「私と契約して魔法少女になりなさい」   作:NARです。

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こんにちは、NARです。
活動報告でも書きましたが、体調不良で寝込んでました。更新遅れてすみません。
まだちょっと体調に違和感が残る、今日この頃です。

さて、続きを待っていてくださった方々、別にそうでもなかったという方々も、この二次小説のストーリーを楽しんでいただけたら幸いです。
本編へどうぞ。


特異課見学に行こう! 後編

<暁美ほむら>

 

『特異課見学当日であったにもかかわらず、マキマ襲撃を企てたのは誰なのか問題』が勃発し、罪の押し付け合いで魔人たちが一頻り騒ぎ立てた後。

マキマによる指導(鉄拳制裁)で黙らせられた魔人たち¹は廊下の端で正座をして並び、マキマの審判をただ静かに待っていた。

 

ようやく魔人たちが静かになったのを確認したマキマが、問題児たちに向けて判決を下した。

 

「主犯であるパワーちゃんには、約1か月間の三食に栄養満点のお野菜たっぷりメニューを食べてもらいます。」

「や、野菜じゃとぉ!?」

「そして同じく主犯のミキちゃんには、約3か月間は勝手に人の未来を覗くことを禁止します。」

「なに~!?こんなの横暴だぞ!」

「いや自業自得でしょ。」

 

ぐちぐちと文句を言う二人の魔人の傍らで、沢渡が呆れた様子で呟いた。

確かに、マキマが予め「この日は襲撃やめてね。」と伝えていたらしいのに襲撃をしたのだから、彼女たちに文句を言う筋合いは無いはずだ。

 

まあ、そもそも自身への襲撃を日常的に認めている職場というのもよく分からないけれど……。アットホームな職場というにはあまりにも過激すぎるわ。

 

そうして特異課の日常風景に対して密かに戦慄している間に、マキマは残りの襲撃メンバーへの罰も終えたらしい。ビームに与えられた罰は『1週間ラッシュガードを着込むこと』としたらしい。だけど、なぜそれで罰になるのか、なぜその程度でビームはショックを受けているのかがよく分からなかったのだった。

 

さて、残った沢渡だが、唯一彼女だけは襲撃メンバー達の暴走を止めようとしたらしいので、情状酌量の余地があるとして罰の内容を軽めにするとのこと。

そこで何故か、マキマは振り返って私達と一緒に様子を見ていたまどかを手招きをした。呼ばれたまどかは頭に疑問符を浮かべながらも手招きに応じ、沢渡とマキマの前まで歩いて行った。

突然呼ばれて不思議そうにしているまどかに、マキマが沢渡を一歩前に出させながら口を開いた。

 

「まどかちゃんにも、身を守るために魔人と契約をしてもらおうって話になってたよね。そして君の護衛は、沢渡ちゃんに任せようと思うんだ。」

 

なんと、まどかの契約する魔人は沢渡にするらしい。

まどかは契約相手にとマキマに紹介された沢渡と目を合わせ、若干恥ずかしそうに笑った。

 

「えっと、私は鹿目まどかっていいます。」

「アタシは沢渡。蛇の魔人で、でっかい蛇の魔女に変身できる。……最初は怖いかもしれないけど、取って食ったりなんかしないから、安心して。」

「沢渡ちゃんは一見ツンツンしてるように見えるけど優しい子だから、すぐに打ち解けられると思うよ!」

「別に優しくないから。」

「あの……沢渡ちゃん、って呼んでもいいかな?」

「……いいよ。好きに呼んだら?」

「ほら、優しいでしょ?」

「優しくない。」

「あはは……。」

 

ムキになった沢渡は頬をマキマに指先で弄られ、鬱陶しそうに手を弾いている。

その光景によって、割れたガラスやポコポコと穴の空いた天井という廊下の惨状とは裏腹に、場の空気が少し和んだのを感じた。

だがそこで、さっきからずっとイナリが静かなことに気づいた。

 

(イナリはまどかのことを心底気に入っていたようだし、今回のまどかと沢渡の契約についても異議を唱えるかと思っていたのだけど……。)

 

不思議に思って横を見れば、イナリはまどかと沢渡を見つめながら何かを堪えるようにして奥歯を噛み締めていた。

 

(あぁもしかして、まどかの契約相手が沢渡であることは既に決まっていたことだったのかしら?だから、イナリは二人の契約に口を挟むことができなくて、こうして必死に耐えているの?)

