「私と契約して魔法少女になりなさい」   作:NARです。

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お待たせしました、最新話です。
のんびりしすぎてしまいました。待っていてくださった方々には申し訳ないと思っています。
ただ、今後もこれくらいのんびり投稿することもあると思います。身近に趣味を義務化してしまって楽しみを見失ってしまった人がいるので。

それはそうと、チェンソーマン二部が最終回を迎えましたね。あの終わり方的に続くかどうか分からないですが、出てこなかったキャラたちの行方なども知りたいし、三部があったらいいなと思う、そんな今日この頃です。
皆さんはどうだったでしょうか。

それでは、本編へどうぞ。

※誤字修正しました。あと、キャラクターのセリフの括弧の使い分けにおいて修正をしました。


内も外もめっちゃくちゃ

<暁美ほむら>

 

巴マミのお見舞いを済ませ、夕焼けを眺めながら帰路に就いていたはずの私とまどか。

しかし、私たちは突如として魔女の結界の中へと捕らわれてしまった。

 

「まどか、私から離れないで。ここは魔女の結界の中よ!」

 

私は力なく座り込むまどかを背に庇い、左腕の盾の中から拳銃を取り出して構えた。すると、私が臨戦態勢に移ったのを察したのか、魔女は使い魔を呼び出して私とまどかの周りをぐるりと包囲した。

使い魔たちは足場となっている車やバイクを飛び移りながら、じわじわと包囲を狭めてくる。拳銃で敵を牽制しつつも、早くも劣勢に立たされている現状に冷や汗が背中を伝った。

 

(まどかを戦闘に巻き込むわけにはいかないのに、もう周りを囲まれてしまった!包囲に穴を空けてまどかに逃げてもらおうにも、こんなにも不安定な足場の上じゃ逆に危険でしかない!一体どうすれば…………!)

 

一応、手段が全くないというわけではない。私の魔法で時間を止め、まどかを抱えてこの包囲から脱出すればいい。だけど、それは現状に対するその場しのぎにしかならない。まどかの隠れられる場所が無い以上、何度も時間を止めてまどかを逃がし続けないといけない。その合間に魔女へ有効打を与える余裕なんか持てないでしょう。

ここは一先ず退くしかないか。いや、結界を脱出したとしても再び捕まってしまう可能性もある。そもそもどうやって私たちが魔女の結界に取り込まれたのか分からないけれど、近づいて来た魔女にソウルジェムが反応するよりも先に結界内へ取り込まれたという事実がある。結界から脱出できたとしても、あっという間に追いつかれて再戦なんてことになりかねないわ。

 

万事休すか……と思われたその時、この場に第三者の声が響き渡った。

 

『まどか!ほむら!無事か!?』

「その声は__沢渡!」

 

目線だけをまどかの持っているカバンの方へと向ければ、開いたカバンの中から小さな蛇が顔を出していた。他でもない、沢渡がまどかのカバンの中に忍ばせた使い魔だ。

沢渡は使い魔である小蛇の頭を動かして周囲の状況を見回すと、まどかの顔を見上げて叫んだ。

 

『まどか!とりあえず私を呼べ!』

「……う、うん……ケホ……分かっ、た。」

 

まどかはまだ体力の消耗が回復していないようで、沢渡の指示に対して力なく頷いた。

だけど、まどかは息を整え、沢渡の本体へと呼びかけた。

 

「沢渡ちゃ、ん、……巻いて!」

 

まどかが緊張した面持ちで沢渡に呼びかけた直後、一瞬にしてフッと視界が暗くなった。

見上げれば、魔女化した沢渡の長い胴体が私とまどかを中心にして囲うようにとぐろを巻いていた。

なるほど、コレは護衛対象であるまどかの身の安全を瞬時に守る鉄壁のシェルター。理由は知らないけれど、通常の魔女よりも数倍強い沢渡が防御に徹している限り、まどかが外敵から傷を付けられる可能性は限りなく低い。

 

