【特異課見学に行こう!】が思ったより長くなったので、前・中・後編という構成にさせていただきます。
もっとテンポよく進めたいんですけどね……書きたい場面を無理矢理省くのも違うかなって思いまして。
失礼いたしました。本編にどうぞ。
<暁美ほむら>
マキマの度の過ぎたサプライズで一悶着あった後。
魔女の結界内だという草原の中を走っていた車は、やがて草原の中心にドンと建てられていた建物の前までやって来た。
停車した車から降りて見上げると、建物の全容がよりはっきりと目に映る。それによって、その『特異課の本部』という建物の異様さが直接的に視界の中に飛び込んでくる。
その建物は、私達が「公安」という物々しい言葉から想像していたような建築物ではなかった。むしろ、「これが公安対魔特異課の本部だ」と事前に言われてなければ気づけないようなデザインをしていた。
「ここが、特異課の本部……?」
「公安の一組織って聞いていたから、もっとお堅い雰囲気の建物かと思っていたけれど……。」
「……どう見ても”城”にしか見えないわね。」
そう、私達の目の前にあるのは、某夢の国に出てくるようなメルヘンな建築物_城が建っていたのだ。
随分と創造からかけ離れただけでなく、斜め上に飛んで次元の壁を越えていっているが、よくよく思い出すと、ここは魔人の結界内だ。人間だった頃の人格や記憶を取り戻した魔女が魔人であるのだから、元はただの女の子である彼女達の想像が具現化する結界内ならばそこまでおかしな光景ではない……のかもしれない。
姫野先輩が車を駐車場に停めるため、再びアクセルを踏んで走り出したのを見送った時、城の方から何やら言い争う声が聞こえ、振り返れば二つの人影が駆け寄ってきているのが見えた。
なぜかお互いに肩をぶつけあって押し合いながら走っているが、片方は既に見慣れている巫女服を着た狐耳の少女だ。
「あ!イナリちゃん!?」
「まどか!よく来たな!歓迎し、むぐぅ!?」
「その台詞は私のです!イナリ様はさがっていてください!」
両手を広げて駆け寄ってきたイナリが、隣で場所を取り合っていたもう一人に口を手で塞がれた。そして、そのまま体を持ち上げられてスイングされ、あっという間に城の中にまで吹き飛んでいった。
「おのれえええぇぇぇ……」と恨み言を吐きながら飛んでいくイナリに「イナリちゃん!?」と驚くまどかと共に3人で呆然としていると、イナリを投げ飛ばした張本人が威住まいを正してこちらに振り返った。
私達の目の前で出迎えのポジションを奪い合っていたらしい彼女は、よく整えられた黒のワンピースに白のエプロンを着用しているという、所謂メイド服に身を包んだ少女だった。
「お帰りなさいませ!マキマ様!まどか様!マミ様!ほむら様!皆様のお帰りを心よりお待ちしておりました!!