 

確かに、人選としてはまあ納得のできるものではある。

もし、まどかがイナリと契約したとなれば、敵へ攻撃する際に手で照準を合わせないといけないだろうし、土壇場の状況で戦い慣れていない一般人のまどかがそれをできるとは思えない。

対して、沢渡であれば簡単に命令の言葉を口にするだけで戦ってくれるし、戦闘経験の無いまどかの護衛としては最適なのかもしれない。

 

まどかは「後で契約用の書類を渡すから、沢渡ちゃんと一緒にサインしてね」とマキマに説明されていた。ソレを遠目から聞いていた私と巴マミはキュゥべえと契約をした時のことを思い出し、「『契約』って、ちゃんとした手続きが要る契約なんだ……。」と、思い描いていたのと180度違う雰囲気に揃って顔を見合わせるなどした。

まあよく考えれば、法の下に治安維持を担う組織なのだから、口頭で済ませるわけがないのは当たり前よね……。

 

その時だった。廊下に「あっ、見つけた!おーい!」という大きな声が響く。

声がした方に振り向けば、こちらに向かって歩いてくる姫野先輩の姿があった。きっと車を駐車場に停めた後、私たちを追いかけてきたのだろう。

 

「あれ?マキマさん、まーたレイドイベント発生してた感じ?」

「私はいつからゲームのボスになったの?私を殺してもレアアイテムはドロップしないよ?」

「いや、マキマさんはラスボスでしょ。殺した時点でストーリーが終わっちゃいますね。」

「フフフ、実は私の後ろには裏ボスが二人もいるんだよ。だから私を殺してもこのゲームは終わらないのさ!……で、連れて来てって言った子はいる?」

「いますよ!__ほら、皆に挨拶しよっか?」

 

短い茶番を挟んだ後、マキマの問いかけに姫野先輩は頷き、体を横にずらした。すると、その後ろにいた少女が私たちの前へと現れた。

その少女は私達の顔を見上げ、若干頬を赤らめてもじもじとしていた。この建物は城の構造を模倣しているために広くて大きい廊下ではあるけれど、それでも少女を覗いて10人も年上の人間がいて囲んでいるのだから、子供が委縮してしまうのも無理はないわ。

 

それにしても、この少女は一体誰なのか?私達と同じように特異課と協力関係を結んだ魔法少女なのか?それとも、彼女もまた魔人なのか?

 

その答えは、少女から微かに香る甘い魔力の気配を感じ取ったことで悟った。

 

(この濃厚な魔力の気配は、魔人!しかも、このお菓子のような甘い雰囲気の魔力は、まさか!?)

 

隣にいるチラッと巴マミへと視線だけを向ければ、彼女も目を見開いて驚愕を露わにしていた。

当然ね。この魔力を一番近くで感じていた彼女が、気づかないはずがないのだから。

驚きのあまり言葉が出ない私たちを置いてマキマが少女の傍らに立ち、少女を私たちに向けてその正体を明かした。

 

「マミちゃんはもう気づいているかな?この子の名前は百江なぎさちゃん。

 

 

___人としての人格を取り戻した、お菓子の魔人だよ。」

 

 

 

 

 

 

 

___________

 

___________

 

___________

 

 

 

 

 

 

 

<マキマ>

 

「マミちゃんはもう気づいているかな?この子の名前は百江なぎさちゃん。人としての人格を取り戻した、お菓子の魔人だよ。」

 

なぎさちゃんの肩に手を置いて、マミちゃん、まどかちゃん、ほむらちゃんの注目を向けさせて紹介してあげる。

すると思った通り、マミちゃんは大きく目を見開き、その足を震えさせて一歩後退った。

次にほむらちゃんへと目を向けると、ほむらちゃんは私を非難するような鋭い視線を私に向けて突き刺していた。無理もないね。私は今、態々マミちゃんにトラウマを思い出させるようなことをしているのだから。

それにしても、まどかちゃんは思いの外冷静だね。なぎさちゃんの登場に驚きはしているようだけど、他の二人みたいにバリバリに警戒している感じじゃない。

 

(ふ~ん、なるほどね。ひょっとして、まどかちゃんには分かるのかな?魔人の本質っていうものが。)