(とりあえず、まどかの安全を確保できた状態と言えるわね。なら、あの魔女の対処は私が引き受ければいい。)

 

そう結論付けた私は跳び上がり、真上に空いていたとぐろの穴から外へと飛び出した。

沢渡のぐるぐるに巻かれた胴体の上に着地し、くすんだ灰色の鱗の上でヒールがカツンと音を鳴らす。すると、魔女化した沢渡の巨大な頭が私の傍にやって来た。

 

『ほむら、あの魔女と戦うのか?』

「えぇ、そのつもりよ。」

『なら、あの魔女について特異課が収集・分析した情報をアンタに伝える。』

「それは助かるわ。ぜひ教えてちょうだい。」

 

私がそう言って頷くと、沢渡は目の前の魔女へと視線を移した。私も魔女の様子を観察するべく前へ注意を向ける。

 

『アイツは特異2課がマークしていた魔女で、銀の魔女という仮称が与えられている。全身が錆び付いた金属のようなもので構成されていて、そのせいか動きは鈍い。そこまで戦いづらい相手ではないと思う。だけどその代わり硬いから、並大抵の火力じゃダメージは通りにくい。そこだけ気をつけておいて。』

「なるほど、情報提供感謝するわ。」

『待て、ほむら。最後に一つだけ伝えとく。』

 

私が身を乗り出そうとした時、沢渡がそう呼び止めてきた。

「なにかしら?」と振り向くと、沢渡がらしくもなく緊張した面持ちで言葉を続けた。

 

『2日前に起きた異変については、マキマから伝えられているよな?』

「えぇ、見滝原から複数体の魔女が一斉消失したっていう……。」

『……あの銀の魔女も、その異変の時に突然姿を消した魔女の一体だ。隣町の風見野から見滝原に移動しようとしていたのを確認し、その後に消息がわからなくなっていた。……何かあるかもしれない。用心して。』

「了解したわ。」

『それともう一つ……ごめん。魔女の接近に気づけなくって。これは私のミスだ。』

 

そう言って沢渡は顔を俯かせた。

確かに、護衛対象であるまどかの身の安全を任された者として、沢渡は致命的な失敗を犯したと言えるかもしれない。

 

だけど、私はそこまで気にしてはいなかった。

強風に靡く黒髪を手で押さえながら、沢渡の目を見つめた。

 

「仕方が無いわ。あの魔女は想像以上の速さで私たちに迫っていた。私のソウルジェムが魔女の接近を知らせるよりも速いスピードで、ね。……それに、あなたにはまだやらなきゃいけないことが残っているでしょう?」

『__!』

「まどかのこと、頼んだわよ。」

 

私はそれだけ言うと、沢渡の身体を蹴って跳躍し、別の車の上へと飛び移った。

立ち上がり、周囲に集まってきた使い魔たちと銀の魔女を睨み、銃を構える。

戦闘態勢に入った私の背中に、沢渡の声が響いた。

 

『……分かった。私は、まどかを連れて結界を出る!その魔女の相手は任せた!』

 

しかし、その言葉を聞いたまどかが「えっ!?」と驚愕の声を上げた。

 

「ま、待って!ほむらちゃん1人で戦うの!?」

『あぁ、私の仕事はアンタを守ること。こんな危ない場所に長居させる訳には行かないから。』

「で、でも!もし、ほむらちゃんに何かあったら!」

「まどか!!」

「ッ!?」

 

動揺するまどかに呼びかけ、不安に揺れるその瞳をこちらへと向けさせる。

とぐろを解いて身体を伸ばした沢渡の巨体の陰からまどかの顔が見えた。そして、目尻に小さな雫を溜めたまどかと目を合わせた。

 

「私なら大丈夫。伊達に長く魔法少女はやってないわ。だから安心して、まどか。」

「ほむらちゃん……。」

「それじゃ、また明日学校で。」

「……ッ…………うん!」

 