初対面であるはずの少女は私達の名前をハキハキとした声で呼び、高いテンションや声量のわりには恭しい仕草でお辞儀をして出迎えの言葉を口にした。
「なぜこんなところにメイドが?」という疑問が頭に浮かぶ。
しかし、ここから30mは離れているだろう城の入り口までイナリを軽々と投げ飛ばした怪力。
そして、メイドカチューシャを付けている頭の髪が比喩でも何でもなく”燃えている”のを見れば、彼女の正体は自ずと導き出された。
私達の隣にいたマキマが前に出て、顔を上げたメイドの少女を手で示した。
「紹介するね。この子はハローちゃん。ここの結界を構築・管理している地獄の魔人だよ。」
「ご紹介にあずかりました!私は主に公安対魔特異課の庁舎・設備・結界の構築と維持管理を任されております、地獄の魔人ハローと申します!何かお困りのことがございましたら、何なりとお申し付けください!」
地獄の魔人ハローと名乗った彼女は、地獄という名を持つにしては、ぱあっと快活な笑みを浮かべて、そう言った。
それによって、登場と見た目のインパクトに驚いていた私達も再起動し、各々自己紹介をするために口を開いた。
「あ、初めまして!鹿目まどかっていいます。よろしくお願いします。」
「巴マミよ。よろしくね。」
「暁美ほむらよ。よろしく。」
「はい!よろしくお願いします!それでは早速ではありますが、皆様には先に
「結界の登録?」
「はい!今後、皆様が自由に特異課の施設をご利用いただくにあたって、私の結界への登録が必要になります!ですので、皆様にはその手続きを行っていただきたいのです!」
「ハローちゃんは
「今回は私と姫野ちゃんがいたから入れたけど、普通は無理なんだよ。」と補足するマキマの説明を聞いて、この結界に入る直前の光景を思い出す。
確かに、私と巴マミはこうして中に入るまで魔人の結界に気づくことができなかった。というのも、ソウルジェムが結界の反応を示さなかったのだ。
つまり、このハローという魔人の結界は、魔法少女のソウルジェムの魔力探知すらも欺くほどの隠密性を持つということになる。
改めて、マキマの周りにいる魔人達の能力に驚かされる。元魔女だったという彼女たちだが、ただ人としての理性と記憶を取り戻しただけではここまで強力な力を持つことはあり得ないだろう。
(一体、どんな種が隠されているのかしらね。)
それもいつかは聞かせてくれるのだろうかと密かに期待しつつ、登録を始めるというハローの説明に注意を向け直す。
「それではマミ様、ほむら様。ご自身のソウルジェムを出していただけますか?」
「ソウルジェムを?えっと、これでいいのかしら?」
「……出したわ。それで、次はどうするの?」
「ありがとうございます!では今からお二方のソウルジェムから穢れを吸い取らせていただくのですが……フムフム、お二方とも、キレイなソウルジェムをお持ちですね!ですが登録の手続きには問題ありません!たとえゴマ粒程度の穢れしか残っていなかったとしても、魔力の登録には十分ですから!」
「では、失礼しますね!」とハローが私と巴マミのソウルジェムに左右の手を翳し、私たちのソウルジェムから少量の穢れを吸い出した。
そして、自分の掌に集めた穢れをビー玉のように固めると……突然ハローはその穢れの塊を口に放り込んだ!?
「な、何をしているの、あなた!?」
「驚かしぇてしまい申ひ訳ありましぇん!でしゅが、私はこうして皆様の魔力もしくは穢れを経口摂取することで、結界への登録が完了できるのです!」
ハローは口に入れた私のソウルジェムの穢れ玉を舌で転がしながらそう説明した後、しばらくしてからごくんと飲み下した。
「はい!これでほむら様の登録は完了しました!続いてマミ様の分も登録していきますね!」
「え、えぇ、お願いするわ。」
私達二人そろって未だに困惑が収まらないが、なんとか「そういうものなのだ」と自身を納得させていると、その間に巴マミの登録も完了したようだ。
これで私と巴マミは、ハローが管理しているという公安対魔特異課の施設に自由に出入りできるということなのだろう。
そして、ハローは次にまどかの方へと振り返ったのだが、ハローはまどかに近づくことなく説明だけを口にした。
「お次はまどか様の登録なのですが、あなた様は魔法少女ではなく人間ですので、私の結界への登録はできません!というより不要です!まどか様にはこの後、特異課勤務の魔人と契約を結ばれるはずですから!そうですよね、マキマ様!」
「そうだね。魔法少女じゃない人間は、契約している魔人の魔力を使うことで結界の検問をパスして通ることができるんだ。だから、まどかちゃんが特異課に来るときはその方法を使ってもらうつもりだよ。」