 

魔法少女でない一般人であるはずのまどかちゃんに対して密かに感心しながら、私はなぎさちゃんの紹介を続ける。

 

「なぎさちゃんを態々姫野ちゃんに連れて来てもらったのには理由があってね。なぎさちゃんの魔人化の処置が無事に終わったから、今からマミちゃんと契約してもらって、マミちゃんと一緒に暮らしてもらおうって思ったからなんだ。」

「わ、私と、一緒に暮らす……?」

「マキマ!あなた、一体何を考えているの!?」

 

震えるマミちゃんに代わって、ほむらちゃんが私の真意を問い詰めてきた。

珍しいね、ほむらちゃん。君がまどかちゃん以外の誰かのために声を上げるなんて。

 

「ほむらちゃんも、少し頭が柔らかくなった?」

「は?何の、話をしているの?」

「…………ん”ん”っ……ほむらちゃん、これはね、二人にとって必要なことなんだよ。二人はここで、再会する必要があった。」

 

訝し気に眉を顰めるほむらちゃんを強引に話を進めることで誤魔化しつつ、これはマミちゃんに対する嫌がらせではないと説明する。

それでも理解ができないらしいほむらちゃんは、さらに私を問い詰めようと口を開きかけた。当然だね、今の説明じゃ全然言葉が足りていないから。

 

だけど、今この瞬間において、理解する必要があるのは君よりもマミちゃんの方だから。

 

私がそっとなぎさちゃんの背を押してあげると、なぎさちゃんはマミちゃんに向かってゆっくりと歩み寄っていった。

なぎさちゃんが一歩一歩近づくたびに、マミちゃんの顔色が蒼くなっていく。そして、なぎさちゃんがマミちゃんの目の前に立つと、マミちゃんは恐怖に耐えかねて目をギュッと閉じた。

 

だけど、何も起きないことに気づいたらしいマミちゃんは恐る恐る目を開いた。

そして、マミちゃんが見下ろした先で目にしたのは、今のマミちゃんと同じように体を震わせているなぎさちゃんだった。

なぎさちゃんは胸の前で両手を固く握りしめながら、意を決した様子で話し出した。

 

「なぎさは、お姉さんに謝らないといけないと思っているのです。なぎさは魔女だった時の記憶が曖昧で、ほとんど何も覚えていないのです。だけど、マキマさんに助けてもらって、私がお姉さんに何をしてしまったのかを知りました。」

 

なぎさちゃんは一つ呼吸を置いた。

そして、真っすぐとマミちゃんの瞳と向き合い、その口を開いた。

 

「ごめんなさいなのです、お姉さん。あなたを怖がらせてしまって、傷つけてしまって……本当に、ごめんなさいッ。」

 

なぎさちゃんは蜂蜜のように透き通った瞳に涙を浮かべ、マミちゃんへの謝罪の言葉を口にした。

 

その言葉を聞かされたマミちゃんの目は徐々に大きく見開いていき、____

 

___その体は、”恐怖”とは違う震えを生んでいた。

 

マミちゃんは膝を折ってなぎさちゃんと目を合わせた。

いきなりの行動に驚いたなぎさちゃんに対して、マミちゃんは目に涙を浮かべながら優しく微笑んだ。

 

「大丈夫よ。私はもう、あなたのことは怖くないわ。それに、私こそごめんなさい。あなたはもう、誰かを傷つける魔女じゃないのに……勝手にあなたを恐ろしい魔女だと思い込んで怖がってしまって。」

「お姉さん……。」

 

その言葉によって、緊張で身を固くしていたなぎさちゃんは目尻に溜めていた涙をポロリと流した。そして、二人はそのまま抱き合って静かに涙を流した。

その光景が予想外だったようで、ほむらちゃんは何が起こっているのか分からないと言いたげな様子で二人を見ていた。

 

「ほむらちゃん、君はまどかちゃんやマミちゃんよりも長く魔人達と一緒にいたよね。その差はたった数日だけの誤差でしかないかもしれないけど、魔人達は個性豊かな子が多いから、その性格がどんなものなのかを把握するのには十分だったでしょ?」

 