まるで帰り道で友人と別れのあいさつを交わすように、私はまどかへと微笑んだ。

まどかは一度目を閉じて、そしてしばらくの逡巡の後に強く頷いた。

その瞳には相変わらず恐れの色が浮かんでいたけれど、同時に私を信じようとする勇気も見えた気がした。

 

私はまどかから視線を外し、沢渡を見上げる。

 

「沢渡__。」

『分かってる。アンタも気を付けて。』

 

沢渡は全てを理解した様子で頷くと再びとぐろを巻いてまどかを覆い隠し、地面に潜るように身体をうねらせて結界の外へと脱出しようとする。

その瞬間、ギギギと不快な音を鳴らしながら迫ってきていた使い魔どもが一斉に飛び跳ね、脱出しようとする沢渡とまどかへと襲い掛かった。

 

無論、それをただ黙って見ているほど、私も馬鹿ではない。

 

「コン。」

 

ザクッ!!!と、具現化したイナリの巨大な爪が一瞬にして使い魔たちを薄く切り裂いた。

 

徐々に真っ白な霧が色濃く立ち込め、強大な魔力の気配が私を中心に渦巻き始める。

その霧の中から魔女化したイナリの巨大な頭が顔を出した。

 

『おぉ!ほむら!こうしてお前と肩を並べて戦える日が、こんなにも早く来るとはな!』

「そうね、私も同じ気持ちよ。」

『ということは!私たちは既に以心伝心!心が通じ合うほどに仲が深まっているということだな!』

「そういう訳じゃないし、使い方間違ってるわよ。」

 

その時、ふとイナリと目が合った。

イナリはニヤリと口角を吊り上げ、なかなか物騒な表情で私に話しかけてきた。

 

『どうした?口元が緩んでいるぞ。何かイイことでもあったか?』

「?」

 

イナリにそう言われ、自身の頬を手で撫ぜた。

確かにイナリの言う通り、私の口は緩んでおり、小さな孤を描いていた。

思わず、フッと小さな笑いが漏れた。

 

「えぇ、そうね。確かにイイことがあったわ。」

 

思い浮かぶのは、先程のまどかとの会話。

 

(”また明日”、か……この言葉を、またあなたに言うことができるなんて。)

 

まどかを安心させるために使っただけの、その場で思いついただけの言葉。

それなのに、ついこの言葉を何度も口の中で転ばせていたいと思ってしまう。

 

だけど、それで満足しているようではいけない。この言葉を、その場しのぎの嘘にするわけにはいかない。

 

明日も、明後日も、来週も、来月も、これからもずっと、「また明日」をあなたに言うために____。

 

「勝つわよ、イナリ。」

『あぁ、初のタッグバトルだ。思い切り暴れてやろうじゃないか。』

 

私とイナリは、銀の魔女へと戦いを挑む!

 

 

 

 

 

 

____________

____________

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<鹿目まどか>

 

「また明日学校で。」

「……ッ…………うん!」

 

優しい笑顔でそう言ったほむらちゃんの言葉を信じて、私は沢渡ちゃんに守られながら結界の外へと脱出した。

 

全身を包んでいた冷えた鉄のように冷たい風がふっと消えた瞬間、沢渡ちゃんの声が私へと呼びかけてきた。

 

『まどか、もう外に出た。今から変身を解く。』

「うん……。」

 

私が頷くと、瞬きの内に沢渡ちゃんの大きな体がパッと消えた。代わりに、私の隣にパーカー姿の沢渡ちゃんが立っていた。

私達が立っていたのは、ほむらちゃんと一緒に歩いていた高架道路の上だった。ただ、周りは見慣れた景色とは少し違っていて、随分と遠くまで来てしまっているようだった。

しかも、私たちが立っているのは車が通る道のど真ん中だった。私は慌てて沢渡ちゃんの手を引っ張り、車がやって来る前に歩道へ戻ろうとした。

 

「さ、沢渡ちゃん!ここ道路の真ん中だよ!早く歩道に戻らないと___」

「いや、その必要は無さそうだ。」

 