ハローの言葉に頷き、そう説明をしたマキマ。
マキマの家に集まって話し合ったときは、魔法少女と魔女の真実について説明はしたけれど、キュゥべえの正体や目的についてまでは話さなかった。
あの時の巴マミの精神状態にソレを聞かせるほどの余裕が無かったというのが理由に挙げられるけれど、マキマが「聞かれるまで話さなくていい」と判断したのが一番の理由だ。
まるで「聞かれるまで答えない」スタンスのキュゥべえと同じようなことを言うマキマに対し、その時は不信感を抱いたのだけど、____
『年端もいかない女の子を食い物にしていました、なんてグロイ話をするのは流石にきつ過ぎるでしょ。』
____と、マキマが語るのを聞いて、確かにと同意したため、私も聞かれるまで話さないつもりでいることにした。
しかし、まどかがキュゥべえに狙われているのは確実なので、キュゥべえの正体や目的は誤魔化しつつ「接触してきたキュゥべえから身を守るため」という名目で、まどかにも魔人との契約を結んでもらうことになったというわけだ。
「それでは!登録も完了したことですし、早速ここ特異課東京本部庁舎の中を案内させていただきますね!」
「あ、ハローちゃん、それについてちょっと話が__」
「ちょっと待ったああぁぁぁあ!!!」
歩き出そうとしたハローをマキマが引き留めようとした瞬間、城の中にまで吹き飛ばされたはずのイナリの声が木霊した。
聞こえるはずのない声がした方に全員が目を向ければ、そこには所々が敗れた巫女服を振り乱しながら走ってくるボロボロのイナリがいるではないか。しかも、もれなくその目は赤く血走っているという狂気付きである。
「ふんぬ!!!!」
「なんのぉお!!!!」
ダーッとここまで全力疾走してきたイナリはそのままハローにドロップキックをかましたが、ハローはなんとイナリの十分に速度の乗ったドロップキックを掌底で迎え撃った。
ドオォォオン!!!と尋常ではない衝撃波と音が、私達から僅か1mしかない距離で爆発する。カウンターを当てられたイナリは5mほど吹き飛び、ハローは突き出した腕がいくつもの関節を増やして派手に破壊されていた。
「イ、イナリちゃん!?ハローさんまで!?」とまどかとマミが顔面蒼白になって二人の身を案じる。だが魔人である彼女たちにとって、この程度の怪我を大怪我というほど柔な存在ではない。
バキバキに腕を折られたハローだが、魔力を腕に集中させた途端にメキメキと音を立てて元の怪我の無い状態にまで回復してみせた。
その一瞬の完治に二人は驚いているが、魔法少女も骨折程度の怪我なら魔法で治せることを知っているので、私まで一緒に特に驚くような要素は無かった。
そうこうしている間に、態勢を整えたイナリがハローに二撃目をお見舞いせんと再び駆け出したが、そこにハローが待ったをかけた。
「イナリ様!そこまでです!これ以上はお嬢様方のご迷惑になりますよ!」
「!__チィッ!」
ハローの警告を聞いて走る速度を緩めたイナリは、そのまま私たちのところに合流した。
「ハロー!まどか達の顔に免じて、お前が私に働いた無礼は水に流してやろう!__だが!!まどか達の案内役を担うのはこの私、狐の魔人イナリだ!」
「な!?何を言っているんですか!?皆様のお世話をするのが私の仕事です!いくらイナリ様とは言え、それだけは譲れませんよ!!」
「ふん!お前がいくら喚こうが無駄だ!なぜならば、既に私はマキマから今日の特異課見学の案内役をお願いされているのだからなぁ!!」
「な、何ですって~~!?それは本当ですか、マキマ様!?」
「うん、それは本当なんだけどね。とりあえず、説明させてもらってもいいかな?」
「みんなはちょ~ッと待っててね?」とマキマは私たちに言い置くと、イナリとハローを連れて道の端に寄って話し合いを始めてしまった。
取り残された私たちは互いに顔を見合わせ、「魔人って、みんなあんな感じなのかな?」というまどかの呟きに、「……かもしれないわね」と返すことしかできなかった。
それから3分くらいして。
話し合いを終えたらしい三人が私たちのところに戻ってきた。
上機嫌にスキップをしながら一番に戻ってきたのはイナリだ。いつの間にか魔法で修復したらしい綺麗な巫女服に狐耳の少女という神聖そうな恰好でガッツポーズをする姿には初対面時の威厳など欠片も見当たらない。
対してハローは分かりやすいくらいにガックリと肩を落としており、その背をマキマが申し訳なさそうに擦って何かを話しかけていた。見た感じ、ハローがイナリに対して折れてあげる代わりに、マキマが何かしらでハローにフォローを入れているようだ。
そうして、到着早々騒がしい時間を過ごしたが、私たちの公安対魔特異課見学が始まったのだった。
