IS インフィニット・ストラトス~春夏秋冬!? 二人目の天才!!!~(仮) 作:村人K
特訓を終えて解散した後、一兄を呼び出してISについてのレッスンを終えての夜遅め、ついでにやることがあるとスプリング号のハンガーに一兄を連れて行った。
「なあ春人」
作業中、ISスーツに着替えてもらった一兄から声をかけられた。
「なに? 一兄?」
「なんの用だ?」
あ、そうだ呼び出したはいいけどなんでか全くもってこれっきりも伝えてなかった。
「一兄は今日でISの起動は二回目。起動時間は数時間程度。これって大きなハンデだと思うんだ」
物理キーボードをガシガシ叩きながらの会話。ボクはどうもキーボードに限っては物理キーボード――要は昔のアナログなもの――じゃないとテンションが上がらない。
「あーまあそうだな」
「そこでそのハンデを埋めるためのシュミレーションを用意したんだ」
IS用に六個用意しているハンガーの内、一際大きい二つのハンガーに常備してあるのはISのシュミュレーター。最低限のISパーツと仮想空間演算装置を組み合わせて様々なISのプログラムを走らせ、それを使用者に体験させることが出来るものだ。
最新鋭のスーパーコンピュータを十以上並列処理させてるのでかなり実践的なシュミレーションが体験できる。普段は開発中の技術をテストするために使ってるけど、今回はこれで一兄に学習してもらうってこと。
当然、開発した技術の中には厳密に言うならブルーティアーズに搭載されてる物とは違うけどBT装備の技術ももちろんあるのでこのシュミレーターの中で戦闘を再現できるし、なるべく白式に近いであろうスペック、武装を設定済みなのでバッチリ。
「それってなんかズルくないか?」
一兄って結構こういうことに潔癖だよね。
「全然ずるくないよ? 体感時間を延ばしたり、自分の技量以上のことができたりはしない。ただ場所の制約がなくて条件を自由に選べるってことだし」
「そーそー別にずるくないぜ? 努力する時間が増えるだけだっ」
頭の上にぼふんとアインが乗っかってくる。今回、一兄の相手をするのはツヴァイなんで暇を持て余してる感じ。
ツヴァイは既に準備を終えてシュミレータの片方で待機中。元々あまり感情を表に出さないのでさっきからただ黙々とBT装備など、今回のシュミレーションに必要なデータをセットアップしている。
「そうか……分かった。やろう」
「よしきた。ツヴァイ、準備終えた?」
「イエス、マスター。データセットアップ済みです。いつでもどうぞ」
ボクが打ち込んでたのは聞いた白式のデータに限りなく近くするための各種調整。このシュミレータはかなり細部まで調整できる反面、調整に時間がかかるといったデメリットがある。とはいえボクや束姉がやれば五分もかからないんだけどっとセットアップ完了。
並みの技術者なら早くて三十分、遅くて一時間オーバーってところ? それをものの数分で終わらせるんだからボクって天才。自画自賛だよ。
「じゃあ一兄、セットアップするからシュミレーターに乗ってー」
「おう」
ボクに促されてシュミレーターである擬似ISに身を任せる一兄。フィッティングやノーマライズなど必要なデータは既に入力済みなので即座に準備が完了した。
「それじゃ、ツヴァイ、“遊んで”あげて」
「イエス、マスター」
「シュミレーション、スタートッ!」
二人の頭部にシュミレーターのコアとなるバイザーが被さり、シュミレーションがスタートする。
ボクの目の前に展開されたディスプレイに二人が姿が映し出される。
白式に限りなく近くチューンナップされた打鉄に乗っている一兄と、ファンネじゃなかったBT装備を搭載したリヴァイブという現実的にはありえない機体に乗っているツヴァイ。
『行きます、一夏様』
『おう! かかってこい!』
二人が戦闘を開始する。BT装備に慣らすのが目的でツヴァイには最初からBT装備を使用する様に指示してあるのですぐさまリヴァイブの肩部からBT装備が計六機射出される。
『のわぁっ!』
射出された計六発のレーザーが一兄の死角をついて二発直撃していた。
「初めての装備相手にあの反応ならなかなかやるんじゃねーの? ご主人」
ボクの上にのっかったまんまアインが話しかけてくる。ボクはモニターから視線は外さずに返事を返す。
「まー元々反射神経は良い方だし、これは想定範囲内かな。あとは死角から飛んでくる攻撃にどう対応できるかだよね」
ぽふぽふとアインの頭を撫でるとちょっと機嫌良さ気に鼻を鳴らす。ペット扱いみたいに見えるかもしれないけどアインもツヴァイも誕生してからまだ数年だ。
美人さんでボクよりも見た目は年上だけどまだまだ子供。それにしては賢すぎるけどね。
「センスはあるんじゃねーの?」
アインの言う通り、三回目の起動でここまで動ければイイ線はいけると思う。だけど勝てるかと言われるとなぁ。ブルーティアーズについてボクが知ってることを一通り話すのはいくらなんでも反則だと思うし、この訓練でいけるところまでいけるといいんだけど。
『はぁ!』
お、レーザーの雨をかいくぐって一兄がツヴァイにブレードで斬りかかった。この状況に持って行って維持することができれば近接武装がほぼないブルーティアーズに対して優位に戦況を運ぶことは出来る。
『せいっ!』
とはいえ今の相手はセシリアではなく、ツヴァイだ。ツヴァイは“射撃の方が得意”なだけであって近接戦もできる。ブレードを回し蹴りで弾いて体制を崩した一兄へ右ストレートをお見舞いする。
『うぁっ!』
距離が空いた隙にBT兵器のレーザーの雨が一兄を襲う。
「こりゃ決まったねー」
アインの言う通り、徐々に削られていた打鉄のシールドエネルギーは今の攻撃で一気にゼロになった。
お互いの視界にシュミレーション終了のサインが出て、一旦シュミレーションは終了。
「おつかれさま、一兄、ツヴァイ」
「くっそ、行けたと思ったんだけどな」
一兄が疲れながらも悔しげにしてる。対するツヴァイは無表情。疲れの欠片も感じさせない。
「これでよろしかったでしょうか?」
うん、ばっちりと言葉には出さずにアインと同じように頭をぽふぽふと撫でてあげる。
「んじゃ一兄、今日はもう遅いし帰っていいよ。明日も同じ感じで慣らしていくからね」
「おう、分かった。よろしく頼む」
せっかくここまでやってるんだから勝ってほしいもんね。