サクラ大戦 貴水玄治物語   作:無月

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ハハッ、ついに俺達がお披露目か。楽しみだなぁ、オイ。
はしゃぐな、銀。
あぁなんて素晴らしい、これもまた神の思し召し!
聖治兄、うるさい。黙ってて。
『サクラ大戦 貴水玄治物語』 番外編
第四話『未来より』
太正桜に浪漫の嵐! 愛の御旗のもとに
これはそう、少しだけ未来を夢に見たメル母さんの話さ


未来より

「ここは・・・?」

 

 昨夜、確かに貴水邸の自室でベッドに入った記憶があるメル・レゾンは、目を開いた場所に酷く戸惑っていた。

 否、それは正確ではない。

 この場所に見覚えは、確かにあるのだ。

 それも眠りに入った貴水邸、作りも同じで、見えている空の景色も同じ。物の配置は多少違う気がするが、それも誤差の範囲といえば誤差の範囲でしかない。

 

「えっと・・・?」

 

(これは、夢?)

 これが夢であるのならば、知り合いがいてもおかしくはない。

 だが、夢でなかったら? 自分が攫われていたとしたら?

(それはないわね)

 貴水邸は彼がお手製の城であり、侵入どころか近づくことすら世界のどの組織であっても不可能に近い。

 ましてや、家族の誰かが誘拐などされるようなへまを彼女らの夫である玄治が許す筈がなく、そんなことをするような人間は体どころか魂すらも抹消されてもおかしくはないだろう。

 

「あら、母さん。起きたのね」

 

 そう言って声をかけてきた方へと振り返ると、そこに居たのは全体的に青い色をした女性だった。髪色と瞳の色が青なことに加えて百八十にも届いてしまうような身長がさらに威圧的で、見下ろされている形となってしまうせいもあってどこか冷たい印象を持つ。

 だが、メルはそんな彼女を見て自然と自分の顔がほころぶのを感じていた。

 

「おはよう、メリッサ。

 この休暇期間はあなた達も食事当番に入ってくれるから、父さんも母さん達も助かるわ」

 

「それならもう少しゆっくり寝ていていいのに」

 

「こればかりは習慣だもの。

 それに家族全員が揃うこの時期に家族全員が早起きなのも、いつものことでしょう?」

 

「まったく。皆会いたいときに会いに行くくせに、落ち着きがないんだから」

 

 呆れたように溜息をつく彼女をクスクスと笑いながら、メルの反応にどこか微妙な顔をした彼女がそっぽを向く。

 

「朝ご飯の時間までまだあるわ。

 他に起きている子はいる? メリッサ」

 

「男四人は朝から庭で父さんと組手をしていて、撫子姉さんは温室。アニスと瑠璃はラチェット母さんと花火母さんと朝食を準備してるわ。他のきょうだい達は帰ってくるのが遅かったからか、まだ部屋で休んでるわ」

 

「下の子達は帰ってくるのが遅かったものね。

 それじゃあマリアさんとエリカさんは組手の方?」

 

「えぇ。かすみ母さんも撫子姉さんと温室で植物の世話をしているわ。ロベリア母さんはまだ寝ているみたい」

 

 皆の様子を聞く夢の中の自分に、メルはもう戸惑うことはなかった。

(これは、この夢は・・・ 未来なのね)

 自然と顔がほころび、頬が熱くなる。

 自分にも、大切な人にも似ている成長した娘を、夢の中で一足先に見ることが叶ったことが嬉しくもあり、なんだか悪いことをしてしまったような気持ちになってしまう。

 

「ふふっ、いつも通りね。

 それでメリッサ、あなたは何をしていたの?」

 

「朝食まで母さんと詩集を読みたくて、その・・・ 部屋に行こうと思ってたの」

 

 おずおずと持ってきた詩集は幼い頃に娘と一緒に読んでやった詩集。娘のお気に入りなのだろう、本のあちこちから読み込んだ跡が見られる。

 

「良いわね。それじゃぁリビングで読みましょうか」

 

 そう言うと娘は嬉しそうに微笑み、『リビングで待ってる』と言って歩いて行ってしまう。朝の身支度のために洗面所へ向かっていると、組手を終えた汗だくの息子達を引き連れた玄治と会った。

 

「おはよう、メル。

 メルが洗面所使うなら、俺達はシャワーに行くか」

 

 後ろに続く息子達はまだ返事をするだけの余裕がないらしく頷くことしか出来ないが、そんな姿もこの家では日常風景であるがゆえに微笑ましい。父に促されてシャワー室へと歩いていく息子達の後姿を眺めていれば、玄治がメルへと振り返った。

 

「あぁ、そうだ。メリッサとは会ったか?」

 

「はい、会いましたが・・・ どうかしましたか?」

 

「いや、中庭で朝から一人で詩集を読んでたからな。

 久しぶりにメルと詩を楽しんだらどうだ? って言っただけさ」

 

「あなたの提案だったんですね」

 

「余計だったか?」

 

「いいえ。

 私達の旦那様はお年を召してもとても素敵な方だと、惚れ直しています」

 

「そいつは嬉しい。俺も毎日そう思ってるし、子どもたちの成長も日々嬉しく思ってるぞ。

 見てくれ、繋治と聖治が俺に一本入れたんだ」

 

 上着をめくってみせる玄治の腹へと視線を向けるとそこには打撲で出来たであろう紫の痣があり、相当な痛みであった筈だというのに彼は嬉しそうに笑っている。

 

「統治と銀治が俺に隙を作って、繋治と聖治が攻め手になる。シンプルだが地力がないと絶対に一本入れられない戦法できやがった。

 こりゃもう子ども全員での組手は俺一人じゃ出来ないかもなぁ」

 

「・・・それならせめて両手を使ってあげてください」

 

「そうだな、次からは両手でやろう」

 

 笑いながら息子達と同じようにシャワー室へ向かう夫に苦笑し、身支度を終えて可愛い娘が待つリビングへと向かうのであった。

 だが、だんだんと視界がぼやけるように白くなっていってしまう。

(夢から覚めるのね・・・)

 ぼやけていく視界の中でも、うっすらと見えるリビングや朝食の準備をしている家族の姿が見えて、自分が間違っていたことに気づく。

(あぁ違う。これは夢じゃなくて、ほんの少し先の未来の私が見たものを私も見てるだけ)

 幻ではなく、嘘でもない。

 現実にある未来の一場面を、夢を通して今の自分が見ているのだ。

(あぁ、なんて幸せな夢)

 

 

 夢から覚めるとそこは確かに昨夜、自分が眠りについたベッドの上。

 夢の中の娘の言葉通りなら会話に出てきた子達以外にも娘や息子はいることは間違いなく、どれだけいるのかもわからない。

 けれど、確実なことが一つある。

(メリッサ、そう私の娘はメリッサっていうのね)

 彼女の娘の一人は確実に『メリッサ』であり、自分にも玄治にも似ていて、詩集が好きで、少し照れ屋でとても可愛らしいということ。

 

「あなたに会える日が待ち遠しいわね、メリッサ」

 




母さんが昔は料理が出来なかったって本当?
・・・アニス、それを誰から聞いたのかしら?
それは秘密。
上手ですよ、瑠璃。
いいえ、まだまだです。父さんみたいに皆に美味しいものをたくさん作ってあげたいんです。
フフッ、あなたなら出来るわ。今度、お父さんにも言ってあげて。
はいっ!
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