【完結】恋とノイズと残響と   作:ひーたむ

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20、ざ・はむきたす

 

 

 

翌週の土曜日、山田のバンドのライブを聞くために僕は電車に乗った。

いつもと違うハコだ。

小田急線沿いの降りたことのない駅で降りる。

 

「え? ここ?」

 

大きめの通りから横道にそれた路地に面したそのライブハウスは、結構大きかった。

これまでの倍ぐらいは収容できるんじゃないだろうか。

しかも、すでに結構お客さんが並んでいる。

もしかして、山田のバンドかなり人気が出てきているのか。

山田から渡されたチケットの番号は96。

200人ぐらいはお客が来てそうだ。

……マジか。

急にあいつが遠い人に思えてきたぞ。

 

やがてライブが始まった。

女子三人組バンドなだけあって、お客さんも若い人が多い。

前と客層が変わってきている。

ルックス目当てっぽいチャラい男子とか、黄色い声を上げている追っかけっぽい女子がたくさんいる。

 

「どうも。今日は来てくれてありがとう。ざ・はむきたすでーす!」

 

ギターヴォーカルの子が挨拶をした。

前よりもどこか垢抜けていて、しゃべり方にも薄暗い文学的な感じがない。

曲が始まると、その感覚はより確信的になった。

わかりやすい展開、王道的なコード進行。

派手で目を惹くギターのカッティングでつけられたメリハリ。

長尺の演奏ではなく、コンパクトな構成。

上手い。

鈍重さがなく、すごく洗練されている。

ノイズの装飾が取り払われている。

メロディラインもポップで、爽快。

何よりも一番の変化は、歌詞だと思った。

以前のこのバンドの歌詞って、難解だけどどこか示唆的な、現代詩みたいなところがあったけれど。

新しい曲の歌詞はほとんど、わかりやすいポップソングの言葉になっていた。

それは、すごく良くできていて、でも逆に、なぜか空虚にも聞こえた。

少なくとも、以前のようには僕の心を打たなかった。

けして観客と目を合わせようとしないギターヴォーカルの女の子は、まっすぐ前を見ているように見えて、どこか別のところを見ているかのようだ。

僕は、この子の歌詞を聞いて、現代詩を読もうと思ったのに……。

なんだか少し残念だった。

山田を見た。

ステージ上の彼女は、少しだけ窮屈そうに見えた。

でも観客は誰も気が付いていないようだ。

僕は心の中で、山田、大丈夫か?と問いかけたくなった。

なぜか、無意識に僕は歯ぎしりをしていた。

 

バンドは今回はワンマンだったので、10曲ほどやり、アンコールになった。

一息つくために、ギターヴォーカルの子がペットボトルの水を飲む。

そしてギターを抱えなおした。

観客から「かっこいいー!」という声が上がる。

それに合わせて、盛り上がったファンの子たちがキャーとかワーとか歓声をあげた。

その時だ。

山田が急に、ひどくソリッドなベースラインを弾き始めた。

混沌の中から徐々に音が固まっていくような、プログレッシブなベースライン。

 

「ちょっ」

 

ギターヴォーカルの子が声を上げ、それをマイクが拾ってしまう。

 

「山田、それはやらないって言ったじゃん」

「……なんで。この曲没にする意味が分かんないよ」

「だから、それはウケないって……あっ」

 

声がマイクに乗っていることに気づき、ギターヴォーカルの子が口を紡ぐ。

 

「チッ」

 

小さく舌打ちし、そのままギターを弾いた。

クリス・レアみたいな太い音のシングルトーン。

ひどくブルージーなフレーズをベースの上に乗せていく。

ループ的な音の繰り返しが、どこか延々と続く悪夢の高速道路を思わせる。

 

「結局やんのかよ」

 

ドラムの子がつぶやき、大ぶりなドラム音を重ねる。

地底を揺るがすようなサウンドだ。

先までと全然違う。

お行儀のいいバッキングなんかじゃない。

音を煽り、なんなら攻撃をしていくようなスタイル。

リズムは正確じゃなく、時にはへたったりよたったり、けれども爆発がある。

無軌道にパンキッシュに叩きまくる。

ギターヴォーカルの子が、歌いだした。

 

 

目を閉じるばかりじゃねーんだ

感覚は

夜更け過ぎの駅に吹き溜まり

私たちを貫いていくんだろ

だったら見上げた空は

何の色でもなく

私たちの目に決めろというのか

どこへゆくかも

どこへゆけないかも

答えも出さずに

ほぼ死に体で

 

昨日つけてしまった

3インチの傷跡が

腕の皮を一枚、引きつらせるなら

私たちは生き残るだろう今夜も

なんだか

危うい白線の上に色彩のない筆跡だけを残して

あぁ、あぁ

あぁ

意味なんてねぇや

意味なんて

どうせ午前の3時だ

いっちまえ

いっちまうんだよ

どこへなと

 

 

僕は、息をついた。

これだ。

これが、僕が知っているざ・はむきたすだ。

意味がわからないけどなんか尖っている言葉の渦、羅列、上手いのかどうかもわからない、けれど不思議に魅了される、ハードでタフなざらついたサウンド。

ガールズバンドだってことを忘れさせてしまうような、可憐なその姿と不釣り合いのマイナー思考。

暴れまくる情熱。

これなんだ。

僕は、こぶしを握り締める。

胸が熱くなる。

ステージ上の山田はいつもの無表情。

でも彼女が笑っていることが、僕にはわかった。

最高だよ、山田。

僕は小さくつぶやいた。

 

 

なのに…。

曲が終わった後の拍手は、その日のライブで一番少なかった。

 

 

 

 

(つづく)

 

 




ようやく、一番書きたかったシーンの一つにたどり着きました。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
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