「魔人は、人を呪い、恐怖させ、絶望を振りまく魔女ではなくなった子供たち。その感性はかつての純粋だった少女達へと限りなく戻っている。だから彼女たちは自分の犯した罪に絶望し、己を呪い、恐怖する。私たち公安対魔特異課は、ただ魔女を魔人に変えて無害化するだけじゃない。ただの子供たちに戻った彼女たちを、本当の意味で救うことこそが使命なんだ。」

 

「ほむらちゃん、君も覚えておいてね。魔人達はかつて絶望を振りまく魔女ではあったけれど、今は涙を流す人間なんだということを。」

 

ほむらちゃんは私を見上げると、再びマミちゃんとなぎさちゃんの方へと視線を戻した。まどかちゃんはその隣で穏やかな笑みに涙を浮かべ、抱き合って泣く二人を見守っていた。

 

 

 

 

しばらくして、マミちゃんとなぎさちゃんは打ち解けることができたようで、お互いにその手を繋いで立ち上がった。

 

「色々吐き出すことができたかな、二人とも?」

 

私の言葉に二人は頷いて笑みを浮かべた。

またしても荒治療ではあったけれど、結果的に上手くいったようだ。

 

「マミちゃん、私達特異課は魔法少女として戦えなくなった君が普通の生活を送れるように支援をするつもりだよ。だけど、今回はなぎさちゃんも、これから魔人として生きていくための術を学んでいかないといけない。だから、君の契約相手になぎさちゃんを抜擢したんだ。君にとって、なぎさちゃんを完全に受け入れるのには時間が必要かもしれない。それでも、なぎさちゃんと契約を結んでくれるかな?」

 

私が確認の意味も込めてそう尋ねると、マミちゃんはなぎさちゃんと繋いでいる手をギュッと握りしめて頷いて見せた。

 

「はい。私は百江さんと契約を結びます。」

「なぎさちゃんも、それでいいかな?」

「はいなのです!」

「……分かった。それじゃ、二人にも後で契約書を渡しておくよ。君たちが元の生活に戻れるように、最大限サポートしていくね。」

 

二人は揃って頷き、互いに笑みを見せあった。どうやら、最初に思っていたほどの心配はしなくて良さそうだね。

 

(……ふぅ、我ながら危うい橋を渡ったなぁ。人の心の機微は『支配』の悪魔の感覚でなんとなく分かるし、一応人心掌握の術とかは勉強した身ではあるけれど……それでも人の心っていうのは完全には分からないからな~……。でも、二人はなんとか上手くやってけそうだし、結果オーライだね!)

 

あ、ヤバい!心の内で密かに張っていた緊張が解けて、涙が!

 

「マキマ、泣いてるの?」

「な、泣いてないよ。別に二人が無事に仲良くできそうで安心したとかじゃないから!」

「あはは……先生、隠しきれてないですよ?」

 

咄嗟に背を向けたけど遅かったみたいだ。まどかちゃんに指摘されたせいで、抑えられなくなった感情がブワッと目元から湧き出してきた。

__が、後ろで沢渡ちゃんとビームちゃんに抑えられていたパワーちゃんに顔を見られ、遠慮もクソもない大爆笑をされた。

な、何を笑っとるんじゃぁあ!?人の気持ちも知らないで!こっちは内心上手くいくか冷や冷やしてたんやぞ!

 

逃げ出したパワーちゃん__と一緒になって揶揄ってきたミキちゃんの二人を追いかけるというワンシーンがありつつも、こうしてまどかちゃんとマミちゃんの契約は無事に結ばれ、特異課見学は有意義な時間として終えることができたのだった。

 

 

 

 

 

夕刻。

特異課見学を終えたまどかちゃんとマミちゃんは、地獄の魔人であるハローちゃんの結界の力で見滝原市にあるセーフハウスに繋がった扉から帰っていった。これから魔人としての初仕事に挑むなぎさちゃんも見送り、3人は扉の向こうへと消えていった。沢渡ちゃんはセーフハウスを借り住まいとし、いつでもまどかちゃんの呼び出しに応えられるように待機することになった。

さて、最後のほむらちゃんなのだが、彼女はまだ契約を結ぶ魔人を決めていなかった。というのも、ほむらちゃんの場合は他二人と違って魔法少女として戦う場面を想定している。即ち、魔女との戦いにおける連携を考える必要があり、より慎重に契約する魔人を決めなくちゃいけないのだ。

 

