サクラ大戦 貴水玄治物語   作:無月

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まったく玄治は・・・ さくらのこととなると難しく考えすぎるわ
仕方ないんじゃないですか? 玄治さんからすると、さくらさんは私達とはまた違った特別ですから
恋愛という意味ではないとわかっていても、少し複雑ね・・・
ラチェットはハカセのこととなると途端に心が狭くなる
『サクラ大戦 貴水玄治物語』 番外編
第二話『あの子の二十歳のお祝いに』
太正桜に浪漫の嵐! 愛の御旗のもとに
っちゅうか、難しく考えすぎやない?


あの子の二十歳のお祝いに

 巴里から帰宅して数日が経過したある日、玄治は地下の自室にて頭を抱えていた。

 この男に考えることがあるのは常ではあるが、即断即決・力押し最強を地で行くことが多いこともあって、悩むことは非常に稀である。

 

「どうするかなぁ」

 

「入るでー、玄兄」

 

 ノックもそこそこに挨拶と共に入ってきた紅蘭に返事も出来ずに机に突っ伏したまま視線を向ければ、兄弟子のその姿を心配するでなく笑い始める。

 

「なんやなんや玄兄、そないな不景気な面して。

 巴里から帰ってきてからマリアはんらに甘やかされとるっちゅう男が、そないな顔してたらもっと甘やかされて大変なことになってまうで?」

 

 笑う紅蘭に対し、玄治は心底言いたくなさそうに重々しくも口を開いた。

 

「・・・さくらの二十歳の祝いの品が決まらん」

 

「ウチにはさっさと新品の工具贈ったっちゅうにまだ渡しとらんどころか、決まってへんかったの?

 ロベリアはんにも、質のいい酒をねだられるだけ買ってやったとか言うてたくせに?」

 

 信じられないとばかりの紅蘭に言い返すことも出来ず、玄治は突っ伏していた。

 

「だってあいつに酒なんか贈って、絡まれたりしたら絶対面倒だろ。

 かといって刀を収集するわけでもないし、手入れとか申し出ても、霊剣荒鷹なんて触れただけでも猫の威嚇みたいな反応されるのが目に見えてるし」

 

「わかるし、間違っとらんとは思うけど、そんならそれこそマリアはんらに相談すればえぇやん。

 なんでウチに愚痴っとるん?」

 

「『あなたがよく考えて贈るのが一番よ』って言われたんだよ・・・」

 

 ずっと頭を抱えっぱなしの玄治に、紅蘭も笑えなくなってきた。

 

「化粧品とかは使ってるものがあるだろうし、衣料品だとか装飾品なんて贈ったら誤解を招きかねん・・・ いや、さくら本人はしないだろうが、マリア達に櫛を贈っている以上そういう物を贈るのは妹であっても避けたい」

 

「・・・玄兄ってそゆとこ細かいわぁ。エリカはんらにもデート同然の時に買ってあげたんは置物やったんやろ? 線引きっちゅうん? 徹底しすぎやない?」

 

「俺は別に意識してやってないけどな」

 

「無意識のがヤバいことわかっとる?」

 

 他の面々とは違う、本当に遠慮の一切ない紅蘭とのやり取りに玄治は気を悪くした様子はなく、むしろ普段のままだからこそ彼にとって相談しにくい悩みすら打ち明けやすい存在だということを示していた。

 

「文房具とかもあいつ別に使わないだろ・・・」

 

「さくらはんのことをなんだと思ってるん? 別に万年筆とかなら贈っても困ったりせんと思うけど」

 

「いや、あいつなら折りそう」

 

 玄治の即答に、ついに紅蘭がキレた。

 

「だー! さくらはんに対してそないなこと思ったり言ったりするから、さくらはんも玄兄に対してあたりがきつくなるんやろ!

 むしろ玄兄がさくらはんをもちっと優しく見守ったれば、こないな変な兄妹関係になっとらんかったやろが!」

 

「いやいやいや、待て待て待て! それは俺だけの責任じゃなくないか!?

