せやなぁ 花壇はあるし 木も何本も植わっとるし ベンチもあるしな
ドットーレがベンチを占領してることが多くて困りまーす!
ベンチの追加を支配人に頼んでおきましょうか
『サクラ大戦 貴水玄治物語』 番外編
第五話『ある日の中庭にて』
太正桜に浪漫の嵐! 愛の御旗のもとに
あぁ 平和だなぁ
大神と玄治が巴里から帰宅して数日、着任届や現状把握などが一通り済んだ後、大神は自室の机で少しばかり考え事をしていた。
「さくらくんの二十歳のお祝い、どうしよう・・・」
一人でつぶやいていても誰も返事はしてくれない。だが、何もしないという選択肢はない。
『誕生日を祝われない』
それはとても悲しいことだし、寂しいことだ。たとえ他の皆でお祝いがあったとしても、巴里で任務に就いていたとしても、誕生日などとうに過ぎていたとしても大神が祝わない理由にはならないのだ。
「答えが出ないなら、一人で考えてても仕方ない。
こうなったらさくらくんに直接聞いてみよう」
有言実行。大神はすぐに椅子から立ち上がって、部屋を出る。
いつもならこういった相談事は玄治にするのだが、彼はさくらのことになるとぽんこつになりがちであり、何よりさくら自身がこうしたことを他の人から情報を集めるようなことを好ましく思わないだろう。
「どこにいるんだろう・・・」
今日は劇場が休み。花組の皆も出掛けたり、部屋や自分の好きな場所で好きなことをして過ごしていることだろう。現に音楽室からはピアノの音が聞こえ、サロンからは紅茶の香りが漂い、中庭からはアイリスとレニがフントとアルセーヌと戯れる声がして、地下からは鍛錬の音と爆発音が響いている。これが休日の帝国劇場の日常である。
(玄治は自室かな?)
公演期間の昼なら今の時間は厨房で昼食の準備だが、休日となると玄治の行動は巴里出発以前ならまだしも最近はよくわからないのが現状である。
華撃団の仕事が活発な時は多くの面から加山と共に調査を行っているのだが、巴里から帰還後は紅蘭の話を聞くと何かとても大きなものを作っているという情報も入っており、そうかと思ったら婚約者であるマリア達とデートをするために出掛けていることもある。
それ以外にも『貴水玄治』という役目を果たすように礼装を纏って、貴族や軍の上層部の出席する夜会などにも率先して出ており、社交の場における必要な教養をマリア達と共にすみれや織姫に熱心に教えを受けているのも見たことがある。
(玄治も本当に変わったようなぁ・・・)
基本的な考えは何も変わっていないし、行動に迷いがないのもそのまま。だが、玄治は華撃団を守るためにあらゆる意味で武器を増やし、行動している。
社交界などかつての玄治は忌み嫌い、疎み、遠ざけてすらいたというのに、それすらもマリア達との結婚や巴里華撃団のことがあってから率先的に出席し、名を売っているようにも感じている。
(その上、つぼみちゃんのいる乙女学園の講師の仕事もやってるみたいだし)
時々、技師の道を志している学園生を地下に連れてきて、紅蘭と共に教鞭をとっていたりもしている。かつて山崎が玄治に惜しみなく知識を注いだように、後進である学園生にもそれを行いたいのだろう。
「それにしても・・・ 紅蘭と玄治は働きすぎだよなぁ」
趣味を仕事にしてしまったというのが大きいのだろうが、技術班とも言える二人は本当に働きすぎである。
「それを大神はんが言うんやから不思議やわぁ」
「わぁ!? こ、紅蘭? いつの間に・・・」
「そんな驚かんでもえぇやん。ウチ、普通に階段使って二階まできたんやで?