特異課の本部庁舎であるという城の巨大な門の前までやってくると、重圧そうなその門がひとりでに開き、私たちを中へと招き入れた。
私達の視界に飛び込んできた景色は、外観の様子と違わない城らしい優雅な雰囲気を漂わせていた。
だが、あくまでもここは公安という治安維持組織の内の一つであるというのが中のデザインに含まれており、童話に出てくる城のような煌びやかさよりも身の引き締まるような荘厳な空気が張り詰めていた。
そんな空気に当てられて、3人揃って辺りをキョロキョロと落ち着きなく見回している私たちの周りには、中で仕事をしていたらしい職員達や異形の姿を持つ魔人達の姿があった。
西洋風の城の中をスーツ姿の職員たちや多種多様な容姿を持つ魔人達が行き交う光景は、現実とファンタジーが無理矢理混じり合ったような異様なものに見えた。しかしまあ、そもそも魔法少女と魔女という存在がファンタジーな概念であるため、実に今更ではあるのだが……。
受付で名残惜しそうに手を振るハローと別れ、私たちは前ではなく何故か隣を歩くイナリの説明に耳を傾けながら中の様子を見て回った。
どうやらこの城の構造は、外観や大広間などの目立ちやすい場所は童話に出てくるような城のイメージが色濃く反映されているようだけど、それ以外は用途に合わせて改変しているらしい。
職員たちのデスクスペースが並んでいるという部屋の周辺を通った時、いきなり現代風のデザインに変わったのは違和感が凄かった。豪華な色合いや装飾はそのままで構造が変化していたため、進む度に別の建物に来たかのような印象を受けた。
マキマは「初めはギャップのスゴさに酔っちゃうかもだけど、すぐに慣れるよ」と言っていたが、しばらく時間はかかると思う。城を歩いていたと思ったら自販機が現れたときのあの衝撃はなかなかのものだったから……。
「ここで働いている職員の数は、私達魔人を除いておよそ1000人以上いてな。なんと約7割が普通の人間なのだ。生身では当然魔女と戦うどころか、結界に足を踏み入れることも叶わぬのだが、契約している魔人の力を借りることで魔女の瘴気から身を守りながら戦うことができるのだ。」
「それって、あの時¹のマキマ先生みたいな感じかな?」
「そうだぞ、まどか。まあ、マキマは他の奴らとは違って、ここにいる魔人達全員と契約を結んでいるがな。」
「その言い方はもしかして、普通の人は何人もの魔人とは契約を結ばないということかしら?」
「その通りだ、マミ。というのも、契約というのだから当然、魔人の働きに見合う対価を契約者は支払わなければならん。だから、安易に複数の魔人と契約を結ぶと、支払いきれない負債があっという間に溜まってしまい、契約が破綻してしまうのだ。その点、マキマはとびっきりの異例というわけだな。」
「なるほど。一体どんなズルをしているというのかしら、マキマ?」
「……ノーコメントで。」
「それにしても、ここで働いている魔法少女って、思ったよりも少ないのね。魔女専門の警察組織って聞いていたから、もっとたくさん在籍しているのかと思っていたけれど……。」
「特異課に籍は置いていないが、協力関係を結んでいる魔法少女なら全国にいるぞ。」
「魔女と戦うことができると言っても、やっぱり未成年だからね。臨時のアルバイトとして仕事を手伝ってもらうことはあるけれど、基本的に今まで通り自分たちの縄張りで魔女を倒してもらいつつ、契約している沢渡ちゃんやイナリちゃんの力で魔女を捕獲してもらうんだ。ウチで戦力として働いてくれているのは、成人後に特異課へ就職してくれた子達なんだよ。」
「あ、もしかして、姫野さんがまさにそうなんですか?」
「だな。あいつはまさにベテランの魔法少女だ。そんじょそこらの魔法少女じゃ相手にならないくらい強いぞ。」
「そうだったのね。……わたしと戦ったときは手加減されていたということかしら?」
「マミちゃんは姫野ちゃんの魔法は見たことある?」
「いえ……あっ、てことは___。」
「そうだね。姫野ちゃんは純粋な身体能力だけでマミちゃんと戦ってたんだ。」
「へ~、姫野さんって、そんなに強いんだ……。」
私達はイナリとマキマの説明や雑談を交えつつ、特異課の中を見て回った。
そして、ある区画に差し掛かった時だった。
ニヤリと意味深な笑みを浮かべたイナリが、私たちに向かって忠告を口にした。
「ここから先は、魔人達が暮らす居住区だったり、レクリエーションをする広場だったりがある場所なんだが……気を付けた方がいいぞ?特異課にいる魔人達には、まともな奴がおらんからな?」
その直後だった。
ピシリッと頭上から何かが割れるような音が響いた。
ボコッ!!ボコボコボコォッ!!!
