【完結】恋とノイズと残響と 作:ひーたむ
個別行動になったので、とりあえず洋楽のコーナーへ。
ちょっと前から聞きたいなと思っていた、REMのアウト・オブ・タイムってアルバムがないかなって思ったけど、品切れだ。
他に何か欲しいのあったかな……あ、そうだ、ヴァン・モリソンのアストラル・ウィークスほしいんだよな。
山田がやたら推してたし。
ヴォーカルとベースがすごい、とか言って。
でも、それも置いてないなぁ。
ムーンダンスはあるんだけど。
ま、しょうがないか。
ざっと全体的に見てから、古本のコーナーへ移動。
伊地知さんの後ろ姿が見えた。
「うむむむ……」
真剣な感じにどれを買うか迷っている。
なんか頭の上のドリトスみたいなアホ毛がひょこひょこ動いていて可愛い。
手に持っているのは……。
ちらっと見た感じ、たしかに甘々のラブコメっぽい表紙だ。
うん。
ここはあえて声をかけずに通り過ぎよう。
そっとしておいてあげるのも優しさだろう。
僕は、ラノベの棚で、最近ちょっと話題になった異能力バトルものをチラ読みしてから、楽器のコーナーへ移動した。
「よっ」
中古楽器コーナーに山田がいた。
「あれ? CDじゃないんだ」
「うん。あんま良いのがなかった」
「山田もか。ってか目星つけてきたわけじゃなかったのか」
「中古ってのはめぐりあわせだからね。偶然を大切にしたい」
山田がキメ顔でサムズアップする。
つまりノープランってことね。
「で、楽器見てたの?」
「そう。エフェクター。ちょっとレアなの入ってる」
「へぇ」
「だから買おうかなと」
「え、買う!?」
値段を見ると……万札飛ぶんですけど。
しかも、レアって言ったよな。
珍しいからってだけでとりあえず買う気なのか?
「まさか伊地知さんを頼るわけじゃないよね?」
「一応お金持ってきてる。これ買ったらあとは雑草生活だけど」
「お金あるんかよ」
しかし、山田の経済感覚は謎だな。
貧乏ってわけじゃなく、使い込むから金がないのか。
バイトしてるわけでもなさそうだし。
まさか、お小遣いが多いのか?
家がお金持ちとか!?
「買ってくる」
「お、おぅ」
まぁ、人んちの経済事情に首を突っ込むのはやめとくか。
山田がショーケースを開けてもらうために店員さんを呼んだので、僕はその場を退散した。
絶対値切ったりしそうだし、仲間だと思われたくないからな。
そんなことを思いながら歩いていると。
案の上、後ろから山田の「これ、タダになりませんか!? うちのバンドのチケット差し上げますんで!」とか言ってる声と、店員さんの困り声が聞こえてきた。
僕は苦笑しながらその場を去った。
※
洋楽コーナーに戻ろうとしたとき、その手前にある邦楽コーナーで再び伊地知さんを見かけた。
漫画はもう買ってこっちに来たのかな?
伊地知さんは、一枚のCDを手に取って眺めている。
さっきの漫画と違って別に恥ずかしがるようなものじゃないだろうし、声をかけてみようか。
「何見てるの?」
「ひゃんっ」
伊地知さんがちょっと可愛い声を上げてこっちを振り向く。
「もぉ、びっくりしたよっ」
「ごめんごめん。ガールズバンドのCD?」
「うん。このバンド、知ってる?」
伊地知さんが見せてきたのは、大学生ぐらいの女の子たち3人組がみんなでジャンプしてるジャケット。
写真の色合いや雰囲気からして、少し前のバンドなのかな?