沢渡ちゃんの言っている意味が分からず、「え?」と思わず声が出てしまう。振り返ると、沢渡ちゃんは険しい表情で周囲の景色に視線を走らせていた。顔にはタラリと汗も流れていて、ピリピリとした緊張感が漂っていた。

まさか、何か良くないことが起こっているのかと気になり、沢渡ちゃんに尋ねようとした瞬間、先に沢渡ちゃんの方が早く口を開いた。

 

「もしかすると……道路の上を走っていた車は全部あの銀の魔女が結界内に取り込んでしまったのかもしれない。周囲に人間の気配を()()()()()()()。あの結界内にあった車やバイクは魔女が生み出した物なんかじゃなく、取り込まれた被害者たちが乗っていた物の可能性が高い。」

「……え?で、でも、あの結界の中に、私たち以外に人なんて…………。」

「…………。」

 

沢渡ちゃんは眉間に深い皺を刻んだまま、首を横に振った。

そんな……マミさんが、魔女に操られていた人を助けたところを、見た、ことがあるけど、その時はちゃんと助けられて……あんなにたくさんの車が結界の中に、その人たちはみんな___!

 

「落ち着け、まどか!」

「ひゃう!?」

 

突然、ガシッと両肩を強い力で掴まれて変な声が漏れてしまった。

気が付くと、目の前には真剣な表情で私を見つめる沢渡ちゃんの顔があった。

沢渡ちゃんは一瞬目を見開いたかと思うと、私の肩を握る手の力を緩めながら口を開いた。

 

「ごめん、驚かせて。だけど落ち着いて、私の話を聞いて。これは私の勘だけど、この街で何か良くないことが起こっている。だから、アンタは今すぐ安全な場所に避難しないといけない。分かるか?」

 

私の目を見ながら声を潜めてそう説明する沢渡ちゃんに、私は喉をひくつかせながらも「う、うん。」と頷いた。

 

「よし、いい子だ。それじゃ、一先ずアンタの家を目指して避難を開始する。それからは事態が落ち着くまでは私がアンタとその家族を守る。だから安心して。」

「う、うん……あっ、でも、マミさんと、さやかちゃんは__」

「二人はもちろん大丈夫だ。巴マミには新人のアイツが……お菓子の魔人が付いているし……美樹さやかの方も……きっとマキマが気にかけているはずだ。だから大丈夫だ。分かったか?」

「わ、分かった。」

 

私が頷くと、沢渡ちゃんは「よし」と頷いて私の手を取って歩き出した。その際、左手を頭に当ててブツブツと何かを言っていた。

 

「____。____ッ。……クソ、なんで繋がらないッ。」

「沢渡ちゃん?どうかしたの?」

「……いや、何でもない。それより、私よりも前に出るなよ。アンタは私の後ろを付いてきて。」

 

沢渡ちゃんは一瞬だけ私を見た後、すぐに前へ向き直って歩き出した。

その顔ははっきりと見えなかったけれど、その息遣いから何かを焦っているような感じがした。

一体何が沢渡ちゃんの心を波立たせているのか、私には分からない。だから、せめてこれ以上良くないことが起こらないことを願って、私は大人しく沢渡ちゃんの後を付いて行こうと決めたのだった。

 

 

 

しばらくして、私たちは見慣れた街の風景が見えるところまで戻って来た。

後は高架道路から階段を使って降りて、街灯が点き始めた街の中を通っていけば家まで辿り着くことができる。

早く家に帰りたい。早くみんなの顔を見たい。そう逸る心を抑えながら、沢渡ちゃんの後ろを付いて行く。

 

「まずは下に降りないと……近くに降りられる場所はあるか?」

「えっと、もう少し歩いた先に階段があるよ。」

「よし、ならそこから下に降るぞ。」

 

二人で頷き合い、私が指差した方へ歩き出そうとした時だった。

 