そこで、ほむらちゃんにどんな魔人と契約がしたいかと質問してみた。すると意外にも、ほむらちゃんは「強力な力を使うことができる魔人」という要望を出してきた。

魔法少女というのは自分の願いによって具現化した魔法に自信を持っている子が多い。それは過信というほどではないけど、「自分の力で戦う」という認識が強く根付いているのだ。だから、大抵の魔法少女は「一緒に連携して戦うことができる魔人」か、サポート系の能力持ちで戦闘に自信が無い魔法少女なら「前衛を任せられる魔人」か「手持ちの武器を強化できる魔人」などの要望を出してくる。

だから、ほむらちゃんが「とにかく強い魔人」との契約を希望してきたのには驚かされた。一応、なぜそれほどまでに力を求めるのかを聞いてみたけれど、「あなたが自分の正体について教えてくれるその時に、私も話すわ」と言われてしまった。それくらい、易々と喋ることができないほどの理由なのかもしれない。

 

まあ、仮にほむらちゃんが魔人の力を悪用しようとしても、悪魔の『契約』によって魔人は私の命令に逆らえないから暴走することは万に一つとてない。魔人が実際に契約を結んでいるのは『支配の悪魔』である私自身であり、魔法少女達との契約は『契約主である私(マキマ)からの貸し出し』という形になっているからだ。魔人といっても【チェンソーマン】の魔人ではないからね。魂の形が人間である彼女たちに『悪魔の契約』は使えないんだ。

そういう訳だから、ほむらちゃんの要望に対して拒む理由は私には無い。私がきちんと手綱を握っていれば大丈夫だからね。

 

窓から茜色の光が差し込む廊下を、ほむらちゃんと一緒に歩いて魔人達の住む居住区へと向かう。

 

「それにしても『強い魔人』かぁ。『強い』にもいろいろあるからね。どの子がいいかな~。」

「例えば、そうね……この間、あなたが力を使っていた魔人とは契約できないの?」

「この間?それっていつ?」

「お菓子の魔女と戦ったとき、逃げようとするのを()のように撃ち抜いて阻止した、あの力よ。」

「……えっ、マジで?()()()と契約したいの?」

 

思わず「それはちょっと……」という思いが顔に出てしまったようで、ほむらちゃんは「何か問題でもあるのかしら?」と尋ねてきた。

問題は有る。大有りである。だけど、ほむらちゃんはどうしても()()()の力を使いたいらしい。

誤魔化すことはできるけど……いや、誤魔化す理由は無いね。むしろ、知ってもらった方がいいかもしれない。

 

「ほむらちゃん、今から君の言っている魔人______

 

銃の魔人のいる所に案内してあげる。

 

そこで、彼女のことについて説明をするよ。」

 

私は魔人達の居住区へと行く道を逸れ、ほむらちゃんを連れて別の方角へと歩き出した。

 

 

 

 

ほむらちゃんを連れ出した場所は、墓地だった。

 

城の形をした本部庁舎のすぐ隣にある、巨大な墓地。いくつもの真っ白な十字架が等間隔で列を成している。

いきなり墓地に連れてこられたことに疑問を抱いているのだろう。ほむらちゃんは困惑した様子で周囲を見回していた。

 

「マキマ、ここは一体?」

「ここは殉職した特異課の職員、ウィッチハンター、魔法少女、そして魔人達が眠る場所だよ。魔女との戦いは常に命がけ。もし戦いに負けて死んでしまったら、遺体は魔女の結界に取り込まれて現実に戻ってはこない。だから死んだ人は永遠に行方不明となって、この世界から忘れ去られてしまう。この墓地は、そんな人達が忘れられないようにするための、死者を悼むための場所なんだ。…………着いたよ、ほむらちゃん。」

 

私は、ある一つの十字架の前で足を止めた。

私の隣にまで来たほむらちゃんが目の前の十字架を見つめ、徐に口を開いた。

 

「これは…………。」

「サクラちゃん___銃の魔人のお墓だよ。」

「!?」

 

ほむらちゃんが驚愕に目を見開き、目の前のお墓を見つめる。

動揺が隠せない様子のほむらちゃんに、私は銃の魔人__サクラちゃんの過去について、一つ一つ丁寧に語り出した。

 

 

 

 

 

銃の魔女が最初に現れたのは、今からおよそ70年前。世界中が覇権を争って戦争をしていた時期に、彼女が現れた。

 

