【完結】恋とノイズと残響と   作:ひーたむ

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13、呼び方が変わる午後

 

 

 

「うわっ、なんかオシャレな感じだ……」

 

フルーツパーラーに入って、思わずつぶやいた。

普段、ジュースとかお店で飲まないから、どういうお店なのかあまりわかってなかったけど。

かなり大人っぽい雰囲気だ。

白っぽい色合いで統一された石壁に、ヨーロッパ風の椅子とか机。

清潔感と同時に、ヴィンテージ的というかどこか使い込まれたような落ち着いた味がある。

大きめに取られた窓から休日の午後の陽光が射しこみ、店内を柔らかく照らす。

観葉植物が心地よさそうに日を浴びている。

ぼ、僕なんかが入ってよかったのだろうか?

思わず陰キャらしくきょろきょろしてしまった。

 

「どうしたの? 服部君」

「あ、あはは、なんでもないよ」

 

キョトンと問いかけてくる伊地知さんに、慌てて返事をした。

伊地知さんはこういう店、通いなれてるんだろうか?

わりと陽キャな方だとは思うし、堂々としてるなぁ。

あ、あんまり僕の方がおどおどしていたらカッコ悪いよな。

何か、話題を振ろう。

 

「あ、そ、そうだ、伊地知さんは何を頼むか決まってるの?」

「それが悩んじゃうんだよねー。どれもおいしそう」

 

伊地知さんが、オーダーカウンターの上の壁に設置された大きな黒板を見ながらつぶやく。

美味しそうというか……呪文?

なんちゃらなんちゃらのフラッペとか、フルーツの名前が書かれたパフェとか、アラモードとか、僕にはチンプンカンプンだ。

それにしても、ぱっと見回すと。

お店の雰囲気に合わせてなのか、お客さんたちも、垢抜けた感じの人ばっかりだ。

お洒落な店は客層までかっこいいのか!?

それに比べて僕は……。

 

「服部君は何にするのっ?」

「え、あ、えっと」

 

しまった。

周りを見回していて、メニューをちゃんと見れてなかったぞ。

 

「ごめん。やっぱりその、こういうお店、苦手だった?」

 

僕のリアクションで、伊地知さんに気を遣わせてしまった。

 

「あ、いや、その違うんだ。苦手とかじゃなくって。むしろ楽しいんだけどさ、その、こういう店にあまり来ないから、服装とか場違いじゃないかなって」

「え、ぜんぜんそんなことないよっ!」

 

伊地知さんが僕の心配を吹き飛ばすような笑顔で言ってくれた。

 

「服部君、ちっとも場違いじゃないって」

 

その表情は、真剣で、お世辞を言っているんじゃないってわかる。

 

「そ、そうかな」

「うん! 自信もって大丈夫だよ! それに……さっきはリョウに先こされちゃったけどさ。実は私も朝に見たとき時から、ジャケット似合ってるなって思ったっていうか……ちょっ、ちょっとカッコ良いかもって思ったし……

「え?」

 

最後、ちょっと小声でごにょごにょ言ったから、良く聞こえなかったけど、たぶん褒めてくれたっぽい?

 

「あ、あはは、聞こえてなかったらいいの。忘れてっ」

 

伊地知さんが顔を赤くして手を振った。

 

「いやー、それにしても混んでるねぇ~」

 

伊地知さん、会話を無理やり変えた?

ま、まぁいいか。

 

「オープンしてすぐだからかな、デートっぽい二人組だらけだねぇ……あっ!」

 

言ってから、僕を見る。

自分自身を改めて見て、そして、ぼんっと頭から湯気を立てた。

 

「あ、えと、その……」

 

なんだか、もじもじしながらこっちをチラ見してる?