何かが羽ばたくような音がしたと思った瞬間、沢渡ちゃんが「まどか!!」と叫んで私の身体を抱きしめ、そのまま固い道路の上へと身を投げ出した。

直後、すぐ近くで強風が吹き荒れ、巨大な質量を持ったナニカが私たちの上を通り過ぎた。

その際、私の目に一瞬だけ、日が沈んだ空に溶け込むような真っ黒な羽が見えた。

 

「い、今のは___」

「まどか!走れ!!」

 

沢渡ちゃんは私の身体に回していた腕を離すと直ぐに起き上がり、あっという間に魔女の姿へと変身した。

そのいきなりの展開に頭が追い付かず、沢渡ちゃんが睨んでいる方へと私も目を向けた。

 

すると、星の瞬く夜空の中を巨大なコウモリのような怪物が飛び回っていた。

 

「あれって、魔女!?」

『あぁそうだ。こいつは私が倒す。だからアンタは離れてろ!』

 

沢渡ちゃんはそう言うが早いか、コウモリのような姿をした魔女に大口を開けて飛び掛かった!

「近くにいたら沢渡ちゃんの邪魔になっちゃう!」そう悟った私は言われた通り、下へ降りる階段に向かって走った!

手すりを掴んでカンカンカンッ!と急いで階段を降りていく。その時、奇妙な音が上の方から聞こえてきた。

 

 

___ホハハハハアハ!!ポパパパパパポ!!

 

___()ア!!!

 

 

「いっ!?」

 

次の瞬間、脳みそを直接揺さぶられたかのような痛みを感じた。キーンッとひどい耳鳴りもして、思わずグラリと足元がふらついた。

いや……違う!高架道路に大きな穴が空いている!?二車線の道路を完全に壊してしまうほどの大きな穴が空いていて、その周りが爆発したみたいに粉々になっている!

そしてそれだけじゃなく、私が降りようとしていた階段も巻き込んで破壊されていた。あと少し先へ降りていたら私も巻き込まれて、吹き飛んだあの階段のように握り潰した紙屑みたいになっていたかもしれない。

私はかろうじて手すりに掴まり、振り落とされないように踏ん張った。だけど、今の衝撃で壊れてしまったのか、私が立っている場所もグラグラと揺れていて、今にも外れて落ちてしまいそうだ。

なんとか立ち上がり、上へ戻ろうと手すりを伝って足を動かす。その瞬間、バキンッと聞こえちゃいけない音が手すりを握る手を通して聞こえてきた。

 

「あ…………。」

 

 

ガクンッと垂直になった階段から身体が振り落とされる。

 

徐々に遠くなっていく階段に手を伸ばしても指先は届かない。

 

身体の内側がひっくり返るような浮遊感を感じながら、周りの景色が上に向かって流れていくのが見える。

 

私の目に、数秒後に赤い水溜りの中で横たわったまま動かない、そんな自分の姿が見えた気がした。

 

 

ふと横を見れば____

 

____ズラリと鋭い歯が並んだ、縦に大きな口の中が見えた。

 

 

「沢渡ちゃ___」

 

 

バクン………………

 

 

…………

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

「…………はっ!?」

 

次の瞬間、飛び跳ねるように目が覚めた。

パッと開いた視界には、私の顔を覗き込む沢渡ちゃんがいた。

 

「目が覚めたか。」

「沢渡、ちゃん?魔女、は?」

「……あの魔女なら倒した。」

 

そう言って沢渡ちゃんが顔を向けた先に、私も目を向ける。

そこには、何か大きな物に押し潰されたかのようにぺしゃんこになっている商業ビルだったものがあった。

沢渡ちゃんは感情が抜け落ちてしまったかのような表情で口を開いた。

 

「あの魔女の攻撃が道路に当たって、もしやと思って振り返ったらアンタが地面に落ちそうになってた。だからアンタを口で受け止めて、その後魔女を尻尾でグリーフシードごと叩き潰した。」

 

