間の目は厳しいものだわ」

 

「まっ、それはアタシ達もだけどな」

 

 そんなやり取りが片隅で行われつつ、大神婚約者達による大神への接近は止まらない。

 だが、そこでようやくさくらが躍り出た。

 

「大神さん、私が一番って言いましたよね?」

 

「い、いいいいい。いー!」

 

 『言ってない』と口にすることが恐ろしく、大神は奇声をあげながら後退り続ける。

 

「ていうか、内助の功が正妻認定されるなら、それって貴水さんが大神さんの正妻ってことにならない?」

 

『      !?』

 

 大神婚約者一同によって一斉に呼ばれ、声はもはや音としてしか認識されずになんといったかがわからなくなる。確実なのは玄治がさくら達全員から一斉に睨まれたことである。

 

「由里?」

 

「い、いや、怒らないでよ。かすみ。

 だってご飯作ってるのは貴水さんだし、任務の時だって大神さんを援護するのって貴水さんだし、何か困ったことがあると頼るのも貴水さんじゃない」

 

「それはそう、だけど」

 

「そう! そうなんだ! 玄治が俺を、支えてくれるから・・・」

 

「おいお前、流石にそれ以上口にしたら俺も怒るぞ。

 だからグリシーヌとすみれは得物をしまえ。ラチェットとロベリアもあげたものを下げろ」

 

 おもわぬ内部抗争になりかけたのを諫めながら、玄治は心底疲れたように溜息を零す。

 

「そんなん言ったら、俺。この場にいるほとんどの奴の正妻になるんだが?」

 

「で、ですよね! 貴水さんってば劇場も華撃団も一番に支えてくれる人ですし、私もその・・・ 貴水さんが旦那さんっていうのはちょっと」

 

「おい待て、椿。お前までなんで俺を振るようことをいう? こいつらからの悪影響か?」

 

「い、いえ! その貴水さんが嫌いとか、不満があるというわけじゃなくてですね! その・・・ 面倒見がよすぎるので、私が駄目になってしまいそうで」

 

 椿からの擁護になってない擁護に加えて、彼女の発言に理解を示すものはほとんどいなかった。

 

「でも、少しわかるわね。玄治くんってば面倒見がよすぎるもの。

 それで大神くん、混乱に乗じてどこへ行こうというのかしら?」

 

 かえでがまとめるように告げれば、静かに逃げようとしていた大神を言葉で追跡する。

 

「いや、その・・・ あの・・・ 俺は・・・」

 

 皆に視線で追いかけられながらもじりじりと逃げて行こうとする大神に、さくら達が再び追いかける姿勢へと移った。

 

「大神さん、誰を正妻にするんですか?

 私ですよね? 私しかいないですよね? 私に決まってますよね?」

 

「あ、あの・・・ さくらくん・・・」

 

 さくらが静かに歩を進めた瞬間、大神が決死の覚悟で皆から背を向けた。

 

「だ、だから俺は、告白するのだって精一杯だったんだから正妻までは決められないんだってばぁ~!」

 

 現役海兵による全力疾走が開始し、その後をさくら達が追っていく。過ぎ去った後に玄治がやれやれと酒を口にして、そんな玄治にマリアが笑いかけた。

 

「止めなくていいの? 玄治」

 

「あれは止められないだろ。それにまだしばらくはあぁしてても問題はないさ、どうせ誰かに決まったってあいつらはあぁして騒いでるだろうしな」

 

「正妻を決めるだけでこれだけ騒ぎになるなんて、結婚するならこんなことはまだ始まりにすらなってないんですけどね」

 

 ため息交じりにかすみが言えば、花火も同意するように頷く。

 

「そうですね。

 私達もそれぞれの家に改めて報告をしなければなりませんし、玄治さんとの結婚である以上小規模なんてことは出来ませんから」

 

「まったく、面倒極まりないわね。

 私達の結婚式なのだからこの劇場であげておしまい、だけでは駄目なのかしら?」

 

「僕らだけならそれでいい。本当はそうしたい。この劇場と巴里で一度ずつ、小さな結婚式をあげれば十分すぎる。

 でも、ハカセと結婚する以上、そう言うわけにはいかないこともわかってる」

 

「じゃぁ、メルさんをパリまで迎えに行かないとですね!」

 

「対する隊長は、結婚式とどうなっちまうんだろうな?」

 

 ロベリアが意地悪く笑うと、玄治は少し考えてから答える。

 

「下手すりゃ家ごとに一回ずつ、か?

 大神は覚えること多くなりそうだし、俺らご祝儀何回包むことになるんだろうな?」

 

 そう言って玄治はおもむろに右手を掲げて、明るくなりだした空へと向かって指を打ち鳴らす。

 音と共にどこからか現れた黒い影に笑いながら、彼は愛しい家族へと手を伸ばす。

 

「さぁ、行くとしようか。俺達の家に」

 

 

 

 

 

 

 

「はなぁの、いの~ちはぁ、みじぃかぁくて~」

 

 桜満開の上野公園を徳利片手に老人 ――― 元陸軍中将にして元帝国華撃団総司令、元帝国劇場総支配人 米田一基 ――― が一人歩む。

 ふと振り返れば、後ろからは花組の面々(可愛い娘達)が嬉しそうに駆けてきて彼の横を通り過ぎていく。その先には自分が全てを託すことが出来るようになった頼もしい大神と玄治(息子達)が立っており、幸せそうに笑みを浮かべて消えていく。

 

「ハハッ」

 

 その光景におもわず笑みを零せば、不意に懐かしい風が吹き抜ける。そちらを振り返ればかつて共に戦い、散っていき、未来を彼らに託した仲間が米田へと笑みを浮かべていた。

『なんだよ、お前ら』と口にしかけた瞬間

 

「おじいちゃーん!」

 

 声のする方向に振り返れば、そこには娘や息子達の面影を宿した可愛い孫達が自分に向かって飛び込んでくる。

 今度は先程の幻のように消えることはなく、確かな感触となって米田の体へと触れた。

 

「ったく、まだまだ楽隠居は出来そうにねぇや」

 

 先に逝った仲間に文句の一つでも言ってやろうと振り返ってもそこに彼らの姿はなく、かすかに楽しそうに笑った彼らの声が聞こえた気がした。

 

「咲いて散ってもまた芽吹く、あぁこれもまたサクラ大戦ってか」

 

 

 

 こうして江戸より始まった大久保長安の無念は晴らされ、その魂は帰るべき場所へと昇っていった。

 過去を取り戻した男は一族の悲願を果たし、家族のために世界を美しいもので包み込まんとする。

 四部作『サクラ大戦 貴水玄治物語』の終幕を飾るは、過去を取り戻し、家族を知り、信頼と未来を託され、世界を美しいもので包み込む物語。

 

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