そ、そうか、たぶん、僕らもそう見えてしまうかもって想像しちゃったのかな。

それは、伊地知さんとしては心外だよな。

僕は慌てて否定した。

 

「だ、大丈夫だよ。ほら、デートっぽい人ってさ、もう少し大人な人が多いし。あと手とか繋いでるしさ。ぼ、僕らはたぶん友達って見えてると思う」

「そ、そっかぁ……そ、そうだよね、うんうん」

 

めちゃくちゃ赤くなったまま、伊地知さんがつぶやいた。

でもなんか少し不満げなような?

気のせいかな。

 

 

 

 

やがて列が進み、僕らの番に。

伊地知さんは、葡萄を使ったフラッペ、僕は梨のスムージーを注文した。

幸い、窓際の二人席が空いていて、そこに座る。

 

「うわぁ、ほら見て、葡萄がいくつも乗ってるよ!」

 

伊地知さんが目を輝かせて、机の上のフラッペを見つめる。

それから、ストローで一口飲み、「美味しぃ~!」と笑った。

僕は、フラッペよりも、そんな伊地知さんに目を奪われていた。

窓から差し込む光が淡く伊地知さんを照らし、すごく可愛く見えた。

いや、もちろんいつも可愛いんだけど。

この時はことさらに、まるでアイドルみたいに煌めいて感じたのだ。

バイトの後でスターリーの机でこうして二人でおしゃべりすることはあるけど、外のお店ってのは初めてだ。

そう考えると、胸の鼓動がさらに早くなった。

それと、改めて見ると、伊地知さんは、すごくお洒落な服装をしている。

女子の服装ってあまり詳しくないけど、レイヤードっていうのかな?

透け感のある感じのシアートップスに、少しシックなモカベージュのキャミソールワンピースを重ね着してる。

伊地知さんは、どちらかと言えば童顔で可愛い雰囲気なのに、モカベージュの大人びた色彩がアンバランスな魅力になっていて、すごく素敵だ。

 

「ど、どうしたの?」

「あ、いや」

 

どうしよう。

言うべきか?

すごくお洒落だね、って。

さっき、伊地知さんも僕のジャケットたぶん褒めてくれたし。

い、言ってもいいよな?僕も。

でも、女の子の服のこと褒めるって、なんか恥ずかしいな。

オシャレかどうか、僕には正確に判断付かないし。

「は? これごく普通だよ」とか冷めた目で言われたら恥ずかしくて爆発してしまうぞ。

悩みに悩んだ末、服装そのものじゃなくて、色を褒めることにした。

 

「……その。ワンピースの色、大人っぽくていいね」

「ほ、ほんと!?」

 

おぉ、予想以上に嬉しそうだ。

 

「じ、実はね、ちょっと冒険したんだ。私よく子供っぽいって言われるから。動画とか見て、少し背伸びした色のに挑戦しちゃった。似合ってないんじゃないかなって心配だったから、嬉しい」

「に、似合ってるよ、すごく」

「え、えへへ。ありがとう」

 

照れ隠しなのか、伊地知さんがすごいスピードでフラペチ―ノを飲む。

 

「あ、あはは。なんか熱いね~」

 

結構店内は涼しいはずなんだけど、伊地知さんはパタパタと手で顔を仰いだ。

僕も、これ以上は恥ずかしくなってきたので、会話の話題を変えることにした。

 

「そういうと山田、高いエフェクター買ってたね」

「すぐに飽きて売っちゃうけどねー」

 

伊地知さんがやれやれと肩をすくめる。

 

「え、そうなの?」

「リョウは衝動買いが多いからさー。後で使えないってなって結局売っちゃうの。この間もメルカリで売るの手伝ったんだよ?」

 

大変だったんだから、とか言いつつも、楽しそうだ。

本当に仲いいよなぁ。

 

「あ、そうだっ!」

 

伊地知さんが、がばっと身を乗り出した。

 

「どうしたの?」

「服部君、私のことも呼び捨てにしてよ」

「え、い、伊地知さんを?」

「うん。前も言ったと思うけどさ。リョウのことは山田って呼び捨てなんだもん。私だけ、なんか仲間外れみたい」

 