沢渡ちゃんはそう言うと、私を抱きかかえていた腕を動かして私を助け起こしてくれた。

私はふらつきながらもなんとか立ち上がった。そして顔を上げれば、沢渡ちゃんは粉々になったビルのところまで歩いて行って、瓦礫に混じって散らばっていた銀色の破片の拾い上げた。

沢渡ちゃんの傍にまで駆け寄れば、その手の中にある破片には微かに黒い煙のようなモノが残っていた。ソレは、魔法少女見学の時にマミさんのソウルジェムの中にあった穢れと似ている気がした。

私はソレを直視できなくなって、目を逸らしてしまった。

 

「ごめん、なさい。私が、邪魔にならないところにまで、もっと早く離れていたら___」

「アンタが気にすることじゃない。これは私のミスだ。アンタのせいなんかじゃない。」

 

沢渡ちゃんはそう言って破片をポケットの中に押し込み、私の手を取った。

 

「思っていたよりも事態は深刻らしい。もたもたしていたら他にも魔女が襲ってくるかもしれない。だから早く行くよ。」

「……うん。」

 

そう言って再び歩き出した沢渡ちゃんに、私はただ大人しくついて行くしかなかった。

 

 

 

 

 

 

____________

____________

____________

 

 

 

 

 

 

 

 

<暁美ほむら>

 

まどかを沢渡に任せ、二人を結界の外に逃がしてからしばらく。

私は魔女にじわじわとダメージを与えてはいるものの、大きな手応えを得られないまま決定打に欠ける戦いを続けていた。

 

魔女はギギギと耳障りな音を体の節々から鳴らし、持ち上げた腕を私に向けて振り下ろした。

私はその攻撃をひらりと躱し、別の車の上へと飛び移る。その際、左腕に装着した盾の中から手榴弾を取り出し、魔女の顔面に向けて放り投げた。

私の手から離れた手榴弾は緩やかな放物線を描きながら魔女の方へと飛んでいき、ちょうど魔女の目の前に来たところで爆発した。魔女はその爆発を碌に避けることもできず、まともに直撃してその巨体をぐらつかせた。

今の攻撃がそれなりに効いている様子なのを確認し、「イナリ」と狐の魔人の名を呼んだ。

すると私の声に応えるように、私の首に巻き付いていたイナリの使い魔である小狐がピンと耳を立てた。

邪魔そうに私の髪を鼻先で掻き分け、その小さな体で身を乗り出した。

 

「どうかしら、イナリ?今のは効いていそうだけど。」

『確かに。だけど、まだ少し硬そうだ。もう少しアレの装甲を剥がしてくれ。今のまま噛みつけば、私の歯が折れてしまいそうだ。』

「でもあなたの本体は京都にあるんでしょう?幻で作った頭なんだから平気なんじゃないの?」

『その通りだが……嚙み切ることができないと意味が無い。もう少し柔らかくしてくれ。』

「はぁ、注文の多い狐ね。」

 

溜息を付きながらも新たな手榴弾を取り出し、魔女に投げつける隙を伺う。

そう、私の攻撃は全て「イナリの牙が通るようになるまで魔女を弱らせる」ためのもの。この一連の攻撃で大したダメージを与えることができなくても構わない。私はただ、最後の一撃を与えるためにちまちまと攻撃を続ければいいだけ。

 

手榴弾のピンを抜き、魔女に向かって投げる。

バァンッ!!と手榴弾が破裂し、魔女の錆びついた装甲と煤を吹き飛ばす。

魔女の巨体がグラリと大きく傾いた。

 

(今ね!)

 

私は車を次々と飛び移って魔女に近づき、魔力の反応が濃い場所を探した。

その場所とは即ち、魔女の心臓ともいえる()()()()()()()()()()

 

(あった!あそこね!)