劇場内やからって考え事して歩いとるとこけるで。大神はん」
その言い方だと階段以外の方法で二階にあがったことがあるんじゃないかと勘繰ってしまうが、劇で使うハリボテでもいい飛行機を実際に飛べるようなものを使うような彼女だとあり得ないとは言えない。
「で、なーに考えて歩いとったん?」
「いや、皆のことを考えて歩いてたんだよ。
最後に玄治のことを考えてたら、技術班である二人はいろいろ仕事多いなと思って」
素直に答えると、紅蘭は腕を組んで頷いた。
「あー・・・ まぁ玄兄はなぁ。
そもそも
「それ以外にも巴里から帰ってきてからいろいろやってるだろう? 巴里に行く前から学園の講師もやっていたし、紅蘭も花やしき支部長を兼任してる。本当に大丈夫かい?」
「大したこっちゃないで。書類仕事は由里はん達にも手伝ってもろてるし、あれやこれやの最終調整やら判断やらはやっとるけど現場は他の人らにも任せられてる。ずいぶん楽させてもらっとるわぁ。
機械いじりは趣味やし、舞台はそらまぁ大変やけど楽しんどるわ」
紅蘭はケラケラと笑いながら、なんてことのないように言ってのける。
「それで大神はん、どこ行こうとしてたん?」
「あぁ、さくらくんを探してたんだ。
さくらくんの二十歳のお祝いに何かプレゼントを贈ろうと思ったんだけど、考えてても浮かばないから本人に聞こうと思って」
「玄兄と大神はんの違いはこれなんよなー・・・・ ホンマ、玄兄は大神はんのこーいうところを見習うべきやで」
ここにいない玄治に向けて深い溜息を零しつつ、大神も口でこそ同意はしないが苦笑いという形で肯定とする。
「さくらはんなら中庭におったで。
しかもめっずらしいことに、玄兄と軽く試合しながら鍛錬しとる」
「えっ!? 外は晴れてるんだよな!?」
言うが早いか大神は慌てて、天気の変化と二人がまたとんでもない大喧嘩をしてるんじゃないかと中庭を見下ろした。
「気持ちはわからんでもないけど、晴れとるわい。それにあの時とちごうて真剣じゃなくて竹刀使っとるわ」
「いや竹刀も防具なしじゃ危ないんだけど・・・」
巴里にて花組隊員と真剣勝負をした挙句敗北し、ごついメイドになった花組隊長が何かを言っているが紅蘭は聞こえないふりをし、大神の隣で窓から中庭を見下ろせば玄治とさくらが向き合って竹刀を打ち合っていた。
が、竹刀を使った鍛錬をあまりやったことがないのか、玄治の動きはぎこちない。
「大神はん、こっから声かけへんの?」
「いや、鍛錬中にあらぬ方向から声をかけたら危ないし、二人に怒られそうだからしないよ。
俺は一階に降りて中庭に行くけど、紅蘭はどうする?」
「んー? ウチはえぇよ。
作りたいもん作ってひとっ風呂浴びたから、今からちょい寝るわー」
軽く伸びをしながら部屋のある方へ方向転換する紅蘭の自由さに『休日だなぁ』と実感し、大神も少し笑う。
「そっか。それじゃおやすみ」
「おやすみー」
階段のところで紅蘭と別れ、一階に降りると二階からは見えなかった中庭のベンチにはラチェットとレニ、そしてアイリスが座っていた。
「三人もいたのか」
「ワガハイト! フントモイル!」
大神の呟きに『大変不満である』とばかりにベンチの背後にある木にとまっていたアルセーヌが抗議をし、見ればベンチ下にもフントが大人しく伏せをしていた。
「ごめんごめん。
それで三人は何をしてたんだい?」
「アイリスとレニはねぇ~、中庭でのんびりしてたの!」
「そうしたらさくらが来て、最初にラチェットと読書をしていたハカセに鍛錬という名の模擬試合を申し込んできた」
「そういうことよ、大神隊長」
本に目を落としながらも深い溜息を零すラチェットからは、
「珍しいな、玄治が北辰一刀流の型で試合するなんて」
