サクラ大戦 貴水玄治物語   作:無月

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俺の名は貴水玄治。
帝国華撃団 後方支援・・・ いや、今はただの貴水玄治でいいか
これは俺達のなんてことない日々、語られることなく終わった出来事が綴られるささやかな日記のようなもの
『サクラ大戦 貴水玄治物語』 番外編
第一話『美しいものは』
太正桜に浪漫の嵐! 愛の御旗のもとに
あぁ、お前達がいるから、世界は今日も美しい



番外編
美しいものは


 帝都が平和となってしばらくして、玄治らは自宅である空中要塞・貴水邸から地上へと降りてきていた。

 ある約束の元、定期的に皆で帝国劇場やシャノワールには降りてきているが、生憎今回は仕事である。

 

「紐育星組、か。

 元欧州星組隊員である九条昴に加えて数名の候補者がいるとはいえ、隊長を誰にするかが問題だな」

 

「そうね。本来であれば華撃団の理念を理解する者を隊長として赴任させるのが最善なんでしょうけど、私達が赴任してしまうと次代育成という面が達成されない」

 

「もう少しいろんなところの人間が協力的だったら、こんな苦労せずに済んでるんだがな」

 

「そう言わないの。

 だからこそ、あやめやかえでがしていたようにマリアと花火が世界中を巡ってくれているんでしょう?」

 

「はぁ・・・ 仕方ないとはいえ本当にムカつくな。

 かえでさんも賢人機関の改革に動き出してくれているが、頭は固い癖に無理難題を俺達(華撃団)に押し付けてくる連中なんて片っ端から武力行使してやろうか」

 

「貴公はまた物騒なことを言っているのか」

 

 支配人室までの道すがらそんなことを話していると、呆れた顔で扉を開けたグリシーヌが立っていた。

 

「来てたのね、グリシーヌ」

 

「あぁ、我々以外の華撃団創設の話だ。各花組の代表は聞いておくべきだろう。

巴里にはコクリコが残っているし、幸いエリカ達も地上勤務の期間だ。加えてジャン班長が手掛けた『バレーヌ』の試運転も兼ねている」

 

 玄治がパリ滞在中に空中要塞の案をジャンに語った時に競うように書き上げた図案から制作された、翔鯨丸と並ぶ巴里華撃団のための空中輸送艇であり武装飛行船『バレーヌ』。

 その外見はエクレール同様フランスの色である白・赤・青でまとめられており、顎がしゃくれるような形はさながらザトウクジラのようである。

 

「ジャン班長も俺に張り合いがちなのはなんなんだ・・・」

 

「いつまでも貴公と紅蘭にだけ負担をかけるわけにはいくまい。それを含めての・・・ いや廊下で話すことではないな、早く入るがいい」

 

 グリシーヌに促される形でラチェット共に支配人室に入れば、そこにはグリシーヌ以外にも大神とさくら、そして先日花組を引退したばかりのすみれが並んでいた。

 

「よっ、久しぶり」

 

「あぁ久しぶりだな、玄治。紐育星組の件だったよな」

 

「あぁ、技術協力は向こうの技師である王とも出来ている。

 ただ問題は隊長を誰にするかと、華撃団の理念を新設部隊に叩きこませるのを誰にするかだな」

 

「司令予定であるサニーサイドさんじゃ駄目なのかい?」

 

「駄目だから言っている。

 大体グラン・マや迫水大使ですら華撃団の理念なんかわかってなかっただろうが。隊員の誰かを派遣するか、俺かお前が直接指揮を執ることも検討すべきだ」

 

「俺や玄治が指揮を執ったらいつまで経っても次代が育たないって話だろう?」

 

「それに隊長だった時の大神さんならともかく、総司令である大神さんをあちこちに出張させるわけにはいきません」

 

 不在のかえでに代わって秘書のように大神の隣に並ぶさくらがやや棘のある言い方をし、逆隣りに並んでいるすみれとグリシーヌも頷く。

 

「それは貴さんも同じですわ。

 あなたが世界の空に浮かんでいることで様々なところに牽制出来ているのですから、そんな危険人物がアメリカにしばらく居座ったら・・・ 最悪戦争が起きますわよ?」

 

「俺をなんだと思ってるんだ、お前は」

 

「先程『武力行使』などと口にしていた貴公が言うのか、ドクトル」

 

 どうしたものかと全員が溜息をつき、玄治が口を開こうとすればずっと黙っていたラチェットが先に口火を切った。

 

