【完結】恋とノイズと残響と 作:ひーたむ
カラオケの受付に並んでいる時、虹夏ちゃんが山田に問いかける。
「時間どうする?」
「もちフリータイム」
「やれやれそうだと思ったよ」
「虹夏、泊めてね」
「歩いて帰れるだろっ!」
「遅くに帰ったら親に怒られるのが嫌」
「もー、先に連絡しとけばいいだけなのにー。うちだってお姉ちゃんの許可いるんだからねっ」
そんなこと言いつつ、スマホで自宅に電話しようとする虹夏ちゃん。
山田に甘いなぁ。
「じゃあ、僕は終電の時間で先に帰るよ」
僕がそう答えると、山田があっけらかんと言った。
「服部もだよ」
「え!?」
「だって服部いないとはじまらないでしょ」
な、なにがだ。
冗談だよな?と思って山田を見るも……。
わ、わかりづれぇ。
無表情だからな、こいつ。
でも、どことなく本気なような気がする。
っていうか、虹夏ちゃんが許さないだろ?
男の僕が泊まるなんて。
と思って虹夏ちゃんの方を見ると。
ぽかんとした顔でスマホのタップを止めている。
「え、えぇ、は、服部君もウチに!?」
めっちゃ赤くなってるぞ。
「いや、山田が勝手に言ってるだけだから。もちろん帰るよ」
「そ、そそそそっか。そうだよね、あ、あははは」
なんかちょっと残念そう?
「泊まってくっしょ。もう決定事項」
山田がずいっと僕の否定を遮る。
それから小声で僕にささやいた。
「こんな機会、めったにないと思うけど。虹夏もまんざらじゃなさそうだし」
「ま、マジ?」
「うん。頭の毛がぴょこぴょこしてる時は嫌がってない証拠」
よく見ると、もじもじしてる虹夏ちゃんの頭のドリトスが犬のしっぽみたいに動いてる。
「で、でもさぁ」
「したくないの? 虹夏の家にお泊り」
「し、したくないかって言われたら、したい」
「じゃあ決定ね。おーい、虹夏。やっぱ服部も泊るって。電車無いから」
「お、おい、勝手に」
しかし虹夏ちゃんは、妙にニヨニヨしながらこう言った。
「そ、そっかぁ。服部君もお泊りかぁ、う、うん、しょうがないよね、終電なくなっちゃうし、リョウのごり押しだし! うんうん!」
なんか猛スピードでドリトスがぴょこぴょこしてるぞ。
※
勢いでお泊りが決定してしまった僕らは、そのままフリータイムのカラオケへ。
虹夏ちゃんが、改めてお姉さんに電話をかける。
「うん、そうなの。リョウがどうしても泊りたいって。え、えっと、そ、それでね、服部君も良いかな? うん、終電なくなっちゃうから。え、えぇぇぇ、ち、ちちちちがうよ、そんなんじゃないからー///」
なんか大騒ぎしてるけど、だ、大丈夫なんだろうか?