 

限界まで拡張した魔力探知は、魔女の持つグリーフシードの位置を見つけ出した。私は右手で狐の顔を象り、その口の中にグリーフシードが収まるように狙いを定めた。

 

後は、「コン」と唱えてイナリの頭を呼び出せばいいだけ。

しかし、突如として私の耳元でイナリが焦った様子で叫んだ。

 

『待て、ほむら!今すぐヤツから離れろ!!』

「!?」

 

イナリの必死の警告を耳にした瞬間、私はイナリの召喚を中断してその場から飛び退いた!

 

 

だけど、一歩遅かった。

 

 

魔女が一瞬その場に蹲ったかと思った次の瞬間、バァンッ!!とその身を弾けさせたのだ!

魔女の全身を覆っていた錆が四方八方に飛び散り、まるで弾丸のように襲い掛かってくる!しかも、魔女の胴体を隠していた濃い煤までも周囲に広がり、視界が黒一色に染められてしまった!

私は何とか左手の盾で身を守ろうとしたが、頭ほどのサイズしかないこの盾では十分に防御することができるはずもなく…………。

 

飛び散った錆が私の脇腹や右太もも、額の左上を抉り、盾で相殺しきれなかった衝撃によって吹き飛ばされた。

 

「くぅっ!?」

 

肉を削るような痛みに意識が明滅し、私は受け身も取れずに背中から落ちた。ダアンッと柔らかい肉が鉄を叩く鈍い音が鳴り、背中から鈍痛が響く。

どうやら、私は幸運にも高速で動くアスファルトの上には落ちず、別の車の上に落ちたらしい。ざらざらとした硬いアスファルトによってヤスリのごとく身体を削られるという結末は避けられたようだ。

しかしだからと言って、悠長に胸を撫で下ろしている暇は無いようだ。

『ほむら!!』と切羽詰まったようなイナリの叫び声によって、私は血を吐きながらも咄嗟に三本の指を立ててイナリを召喚した!

 

「コ”ン”ッ!!」

 

ガキィィィン!!!

 

私の横をイナリの巨大な爪が通り抜け、目の前に迫っていた魔女を切り裂こうとした。

だけど私の耳に聞こえてきたのは、金属がひしゃげる音でも、魔女の悲鳴でもなかった。

 

それは、硬質な物質同士がぶつかり合い、そして互いに拮抗し合う音。

 

額から流れる血に塗れた目をこじ開け、私は魔女の姿をその目に映した。

そこには、先程までとは全く異なる魔女の姿があった。

 

 

 

真っ黒な煤で覆われていた身体は、スリムで機械的な構造を露わにし__

 

動くたびに響かせていたギギギと耳障りな音は、ブオンッブオオンッ!!と豪快な排気音へと変わり__

 

茶色い錆で覆われていた魔女は、その名に恥じないような”銀色”の輝きを放っていた。

 

 

 

「なるほど、ここからが本番という訳ね。」

 

私は口の中に溜まった血を吐き出し、上から見下ろす魔女を睨みつけた。




____銀の影が唸りを上げる。



公安対魔特異課 魔女対策情報データベースより一部抜粋

識別番号:W-0217
通称:銀の魔女

■状況
・ステータス:未登録の魔法少女により討伐済み再出現を確認
・最終確認:特異2課実働部隊(20XX/XX/XX)(20XX/X〇/○○)
・備考:現場にて戦闘痕及び魔力の残滓を確認。△△県風見野市にて二体目の出現を確認。計測した魔力総量と類似のデータを比較した結果、当該個体は使い魔から成長した派生型魔女である可能性が高い。監視を続行し、情報を収集する。
~~~~~~
■備考
・当該個体の大規模な移動を確認。隣町である見滝原市に向かって移動を開始した。速やかな対応のため、特異2課実働部隊の派遣を決定し、対処に当たる。
・20XX/X〇/□□, 17:10:00にて、【街の小さな密告者たち】が異変を察知したと特異4課から報告が挙げられた。当該個体の所在が不明となり、最終確認時刻以降の追跡は不能となった。消失の要因は不明。早急な調査を行う必要がある。


【最後の一言】
コウモリさんの出番は以上です。
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