「私が副指令として赴任しましょうか?」

 

 玄治以外が驚く中、大神が慎重に問うた。

 

「・・・いいのかい? ラチェットくん」

 

「かまわないわ。私はアメリカでの生活経験もあるし、サニーサイドとも昴とも顔見知りだもの。

 いいわよね? 玄治」

 

「確かにラチェットなら問題はない。

 それに何かあったら貴水邸からも援護が出来るしな」

 

 『問題ない』とか言いながら、即武力行使に移ろうとする玄治に苦笑と呆れの視線が集中し、場の空気を換えるようにすみれが扇子を打ち鳴らした。

 

「貴さん、自重なさいな」

 

「そもそもサニーサイドがこちらに教えを乞うこともせず、紐育星組創設を急ごうとしてることは気に入らん。

 実業家の奴が商売のみならず、政治的にも意味がある華撃団関連の功績を得ようとしていることはわかる。だが、功績を急ぐ・・・ 利ばかりを得ようとするサニーサイドの考え方は危ういぞ」

 

「玄治、落ち着いてくれ。

 俺達は京極との戦いの際のアイゼンクライトの輸送の件で彼に借りがある。それに今回の紐育での華撃団創設も彼の力なくしては実現しなかったことは間違いない。

 少しは信用してあげたらどうだい?」

 

「・・・それならせめて隊長が確定した際は加山を紐育に派遣しろ。

 俺はお前みたいに会話だけで他人を信用することは出来ない。星組隊員すら万全でない以上、援護部隊なんて揃ってるわけがないんだ。向こうも断りはしないだろ」

 

「あぁ、わかったよ」

 

 そこでノックの音が響き、『失礼します』という言葉と共に全員分のお茶を持ったかすみが入室してきた。

 

「皆さん、そろそろお茶にしませんか」

 

「かすみ・・・」

 

 眉間に皺をよせていた玄治が振り返れば、かすみはいつもの笑顔で皆を見ていた。

 主に玄治のせいで張り詰めていた空気が緩み、物理的に空気を入れ替えようとグリシーヌが窓を開け、すみれが支配人の机の場所を開けていく。大神も安心したように笑って、さくらが慌ててかすみの元へ駆けよった。

 

「かすみさん、手伝います」

 

「ありがとうございます。さくらさん」

 

 ティーワゴンから人数分の紅茶が用意されていき、未だに難しい顔で腕を組んでいる玄治へと甘いミルクティーの入ったカップを差し出す。

 

「あなた。お茶の時間に難しいことを考えてはいけませんよ」

 

「・・・すまん」

 

 組んでいた腕をほどいて紅茶を受け取り、香りのよい温かく甘い紅茶によって表情が緩む。

 

「流石ですわね、かすみさん。

 さっきまで不機嫌だった貴さんが、あなたの紅茶と一言ですっかり穏やかになりましたわ」

 

 すみれの言葉にさくらとグリシーヌも無言で頷き、大神が話題を変えるように玄治を見た。

 

「そう言えば玄治、華撃団を各国に設立するこの計画はどうして『地上に花を、空に星を』なんだい?」

 

「ん? あー・・・ そういや計画名の理由って誰にも話したことなかったか?」

 

 玄治も聞かれると思ってなかったのか、何故か素直に答えようか迷っているようだった。その様子をいち早く理解したさくらの目が怪しく光り、口を開いた。

 

「そういえば玄治兄さん、巴里に行く前にこの計画を考えていたのに私達にはずっと内緒にしていたんですよね?」

 

「あら、私もそれは初耳ですわね? 一体どういうことかしら?」

 

「だとしたら、我々巴里華撃団はその試験的な実施だったのか?

 ドクトル、詳しく聞かせてもらおうか」

 

「うげっ」

 

 『めんどくせぇ奴らに捕まった』とばかりに顔を歪めると、大神が諫めるように手をあげる。

 

「まぁまぁ三人とも、あんまり詰め寄ると玄治が逃げてしまうから」

 

「おい大神、それは正妻を決められなくて夜中に帝都を走り回った奴の自己紹介か?」

 

「うっ! それは・・・ そうだけど!

