【完結】恋とノイズと残響と   作:ひーたむ

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21、夜のファミレス

 

 

 

ライブを聞き終えた後、帰り道を歩いていると、携帯にラインが届いた。

山田からだった。

 

「下北沢のファミレスで待ってて」

 

んん?

普通はバンドで打ち上げとか反省会とかあるんじゃないのか?

 

「何時?」

 

そう打つと

 

「1時間後」

 

すぐに返事が来た。

一時間後ね。

まぁ、まだ深夜ってわけでもないからいっか。

僕は「しゃーないな。了解」と返事を送った。

小田急線に乗って下北沢へ。

たまにみんなで行くファミレスに移動する。

とりあえずドリンクバーを頼みながら待機。

その間に、なんとなく持ち歩いているノートを開いた。

僕はそこに、この数か月間、僕なりの言葉を書いてきた。

けれど、未だそれらは詩にはなりきっていない。

理由はわからない。

詩未満の言葉の断片が、まるで不格好なストラッドを踊っている。

僕は、ペンを手に取った。

 

21時のファミレスは

雑踏から切り離され

個人のための箱になる

僕は今その場所で

息をひそめ待っている

僕の世界は

薄暗く

空から灰が降ってきそう

もうすぐ真冬が入り込み

僕を凍えさせてしまいそう

 

そこまで書いて、ペンを置く。

首を振った。

ダメだ。

単なる、出来事の羅列だ。

ただ単にそのまま、気持ちを書いた下手な日記のようなものだ。

 

「おーい、服部くーんっ」

「え?」

 

聞きなれた明るい声に振り向く。

ぷにっ。

僕の頬に、柔らかい指先が触れた。

ちょこんと横に虹夏ちゃんが立って、人差し指を突き出していたのだ。

 

「うわわっ、に、虹夏ちゃん!?」

「あはは、びっくりしてる」

「え、どうしてここに?」

「リョウに呼び出されたの。用事終わったら、家の近くのファミレスに来てって」

 

あ、そうか。

虹夏ちゃんのマンションって、このファミレスのそばだった。

 

「今日、リョウのライブに行ってたんでしょ? 私ちょっとスターリーのお手伝いがあって」

「うん、聞いてる」

「どうだった?」

「お客さん、多かった。びっくりしたよ」

「そっかぁ。リョウ、人気者になっちゃうかもね」

「うん」

 

僕がうなづくと、ちょっと心配そうに虹夏ちゃんが問いかけてきた。

 

「あ、あのさ」

「ん?」

「あの、お父さんのこと……」

「あっ……」

 

僕は、思わず息をのむ。

虹夏ちゃんが、真剣に言葉を紡いだ。

 

「もし、つらいことがあったらいつでも頼って。私もお母さんが死んじゃった時、すごくつらかったから。だから、私、その、少しはわかると思うから」

「うん」

「あ、あはは、なんか暗くなっちゃうとだめだよねっ。ドリンクバー入れてくる」

 

そう言って、ドリンクバーへ。

戻ってきた虹夏ちゃんが、虹色の謎ドリンクを見せてきた。

 

「見てこれ。特製ゲーミングドリンク!」

 

どう混ぜたらそんなのが出来上がるんだ?

ってか、案外子供っぽいところあるよね、虹夏ちゃん。

でも、もしかして、わざと僕を笑わせるためだったのかも。

そのあとはずっと、おどけて冗談を言ったりしてくれた。

冬の空気が、ファミレスの扉が開くごとにそっと入り込んでくる。

でも、虹夏ちゃんの温かさが、僕を寒さから守ってくれるような気がした。

 

「よっ。お待たせ」

 

やがて山田がやってきた……っておい!

 

「たんこぶ出来てる!?」

「ちょっとメンバーに殴られた」

「えぇぇぇ、何があったのリョウ、大丈夫!?」

「大丈夫大丈夫、普段から虹夏に殴られ慣れてるし」

「そういうレベルじゃないでしょー!」

 

虹夏ちゃんが慌てて氷を取ってきて、ハンカチにくるんで山田のおでこに当てた。

 

「冷たっ」

「我慢して」

「うん」

 

普通に痛そうだ。

 

「あの、山田、それってやっぱあの最後の曲?」

「ん、まぁね。直接的な原因はそれ。でもまぁ、ここんとこずっとぎくしゃくしてたし」

「何があったの?」

 

心配そうに虹夏ちゃんが問いかける。

 

「音楽性の相違ってやつ。……面白くないんだよね」

 

珍しく山田が、吐き捨てるように言った。

 

