【完結】恋とノイズと残響と 作:ひーたむ
そんな風にして少し仲良くなった伊地知さんと、時々音楽の話をするようになった。
僕は音楽に詳しくないから、もっぱら伊地知さんのおすすめを教えてもらうばかり。
でも不思議と関係は成り立っていた。
伊地知さんは、自分が新しく発見したバンドとかを僕に教えるのが楽しいみたいだ。
「リョウはさ、おススメしても全然聞いてくれないからなぁー」
やれやれって感じでそんなことを言う。
山田さん、相当自由な人なんだな。
何はともあれ、僕は伊地知さんのちょっとした話し相手になれたわけだ。
きっかけは、親父のCDを思い出したことだったわけで、僕は心の片隅で親父に感謝した。
ここ数年出張でずっと家にいないけどね。
今度帰ってきたら、なんか親孝行してやろう。
「そういうとさ、音楽ってどうやって探すの?」
ある日、僕がそう問いかけると、伊地知さんは教えてくれた。
「んー、適当にネットとかで探したりとか、雑誌読んだり、あとはサブスクでおススメが表示されたりとか。あ、でも、お店に行ってジャケ買いも楽しいよ」
「ジャケ買い?」
「うん、こう、ジャケットを見て、フィーリングでえいやーって!」
伊地知さんが、腕まくりをする。
パワフルさをあらわそうとしているのだろうか?
「え、失敗したら大惨事だね」
「そりゃもうねぇ」
「お小遣いが吹っ飛んじゃうね」
「それどころかバイト代がぱぁだよー」
机に突っ伏した。
実感がこもってるなぁ。
しかしそうか、お店かぁ。
最近はかなり減ったけど、街にはレコード屋さんがあるんだよな。
家には確か、CDプレイヤーとかアンプがあったなぁ。
僕はその日の放課後、なんとなく街をぶらついてみることにした。
あまり趣味のない僕は、学校が終わるとすぐに帰宅していたので、街を歩いてみるのは新鮮だった。
大通り以外の小さな路地とかにも古着屋とか喫茶店とか、いろんな店がある。
もちろん、お金を持っていない高校生には敷居が高いけど。
「あ、ここって」
レコードショップだ。
雑居ビルの中二階。
路面から直接階段があって、ガラス張りのドアにポスターが貼ってある。
中古も扱っているみたいだ。
CD特価大放出か……。
は、入ってみようかな。
実は、伊地知さんにいつも教えてもらってばっかってのも、なんかカッコ悪いよなぁと思っていたのだ。
たまには僕の方から、「これ聞いてよ」って教えてみたい。
「え、いいじゃんっ」って言ってくれる伊地知さんの顔を想像しながら、僕は勇気を出して自動ドアをくぐった。
中に入ると、外の雑踏の音が消えて、代わりにタイトなロックの音が聞こえてきた。
結構古い音源だろうか?
ざらついた歪んだギターに、粘りつくような枯れた歌声が絡んでいる。
たぶん、ブルースっぽいロックだ。
でも誰も、今鳴っている音なんて気にしていない。
数人いるお客さんたちは、みんな大人の男性で、一心不乱にレコード棚やCD棚を漁っている。
どの人も、いかにも常連って感じ。
僕みたいに、びくつきながら周りを見渡しているヤツはいない。
ビクビクしているとかえって変に思われそうだな、ここは、ど、堂々としよう。
とはいえ、どうすりゃいいんだろう。
伊地知さんは適当にジャケットを見て、って言ってたけど。
そもそもどこから見ればいいんだ?
お店全体が、ジャンルで分けられて置いてあるみたいで、ジャズとか、ロック、クラシック、それに洋楽邦楽、年代とか、細かく分けられている。
えっと、伊地知さんは、邦楽のちょっと明るいのが好きなんだよな……。
邦楽は……あっちか。
邦楽の棚より手前にある洋楽の棚を通り過ぎようとした時、女の子の姿が目に入った。
男の人ばっかだと思ったけど、女の子もいたのか。
って、なんか見覚えがあると思ったらクラスメイトの山田さんじゃないか。
なんて偶然だ。
ど、どうしよう。
声をかけるべきか?