 あいつだって俺に対して粗雑で、乱暴で、なんかしらは文句つけてるだろ!?」

 

「そらそーやけど!」

 

「わかってるなら俺だけ責めるのおかしくね!?」

 

 そうして紅蘭と言いあってると今度はノックもなしに扉が開き、突然開いた扉へと視線を向ければそこには何故かカンナとすみれが『言いたいことがある!』とばかりに腕を組んでいた。

 

「貴さん! さくらさんにまだ二十歳のお祝いを贈っていないということはどういうことですの!?」

 

「いくらさくらのことが苦手だからって、玄さんがそんな最低なことをするなんざ思ってなかったぜ!」

 

「はぁ!? お前ら、その話をどこで聞いた!?」

 

「さくらさんが中尉に相談していたのを立ち聞きしたのですわ!」

 

「お前ら毎回毎回普通にやってるから忘れがちだが、立ち聞きなんて胸張って言うことじゃねぇからな!」

 

 悩んでることも隠しておきたいことだというのに、肝心のさくらを不安にさせてることに加えて、花組全員に広まっているに等しい事態に玄治が逆ギレ気味に叫ぶ。

 

「つーか、さくらだから贈ってねぇんじゃねぇよ!

 さくらだから贈るもんに迷ってんだよ! クソが!!」

 

 やけくそで叫んだ言葉に玄治を説教しようと突撃してきた二人が事態を理解し、顔を見合わせて溜息をついてソファへと座る。

 

「悩むのはわかるけどよぉ、そんな難しく考えるこたぁないだろ。

 玄さんの作る美味いもんでもいいわけだしさ」

 

「郷土料理や好物はどう足掻いても若菜さんには敵わないだろ・・・

 それにあいつ、俺の料理を面と向かって褒めたことねーんだぞ」

 

 『え?』と三人が一度顔を見合わせるがすみれが何かを察したように鼻を鳴らせば、紅蘭とカンナも理解したらしく嘆くように天井を仰いだ。

 

「というか、貴さんは変なところで女々しくなりますわね。

 女が欲しい物を男がわかるわけではないのですから、贈りたい物を贈ればいいだけのことでしょう。

 相手の反応が気にかかることも仕方ないことですし、贈る気持ちが大切なのは大前提。ですが、そればかりに気を取られて当のさくらさんを落ち込ませるのは本末転倒で阿呆の所業ですわ」

 

「返す言葉もないほどにその通りです・・・」

 

 容赦のない言葉でめった打ちにし、否定することが出来ないがゆえに再度玄治は机に突っ伏した。

 

「こうやって玄兄を言葉でぶっ倒せるのって、実はすみれはんだけなんよな」

「玄さんを心配するがゆえに説教すんのはかすみさんとか、マリアとか、レニでも出来っけどな。

 こうやって叱れんのは不思議なことにすみれなんだよな」

 

 二人がコソコソ話してるのも丸聞こえなんだが、『聞こえてんぞ!』と言える状況でもなければ、言うほどの余裕もない。

 そこですみれが慣れた様子でバッと扇子を開けば、それを見た玄治が突然体を起こした。

 

「それだ!」

 

『は?』

 

 困惑する三人を置き去りにし、体を起こした勢いのまま立ち上がって、上着を羽織って扉へと駆け出して行く。

 

「ちょっ! 玄兄、突然どこ行くんや!?」

 

「今思いついたアイデアに必要な物を、専門店で下見してくる!

 夕飯の準備には間に合うように帰るから心配すんな! じゃっ、ちょっと出てくる!」

 

 声と三人を置き去りにし、制止する暇もないほどの速さでその姿は見えなくなる。

 

「・・・さくらと玄さんって、あぁいうところが似てんだよな。

 なんつーの? 思いついたら即行動っつうか、猪突猛進つうか」

 

「それは紅蘭やカンナさんもでしょう?

 これだから考えずに反射的に行動する阿呆は嫌なのですわ」

 

「いやいや、玄兄のあれはなんかしら思いついたから行動したんやろ。っちゅうか、考えた末に独りよがりなことしとることが多いすみれはんには言われたないんやけど?