 俺は計画名とかを直接考えることはないから、理由を知りたかったんだよ」

 

 話を元に戻して聞き直され、それでも玄治が答えたくなさそうに顔を歪めているとラチェットが乗っかってきた。

 

「『花』と『星』は私達のことだとわかるけれど、あなたは常々『世界を美しいもので包み込む』と言っていたわね? それは何故かしら」

 

「ラチェット、それを聞くあたりお前は大体この計画名を正しく理解してるだろ・・・」

 

「あら、ふふふ。なんのことかしら?」

 

 楽しそうに笑うラチェットに対し、先ほど玄治に詰め寄ろうとしていた三人組は面白くなさそうに不機嫌な顔になり、再度詰め寄ろうとして来た。

 

「ドクトル、そこまで言いづらい理由はなんだ?

 貴公が隠し事をしている時は大抵ろくなことが起こらん、大人しく白状せよ」

 

「大体、たかが計画名でしょう? そこまで言い淀む理由はなんですの?

 それとも『こんな見た目の自分が歌劇の一文のような計画名を考えたのが恥ずかしい』などとは言いませんわよね?」

 

「言わねーよ! 俺がそんなこと言ったら毎回あんな計画名にしてた米田さんなんてどーすんだよ!」

 

「玄治さん、さらっと失礼な本音が漏れてますよ」

 

 というか米田に限らず、玄治の師である山崎すら揃いも揃って技師という生き物はロマンチストである。

 山崎が最初に作った霊子甲冑の名が最愛の恋人の名を関していたように、彼らの名づけには何らかの意味や願いを込められることが多いのは事実だ。

 

「恥ずかしくも、後ろめたくもないなら言えますよね? げ・ん・じ・に・い・さ・ん?」

 

「はぁ・・・ わかったわかった、言えばいいんだろ。

 ただ聞いといて文句言うなよ?」

 

 そこで玄治は空になったカップを置き、部屋の中央でわざとらしく大きく腕を広げてみせる。

 

「地上に花を」

 

 そして、右腕を高く上に掲げ、天井のその向こうにある大空を指さしてみせる。

 

「空に星を」

 

 地上と天空を指し示している筈だというのに、彼が誇らしくも優しい表情を向けているのはここにいる面々のみ。

 否、それも正確ではない。

 彼が笑顔を向けているのはおそらく、ここに揃っていない大神華撃団全員へと向けられていた。

 

「俺はこの世界を美しいもので包み込みたい」

 

 既にこの地球上に存在している花と星。

 だが、彼が言っている『美しいもの』はそんなものではなかった。

 

「だけど俺にとっちゃ、世界なんて美しくもなんともない。

 ずっとそう思っていたし、今だって『世界が美しい』なんて口が裂けたって言えやしない」

 

 多くの犠牲を見て、様々な戦いを経て、花組と出会ってなおも変わりはしない。

 玄治はどうしても世界を愛せない、関係のない人々の平和までは願えない。

 誰かの願いを踏みにじり、誰かの嘆きに耳を塞ぎ、誰かの怒りが刃となるまで気づけない世界など美しい筈がない。

 

「一切の称賛も、なんの見返りも求めず、世の平和と人々の笑顔を守るために自分の身を顧みない。

 お前達こそが、俺にとって一番美しいものなんだよ」

 

 それでもそんな世界の中で強く咲き誇り、眩しく輝く者達がいる。

 何者かもわからぬ相手に勇気をもって立ちはだかり、その背に守るべき者への優しさと揺るがぬ正義を背負って、明日のために刃を持って戦う者がいる。

 

「お前達がいるから、世界は今日も美しい」

 

 眩しそうに目を細めて、大切なのだと笑顔が無言で語り、愛おしいのだと声が告げていた。

 玄治のあまりにも堂々とした答えに、聞いた側が呆気に取られていると大神が笑いだした。

 

「玄治は本当に俺達が好きだなぁ」

 

「悪いか? それに何度も言ってるだろう? 俺は俺の大切なもの(お前達)以外どうでもいいんだよ。

 お前達が世界を守るってんなら、俺はお前達を守るだけさ」

 

 笑いあう男二人を見て、他の面々も呆れつつも笑みを零していた。

 

「なるほどな。

 隊長の理念を各国に華撃団を置くことで拡散すること、それが『世界を美しいもので包み込む』ということになるのか」

 

「それはわかりましたけど、世界を美しくないなどと暗に言っているあたり貴さんは本当に性格が悪いですわね」

 

「罵倒の語彙が素晴らしい元トップスター様に言われても、痛くも痒くもねーんだよなぁ」

 

「なぁんですって!?」

 

 軽口を叩く玄治にすみれが怒り狂う、これももはや帝国劇場の一つのお約束である。

 

「はぁ、本当に玄治兄さんは性格が曲がってるんですから」

 

「おい、さくら! 聞こえてんぞ!」

 

「聞こえるように言ったんです!