「うーん、初めて見たなぁ」
「そっかぁ。あんまり有名じゃないからねー。すぐに解散しちゃったし」
伊地知さんが言った。
「でも私、このバンド好きなんだ。実は、生まれて初めて買ったアルバムなの。小学生の時。ラジオで聞いてさ、キラキラしてカッコいい!って思ったの」
「おぉ、思い出のバンドだ」
「へへへ、そんな感じ」
「小学生の時にもう自分でバンド探して買ってたってすごいね」
子供の頃から音楽が好きだったんだな。
「あの、うちね、昔お姉ちゃんがバンドやってたんだ」
「お姉さんってあの、星歌さん?」
「うん」
そっか、その延長でライブハウスの店長をやってるのか。
なんか腑に落ちた。
「……実はそん時は私ね、バンドってうるさいからあんまり好きじゃなくて」
「え、そうなの!?」
それは意外だな。
「でも、ちょっとしたことがあって。お姉ちゃんがバンド辞めちゃって」
伊地知さんが、つぶやく。
その横顔はどこか寂しげだった。
「それからかな。逆に私がバンド、聞くようになったんだ。お姉ちゃんたちのバンドは音源残さなかったんだけどさ。お姉ちゃんがやってたのみたいなのないかなって探してて、このバンドをたまたま見つけて」
そういう経緯があったのか。
「でも、この人たちも、私がアルバム買った次の年に解散しちゃった。上手くいかないね~」
「ってことは、家にあるんだね、そのCD」
「うん、持ってるよ。これ一枚だけしか出してないバンドだから、中古屋さんで見つけるの珍しいなって思って見てただけ。しかもほら、これ。新品だよ!」
「ほんとだ、未開封って書いてある」
「どうして売っちゃったんだろうね、聞きもせずに」
「デッドストック品だったのかも」
言ってから、僕はしまったと思った。
買った人が気に入らなくて売ったわけじゃないかもって言いたかっただけなんだけど。
デッドストックっていう言い方は、売れ残りみたいな意味にもなりかねない。
伊地知さんが好きなバンドなのに、少し嫌な言い方だったかも。
「あ、ごめん」
慌てて謝る僕に、伊地知さんは笑ってくれた。
「あはは、別に謝らなくてもいいよー。実際そうかもしれないし」
それから、CDを見つめながら、ぽつりとつぶやいた。
「私もさ、いつか自分のドラム……っていうかバンド組んで、音源残したいなって思うことあるんだ」
それはもしかしたら、お姉さんのバンドが音源を残さなかったから?
問いかけようかと思って、なんとなくやめる。
ちょっと真剣な空気になりすぎたと思ったのか、伊地知さんが冗談っぽく舌を出した。
「まだメンバーもいないんだけどねっ」
※
そのあと、僕は僕で目についた洋楽(キンクスのスリープウォーカーだ)のCDを一枚買って、待ち合わせ場所へ。
山田はでっかいエフェクターを抱えていた。
「え、それ買ったの」
伊地知さんがあきれたように言う。
「うん」
「山田、値切れた?」
僕の問いかけにしょんぼりした表情になった。
「もう草しか食べられない」
ダメだったのか。
「虹夏、明日から毎日ご飯作って……」
「もー、計画たててお金使ってっていつも言ってるのにー!」
ぽかぽかと山田を叩いている。
まるで、金銭感覚のおかしいダメ夫にお金使いこまれちゃった奥さんみたいだ。
何はともあれ、これで買い物は終了だ。
「まったくもぉ。リョウ、フルーツパーラーに寄るお金残ってるの?」
「ごめん、無いかも」
「はぁ!?」
帰りに寄ろって約束したじゃん、と言う伊地知さんを軽くスルーして、山田が言った。
「服部のジャケット見てたら、古着屋も冷やかしたくなった。私お金ないし、帰るね」
じゃっ。
と言ってすたすたと帰ってしまう山田。
振り向きざまに一言、僕に、
「そのジャケット、結構いいよ」
とだけ言った。
急に褒められて、僕はドキッとしてしまった。
「うー、リョウの奴ぅ」
伊地知さんが、納得いかないって顔をしてる。
僕は問いかけた。
「えっと、どうしよう?」
「うーん、リョウ帰っちゃったから解散かなぁ」
「え、フルーツパーラーはいいの?」
「行きたいけど……服部君、男子だしあまり甘いもの興味ないでしょ?」
「いや、全然大丈夫だよ」
「ほんと?」
「うん」
「じゃ、じゃぁ、二人っきりになっちゃうけど、一緒に行ってくれる?」
「もちろん!」
そんなわけで、僕らはふたりだけで駅前に新しくできたフルーツパーラーに行くことになった。
ってか、よく考えたら、バイト以外で二人きりって初めてじゃないか?
流れで快諾しちゃったけど……よくよく考えたらデートみたいだぞ?
ちらっと伊地知さんの方を見ると、心なしか彼女も頬を赤らめているような気がした。
いやいや、気のせいだよな?
(つづく)