 ん? 玄兄も似たようなことしとった気ぃするんやけど、すみれはんも玄兄に似とるっちゅうことやない?」

 

 わざとらしく紅蘭がニヤリと笑えば、すみれは『まっ!』と言いながら顔を背ける。

 

「これだけ長く一緒に居れば、誰しも似るものですわ。

 それに私だって・・・ 妹と言われてあれだけ大切にされていれば、悪い気はしませんもの」

 

「素直じゃねぇな、お前はよぉ」

 

「まったくやな、ウチらみたく認めれば楽やのに」

 

 そう言って玄治の妹達は笑いあうのだった。

 

 

 

 

 

 それから数日後、いつものように皆が朝食を終えて食器を下げている際、玄治が厨房から顔を出した。

 

「おい、さくら」

 

「なんですか、玄治兄さん」

 

 『話しかけてくるなんて珍しい』という態度を隠しもしないのは二十歳の祝いをされていないことに拗ねていることの表れなのだが、玄治はいつものことだとばかりに気にもせずに持っていた箱をさくらへと手渡す。

 

「ほれっ」

 

「え? は? ちょっ・・・!」

 

 突然渡されたことに戸惑ったのか、手をわたわたしながら受け取れば細身の形から想像できないほどの重さにさらに驚く。

 

「えっ・・・ 玄治兄さん、これって。

 なんでこんな突然渡すんですか、やっぱり玄治兄さんって馬鹿でしょう!」

 

「うっせぇ、片付けがあるからさっさと部屋なり、サロンなりに行け」

 

 お礼よりも先に馬鹿と呼ばれた兄貴分は、手をシッシッと追い払うようにしながら面倒くさそうな顔をする。

 

「はいっ!? もしかしてわざと今のタイミングで渡したんですか!?

 私が中身に不満があったら文句言われないように!?」

 

「あー! あー! あー! 聞こえんし、聞かん!!

 朝の時間は忙しいんだ! 飯食い終えた奴はさっさと解散しろ!!」

 

「玄治兄さん! 大体あなたって人は・・・!「さくら、玄治にいろいろ言いたい気持ちはわかるけど、今は抑えて頂戴」マリアさん! だって、玄治兄さんが!」

 

 いつぞやの兄妹喧嘩の再来にマリアが止めに入り、マリアがさくらを宥めている間に玄治の方にはレニが視線を向けていた。

 

「ハカセ」

 

「な、なんだよ」

 

「言わなくてもわかるよね?」

 

「言わなきゃわからん!」

 

 普段は見せないような子どもを通り越して、素直になれないガキのような態度にレニが呆れるように溜息をついてから諭すような声で語りかける。

 

「ハカセがさくらに対して素直になれないのはわかってる。でも、これだとさくらがあまりにも可哀想だ。

 ちゃんと面と向かってお祝いして、プレゼントに関しても説明すべきだ」

 

「うぅ・・・ わかった! わかったから!

 ・・・サロンで待っとけ」

 

 降参しつつも正直あんまり行きたくなさそうな、気恥ずかしそうな表情が丸出しとなっており、その表情にもあちこちから文句が飛びそうだったがそれらは大神とラチェットによって静かに止められていた。

 そして、一時間も経たないうちに玄治がサロンへとあがってくれば、何故かそこには花組一同に加えて大神までもが待っていた。それが見えた瞬間、現役軍人である大神も驚くほど綺麗な回れ右をして戻ろうとした玄治を、予期していたらしく後に続いていたかすみがニッコリ笑顔で遮る。

 サロンの椅子に座っているのはさくら一人、目の前にあるテーブルには先程玄治が渡した箱が未開封で鎮座していた。

 

「いや、開けろよ・・・」

 

「玄治」

 

 玄治がいつもの調子で文句を口にすれば、珍しく大神が注意するような声で声をかける。

 

「ちゃんと面と向かって、言葉にすることが大事だってわかってるだろ」

 

「~~~っ! わかってるよ!