彼女は何か特別な才能があったわけでも、由緒ある家柄に生まれたお嬢様でもなかった。どこにでもいる普通の女の子で、戦場へと戦いに行った父親の帰りを毎日母親と祈りながら待っていた、ただの女の子だった。

だけど、そんな彼女の祈りは届かなかった。しかも、彼女の住んでいる国は当時の敵国に追い詰められ、いつ自分たちの住む町に進軍してくるかもわからない状況へと陥った。

そんな時、彼女の前にキュゥべえが現れた。「なんでも一つ願いを叶える」と言うキュゥべえの甘い言葉を信じた彼女は、その身に背負う代償を受け入れて契約を結び、魔法少女になった。

彼女は、残された家族や友人、自分たちの住む町を敵軍から守るための力__『すべての敵を撃ち払うことができる力』を願った。ただ守るのではなく「攻撃という手段によって守る力」を願ったのは、きっと父親を殺された憎しみもあったからなんだろうね。その憎悪と希望の入り混じった願いはキュゥべえによって叶えられ、彼女は強力な魔法の力を授かった。

魔法少女へと変身した彼女は、町へと攻め込んできた敵軍を返り討ちにするため、魔法の力を行使して戦った。敵国の兵士たちには人を容易く殺せる銃や手榴弾、バズーカや戦車があった。だけど、それすらも上回る彼女の魔法は敵国の兵士たちを尽く蹂躙した。彼女は町を救い、大切な人々を救うことができたのだった。

 

しかし、悲劇が起こったのはそれからだった。

 

何度も言うように、彼女は特別な才能も、恵まれた地位も持たない普通の女の子だった。そんなありふれた少女の願った奇跡が長く続くわけもなく、必死になって魔法の力を行使し続けた彼女のソウルジェムはあっという間に黒く染まった。

そうして生まれたのが、銃の魔女。ただの少女から生まれたはずのその魔女は、願いに対する思いの大きさによって最凶の魔女へと成長した。

そして、銃の魔女へと生まれ変わった彼女は、目に付くすべてのモノを破壊し尽くした。守りたかったモノも、憎んでいたモノも、全く関係のないモノもすべて、皆等しく灰燼に帰した。

それから彼女は、世界中のありとあらゆる戦場へと現れると、そこにいるすべての者たちを殺して回るようになった。それによって世界中の紛争地で起こった大虐殺は原因不明の大量死として人々に知られ、彼女の姿を視認できない人間たちは「戦場には悪魔がいる」と噂し恐れるようになり、世界中で起こっていた戦争が消滅或いは停戦し、一時的に世界から戦争が消えた。たった一人の少女の起こした奇跡では叶えられなかったはずの願いが、皮肉にも絶望の力で現実となったんだ。

 

世界から一時的に戦争が消えると、それに連動するかのように銃の魔女も活動を停止した。戦場で起こった一連の大量死が魔女によるものと断定した私達特異課は、最後に銃の魔女が現れたとされる戦場に向かい、そこで眠るようにして活動を停止していた銃の魔女を無事に捕獲することに成功した。

 

私達は捕獲した銃の魔女を本部に連れ帰り、他の魔女たちと同様に処置を施して魔人へと生まれ変わらせた。

やがて彼女は人間だった時の記憶を取り戻し____

 

___そして、再びの絶望に呑まれた。

 

彼女は絶叫を上げながら数週間に渡って魔力を暴走させ、周囲一帯を破壊し尽くそうとした。だけど幸いにもハローちゃんの結界の中だったおかげで現実世界には一切の被害は出ず、戦える魔人達全員で彼女を抑え込むことに成功した。

抱えていたものを全て吐き出したおかげか、彼女は理性を取り戻すことができた。だけど自我が失われていたとはいえ、これまでに自分が生み出した惨劇の数々に耐えられなかった彼女の心は壊れてしまい、与えられた部屋の中に引きこもってしまった。

やがて、ベッドで寝たきりになっていた彼女は、私たちに「殺してほしい」と願った。自分の犯した罪の重さに精神が耐えられず、生きる気力を失ってしまったのだ。

私はダメもとで彼女を説得しようとした。だけど彼女の心が変わることはなかった。結局、私が直々に手を下すことで彼女を苦しみから解放してあげることになった。

 