「ね、聞いてたでしょ。どうだった? 最後の曲」

「粗いけど、良かったよ」

「ふふ、やっぱ服部はわかるヤツ」

 

言いながら、山田はファミレスの注文タブレットを開く。

 

「というわけで、傷心だからたくさん食べたい。虹夏、ポテトの盛り合わせとハンバーグとカレーとフィッシュアンドチップス頼んでいい?」

「もー、今日はいっぱい食えー!」

「やった。虹夏優しい」

 

ガッツポーズの山田。

まさかおごってほしくてわざと愚痴ったんじゃないだろうな。

 

「あと、これとこれも」

「えー、お財布足りるかなぁ」

「服部もいるじゃん」

「おい!」

 

思わず突っ込む。

 

「リョウ、服部君に出させちゃだめだからねっ!」

「それより虹夏、なんかジュース入れてきて」

「自分で入れろっ」

 

とか言いつつ、山田のドリンクを入れにドリンクバーに行く虹夏ちゃん。

僕は二人きりになったので、山田に問いかけてみた。

 

「というかお前、バンドメンバーにもそうやって奢らせてるんじゃないだろうな? 実は不仲の原因そこにあったりしないか?」

「そんなことはない」

「ほんとか?」

「うん。友達にしか頼まないから」

 

なんじゃそりゃ。

 

「いやいや、意味が分からん。はむきたすの子らは友達じゃないのかよ」

「それはべつに。一緒に音楽やる仲間ってだけ」

「へぇ」

 

線引きがあるのか?

 

「じゃなんで友達には奢らせるんだよ」

「それは…………ん…………」

 

一瞬山田が思案する。

それは珍しいことだった。

 

「好かれすぎないため、かな」

 

そう言った。

 

「は?」

「だってさ。いい人やって、人から好かれても、しんどいだけじゃん。それって本当の自分じゃないし。友達には、自分自身でいたい」

「それが、虹夏ちゃんってこと」

「そう。あとお前」

「そ、そうか」

 

いやいや、ごまかされんぞ。

そう言って奢ってもらおうと思ってるだけだろ。

 

「はむきたすはさ」

「うん」

「私的には、いつも気を遣ってたんだよね。あまり意見も言いすぎず。好かれようってして。でも結局あんな風になった。息苦しいよ」

「…………」

 

こいつはこいつで、不器用なんだろうか。

 

「服部はさ」

「ん?」

「なんか、最近あった?」

「え?」

 

突然の問いかけ。

こいつが僕のことを訊いてくるなんて思ってもいなかった。

 

「な、なんでだよ」

「なんとなく。ちょっと変わったから」

 

変わった?

 

「それって、悪い意味で?」

「わからない」

「わからんのかい」

「でも、ちょっとだけ大人っぽくなったかも」

「それって褒めてる?」

「一応」

 

相変わらず山田は無表情で、今一つ真意は読み取れない。

でも、こいつなりに何か思うところがあったのかもしれない。

僕は、なんとなく礼を言った。

 

「……ありがと」

 

その時、虹夏ちゃんが戻ってきた。

 

「はい、これでいい?」

「うむ。ルイボスティーを選ぶとは、虹夏わかってる」

「はいはい」

 

僕たちは、それぞれが注文したものを食べ、適当な会話をする。

時間がまるで止まったような感じがする。

このところしばらくは、なんだか激動みたいだったけど。

久しぶりにまったりとした、柔らかい時間が僕を包んでいるようだ。

でも、実際には時間は止まるはずもなくって。

僕が心地よいと感じているこの瞬間も時計の針は進み続ける。

やがて、テーブルの上のお皿が空っぽになった。

帰らなきゃいけないんだろうか?

と、二人と目が合った。

口にしないでもわかった。

誰もまだ帰りたくないんだ。

 

「よしっ」

 

山田が急に立ち上がった。

 

「今からカラオケ行こう」

「え? 今から!?」

「うん。思い立ったが吉日」

 

山田が自分から遊びを提案するとは。

 

「うーん……」

 

虹夏ちゃんが時計を見て、それから僕と山田を見て、ほほ笑んだ。

 

「そうだね! ぱぁーっとストレス発散しちゃおっか!」

 

僕たちは、ファミレスを出て、近くのカラオケ店に行った。

カラオケの受付で並んでいる時に、よくよく考えたら女の子とカラオケに行くなんて初めてだと気づいた。

しかも虹夏ちゃんと山田とだ。

ちょっとドキドキしてくる。

い、いいんだろうか。

 

 

 

(つづく)

 

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