 言えばいいんだろ! 言えば!」

 

 大神の言葉にそれでもやはり言うのが恥ずかしいのか、顔を隠すように頭をぐしゃぐしゃとしながらさくらの前へと立つ。

 頭ではわかってる。わかってるのに、気恥ずかしが先に立つ。

 お互いにちゃんと向き合ってこなかった期間が長すぎて、その後だって兄妹らしいことなんてうまく出来なくて、話しても何故か喧嘩みたいなやりとりになってしまう。

 それはそれで兄妹らしいし、他の面々も思っているのだが当の玄治はうまく出来てないという自覚だけが強いらしい。

 

「さくら。結構遅れたが、二十歳の祝いだ。

 まぁ、なんだ。気に入らないかもしれないが、開けてみろ」

 

「遅いんですよ、馬鹿兄さん。

 貰えないかもとか考えて凄く不安だったんですからね」

 

「しかたねーだろ、なに贈りゃいいかわかんなかったんだから」

 

 頬を膨らませて文句を言うさくらに、自分が悪い自覚がある玄治は気まずそうに目を逸らす。

 

「わかってます。

 それじゃ、開けますね」

 

 その場にいる全員が興味津々とばかりに視線を向ければ、そこから出てきたのは銀色の扇子。

 板が隙間なく連なり重なり合う形に桜模様の透かし彫りが施され、扇をまとめる要と呼ばれる場所からは手首にも引っ掛けることが出来るように青い房が取り付けられていた。

 

「扇子・・・? 貴さんが私の扇子を見て思いついたのはそういうことでしたの?」

 

「いやちゃうやろ、あの色は・・・」

 

「玄治兄さん。この扇子、扇子にしては重たいんですけど?」

 

 持って開いているのだからその扇子がいったい何なのか、正しく理解にしているにもかかわらず、さくらはわざとらしくニッコリ微笑みながら聞いてみる。

 

「そりゃそうだ。鉄扇だからな、それ。しかもシルスウス鋼と同様、割と近年に作られたステンレス鋼製の特注品だ。

 お洒落に使うだけならもっと薄い板を使って透かし彫りを入れるだけでもよかったんだが、護身用も兼ねるとなると結構分厚くなっちまってなぁ」

 

「昴が使ってたものと同じですねー!

 あれはもっとシンプルでしたが、久しぶりに手紙でも書いてみましょーか」

 

「良いと思う。

 ・・・僕も書こうかな」

 

「それなら三人で書きましょうか」

 

 元星組三人娘が別の盛り上がりをみせているが、今はそれどころではない。

 

「玄治、どうしてもっと普通のものを贈れないんだ・・・」

 

 気遣いも頭も良い筈の親友の突飛な行動に頭を抱えていればどうやらそれは大神だけではなかったようで、同じように顔をしかめるマリアと困ったように笑うかすみがいた。

 だが、玄治も微妙な反応をされることもわかっていたらしく、開き直るように笑って身を翻していく。

 

「まっ! 気に入らなかったら、どっかにしまいっぱなしにでもしてくれ。

 護身用も兼ねてるから出来れば持ち歩いてほしいが・・・ それは俺の勝手な希望だからな。

 今度全員でどっか高級店でも予約して、俺の金で豪華な食事会でもして楽しもうぜ」

 

「ちょっ・・・ 玄治兄さん! 別にそんなこと言ってな・・・!」

 

 さくらがあれやこれや続けようとしているのも聞かずに立ち去っていく玄治に、さくらがまた『もうっ!』と怒るが、改めて鉄扇を広げて眺めている。

 

「なんやなんや、さくらはん。

 口では素直になれてへんけど、めっちゃ嬉しそうやん」

 

 指摘されたさくらは顔を赤くして何も言わずに、箱の中に同封されていた扇子を入れるための布製の袋に大切そうにしまい、普段霊剣荒鷹を差している近くへと扇子を忍ばせた。

 

「まったく。

 玄兄も大概やけど、さくらはんも素直やないなぁ」

 

 そんな微笑ましそうな、呆れたような言葉が平和な帝国劇場に優しく響いていた。

 




さくらくん、また扇子を見ているのかい?
っ! べ、別にそんなことありません!
別に隠すことないだろう? その透かし彫りも、つけられてる房も、扇子袋も全部綺麗じゃないか。
そう、ですけど・・・ やっぱりなんか恥ずかしいんです。
フフッ、そっか。
(隠してても、普段持ち歩いていることは皆にバレバレなんだけどなぁ)
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