ひとしきり会話を終えて、虹夏ちゃんがこっちに戻ってきた。
「ふぅ、ようやくオッケー出たよ」
「虹夏、ごくろう」
「お前のせいだろっ!」
「け、怪我してるんだからバックドロップはやめて」
「ふんっ」
虹夏ちゃんが僕に言った。
「あ、あの、お姉ちゃんがね、明日の朝、ちょっと話があるって」
お、怒られるんじゃないだろうな。
「だ、大丈夫だと思う。別に嫌がってはなかったし。ただ男の子泊めるのって初めてだからお姉ちゃんもちょっと緊張してるのかも」
「そ、それならいいけど」
その時、洋楽のイントロが鳴り響いた。
「あっ、私が入れた曲だ」
山田が平然と歌いだす。
おぃ、自由だな。
「ぷはっ」
そんな山田を見て、虹夏ちゃんが笑った。
「とりあえずなんか曲入れよっか」
「あ、そうだね」
「あとでなんかデュエットしよ?」
「え、う、うん」
そ、そうか、カラオケと言えば男女でデュエットもありなのか。
「あ、この曲とかどうかな? 服部君、歌える?」
「うーん、サビしかわかんないかも」
「じゃぁ、この曲は?」
「あ、こっちはある程度分かるかな」
「じゃぁね、私がガイドするから」
「う、うん」
そんな風にタブレットを共有していると。
「曲を聞け、曲を」
山田に注意された。
「わ、わかってるよ、もぉっ///」
虹夏ちゃんが心なしか頬を赤らめた。
※
そんなこんなで、山田が謎のマイナー曲を歌いまくりつつ、虹夏ちゃんが明るく元気にヒット曲をこなしていく。
僕も自分の好きな曲を歌ったり。
選曲にあまり気を遣わなくても誰も文句を言わないこの感じ、すごく心地いい。
「で、デュエットやらないの?」
と、山田が虹夏ちゃんに訊いてきた。
「い、いやぁ、実際歌うとなるとなんか恥ずかしくってさー。ほ、ほら私、歌下手だし」
「じゃ、私が服部と歌おっかな。マネーフォーナッシングのスティングやってよ」
「それってデュエットか?」
イントロの部分のコーラスしかほぼパート無いだろうが。
「えぇぇぇ、それじゃ私も入れるっ」
大慌てでタブレットを奪う虹夏ちゃん。
「は、服部君、これ歌お?」
ずいっと曲を表示した画面を見せて来た。
そ、その曲ってラブソングでは?
深く考えてないだけだとは思うけど。
「服部、どうするの?」
「私と先に歌うよね?」
ふたりに囲まれ、僕はくらくらしてくる。
騒いで、歌って、狭いカラオケの部屋に、汗のにおいが充満してくる。
でも不思議と嫌じゃない。
僕は、今までの人生で一番生きてるような気持ちを感じている。
結局、デュエット合戦は虹夏ちゃんとに決まり、僕らはデュエットをした。
去年ヒットしたちょっと甘いラブソング。
僕と虹夏ちゃんが歌っていると、何やら山田が内線電話を取り出した。
なんか注文すんのか?
「へい、ビール一丁」
「おい!」
思わずマイクを置いて突っ込む僕。
「いやダメでしょ普通に!」
「今日は特別だから」
「まさかいつもこんなことしてるのか?」
「いや。今日が初めて。だから逮捕されないか……ガタブル」
「なおさらだめだー!」
とか何とか言ってる間に店員さんが来て「ご注文のビールでーす」とサクッと置いて行った。
うぉ、学生だと気づかれずスルーされてしまった。
「ちょ、ちょっとリョウこれ頼んだの?」
虹夏ちゃんもビールに気づく。
「うん、なんかテンション上がってつい」
「ど、どうすんのこれ?」
「来ちゃったものは飲むしか。むしろ証拠隠滅」
「マジか」
「服部、とりあえず先に一口飲んで?」
「なんで俺やねん」
思わず関西弁で突っ込む僕。
とはいえ、なんかここは飲んだ方がいい流れなような気がする。
「しょ、しょうがない、今日だけだ」
意を決して、生まれて初めてのビールを一口飲んだ。
に、苦い。
しかし、案外悪くない味だ。
「の、飲んだぞ」
「じゃあはい、次、虹夏」
なぜか仕切る山田。
「えぇ!? あたし?」
「うん」
「う、うぅぅぅ/// か、間接キスじゃん」
何かつぶやいて僕をちらっと見てから、くぃっと一口飲む虹夏ちゃん。
「の、飲んじゃった……」
ちょっと頬が赤らんでいるのが、妙に可愛い。
「それじゃ私も」
山田が最後に口をつける。
こいつ、なんか堂々としてないか?
と思ったのだけど、「……ひっく」。
「え?」
なんか、様子がちょっとおかしいような?
「虹夏、ケッコンシテェェェ」
わけのわからないことを言いながら虹夏ちゃんに抱きつく山田。
こ、こいつ、酔ってやがる。
「もー、結婚は無理だけど養ってあげるからっ」
いや、虹夏ちゃんも酔ってるな、これ。
※
結局僕たちは、午前3時までカラオケをした。
(つづく)
次回、最終話です。