「「「!?」」」
次の瞬間、廊下の天井を突き破って深紅の槍が何本も降ってきた!
そして、それらは真下にいたマキマに鋭利な槍先を向け、彼女を串刺しにせんと襲い掛かった!
「マ、マキマ先生!?」
まどかの悲鳴が廊下に響く。
だが、襲撃を受けたはずのマキマは、こちらに振り返って不敵な笑みを浮かべた。
「大丈夫だよ、まどかちゃん。
___だって私は、最強のウィッチハンターだからね!」
バキッ!バキバキボキィッ!!!
マキマはそう言うと降りかかる全ての槍を紙一重で回避し、さらに拳や蹴りを槍に向かって繰り出し、あっという間に無力化した。
だが、『敵』の攻撃は未だ続いているようで、突如廊下の先にチャプンッと小さな背ビレが浮かび上がってきた。ソレは廊下の床を水のように掻き分けて進み、マキマへと高速で近づいてくる。
その様はまるで、海中から獲物へと迫りくる”サメ”のようだ。
そして、地上でありながらザバァッという水の音が聞こえるような勢いで、地中にいた刺客がマキマの前へと躍り出た!
「マキマ様~!覚悟~~!!!」
「え”ッ!?」
「嘘でしょ……?」
「「み、水着ぃ~~!?」」
マキマへと襲い掛かった地中からの刺客は、なんと水着を着た少女だった!しかもグレーのビキニだ!!
普通なら、頭部が本当にサメみたいなっているとか、やはり彼女は魔人なんだろうとか、色々と言及すべき点は挙げられるはずだが……登場のインパクトが凄まじいあまり、彼女の際どい格好にしか注目がいかない!
だが、驚く私達とは違ってイナリやマキマは見慣れているのか動揺した素振りを見せず、「おっと、危ない」とマキマは軽く流してサメの少女の奇襲を受け止めた。
「ビームちゃん、泳ぐのだいぶ速くなったね!」
「ビーム、特訓しました!ビーム、速い!強い!!」
ビームと呼ばれたサメの少女はナイフを持っている手をマキマに受け止められながらも、自分の強さをアピールするように「ビーム、速い!強い!」と連呼している。
だが、ビームにマキマの視線が向いている隙に、新たな刺客が現れた。
パリィィンッ!!!
新手は、なんと外の景色を映していた窓から飛び込んできた!
そして、新手もまた少女であり、魔人であった。オレンジ色の長髪の頭に鬼のような二本の赤い角が生えているのを確かに見たのだ。
彼女はビームの攻撃を受け止めていて両手が塞がっているマキマへと、死角となる真横から強襲した!
「ガハハハハハッ!マキマ!隙アリじゃあぁぁあああ!!!」
彼女は勝ち誇ったような笑い声と共に両手に持った深紅のナイフをマキマに向け、飛び込んできた勢いのままにマキマへと切りかかった!