そして迎えた彼女の最期の日。

私がベッドで身を起こしていた彼女に近づいたとき、彼女は私に質問した。

 

『わたしは、どこで、まちがえ、た?』

 

私は「分からない」と答えた。彼女はただ、戦争に巻き込まれた被害者だったから。

 

『わたし、は、みんなから、大切なひとを、うばってしまった?』

 

私は「そうかもしれないね」と答えた。今更慰めの言葉を言っても、彼女には無意味だったから。

 

『わたしは、つぐなえないまま、地獄におちる、の?』

 

私は「いいえ」と答えた。彼女の光の消えた瞳が、私を見た。

 

「君の力は、とても強力で危険な力だよ。でも、使い方さえ間違わなければ、多くの人たちを救うことができる力でもある。君はまだ、誰かを救うことで償うことができるんだよ。」

『そう、なんだ…………マキマ、さん。さいごの、おねがい、きいて、くれる?』

「言ってごらん?」

『つぐないを。……わたしの、かわり、に、おねがい、したい。』

 

彼女はそう言うと、手の中に一つの拳銃を生み出した。ソレを白く細い手で包み込み、私へと差し出した。

私はその拳銃を受け取った。その拳銃には彼女の全ての力が込められていた。

私は、彼女の最期の願いを受け取ったんだ。

 

 

 

 

 

 

「これが、その時彼女から譲り受けた拳銃だよ。」

 

懐にずっと大切にしまっていた拳銃を取り出し、ほむらちゃんに見せてあげる。一見、何の変哲もない銃に見えるけど、コレには確かに強力な魔法の力が凝縮されている。

 

「魔人達は、魔女として生きていた時間が長かったり、本体ではなく使い魔から成長した魔女だったりって理由で記憶に欠落が見られることがあるんだ。そういう子たちは自分の名前を忘れていることも多くて、身元を調べることができないくらい昔から生きている子には、皆で新しい名前を付けてあげるんだ。」

 

「この子にサクラって名前を付けたのは私。君は破壊しか生まない悪魔なんかじゃなくて、助けを求めている誰かを受け止めて守ってあげられる……そんな優しくて強い子なんだって、あの子に伝えたくてそう名付けたんだ。」

 

私はほむらちゃんに向き直り、サクラちゃんの拳銃をほむらちゃんに差し出した。

眼前に突き出された拳銃と私の顔を見比べる彼女に、私は尋ねた。

 

「ほむらちゃん、コレはサクラちゃんの『願い』であり、叶えなくてはならない『夢』なんだ。サクラちゃんと契約を結ぶというのは、君も一緒にこの『夢』を背負うということなんだ。…………君に、その覚悟はあるかな?」

「私、は…………。」

 

ほむらちゃんは右手を持ち上げ、拳銃にゆっくりと伸ばしていく。

そして、あと少しで触れるというところで手が止まり、プルプルと震えたかと思うと、サッと手を引っ込めてしまった。

 

どうやら、ほむらちゃんにはまだ、他の誰かの『夢』まで共に背負えるだけの覚悟は無いようだ。

 

「やっぱり、難しいみたいだね。」

「…………私は。」

「自分を責める必要は無いよ。君は自分の『夢』を追い求めるうえで、他の誰かの『夢』まで背負い込めないと思った。ソレは決して間違った考えじゃない。自分に嘘をついて無茶をすることこそが間違いだよ。」

私は拳銃を上着の内にしまい込み、下を向いたほむらちゃんの頭を撫でてあげた。

そのまましばらくして、ほむらちゃんは自分の言葉を整理するようにして、ゆっくりと言葉を紡いだ。

 

「私は今日、初めて知った気分だわ。……魔女と魔法少女、人間と魔人、そしてあなた……全ての人たちにはそれぞれの人生があったということを。」

「偉いよ、ほむらちゃん。そうやって、他の人の人生にも目を向けてあげてね。そうすればきっと、君が『夢』に至るまでの道筋(人生)がちゃんと見えてくるはずだから。」

「えぇ、……そうね。」

 

私は引き続きほむらちゃんの頭を撫でた。ほむらちゃんは私の手を払い除けることなく、そのままされるがままになっていた。

 

しばらくして、私はほむらちゃんの頭から手をどけて、緩く握られていたほむらちゃんの手を掴んで本部庁舎へと歩き出した。

 