うーん、山田はまぁいいんだけど、伊地知さんはなぁ。

僕にとってある種、神聖というか、不可侵な天使なんだよ。

呼び捨てなんて畏れ多くて……と思ったんだけど。

 

「……呼び捨てにしてほしいんだけどなぁ」

 

そんなに言われると、悩む。

僕が伊地知さんを、伊地知って呼ぶ。

それはなんかちょっと……。

 

「ダメ?」

「ダメっていうか、なんだろう、名字で伊地知さんを呼び捨てって、なんか失礼っていうか」

「失礼って何なのも―。あ、そうだ。それだったらさ」

「ん?」

「な、名前で、呼んでよ」

 

伊地知さんが、照れたような表情で、上目使いに僕を見上げる。

な、名前で?

虹夏って!?

 

「え、えぇ、それはちょっと……」

「リョウだって、私のこと虹夏って呼んでるよ?」

 

伊地知さんの目は真剣だった。

からかってるとかじゃなく、勇気を出して言ってる感じ。

僕は、だから……。

 

「に、虹夏…………ちゃん」

 

ぎりぎりの妥協案で、そう呼んだ。

 

「その、さすがに、呼び捨てにはできないけど。ちゃん付けなら、僕もなんか、納得いくかも」

「う、うんっ」

 

伊地知さん……いや、虹夏ちゃんが、赤くなっている。

でも、どこか嬉しそうに、何度もこくこくとうなづいた。

 

 

 

 

そのあともいろいろと雑談をしていると、気が付いたら2時間近くが経っていた。

時計を見て僕も虹夏ちゃんもびっくりした。

え、時間たつの早すぎじゃね?

 

「うそっ、もうこんな時間なんだ! お姉ちゃんの夕飯作らなきゃ」

「いつの間にこんなに時間たってたんだろ?」

「それ、私も思った。なんか、一瞬みたいだった!」

 

虹夏ちゃんも、時間が経つのが早いと思ってくれていたのか。

なんか、考えてることが一致していてうれしい。

二人で慌ててお店を出る。

でも、駅まで歩きながら、まだ会話は続いた。

言葉がとめどなく、あふれ出てきちゃうのだ。

 

「今日は何作るの?」

「うーん、野菜炒めかなぁ。お野菜残ってるし」

「献立とかもちゃんと考えてるんだ」

「えへへ、一応ね。でも結構適当だよー。服部君はお料理とかしないの?」

「僕はほとんどしたことないなぁ。あ、スーパーの即席鍋うどんとかはするかも」

「それはお料理じゃないよー」

「やっぱそうかぁ」

 

そんな風に笑いあっていると、やがて駅に着いた。

 

「あ、あの。今日、すごく楽しかった」

 

虹夏ちゃんがそう言ってくれた。

 

「う、うん。僕も」

「は、服部くんっ!」

 

虹夏ちゃんが、ブックオフの袋を差し出してきた。

 

「え、これは?」

「あの、ブックオフで見てた、私の思い出のバンドのCD……これ、あげる!」

「いいの?」

「う、うん! えと、その。いつも服部くんにはバイトとか、お世話になってるし。そのバンド、本当に私の原点みたいなのだから、聞いてほしくて。そ、それにほら、ブックオフだけど新品だったから……」

 

なんか、すげー嬉しい。

女の子からプレゼントもらうなんて初めてだし、よりによって虹夏ちゃんからなんて、最高だ。

 

「ありがとう。今度、必ず僕も何かプレゼントするよ」

「お、お返しはいいよー。私が自分の好きなの渡しただけだから」

「じゃあ僕も自分の好きなの選んで渡すから。それでおあいこでしょ」

「う、うん」

 

プレゼントを僕が受け取ると、虹夏ちゃんは少し恥ずかしそうに駅に入っていった。

僕は、しばらくその場で、ブックオフのビニール袋をもって動けなかった。

心の中に、じんわりとした喜びみたいなのがにじんで、その余韻が僕の身体を釘付けにしたのだ。

 

 

 

 

(つづく)

 

 

 

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