両手が塞がり、飛び掛かる少女と視線を合わせることしかできないマキマ。
万事休すか、と思った時、マキマはニコリと笑みを浮かべて言った。
「残念、当たらないよ!」
次の瞬間、クンッとマキマの背が一瞬にして縮んだ。
いや違う、マキマは足を脱力させて一息で屈んだのだ。そして、屈むと同時に少女が飛び込んできた窓の方へと片足を延ばし、ビームの腹で頭を覆うような態勢に変えて空中にいる少女の真下に素早く身体を滑り込ませた!
赤角の少女からすれば、マキマの姿が消えたように見えただろう。標的を見失った少女とグンッと身体を引っ張られたビームは驚愕の叫び声を上げた。
「ぎゃ~~~!?」
「な、なんじゃとぉぉお!?」
「ほいっと。」
「「ぐえっ!?」」
少女の真下に移動したマキマが素早く立ち上がり、下から突き上げられる形でビームと赤角の少女が空中でぶつかり合い、二人は潰れたカエルのような呻き声を漏らした。
そのまま少女とビームは廊下の床へと落下した。二人とも苦し気に腹や背中を押さえており、相当痛かったというのが容易に察せられる。
それはそうと、ここは公安対魔特異課の本部庁舎。即ち、ここにいる魔人達はマキマやイナリの仲間であるはずだ。にもかかわらず、突然襲ってきたこの二人は一体何者なのか?
それをマキマに尋ねようとしたとき、彼女は廊下の向こうにある曲がり角に向かって声をかけた。
「そこにいるよね、ミキちゃん、沢渡ちゃん。」
「バレたか。」
「当たり前でしょ。相手はマキマだよ?バレるに決まってるじゃん。」
マキマが呼び掛けた先から、二つの人影が現れた。
一人は見知った顔である沢渡だ。なぜかひどく面倒臭そうに顔を顰めている。
そしてもう一人は初見の顔であり、私達より頭一つ分だけ身長の高い魔人の少女で、古代ギリシアの真っ白な布を体に巻き付けたような服²を纏っていた。さらに頭部からは蔓の絡みついた木の枝のような角が生えており、一見すると森の精霊のようにも見える彼女だが、端正な顔立ちにニヤニヤと悪戯好きめいた笑みを浮かべているせいで人を惑わす悪魔であるような印象を私に抱かせた。
ミキという名らしい彼女は両手を挙げて降参のポーズを取りながらマキマへと歩み寄った。
「未来、最高!未来、最高!マキマ、お前も久しぶりに未来最高と叫べ!」
違った。降参ではなく万歳のポーズだった。
「未来最高……で、首謀者は君かな、ミキちゃん?」
「過去最悪に雑だぞマキマ!……まったく、首謀者は私じゃないぞ?発端はそこで転がっているパワーだ。」
「なっ!?ウヌはワシらを裏切る気か!?」
「裏切るも何も、私はお前に脅されて、無理矢理未来予知させられたんだが?」
「マキマ、コイツも主犯だよ。」
ミキは「自分は被害者なんだが?」という主張で通そうとしたらしいが、あっさりと沢渡によって売り渡されてしまった。
というか、きっと巻き込まれた側なのは沢渡の方なのだろう。チュッパチャプスを咥えている顔にデカデカと「めんどくせ~、帰りて~」と書かれていた。
「パワーちゃん、ミキちゃん。私は君たちが計画を立てて私を殺しに来ること自体に怒っているわけじゃないよ。だけどね?今日はこの子達の特異課見学の日だからやめてね、って言ったはずだよね?」
「ひっ!?……ちちち……違うんじゃ、マキマッ!コイツじゃ!コイツがどうしてもマキマに一泡吹かせたいと言ったからなんじゃ……!」
「えっ!?ビーム(自分)!?」
「マキマ、言い出しっぺは確かにパワーだよ。ビームはなんかよく分かんないまま参加した感じ。」
「うん、どっちもギルティ。」
「おいヘビ女!出鱈目を言うでない!!そもそも待ち伏せ作戦はウヌの提案だったじゃろうが!!」
「はあ!?ここで待伏せしようって言ったのはこの
「アッハハハハハッハww!!いいぞぉ、過去最高に面白いぞお前達!!」
「「お前(ウヌ)は黙ってろ(おれ)!!!」」
私達の目の前でぎゃいのぎゃいのと喧嘩を始めてしまった魔人たち。
突然の襲撃に続いて虚言と怒号の飛び交う大喧嘩を前にして呆然としていた私達の傍で「な?ヤバいだろ?」と言うイナリを見て「あぁ、コイツはまだまともな方だったんだ」と奇妙な感情を抱いたのだった。
__『輪廻の回廊』。
それは公安対魔特異課東京本部庁舎の地下深くに建造された、捕獲した魔女を