「それじゃ、ほむらちゃんの契約相手については、じっくり吟味していくことにしよっか!」

「そうね。他の魔人のことも、もっと知りたいわ。」

「お!いい心がけだね!実際に契約するかどうかはともかく、皆と仲良くするのは大事だよ!困ったときはお互いに助け合えるし、一緒に遊びに行くこともできるしね!」

「遊びに…………そういうのは、よく分からないわ。」

「なら、一緒に知っていこう。大丈夫、きっと退屈はしないよ。なぜなら、ウチの魔人達はみんな個性豊かでハチャメチャだからね!」

「ふふ、確かにそうね。」

 

ほむらちゃんは僅かに口角を上げて笑みを漏らした。私も釣られて笑みを浮かべ、愉快な魔人達のエピソードなどを語り聞かせながら歩く。

 

公安対魔特異課は、魔女被害から人間社会を守り、秩序を保つことを使命とする組織だ。

だけど、『子供たちの未来と平和を守ること』も同じくらいに大事な使命として魂に刻んでいる。

 

まどかちゃんやさやかちゃんの平和な日常。

マミちゃんとなぎさちゃんの心安らぐ日常。

そして、ほむらちゃんの歩んでいくこれからの日常。

 

皆等しく私たちの守るべきものだ。キュゥべえという害獣どもの存在はあるけれど、あんな奴らの心配を子供たちが考えなくてもいいようにするために、私たちは戦い続けなくちゃいけない。

 

それが私の『願い』であり、追い求めるべき『夢』なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鹿目まどかと巴マミには魔人の監視が付いたか。……迂闊に干渉できなくなってしまったね。」

 

「マキマの使役している魔人達は個体差があるけれど、戦闘に特化した魔人は通常個体の魔女よりもはるかに戦闘能力が高い。この警戒網を突破して、鹿目まどかを魔法少女にするのは骨が折れるだろうね。」

 

「だけど、付け入る隙が完全に無くなってしまった訳じゃない。まだ一つだけ、この状況を突破できる駒が残っている。」

 

「既にマキマには目を付けられているけど、まだ彼女の手の内に収まり切っていない存在____」

 

 

「___美樹さやか、君はピースだ。鹿目まどかを魔法少女にするためのピース。」

 

 

「早速取り掛かろう。マキマに気づかれる前に___。」

 

 

¹
といっても、頭に3段アイスをこしらえたのはミキとパワーだけ




______動き出す、白い悪魔。その策謀とは……。


マキマメモ その13
銃の魔人ことサクラは、特異課で管理されている魔人の中でもトップクラスに強力な魔人。
現在の契約者はマキマだけである。これは契約の代償が大きいとか言う訳ではなく、銃の魔人の力を制御するのが極めて困難であるため。というのも、サクラ本人の魂は既にこの世にあらず、力の塊だけが残っているので、その制御は契約者が担わないといけないから。
極限のストレスによって自身の名前を含めたいくつかの記憶を失っていたため、マキマが彼女に「サクラ」という新しい名前をつけた。彼女の銃の力は殺戮や侵略のための力ではなく、守護するための力であると言う意味を込めて、桜の紋章から取って「サクラ」と名付けた。

最初は「アキ」にしようかと思ったけど、さすがに人の心が無かったので完全オリキャラの名前になりました。
By 作者


ここまでお読みいただきありがとうございました。
遂に出ました、銃の魔人。書き方が下手なのであんまり独自設定やオリキャラの説明を出していくのが難しかったんですが、やっと「サクラって誰ぞや」を解消できたのではないでしょうか。もっとわかりやすい描写ができるように心掛けようと思います。
というわけで、「お菓子の魔女戦でオリ主マキマが使った魔人の力はなんでしょう?クイズ」の答えは、『未来の魔人(ミキ)』『狐の魔人(イナリ)』『銃の魔人(サクラ)』でした。
たくさんの参加ありがとうございました。また何かアンケートなりクイズなりやろうと思います。

さて、本編の最後の部分を見てお分かりの通り、不穏な空気が漂ってきました。
これからも楽しんでいただけると嬉しいです。

オリ主マキマが使った魔人の能力は?

  • 天使くん、ちゃん?
  • 実は地獄
  • 面食い狐
  • 未来サイコー!
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