 私達を守ってる兄さんだって結果的に世界を守ってるんだから、素直に世界が美しいって言えばいいじゃないですか!」

 

「はぁー!? 俺は世界なんざどうでもいいんだよ!

 お前達が毎日笑って生きてくのに世界が必要なだけで、俺は身内以外はどーでもいいんだわ!」

 

「そう言うところが性格が曲がってるって言うんです!

 大体それなら、私達がいる世界を守ろうとする玄治兄さんだって最高にかっこよくて美しいじゃないですか!」

 

「はぁー!? お前、何言ってんだ!?

 お前らのためなら手段選ばない、なんなら国にだって喧嘩売ろうとする俺が美しいわけねーだろアホか!」

 

「ちょっと待ってください、玄治兄さん! 国に喧嘩売ったってなんですか!? まさかまだ私達に内緒にしてることがあるんじゃないでしょうね! いい加減、その秘密主義治す努力したらどうですか!!」

 

「お前らを蔑ろにする世界なんか脅して当然だ!」

 

 正しく劇場の名物となりつつある兄妹喧嘩が勃発し、しまいにはこの言い合いにグリシーヌとすみれが参戦し、三対一になったところでラチェットが玄治へと加勢したところで収拾がつかなくなり、ついにかすみによってお説教という雷が落とされることとなった。

 

 

 

 かすみによるありがたい説教の後、三人で自宅へと戻ろうとしたところでラチェットが玄治の服の裾を引っ張った。

 

「ん? どうした、ラチェット」

 

「・・・ねぇ玄治、一つ聞いてもいいかしら?」

 

 どこか不安そうなラチェットに玄治は優しい表情で先を促す。

 

「どうして計画名に『星』をいれたの?」

 

「おいおい、さっきは自信満々に自分達のことだって言ってたのにどうした?」

 

 右側にいるラチェットの頭を包み込むように抱き寄せても表情は暗いままで、並んでいるかすみも心配そうにしているのが見えた。

 

「もう欧州星組もなくなっていて、あの頃はまだ紐育星組の話は正式なものではなかった。

 それに・・・ 欧州星組は世界を守ったわけじゃな「守ったさ」玄治?」

 

「たとえ誰が失敗だと言っていたとしても、それが多くの者が望むような結果でなかったとしても、どんな形であれ欧州星組は欧州大戦を終わらせた。

 国同士の戦いを終わらせた星組は、間違いなく世界を救った」

 

「・・・っ! でも、それでも私達は・・・!」

 

 その言葉にラチェットは目を開き、何かを続けようとするがその言葉を玄治が続けさせなかった。

 

「お前達を戦いなんかに放り込んだ最悪な世界を、それでも守ったお前達は美しい。

 もっと誇れよ、欧州星組隊長」

 

 もうラチェットは、あふれる涙を止めることが出来なかった。

 

「玄治・・・」

 

「んー?」

 

「ありがとう」

 

「俺は思ってることを言ってるだけで、礼を言われることは何もしてない。

 お前の宝物なんだ、美しいに決まってるだろ」

 

「あなたはもう本当に・・・ 出会ってからずっと」

 

 もう涙で言葉にならなくなり、ラチェットは耐え切れなくなって玄治へと抱き着いていた。

 

「うーん、思ったことを言ったら大好きな妻から抱き着かれた。役得しかないんだが、どうすればいいと思う? かすみ」

 

「そうですね、早く帰って家族皆であなたごとラチェットさんを抱きしめればいいと思います」

 

「流石俺の妻、名案だ。

 早く帰ろうか、俺達の家に」

 




いやぁ番外はいいなぁ。争いもなければ、平和な日常しかない。
俺、仕事なくなるけど。
そうだな、まぁ番外でお前が平和な日常送れるとは言ってないが
それ、どういう意味だ!? 玄治!
まぁまぁ二人とも。ん? なんだこの紙。
えっと、『読んでみたい番外のネタ、募集中』?
・・・今ですら書きたいもんが多くて首回ってない癖に正気か? あいつ
回らないのは首じゃなくて、書きたい物をまとめられない頭だったりな
ふ、二人とも。いい加減にしないと大変なことになるぞ?
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