通常、何の魔力も込められていない建造物では、変幻自在の結界を構築してその中に逃げ込む魔女を捕らえておくことはできない。
しかし、ここはそもそもの話、地獄の魔人ハローによって構築された巨大な結界の一部に過ぎず、強力な魔法を操る彼女の厳重な管理によって、各部屋に閉じ込められた魔女は脱出することも暴れることもできない。地下深くにまで伸びる縦長の空間であるこの回廊には、魔女たちのドロドロに濁った濃密な魔力が空気に溶け込んでいるだけで、生物の息遣いや物音などはせず、空間を突き抜ける風の音だけが木霊していた。
だがこの日、この静かな回廊に二つの足音が響いていた。
魔女たちが閉じ込められている扉の前を歩いていく二つの人影。
一人はスーツを着た大人の女性で、右目には黒の眼帯を付けている。彼女は隣にいる小学生くらいの小さな少女と手をつなぎ、冷え込んだ回廊の中を歩いていた。
女性は少女へと視線を落とし、穏やかな声で話しかけた。
「久しぶりの外だけど、もしかして緊張してる?」
「うん……。」
「そっか。じゃあ、外に出たら何をしたいか考えてみよっか。君は何かやりたいことはある?」
「やりたいこと……やりたいこと…………あ、それなら私は____
___大好きなチーズを、またお腹いっぱい食べたいのです!」
少女の期待に弾んだ笑い声が、薄暗い回廊の中を軽やかに駆け抜けていった。
____再会の時は、まもなく。
マキマメモ その12
特異課の魔人達は基本的に人間に友好的で、マキマの命令にも忠実である。
しかし、一度魔女へと変じている影響か、己の欲望に忠実でやりたい放題なことをする姿が度々見られ、その中でも問題児と謂われている一部の魔人達がマキマに「挑戦状」と称して戦いを挑む光景は日常茶飯事となっている。
その結果、備品が壊れたり他の職員の迷惑になったりすることもあるが、マキマは襲撃の度に魔人達の戦闘スキルが上がっていることに気づいたため、現在は魔人達の襲撃は黙認されている。
ちなみに訓練ではないので、魔人達はガチで殺しに向かってくるため、実はマキマの内心は毎回冷や汗びっしょりだったりする。
過去一番ヤバかったのは、飲み会で調子に乗ってベロベロに酔っぱらってしまった時の襲撃。
<お詫び>
まずは、今回もこの二次小説を読みに来てくださり、ありがとうございます。
他の作者さんの二次創作を拝読して「わぁ、みんなすごい作りこんでる……すごいぁ。」と圧倒されながらも、僕の稚拙な二次小説をここまで読んでくださっている皆さんには感謝しかないです。
さて、前話で告知したクイズの締め切りなのですが、あともう一話だけ先延ばしします。クイズの答えの内の一人は『未来の魔人』だったのですが、まだ最後の一人を登場させるに至らなかったので……。
それにしても、描写が足りな過ぎて気づかない人多そうだなぁっと思ってたんですが、結構『未来サイコー!』を選択している方が多くて驚きました。
それでは、また次回で。
オリ主マキマが使った魔人の能力は?
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天使くん、ちゃん?
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実は地獄
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面食い狐
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未来サイコー!
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ばん(銃)
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幽霊の全部
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蛇、丸呑み
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暴力さん
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まさかのチェンソー