【完結】恋とノイズと残響と   作:ひーたむ

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8、山田のバンド

 

 

 

「服部、スターリーでバイト始めたの?」

 

数日後のお昼休みの時間。

廊下で山田に話しかけられた。

な、なんだよ、悪いのか。

伊地知さん目当てだろってからかってくる気だろうか。

 

「そうだよ、ちょうどバイト探してたから」

「そうなんだ」

「その、CDとかもっと買いたくてさ」

「ふぅん」

「あ、無理やり頼み込んだわけじゃないぞ。伊地知さんが自分から提案してくれて」

 

そもそも人手が足りないって言っていたし。

 

「わかってるよ」

 

山田が無表情に笑う。

 

「無理やり一緒にバイトしようとしても断られるだけ。そういう男子、もう5人ぐらいいた」

「え」

 

思わず伊地知さんの席の方を見る。

たった今も、クラスの男子(わりとハンサムなヤツだ)が、伊地知さんに話しかけていた。

 

「当たり前だけど、虹夏モテるよ」

「そ、そりゃそうだよね」

 

わ、わかってはいたつもりだけど。

伊地知さんは可愛くて優しくて明るくてフレンドリー。

モテるに決まってる。

というか、音楽の繋がりがなければ僕なんて相手にもされないんじゃないか?

僕よりもずっと格上の男子たちが、伊地知さんにお似合いだろう。

そんな考えが表情に出ていたんだろうか。

 

「大丈夫だよ。虹夏、あぁいうタイプは相手にしないから」

「あいたっ」

 

山田が僕のおでこをデコピンした。

 

「な、何すんだよ」

「スターリー、私もたまに顔出すから。その時はよろしく」

 

そんなことを言ってどっかへ行ってしまった。

たまに顔を出す?

バイトしてるわけじゃないよな?

首をかしげていると。

 

「おーい、服部くーん」

 

伊地知さんが教室から出てきた。

 

「廊下にいるのが見えたから。あれ? リョウは? 一緒じゃなかった?」

「なんか僕にデコピンしてどっか行っちゃった」

「え、大丈夫なの? 痛くない?」

 

おろおろする伊地知さん。

 

「大丈夫だよ、軽くだし」

「もー、リョウのやつぅ」

「そ、それよりさ、よかったの?」

「へ? なにが?」

「さっきほら、男子としゃべってたでしょ」

「?? すぐにお話は終わったよ。なんか急に話しかけられたの」

「あ、そうなんだ」

 

別に親しいわけじゃないのか。

 

「それよりさ、リョウとなに話してたの?」

「あ、僕が訊きたかったんだ。なんか山田がスターリーに顔出すって」

「あぁ、なるほどね」

 

伊地知さんがニヤリと笑う。

 

「え、何その表情」

「ふふふ、それはもう少ししてからのお楽しみかなぁ」

「実は山田も働いてるとか?」

「ううん、そういうわけじゃないけど……ふむふむ」

 

何やら手帳を取り出して日付をチェックしている。

 

「服部君、17日、空いてる? 一緒にバイトしない?」

「え、うん。いいけど」

「じゃぁ決まりねー、よろしくっ」

 

急遽シフトが追加された。

 

 

 

 

17日。

この日は土曜日だったので自宅から直接スターリーへ。

近所のイオンで新しく買ったフーディーを着て行った。

いつも同じようなブルゾンばっか着ていたから、たまには違うのをと思って買ってみたんだけど。

伊地知さん、どう思うだろうか……。

いやいや、伊地知さんに褒められたくて買ったわけじゃないんだけどさぁ。

 

「到着っと」

 

もはや通いなれた感のある階段を下りていく。

 

「おはようございまーす」

「あ、服部君、おはよっ」

 

伊地知さんはすでにお掃除中だ。

真面目だよなぁ。

 

「今日ってそんなに忙しいの?」

「ん? 別にそんなことはないよ?」

 

え、そうなのか。

追加でシフト入ってって言われたから、なにか大規模なイベントでもあるのかと思ってた。

も、もしかして。

伊地知さん、僕と一緒に働きたいから!?

そ、そんなわけはないよな?

 

「はい、これ今日の出演者リスト」

 

なぜかちょっとドヤった感じで用紙を渡してくる。

ふむふむ。

3バンドが出演するのか。

イベントのタイトルは、スクール・ディスターブ!!って書いてある。

学生ガールズロックバンドのイベントみたいだな。

ランブリング・シティライツ、ミューテッドサマードリーム、ざ・はむきたす、ってのが出るみたいだ。

どれも聞いたことない名前だなぁ。

いや、インディーズバンドだから、そりゃそうなんだけどね。

 

「さ、はりきって舞台をきれいにしなきゃ―!」

 

伊地知さんがいつになく意気込んでいた。

一時間後。

 

「失礼します」

 

え?

思わず二度見する。

出演バンドの人たちに交じって、山田が入ってきた。

 

「や、山田!? なんで?」

「前に言ったでしょ。近いうちここで会うかもって」

 

さらっと答えてくる。

 

「バンドやってるの?」

「うん。ざ・はむきたすっての」

「でも、学校ではそんなそぶりもなかったけど」

「学外の人と組んでるから」

「な、なるほど」

 

まぁ、山田はあれだけ音楽に詳しいわけだし、やってても違和感ないといえばないけど。

 

「リョウ~! ってあぁ! もう服部君と出会っちゃってる!」

 

引き合わせて驚かせようと思ってたのに―と伊地知さんが口を尖らせた。

それでわざと黙ってたのか。

 

「いや、十分驚いたよ」

「えへへ~。リョウってね、ベース上手いんだよ」

 

なぜか自分が自慢げだ。

 

「虹夏、ステージ準備できてる?」

「もちろん」

「じゃあ、後でリハさせてね」

「うん!」

 

そうか、それで伊地知さん、掃除に気合入ってたのか。

山田のこと好きだなぁ。

 

「ここまで来るので疲れた。服部、なんかドリンク頂戴」

「ドリンクチケットはお持ちですかー?」

「あるわけないじゃん。わたし演者」

「では500円になります」

「おごって」

「なんでやねん!」

 

そんなやり取りをしていると伊地知さんが山田にジュースを思ってきてくれた。

甘いなぁ。

 

 

 

 

そして、リハが始まった。

いつになく真剣な顔の山田がステージに上がる。

 

「音出します」

 

ぶぉん、と厚みのある音がベースから飛び出す。

リズムは安定しているのに、スピード感があり、グルーヴィーだ。

う、上手い。

機械的じゃないというか、揺れがあって、それが妙に心地いい。

 

「リョウ、すごいでしょ」

 

いつの間にか伊地知さんが隣に立っていた。

 

「う、うん。僕は弾けないから正確には言えないけど、すっごく上手いと思う」

「ベースってさ、一見目立たないように見えて、すっごく重要な要素なんだよね、バンドの。リョウのベースの音は、バンドのリズムを支えてるだけじゃなくて、色彩をそこにつけてる」

 

伊地知さんの目は、まっすぐに山田を見ていた。

見とれているといってもいいだろう。

僕も、思わず見とれそうになった。

 

 

 

 

(つづく)

 





結束バンド結成前の時系列で描いていますので、本作では、山田リョウは、ざ・はむきたすの活動で忙しくてスターリーでのバイトはまだしていない、という設定にしています。
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