「戦いじゃないことと、『さくらに合わせて試合をする』がハカセの今日の鍛錬」
「あぁ、なるほど」
そう言ったレニは膝を軽く叩いてフントを呼び、ベンチの肘置きへとアルセーヌを呼んで二匹を撫でていた。
玄治とさくらの試合は真剣を使った以前のものとは違い、今の二人はなんだか楽しそうに見えた。玄治の動きはぎこちないがさくらの動きに対応しているし、やり返してもいる。審判もいないこともあって一切手加減無し、ルールなどあってないようなものらしく、互いの体に竹刀は当たっているし、痛みもある筈だというのに汗を流して竹刀を振るい続ける二人の顔には無意識に笑みが浮かんでいた。
「楽しそうだなぁ」
本人達は同時に否定しそうだから声は控え目だが、仲のいい兄妹の試合を見て大神は微笑ましくて笑ってしまう。
「それならお兄ちゃんもやる?」
「え゛っ」
「隊長の剣術は二天一流、二人にも良い鍛錬になると思う」
「いや、俺はさくらくんに別の用事があっただけで別に試合は・・・」
二人の言葉にさくらに別の用事があったことを説明しようとしたところで、ラチェットが本を置いて玄治に声をかけた。
「玄治、さくら、大神隊長が鍛錬に参加してくれるそうよ」
「い゛っ!? ら、ラチェットくん!?」
そこで二人の動きがピタリと止まり、同時にこちらを見てきた。
大神へと向けられた視線はまるで、じゃれ合っていた猛獣同士が新しい遊び相手を見つけたかのように輝いた。
「い、いやでも、俺は竹刀持ってきてないから」
後退りをして逃れようとするが、次の瞬間玄治が自分が持っていた竹刀を投げてきた。反射的に受け取れば既に玄治はどこから取り出した二本目の竹刀を持っており、空いている左手で楽しそうに手招きをする。
「来いよ、大神。お前とは試合なんてしたことないだろ?
全員一刀流で達人の域・・・ こんな機会滅多にないんだ、楽しい鍛錬といこうぜ?」
「げ、玄治? なんだかいつものお前らしくないぞ?」
その姿はまさしく気が昂っている獣であり、見ればさくらも同じような期待の目を大神へと向けていた。
「大神さん、お相手よろしくお願いします!
剣術を使う私達三人での試合なんて、まるで夢を見てるみたいです!!」
大神の意志は関係なく、既に二人の中では三人での試合が始まることが確定しており、逃げ道は塞がれたも同然。
だから大神も覚悟を決め、二人の元へ行き、姿勢を正す。
好きこのんで戦うことはしないが大神もまた日本男児であり、二人と同じ剣の道を歩む者。
互いを高め合う仲間、それも達人の域に達している剣の使い手である二人との試合に、心躍らぬわけがない。
「よろしくお願いします」
そう言って折り目正しく頭を下げた大神にさくらが頭を下げ、玄治は『そうこなくっちゃ』とばかりに竹刀を構え直す。
「時間制限、審判、手加減、全てなし」
「素手での攻撃、無手となった者へと攻撃、共になし」
「決まりごとはただ一つ、全身全霊をもって臨むこと」
互いに何も言わなくともわかるような、この世界で三人だけになってしまったような、そんな錯覚が生まれてしまうほどに楽しい何かが始まることがわかる。
『始めっ!』
三人同時に言うと同時に、竹刀が激しくぶつかり合った。
夢中になって怪我も疲労もわからずに腕が上がらなくなるまで試合をするなんて・・・ あなた達は揃いも揃ってアホですの?
そうだぞ、三人とも。そんな楽しそうなことすんなら、あたいにも声かけろよ!
三人を叱ってる最中なんですからアホな発言するならあっち行ってなさいな、カンナさん
フフッ、楽しかったですか? 玄治さん、大神さん、さくらさん
かすみさん? あなたまでアホ三人にそんなこと聞かないでいただけます? そこのアホ三人も、笑ってないでしっかり私の話を聞きなさいな!!