いや、伊地知さんからよく話は聞いてるけど、僕は直接話したことないしなぁ。
熱心に視聴機でなんか聞き入ってるし、ここは気が付かなかったふりして通り過ぎるか。
そうだな、そうしよう。
山田さんの視界に入りにくいようにちょっと迂回して、邦楽コーナーへ。
でも……。
「やっぱ全く見当もつかないな」
あまりにも量が多すぎる。
あまり使ってないから小遣いはそこそこ余ってるけど、それでも一枚か二枚買うのが限界だ。
となると、何を選んでいいのか全く分からん。
「うーん」
首をひねって、悩む。
悩みすぎても、しょうがないか。
ここは、フィーリングで。
「これだ!」
なんとなく手に取ったのは、URCというレーベルから出ているフォークロックのバンドのファーストアルバムだった。
帯になんか書いてあるな。
へぇ、大阪の難波の喫茶店で結成されたバンドなのか。
行ったことないな、大阪。
まぁ、その辺も含めて伊地知さんとの話題のネタになるだろうか。
そんなことを考えていると。
ちょい、ちょい。
「うひゃっ」
急に肩をつつかれて飛び上がってしまった。
へ?
え?
何?
ってか誰?
もしかして店員さん?
ずっと手に持って悩んでるから、パクるとでも思われたのか!?
「ち、違うんです、僕はただ」
振り返るとそこにいたのは山田さんだった。
「買うの? それ」
「は、え?」
「違った?」
「あ、いや、買うつもり」
「そう。ナイスチョイス」
グッとサムズアップされた。
「あ、これ、知ってるの?」
「うん。ディランセカンドのファーストは名盤。シークレットトラックも入ってるから、最後まで聞くべし」
「う、うん」
なんか圧が強い。
物静かだと思いきや、こんな感じの子だったのか?
「や、山田さんは、洋楽を買うの?」
「なんで?」
「それは……」
さっき見かけたからと言おうとして口をつぐむ。
わざと無視したってことになるよなぁ。
「さっき見てたから?」
「気づいてたんかい!」
思わず突っ込んだ。
「すっごいじろじろ私のこと見てたけど、結局無視してくから。いかにも女子慣れしてなさそうだなと思って生暖かくスルーしといた」
おい。
いや、事実だけどさ……。
僕はため息をついた。
「ご、ごめん。なんか集中して視聴してるっぽかったから」
「これね」
山田さんがCDを差し出した。
表紙は全部英語。
って洋楽だと当たり前か。
「前から気になってて、聞いてみたらすっごい良かった。音の緊張感がすごい」
緊張感?
迫力とかじゃなく?
「はい。絶対にお勧め」
「え?」
ぽんっと手渡された。
「僕が買うの?」
「そう」
「なんで?」
「邦楽と洋楽、一枚ずつ買った方がバランスがいい」
それっぽいこと言ってくる。
「虹夏も、絶対に気に入ると思う」
「うっ」
そう言われると、なんか興味をそそられてしまった。
っていうか、僕が伊地知さんに聞かせたくて買おうとしてるのモロバレかよ。
「うーん、ま、まぁ、どうせ買うなら洋楽も買ってみてもいいけど」
つい、そう言ってしまう僕。
「まいどあり。あとで貸してね」
「やっぱそういう魂胆かよ!」
またもや突っ込んでしまった。
でもまぁ、実際に気になったので、2枚とも買ってしまった。
一枚1200円ぐらいだったから、合計約2500円。
まぁまぁの出費だ。
「安いよ。その値段で買えたら。歴史的な名盤だから」
「そう思うなら自分で買おうよ……」
店を出ながら、そんな会話をする僕ら。
なんかいつの間にか、割とフレンドリーになってしまった。
「あっ」
と、本屋の前で山田さんが唐突に立ち止まった。
「今日はBURRN!の発売日だった。じゃっ」
しゅたっと手を挙げて、本屋に消えて行った。
バーンってなんだよ。
思わず携帯で調べる。
は、ハードロック専門雑誌か。
今どきこれ読んでる女子高生って何人いるんだ?
ってか自由だな。
クラスでは、無口でミステリアスで近寄りがたいイメージだったけど。
なんか普通に変な奴だ。
(続く)